説明

繊維材料の製造方法

【課題】溶融混練によりエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物を得る際の溶融粘度が低く抑えられ、繊維状に押出された際のちぎれ現象を防いで連続的に繊維材料を作製する繊維材料の製造方法を提供する。
【解決手段】エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体と金属化合物とを、ダイマー酸及びダイマー酸金属塩の少なくとも一方の存在下、溶融押出機中で溶融混練することにより反応させ、前記反応により生成したエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物を溶融押出機のダイスから繊維状に押出し、押出された繊維材料を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日常の消費材や工業製品として、各種プラスチック、合成繊維、合成紙等を利用した成形品が普及している。これらの成形用材料或いは改質材料として、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーやエチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステルのけん化物などが提案されている。
【0003】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーは、エチレン・アクリル酸共重合体やエチレン・メタクリル酸共重合体をアルカリ金属や他の金属種で中和したものであり、組み合わせる金属種と中和度(不飽和カルボン酸に由来する単位が金属イオンよって中和されている割合(モル%))の組合せによって帯電防止性や反発弾性或いは耐傷つき性を付与することができる。
エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステルのけん化物は、前記アイオノマーとは異なり酸基に由来する単位を含まないことが特徴であり、用いるアルカリ金属の種類とエステル基に対するけん化度(モル%)の組合せによって帯電防止性等を付与することができる。
【0004】
前記アイオノマー(或いは前記けん化物)にしても、金属イオンによる中和(けん化)の程度等によっては、溶融粘度が高く、流動性が大きく低下する傾向がある。その結果、例えばストランド又はフィラメント(以下これらを代表して繊維と略称する場合がある。)のような細い紐状に押し出した場合には、引取る際の応力がフィラメントにかかり、断裂してしまう現象(ちぎれ現象)が起きやすくなる。
【0005】
樹脂の流動性を改善してちぎれ現象を低減する方法としては、押出機の押出温度を高温にして押出す方法や流動性改良剤を添加する方法がある。この流動性改良剤としては、脂肪酸金属塩や脂肪酸アミドのような滑剤として、あるいはフタル酸エステルなどの可塑剤として、多数が上市されている(例えば、非特許文献1参照)。また、高流動樹脂を混ぜ合わせる方法なども知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「塩ビアラカルト」(第4版、56〜57頁、平成5年10月15日発行、(株)ポリマー工業研究所)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
繊維を構成する際に生じるちぎれ現象は、主に溶融樹脂の流動性低下によるところが大きいと推測され、上記のような滑剤や可塑剤を用いることで改善が期待される。しかしながら、前記アイオノマー(或いは前記けん化物)の場合には、従来から用いられている滑剤や可塑剤では、得られた繊維の表面には時間経過と共に滑剤や可塑剤のブリードアウト(滲み出し)が発生しやすく、商品としての価値を低減させる。
【0008】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、溶融混練によりエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物を得る際の溶融粘度が低く抑えられ、繊維状に押出された際のちぎれ現象を防いで連続的に繊維材料を作製する繊維材料の製造方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体と金属化合物とを、ダイマー酸及びダイマー酸金属塩の少なくとも一方の存在下、溶融押出機中で溶融混練することにより反応させ、前記反応により生成したエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物を溶融押出機のダイスから繊維状に押出し、押出された繊維材料を回収する繊維材料の製造方法である。
【0010】
<2> エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物に、ダイマー酸及びダイマー酸金属塩の少なくとも一方を添加し、溶融混練してダイスから繊維状に押出し、押出された繊維材料を回収する繊維材料の製造方法である。
【0011】
<3> 前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物と前記ダイマー酸及びダイマー酸金属塩との合計質量に対する、ダイマー酸及びダイマー酸金属塩の合計質量の比率が1〜50質量%である前記<1>又は前記<2>に記載の繊維材料の製造方法である。
【0012】
<4> 前記エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸エステルは、不飽和カルボン酸の炭素数1〜8のアルキルエステルである前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の繊維材料の製造方法である。
【0013】
