説明

繊維性複合材料の製造方法

本発明は、少なくとも1種類のエポキシ樹脂と少なくとも1種類の開始剤が使用され、1種類以上の金属カチオンオレフィン錯体を含有する繊維性複合材料の製造方法に関する。さらに、本発明は、繊維含有薬剤およびかかる繊維含有複合材料に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種類のエポキシ樹脂、および1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体を含有する少なくとも1種類の開始剤を用いる繊維含有複合材料の製造方法に関する。さらに、本発明は、繊維含有薬剤およびかかる繊維含有複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
混合型材料を構成している繊維強化複合材料は、一般的に、少なくとも2種類の成分で構成されている。例えば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂またはフェノール樹脂などの樹脂成分に加え、繊維強化複合材料は、例えば、一方向性であり、また、繊維織物または短繊維で構成されたものであり得る繊維成分を含む。使用される樹脂成分と組み合わせて使用される繊維成分は、材料に高い強度を付与する;したがって、繊維強化複合材料は、構造材料特性に関して厳しい要件を伴う適用用途分野において、例えば、航空機の構築または自動車の構築において、複合材料として使用される。
【0003】
多くの適用用途では、エポキシ樹脂または異なるエポキシ樹脂の混合物が樹脂成分として使用されている。
【0004】
エポキシ系繊維強化複合材料は、比較的高いモジュラスおよび比較的高いガラス転移温度を有するが、通常、脆性である。したがって、先行技術において、エポキシ系繊維強化複合材料の、特に、該材料の層間領域における機械的特性を改善するためのいくつかの提案がなされている。例えば、靭性を改善するため、ゴム、熱可塑性体、または特定の充填剤などが、多くの場合、組み合わせて添加される。
【0005】
US-A 4,783,506およびUS-A 4,863,787には、ポリエポキシド樹脂、芳香族オリゴマー、エポキシ樹脂用ジアミン硬化剤、および反応性(例えば、カルボキシル官能性)の固形ゴムを主体とする硬化性組成物が開示されており、この固形ゴムは、10μm〜75μmの平均粒径を有する非溶融性粒子として存在している。ゴムの非溶融性粒子への変換は、好ましくは、加熱しながら溶媒をエポキシ/オリゴマー/ゴム混合物から除去することにより、インサイチュで行なわれる。この組成物を用いて繊維強化複合材料を形成する場合、該粒子の大部分は、繊維によって「フィルタリング」され、層間強靭化剤としての機能を果すようにプリプレグ表面上に残留する。
【0006】
US-A 4,977,215およびUS-A 4,972,218には、US-A 4,783,506およびUS-A 4,863,787と同様の樹脂系が開示されており、この場合では、非溶融性のゴム粒子は、15℃より上のガラス転移温度、1μm〜75μmの範囲の粒径を有し、架橋カルボキシル化ジエンゴムまたはカルボキシル化アクリルゴムを含む。この場合も、この組成物を用いて繊維強化複合材料を形成する場合、(実際、全粒子とまではいかないが)粒子の大部分は、層間強靭化剤としての機能を果すようにプリプレグ表面上に残留する。
【0007】
層間強靭化剤の有効性は、実質的に、硬化プロセス中その粒状の性質が維持されていることに基づいている。したがって、樹脂成分に対して非常に低い溶解性を示し、かつ硬化プロセス中、長期間にわたってガラス転移温度を大幅に超えない粒状層内強靭化剤または衝撃性改良剤のみが使用可能である。
【0008】
この条件を考慮すると、樹脂成分および粒状強靭化剤の選択は、通常、パラメータの制約を受け、配合の可能性の自由度が大きく制限され、したがって、異なる要件プロフィールに対する系の適合可能性が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願第4,783,506号明細書
【特許文献2】米国特許出願第4,863,787号明細書
【特許文献3】米国特許出願第4,977,215号明細書
【特許文献4】米国特許出願第4,972,218号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、機械的特性を改善するための粒状層間強靭化剤を含むエポキシ系繊維強化複合材料の製造方法であって、エポキシ樹脂成分と層間強靭化剤の選択に関してなんら制限的制約を受けない方法を開発することであった。かかる方法により、機械的構造特性に関して種々の要求を伴う様々な適用プロフィールに容易に適合し得る種々の繊維強化複合材料の製造が可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、本発明による方法によって達成される。1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体を含有する高反応性開始剤の使用により、エポキシ樹脂成分の硬化を、比較的短い期間内に比較的低い温度で行なうことが可能になる。層間強靭化剤として使用される熱可塑性粒子は、このように、硬化プロセス中、その粒状の性質を実質的に保持しており、これにより製造される繊維強化複合材料の靭性特性において効果的な改善がもたらされる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
したがって、本発明は、繊維含有複合材料の製造方法に関する。該方法は、以下の工程:
a) 繊維を準備する工程
b) 該繊維を少なくとも1種類のエポキシ樹脂で処理する工程(該エポキシ樹脂は、1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体を含有する少なくとも1種類の開始剤を含む)、および
c) 工程b)で得られた該繊維含有薬剤を、特に、X-放射線、γ光線、電子ビームおよび/またはUV光線の照射によって硬化させる工程
を含み、
工程a)で準備する繊維は、工程b)の実施前および/または実施後に熱可塑性粒子で処理され、および/またはエポキシ樹脂は熱可塑性粒子を含む。
【0013】
これに関連して、例えば、積層体の形態の繊維強化複合材料を製造するため、方法工程c)を行なう前に、方法工程a)とb)を所望するだけ繰り返すことができる。
【0014】
本発明のさらなる主題は、
a) 繊維、好ましくは、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、窒化ケイ素繊維、金属繊維、セラミック繊維、ボロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維および/または天然繊維から選択されるもの、
b) 少なくとも1種類のエポキシ樹脂、
c) 熱可塑性粒子、および
d) 1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体を含有する少なくとも1種類の開始剤
を含む、繊維強化複合材料を製造するための繊維含有薬剤である。
【0015】
また、本発明の主題は、本発明による方法によって、または本発明による繊維含有薬剤を硬化させることによって製造可能な繊維含有複合材料である。
【0016】
「繊維含有複合材料」は、本発明の解釈上、強化成分として繊維を、樹脂成分として少なくとも1種類のエポキシ樹脂を含む少なくとも2種類の主成分で構成される混合材料である。
【0017】
好適な繊維は、原則的には、破壊時の強度が高く伸びが大きい天然起源および合成起源のあらゆる繊維である。繊維は、好ましくは、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、窒化ケイ素繊維、金属繊維、セラミック繊維、ボロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維および/または天然繊維から選択される。亜麻繊維およびサイザル繊維が天然繊維として特に好ましい。
【0018】
炭素繊維は、良好な比強度および良好な比弾性係数を有するため好ましい。あらゆるタイプの炭素繊維を本発明において使用することができ、破壊時の強度が高く、大きな伸びを有する炭素繊維が好ましい。4.4GPa以上の引張強度および1.7%以上の引張伸びを有する炭素繊維が特に好ましい。
【0019】
環状断面を有する炭素繊維に加え、非円形断面、例えば、三角形、四角形、中空形状、マルチリーフ形状およびH-形状を有する繊維も使用し得る。
【0020】
繊維の配列は、なんら特別な制限を受けないが、一部の特定の対象適用用途では、繊維を織布、マット、編物および/またはブレードの形態で存在させることが有利であり得る。一方向に平行に配列される繊維は、高い強度と高い弾性係数が求められる適用用途に最も適している。
【0021】
「エポキシ樹脂」は、本発明においては、エポキシ化合物またはエポキシ含有化合物に基づき構成された樹脂組成物であると理解される。前述の化合物は、好ましくは、少なくとも2つのエポキシ基(オキシラン環)を含む。
【0022】
本発明の好ましい態様において、重合性調製物のエポキシ樹脂系のエポキシ化合物またはエポキシ含有化合物は、オリゴマー型およびモノマー型のエポキシ化合物ならびにポリマー型のエポキシ化合物のいずれをも包含し、脂肪族、脂環式、芳香族または複素環式の化合物であり得る。
【0023】
