説明

繊維束の連続メッキ処理方法および連続メッキ処理装置

【課題】
複数のフィラメントからなる繊維束を連続的にメッキ処理をし、各フィラメントが均一にメッキ金属により被覆されうるメッキ処理方法とメッキ処理装置を提供する。
【解決手段】
メッキ処理槽に設けられた通過口より該繊維束を導入し、該メッキ処理槽内のメッキ液を該通過口よりオーバーフローさせた状態で該繊維束をメッキ液に浸漬し、更に該メッキ処理槽内における該繊維束の通過経路が概ねメッキ液面と平行な面内にあり、該繊維束にかかる張力を常に一定としてメッキ処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束に対して連続的にメッキを施す方法と、その連続メッキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性繊維は、電磁波シールド材・静電気防止材・信号線などの用途で利用され、その製造方法としていくつかの方法が提案されている。代表的なものとして、カーボン粒子などの導電性フィラーをポリマーに混ぜ込んで繊維とする練り込みタイプの導電性繊維や、繊維の表面にメッキを用いて金属膜を形成したメッキタイプの導電性繊維があげられる。
【0003】
練り込みタイプの導電性繊維は、電気伝導度が低いという欠点があり、静電気防止材など限定された用途で使用されている。電磁波シールド材・信号線など高い電気伝導度が必要とされる用途には使用できなかった。
【0004】
一方、メッキタイプの導電性繊維は、導電性を金属膜で担保するため、高い電気伝導度が得られやすく、またメッキ条件を制御し金属析出量を操作する事で、電気伝導度のコントロールも容易に行う事ができるといった利点がある。
【0005】
メッキタイプの導電性繊維を得る手段として、これまでいくつかの方法が提案されている。それらはチーズ状に繊維束を巻き取った状態でメッキを行う方法と、繊維束をリール・トゥ・リールで走行させてメッキを行う方法に大別する事ができる。
【0006】
チーズ状でメッキを行う方法は、大量生産が可能という利点があるが、チーズの内層と外層とでメッキ状態が異なるなど、均一にメッキを施すことが難しい。また、原理上電気メッキに適用する事はできないという問題点がある。
【0007】
一方、リール・トゥ・リールでメッキを行う方法は、複数のフィラメントから構成される繊維束のフィラメント1本1本に対して均一にメッキを施す工夫が行われてきており、たとえば特許文献1には、繊維束に対し、固定案内ローラーと可動案内ローラーを用いて張りと緩みを繰り返し、繊維束をほぐしながらメッキを行う方法が開示されている。
【0008】
特許文献2には、炭素繊維の毛羽立ちを抑え、ロールへの絡みつきを減少させ、炭素繊維への安定した連続電気メッキを可能とする金属被覆炭素繊維の製造方法とその装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3954902号公報
【特許文献2】特開2005−163197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1のように、走行する繊維束が周期的に張りと緩みを繰り返すとメッキの析出状態が変化し、メッキのムラが発生してしまう。更に、緩んだ状態の時にフィラメントがもつれてしまい、フィラメント同士の絡まりや糸切れといった欠点が生ずる。装置としても、可動案内ローラーを周期的に移動させる機構が必要であるなど複雑な装置となる。複雑な機構である故、走行速度を上げた場合には可動案内ローラーの移動機構を、繊維の走行速度に追従させることが困難となることが予測される。また、同時に複数の繊維束を加工することで生産性を向上させようとすれば、可動案内ローラーの移動機構を各々の繊維束毎に用意することが必要となり、高コストとなる。
【0011】
特許文献2の方法と装置では、加撚されている繊維束の場合には均一なメッキを得ることができない。また、合成繊維などの非導電性繊維には直接電気メッキを施すことができないため適用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような点に鑑みて成されたものであり、その第一の要旨は、マルチフィラメントからなる繊維束を連続的にメッキ処理する方法において、メッキ処理槽に設けられた通過口より繊維束を導入し、該メッキ処理槽内のメッキ液を該通過口よりオーバーフローさせた状態で繊維束をメッキ液に浸漬し、更に該メッキ処理槽内における繊維束の通過経路が概ねメッキ液面と平行な面内にあり、繊維束にかかる張力を常に一定とすることを特徴とする繊維束の連続メッキ処理方法である。
【0013】
メッキ液に浸漬された状態で走行する繊維束にかかる張力が、繊維束の太さ1dtex当たりの張力として0.005〜1.000mNであることが好ましい。
【0014】
メッキ処理槽内を走行する繊維束に対して、メッキ液を繊維束の走行方向と平行な順方向または逆方向に流すことが好ましい。
【0015】
繊維束の通過経路が、メッキ液の液面の下方、1〜200mmの範囲であることが好ましい。
【0016】
繊維束の通過経路の長さが、0.1〜50mであることが好ましい。
【0017】
繊維束の撚り回数が、0〜100回/mの状態でメッキ処理を行うことが好ましい。
【0018】