<5> 前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体及びエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸は、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方である前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の繊維材料の製造方法である。
【0014】
<6> 押出された前記繊維材料を、引き取ることで回収する前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の繊維材料の製造方法である。
【0015】
<7> 押出された前記繊維材料を、所定の間隔で裁断してペレット状に加工する前記<6>に記載の繊維材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶融混練によりエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物を得る際の溶融粘度が低く抑えられ、繊維状に押出された際のちぎれ現象を防いで連続的に繊維材料を作製する繊維材料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の繊維材料の製造方法について詳細に説明する。
本発明の第1の態様に係る繊維材料の製造方法は、溶融押出機中で溶融混練する前又は溶融混練による反応時にダイマー酸及び/又はダイマー酸金属塩を添加し、ダイマー酸及び/又はダイマー酸金属塩の存在下で反応、押出しを行なう態様である。具体的には、
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体と金属化合物とを、ダイマー酸及びダイマー酸金属塩の少なくとも一方の存在下、溶融押出機中で溶融混練することにより反応させ(以下、この操作を「第1の溶融混練工程」ともいう。)、前記反応により生成したエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物を溶融押出機のダイスから繊維状に押出し(以下、押出す操作を「押出工程」ともいう。)、押出された繊維材料を回収する(以下、回収操作を「回収工程」ともいう。)構成としたものである。
【0018】
また、本発明の第2の態様に係る繊維材料の製造方法は、例えば溶融押出機中での溶融混練を経て得られたあるいは既製のアイオノマー又はけん化物に対し、ダイマー酸及び/又はダイマー酸金属塩を後添加し、ダイマー酸及び/又はダイマー酸金属塩を存在させて溶融混練を継続して押出す態様である。具体的には、
溶融押出機中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物に、ダイマー酸及びダイマー酸金属塩の少なくとも一方を導入し、導入後に溶融押出機のダイスから繊維状に押出し(押出工程)、押出された繊維材料を回収する(回収工程)。第2の態様において、好ましくは、押出工程の前に、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体と金属化合物とを、実質的にダイマー酸及びダイマー酸金属塩の不存在下に、溶融押出機中で溶融混練して反応させる工程(以下、「第2の溶融混練工程」ともいう。)が設けられる。
【0019】
前記第1の態様及び前記第2の態様に係る本発明は、溶融押出機における溶融混練の過程でダイマー酸を存在させるものである。すなわち、
本発明においては、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体と金属化合物とを溶融押出機のシリンダー内で温度をかけながら混練することにより反応させる際に、あるいはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物の溶融混練の際に、ダイマー酸及び/又はその金属塩を存在させると、混練時の溶融樹脂の流動性が向上する。これにより、繊維に引き取り応力がかかっても繊維のちぎれ現象が改善され、繊維材料の連続的な製造が安定的に行なえる。
【0020】
[第1の態様]
−第1の溶融混練工程−
本発明の第1の態様における第1の溶融混練工程では、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体(以下、これらを総じて「エチレン系共重合体」ともいう。)と金属化合物とを、ダイマー酸及びダイマー酸金属塩の少なくとも一方の存在下、溶融押出機中で溶融混練することにより反応させる。エチレン系共重合体と金属化合物とが反応する混練過程でダイマー酸等を存在させると、混練時の溶融樹脂の流動性が向上する。その結果、後述の押出工程での繊維のちぎれ現象が改善される。
【0021】
溶融押出は、溶融樹脂を押し出すためのスクリューを備えた従来公知の押出機を使用して行なうことができる。押出機は、小型ないし大型のいずれの装置を使用してもよく、単軸押出機又は2軸押出機のいずれを使用してもよい。押出機として、例えば、所望とする外径を持ち樹脂を押出しながら溶融混練するスクリュー(例えば単軸スクリュー)と、該スクリューが内部に配設されたシリンダーと、シリンダー壁に取り付けられ、原料樹脂をシリンダー内部に供給する原料供給器(例えばホッパーやフィーダー)と、シリンダー壁における前記原料供給器の樹脂押出方向下流側に取り付けられたダイマー酸供給器(例えば注入ポンプ)とを備えた単軸押出機又は2軸押出機を使用できる。

【0022】
(エチレン・不飽和カルボン酸共重合体)
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、アイオノマーのベースポリマーである。このエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸との二元共重合体のみならず、任意に他の単量体が共重合された3元以上の多元共重合体であってもよい。
【0023】
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエステルなどが挙げられ、特に、アクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
