説明

繊維成形体とその製造方法および筆記具,液体供給具

【課題】液体の搬送能力が大きく,吸い上げ速度の速い繊維成形体とその製造方法および筆記具,液体供給具を提供すること。
【解決手段】本発明の繊維成形体(芯材12)は,熱融着性繊維を含む不織布を棒状に加熱成形した繊維成形体であって,繊維成形体の軸方向に垂直な断面中に,断面積が0.005〜0.5mm2 の範囲内の大隙間と,断面積が0.005mm2 未満の小隙間とを含み,繊維成形体の軸方向に垂直な断面の面積に対し,大隙間の断面積の合計が3〜30%の範囲内の割合を占めており,繊維成形体の軸方向に垂直な断面50mm2 当たり,大隙間が15〜500個存在しているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば筆記具の中芯や吸い上げ拡散式の芳香器や消臭器,蒸散式の防虫器等の薬液の吸い上げ芯等に用いられる棒状の繊維成形体とその製造方法に関する。さらに詳細には,熱融着性繊維を含む繊維材料を熱成形することによって得られる繊維成形体とその製造方法および筆記具,液体供給具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より,合成樹脂等を繊維状にしたものを束ねて,熱成形することによる繊維成形体が使用されている。例えば,サインペンのインクを含浸させて保持し,少しずつペン先へと供給するための棒状の芯材がある。または,芳香剤や防虫剤等を液体タンクから吸い上げて拡散させるための吸い上げ芯もある。例えば,特許文献1には,熱接着性の複合繊維を含有する繊維束を棒状に成形する技術が開示されている。また,特許文献2には,スライバー状にした合成樹脂繊維を熱硬化性樹脂によって接着成形したことによる吸上げ芯材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭59−40938号公報
【特許文献2】特開平2−200137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,前記した従来の繊維成形体では,液体の搬送能力が十分とはいえなかった。例えば,筆記具を上向きにしての連続使用時には,インクのかすれが発生することがあった。あるいは,薬剤の吸い上げ部材では,容器の開口部の形状の自由度を向上させるため,また,容器底部の凹部に残る薬剤を最後まで吸い上げるためにより細い芯材が要求されている。しかし,芯材を細く形成すると液体の吸い上げ速度(単位時間当たりの吸い上げ量)も低いという問題点があった。
【0005】
本発明は,前記した従来の繊維成形体が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,液体の搬送能力が大きく,吸い上げ速度の速い繊維成形体とその製造方法および筆記具,液体供給具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の繊維成形体は,熱融着性繊維を含む不織布を棒状に加熱成形した繊維成形体であって,繊維成形体の軸方向に垂直な断面中に,断面積が0.005〜0.5mm2 の範囲内の大隙間と,断面積が0.005mm2 未満の小隙間とを含み,繊維成形体の軸方向に垂直な断面の面積に対し,大隙間の断面積の合計が3〜30%の範囲内の割合を占めており,繊維成形体の軸方向に垂直な断面50mm2 当たり,大隙間が15〜500個存在しているものである。
【0007】
本発明の繊維成形体によれば,適切な大きさの大隙間を有することにより液体の搬送能力が高いものとなっている。さらに,小隙間を有することにより,十分な量の液体を含浸できる。従って,筆記具の芯材や液体供給具の吸い上げ芯として最適なものとなっている。
【0008】
さらに本発明では,不織布を長尺状に裁断した複数のスリット片を,長手方向を互いに揃えて成形したものであり,大隙間は,スリット片同士の間のスリット片間にできる隙間であり,小隙間は,不織布を構成する繊維同士の間の繊維間にできる隙間であることが望ましい。
不織布を長尺状に裁断したスリット片を揃えて成形することにより,スリット片同士の間に大隙間ができる。この大隙間は,繊維同士の間にできる小隙間より大きく,液体の搬送能力の向上に寄与している。
【0009】
さらに本発明では,繊維率が15〜30%の範囲内であることが望ましい。
ここで繊維率とは,繊維成形体の単位体積中に占める繊維の割合である。多く用いられる用語である空隙率を用いて,繊維率=(100%−空隙率)と表すこともできる。そして,この程度の繊維成形体とすれば,液体の搬送能力が大きく,吸い上げ速度の速いものとすることができる。
【0010】
また本発明の繊維成形体の製造方法は,熱融着性繊維の不織布を長尺状に裁断した複数のスリット片を,長手方向を互いに揃えて配置し,その配置した集合体を加熱成形して棒状の繊維成形体とするものである。