本発明において好適なエポキシ樹脂は、例えば、好ましくは、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂、ビスフェノールS型のエポキシ樹脂、ビスフェノールF型のエポキシ樹脂、フェノールノボラック型のエポキシ樹脂、クレゾールノボラック型のエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンと多数のフェノールとの反応によって得られ得る数多くのジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のエポキシド化生成物、2,2',6,6'-テトラメチルビフェノールのエポキシド化生成物、芳香族エポキシ樹脂(ナフタレン基本骨格を有するエポキシ樹脂およびフルオレン基本骨格を有するエポキシ樹脂など)、脂肪族エポキシ樹脂(ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルおよび1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなど)、脂環式エポキシ樹脂(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートおよびビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペートなど)、ならびにヘテロ環を有するエポキシ樹脂(イソシアヌール酸トリグリシジルなど)から選択される。
【0024】
エポキシ樹脂としては、特に、例えば、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの反応生成物、フェノールとホルムアルデヒド(ノボラック樹脂)とエピクロルヒドリンの反応生成物、グリシジルエステル、ならびにエピクロルヒドリンとp-アミノフェノールの反応生成物が挙げられる。
【0025】
エピクロルヒドリン(またはエピブロモヒドリン)との反応によって適当なエポキシ樹脂プレポリマーが得られるさらなるポリフェノールは、レゾルシノール、1,2-ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1-イソブタン、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1-エタン、および1,5-ヒドロキシナフタレンである。
【0026】
市販品として入手可能なさらに好ましいエポキシ樹脂としては、特に、オクタデシレンオキシド、エピクロルヒドリン、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、グリシドール、メタクリル酸グリシジル、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(例えば、商用表示「Epon 828」、「Epon 825」、「Epon 1004」および「Epon 1010」(Hexion Specialty Chemicals Inc.)、「DER-331」、「DER-332」、「DER-334」、「DER-732」および「DER-736」(Dow Chemical Co.)にて入手可能)、ビニルシクロヘキセンジオキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキセンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル、ポリプロピレングリコールで変性させた脂肪族エポキシド、ジペンテンジオキシド、エポキシド化ポリブタジエン(例えば、SartomerのKrasol製品)、エポキシド官能性を含有するシリコーン樹脂、難燃性エポキシ樹脂(例えば、「DER-580」(Dow Chemical Co.から入手可能なビスフェノール型の臭素化エポキシ樹脂))、フェノール/ホルムアルデヒドノボラックの1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(例えば、Dow Chemical Co.の「DEN-431」および「DEN-438」)、ならびにレゾルシノールジグリシジルエーテル、例えば、Koppers Company Inc.の「Kopoxite」)、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサンメタジオキサン、ビニルシクロヘキセンモノオキシド、1,2-エポキシヘキサデカン、アルキルグリシジルエーテル(例えば、C8-〜C10-アルキルグリシジルエーテル(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「HELOXY Modifier 7」)、C12-〜C14-アルキルグリシジルエーテル(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「HELOXY Modifier 8」)、ブチルグリシジルエーテル(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「HELOXY Modifier 61」)、クレシルグリシジルエーテル(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「HELOXY Modifier 62」)、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「HELOXY Modifier 65」)など、多官能性グリシジルエーテル、例えば、1,4-ブタンジオールのジグリシジルエーテル(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「HELOXY Modifier 67」)、ネオペンチルグリコールのジグリシジルエーテル(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「HELOXY Modifier 68」)、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「HELOXY Modifier 107」)、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「HELOXY Modifier 44」)、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「HELOXY Modifier 48」)、脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「HELOXY Modifier 84」)、ポリグリコールジエポキシド(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「HELOXY Modifier 32」)、ビスフェノールF型エポキシ(例えば、Huntsman Int. LLCの「EPN-1138」または「GY-281」)、9,9-ビス-4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニルフルオレノン(例えば、Hexion Specialty Chemicals Inc.の「Epon 1079」)などが挙げられる。
【0027】
さらに好ましい市販品として入手可能な化合物は、例えば、AralditeTM 6010、AralditTM GY-281TM、AralditTM ECN-1273、AralditTM ECN-1280、AralditTM MY-720、RD-2(Huntsman Int. LLC製);DENTM 432、DENTM 438、DENTM 485(Dow Chemical Co.)、EponTM 812、826、830、834、836、871、872、1001、1031など(Hexion Specialty Chemicals Inc.)およびHPTTM 1071、HPTTM 1079など(Hexion Specialty Chemicals Inc.)、さらなるノボラック樹脂として、例えば、Epi-RezTM 5132(Hexion Specialty Chemicals Inc.)、ESCN-001(住友化学)、Quatrex 5010(Dow Chemical Co.)、RE 305S(日本化薬)、EpiclonTM N673(大日本インキ化学)、またはEpicoteTM 152(Hexion Specialty Chemicals Inc.)から選択される。
【0028】
本発明の特定の態様においては、前述のエポキシ樹脂の数種類の混合物も使用し得る。
【0029】
本発明による方法において使用される熱可塑性粒子は、好ましくは、製造される繊維含有複合材料の層間領域の目標とする耐衝撃性の改良を可能にし、種々の熱可塑性粒子の任意の混合物も使用し得る。
【0030】
「熱可塑性粒子」は、本発明の解釈上、実質的もしくは完全に1種類の熱可塑性ポリマー、または異なる熱可塑性ポリマーの混合物で構成された、20℃および1013 mbarにおいて固体である粒状の構成要素であると理解される。
【0031】
「熱可塑性ポリマー」は、特定の温度より上で外形が変形し得るが、その温度でポリマー材料の分解は起こらない物質であると理解される。
【0032】
