説明

繊維材料のパディング加工方法及び装置

【課題】本発明は、繊維材料を加工液に浸漬してパディング加工する場合に、均一に加工された繊維材料を得ることができ、加工剤のロスを削減可能なパディング加工方法及び装置を提供する。
【解決手段】加工液を貯留するパディング槽1に繊維材料を浸漬してニップロール4により加工液を均一に付与するパディング加工を行う場合、加工中におけるパディング槽1内の加工液Sの光強度を光学センサ20及び濃度測定部21で測定し、加工液Sの液量を液面センサ22及び液量測定部23で測定する。制御部30では、測定された光強度及び液量に基づいてパディング槽内の加工液の濃度及び液量を所定値にするために必要な加工濃縮液の補給量を算出し、補給タンク17から加工濃縮液Tを調製タンク15に補給して補給用加工液STを調製し、補給用加工液STをパディング槽1内に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料の染色仕上げ加工において、仕上げ剤等の加工剤をパディング加工する加工方法及び装置に関し、より詳しくは、均一に加工された繊維材料を得るにあたり、加工中の加工液の濃度及び液量を測定しながら濃度及び液量を調整する加工方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維材料の染色仕上げ加工において、繊維材料に撥水性、防炎性、堅牢度向上等の機能性を付与したり、風合いを調整したりすることを目的として、様々な加工剤による加工を行っている。その加工方法としては、繊維材料を、広げた状態で連続的に加工液に浸漬し、ニップロールにより加工液を付与した後、乾燥させる(いわゆるパディング加工)というものであり、乾燥にはヒートセッターを使用するのが一般的である。
【0003】
ここで、パディング加工の方法としては、乾燥状態の繊維材料を加工剤を含む液(加工液)に浸漬させるドライパッド加工と、濡れた状態の繊維材料を加工液に浸漬させるウェットパッド加工の2つが主として挙げられる。
【0004】
ドライパッド加工を行う場合、乾燥状態の繊維材料を連続的に加工液に浸漬させるため、パディング槽内の加工液中の加工剤の濃度が低下することはない。そのため、加工中に補給する加工液は、加工液中の加工剤の濃度が初期状態のものと同濃度であればよく、またパディング槽内の加工液が減少した液量分だけ補給すればよい。
【0005】
パディング加工を行う前の繊維材料は、多くの場合、染色などの湿潤処理を行うことにより濡れた状態にある。そのため、ドライパッド加工を行う場合には、加工前に一度繊維材料を乾燥させる必要があり、工程の増加およびコスト増加などの問題が生じるため経済的でない。
【0006】
一方、ウェットパッド加工を行う場合、濡れた状態の繊維材料に対して加工液を付与することができるため、ドライパッド加工のような加工前の乾燥工程を必要としない。
【0007】
しかし、濡れた状態の繊維材料にパディング加工を行うことによって、繊維材料が含んでいる水分がパディング槽内に持ち込まれるため、加工するにつれてパディング槽内の加工液の加工剤の濃度が低下するという問題がある。
【0008】
パディング加工における加工液の加工剤の濃度を一定に維持するためには、加工中に補給する加工液の加工剤の濃度を、加工液の加工剤の初期濃度よりも高濃度にして補給する必要がある。
【0009】
ところが、従来のウェットパッド加工では、加工中にパディング槽内の加工液の加工剤の濃度を測定及び調整するすべはなく、補給する加工液の加工剤の濃度及び補給する加工液量は作業者が目分量で決めていた。そのため、的確な濃度管理を行うことができず、繊維材料への加工液のつき方にムラができるといった品質問題や、加工液を必要量よりも過剰に追加することによる材料費のロスといった問題があった。
【0010】
一方、染色加工分野において、染色工程での染料濃度を制御するために、染料のスペクトル応答を測定することで染料濃度を決定し、染料濃度を連続的にモニター及び制御する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0011】
しかしながら、上記方法は可視領域に特定の吸収スペクトルを有するものに対してのみ使用できる方法であり、特に仕上げ加工に使用する一般的な加工液は、可視領域に特定スペクトルを有していない。そのため、仕上げ加工に用いる加工液に対しては、上記方法によって濃度制御を行うことは不可能であった。
