説明

繊維材料の染色方法

【課題】本発明は、均染性に優れた染色物を、再現性よく、短時間に得ることができる繊維材料の染色方法を提供することを目的とする。
【解決手段】染色槽1内の染液を循環管路10内に引き込み、熱交換器11により温度調整をしながら染液を循環させながら布帛を染液に浸漬して染色処理を行う。染色中の染液を濃度測定装置23に循環させて染液濃度として染液の可視波長領域における光強度が測定される。そして、複数の波長範囲における測定値に基づいて繊維材料に対する染料の染着率及び染着速度を算出し、算出された染着率及び染着速度に基づいて染色条件を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料の染色方法に関し、より詳しくは、均一に染色された繊維材料を得るに当り、染色中の染液の染料濃度を測定しながら染色条件を制御する染色方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糸や布帛などの繊維材料を工業的に染色する場合、まず、少量の繊維材料を試験染色機を用いて染色し、得られた染着挙動の結果から、染色温度や昇温速度、染色の終点など、量産染色機における染色条件を設定していた。しかしながら、試験染色機と量産染色機との間では、繊維材料と染液の物理的な接触方法の違いにより染着挙動が異なり、目標とする色が得られなかったり、染め斑が発生したりするなど、好ましくない結果を招くことがあった。
【0003】
このような問題に対し、繊維材料を染色するに際し、染色中の染液の染料濃度(以下、「染液の染料濃度」を単に「染液濃度」という場合がある)を、ハロゲン光、色素レーザー、ガスレーザーなどの光源を用い連続的に光学密度を測定することにより、繊維材料に対する染料の染着率を推定算出して、目標とする色になるように染色条件を制御する染色方法が提案されている(例えば特許文献1〜3)。
【0004】
ここで、用いられる染料について補足すると、様々な色の染色物を得るためには、通常、複数の異色染料を配合、調色して、所望の色に対応している。この配合染色に用いられる染料としては、黄色系、赤色系及び青色系のいわゆる三原色染料が推奨される。均染性に優れた染色物を再現性よく得るには、染着速度の揃った染料を選択して組み合わせる必要があるが、このような三原色を選択することは必ずしも容易でない。特許文献1〜3に記載の染色方法は、三原色として用いられる黄色系、赤色系及び青色系染料のそれぞれの染着速度にまで配慮するものではなく、したがって、染め斑の問題を依然として解決できなかった。また、これらの方法は、昇温時の染色条件のみを制御するもので、染着率が平衡に達した時点の制御や、染着完了後の水洗の制御は行われておらず、時間やエネルギーを浪費する場合があった。
【特許文献1】特公昭61−42021号公報
【特許文献2】特開昭64−6164号公報
【特許文献3】特開平5−98557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、均染性に優れた染色物を、再現性よく、短時間に得ることができる繊維材料の染色方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る繊維材料の染色方法は、繊維材料を染液に浸漬して所定の染色条件に基づいて染色処理を行う繊維材料の染色方法であって、染色中の染液の可視波長領域における光強度を測定し、複数の波長範囲における測定値に基づいて繊維材料に対する染料の染着率及び染着速度を算出し、算出された染着率及び染着速度に基づいて染色条件を制御することを特徴とする。さらに、染色中の染液の可視波長領域における吸光度を測定することを特徴とする。さらに、前記波長範囲を400〜500nm、500〜600nm及び600〜700nmに設定して各波長範囲における吸光度のピーク値又は平均値に基づいて染着率及び染着速度を算出することを特徴とする。さらに、各波長範囲について算出された染着速度のうち最も速い染着速度に基づいて昇温速度を制御することを特徴とする。さらに、酸性染料の染液について染着率が80%以上となった時点で染液のpHを下げて染着速度を制御することを特徴とする。さらに、染着速度が0.2%/分以下となった時点で染液の冷却に関する制御を行うことを特徴とする。さらに、染色処理後の水洗処理中の水洗液の染料濃度が、初期の染液の染料濃度に対して3.0%以下となった時点で水洗処理を停止するように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る繊維材料の染色方法によれば、均染性に優れた染色物を、再現性よく、短時間に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0009】