本発明の態様において、熱可塑性粒子は、動的機械分析(DMA)での測定時、少なくとも45℃のガラス転移温度を有する。少なくとも45℃のガラス転移温度を有する熱可塑性粒子は、より低いガラス転移温度の場合と比べて、硬化プロセス中の熱応力にもかかわらず、その粒状の性質がより良好に保持され得るため、より効果的な靭性改良、特に、より良好な層間靭性改良をもたらすという利点をもたらす。
【0033】
55℃〜280℃、好ましくは65℃〜250℃、特に好ましくは75℃〜220℃のガラス転移温度、特に、95℃〜200℃のガラス転移温度を有する熱可塑性粒子が、特に本発明において使用される。
【0034】
しかしながら、一部の特定の適用用途では、使用される熱可塑性粒子のガラス転移温度が25℃〜45℃であることが有用なこともあり得る。
【0035】
本発明においてガラス転移温度は、動的機械分析(DMA)によって調べられる。DMAを使用し、貯蔵弾性率G'、損失弾性率G’’、および損率tanδを温度の関数として確認する。これらの可変量から、ポリマーの軟化温度を求めることができる。ガラス転移温度は、tanδ(損率)が最大に達するTgピークから求められる。
【0036】
熱可塑性粒子の粒径の下限は、一方では、その製造可能性によって、また、他方では繊維強化複合材料の材料特性に対するその影響によって規定される。熱可塑性粒子は、それらを適用し、均一に分布することができるように、一方においては大きすぎてはならないが、適用用途に必要とされる量との関連において、個々の粒子が多くなりすぎる(これは、安定な複合材料の形成の妨げとなり得る)ことがないように、小さすぎてもいけない。
【0037】
熱可塑性粒子の平均粒径の技術的に有用な下限は1μm、好ましくは10μm、特に20μmである。粒径の上限は500μm、好ましくは100μm、特に50μmである。
【0038】
熱可塑性粒子の平均粒径(体積平均D50)は、通常の方法を用いて、例えば、光散乱によって求めることができる。これに関連して、「粒子」は、エポキシ樹脂中に分散された様式または繊維表面全体に分布した様式で存在している粒状体であると理解されたい。これらの粒子は、より小さい単位の凝集体であってもよい。体積平均D50は、粒径分布において、粒子の50vol%が小直径を有し、粒子の50vol%が大直径を有する点である。
【0039】
熱可塑性粒子の総数に対して熱可塑性粒子の少なくとも90%、特に少なくとも95%が任意の空間方向において有する最大伸びは、100μm未満、好ましくは70μm未満、特に50μm未満であることが特に好ましい。
【0040】
熱可塑性粒子の総数に対して熱可塑性粒子の少なくとも90%が任意の空間的方向において有する最小伸びは、10μmより大きい、好ましくは20μmより大きい、特に30μmより大きいことがさらに好ましい。
【0041】
任意の空間的方向における熱可塑性粒子の最大および最小の伸びは、(電子)顕微鏡画像の統計学的評価によって得られ得る。
【0042】
本発明の熱可塑性粒子は、1種類もしくは数種類の混合物の適当な材料から作製されたもの、または適当な材料を含むものであり得る。好適な材料は、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエン-アクリロニトリルゴム、EPDM、合成もしくは天然のイソプレンゴム、ブチルゴム、またはポリウレタンゴムなどの固形ゴムである。イソプレン-アクリロニトリルコポリマー系またはブタジエン-アクリロニトリルコポリマー系の部分架橋固形ゴムが特に好適である。
【0043】
また、熱可塑性粒子は、ブロックコポリマー、例えば、少なくとも1つのポリマーブロックが20℃未満(好ましくは0℃未満または-30℃未満または-50℃未満)のガラス温度を有するもの(例えば、ポリブタジエンブロックまたはポリイソプレンブロック)であるブロックコポリマーを含むもの、またはこれらのブロックコポリマーで構成されたものであってもよい。このブロックコポリマーの少なくとも1つのさらなるブロックは、20℃を越える(好ましくは、50℃を越えるまたは70℃を越える)ガラス温度を有するもの、例えば、ポリスチレンブロックまたはポリメタクリル酸メチルブロックである。挙げ得る具体例は、スチレン-ブタジエン-メタクリル酸メチルブロックコポリマー、メタクリル酸メチル-ブタジエン-メタクリル酸メチルブロックコポリマー、およびブタジエン-メタクリル酸メチルブロックコポリマーである。
【0044】
また、芳香族ポリマーブロックと脂肪族ポリマーブロックの両方を含むブロックコポリマーも好ましい。芳香族ポリマーブロックは、例えば、ポリスチレンブロックであり得る。脂肪族ポリマーブロックは、例えば、ポリブタジエンブロックまたはポリイソプレンブロックであり得る。(芳香族ポリマーブロック-脂肪族ポリマーブロック-芳香族ポリマーブロック)構造を有するブロックコポリマーが特に好ましい。スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)ブロックコポリマーが特に好適である。さらに、これらのうち、約18〜約25wt%の範囲のスチレン含有量を有するSISコポリマーが好ましい。この種のSISブロックコポリマーは、例えば、Kururay Europe GmbHの商品名HybrarTMのもと入手可能である。これに関連して、イソプレンブロックは、全体または一部がハロゲン化されたものであってもよく、最初に存在していた炭素-炭素二重結合の数が減少し、それにより、ブロックコポリマーの熱安定性が増大するという結果を伴う。
【0045】
本発明の特定の態様において、熱可塑性粒子は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアルキレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアミド-イミド、ポリアリールエーテルおよび/またはポリアリレートから作製されたものであり、ポリスルホンおよび/またはポリエーテルスルホンが特に好ましい。
【0046】
熱可塑性粒子は、例えば、高速回転式ミルによって製造し得る;磨砕するのが困難な熱可塑性粒子の場合は、磨砕操作の前に粒子を脆化させることが有用である(例えば、磨砕前に液体窒素を添加することにより)。好適な熱可塑性粒子は、例えば、VirantageTM Polyethersulfone、VirantageTM Polyphenylsulfone、VirantageTM Polyamide-imide、VirantageTM Polyetheretherketones、VirantageTM Polyphenylene Sulfides、VirantageTM (Solvay Advanced Polymers,LLC)、Ultrason(登録商標)E Polyethersulfone、Ultrason(登録商標)S polysulfone、Ultrason(登録商標)P polyphenylsulfone (BASF SE)の商品名で市販品として入手可能なものである。
【0047】
本発明による方法によれば、最初の方法工程(工程a)で準備する繊維を、2番目の方法工程(工程b)の実施前および/または実施後、すなわち、1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体を含有する少なくとも1種類の開始剤を含む少なくとも1種類のエポキシ樹脂による繊維の処理後に、熱可塑性粒子で処理する。前述のエポキシ樹脂は、それ自体が熱可塑性粒子を含むものであってもよい。
【0048】
用語「処理する」は、本発明の解釈上、少なくとも2種類の物質を互いに接触させる操作であると理解される。例えば、少なくとも1種類のエポキシ樹脂による繊維の「処理」は、繊維にエポキシ樹脂を含浸させること、あるいはエポキシ樹脂の膜を繊維表面および/または布地表面上に塗布することを意味すると理解される。
【0049】
準備される繊維を第2の方法工程の実施前および/または実施後に熱可塑性粒子で処理する場合では、熱可塑性粒子を、表面上、例えば、プリプレグまたは繊維布地の表面上に、可能な限り均一に分散させ得る。
【0050】
本発明による方法の態様において、繊維を、1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体を含有する少なくとも1種類の開始剤を含む少なくとも1種類のエポキシ樹脂で処理した後に熱可塑性粒子をその繊維上に可能な限り均一に分散させて処理する。これに関して、繊維は、特に、織布、マット、編物および/またはブレードの形態で存在させる。
【0051】
本発明による方法のさらなる態様においては、繊維を、1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体を含有する少なくとも1種類の開始剤を含む少なくとも1種類のエポキシ樹脂で処理する前に熱可塑性粒子を繊維上に可能な限り均一に分散させる。これに関して、繊維は、特に、織布、マット、編物および/またはブレードの形態で存在させる。
【0052】
この択一法として、1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体を含有する少なくとも1種類の開始剤を含む少なくとも1種類のエポキシ樹脂による繊維の処理の前および後に、本発明の熱可塑性粒子を、それぞれ、布地表面上および樹脂処理された布地表面上に、可能な限り均一に分散させてもよい。
【0053】
記載した手法は、本発明の熱可塑性粒子がエポキシ樹脂中に分散する様式では存在しないという利点をもたらす。それにより、熱可塑性粒子の凝集傾向、ならびに繊維関連フィルター効果の結果としての特定の繊維および/または繊維層上での望ましくない局所濃縮が最小限に抑制される。