【0024】
不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有割合は、共重合体全質量に対して、1〜35質量%が好ましく、より好ましくは10〜20質量%である。このとき、エチレンから導かれる構成単位の含有割合は、共重合体全質量に対して、99〜65質量%が好ましく、より好ましくは90〜80質量%である。
不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有割合が1質量%以上であることは、不飽和カルボン酸が積極的に共重合されて繰り返し単位として含まれることを示す。不飽和カルボン酸の含有により、透明性や金属接着性が良好になる。また、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有割合が35質量%以下であると、実用的な耐熱性を維持できる。
【0025】
前記他の単量体が任意に共重合された多元共重合体である場合、共重合されてもよい他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素などを例示することができる。これらの単量体は、目的とするアイオノマーの性質を損なわない限り含ませることができる。
【0026】
前記不飽和カルボン酸エステルは、不飽和カルボン酸の炭素数1〜12のアルキルエステル、例えば、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、エタクリル酸アルキルエステル、クロトン酸アルキルエステル、フマル酸アルキルエステル、マレイン酸アルキルエステル、マレイン酸モノアルキルエステル、無水マレイン酸アルキルエステル、イタコン酸アルキルエステル及び無水イタコン酸アルキルエステルが挙げられる。これらの不飽和カルボン酸エステルから導かれる構成単位を含むことで、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の柔軟性が向上するので好ましい。
【0027】
前記アルキルエステルのアルキル部位は、中でも炭素数が1〜8のアルキルが好ましく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、セカンダリーブチル、2−エチルヘキシル、イソオクチル等のアルキル基を例示することができる。上記の不飽和カルボン酸エステルとしては、特に、アクリル酸又はメタクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、ノルマルブチルエステル、イソブチルエステルが好ましい。
【0028】
不飽和カルボン酸は、1分子中に2つ以上のカルボキシ基を有するものでもよい。1分子中に2つ以上のカルボキシ基を有する不飽和カルボン酸は、複数あるカルボキシ基の少なくとも1つがアルキルエステルとなっていればよく、例えば、マレイン酸アルキルエステルとしては、マレイン酸モノアルキルエステルであっても、マレイン酸ジアルキルエステルであってもよい。
【0029】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体が3元共重合体である場合、好ましいエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体であり、とりわけエチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸ノルマルブチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・メタクリル酸ノルマルブチル共重合体、エチレン・メタクリル酸イソブチル共重合体である。
【0030】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、各重合成分を高温、高圧下にラジカル共重合することによって得ることができる。
【0031】
(エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体)
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、エチレンと、不飽和カルボン酸エステルの少なくとも1種とを共重合した重合体である。この重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体などのいずれでもよい。このエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸のアルキルエステルとの2元共重合体のみならず、目的とするエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体の性質を損なわない限り任意に他の単量体が共重合された3元以上の多元共重合体であってもよい。
【0032】
不飽和カルボン酸エステルにおける不飽和カルボン酸は、既述のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体における不飽和カルボン酸と同様の例が挙げられ、好ましい態様も同様である。不飽和カルボン酸エステルの例としては、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、クロトン酸アルキルエステル、マレイン酸アルキルエステル等の不飽和カルボン酸のアルキルエステルが例示される。不飽和カルボン酸としては、中でもアクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方が好ましい。アルキル部位は、既述のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体が他の単量体として不飽和カルボン酸のアルキルエステルが共重合された共重合体である場合の、アルキルエステルにおけるアルキル部位と同様の例が挙げられる。中でも、好ましい態様としてアルキルエステルのアルキル部位の炭素数は1〜8が好ましく、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、2−エチルヘキシル、イソオクチル等が好適である。更には、前記アルキルエステルにおけるアルキル部位の炭素数は1〜4がより好ましい。