このようにして製造することにより,大隙間と小隙間とを有する繊維成形体を形成することができる。
【0011】
さらに本発明の製造方法では,加熱成形により,繊維成形体の軸方向に垂直な断面中に,断面積が0.005〜0.5mm2 の範囲内の大隙間と,断面積が0.005mm2 未満の小隙間とを含み,繊維成形体の軸方向に垂直な断面の面積に対し,大隙間の断面積の合計が3〜30%の範囲内の割合を占めており,繊維成形体の軸方向に垂直な断面50mm2 当たり,大隙間が15〜500個存在している状態とすることが望ましい。
このようにすれば,適切に大隙間を有する繊維成形体を製造することができる。
【0012】
さらに本発明の製造方法では,不織布として,目付が5〜50g/m2 の範囲内のものを使用することが望ましい
この範囲の不織布を使用すれば,適切な大きさと個数の大隙間が形成された繊維成形体を製造できる。
【0013】
さらに本発明の製造方法では,スリット片は,不織布を,形成しようとする繊維成形体の外径周長の1〜10倍の範囲内の幅に裁断したものであることが望ましい。
この範囲に裁断したスリット片を使用すれば,適切な大きさと個数の大隙間が形成された繊維成形体とできる。
【0014】
また本発明は,上記の繊維成形体を,インク含浸体として使用した筆記具にも及ぶ。
また本発明は,液体容器と,液体容器から液体を吸い上げる吸い上げ芯とを有し,上記の繊維成形体を,吸い上げ芯として使用した液体供給具にも及ぶ。
【発明の効果】
【0015】
本発明の繊維成形体とその製造方法および筆記具,液体供給具によれば,液体の搬送能力が大きく,吸い上げ速度が速いものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本形態に係るサインペンを示す断面図である。
【図2】不織布からスリット片を切り出した様子を示す説明図である。
【図3】スリット片をまとめて加圧成形する様子を示す説明図である。
【図4】本形態の芯材の断面を示す説明図である。
【図5】従来の繊維成形体に見られる繊維間隙間を示す説明図である。
【図6】液体供給具の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,本発明を具体化した形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,インクを含浸させた状態でサインペンの内部に配置され,インクをペン先へ向けて供給する芯材に,本発明を適用したものである。
【0018】
本形態のサインペン10は,図1の断面図に示すように,容器11とその内部にほとんど隙間無く挿入されている芯材12とを有している。容器11は,図中上端が開放端11aとなっている金属製の有底円筒型の容器である。芯材12は,合成樹脂製の繊維を含む繊維成形体である。芯材12の大きさは,容器11の内径や長さ等に応じて調整されればよい。この芯材12は,容器11に挿入する前の状態では通常,容器11の内径よりやや大径の円柱形状のものである。サインペン10は,この芯材12にインクが含浸された状態で供給されるものであり,芯材12がインク含浸体に相当する。
【0019】
サインペン10はまた,図1に示すように,ペン先筒14とペン先15とを有している。ペン先筒14は,ペン先15を貫通させる貫通穴14aが形成されている。ペン先筒14はまた,容器11の開放端11aを覆って,容器11に固定されている。ペン先15は,先端部15aがとがった柱状のものである。そして,ペン先15の先端部15aは貫通穴14aを介して図中上方に突出されているとともに,基端部15bは芯材12の端部に少し刺さった状態となっている。
【0020】
さらに,ペン先15は,図1に示すように,貫通穴14aとほぼ同径である。従って,ペン先15によって貫通穴14aはほぼ塞がれている。なお,サインペン10はさらに,ペン先15の保護や乾燥防止のために,ペン先筒14の外周面に着脱自在のキャップ16を有している。なお,本形態のサインペン10において,流体を流通させる主な方向は,図1中の縦方向であり,以下,この方向を長手方向という。芯材12では,この長手方向への液体の搬送能力が高いことが求められている。
【0021】
本形態の芯材12は,図2に示すように,熱融着性繊維を含む不織布20を長尺状に裁断した複数のスリット片21を,棒状に加熱成形したものである。その際,スリット片21の長尺方向の長さを,少なくとも芯材12の長手方向の長さ以上のものとし,スリット片21の長尺方向が芯材12の長手方向となるように成形することが望ましい。また,不織布20の繊維流れ方向に沿って,例えば,ロール状の不織布20であればロールの周方向が長手方向となるように細長いスリット片21に分断するとよい。ただし,不織布20としては,特定の繊維流れ方向のない無方向性のものを使用してもよい。また,繊維方向に関わらず適切な大きさに裁断したスリット片21でもよい。