本発明の染色方法において被染色材料となる繊維材料の素材は特に限定されるものでなく、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維;レーヨン、キュプラ等の再生繊維;ジアセテート、トリアセテート等の半合成繊維;ポリアミド(6ナイロン、66ナイロン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(カチオン染料可染型ポリエチレンテレフタレートを含む)、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン等の合成繊維などを挙げることができる。その形態も特に限定されるものでなく、例えば、原綿、糸条(紡績糸、フィラメント糸等)、布帛(織物、編物、不織布等)などの形態が挙げられる。
【0010】
また、用いられる染料も特に限定されるものでなく、例えば、分散染料、酸性染料(金属錯塩染料を含む)、反応性染料、直接染料、カチオン染料(分散型カチオン染料を含む)などを挙げることができる。染料は、繊維素材に対応した染料を選択する必要がある。これら染料と、各種染色助剤、および水の混合物が染液となる。
【0011】
本発明の染色方法を実施するための染色機としては、公知の染色機を用いることができる。例えば、液流染色機、ジッガー染色機、ビーム染色機、チーズ染色機、かせ染め染色機、パッケージ染色機等が挙げられる。こうした染色機に染色中の染液の光強度に基づいて染料濃度を測定する測定装置を取り付け、測定装置から得られる測定値に基づいて染着率及び染着速度を算出して染色条件を制御しながら染色処理を行う。
【0012】
図1は、光強度の測定装置を取り付けた液流染色機に関する概略構成図である。この例では、染色機は、染色槽1を備えており、染色槽1の内部には染液が滞留する滞留部2が設けられている。また、染色槽1には搬送管路3が接続されており、布帛といった繊維材料Mが滞留部2から搬送管路3を通って循環しながら搬送されるようになっている。繊維材料Mは吐出部3aで染液を噴射され、繊維材料Mを搬送する場合には、染色槽1内に設けられたリール4に繊維材料Mを巻回し、リール4を図示せぬ駆動モータ等で回転駆動させて搬送される。繊維材料Mは滞留部2では染液に浸漬された状態で搬送されていき、染色処理が行われるようになっている。
【0013】
染色槽1の底部には吸入口5及び6が設けられており、吸入口5には配管10aが接続され、吸入口6には配管10bが接続されている。そして、2つの配管10a及び10bは主配管10cに合流するように接続されている。主配管10cには、循環ポンプP1及び熱交換器11が接続されており、熱交換器11には戻し配管10dが接続され、戻し配管10dを介して搬送管路3の吐出部3aに接続されている。
【0014】
そして、配管10a及び10b、主配管10c並びに戻し配管10dが循環管路に相当するもので、染色槽1の滞留部2に滞留する染液は循環ポンプP1により吸入口5及び6から吸引されて配管10a及び10b、主配管10cに流入し、循環ポンプP1を通過して熱交換器11から戻し配管10dに流出して染液が吐出部3aから吐出されるようになる。染液の吐出により搬送管路3内に液流が発生し、繊維材料Mを搬送管路3内に引き込むように作用する。そのため、繊維材料Mが液流とともに搬送されて滞留部2から搬送管路3内を連続して循環するようになる。
【0015】
熱交換器11は、循環管路内を流通する染液の温度を調整する装置で、高温蒸気又は冷水を用いて染液を加熱又は冷却する。
【0016】
戻し配管10dには、分岐配管20aが接続されており、分岐配管20aは染液貯留部21に接続されている。染液貯留部21は密閉タンクからなり、その上蓋21aを貫通するように分岐配管20aの開口端部が挿入固定されている。また、染液貯留部21の底部には、排出口21bが形成されており、排出口21bには配管20bが接続されている。配管20bには、ポンプP2、加温装置22及び濃度測定装置23が接続され、濃度測定装置23には戻し配管20cが接続され、戻し配管20cを介して配管10bに接続されている。
【0017】
そして、戻し配管10dから流入した染液は分岐配管20aを流通して染液貯留部21に一旦貯留された後底部の排出口21bから配管20bに流出して加温装置22及び濃度測定装置23を通過して戻し配管20cから配管10bに戻されるようになっている。
【0018】