【0054】
本発明の特定の態様において、本発明の繊維で形成された布地および/またはプリプレグの表面上に塗布される熱可塑性粒子の量は、5〜50g/m2、好ましくは10〜40g/m2、特に好ましくは12〜30g/m2、非常に好ましくは15〜25g/m2である。
【0055】
既に述べたように、本発明において使用する少なくとも1種類の開始剤は、1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体を含有している。
【0056】
「金属カチオン-オレフィン錯体」は、本発明の解釈上、中心原子として1種類以上の金属カチオン、および配位する配位子として少なくとも1種類のオレフィンを含む錯体であると理解される。配位する配位子として排他的にオレフィン配位子を含む金属カチオン-オレフィン錯体が特に好ましい。
【0057】
本発明の好ましい態様において、金属カチオン-オレフィン錯体の少なくとも1種類の金属は、銀、コバルト、銅、アルミニウム、またはチタンから選択され;銀と銅が特に好ましい。好ましくは、金属カチオン-オレフィン錯体のすべての金属が、銀、コバルト、銅、アルミニウム、またはチタンから選択される。また、金属-オレフィン錯体は、上記の金属の数種類を中心原子として含むものであってもよい。
【0058】
本発明の別の態様において、金属カチオン-オレフィン錯体の少なくとも1種類のオレフィンは、プロペン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、イソプレン、ノルボルネン、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロデセン、1,4-シクロヘキサジエン、4-ビニルシクロヘキセン、トランス-2-オクテン、スチレン、5-ノルボルネン-2-カルボン酸、ブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエン、ソルビン酸エチルエステル、1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロオクタジエン、1,5-シクロオクタジエン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘプタトリエン、トランス,トランス,トランス-1,5,9-シクロドデカトリエン、トランス,トランス,シス-1,5,9-シクロドデカトリエン、シクロオクタテトラエン、スクアレン、炭酸ジアリル、ジアリルエーテル、ジアリルジメチルシラン、シクロペンタジエン、エチルビニルエーテル、リモネン、1,2-ジヒドロナフタレン、桂皮酸エチルエステル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、スチルベン、オレイン酸メチルエステル、またはリノレン酸メチルエステルから選択される。
【0059】
好ましくは、金属カチオン-オレフィン錯体のすべてのオレフィンが、上記のオレフィンから選択される。また、金属-オレフィン錯体は、上記のオレフィンの数種類をオレフィン配位子として含むものであってもよい。
【0060】
これに関して、すべての金属カチオン-オレフィン錯体による正の電荷は、それぞれ対応する電荷を有する対応する数のアニオンによって均衡されることにより、開始剤自体の電荷は全体として中性になることに注意すべきである。弱配位アニオンは、アニオンとして特に好ましい。
【0061】
用語「弱配位アニオン」の定義については、Hollemann-Wiberg,Lehrbuch der Anorganischen Chemie(無機化学テキストブック),101版 Walter de Gruyter Berlin New York 1995,第1654-1655頁を参照されたい。
【0062】
したがって、開始剤は、1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体に加えて、好ましくはヘキサフルオロアンチモナート(SbF6-)、ヘキサフルオロホスファート(PF6-)、ボロンテトラフルオリド(BF4-)、ヘキサフルオロアルミナート(AlF63-)、トリフルオロメタンスルホナート(CF3SO3-)、ニトラート(NO3-)、ヘキサフルオロアルセナート(AsF6-)、テトラキス(ペンタフルオロフェニルボレート)(B[C6F5]4-)、テトラキス[3.5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート(B[C6H3(CF32]4-)、テトラフェニルボレート(B[C6H5]4-)、ヘキサフルオロチタナート(TiF62-)、ヘキサフルオロゲルマナート(GeF62-)、ヘキサフルオロシリケート(SiF62-)、ヘキサフルオロニッケレート(NiF62-)および/またはヘキサフルオロジルコナート(ZrF62-)から選択される1種類以上のアニオンを含む。本発明にとって特に好ましいアニオンは、ヘキサフルオロアンチモナート(SbF6-)である。
【0063】
本発明の好ましい開始剤は、一般式(I)
{[M(L)a]Xb}n 式(I)
〔式中、M = 金属カチオン、L = オレフィン配位子、X = アニオン(好ましくは、弱配位アニオンの群から選択されるもの)、
a = 1〜10、好ましくは、1〜6、特に好ましくは、1〜4、
b = 1〜10、好ましくは、1〜6、特に好ましくは、1〜3、
n = 1〜20,000,000、
a、bおよびnは、自然数および数値範囲の両方であり得、aは、さらに非自然数であってもよい〕
で示される。
【0064】
特に、aは1〜6、特に好ましくは1〜4の数である。さらに好ましくは、a = 1、1.5、2、3、または4、特に非常に好ましくは、1、1.5、または2である。
【0065】
特に、bは1〜6、特に好ましくは1〜3の数である。さらに好ましくは、b = 1、2、3、または4、特に非常に好ましくは、1、2、または3である。
【0066】
nは、好ましくは、1であるか(モノマー型金属錯体)、または好ましくは、2〜20,000,000の範囲(モノマー型、ダイマー型、トリマー型、オリゴマー型、およびポリマー型の配位化合物またはその混合物)、例えば、好ましくは、1〜20,000、特に好ましくは、1〜1000、特に非常に好ましくは、1〜500または1〜300であるかのいずれかである。
【0067】
金属カチオンMは、好ましくは、銀、コバルト、銅、アルミニウム、またはチタンから選択され、銀と銅が特に好ましく、一方、オレフィン配位子LおよびアニオンXは、好ましくは、それぞれ、上記のオレフィンおよびアニオンの1種類以上から選択されるものである。
【0068】
本発明の開始剤の構造は、実質的に、オレフィン配位子および/またはアニオンの選択によって影響されることに注意されたい。
【0069】
例えば、ジエン、トリエンまたはオリゴアルカンなどの多官能性オレフィン配位子を使用することにより、開始剤に、ダイマー型、トリマー型もしくはオリゴマー型の構造を含む金属-オレフィン錯体、または配位ポリマーとして存在する金属-オレフィン錯体を含有させることができる。環状のジ-、トリ-、またはテトラエン(例えば、1,5-シクロオクタジエン、シクロヘプタトリエン、またはシクロオクタテトラエン)の場合、単核の金属-オレフィン錯体が、主として好ましく得られる。しかしながら、多核配位子-橋状構造の形成も可能である。開鎖のジエンをオレフィン配位子として使用する場合、配位ポリマーの形成が有利となり得る。
【0070】
本発明の好ましい態様において、開始剤は、少なくとも5個、好ましくは少なくとも10個、非常に好ましくは少なくとも50個または少なくとも100個の、同一または異なる金属カチオンを含み、これらが、少なくとも2つの炭素-炭素二重結合を有する橋絡オレフィン配位子によってカチオン配位コポリマーを構成している。
【0071】
「橋絡オレフィン配位子」は、特に、ジエン、例えば、ブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエンおよび/または1,9-デカジエンであると理解されたい。
【0072】
特に、開始剤は、少なくとも5個、好ましくは少なくとも10個、非常に好ましくは少なくとも50個または少なくとも100個の同一の金属カチオンを含み、これらが、少なくとも2つの炭素-炭素二重結合を有する橋絡オレフィン配位子によってカチオン配位コポリマーを構成しており、前述のオレフィン配位子は4〜12個の炭素原子を含むものである。
【0073】
一次元の鎖構造を有するこの種のカチオン配位ポリマーは、例えば、ヘキサフルオロアンチモン酸銀を1,7-オクタジエンと反応させた場合に得られる。得られる金属-オレフィン錯体は、以下の一般式(II)
{[Ag(1,7-オクタジエン)1.5]SbF6}5-p 式(II)
〔式中、p = 20,000,000〕
を有する。
【0074】
式(II)から明らかなように、銀の金属カチオンは、1分子と2分子の1,7-オクタジエンを交互に橋絡しているため、本発明の場合では、例えば、式(III)の金属-オレフィン錯体がカチオンポリマーとして形成され得る。
【化1】

〔式中、p = 9,999,999〕
【0075】
オレフィン配位子1,5-ヘキサジエンおよび1,9-ヘキサジエンは、好ましくは類似の構造を生じる。2つより多くの炭素-炭素二重結合を含むオレフィン配位子を使用することにより、さらなる錯体構造が得られる。