【0022】
そして,図3に示すように,裁断したスリット片21を,全体で適切な量となるように複数個まとめ,その長尺方向を互いに揃えて熱成形機30に供給する。この熱成形機30は,従来より使用されているもので構わない。そして,加熱成形することによって芯材12を得る。
【0023】
このようにして製造することにより,本形態の芯材12は,その断面に断面積の大きい大隙間と断面積の小さい小隙間とをともに含むものとなっている。大隙間(スリット片間隙間)は,スリット片21同士の間にできる隙間であり,従来のスライバーによる成形品には現れることのない,比較的大きい隙間である。本形態の芯材12の長手方向に直角な断面の様子の例を図4に示す。スリット片間隙間41は,この断面における面積(原寸)が0.005〜0.5mm2 の範囲内の空洞である。この図では比較的大きく,黒く塗りつぶされている箇所がこれに当たる。本形態の芯材12には,図4に示すように,様々な形状のスリット片間隙間41が形成されている。このスリット片間隙間41はおおむね,長手方向に沿って連続した隙間となっている。
【0024】
一方,小隙間(繊維間隙間42)は,図5に示すように,繊維と繊維との間にできる隙間である。その断面の大きさは,繊維の太さと同程度のものであり,最大でも0.005mm2 を超えないものである。これは,元々の不織布20やスライバーから成形した従来品にも含まれているものであり,その断面積は0.005mm2 未満のものばかりである。なお,この図は,スライバーから成形した従来品の断面を示したものである。
【0025】
本形態の芯材12は,芯材12の断面積全体に対し,上記の範囲内の大きさの大隙間(スリット片間隙間41)の断面積の合計が,3〜30%の範囲内の割合を占めているものである。さらに,本形態の芯材12は,その長手方向に直角な方向の断面50mm2 中に,上記の大隙間を15〜500個,より望ましくは30〜100個有しているものである。この個数には,断面積が0.005mm2 未満の隙間の数は含んでいない。また,断面積が0.5mm2 以上の空洞を多く含むことは,逆に液体の搬送能力を低下させるため望ましくない。
【0026】
本発明者の実験では,断面50mm2 中のスリット片間隙間41の個数が15個未満となったものでは,十分に速い吸い上げ速度を得ることができなかった。また,断面50mm2 中に500個を越えるスリット片間隙間41を含むものでは,かえって搬送速度が遅かった。これは,各隙間が小さくなりすぎるためと推定される。また,スリット片間隙間41の断面積の合計が,3%未満のものあるいは30%を超えるものでは,いずれも搬送速度が十分でなかった。さらに本形態では,熱成形後の繊維成形体に占める繊維の割合を体積比で表した繊維率が,15〜30%の範囲内のものであることが好ましい。これらの条件を満たすように,各スリット片21の幅および1つの芯材12に使用するスリット片21の個数等が決定される。
【0027】
また,芯材12に含まれている各繊維の太さは,φ10〜30μmの範囲内であることが望ましい。特に本形態では,繊維全体の80重量%以上のものが,この範囲内の太さのものである。芯材12の各繊維の太さにはあまり大きなバラツキはない。各繊維がφ10μmより細いと,大きい空洞が形成されにくく,スリット片間隙間41の条件を満たす芯材12を形成することが困難である。また,φ30μmより太い繊維を含むものでは,毛管現象による吸い上げ力が小さくなりがちであり,良好な搬送能力を有する芯材12を得られにくい。
【0028】
さらに本形態の芯材12は,熱融着性繊維を繊維材料全体の30重量%以上含むものであることが望ましい。この熱融着性繊維は,繊維状に形成することのできる熱可塑性樹脂によって形成された繊維であればよい。例えば,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,エチレン−酢酸ビニル共重合体およびその鹸化物,ポリエステル,ポリアミド等の樹脂,あるいはこれらの樹脂を主成分とする共重合体,さらにはこれらの樹脂の混合物等が使用できる。
【0029】
なお,本形態の芯材12の材料とする不織布20としては,上記のような熱融着性繊維を含む繊維材料を用い,繊維を互いに熱接着することによって製造されたものが適している。例えば,熱可塑性樹脂の単一組成の繊維または,複数の成分からなる複合繊維を使用したものであってもよい。特に,融点の差が10℃以上であるような2成分からなる複合繊維を用いたものであることが好ましい。このような不織布20であれば,2成分の融点の間の温度で熱処理することにより,高融点の成分の繊維形状を保持したまま,低融点の成分によって溶融接合させることができる。従って,形状安定性に優れ,空隙率の高い繊維成形体を得ることができる。