【0012】
そこで、解決策として、加工液に対して紫外領域に特定吸収スペクトルを有する検出指示薬を投入し、加工液の吸光度を測定することにより加工液の仕上げ剤の濃度を算出し、加工液の仕上げ剤の濃度を制御する方法が提案されている(例えば特許文献2)。
【0013】
しかしながら、特許文献2に開示されている加工液の仕上げ剤の濃度の制御方法は、測定から補給までのタイムラグを考慮しておらず、加工液の仕上げ剤の濃度変化が大きくなる場合があるという問題があった。
【0014】
また、特許文献2に開示されている制御方法は、加工液量の管理はされておらず、実用面で不十分な方法であった。
【0015】
また、特許文献2に開示されている制御方法は、連続加工を行う過程でパディング槽内の加工液量が増減する場合がある。特に加工液量が減少した場合、繊維材料を加工液に十分浸漬させることが困難となり、繊維材料への加工剤の付与量が減少し、繊維材料を均一に加工することができないおそれがある。そのため、加工中にパディング槽内の加工液量が増減したとしても繊維材料を十分浸漬させることができるだけの多量の初期加工液量に設定しておく必要があり、そのために非常に大きなパディング槽が必要となる。したがって、このような制御方法を用いた場合、装置のスペース効率が悪くなり、また加工液を補充してパディング槽内の加工液濃度を均一化するための設備も大掛かりとなるなど、設備コストが高く経済的でない。
【0016】
また、加工終了時には加工液が多量に残り、残った加工液は廃棄されることからも経済的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平7−181133号公報
【特許文献2】特開平9−310269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加工液を貯留するパディング槽に繊維材料を浸漬してパディング加工する場合に均一に加工された繊維材料を得ることができ、加工剤のロスを削減することのできるパディング加工方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係るパディング加工方法は、加工液を貯留するパディング槽に繊維材料を浸漬してニップロールにより加工液を均一に付与するパディング加工方法において、加工中におけるパディング槽内の加工液の光強度及び液量を測定し、測定された光強度及び液量に基づいてパディング槽内の加工液の濃度及び液量を所定値にするために必要な加工濃縮液の補給量を算出し、算出された加工濃縮液の補給量に基づいて補給用加工液を調製し、調製した補給用加工液をパディング槽内に供給することを特徴とする。さらに、前記加工液には特定波長領域の光を吸収するインジケータが添加されており、加工中の加工液の特定波長領域の吸光度を測定することを特徴とする。
【0020】
本発明に係るパディング加工装置は、加工液を貯留するパディング槽と、パディング槽に浸漬された繊維材料に加工液を均一に付与するニップロールとを備えたパディング加工装置において、加工中にパディング槽内の加工液の光強度を測定する光強度測定手段と、加工中にパディング槽内の加工液の液量を測定する液量測定手段と、測定された光強度及び液量に基づいてパディング槽内の加工液の濃度及び液量を所定値にするために必要な加工濃縮液の補給量を算出する算出手段と、算出された加工濃縮液の補給量に基づいて補給用加工液を調製してパディング槽内に供給する供給手段とを備えていることを特徴とする。さらに、パディング槽に浸漬前又は浸漬後の繊維材料を脱水する脱水手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るパディング加工方法によれば、加工中のパディング槽内の加工液の加工剤の光強度及び液量を自動的に測定してパディング槽の加工液の濃度及び液量を所定値となるように補給用加工液を供給するため、均一に加工された繊維材料を得ることができ、加工剤のロスを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るパディング加工装置に関する概略構成図である。
【図2】図1で示すパディング加工装置についてパディング槽を矢印A方向から見た概略側面図である。