【0033】
不飽和カルボン酸は、1分子中に2つ以上のカルボキシ基を有するものであってもよい。1分子中に2つ以上のカルボキシ基を有する不飽和カルボン酸は、複数あるカルボキシ基の少なくとも1つ、最も好ましくは全てがアルキルエステルとなっていればよく、例えば、マレイン酸アルキルエステルとしては、マレイン酸モノアルキルエステルよりもマレイン酸ジアルキルエステルの方が好ましい態様である。
【0034】
不飽和カルボン酸エステルとしては、特に、アクリル酸又はメタクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、ノルマルブチルエステル、イソブチルエステルが好ましい。
【0035】
本発明において、特に好ましいエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルの2成分からなるランダム共重合体であり、とりわけその中でも(メタ)アクリル酸エステルとして1種類の化合物からなる2元ランダム共重合体が好ましい。このような2元ランダム共重合体の例としては、エチレン・アクリル酸メチルランダム共重合体、エチレン・アクリル酸エチルランダム共重合体、エチレン・アクリル酸ノルマルブチルランダム共重合体、エチレン・アクリル酸イソブチルランダム共重合体、エチレン・メタクリル酸メチルランダム共重合体、エチレン・メタクリル酸エチルランダム共重合体、エチレン・メタクリル酸ノルマルブチルランダム共重合体、エチレン・メタクリル酸イソブチルランダム共重合体である。
【0036】
本発明におけるエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位の含有比率は、不飽和カルボン酸由来の構成単位に比べて工業的により多くを導入しやすく、5〜50質量%の範囲、特に20〜35質量%の範囲が好ましい。すなわち、不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位の含有比率がこの範囲にあると、制電性に優れ、またダイマー酸との混和性のバランスや均一分散性に優れる。
【0037】
また、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体の190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR;JIS K 7210−1999に準拠)は、1g/10分〜1300g/10分の範囲が好ましい。
【0038】
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、例えば、それ自体公知の高圧ラジカル共重合により製造される。
【0039】
(金属化合物)
エチレン系共重合体と反応する金属化合物としては、金属の酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物などを挙げることができる。
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体がこれら金属化合物と反応し、酸基が金属イオンで中和されることにより、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーが得られる。また、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体をこれら金属化合物でけん化することにより、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物が得られる。
【0040】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(以下、単にアイオノマーともいう。)としては、通常は前記共重合体中のカルボキシル基の100%以下、より好ましくは10〜100%を、更に好ましくは、20〜100%を、最も好ましくは、50〜100%を金属イオンで中和したものが好適である。加工性、柔軟性の観点からは、中和度が5〜60%、特に5〜30%ものを用いるのが好ましい。
【0041】
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物においては、カルボン酸塩としてけん化物中に存在する金属イオン(例えばカリウムイオン、ナトリウムイオン等)の濃度は、0.1モル/kg〜5.8モル/kgが好ましく、1モル/kg〜3モル/kgがより好ましい。金属イオンの濃度は、0.1モル/kg以上であることで、1014Ω/□程度以下の表面固有抵抗率が得られ易く、良好な帯電防止性を示し、また5.8モル/kg以下であることで、溶融粘度の高粘度化が抑制され、成形性、加工性に優れる。
【0042】
金属イオン種としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)のようなアルカリ土類金属、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、鉛(Pb)などの典型及び遷移金属などのイオンが挙げられる。
【0043】
中でも、前記アイオノマーについては、特に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、あるいは亜鉛を用いたアイオノマーが好ましい。種々のアイオノマーの中でも、吸湿性が少ない観点からは、亜鉛アイオノマーが好ましい。
【0044】
また、前記エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物については、アルカリ金属でけん化されたけん化物が好ましく、けん化に用いる苛性アルカリの金属イオンとして、リチウム、ナトリウム、カリウム等が好ましい。けん化物は、制電性の観点で好ましい。けん化物の金属としては、原料の入手のし易さの観点から、ナトリウム、カリウムが更に好ましく、特にカリウムが好ましい。