また、戻し配管20cには帰還配管20dが接続され、帰還配管20dは染液貯留部21の上蓋を貫通するように挿入固定されている。
【0019】
戻し配管10dには、別の分岐配管30a及び30bが接続されており、分岐配管30aは、染液貯留部21の上蓋を貫通するように挿入固定されている。分岐配管30bは、染料タンク31に接続されている。染料タンク31は、染料を溶解させて染料溶解液を生成し、この染料溶解液を染色槽へ供給するためのタンクで、底部には排出口31aが設けられている。そして、排出口31aには配管30cが接続されており、配管30cには、ポンプP3が接続されて分岐配管30aに合流するように接続されている。配管30cの合流位置から染液貯留部21側には流量計32が分岐配管30aに接続されている。
【0020】
また、配管30cには、ポンプP3に対して染料タンク31とは反対側において戻し配管30dが接続されており、戻し配管30dは配管10bに接続されている(図1では、戻し配管30dのA−A間が繋がっている)。
【0021】
配管10bには、配管40を介してpH調整装置41が接続されており、染液のpHを調整するために、酸性溶液又はアルカリ性溶液が適宜投入される。また、染色槽1には配管50を介して給水装置51が接続されており、染色処理や、その後の水洗処理等に染色槽1内に給水するようになっている。
【0022】
染液貯留部21は、ステンレス等の金属製で1.0MPa程度の耐圧性を備えているものが好ましい。必要に応じて加温機能を備えるようにしてもよい。
【0023】
加温装置22は、染液貯留部21及び濃度測定装置23の間を染液が循環する場合に所定の温度条件を設定するために用いるもので、例えば、熱交換装置を用いて冷却水や蒸気により循環する染液の温度設定を行うことができる。
【0024】
濃度測定装置23は、染液濃度を測定するための装置で、染液の可視波長領域における光強度を測定する装置が採用される。
【0025】
制御装置100は、染色中の染液が流通する管路等に設置した温度センサ及びpHセンサ(図示せず)からの検知信号、濃度測定装置23からの測定値に基づいて熱交換器11、pH調整装置41、各ポンプ、各配管に設けられた開閉弁等を制御して染色条件制御を行う。制御結果等については表示パネル101に表示される。表示パネル101は、タッチパネルを用いて操作入力装置と兼用させてもよい。
【0026】
なお、染色条件の制御としては、染色中の昇温速度の制御といった染色処理の制御の外に、初期の染液の調製といった前処理や染色後の冷却及び水洗といった後処理の制御も含まれ、染色処理に関わる一連の処理に関する制御が相当する。
【0027】
次に、上述した染色機による染色処理工程について説明する。図2は、染色処理前に初期の染液濃度を測定する場合の染液の流路を示す説明図である。まず、染色槽1に、水、染色助剤、及び繊維材料Mを投入する。そして、開閉弁12を開いた状態で循環ポンプP1を駆動して循環管路に染色槽1内の染色助剤を含む水を循環させ、開閉弁33を開く。開閉弁33を開くことで分岐配管30aに染色助剤を含む水を流入させ、指定量を流量計32で測定し、染液貯留部21に供給する。指定量を供給し終わった時点で開閉弁33を閉じる。次に、開閉弁34を開いてポンプP3を駆動し、配管30cに染料タンク31内の染料溶解液を導入して分岐配管30aに合流させ指定量を流量計32で測定し、染液貯留部21に供給する。指定量を供給し終わった時点で開閉弁34を閉じる。染液貯留部21に供給する染色槽1内の染色助剤を含む水の量と染液貯留部21に供給する染料タンク31内の染料溶解液の量の割合を、染色槽1内の染色助剤を含む水の量と染料タンク31の染料溶解液の量の割合と同じになるように調整する。
【0028】
そして、ポンプP2を一定流量で駆動して染液貯留部21内の染液を吸入して配管20bから濃度測定装置23に通過させる。戻し配管20cに接続された帰還配管20dに設けられた開閉弁26を開き、濃度測定装置23を通過した染液を染液貯留部21に戻す。この操作により染料、染色助剤と水は均一に混合希釈された染液となる。そのため、染液貯留部21内の染液を濃度測定装置23に循環させて初期の染液濃度を測定することができる。
【0029】
初期の染液濃度を測定した後、開閉弁35を開いて染料タンク31内の染料溶解液を戻し配管30dに流入させ、戻し配管30dに設けた開閉弁36を開き配管10bに導入する。配管10bに導入された染料溶解液は循環管路内の染色助剤を含む水と混合して染色槽1内に流入していく。また、帰還配管20dの開閉弁26を閉じて戻し配管20cの開閉弁25を開き、染液貯留部21内の染液を濃度検知装置23に通過させて配管10bに戻す。
【0030】