【図3】実施例1の加工結果をまとめた一覧表である。
【図4】実施例1に関する加工過程を示すグラフである。
【図5】比較例1の加工結果をまとめた一覧表である。
【図6】比較例1に関する加工過程を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明の加工方法において被加工材料となる繊維材料の素材は特に限定されるものでなく、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維;レーヨン、キュプラ等の再生繊維;ジアセテート、トリアセテート等の半合成繊維;ポリアミド(6ナイロン、66ナイロン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(カチオン染料可染型ポリエチレンテレフタレートを含む)、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン等の合成繊維などを挙げることができる。
【0025】
繊維材料が布帛(織物、編物、不織布等)などの形態を有する場合は、後述するパディング槽内の加工液の加工剤の濃度及び加工液の液量の減少を考慮すれば、目付が1000g/mであることが好ましく、50〜800g/mがさらに好ましい。
【0026】
また、繊維材料にパディング加工される加工剤も特に限定されるものでなく、例えば、撥水剤、柔軟剤、防炎剤、染料固着剤、耐光向上剤、黄変防止剤など一般的な加工剤を挙げることができる。こうした加工剤は、水で希釈され、必要に応じて加工助剤を混合した加工液として使用される。また、補給用の加工濃縮液は、パディング槽内に投入されて使用される加工液の初期設定された加工剤の濃度よりも高濃度に設定されている。加工濃縮液の濃度としては、加工液の初期濃度の2倍〜6倍に設定するとよい。2倍未満では加工濃縮液の補給量が多くなり、6倍を超えるとパディング槽内に供給した際に加工液と均一に混じり合わないおそれがある。
【0027】
加工液に光を透過させると、加工液に含まれる加工剤に特定の波長領域の光が吸収されるようになるため、吸収される波長領域(例えば、紫外線波長領域)の光強度を測定して加工剤の濃度を算出することができる。加工剤に特定波長領域の光を吸収する性質がない場合には、特定波長領域の光を吸収する物質からなるインジケータを予め加工液に添加しておくとよい。
【0028】
添加するインジケータは、紫外領域である200〜400nmの波長範囲内に特定のピークを有することが好ましく、さらには、200〜300nmの波長範囲内に特定のピークを有することが好ましい。インジケータがこうした波長範囲内に特定のピークを有していることにより、インジケータ添加によって生じる繊維材料への着色による色変化や堅牢度低下等の問題を抑制することができる。
【0029】
インジケータに使用する物質としては、上述の波長範囲内に特定のピークを有するものであれば特に限定するものではないが、なかでも芳香族化合物であることが好ましく、芳香族化合物のなかでは、特に、芳香族系スルホン酸塩が、加工液の仕上げ剤成分との相性がよい点や、繊維材料への着色を生じない点、堅牢度低下を生じさせない点、安全性の点などから好ましい。
【0030】
また、インジケータは、初期状態の加工液に対し、0.02〜0.20重量%で添加することが好ましい。添加量が0.02重量%未満であると、光強度のピークを検出できないおそれがある。また、添加量が0.20重量%を超えると、耐光堅牢度等を低下させるおそれがあり、好ましくない。
【0031】
図1は、本発明に係る実施形態であるパディング加工装置に関する概略構成図である。パディング加工装置は、加工液Sを貯留するパディング槽1を備えており、パディング槽1は、矢印Aの方向に延びる樋状に形成され、上方は開口している。パディング槽1の底面に連通する矢印A方向に配列された複数の排出管を介して循環管路10が接続されている。循環管路10は、パディング槽1の下方から上方に向かって配管されており、上方の端部には流出管11が接続されている。流出管11は、矢印A方向に直線状に延設されており、所定の間隔で穿設された流出口より加工液Sが流出するようになっている。
【0032】