【0045】
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物、及び前記アイオノマーは、成形性、加工性の点で、230℃、10kg荷重(JIS K 7210−1999に準拠)におけるメルトフローレート(MFR)が、0.01g/10分〜100g/10分、特に0.01g/10分〜50g/10分であることが好ましく、更には0.01g/10分〜10g/10分が好ましい。
【0046】
本発明においては、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物のうち、けん化されるべきエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体中の全不飽和カルボン酸エステル基単位のモル量に対する、けん化後にカルボン酸塩として存在する金属イオン量のモル量の割合が0.1〜0.8の範囲にあるもの、好ましくは0.1〜0.6の範囲にあるもの、すなわちけん化度が10〜80%の範囲、好ましくは10〜60%の範囲にある金属けん化物が、帯電防止性やダイマー酸との混和性の点で好ましい。
因みに、共重合体中のエステル成分は、けん化反応により部分的に金属塩(アルカリ塩)成分に変化するので、けん化物はエチレン単位、不飽和カルボン酸エステル単位、不飽和カルボン酸アルカリ塩単位を含む共重合体となり、遊離のカルボキシル基単位は含有しない。
【0047】
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化(例えばけん化)は、金属化合物(例えば苛性アルカリ等)により公知の方法で行なうことができる。
例えば、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体と、所定量の水酸化カリウム等の苛性アルカリとを押出機、ニーダー、バンバリーミキサ等の混練装置中で例えば100℃〜250℃の温度下で溶融混合するか、あるいはエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体を上記混練装置で溶融均質化し、その後所定量の水酸化カリウム等の苛性アルカリを加えることにより、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のエステル部分と苛性アルカリを反応させてけん化物とする方法が挙げられる。
【0048】
(ダイマー酸及びその金属塩)
本発明の繊維材料の製造方法では、ダイマー酸及び/又はダイマー酸金属塩の存在下で溶融混練が行なわれる。ダイマー酸を前記アイオノマー又は前記けん化物と共に用いることで、アイオノマー又はけん化物を用いて繊維状にしたときのちぎれ現象が改善される。
【0049】
なお、ダイマー酸は、溶融混練中に金属化合物と反応してダイマー酸金属塩となって存在していてもよい。
【0050】
ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の2分子又はそれ以上の分子が重合反応して得られる多価カルボン酸であって、通常、モノマー(不飽和脂肪酸の1分子)を含む2種類以上の混合物として得られ、混合物として各種の用途に供されている。
【0051】
ダイマー酸は、炭素原子数8〜22の直鎖状又は分岐状の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られるものであり、その誘導体も含まれる。ダイマー酸の誘導体としては、水素添加物などを挙げることができる。具体的には、前記ダイマー酸に水添して、含有される不飽和結合を還元した水添ダイマー酸などが使用できる。
【0052】
ダイマー酸は、例えば、3−オクテン酸、10−ウンデセン酸、オレイン酸、リノール酸、エライジン酸、パルミトレイン酸、リノレン酸、あるいはこれらの2種以上の混合物等を、あるいは工業的に入手可能なこれら不飽和カルボン酸の混合物であるトール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、パーム油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸などを原料としたものであってもよい。これらダイマー酸としては、モノマー酸やトリマー酸を少量含有するものであってもよい。
【0053】
従来から、ダイマー酸は通常、モンモリロナイト系白土を触媒として用い、トール油脂肪酸などの不飽和脂肪酸を高温下で二量化して製造することができる。
【0054】
ダイマー酸の例として、下記構造式(1)で表される鎖状ダイマー酸が挙げられる。
【0055】
【化1】



【0056】
前記構造式(1)で表される鎖状ダイマー酸のほか、下記構造式(2)又は(3)で表される環状ダイマー酸を含む混合物などが得られる。
【0057】
【化2】



【0058】
【化3】



【0059】
工業的に入手可能なダイマー酸としては、例えば、ハリダイマー200、300(ハリマ化成(株)製)、ツノダイム205、395(築野食品工業(株)製)、エンポール1026、1028、1061、1062(コグニス(株)製)、水素添加ダイマー酸として例えば、エンポール1008、1012(コグニス(株)製)などが挙げられる。
ダイマー酸金属塩は、これら市販のダイマー酸と金属化合物を接触、加熱することで製造可能である。金属化合物を構成する金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛等が例示でき、これらの金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物などが使用できる。ダイマー酸と金属化合物を接触反応させることで、ダイマー酸の酸基の一部又は全部が金属塩となる。
【0060】