以上のように、染料タンク31内の染料溶解液を染色槽1内に投入する前に投入後の初期の染液濃度を正確に測定できるので、以後の染色条件制御を正確に行うことができる。特に、酸性染料や直接染料のように、繊維材料と接触した時点から繊維材料に対する染着が始まるような染料の場合にも、正確に染着率を算出しながら染色条件を制御できる。
【0031】
図3は、循環管路内に染色槽1内の染液を循環させて染色処理を行う場合の染液の流路を示す説明図である。図3では、染液の流通する流路を実線で描画している。この場合には、循環管路の戻し配管10dに設けられた開閉弁12を開いて循環ポンプP1を駆動することで、染色槽1内の染液を循環管路内に引き込み、熱交換器11により温度調整をしながら戻し配管10dから染液を搬送管路3内に吐出して染液を循環させる。
【0032】
また、分岐配管20aに設けられた開閉弁24及び戻し配管20cに設けられた開閉弁25を開いて、戻し配管10dから一部の染液を分岐配管20aに分岐させて流入させる。流入した染液は染液貯留部21内に流れ込んで一旦貯留される。貯留された状態の染液は、内部に混入した気泡が染液貯留部21内の上部空間に逃げて除去されるようになる。染液貯留部21には図示せぬ液面センサが設けられており、染液の流入により液面が所定の高さまで上昇すると開閉弁24を閉じて染液の供給を止める。これと同時にポンプP2を駆動して底部の排出口から染液を流出させる。次に液面が所定の下限の高さまで低下すると開閉弁24を開いて、染液が供給される。ポンプP2は、一度駆動が始まってからは、常時一定流量で染液を濃度測定装置23に流通させ、戻し配管20cに設けられた開閉弁25を開いて配管10bに戻す。
【0033】
染色槽1内の染液の昇温制御は、染料溶解液の投入が完了した時点から開始する。このときの昇温速度は予め設定され、好ましくは0.2〜1.0℃/分である。そして、濃度測定装置23に染色中の染液を循環させながら染液濃度をリアルタイムで測定する。制御装置100は、濃度測定装置23から得られる初期の染液濃度及び染色中の染液濃度から、繊維材料に対する染料の染着率及び染着速度をリアルタイムで算出する。
【0034】
なお、この例では、染色槽1内に投入する前の染料溶解液を希釈して濃度測定装置23により測定した測定値を初期の染液濃度としているが、染料溶解液を染色槽1内に投入した直後の染液を測定するようにしてもよい。
【0035】
染料によっては、特に酸性染料や直接染料では、繊維材料と接触した時点から、繊維材料に対する染料の染着が始まってしまうため、染色槽1内に染料と繊維材料を投入した状態で濃度測定を行っても、初期段階における染液濃度を正確に測定することができず、正確な染着率を算出することができない。特に、淡色染めや中色染めで染着率を正確に算出できないと、目標とする色に染めることが難しいという問題があった。これに対し、染色槽に投入する前の染料溶解液を希釈し、このものの濃度測定を行うようにすれば、初期段階における染液濃度を正確に測定することが可能となる。
【0036】
なお、水、染色助剤、および染料溶解液が投入されている染色槽に繊維材料を投入することは、作業性などの点から現実的でない。一方、分散染料など、繊維材料との接触だけでは染着がほとんど起こらないような染料では、染色槽に染料と繊維材料を投入した状態で濃度測定を行っても、然程の誤差は生じない。もちろん、このような染料であっても、繊維材料への吸着は皆無ではないため、染色槽に投入する前の染料溶解液を希釈して濃度測定を行うほうが好ましいといえる。
【0037】
染液濃度を経時的に測定する時間の間隔は、0.3〜3分であることが好ましい。測定間隔が0.3分未満であると、算出した染着速度を次回の昇温速度に反映させることが困難で、染色条件を適正に制御できない虞がある。測定間隔が3分を超えると、算出した染着速度の精度が低くなるため、染色条件を適正に制御できず、時間の浪費になったり、染め斑等の品質不良を起こしたりする虞がある。測定間隔は0.5〜2分であることがより好ましい。
【0038】
濃度測定装置23は、可視波長領域、典型的には400〜700nmの波長領域における染液の光強度を、一定波長、例えば10nm毎に測定する。制御装置100は、測定された光強度に基づいて以下の式により吸光度Aに変換する。
A=log10(I0/I)
ここで、I0は水の光強度であり、Iは染液の光強度である。
【0039】
そして、算出された吸光度Aに基づいて、波長範囲400〜500nmにおける吸光度のピーク値を黄色成分の吸光度、波長範囲500〜600nmにおける吸光度のピーク値を赤色成分の吸光度、波長範囲600〜700nmにおける吸光度のピーク値を青色成分の吸光度とし、各成分について、繊維材料に対する染料の染着率及び染着速度を算出する。