【0076】
本発明の好ましい実施形態において、開始剤は、[Ag(シクロヘキセン)1〜4]SbF6、[Ag(シクロオクテン)1〜4]SbF6、[Ag(トランス-2-オクテン)1〜4]SbF6、[Ag(スチレン)1〜4]SbF6、[Ag(5-ノルボルネン-2-カルボン酸)1〜4]SbF6、{[Ag(1,5-ヘキサジエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(1,7-オクタジエン)1.5]SbF6}1〜p、{[Ag(1,9-デカジエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(ソルビン酸エチルエステル)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(1,3-シクロヘキサジエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(1,3-シクロオクタジエン)1〜4]SbF6}1〜p、Ag(1,5-シクロオクタジエン)2]SbF6、{[Ag(ノルボルナジエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(ジシクロペンタジエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(シクロヘプタトリエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Cu(1,7-オクタジエン)1〜4]SbF6}1〜p、[Cu(1,5-シクロオクタジエン)2]SbF6、[Ag(アリルグリシジルエーテル)1〜4]SbF6、{[Ag(トランス,トランス,シス-1,5,9-シクロドデカトリエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(トランス,トランス,トランス-1,5,9-シクロドデカトリエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(シクロオクタテトラエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(スクアレン)1〜4]SbF6}1〜p〔式中、p = 20,000,000〕から選択される。
【0077】
本発明のために、前述の開始剤の任意の混合物もまた、使用され得る。
【0078】
上記の開始剤の製品は、一例としてWO2008/064959 A2にまとめられたものであってよい。
【0079】
一実施態様において、開始剤は、本発明のエポキシ樹脂に分散および/または溶解させ、開始剤の総量または異なる開始剤の混合物の総量は、好ましくは、エポキシ樹脂の総量または異なるエポキシ樹脂の混合物の総量に対して、0.01〜10wt%、好ましくは0.5〜3wt%、特に好ましくは1〜2wt%である。
【0080】
特定の適用目的のためには本発明においては、上記の開始剤とともに、さらなる開始剤、特に光開始剤を使用することが有用であり得る。
【0081】
好適な光開始剤は、例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノン、アセトナフトキノン 、メチルエチルケトン、バレロフェノン、ヘキサノフェノン、α-フェニルブチロフェノン、p-モルホリノプロピオフェノン、ジベンゾスベロン、4-モルホリノベンゾフェノン、4-モルホリノデオキシベンゾイン、p-ジアセチルベンゼン、4-アミノベンゾフェノン、4'-メトキシアセトフェノン、β-メチルアントラキノン、tert-ブチルアントラキノン、アントラキノンカルボン酸エステル、ベンズアルデヒド、α-テトラロン、9-アセチルフェナントレン、2-アセチルフェナントレン、10-チオキサンテノン、3-アセチルフェナントレン、3-アセチルインドール、9-フルオレノン、1-インダノン、1,3,4-トリアセチルベンゼン、チオキサンテン-9-オン、キサンテン-9-オン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、ベンゾイン、ベンゾインイソブチルエーテル、クロロキサンテノン、ベンゾインテトラヒドロピラニルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、7-H-ベンゾインメチルエーテル、ベンズ[de]アントラセン-7-オン、1-ナフトアルデヒド、4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、4-クロロベンゾフェノン、ミヒラーのケトン、1-アセトナフトン、2-アセトナフトン、1-ベンゾイルシクロヘキサン-1-オール、2-ヒドロキシ-2,2-ジメチルアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、1-ヒドロキシアセトフェノン、アセトフェノンジメチルケタール、o-メトキシベンゾフェノン、トリフェニルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、ベンズ[a]アントラセン-7,12-ジオン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、ベンジルケタール(ベンジルジメチルケタール、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オンなど)、アントラキノン(2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-アミルアントラキノン、および2,3-ブタンジオンなど)、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(BASF AGのLucirin(登録商標)TPO)、エチル-2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネート(BASF AGのLucirin(登録商標)TPO L)、ビス-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(Ciba Specialty ChemicalsのIrgacure(登録商標)819)、ベンゾフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、フェニルグリオキシル酸およびその誘導体、またはこれらの光開始剤の混合物である。
【0082】
好ましくは、上記の光開始剤は、本発明のエポキシ樹脂に分散および/または溶解させ、光開始剤の総量または異なる光開始剤の混合物の総量は、好ましくは、エポキシ樹脂の総量または異なるエポキシ樹脂の混合物の総量に対して、0.001〜5wt%、好ましくは0.01〜3wt%、特に好ましくは0.11〜2wt%である。
【0083】
本発明のために熱硬化を行なうことは可能であるが、本発明との関連において、硬化を本発明による方法において行うこと、および/または繊維強化複合材料を得るための本発明による繊維含有薬剤の硬化を非熱的に行なうことが特に好ましい。
【0084】
非熱的硬化の具体的な利点は、使用する開始剤の高い反応性のため、有効な硬化が、既に比較的低い温度で比較的短い期間内に起こり得ることである。その結果、それぞれの薬剤に対する熱応力は、非常に低いレベルにのみとなり、硬化操作中、熱可塑性粒子の粒状の性質は保持されることになる。上記のように、熱可塑性粒子の粒状の性質により、本発明の繊維含有複合材料において特に効果的な層内靭性の改良がもたらされる。
【0085】
本発明による方法において行う硬化および/または繊維強化複合材料を得るための本発明による繊維含有薬剤の硬化は、非熱的に行なうことが特に好ましい。
【0086】
「非熱的に」とは、本発明において、硬化が放射線によって開始され、特異的および能動的に送達される熱エネルギーによってもたらされる熱開始は含まないと理解されたい。熱エネルギーは放射線開始型の硬化によって放出され得、それぞれの薬剤の完全な硬化をもたらし得る、または完全な硬化に寄与し得る(いわゆる後硬化)。
【0087】
硬化は、好ましくは、電磁波照射によって行なう。特に、10 pm〜1 mm、好ましくは50 pm〜780 nm、特に好ましくは100 pm〜200 mnの波長を有する放射線、例えば、X-放射線、γ光線、電子ビーム、UV放射線が使用される。
【0088】
しかしながら、本発明の目的のために、硬化をマイクロ波放射線によって行なってもよい。
【0089】
したがって、エポキシ樹脂の非熱的硬化の開始および/または加速に適した開始剤が特に好ましい。電磁波照射の場合、これらの開始剤は、好ましくは、反応性のカチオン種を形成することにより各薬剤の硬化を開始および/または加速し、また、電磁波放射線との相互作用のため好ましくは「光開始剤」とも称される。
【0090】
本発明にとって、非熱的硬化との関連において使用される放射線源に関して特に制限はない。
【0091】
水銀灯、ハロゲン灯以外に、レーザーの形態の単色放射線も、UV放射線源として好ましく使用され得る。
【0092】
硬化がUV放射線の使用により行なわれる場合、UV硬化は、好ましくは、200〜450 nmの波長領域の短波長紫外線の照射によって、特に、高圧または中圧水銀灯を80〜240 W/cmの電力レベルで用いて行なわれる。
【0093】