本発明において、アイオノマー又はけん化物とダイマー酸との合計量100質量部に対するダイマー酸の含有比率は、1〜50質量部の範囲が好ましい。ダイマー酸の含有比率が1質量部以上であることは、ダイマー酸を積極的に含有することを示し、繊維のちぎれ現象が改善される。また、ダイマー酸の含有比率が50質量部以下であることで、ブリードアウト(滲み出し)が回避される。
ダイマー酸の含有比率は、上記と同様の理由から、1〜40質量部がより好ましく、1〜30質量部が更に好ましく、1〜25質量部が特に好ましい。ダイマー酸の含有比率が30質量部以下に抑えられると、ブリードアウト(滲み出し)がより効果的に防止されると共に、透明性が高くストランド等の繊維のちぎれ現象の改善効果が高い。また更には、上記含有比率は1〜20質量部が好ましく、最も好ましくは1〜15質量部である。
【0061】
(他の成分)
本発明におけるアイオノマーには、更に、シランカップリング剤やその他の成分が混合されてもよい。
【0062】
シランカップリング剤としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどを例示することができる。中でも、シランカップリング剤としては、非接着物との間の接着性を高める点で、アミノ基を含有するアルコキシシランが好ましい。
【0063】
アミノ基を含有するアルコキシシランとしては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシキシシランなどのアミノトリアルコキシシラン類や、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−メチルジメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、3−メチルジメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミンなどのアミノジアルコキシシラン類、等が挙げられる。
中でも、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシランなどが好ましい。特に、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。
【0064】
トリアルコキシシランを用いた場合には、被接着物に対する接着性をより向上できるので好ましい。ジアルコキシシランを用いた場合には、シート成形時の加工安定性を維持することができるので好ましい。
【0065】
本発明におけるエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物には、更に多価アルコール又はそのアルキレンオキシド付加物が混合されてもよい。また、スチレン系樹脂が混合されてもよい。
【0066】
多価アルコールとしては、グリセロール、ジグリセロール、トリメチルプロパン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトールなどの1分子中に水酸基を2個以上含有する多価アルコール又はそれらの部分エステル化物などが例示され、中でも取扱い性と性能及び入手のし易さ、コストのバランスの点で、グリセロール、ジグリセロールが好ましい。
多価アルコールの含有量は、本発明における共重合体のけん化物の金属がカリウムの場合、広い湿度範囲での帯電防止性や高周波融着性をより発揮させる観点から、共重合体のけん化物を含む組成全体の固形分質量に対し、3〜30質量%が好ましい。
【0067】
多価アルコールのアルキレンオキシド付加物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコールなどを挙げることができる。これらは、非帯電性能の湿度依存性、例えば高湿度条件下から低湿度条件下での帯電防止性の偏りをより高度に防止する効果が期待できる。また別には、溶融流動性の更なる改善も期待できる。中でも、性能改善効果とフィルム成形時などの樹脂加工時の取扱い性のバランス面から、ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールが好ましい。
多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の含有量は、本発明における共重合体のけん化物を含む組成全体の固形分質量に対し、3〜30質量%が好ましい。
【0068】
スチレン系樹脂とは、スチレンの単独重合体あるいは共重合体である。スチレン系樹脂の代表例として、ABS系樹脂、及びポリスチレンを例示できる。本発明においては、少なくともアクリロニトリルとスチレンとが共重合したスチレン系共重合体が好ましい。
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物が、スチレン系樹脂を含むときには、優れた帯電防止性が得られ、この帯電防止性を利用して高分子型帯電防止剤として利用することができる。この場合、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物が配合された組成物において、アルカリ金属イオン濃度が0.002〜5.8モル/kgとなるようにスチレン系樹脂が配合されることが好ましい。
【0069】
また、本発明におけるアイオノマー、又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物には、その他の成分として更に、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、滑剤、ブロッキング防止剤、可塑剤、粘着剤、無機充填剤、ガラス繊維、カーボン繊維などの強化繊維、顔料、染料、難燃剤、難燃助剤、発泡剤、発泡助剤などを含有してもよい。また、帯電防止剤を配合することもできる。
