説明

繊維改質用組成物

【課題】 天然繊維、半合成繊維、合成繊維又はこれらが複合された繊維製品に優れた吸湿性と吸熱性とを発現させ、清涼感と柔軟性とを持たせる繊維用改質組成物を提供する。
【解決手段】 繊維用改質組成物をポリビニルアルコールにビニルピロリドンがグラフト重合した重合体を含有してなるものとする。重合度が100〜4000であり、ケン化度が70〜100mol%であるポリビニルアルコールにビニルピロリドンがグラフト重合した、K値が12〜150である重合体を5重量%以上含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維、半合成繊維、合成繊維、又はこれらが複合された繊維製品に、吸湿性と吸熱性とを発現させて、清涼感を持たせるために使用される繊維改質用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下着やシャツ類のように地肌に直接触れる衣服には、綿や麻のようなセルロース繊維製のものが主に用いられている。ところがセルロース繊維製の衣服は、汗等の水分の吸収性が優れているため着心地がよい反面、一旦、汗や雨等で濡れてしまうと乾燥し難いため不快感を与えるという短所を有する。
【0003】
そこで、セルロース繊維に予めソルビトールのような親水性化合物とバインダーとの混合物を塗布し、吸熱性を付与して清涼感を持たせる改質処理が行われている。しかし、このような処理のされたセルロース繊維は、親水性化合物が洗濯によって洗い流され、清涼感が持続し難かった。また、セルロース繊維に予めアクリルモノマーを浸潤させて重合させて疎水性を付与し、吸水性を抑え、乾燥し易くする改質処理が施されることもある。しかし、このような処理のされたセルロース繊維は、吸熱性がないため清涼感が得られず、また柔軟性にも問題があった。
【0004】
一方、ポリエステル繊維のような合成繊維やそれを高比率で含む混紡でできた衣服は、汗等の水分の吸収性が低いため、蒸れ易く、不快感が生じ易い。そこで、吸水性化合物とバインダーとの混合物を塗布する改質処理や、吸水ポリマーを含浸させる改質処理が行われている。しかし、これにより吸水性は改善されるが、吸熱性はないため清涼感が得られず、柔軟性も劣っていた。
【特許文献1】特開2004−91949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、天然繊維、半合成繊維、合成繊維やそれらが複合された繊維製品に優れた吸湿性と吸熱性とを発現させ、清涼感と柔軟性とを持たせる繊維用改質組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、ポリビニルアルコールにビニルピロリドンがグラフト重合した重合体(以下、単にグラフト重合体ともいう)が目的とする繊維改質剤組成物を得る上で極めて有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明の繊維改質用組成物は、ポリビニルアルコールにビニルピロリドンがグラフト重合した重合体を含有してなるものとする。
【0008】
上記組成物において、重合度が100〜4000であり、ケン化度が70〜100mol%であるポリビニルアルコールにビニルピロリドンがグラフト重合した、K値が12〜150である重合体を5重量%以上含有することが好ましい。
【0009】
ポリビニルアルコールにビニルピロリドンがグラフト重合した重合体としては、ポリビニルアルコール溶液にビニルピロリドンを配合し、開始剤として過酸化水素又は有機過酸化物を用いて重合して得られたものを用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維改質用組成物によれば、衣服用生地である天然繊維、半合成繊維、合成繊維又はこれらが複合された繊維製品に、吸湿性と吸熱性とを付与することができる。従って、清涼感があり、快適な衣料が得られる。また、優れた柔軟性により、着心地も良好となる。この繊維は繰り返して洗濯しても、清涼感や柔軟性が保持可能である。さらに合成繊維であっても摩擦帯電し難いものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いるグラフト重合体の原料となるポリビニルアルコール(以下、PVAと表記する場合もある)は、重合度が100〜4000であることが好ましく、100〜3000であることがより好ましい。重合度が100未満であると吸熱性効果が低下し、4000を超えると吸水性が悪くなる場合があり好ましくない。