循環管路10には、循環ポンプP1が設けられており、循環ポンプP1を作動させることで、パディング槽1内の加工液Sが循環管路10に排出され、循環管路10内に流入した加工液は循環管路10から流出管11に流通して流出口からパディング槽1内に戻る。こうして循環管路10によりパディング槽1内の加工液Sが循環するようになる。
【0033】
図2は、パディング槽1を矢印A方向から見た概略側面図である。流出管11には、パディング槽1の上方開口に架設された流出板12が設けられており、流出管11から流出した加工液Sは流出板12の表面を流れてパディング槽1内に流入するようになっている。
【0034】
パディング槽1内に貯留する加工液Sに長尺状の繊維材料Fを連続搬送して浸漬させるために、ガイドローラ2で搬送された繊維材料Fをパディング槽1内に設けられた複数のガイドローラ3でジグザグに搬送し、繊維材料Fを繰り返し加工液Sに浸漬させる。加工液Sが十分な量浸透した繊維材料Fをニップロール4で両側から圧接して搬送し、加工液Sを繊維材料Fに均一に付与するとともに余分な加工液Sを絞りとって流出板12に滴下させ再びパディング槽1に回収する。
【0035】
ガイドローラ2の間の繊維材料Fの搬送経路には脱水装置5が配設されており、繊維材料Fをパディング槽1内の加工液Sに浸漬する前に脱水装置5により脱水して繊維材料Fに含まれる水分をできるだけ除去する。浸漬前の繊維材料Fに含まれる水分が多いと、パディング槽1内の加工液Sに含まれる加工剤の濃度が変動しやすくなり、均一な加工剤の付与が難しくなる。浸漬前の繊維材料の含水率は、浸漬後の含水率の60%未満であることが好ましい。
【0036】
また、繊維材料Fを浸漬した後にニップロール4のような脱水装置により脱水することにより、繊維材料Fへの加工液Sの付与量のバラツキを抑えることができる。脱水後の繊維材料Fの含水率は80%以下とすることが好ましい。
【0037】
脱水装置としては、図示したニップロール4以外にも、真空脱水機、マングル等の連続脱水可能な装置であれば使用することができ、特に限定されない。
【0038】
循環管路10の循環ポンプP1の下流側には分岐配管13の両端部が接続されており、循環管路10を流通する加工液Sが分岐配管13に分流して流通し再び循環管路10に合流するようになっている。
【0039】
分岐配管13には、分岐配管13内を流通する加工液Sを透過する光を検知する光学センサ20が取り付けられている。濃度測定部21は、光学センサ20からの検知信号に基づいて加工液中の加工剤の濃度を測定するための装置で、加工液を透過する光について加工剤又はインジケータにより吸収される特定波長領域における光強度を測定するようになっている。測定する波長領域としては、紫外領域と可視領域、典型的には200〜800nmの波長領域において、一定波長範囲毎、例えば10nm毎に測定できるものであれば特に限定されないが、1回の測定時間はなるだけ短いものが好ましい。
【0040】
パディング槽1内には、図1に示すように、液面センサ22が設置されており、液面センサ22からの検知信号に基づいて液量測定部23がパディング槽1内に貯留する加工液の液量を測定するようになっている。液面センサとしては、磁気式、光学式、電極式、超音波式などがあるが、特に限定するものではない。液量の測定では、予めパディング槽1内の液面位置に対応する液量を測定しておけば、液面センサによりパディング槽1内の液面位置が検知されると、パディング槽1内の液量を算出することができる。
【0041】
パディング槽1の底面に連通する排出管が接続される循環管路10の管路部分を延設するように供給管路14が接続されている。供給管路14は、調製タンク15の底面に接続されており、調製タンク15は、加工濃縮液及び水を混合して補給用加工液STを調製するためのタンクで、加工濃縮液及び水を混合する際に撹拌するための撹拌器15aが取り付けられている。
【0042】
調製タンク15の上方には2本の補給管路16及び18の開口端が挿入されている。補給管路16は、補給ポンプP2及び流量計24が取り付けられており、その端部が補給タンク17の底面に接続されている。補給タンク17には補給用の加工濃縮液Tが貯留されており、補給ポンプP2を作動させると、補給タンク17内の加工濃縮液Tが補給管路16に流入して流量計24を通り、調製タンク15内に補給される。その際、調製タンク15内に補給された加工濃縮液Tの補給量は流量計24により計測される。
【0043】