【0030】
また,本形態の芯材12の繊維材料は,熱融着性繊維に他の繊維を混合したものであってもよい。混合する繊維としては,熱成形時の成形温度より高い融点を有する繊維を用いることが好ましい。例えば,木綿,麻,羊毛等の天然繊維や,レーヨン,アセテート,ナイロン繊維,ポリエステル繊維,ビニロン繊維等の高融点の合成樹脂繊維を用いることができる。不織布20の段階で混合したものであってもよいし,芯材12を形成する際に混合することもできる。
【0031】
次に,本形態の芯材12を形成するのに好適な製造方法を説明する。本形態の製造方法では,図2に示すように,上述した熱融着性繊維を含む材料から形成された不織布20を,長尺状に裁断して複数のスリット片21を作る。また,各スリット片21の幅は,形成しようとする芯材12の外径周長の1〜10倍の範囲内のものが含まれていることが望ましい。各裁断幅は必ずしも一律でなくてもよいが,スリット片21が芯材12の外径周長の1倍未満のものや10倍を超えているものばかりでは,適切にスリット片間隙間41を形成することができない。
【0032】
次に,複数個のスリット片21から,従来より実施されている成形方法により,棒状の繊維成形体を成形する。例えば先行技術文献として例示した特許文献1に記載されている成形方法によって成形することができる。この方法では,材料のスリット片21を加熱した気流中に通して全体に加熱した後,スリット片21の長尺方向が成形体の長手方向に沿った方向となるように,スリット片21を加熱成形することにより棒状に成形する。このようにすることにより,繊維成形体の中心部までほぼ均一に熱融着させることができ,形状安定性に優れた繊維成形体を得ることができる。
【0033】
また,芯材12の外形は,熱成形機の口金形状によって選択することができる。例えば,真円柱,楕円柱,波状円周柱,多角柱等である。さらに,板状に成形して,成形後に切断することにより,希望の形状の芯材を得るようにしてもよい。また,長手方向に連続したものとして成形し,適切な長さに切断して使用することも好ましい。
【0034】
なお,不織布20としては,乾式不織布,湿式不織布,スパンボンド不織布等の公知の製造方法によって製造されたものから選択して用いることができる。例えば,高融点の成分を芯部とし,低融点の成分をその周囲に鞘のように形成した鞘芯型と呼ばれる複合繊維を用いたものが好適である。また,目付が5〜50g/m2 の範囲内のものを用いることが望ましい。目付が小さ過ぎるとスリット片間隙間41が小さ過ぎ,目付が大き過ぎるとスリット片間隙間41が大き過ぎるものとなりがちである。
【0035】
本形態では,例えば以下のような不織布を好適に使用することができる。ポリエステルを高融点成分,高密度ポリエチレンを低融点成分とし,体積比で複合比が1:1,単繊維太さ2.2デシテックスの鞘芯型複合繊維100%によるスパンボンド不織布である。例えば,目付5〜50g/m2 程度のものが広く販売されている。さらに,この不織布を,繊維の流れ方向を長手方向として10cm幅に裁断し,適切な量をまとめて,熱成形機で熱成形することにより,繊維率20%,外径φ8mmの円柱形状の芯材12を製造することができる。
【0036】
本発明者は,本形態の実施例の繊維成形体および比較例の繊維成形体を製造し,その形成された大隙間が占める割合と吸い上げ速度とを実験によって評価した。実施例および比較例はいずれも,直径8mmで長さ90mmの円柱形状に成形した繊維成形体である。また,以下では各種の繊維材料を次のように略して表記する。
PE ; 高密度ポリエチレン(融点130℃)
PET ; ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)(融点258℃)
PP ; ポリプロピレン(融点163℃)
なお,本実験ではポリエステルとしてポリエチレンテレフタレートを採用しているが,これ以外のポリエステルを使用することもできる。
【0037】
大隙間の割合の測定方法は以下の通りである。まず実施例および比較例の各繊維成形体から,その長手方向を4等分することによって3箇所の断面を得た。そのそれぞれについて,拡大した断面写真を撮影して,印画紙に焼き付けた。印画紙における繊維成形体の断面全体の重量を測定した。また,0.005〜0.5mm2 の空洞(大隙間)を目視で抽出し,それぞれを切り出して,その合計の重量を測定した。これらの比を求めることにより,大隙間の割合(面積比)を得た。さらに,上記の3箇所の断面についてそれぞれ大隙間の割合を算出し,その平均を算出した。
【0038】