【0040】
通常、黄色成分の吸光度のピーク値は420〜470nmの波長領域に、赤色成分の吸光度のピーク値は520〜570nmの波長領域に、青色成分の吸光度のピーク値は600〜650nmの波長領域に検出されることが多い。したがって、こうした波長領域を波長範囲に設定して染着率及び染着速度を算出するようにしてもよい。
【0041】
ただし、各成分に対応する波長範囲に吸光度のピーク値が検出されない場合には、その波長範囲の吸光度の平均値を、各成分の吸光度とする。この場合には、各成分におけるピーク値が明示されないため、平均値を各成分の吸光度としている。
【0042】
次に、各成分について、初期の染液の吸光度及び染色中の染液の吸光度から、以下の式により繊維材料に対する染料の染着率B(%)を算出する。
B=(A0−A)/A0×100
ここで、A0は初期の染液の吸光度であり、Aは染色中の染液の吸光度である。
【0043】
染着速度Cn(%/分)については、以下の式により算出する。
n=(Bn−Bn-1)/T
n-1は前回測定時の染着率であり、Bnは今回測定時の染着率である。そして、両者の差を測定間隔T(分)で割ることで、前回測定時から今回測定時までの染着速度Cnが算出される。
【0044】
そして、黄色、赤色及び青色の三成分のうち染着速度が最も速い成分に基づいて、以下の式により昇温速度D(℃/分)を算出し、染色条件の1つである染液の温度を制御する。
n+1=C0×Dn/Cn
ここで、Dn+1は今回測定時から次回測定時までの昇温速度であり、Dnは前回測定時から今回測定時までの昇温速度である。また、C0は、予め設定された標準染着速度(%/分)であり、Cnは今回の染着速度(%/分)である。
【0045】
例えば、標準染着速度が2%/分、測定間隔が1分、今回の昇温速度が1.2℃/分、今回の染着速度が1.5%/分であった場合、次の1分の昇温速度は1.6℃/分となる。
【0046】
ここで、標準染着速度とは、均染を得るための標準的な染着速度であって、繊維材料である布帛が染色機内を1回循環するのに要する搬送時間(サイクルタイム)により設定される。図1に示す染色機では、染色槽1内及び搬送管路を1回循環するのに要する時間である。一般に、サイクルタイムが長いほど、染め斑が発生し易い傾向にあるため、サイクルタイムが長くなるにしたがって、標準染着速度の増加が抑えられるように設定される。
【0047】
標準染着速度は、染着率毎に設定することもできる。例えば、染着率が0〜20%の場合は標準染着速度を3%/分、染着率が20〜100%の場合は標準染着速度を2%/分と設定することもできる。これは、染料の種類や濃度によっては、均染を得るための標準的な染着速度が、染着率によって変わる場合があるからである。このようにすることにより、時間を短縮し、染色に要するエネルギーを軽減することができる。
【0048】
なお、上記の式により昇温速度を算出する場合、三成分のうち染着速度が最も速い成分の吸光度が、三成分のうち吸光度が最も高い成分の吸光度に対し一定比率、例えば20%に満たない場合は、制御対象としない。このような成分は、目標とする色の主成分ではなく、染着速度が速くても染め斑が発生しにくいためである。このような場合には、染着速度が次に速い成分に基づいて染色条件を制御するものとする。なお、染液の温度調整は、染色槽内の染液を熱交換器11に循環させることで行われる。
【0049】
三成分のうち制御対象となる成分の染着速度が標準染着速度の一定倍率、例えば1.25倍以上になった場合には、上記の式による昇温制御を停止し、停止時の温度を保持する。これは、染着速度が標準染着速度の1.25倍以上になると、染料が繊維材料に斑付きし易くなり、結果として、染め斑が発生し易いためである。
【0050】
そして、染着速度が標準染着速度の1.25倍未満になった時点で、上記の式による昇温制御を開始する。このときの昇温速度は、上記の式によらずに予め設定した昇温速度、好ましくは0.2〜1.0℃/分で昇温する。昇温速度が0.2℃/分未満であると、染色処理に無駄に時間がかかる虞があり、昇温速度が1.0℃/分を超えると、染め斑が発生する虞がある。
【0051】
予め設定された最高染色温度まで昇温した後は、その温度を保持し、染着率が平衡に達した時点で、染液の冷却処理を開始する。冷却処理は、予め設定された温度推移で低下するように制御される。
【0052】