補給管路18は、流量計25が取り付けられており、その端部が図示せぬ水の供給源に接続されている。補給管路18を流通する水は流量計25を通り、調製タンク15内に補給される。その際、調製タンク15内に補給された水の補給量は流量計25により計測される。
【0044】
制御部30は、濃度測定部21、液面測定部23、流量計24及び25からの測定値に基づいて循環ポンプP1及び補給ポンプP2、各管路及び各配管に設けられた開閉弁等を制御して加工液Sの補給を行う。
【0045】
次に、上述したパディング装置による加工処理について説明する。まず、パディング槽1に、予め設定された加工剤の濃度(初期濃度)を有する加工液Sを予め設定された液量(初期液量)投入する。この場合、調製タンク15に初期濃度及び初期液量に必要な加工濃縮液T及び水を投入して加工液を調製し、パディング槽1に供給するようにしてもよい。
【0046】
パディング槽1に加工液Sを投入後、繊維材料Fを搬送してパディング槽1内に導入し、加工液Sに繊維材料Fを繰り返し浸漬してニップロール4により絞り、繊維材料Fにパディング加工を行う。
【0047】
繊維材料Fは濡れた状態でパディング槽1に連続して導入されるので、パディング加工を連続して行っていくと、繊維材料Fに含まれる水分の影響や繊維材料Fに加工液Sが浸透していくことにより、パディング槽1内の加工液Sの加工剤の濃度及び加工液Sの液量が変動するようになる。
【0048】
加工液Sの加工剤の濃度の変動は、光学センサ20に検知されて濃度測定部21により光強度の変動として測定される。また、加工液Sの液量の変動は、液面センサ22に検知されて液量測定部23により測定される。
【0049】
濃度測定部21は、加工液Sを透過させた光について、所定の波長領域、例えば紫外波長領域である200〜400nmの波長領域における光強度を、一定波長、例えば10nm毎に測定する。制御部30は、測定された光強度に基づいて以下の式(1)により吸光度Aに変換する。
A=log10(I0/I)・・・(1)
ここで、I0は水の光強度であり、Iは加工液の光強度である。
【0050】
そして、算出された吸光度Aに基づいて、加工剤又はインジケータにより定まった、特有の、より限定された波長範囲における吸光度のピーク値を、加工剤の吸光度とする。ただし、加工剤に対応する波長範囲に吸光度のピーク値が検出されない場合には、その波長範囲の吸光度の平均値を、加工剤の吸光度とする。
【0051】
パディング加工の開始時点から、循環ポンプP1を作動させてパディング槽1内の加工液Sを循環管路10内に循環させながら分岐配管13にも導入して、光学センサ20及び濃度測定部21により常時加工液Sの光強度を測定して加工液Sの吸光度を算出する。
【0052】
初期設定での加工液Sの光強度及び吸光度をI1及びA1、加工中のパディング槽1内の加工液Sの光強度及び吸光度をIn及びAnとすると、加工中の加工液Sの加工剤の濃度Cn[%]は、下記式(2)により求められる。
n[%]=(An/A1)×C1[%]・・・(2)
ここで、C1は、加工液Sの加工剤の初期濃度である。また、A1及びAnは、I1及びInを式(1)に導入することにより求める。
【0053】
次に、制御部30は、パディング槽1内の加工液Sの加工剤の濃度及び加工液Sの液量の変動に対応して、必要となる補給用加工液STを調製するための加工濃縮液T及び水の補給量を算出する。
【0054】
まず、加工中のパディング槽1内の加工液Sの液量Vn[リットル]が加工液Sの初期液量V1[リットル]未満の場合には、下記式(3)及び(4)より加工濃縮液T(加工剤の濃度X1[%])の補給量Rn[リットル]と水の補給量Wn[リットル]を算出する。
n=Kr×{(V1×C1/100)−(Vn×Cn/100)}/(X1/100)・・・(3)
n=Kw×{(V1−Vn)−Rn/Kr}・・・(4)
ここで、Krは加工濃縮液Tの補給係数であり、Kwは、水の補給係数である。また、インジケータを使用する場合の選択吸収係数もKrに含まれる。
【0055】
補給係数Kr及びKwは、それぞれ測定タイミング、濃度及び液量等のパラメータに応じてあらかじめ設定することができる。例えば、光強度及び液量を測定してから補給用加工液STを調製してパディング槽1内に供給するまでにタイムラグがあり、その間に光強度及び液量がさらに低下するが、補給係数を1以上に設定しておけば、タイムラグによるパディング槽1内における加工液Sの加工剤の濃度及び加工液の液量の低下を抑えることができる。