電子ビーム源の一例として、市販品として入手可能なタングステンフィラメント、冷陰極法(金属中に高電圧パルスを通すことにより電子ビームを発生させる)、および二次電子法(電離ガス分子と金属電極との衝突によって発生する二次電子を使用する)によって生成させる熱電子を利用するための系が使用され得る。核分裂性物質(Co60など)をα放射線、β放射線およびγ光線の線源として使用してもよい。γ光線には、陽極内での加速電子の衝突をもたらす真空管が使用され得る。放射線は、個々に、または2種類以上の型の放射線の組合せのいずれかで使用され得る。後者の場合、2種類以上の型の放射線は、同時または特定の時間間隔でのいずれかで使用され得る。
【0094】
放射線、特に電子ビームの使用を伴う硬化は、好ましくは20〜250℃、好ましくは80〜100℃で、5秒〜12時間、好ましくは8秒〜4時間、特に非常に好ましくは10秒〜1時間の期間、および/または3eV〜25MeV、特に6eV〜20MeV、好ましくは1keV〜15MeV、特に非常に好ましくは1keV〜10MeVの放射エネルギーを有する光線を用いて行なわれる。
【0095】
本発明の好ましい態様において、硬化は、1〜1000kGy、好ましくは1〜300kGy、特に好ましくは10〜200kGyの少なくとも1つの自由に選択可能な照射単位を用いて行なわれる。
【0096】
本発明の別の好ましい態様では、熱硬化および/または非熱的硬化を併用して行うことができ、熱硬化工程と非熱的硬化工程のシーケンスは自由に選択可能であり、対応する適用プロフィールまたは適用目的に適合させることができる。
【0097】
酸素を排除して熱硬化および/または非熱的硬化を行なうことが有利であろう。また、硬化を不活性ガス雰囲気下で行なってもよい。原則的に、使用された化学物質に対して不活性な挙動を示す任意のガスが好適である。これに関して、好ましくは、N2、CO2またはアルゴンなどのガスが可能である。しかしながら、これについてはCO2およびN2などの安価なガスが好ましい。CO2は、容器の底に収集されるため扱い易いという利点を有する。好適な不活性ガスは、特に、無毒性および不燃性のものである。
【0098】
本発明による方法は、好ましくは、すべの一般的に知られた繊維含有複合材料の製造方法に基くものであり得る。例えば、本発明による方法は、ハンドレイアップ法、プリプレグ法、注入法、RTM法、押出し法および/または巻取り法の形態で行なわれ得る。
【0099】
好ましくは、本発明による方法は、RTM法の形態で行なわれ、この方法では、1種類以上の金属-オレフィン錯体を含有する少なくとも1種類の開始剤を含む液状のエポキシ樹脂を、任意のモールド内に配置した繊維製の基材に噴霧する。好ましくは、前述の繊維は、エポキシ樹脂の注入前に、本発明による熱可塑性粒子で既に処理したものであり、その結果、特に良好な層内靭性の改良がなされる。次いで硬化を行い、その結果繊維強化複合材料が製造される。上述した理由のために、非熱的硬化操作を行なうことは特に有利である。
【0100】
この方法の一実施態様では、100J/m2〜800J/m2、好ましくは150J/m2〜600J/m2、特に200〜590J/m2のモードI層間エネルギー解放率GIcを有する繊維含有複合材料が得られる。
【0101】
モードI層間エネルギー解放率GIcは、DIN EN 6033に従って求めることができる。双片持ち梁(DCB)試験片を繊維複合積層体から切り出す。2つのアルミニウムブロックをDCB試験片の2つの表面上に接着結合させるとともに、初期亀裂を入れる。試験片の厳密な測定後、これを引張試験機に固定し、負荷をかける。亀裂の進行を、全実験期間にわたって顕微鏡で観察する。モードI層間エネルギー解放を調べるため、実験中、力-移動の線図をプロットする。
【0102】
この方法のさらなる実施態様では、200J/m2〜2000J/m2、好ましくは300J/m2〜1500J/m2、特に400〜1000J/m2のモードII層間エネルギー解放(GIIc)を有する繊維含有複合材料が得られる。
【0103】
モードII層間エネルギー解放(GIIc)は、DIN EN 6034に従って求めることができる。端面切欠き曲げ(ENF)試験片を、繊維複合積層体から製作する。ENF試験は、三点曲げ試験装置で行なわれる。亀裂の進行を顕微鏡で観察する。実験中、モードII層間エネルギー解放率を調べるため、力-移動の線図をプロットする。
【0104】
好ましくは可塑剤、充填剤、さらなる添加剤樹脂、安定剤、硬化剤促進剤、酸化防止剤、接着促進剤、レオロジー改良剤、増粘剤、結合剤、溶媒、触媒、反応性の希釈剤、火炎保護添加剤および/またはさらなる耐衝撃性改良剤から選択されるさらなる薬剤を、それぞれ本発明の方法において、および本発明の繊維含有薬剤に含有して使用し得る。
【0105】
好適な可塑剤は、例えば、好ましくは、エステル(アビエチン酸エステル、アジピン酸エステル、アゼライン酸エステル、安息香酸エステル、酪酸エステル、酢酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステルなど);およそ8〜およそ44個の炭素原子を有する高級脂肪酸のエステル(アジピン酸ジオクチル、コハク酸ジイソデシル、セバシン酸ジブチルまたはオレイン酸ブチルなど)、OH基含有またはエポキシド化脂肪酸のエステル、脂肪酸エステル、ならびに脂肪、グリコール酸エステル、リン酸エステル、1〜12個の炭素原子を含む直鎖または分枝鎖アルコールのフタル酸エステル(例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、またはフタル酸ブチルベンジルなど)、プロピオン酸エステル、セバシン酸エステル、スルホン酸エステル、チオ酪酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、ならびにニトロセルロースとポリ酢酸ビニルに基づくエステル、ならびにそれらの2種類以上の混合物である。二官能性脂肪族ジカルボン酸の不斉エステル、例えば、アジピン酸モノオクチルエステルと2-エチルヘキサノールとのエステル化生成物は特に好適である(Edenol DOA,Henkel Co.,Duesseldorf)。
【0106】
また、可塑剤として適当なのは、好ましくは、単官能性の直鎖または分枝鎖C4〜16アルコールの、純粋な、または混合型エーテル、あるいは、かかるアルコールの2種類以上の異なるエーテルの混合物、例えば、ジオクチルエーテル(Cetiol OE(Henkel Co.,Duesseldorf)として入手可能)である。
【0107】
別の好ましい態様では、末端キャップ型ポリエチレングリコール、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレングリコールジ-C1〜4-アルキルエーテル、特に、ジエチレングリコールまたはジプロピレングリコールのジメチルまたはジエチルエーテル、ならびにこれらの2種類以上の混合物が可塑剤として使用される。
【0108】
無機充填剤、例えば、天然または合成の物質(例えば、石英、窒化物(例えば、窒化ケイ素)、例えば、Ce、Sb、Sn、Zr、Sr、BaおよびAI由来のガラス、コロイド状二酸化ケイ素、長石、ホウケイ酸ガラス、カオリン、タルク、二酸化チタン、および亜鉛ガラスなど)、ならびにサブミクロン粒径の二酸化ケイ素粒子(例えば、焼成二酸化ケイ素(例えば、「Aerosil」「OX 50」、「130」、「150」および「200」シリーズ(Degussaから販売)、ならびに「Cab-O-Sil M5」(Cabot Corp.から販売)の二酸化ケイ素)など)、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ゼオライト、ベントナイト、磨砕無機物質、炭酸カルシウム、石英粉末、無水ケイ酸、ケイ素水和物またはカーボンブラック、炭酸マグネシウム、焼成粘土、クレイ、酸化鉄、酸化亜鉛、二酸化チタン、セルロース、木粉、雲母、籾殻、グラファイト、アルミニウム微粉末またはフリント粉末、ガラス球、ガラス粉末、ガラス繊維および粉砕ガラス繊維、ならびに当業者に知られた他の無機充填剤、ならびに有機充填剤、特に、粉砕繊維または中空プラスチック球、ならびにレオロジー特性にプラスの影響を及ぼす機能性充填剤、例えば、高度分散型ケイ酸、特に、20〜150、好ましくは30〜100、特に好ましくはおよそ50 m2/gの低いBET表面積を有するものなどの充填剤が好適である。
【0109】
好適な添加剤樹脂は、例えば、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、シアノアクリル樹脂、トリアジン樹脂および/またはポリイミド樹脂である。
【0110】