本実験の繊維成形体はいずれも,前述のように,大隙間以外に多数の小隙間が形成されているものである。この実験の結果において,100%から繊維率と大隙間の割合とを引いた残りはこの小隙間が占める割合であると考えられる。なお本実験では,サンプルの断面形状を変形させないように,鋭利なカミソリ刃を用いて切断した。
【0039】
吸い上げ速度の比較は,各繊維成形体の垂直上方への液剤の吸い上げ時間を比較することによって行った。吸い上げ時間の測定方法は以下の通りである。下端10mmが液剤に浸漬するように各繊維成形体を垂直に保持し,液剤が上端(液面上80mm)に達するまでに要した時間を測定した。液剤としては,小林製薬株式会社製の消臭シャボン液を使用した。また,各実施例および比較例について,それぞれ5本ずつ実施し,その平均値を算出した。
【0040】
各実施例および比較例の繊維成形体について,その差異を中心に説明する。なお,本実験では,いずれのサンプルも直径8mmの円柱状に成形しているので,その円周長は約25mmである。従って,外径周長の1〜10倍の範囲は,約2.5〜25cmの範囲に相当している。
【0041】
<実施例1>は,体積比で,PE:PET=1:1の鞘芯型複合繊維(単繊維太さ2.2デシテックス)100%によって製造された,目付20g/m2 のスパンボンド不織布を,繊維流れ方向にスリット幅が10cmとなるように裁断したものを,繊維率が20%となるようにまとめ,熱成形した。
【0042】
<実施例2>〜<実施例7>については,それぞれ以下の点において<実施例1>と異なるものである。
<実施例2>は,スリット幅を3cmとしたものである。
<実施例3>は,スリット幅を20cmとしたものである。
<実施例4>は,繊維率を28%としたものである。
<実施例5>は,繊維率を16%としたものである。
<実施例6>は,目付が10g/m2 の不織布を使用したものである。
<実施例7>は,目付が30g/m2 の不織布を使用したものである。
【0043】
<実施例8>は,高融点成分がPPである不織布を用いた。それ以外の点では<実施例1>と同じ条件である。
<実施例9>は,高融点成分がPPであるとともに,鞘芯型熱融着複合繊維の短繊維(単繊維太さ2.2デシテックス,単繊維長さ51mm)100%による乾式不織布を用いた。それ以外の点では<実施例1>と同じ条件である。
<実施例10>は,<実施例9>のものと同じ短繊維30重量%に,ポリエステル繊維(単繊維太さ2.2デシテックス,単繊維長さ51mm)70重量%を混合した繊維材料による乾式不織布を用いた。それ以外の点では<実施例1>と同じ条件である。
【0044】
さらに,<比較例1>,<比較例2>として,体積比でPE:PET=1:1の鞘芯型熱融着複合繊維の短繊維(単繊維太さ2.2デシテックス,単繊維長さ51mm)100%のウェブをカード機によって開繊してスライバーを作成し,このスライバーの束を熱成形した。
<比較例1>は,繊維率を20%としたものである。
<比較例2>は,繊維率を30%としたものである。
【0045】
この実験の結果は,以下の表1の通りであった。なお,表中で,実施例2〜7においては,数値の前に「*」を付加した箇所が,実施例1との相違点である。実施例8〜10は,実施例1と不織布の材質が異なるものである。
【0046】
【表1】

【0047】
この表1から分かるように,大隙間の割合が約10%である実施例1が最も吸い上げ時間が短い。大隙間の割合が,それより少なくても多くても吸い上げ時間はやや長かった。吸い上げ時間が,90秒未満のものは良好な実施例であるといえるので,この実験によって実施例1〜10はいずれも良好な実施例であることが確認できた。一方,比較例1,2は,大隙間が無く,吸い上げ時間が良好といえる範囲より長かった。
【0048】
また,表1の結果から,スリット片21の裁断幅が外径周長の1〜10倍(ここでは,約2.5〜25cm),繊維率が15〜30%,目付が5〜50g/m2 のそれぞれ範囲内とした場合には,吸い上げ速度が良好な芯材12を成形できることが確認できた。また,実施例8〜10のように繊維材料を替えても,実施例1とほぼ同等の良好な結果が得られることが確認できた。
【0049】
以上詳細に説明したように本形態の繊維成形体によれば,不織布を裁断し,複数枚を熱成形によって一体化させている。特に,不織布を長尺状に裁断し,長手方向を合わせてまとめて熱成形すれば,適切な大きさの空洞(大隙間)を適切な個数だけ有する繊維成形体を形成することができる。このようにすることにより,細く成形しても,十分な液体の搬送能力を有し,吸い上げ速度の速い繊維成形体を得ることができた。
【0050】