【0070】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2−カルボキシベンゾフェノン、及び2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系;2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジt−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、及び2−(2’−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系;フェニルサリチレート及びp−オクチルフェニルサリチレートなどのサリチル酸エステル系のものが挙げられる。
前記光安定剤としては、例えばヒンダードアミン系のものが挙げられる。
前記酸化防止剤としては、各種ヒンダードフェノール系やホスファイト系のものが挙げられる。
【0071】
−押出工程−
本発明の第1の態様における押出工程は、前記第1の溶融混練工程での反応により生成したエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーまたはエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物を、溶融押出機のダイスから繊維状に押出す。
【0072】
アイオノマーまたはけん化物は、原料樹脂と金属化合物、及びダイマー酸又はその金属塩の存在下で溶融混練され押出されるので、押出機の中で原料樹脂中の酸基のアイオノマー化又はエステル基のけん化が行われ、ダイスから押出された樹脂はアイオノマー又はけん化物とダイマー酸又はその金属塩との樹脂組成物となっている。ダイマー酸又はその金属塩の存在により押出機中での樹脂流動性が向上し、繊維を引き取る途中のちぎれ現象を解消することができる。その結果、繊維の引き取り速度を向上させることが可能となり生産性も改善される。
【0073】
繊維状に押出す場合、ダイスから押出される繊維形状は、断面形状が丸形状、楕円形状、四角形状等種々の断面形状を取ることが可能であり、このような形状でもちぎれ現象を招来することがない。
【0074】
−回収工程−
本発明の第1の態様における回収工程は、前記押出工程で押出された繊維材料を回収する。回収は、巻芯に連続的に巻き取る、回転するニップロールに挟んで巻き取る等して行なうことができる。
【0075】
繊維状のまま回収された繊維材料は、紐状或いは糸状のものである。
回収は、引き取ることにより好適に行なえ、押出された繊維状のものをそのまま巻芯に巻き取るほか、所定の間隔で裁断してペレット状で回収してもよい。
【0076】
[第2の態様]
−押出工程−
本発明の第2の態様の押出工程は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物とダイマー酸及びダイマー酸金属塩との少なくとも一方とを押出機中で溶融混練してダイスから繊維状に押出す。
【0077】
第2の態様では、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体はそのアイオノマーとなっており、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、そのけん化物となっている状態で、ダイマー酸またはその金属塩を含ませて溶融混練を行う。ダイマー酸またはその金属塩を含ませる方法は、押出機に投入する前に予めアイオノマーまたはけん化物と、ダイマー酸またはその金属塩とを公知の方法で混合する方法、押出機の途中からダイマー酸またはその金属塩を供給する方法など公知の種々の方法が使用可能である。
【0078】
このように、アイオノマー又はけん化物が得られた後にダイマー酸等を含ませて押出機で繊維状にダイスから押出すことによっても、押出機中での樹脂流動性が向上し、繊維を引き取る途中のちぎれ現象を解消することができる。その結果、繊維の引き取り速度を向上させることが可能となり生産性も改善される。
【0079】
−回収工程−
第2の態様における回収工程は、既述の第1の態様における回収工程と同様にして行なうことができる。
【0080】
また、本発明の第2の態様においては、前記押出工程の前に、更に、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体と金属化合物とを(実質的にダイマー酸及びダイマー酸金属塩の不存在下に)溶融押出機中で溶融混練して反応させる溶融混練工程(第2の溶融混練工程)を設けることができる。この第2の溶融混練工程は、ダイマー酸及び/又はダイマー酸金属塩が実質的に存在しないことのほかは第1の溶融混練工程と同様に行なってもよい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
(原料の準備)
繊維材料の製造にあたって、以下に示す原料を用意した。
【0083】
(1)エチレン・アクリル酸エチルランダム共重合体(EEA)
アクリル酸エチル(EA)由来の構成単位:34質量%、エチレン由来の構成単位:66質量%、MFR:25g/10分(190℃、2160g荷重、JIS K 7210−1999に準拠)
【0084】
(2)エチレン・アクリル酸エチルランダム共重合体の60%カリウムけん化物(EEA−K)
アクリル酸エチル(EA)由来の構成単位:34質量%、エチレン由来の構成単位:66質量%、MFR:5g/10分(230℃、10,000g荷重、JIS K 7210−1999に準拠)
EEA−Kは、共重合体中の全アクリル酸エチル由来の構成単位を100モル%とした場合の60モル%がカリウムでけん化されている。
【0085】
(3)エチレン・メタクリル酸ランダム共重合体の100%亜鉛アイオノマー(IO)
メタクリル酸由来の構成単位:15質量%、エチレン由来の構成単位:85質量%、MFR:7g/10分(230℃、10,000g荷重、JIS K 7210−1999に準拠)
IOは、アクリル酸由来の構成単位の全部が亜鉛で中和されている。
【0086】
(4)金属化合物
・水酸化カリウム
・酸化亜鉛
【0087】
(5)ダイマー酸
・ダイマー酸:ツノダイム395
(築野食品工業社製、成分組成:ダイマー酸76.2質量%、モノマー酸10質量%、トリマー酸13.8質量%)
【0088】
(押出機の準備)