この場合、最高染色温度とは、昇温から最終の水洗まで染色工程の中で最高となる染色温度をいい、繊維材料の素材に応じて設定される。例えば、6ナイロン繊維を酸性染料で染色する場合の最高染色温度は一般に90〜110℃、ポリエチレンテレフタレート繊維を分散染料で染色する場合の最高染色温度は一般に120〜135℃、高圧カチオン染料可染型ポリエチレンテレフタレート繊維をカチオン染料で染色する場合の最高染色温度は一般に120〜130℃、セルロース繊維(綿、麻、レーヨン、キュプラ等)を直接染料で染色する場合の最高染色温度は一般に90〜110℃である。
【0053】
また、染着率が平衡に達した時点とは、染着速度が一定値、例えば0.2%/分以下になってから布帛が染色機内を5回程度循環した時点、あるいは染着速度が0.2%/分以下になってから5分程度経過した時点とする。染着速度が0.2%/分を超える状態であると、目標とする色が得られない虞がある。
【0054】
冷却処理は、染色槽内の染液を熱交換器11に循環させながら熱交換器11を制御することで行われる。
【0055】
所定の温度まで冷却した後冷却処理を停止し、給水と排液を繰り返して水洗処理を開始する。水洗液についても染液と同様に濃度測定装置23に循環させながら濃度測定を行い、水洗液の染料濃度が一定値以下、例えば、初期の染液の染料濃度に対して3.0%以下となった時点で、水洗処理を終了する。
【0056】
冷却温度や、給水・排液のタイミング、水洗の回数は、繊維材料や染料によって異なる。しわの発生し易さや、染料の脱着のし易さなどを考慮し、適宜設定すればよい。また、水洗液の染料濃度が3.0%を超える状態で水洗を終了すると、洗浄が不十分で染色物の堅牢度が不良となったり、目標とする色が得られなかったりする虞がある。水洗処理後、必要に応じてソーピングや還元洗浄、染料固着処理が行われる。
【0057】
以上説明した例では、光強度から吸光度を算出しているが、これに限定されるものでなく、透過率を算出し、この値から、繊維材料に対する染料の染着率および染着速度を算出してもよい。
【0058】
また、染色条件の制御として染液の温度制御を例に挙げて説明したが、同時に、染液のpH制御も行われる。特に、酸性染料や反応性染料のように、pH依存性の大きな染料では、染液のpH制御が重要である。
【0059】
例えば、ポリアミド繊維を酸性染料で染色する場合、染着率が80%以上となった時点で染液のpHが4.5以上である場合には、染色槽に酸を添加し、染液のpHを4.0近傍にまで下げる。染着率が80%以上となり平衡に近くなると、染液濃度の低下に伴い染料と繊維材料との接触回数が減少し、染着速度が低下する。こうした状態では、温度制御だけでは染着速度を制御することが難しくなるため、染液のpHを制御することによって染着を促進して、目標の染着速度になるよう染色条件を制御する。このとき用いられる酸は特に限定されるものでなく、例えば、酢酸、リンゴ酸、クエン酸などを挙げることができる。酸を添加する場合には、染液のpHが急激に下がらないよう、例えば、pH値が毎分0.5ずつ下がるように酸の添加量を制御すればよい。
【0060】
また、水洗の際に水洗液のpHを測定することは有用である。染液のpHは酸性あるいはアルカリ性に制御されることが多いため、水洗液のpHが中性付近、例えば6〜8になった時点で、水洗処理を終了するようにしてもよい。水洗液の染料濃度とpHの双方から、水洗処理を停止するタイミングを設定するのが好ましい。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
図1に示す液流型高温高圧染色機(使用する総染液量:1000リットル、布速:133m/分(サイクルタイム90秒))を用いた。濃度測定装置として分光光度計(光源;ハロゲン光)を取り付けて、図2及び図3に示すように染液を循環させて濃度測定を行った。
【0062】
濃度測定は、上述したように、400〜700nmの波長領域における染液の光強度を10nm毎に1分間隔で測定して吸光度に変換し、波長範囲400〜500nmにおける吸光度のピーク値を黄色成分の吸光度、波長範囲500〜600nmにおける吸光度のピーク値を赤色成分の吸光度、波長範囲600〜700nmにおける吸光度のピーク値を青色成分の吸光度として算出した。そして、算出された吸光度に基づいて上記の式により染着率及び染着速度を算出した。
【0063】
繊維材料として、40dtexの6ナイロン100%平織物 (1反が10.0kg/50mの布帛を4反繋げて布帛長200mとしたもの)を用いた。染料として、酸性染料AMINYL YELLOW FD−3RL(田岡化学工業株式会社製)0.1%owf、AMINYL RUBINE FD−BL(田岡化学工業株式会社製)0.1%owf、ACID BLUE M(オージー株式会社製)0.1%owfの配合を用いた。染色助剤として、ユニガールASS−10(明成化学工業株式会社製、均染剤)2.0%owf、硫酸アンモニウム(pH調整剤)0.5g/リットルを用いた。この場合、最高染色温度を100℃に設定した。