安定剤または酸化防止剤の中でも、本発明との関連において添加剤として使用可能なものとしては、分子量(Mw)の大きいヒンダートフェノール、多官能性フェノール、ならびに含硫フェノールおよびリン含有フェノールが挙げられる。本発明において添加剤として使用可能なフェノールは、例えば、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン;ペンタエリトリトールテトラキス-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;n-オクタデシル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;4,4-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);4,4-チオビス(6-tert-ブチル-o-クレゾール);2,6-ジ-tert-ブチルフェノール;2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,2'-メチレン-ビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4'-ブチリデン-ビス-(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4'-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール);2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール;6-(4-ヒドロキシフェノキシ)-2,4-ビス(n-オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン;テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン;1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-4-tert-ブチルフェニル)ブタン;ジ-n-オクタデシル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート;2-(n-オクチルチオ)エチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート;およびソルビトールヘキサ[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である。。
【0111】
好適な光安定剤は、例えば、名称Thinuvin(登録商標)(製造業者:Ciba Geigy)で市販品として入手可能なものである。
【0112】
同様に、好ましくは、オキサニリド、トリアジン、ならびにベンゾトリアゾール(後者は、Ciba Specialty ChemicalsのTinuvin(登録商標)ブランドとして入手可能)およびベンゾフェノン、またはその組合せの群から選択される適当な安定剤(これは、典型的にはUV吸収剤であり、光安定剤である)を含有し得る。UV光を吸収しない光安定剤を添加することが有利であり得る。
【0113】
適当なUV吸収剤および光安定剤は、例えば、2-ヒドロキシベンゾフェノン、例えば、4-ヒドロキシ、4-メトキシ、4-オクチルオキシ、4-デシルオキシ、4-ドデシルオキシ、4-ベンジルオキシ、4,2',4'-トリヒドロキシ、および2'-ヒドロキシ-4,4'-ジメトキシ誘導体、ならびに置換型および非置換の安息香酸のエステル(例えば、サリチル酸4-tert-ブチルフェニル、サリチル酸フェニル、サリチル酸オクチルフェニル、ジベンゾイルレゾルシノール、ビス(4-tert-ブチルベンゾイル)レゾルシノール、ベンゾイルレゾルシノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、オクタデシル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2-メチル-4,6-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエートなど)から選択され得る。
【実施例】
【0114】
実施形態の例示
1. 開始剤の製造
少なくとも1種類の金属カチオン-オレフィン錯体を含有する開始剤の合成は、文献(H.W. Qinn,R. L. Van Gilder,Can. J. Chem. 1970,48,2435;A. Albinati,S.V. MeilIe,G. Carturan,J. Organomet. Chem. 1979,182,269;H. Masuda,M. Munakata,S. Kitagawa,J. Organomet. Chem. 1990,391,131;A.J. Canty,R. Colton,Inorg. Chim. Acta 1994,220,99)で既知の方法に基づいて行なう。ここでは、AgSbF6(Aldrich,98%;またはChempur,95+%)をトルエンまたはTHFに溶解させ、過剰のアルケン(好ましくは4当量)と反応させる。かくして得られる{[Ag(アルケン)a]SbF6}100〜p型〔式中、pは、101〜20,000,000の値である〕の高分子量の金属-オレフィン錯体は溶解性が不充分であり、反応混合物から析出し、次いで、濾過によって単離され得る。次いで、この物質を高真空下で乾燥させる。
【0115】
さらに金属と配位子がある場合、まず、それぞれの金属塩化物を適当な溶媒中(例えば、メタノールなど)でAgSbF6と反応させ、析出したAgClを濾過によって除去し、得られたヘキサフルオロアンチモン酸金属塩の溶液をそれぞれの配位子と反応させる。次いで、溶媒除去し、化合物を高真空下で乾燥させる。
【0116】
2. 樹脂調製物の製造
使用した物質:
DEN431 エポキシ樹脂、フェノールノボラック型(Dow Chemicals)
DEN438 エポキシ樹脂、フェノールノボラック型(Dow Chemicals)
PES Radel A-704 ポリエーテルスルホン(Solvay)
EP2240A コア-シェル型材料:有機ケーシング構造を有するシリコーンゴム粒子(Nanoresins)
【0117】
それぞれ、樹脂および樹脂調製物(これらは、室温で液状、粘性または固形である)(54.95wt% DEN431 + 23.55wt% DEN438 + 15wt% PES Radel A-704 + 5wt% EP2240A)を、室温で、対応する開始剤(上記参照;1.5wt% {[Ag(1,7-オクタジエン)1.5]SbF6}1〜p)と混合し、最大80℃まで加熱し、開始剤が樹脂中に完全に溶解するまで攪拌する。次いで、これを室温まで冷却する。
【0118】
3. 繊維含有複合材料の製造
繊維含有複合材料は、繊維成分としてHTA炭素繊維(Toho Tenax)、および樹脂成分として上記の樹脂配合物を使用し、以下のようにして製造する。
【0119】
まず、80g/m2の表面重量を有する樹脂膜を、ZP 25008型溶融接着剤塗布デバイス(Inatec社)を用いて作製する。次いで、MDW 100-2型プリプレグ巻取りシステム(Microsam社)を用いて樹脂膜を処理することにより、およそ60%の繊維容積率を有するプリプレグを得る。
【0120】
3 mmの層厚を有する一方向性積層体を、12枚の一方向性プリプレグを互いに重ね合わせることにより製作する。個々のプリプレグは、上記の手順に従って得られる。この積層体の製作では、材料の多孔度を小さくするため、新たなプリプレグ層を真空台に配置するたびに真空を負荷する。熱可塑性粒子を層間強靭化剤として使用する本発明の場合、対応する熱可塑性粒子が、次のプリプレグ層を配置する前に個々の各プリプレグ層の表面上に散乱するため、表1に示す適用量が得られる。この場合、熱可塑性粒子として、およそ50μmの平均粒子直径を有するVirantageTM 型(Solvay Advanced Polymers,LLC)のポリエーテルスルホン粒子を使用する。
【0121】
次いで、積層体を真空バッグによって脱気し、電子ビームユニット(10MeV)に通す;硬化は4工程で行ない、各工程で33kGyの線量を導入する(総量132kGy)。モールドからの硬化積層体(すなわち、繊維含有複合材料)の離型をより良好にするため、最初に該積層体を、離型剤としてのFrekote-700NC(Henkel Loctite)の薄層でコートする。
【0122】
4. 繊維含有複合材料の機器データ
モードI層間エネルギー解放(GIc)は、DEN EN 6033に従って求められる。2つのアルミニウムブロックを双片持ち梁(DCB)試験片の2つの表面上に接着結合させるとともに、初期亀裂を入れる。試験片の厳密な測定後、これを引張試験機に固定し、負荷をかける。亀裂の進行を、全実験期間にわたって顕微鏡で観察する。モードI層間エネルギー解放を測定するために、実験中、力-移動の線図をプロットする。破壊時の機械的特性の実験の実施には、Zwick社の万能材料試験機(UPM)(Z 2.5型)を用いる。双片持ち梁(DCB)試験片(250 mm×25 mm×3 mm)を試験片として供する。測定はすべて、23℃および50%相対湿度で行なう。
【0123】
モードII層間エネルギー解放率(GIIc)は、DIN EN 6034に従って求められる。端面切欠き曲げ(ENF)試験は三点曲げ試験装置で行ない、亀裂の進行を、全実験期間にわたって顕微鏡で観察する。実験中、モードII層間エネルギー解放率を調べるため、力-移動の線図をプロットする。破壊時の機械的特性の実験の実施には、Zwick社の万能材料試験機(UPM)(Z 2.5型)を用いる。ENF試験片(120 mm×25 mm×3 mm)を試験片として供する。測定はすべて、23℃および50%相対湿度で行なう。
【0124】
繊維含有複合材料について測定した破壊時の機械的特性のデータを表1に示す:
【表1】

上記の型のポリエーテルスルホン粒子の使用により、試験対象の繊維含有複合材料の靭性の改良、特に層間靭性の改良がもたらされることは明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 繊維を準備する工程