【0056】
加工処理中のパディング槽1内の加工液Sの液量Vnが加工液Sの初期液量V1以上の場合には、下記式(5)より加工濃縮液Tの補給量Rnを算出する。この場合、パディング槽1内の加工液Sの液量の増加を抑えるために、水の補給は行わない。
n=Kr×{(Vn×C1/100)×(C1−Cn)/C1}/(X1/100)・・・(5)
【0057】
そして、制御部30は、上記の式により算出された加工濃縮液Tの補給量Rnに基づいて補給ポンプP2を作動させて補給タンク17から調製タンク15に加工濃縮液Tを送給し、水の補給量Wnに基づいて補給管路18から調製タンク15に水を送給する。調製タンク15内に導入された加工濃縮液T及び水は撹拌されて補給用加工液STを調製し、調製した補給用加工液STは、供給管路14を通り、循環管路10に送給される。循環管路10には常時パディング槽1内の加工液Sが循環しているため、補給用加工液Sが合流して加工液Sと混合しながら循環していき、パディング槽1内の加工液Sの加工剤の濃度及び液量の変動を抑えるようになる。
【0058】
加工液Sの濃度及び液量の測定タイミング並びに補給用加工液STの補給タイミングは、一定時間ごとに繰り返すか、またはパディング槽1内の液量が一定量減少した場合に繰り返すか、いずれの方法でも特に限定されない。ただし、加工開始直後の加工液Sの濃度低下及び加工液の液量低下を極力抑えるために、加工開始後1分以内に1回目の測定を行い、パディング槽1内に必要な量の補給用加工液の供給する補給動作を行う。
【0059】
2回目以降の測定及び補給動作については、一定時間ごとに繰り返すか、またはパディング槽1内の液量が一定量減少した場合に繰り返すことにより、加工液の加工剤の濃度及び加工液の液量を自動制御することができる。
【0060】
例えば、1回目の測定を加工開始後1分で行って補給動作を行い、2回目以降の測定を3分毎に行って補給動作を行う場合、1回目の補給動作の補給係数Kr及びKwを4、2回目以降の補給動作の補給係数Kr及びKwを2に設定しておけば、測定から補給動作までのタイムラグによるパディング槽1内における加工液の濃度低下及び液量低下を抑えられる。
【0061】
測定及び補給動作を一定時間ごとに繰り返す場合、加工液の光強度を測定する間隔は2〜5分ごとに測定することが好ましい。測定間隔が2分未満であると、補給用加工液を供給したパディング槽内の加工液の濃度が均一になっていないため、測定時に誤差が生じるおそれがある。また、測定間隔が5分を超えると、その間に加工液の加工剤の濃度が大きく変動し、連続してパディング加工を行う際に加工液の加工剤の濃度のバラツキが大きくなるため、パディング加工した製品の品質等にバラツキが生じるおそれがある。
【0062】
ただし、測定間隔は、加工条件(加工速度、生地の目付け、加工液の液量の減少速度、生地に含まれる水分量等)や製品に求められる加工品質の程度などによって適宜設定でき、測定間隔が5分を超える場合であっても加工液の加工剤の濃度が著しく低下しない場合には、それ以上の測定間隔で設定することも可能である。
【0063】
また、測定及び補給動作をパディング槽内の液量が一定量減少するごとに繰り返す場合、パディング槽内の液量が、初期液量の85〜95%に減少するごとに測定することが好ましい。
【0064】
パディング槽内の液量が初期液量の95%を超えた状態では、補給用加工液の供給直後でパディング槽内の濃度が均一になっていないため、測定時に誤差が生じるおそれがある。パディング槽内の液量が初期液量の85%未満になると、加工液の加工剤の濃度が大きく変動して、連続してパディング加工を行う際に加工液の加工剤の濃度のバラツキが大きくなるため、加工した製品の品質等にバラツキが生じるおそれがある。
【0065】
なお、パディング槽の容量は、最終加工品の性能を満たすために必要な加工液の濃度の変動許容範囲、加工条件(加工速度、繊維材料の重量、パディング加工前後の繊維材料の含水量及び加工液の付与量の差、測定間隔)などを考慮し、適宜選択することができる。パディング槽の設置スペースのコンパクト化、加工終了後の加工液の廃棄量の減少、加工液の濃度を均一化するための時間の短縮化を考慮すれば、パディング槽及び循環管路内の加工液の総液量は400リットル以下が好ましい。