【0064】
まず、染色機の染色槽に水を900リットル給水し、布帛と染色助剤を投入する。次に染料タンクで染料を水にて溶解し、100リットルの染料溶解液を作成し、その内の1リットルを染液貯留部に供給し、染色槽内から染色助剤を含む水9リットルを染液貯留部に供給して染料溶解液を10倍に希釈する。この染料希釈液を濃度測定装置に流通させ吸光度を測定する。この測定値を初期染液濃度値とした。その後、この測定に使用した染料希釈液10リットルと染料タンクの染料溶解液99リットルを染色槽内に注入した後に染色処理を開始した。昇温速度の制御は上記の式により行った。なお、標準染着速度は、2.0%/分に設定した。
【0065】
そして、染着率が80%以上となった時点でpH値を毎分0.5ずつ下げるように酢酸を自動注入する制御を行い、pHを4.0まで下げた。その後、染着速度が0.2%/分以下となり、平衡に達してから布帛を5回転(7.5分)循環させた後冷却処理を実施した。60℃まで冷却した後染色槽内の排液と新水の給水を交互に行い染色槽内の染液を置換する水洗処理を行った。水洗処理中の水洗液を濃度測定装置で測定して水洗液の染料濃度が初期の染液の染料濃度に対して3%以下となり、かつ水洗液のpH値が6〜8に達した時点で水洗処理を終了した。処理期間における染色曲線を図4に示す。その後、常法に従い、染料固着処理、水洗処理を行った。
【0066】
図4において、太い実線が実測温度、中細の実線が染着速度、細い実線がpH値の推移をそれぞれ示している。また、一点鎖線が黄色成分の染着率、二点鎖線が赤色成分の染着率、点線が青色成分の染着率をそれぞれ示している。以下の図においても同様である。
【0067】
(実施例2)
繊維材料として、50dtexのポリエチレンテレフタレート100%ジャージ (1反が10.0kg/50mの布帛を4反繋げて布帛長200mとしたもの)を用いた。染料として、分散染料SUMIKARON YELLOW SE−RPD(住友化学工業株式会社製)0.1%owf、SUMIKARON RED SE−RPD(住友化学工業株式会社製)0.1%owf、SUMIKARON BLUE SE−RPD(住友化学工業株式会社製)0.1%owfの配合を用いた。染色助剤として、ニッカサンソルト8000(日華化学株式会社製、均染剤)0.5g/リットル、酢酸(pH調整剤)0.5cc/リットルを用いた。この場合、最高染色温度を130℃に設定した。
【0068】
そして、実施例1と同様の染色機を用いて、追酸を行わない以外は実施例1と同様の一連の処理を行って、染色処理、水洗処理を実施した。処理期間における染色曲線を図5に示す。その後、常法に従い、還元洗浄、水洗処理を行った。
【0069】
(実施例3)
繊維材料として、44dtexの高圧カチオン染料可染型ポリエチレンテレフタレート100%ジャージ (1反が10.0kg/50mの布帛を4反繋げて布帛長200mとしたもの)を用いた。染料として、分散型カチオン染料KAYACRYL YELLOW GRL−ED(日本化薬株式会社製)0.231%owf、C.D.P.N.RED GRL−ID(日成化成株式会社製)0.116%owf、AIZEN CATHILON BLUE FB−DP(保土谷化学工業株式会社製)0.163%owfの配合を用いた。染色助剤として、酢酸(pH調整剤)1.0cc/リットル、無水芒硝(劣化防止剤)3g/リットルを用いた。この場合、最高染色温度を120℃に設定した。
【0070】
そして、実施例1と同様の染色機を用いて、追酸を行わない以外は実施例1と同様の一連の処理を行って、染色処理、水洗処理を実施した。処理期間における染色曲線を図6に示す。
【0071】
(比較例1)
実施例1と同様の繊維材料、染料及び染色助剤を用い、最高染色温度を100℃に設定した。ただし、濃度測定は、400〜700nmの波長領域における染液の光強度を10nm毎に1分間隔で測定して吸光度に変換し、波長範囲400〜700nmにおける吸光度の平均値のみに基づいて上記の式により染着率及び染着速度を算出した。
【0072】
そして、実施例1と同様の染色機を用いて、実施例1と同様の一連の処理を行って、染色処理、水洗処理を実施した。その後、常法に従い、染料固着処理、水洗処理を行った。
【0073】
処理期間における染色曲線を図7に示す。なお、図7では、他の実施例との対比を容易にするために三成分に分解した染色曲線を記載しているが、染着速度については波長範囲400〜700nmにおける吸光度の平均値のみに基づいている。