【0012】
ポリビニルアルコールのケン化度は70〜100mol%であることが好ましく、70〜99mol%であることがより好ましい。ケン化度が70mol%未満では摩擦帯電抑制効果が低下し、99mol%を超えると柔軟性が悪くなる場合がある。
【0013】
さらにグラフト重合体のK値が12未満では吸熱性効果が低下し、150を超えると柔軟性が損なわれる場合がある。
【0014】
グラフト重合体におけるビニルピロリドンの量はポリビニルアルコールに対して5〜900重量%であることが好ましい。5重量%未満であると充分な吸水性効果が得られず、900重量%を超えると、硬くなり、柔軟性が低下する傾向がある。
【0015】
本発明の分散剤は上記グラフト重合体を10重量%以上含有することが好ましい。10重量%未満であると本発明の目的とする効果が得られ難くなる。
【0016】
上記グラフト重合体は、ポリビニルアルコール溶液にビニルピロリドンを配合し、適当な開始剤を用いて重合する製造方法により得ることができる。
【0017】
開始剤としてはラジカル重合に通常用いられる過酸化水素又は有機過酸化物を用いることができる。有機過酸化物の例としては、tert−ブチルハイドロパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド等が挙げられる。反応方法及び反応条件は一般的なラジカル重合の例に従って選択すればよい。
【0018】
本発明の繊維改質用組成物を用いて繊維を改質する方法は特に限定されるものではないが、組成物を好ましくは水溶液にして、天然繊維、半合成繊維、合成繊維、またはこれらが複合された繊維のいずれかからなる繊維製品に湿潤させた後、乾燥させればよい。
【0019】
天然繊維、半合成繊維、合成繊維、又はこれらが複合された繊維の具体例としては、綿や麻のような天然セルロース繊維、レーヨンやキュプラのような再生セルロース繊維、天然または再生セルロース繊維と合成繊維との混紡等が挙げられる。
【0020】
本発明の繊維改質用組成物による繊維改質は、繊維原材、それを紡いだ糸、糸を製織した織物、それを縫製した衣服のいずれかの製造工程で施してもよい。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、「部」および「%」は、特に断らない限り「重量部」および「重量%」をそれぞれ意味する。
【0022】
[実施例1〜4,比較例1,2]
天然繊維製試験用布帛として、セルロース繊維製の生成り綿ニット天竺に次の精練漂白処理を施したものを作製し、合成繊維製試験用布帛としてポリエステル製トロピカルを用い、それぞれに以下の要領で繊維改質処理を施した。
【0023】
(天然繊維製試験用布帛の作製)
35%過酸化水素3g/L、苛性ソーダ1g/L、メタケイ酸ソーダ1g/L、精練剤であるライトステップSKY(共栄社化学(株)製の商品名)1g/L、及び繊維保護剤であるスレノンP−4871(共栄社化学(株)製の商品名)1g/Lの水溶液の濃度に調整した精練漂白浴で、生成綿ニット天竺を、浴比1:20、95℃で30分間、精練漂白処理した後、水洗いし、120℃で乾燥して、実施例1〜4および比較例1〜2に用いる天然繊維製試験用布帛を作製した。
【0024】
(合成繊維製試験用布帛の作製)
精練剤であるライトステップRUN(共栄社化学(株)製の商品名)2g/L、ソーダ灰1g/Lの水溶液の濃度に調整した精練漂白浴で、ポリエステル製トロピカルを浴比1:20、70℃で30分間、精練漂白処理した後、水洗いし、乾燥機により70℃で30分間乾燥して、実施例1〜4および比較例1〜2に用いる合成繊維製試験用布帛を作製した。
【0025】
(天然繊維製試験用布帛及び合成繊維製試験用布帛の繊維改質)
次の繊維改質剤1〜6が10%になるように水溶液を調製し、この水溶液に上記の天然・合成繊維製試験用布帛を浸漬し、この水溶液が100〜120%程度含漬した状態となるようにマングルで絞った布帛に、蒸気で一定時間加熱するパット−スチーム法を施した。次いで、湯洗い、水洗い、ソーピング、湯洗い、水洗い、乾燥の順で処理して、繊維改質された布帛を得た。
【0026】
繊維改質剤1:ポリビニルアルコール(PVA)(重合度200、ケン化度98−99mol%)にビニルピロリドン(VP)(対PVA 5.26wt%)をグラフト重合した、K値23、固形分97.1%のパウダー。
繊維改質剤2:PVA(重合度2400、ケン化度98−99mol%)にVP(対PVA 42.9wt%)をグラフト重合した、K値31、固形分98.5%のパウダー。