【0066】
また、パディング加工の加工速度は特に限定するものではないが、生産性、繊維材料への加工液の付与量の変動及びパディング槽内の加工液の濃度変化を考慮すれば、5〜50m/分であることが好ましく、さらには10〜30m/分であることが好ましい。
【0067】
また、繊維材料への加工液の付与量の変動及びパディング槽内の加工液の濃度変化を抑えるために、濃度の測定から補給動作を行ってパディング槽内の加工液の濃度が均一になるまでにかかる時間が、できるだけ短いことが好ましい。具体的には、濃度の測定からパディング槽内の加工液の濃度が均一になるまでの時間は2分以内が好ましい。その際に補給用加工液の調製にかかる時間ができるだけ短いほうが好ましい。
【0068】
さらに、繊維材料への加工液の付与量の変動及びパディング槽内の加工液の濃度変化を抑えるために、補給用加工液がパディング槽内に供給された後にパディング槽内全体の加工液の濃度がなるべく早く均一になることが好ましい。補給用加工液の供給方法としては特に限定するものではないが、パディング槽の長手方向に沿って形成された複数の供給口から補給用加工液を投入すると、パディング槽内全体に満遍なく補給用加工液を供給できる点で好ましく用いられる。
【0069】
さらに、パディング槽内における加工液の加工剤の濃度を均一に保持して正確に光強度を測定するには、分岐配管においてパディング槽内の加工液をできるだけ速く循環することが好ましく、具体的には、パディング槽内の加工液の液量以上の流量速度で循環させることが好ましい。加工液を循環させる流量速度を高めるためには、パディング槽下部に4ないし5つ以上の複数の排出口を設けてパディング槽内の加工液を循環させることが好ましい。
【0070】
また、循環させた加工液を再びパディング槽内に流入させる場合には、加工液をパディング槽内全体に満遍なく流入することが好ましい。加工液の具体的な流入方法としては特に限定するものではないが、パディング槽の長手方向及び幅方向に複数の流入口を設けて加工液を流入すると、パディング槽内全体に満遍なく加工液を流入できる点で好ましく用いられる。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
繊維材料として、110dtexのナイロン100%平織物(1反が30.0kg/50mの布帛を、42反)を準備し、2台の液流染色機を用いて、以下に示す処方1の組成の染液により21反ずつ最高染色温度100℃で30分間、分散染色を行った。
【0072】
<処方1>
Aminiyl Yellow FD−3RL 0.3%owf
(酸性染料;住友化学工業株式会社製)
Aminiyl Red FD−3BL 0.3%owf
(酸性染料;住友化学工業株式会社製)
Aminiyl Blue FD−GL 0.3%owf
(酸性染料;住友化学工業株式会社製)
酢酸 0.5cc/リットル
ここで、[owf]は、[on weight fabric]の略である。
【0073】
その後、染色残液を排水し、常法により水洗を行った後、布帛を濡れた状態で2台の染色機より2台の台車に振り落として積載し、その後更に42反を繋げて布帛長2100mとしたものを1台の台車に振り落として2mの高さに積載し、6時間台車を放置した。
【0074】
なお、6時間後の台車に積載した布帛の最上反末の含水率は15%、台車底部の最下反末の含水率は150%と、布帛内に含水率のバラツキが生じていた。
【0075】
その後、濡れた状態で図1に示すパディング加工装置(光強度の測定から50リットルの補給用加工液を補給した場合にパディング槽内の加工液の濃度が均一化するまでの時間が2分間となるようにポンプ能力及び配管経路を設定したもの)により以下に示す加工条件と加工剤処方でパディングを行った後、ヒートセッターにより170℃で90秒間熱セット処理を行った。実施例1によるパディング加工の結果を図3及び図4に示す。
【0076】
<加工条件>
使用する総液量:300L
加工速度:30m/分(加工時間:70分)
パディング槽前脱水装置(真空脱水機)による脱水後の生地含水率:15〜40%
パディング槽後脱水装置(マングル)による脱水後の生地含水率:70%
<加工剤の使用条件>
サンライフTN−8(日華化学株式会社製、多価フェノール・ホルマリン重縮合物、固形分43%水溶液)
パディング槽内での初期濃度:0.20%ows