【0074】
図8は、各実施例における染色処理過程に関するデータをまとめた一覧表である。最高染色温度到達時間とは、昇温開始から最高染色温度に到達するまでに要した時間である。最大染着速度の平均とは、各測定タイミングにおいて算出した三成分の染着速度のうち最大の染着速度を処理時間にわたって平均した値である。処理時間とは、昇温開始から水洗完了までに要した時間である。均染性については、染め斑の発生程度を目視にて評価し、染め斑の発生がなく均一に染まったものを「○」、染め斑が発生し均一に染まらなかったものを「×」とした。堅牢性については、洗濯堅牢度(JIS L 0844 A−2法)及び耐光堅牢度(JIS L 0842)を評価した。
【0075】
いずれの実施例においても、均染性及び堅牢性に優れた染色物を短時間で得ることができた。また、染着速度のバラツキが小さくなり、例えば実施例1ではほぼ2%/分〜3%/分の間で安定している。これに対して、比較例1では、染色時間が短いものの染着速度のバラツキが大きく、染め斑が発生した。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係る染色機に関する概略構成図である。
【図2】染色処理前に初期の染液濃度を測定する場合の染液の流路を示す説明図である。
【図3】循環管路内に染色槽内の染液を循環させて染色処理を行う場合の染液の流路を示す説明図である。
【図4】実施例1に関する染色過程を示すグラフである。
【図5】実施例2に関する染色過程を示すグラフである。
【図6】実施例3に関する染色過程を示すグラフである。
【図7】実施例3に関する染色過程を示すグラフである。
【図8】各実施例の染色処理結果をまとめた一覧表である。
【符号の説明】
【0077】
1 染色槽
2 滞留部
3 搬送管路
4 リール
5 吸入口
6 吸入口
11 熱交換器
12 開閉弁
20 分岐管路
21 染液貯留部
22 加温装置
23 濃度検知装置
24〜26 開閉弁
31 染料タンク
32 流量計
33〜36 開閉弁
41 pH調整装置
51 給水装置
100 制御装置
101 表示パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材料を染液に浸漬して所定の染色条件に基づいて染色処理を行う繊維材料の染色方法であって、染色中の染液の可視波長領域における光強度を測定し、複数の波長範囲における測定値に基づいて繊維材料に対する染料の染着率及び染着速度を算出し、算出された染着率及び染着速度に基づいて染色条件を制御することを特徴とする繊維材料の染色方法。
【請求項2】
染色中の染液の可視波長領域における吸光度を測定することを特徴とする請求項1に記載の染色方法。
【請求項3】
前記波長範囲を400〜500nm、500〜600nm及び600〜700nmに設定して各波長範囲における吸光度のピーク値又は平均値に基づいて染着率及び染着速度を算出することを特徴とする請求項2に記載の染色方法。
【請求項4】
各波長範囲について算出された染着速度のうち最も速い染着速度に基づいて昇温速度を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の染色方法。
【請求項5】
酸性染料の染液について染着率が80%以上となった時点で染液のpHを下げて染着速度を制御することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の染色方法。
【請求項6】
染着速度が0.2%/分以下となった時点で染液の冷却に関する制御を行うことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の染色方法。
【請求項7】
染色処理後の水洗処理中の水洗液の染料濃度が、初期の染液の染料濃度に対して3.0%以下となった時点で水洗処理を停止するように制御することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の染色方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−249797(P2009−249797A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103197(P2008−103197)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【出願人】(592037125)セーレン電子株式会社 (5)
【Fターム(参考)】