さらに,本発明の繊維成形体は,筆記具ばかりでなく,液体を吸い上げてその先端部へ供給する種々の器具の芯材に適用可能である。例えば,図6に示すような液体供給具50において,液体Lを収容する容器51の内部から,液体Lを吸い上げる液芯52とすることもできる。例えば,芳香剤や消臭剤を放散させる放散器,防虫剤や殺虫剤を蒸散させる蒸散器,インクタンク用のインク吸蔵体,昆虫等のペットのためにえさとなる砂糖液や水を供給するえさ供給器,機械装置の摺動部材に潤滑油等を少しずつ供給して塗布する油塗布器等への適用が可能である。
【0051】
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば,サインペンや液体供給具の外形状や,そこに使用される繊維成形体の太さ等は,上記のものに限らない。また例えば,繊維を帯状にまとめたものを互いに熱融着性繊維によって段ボール状に接着した段ボール状不織布を用いれば,必ずしもスリット片に裁断する必要はない。また例えば,液体移動量が多く,サイホン効果による液体の移動にも適用可能であるので,高価な微量ポンプの代替品として利用することもできる。
【符号の説明】
【0052】
10 サインペン
12 芯材
20 不織布
21 スリット片
41 スリット片間隙間
50 液体供給具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着性繊維を含む不織布を棒状に加熱成形した繊維成形体において,
前記繊維成形体の軸方向に垂直な断面中に,断面積が0.005〜0.5mm2 の範囲内の大隙間と,断面積が0.005mm2 未満の小隙間とを含み,
前記繊維成形体の軸方向に垂直な断面の面積に対し,前記大隙間の断面積の合計が3〜30%の範囲内の割合を占めており,
前記繊維成形体の軸方向に垂直な断面50mm2 当たり,前記大隙間が15〜500個存在していることを特徴とする繊維成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維成形体において,
不織布を長尺状に裁断した複数のスリット片を,長手方向を互いに揃えて成形したものであり,
前記大隙間は,前記スリット片同士の間のスリット片間にできる隙間であり,
前記小隙間は,不織布を構成する繊維同士の間の繊維間にできる隙間であることを特徴とする繊維成形体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の繊維成形体において,
繊維率が15〜30%の範囲内であることを特徴とする繊維成形体。
【請求項4】
熱融着性繊維の不織布を長尺状に裁断した複数のスリット片を,長手方向を互いに揃えて配置し,
その配置した集合体を加熱成形して棒状の繊維成形体とすることを特徴とする繊維成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の繊維成形体の製造方法において,前記加熱成形により,
前記繊維成形体の軸方向に垂直な断面中に,断面積が0.005〜0.5mm2 の範囲内の大隙間と,断面積が0.005mm2 未満の小隙間とを含み,
前記繊維成形体の軸方向に垂直な断面の面積に対し,前記大隙間の断面積の合計が3〜30%の範囲内の割合を占めており,
前記繊維成形体の軸方向に垂直な断面50mm2 当たり,前記大隙間が15〜500個存在している状態とすることを特徴とする繊維成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の繊維成形体の製造方法において,
前記不織布として,目付が5〜50g/m2 の範囲内のものを使用することを特徴とする繊維成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項4から請求項6までのいずれか1つに記載の繊維成形体の製造方法において,
前記スリット片は,前記不織布を,形成しようとする繊維成形体の外径周長の1〜10倍の範囲内の幅に裁断したものであることを特徴とする繊維成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の繊維成形体を,インク含浸体として使用した筆記具。
【請求項9】
液体容器と,
前記液体容器から液体を吸い上げる吸い上げ芯とを有し,
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の繊維成形体を,前記吸い上げ芯として使用した液体供給具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−63914(P2011−63914A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217063(P2009−217063)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(591141289)アサヒ繊維工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】