押出機として、単軸のスクリューが内部に配設されたシリンダーと、シリンダー壁に取り付けられ、原料をシリンダー内部に供給するフィーダーと、シリンダー壁におけるフィーダーの樹脂押出方向下流側に取り付けられたダイマー酸噴出器とを備えた一軸混練押出機を用意した。
【0089】
(実施例1)
けん化物調製用素材樹脂(ベース樹脂)としてエチレン・アクリル酸エチルランダム共重合体(EEA)10kgと水酸化カリウム(KOH)1.14kgとを押出機にフィードし、合わせて押出機のシリンダー壁よりダイマー酸を1.5kg供給した。溶融混練中にEEAと水酸化カリウム(KOH)を反応させ、押出機先端のダイスからフィラメント状に押出し、押出された繊維を、引き取り速度5mと10mとでそれぞれ1時間引き取ることにより、重合体けん化物の繊維を得た。
このとき、1時間の引き取りの中で繊維が一度でも破断した場合は「×」とし、一度も破断しなかった場合を「○」として評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0090】
(比較例1)
実施例1において、ダイマー酸を加えない以外は実施例1と同様に行なった。評価結果を下記表1に示す。なお、引き取り速度5mで破断したので、引き取り速度10mの試験は中止した。
【0091】
(実施例2)
エチレン・アクリル酸エチルランダム共重合体の60%カリウムけん化物(EEA−K)10Kgを押出機にフィードし、押出機のシリンダー壁よりダイマー酸1.5kgを供給し、押出機先端のダイスからフィラメント状に押出した。押出された繊維を、引き取り速度5mと10mとでそれぞれ1時間引き取ることにより、重合体けん化物の繊維を得た。
このとき、1時間の引き取りの中で繊維が一度でも破断した場合は「×」とし、一度も破断しなかった場合を「○」として評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0092】
(比較例2)
実施例2において、ダイマー酸を加えない以外は実施例2と同様に行なった。評価結果を下記表1に示す。なお、引き取り速度5mで破断したので、引き取り速度10mの試験は中止した。
【0093】
(実施例3)
エチレン・不飽和カルボン酸ランダム共重合体の100%亜鉛アイオノマー(IO)を10kg押出機にフィードし、押出機のシリンダー壁よりダイマー酸1.3kgを供給した。押出機先端のダイスからフィラメント状に押出し、押出された繊維を、引き取り速度5mと10mとでそれぞれ1時間引き取ることにより、アイオノマーの繊維を得た。
このとき、1時間の引き取りの中で繊維が一度でも破断した場合は「×」とし、一度も破断しなかった場合を「○」として評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0094】
(比較例3)
実施例3において、ダイマー酸を加えない以外は実施例3と同様に行なった。評価結果を下記表1に示す。なお、引き取り速度5mで破断したので、引き取り速度10mの試験は中止した。
【0095】
【表1】

【0096】
前記表1に示すように、実施例では、比較例に比べ、繊維状に押出した際のちぎれ現象が防止されており、繊維状の材料を連続的に作製することができた。
【0097】
上記の態様に限られず、エチレン系共重合体としてエチレン・不飽和カルボン酸ランダム共重合体をダイマー酸存在下で溶融混練する場合にも例えば実施例1と同様の結果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体と金属化合物とを、ダイマー酸及びダイマー酸金属塩の少なくとも一方の存在下、溶融押出機中で溶融混練することにより反応させ、前記反応により生成したエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物を溶融押出機のダイスから繊維状に押出し、押出された繊維材料を回収する繊維材料の製造方法。
【請求項2】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物に、ダイマー酸及びダイマー酸金属塩の少なくとも一方を添加し、押出機中で溶融混練してダイスから繊維状に押出し、押出された繊維材料を回収する繊維材料の製造方法。
【請求項3】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化物と前記ダイマー酸及びダイマー酸金属塩との合計質量に対する、ダイマー酸及びダイマー酸金属塩の合計質量の比率が1〜50質量%である請求項1又は請求項2に記載の繊維材料の製造方法。
【請求項4】
前記エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸エステルは、不飽和カルボン酸の炭素数1〜8のアルキルエステルである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の繊維材料の製造方法。
【請求項5】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体及びエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸は、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の繊維材料の製造方法。
【請求項6】
押出された前記繊維材料を、引き取ることで回収する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の繊維材料の製造方法。
【請求項7】
押出された前記繊維材料を、所定の間隔で裁断してペレット状に加工する請求項6に記載の繊維材料の製造方法。

【公開番号】特開2012−219402(P2012−219402A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85686(P2011−85686)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】