繊維改質剤3:PVA(重合度500、ケン化度72.5−74.5mol%)にVP(対PVA 150wt%)をグラフト重合した、K値40、固形分96.3%のパウダー。
繊維改質剤4:PVA(重合度3500、ケン化度87−89mol%)にVP(対PVA 900wt%)をグラフト重合した、K値94、固形分99.0%のパウダー。
繊維改質剤5:ポリビニルアルコール(重合度3500,ケン化度87−89mol%)のパウダー。
繊維改質剤6:ポリビニルピロリドン K−30 のパウダー。
【0027】
上記により繊維改質された天然繊維製及び合成繊維製布帛について、以下の要領で吸熱性(清涼感)及び柔軟性の評価試験を行った。また合成繊維製布帛については、吸水性試験と摩擦帯電性試験も行った。それらの結果を表1に示す。
【0028】
なお、以下における繊維改質された天然繊維製布帛および合成繊維製布帛の洗濯は、JIS L−0217 103の試験法に従い行った。すなわち、家庭用洗濯により、業務用洗剤(共栄社化学(株)製)2g/Lを用い、浴比1:30で、40℃にて50分間この繊維改質された布帛を洗濯し、5分間ずつ2回濯ぎ、脱水した後、乾燥機により110℃で5分間乾燥した。
【0029】
(吸熱性試験)
精練漂白処理がされただけの天然繊維製試験用布帛と、それが繊維改質された天然繊維製布帛で未洗濯のものおよび洗濯済のものとを、各々、順次半分に3回折り畳んで8層に重ね、熱風循環式乾燥機により、105℃で60分間乾燥した後、デシケータ中で24時間放置した。これらの各々の折り畳んだ中程に温度センサーを差し込み、温度30℃、相対温度90%に調整された高温高湿槽に入れた。この時、精練漂白処理がされただけの天然繊維製試験用布帛の温度と比較して、繊維改質された天然繊維製布帛で未洗濯のものと洗濯済のものとの温度がどの程度低くなっているか測定した。精練漂白処理がされただけの天然繊維製試験用布帛に比べ、繊維改質された天然繊維製布帛の温度が2℃以上低くて優れた吸熱性を示したものを◎、2℃未満の低い吸熱性を示したものを○、吸熱性を示さなかったものを×とする3段階で評価した。その結果を表1に示す。
【0030】
合成繊維製布帛についても同様に評価した。
【0031】
(柔軟性試験)
繊維改質された天然繊維製および合成繊維製の布帛で洗濯済のものの柔軟性について、目視による観察、および手による触感で調べた。
【0032】
(吸水性試験)
繊維改質された合成繊維製布帛に、水滴を垂らし、水が吸収される時間を測定した。
【0033】
(摩擦帯電性試験)
繊維改質された合成繊維製布帛について、20℃、湿度40%における摩擦帯電電圧を、ロータリースタティックテスター((株)京大化研製の商品名)により測定した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、本発明の繊維改質用組成物を用いて繊維改質された天然繊維製および合成繊維製の布帛は、洗濯前後とも吸熱効果および柔軟性が優れていた。さらに繊維改質された合成繊維製布帛は、吸水性に優れ、摩擦による静電気の帯電が抑制されているのが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の繊維改質用組成物は、各種衣類用繊維の改質に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールにビニルピロリドンがグラフト重合した重合体を含有してなる繊維改質用組成物。
【請求項2】
重合度が100〜4000であり、ケン化度が70〜100mol%であるポリビニルアルコールにビニルピロリドンがグラフト重合した、K値が12〜150である重合体を5重量%以上含有することを特徴とする、請求項1に記載の繊維改質用組成物。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールにビニルピロリドンがグラフト重合した重合体が、ポリビニルアルコール溶液にビニルピロリドンを配合し、開始剤として過酸化水素又は有機過酸化物を用いて重合して得られたものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の繊維改質用組成物。

【公開番号】特開2007−84944(P2007−84944A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272943(P2005−272943)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】