補給タンク内での加工濃縮液の濃度:0.60%ows
ここで、[ows]は、[on weight solution]の略である。また、加工剤の濃度は、紫外波長領域262nmの吸光度のピーク値を測定値とした。
<測定及び補給動作に関する設定条件>
(光強度測定間隔)
1回目1分(補給係数Kr=4、補給係数Kw=4)
2回目以降3分(補給係数Kr=2、補給係数Kw=2)
【0077】
(比較例1)
実施例1と同様の繊維材料を、実施例1と同様の処方により染色、積載、放置した後、特許文献2の補給制御方法に基づき、実施例1と同様の加工条件と加工剤の濃度でパディング加工を行った。比較例1によるパディング加工の結果を図5及び図6に示す。
<補給制御方法>
(A0>Anの場合)
加工濃縮液の補給量[リットル]=(A0−An)/A0×V×1/K1・・・(6)

(A0<Anの場合)
水の補給量[リットル]=(An−A0)/A0×V・・・(7)
ここで、
0:パディング槽内における初期設定状態の加工液の吸光度
n :加工処理中のパディング槽内における加工液の吸光度
V:循環する加工液の総量[リットル]
1:加工濃縮液の濃度に対する加工液濃度の比率
【0078】
実施例1は、加工液の初期濃度に対する加工液の濃度変化が±5%以内で、加工液の液量変化も±10%以内であり、安定したパディング加工が行われている。これに対して、比較例1では、初期濃度及び初期液量を上回る場合もあり、変動幅が大きくなっている。そのため、実施例1の方が、繊維材料に対して均一で良好なパディング加工を安定して行うことができる。
【0079】
また、比較例1と比較して、実施例1では、加工終了後の加工液の残量も少なく、ロスの少ない加工が可能となっている。
【符号の説明】
【0080】
1 パディング槽
2 ガイドローラ
3 ガイドローラ
4 ニップロール
5 脱水装置
10 循環管路
11 流出管
12 流入板
13 分岐配管
14 供給管路
15 調製タンク
16 補給管路
17 補給タンク
18 補給管路
20 光学センサ
21 濃度測定部
22 液面センサ
23 液量測定部
24 流量計
25 流量計
30 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工液を貯留するパディング槽に繊維材料を浸漬してニップロールにより加工液を均一に付与するパディング加工方法において、加工処理中におけるパディング槽内の加工液の光強度及び液量を測定し、測定された光強度及び液量に基づいてパディング槽内の加工液の濃度及び液量を所定値にするために必要な加工濃縮液の補給量を算出し、算出された加工濃縮液の補給量に基づいて補給用加工液を調製し、調製した補給用加工液をパディング槽内に供給することを特徴とするパディング加工方法。
【請求項2】
前記加工液には特定波長領域の光を吸収するインジケータが添加されており、加工中の加工液の特定波長領域の吸光度を測定することを特徴とする請求項1に記載のパディング加工方法。
【請求項3】
加工液を貯留するパディング槽と、パディング槽に浸漬された繊維材料に加工液を均一に付与するニップロールとを備えたパディング加工装置において、加工中におけるパディング槽内の加工液の光強度を測定する光強度測定手段と、加工中におけるパディング槽内の加工液の液量を測定する液量測定手段と、測定された光強度及び液量に基づいてパディング槽内の加工液の濃度及び液量を所定値にするために必要な加工濃縮液の補給量を算出する算出手段と、算出された加工濃縮液の補給量に基づいて補給用加工液を調製してパディング槽内に供給する供給手段とを備えていることを特徴とするパディング加工装置。
【請求項4】
パディング槽に浸漬前及び浸漬後の繊維材料を脱水する脱水手段を備えることを特徴とする請求項3に記載のパディング加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−242258(P2010−242258A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92689(P2009−92689)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【出願人】(592037125)セーレン電子株式会社 (5)
【Fターム(参考)】