b) 該繊維を少なくとも1種類のエポキシ樹脂で処理する工程(該エポキシ樹脂は、1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体を含有する少なくとも1種類の開始剤を含む)、および
c) 工程b)で得られた該繊維含有薬剤を、特に、X-放射線、γ光線、電子ビームおよび/またはUV光線の照射によって硬化させる工程
を含み、
工程a)で準備する繊維は、工程b)の実施前および/または実施後に熱可塑性粒子で処理される、および/または該エポキシ樹脂は熱可塑性粒子を含む、
繊維含有複合材料の製造方法。
【請求項2】
繊維を織布、マット、編物および/またはブレードの形態で存在させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
繊維が炭素繊維である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
熱可塑性粒子が、動的機械分析(DMA)での測定時、少なくとも45℃のガラス転移温度を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
熱可塑性粒子が、固形ゴム、ブロックコポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアルキレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアミド-イミド、ポリアリールエーテルおよび/またはポリアリーレートから作製されたものである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
熱可塑性粒子の総数に対して熱可塑性粒子の少なくとも90%が、任意の空間方向における100μm未満の最大伸びを有する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
金属カチオン-オレフィン錯体の少なくとも1種類の金属が、銀、コバルト、銅、アルミニウム、またはチタンから選択される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
金属カチオン-オレフィン錯体の少なくとも1種類のオレフィンが、プロペン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、イソプレン、ノルボルネン、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロデセン、1,4-シクロヘキサジエン、4-ビニルシクロヘキセン、トランス-2-オクテン、スチレン、5-ノルボルネン-2-カルボン酸、ブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエン、ソルビン酸エチルエステル、1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロオクタジエン、1,5-シクロオクタジエン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘプタトリエン、トランス,トランス,トランス-1,5,9-シクロドデカトリエン、トランス,トランス,シス-1,5,9-シクロドデカトリエン、シクロオクタテトラエン、スクアレン、炭酸ジアリル、ジアリルエーテル、ジアリルジメチルシラン、シクロペンタジエン、エチルビニルエーテル、リモネン、1,2-ジヒドロナフタレン、桂皮酸エチルエステル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、スチルベン、オレイン酸メチルエステル、およびリノレン酸メチルエステルから選択される、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
開始剤が、1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体に加えて、ヘキサフルオロアンチモナート(SbF6-)、ヘキサフルオロホスファート(PF6-)、ボロンテトラフルオリド(BF4-)、ヘキサフルオロアルミナート(AlF63-)、トリフルオロメタンスルホナート(CF3SO3-)、ニトラート(NO3-)、ヘキサフルオロアルセナート(AsF6-)、テトラキス(ペンタフルオロフェニルボレート)(B[C6F5]4-)、テトラキス[3.5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート(B[C6H3(CF32]4-)、テトラフェニルボレート(B[C6H5]4-)、ヘキサフルオロチタナート(TiF62-)、ヘキサフルオロゲルマナート(GeF62-)、ヘキサフルオロシリケート(SiF62-)、ヘキサフルオロニッケレート(NiF62-)および/またはヘキサフルオロジルコナート(ZrF62-)から選択される1種類以上のアニオンを含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
開始剤が、少なくとも5個の同一または異なる金属カチオンを含み、少なくとも2つのC-C二重結合を有する橋絡オレフィン配位子によりカチオン配位ポリマーを形成している、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
開始剤が、[Ag(シクロヘキセン)1〜4]SbF6、[Ag(シクロオクテン)1〜4]SbF6、[Ag(トランス-2-オクテン)1〜4]SbF6、[Ag(スチレン)1〜4]SbF6、[Ag(5-ノルボルネン-2-カルボン酸)1〜4]SbF6、{[Ag(1,5-ヘキサジエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(1,7-オクタジエン)1.5]SbF6}1〜p、{[Ag(1,9-デカジエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(ソルビン酸エチルエステル)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(1,3-シクロヘキサジエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(1,3-シクロオクタジエン)1〜4]SbF6}1〜p、Ag(1,5-シクロオクタジエン)2]SbF6、{[Ag(ノルボルナジエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(ジシクロペンタジエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(シクロヘプタトリエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Cu(1,7-オクタジエン)1〜4]SbF6}1〜p、[Cu(1,5-シクロオクタジエン)2]SbF6、[Ag(アリルグリシジルエーテル)1〜4]SbF6、{[Ag(トランス,トランス,シス-1,5,9-シクロドデカトリエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(トランス,トランス,トランス-1,5,9-シクロドデカトリエン)1〜4]SbF6}1〜p、{[Ag(シクロオクタテトラエン)1〜4]SbF6}1〜p、または{[Ag(スクアレン)1〜4]SbF6}1〜p〔式中、p = 20,000,000〕
から選択される、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
開始剤が、エポキシ樹脂の非熱的硬化の開始および/または加速に適したものである、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
a) 繊維、好ましくは、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、窒化ケイ素繊維、金属繊維、セラミック繊維、ボロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維および/または天然繊維から選択されるもの、
b) 少なくとも1種類のエポキシ樹脂、
c) 熱可塑性粒子、および
d) 1種類以上の金属カチオン-オレフィン錯体を含有する少なくとも1種類の開始剤
を含む繊維強化複合材料を製造するための繊維含有薬剤。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載の方法によって、および/または請求項13に記載の繊維含有薬剤の硬化によって製造可能な繊維含有複合材料。

【公表番号】特表2012−521457(P2012−521457A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501250(P2012−501250)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053533
【国際公開番号】WO2010/108846
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(391008825)ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン (309)
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D−40589 Duesseldorf,Germany
【Fターム(参考)】