本発明の第二の要旨は、繊維束を導入すると共にメッキ液をオーバーフローさせる通過口を設けたメッキ処理槽を有し、該メッキ処理槽内における繊維束の通過経路をメッキ液面と概ね平行な面内とする取り回し手段と、該メッキ処理槽内のメッキ液を繊維束の走行方向と平行な順方向又は逆方向に流して該通過口よりオーバーフローさせる整流手段とを有することを特徴とする繊維束の連続メッキ処理装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、非常にシンプルな構造の連続メッキ処理装置により、繊維束を構成する各フィラメント一本一本を均一な金属膜で被覆した導電性繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の繊維束の連続メッキ処理方法の一例を示す図である。
【図2】図2は本発明の繊維束の連続メッキ処理方法の別の一例を示す図である。
【図3】図3は本発明の繊維束の連続メッキ処理方法の更に別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いながら本発明の連続メッキ処理方法と連続メッキ処理装置について詳細に説明をする。
【0022】
図1に示すように、メッキ処理槽1に設けられた通過口21より繊維束3をメッキ処理槽1内に導入する。繊維束3はメッキ処理槽1内を走行し、もう一方の通過口22より取り出される。この時、メッキ処理槽1内のメッキ液を通過口21、22よりオーバーフローさせた状態とする。繊維束3の導入・取り出し口をも兼ねる通過口21、22からメッキ液をオーバーフローさせることにより、繊維束3を上下方向に取り回しすることなく、確実にメッキ液に浸漬することができる。
【0023】
通過口21、22の形状や大きさは特に限定するものではない。メッキ処理を行う繊維束3の太さなどをもとに、適宜設定すればよい。通過口21、22が小さければ、少ないオーバーフロー量であっても通過させる繊維束3の位置よりも高い位置にメッキ液の液面を保つことができるので、確実に繊維束3をメッキ液中に浸漬することができる。更に、メッキ液の循環量を少なく抑えて消費量を削減することができるので、製造コストの削減も可能となる。一方、メッキ液濃度は析出反応に伴って刻々と変化するが、メッキ液濃度を均一に保つためには、メッキ液の循環量が多い方がコントロールしやすい。そこで通過口21、22の位置、大きさ、形状は、繊維束3の形状や目標とするメッキの厚み、メッキ金属の種類などを考慮して、最適のメッキ液循環量となるように設定することができる。
【0024】
メッキ処理槽1内における繊維束3の通過経路が直線状である図1に示す本発明の一例によれば、不要なガイドローラー・ガイドプーリーなどを削減することもできる。一般的に、ローラーやプーリー等に繊維束を接触させると、繊維束が損傷する原因となり得る。また、ローラーやプーリー等を介することで、不要な張力を繊維束に与え、メッキ析出性を損なう結果を招く。直線状に繊維束の通過経路をとることで、ローラーやプーリー等を廃し、繊維束に対して高品位なメッキ処理を施すことが可能となる。図2の様に複数本の繊維束を同時にメッキ液に浸漬させて並列加工を行ってもよい。この方法によって、生産性の向上を図ることができる。
【0025】
メッキ処理時間を長く確保する必要がある場合には、通過経路が上記のような直線状ではなく、例えば図3に示す本発明の別の一例のように蛇行した通過経路をとってもよい。ただし、この場合にも、繊維束の通過経路はメッキ液の液面と概ね平行であることが必要である。従来のリール・トゥ・リールタイプの連続メッキ処理槽の構造で一般的となっている、上下方向にローラーやプーリーを配置し、その間に繊維束を上下に走行させるという構造では、繊維束の自重による張力が発生し、繊維束が締まりやすくなる。結果としてメッキ処理槽内で繊維束にかかる張力が一定ではなく、均一なメッキ処理を行えない。
【0026】
メッキ液の液面と概ね平行に、繊維束の通過経路をとることで、メッキ処理槽の深さは極力浅くすることが可能となる。従って、図3のようにプーリーを用いて蛇行走行させる通過経路をとったとしても、プーリーは必要最小限の厚みのものとし、軽量化することができる。プーリーを軽量化できれば、繊維束にかかる張力のバラツキを最小限に抑えることが可能である。
【0027】
メッキ処理槽内で、メッキ液に浸漬している繊維束にかかる張力は、繊維束の太さ1dtex当たりの張力として0.005〜1.000mNとすることが好ましい。繊維束にかかる張力をこの範囲内とすることで、メッキ液中での繊維束を適度に開繊させることができる。繊維束を開繊することによって、メッキの析出性を安定化することができ、フィラメント一本一本に均一なメッキを施すことができる。繊維束の太さ1dtex当たりの張力が1.000mN以上の場合には、繊維束が締まった状態となり、メッキ液がフィラメント一本一本に十分接触できずに、メッキの均一性が阻害される。また、繊維束の太さ1dtex当たりの張力が0.005mN未満の場合には、繊維束が開繊しすぎてフィラメント同士がもつれ、繊維束を損傷する虞があり、場合によってはフィラメントが切断する虞さえある。
【0028】
メッキ処理槽内の繊維束にかかる張力を制御する方法は特に限定されないが、例えばセンサーで読み取った繊維束の張力を駆動ロールにフィードバックするような電気的な制御が好ましい。簡易な方法として、機械式ばねを利用した、糸加工・編織機で一般的に使用されているテンサーを用いる方法も有効である。
【0029】
メッキ処理槽内を通過する繊維束に対して、メッキ液を繊維束の走行方向と平行な順方向又は逆方向に流すことが好ましい。このようなメッキ液の流れを作り出すことで、メッキ液中の繊維束の開繊の程度を更に安定化させることができる。繊維束の走行方向と平行ではない方向(例えば直角方向)の流れがある場合には、繊維束が必要以上に開繊することとなり、フィラメント同士がもつれて繊維束の損傷を招く虞がある。
【0030】
繊維束の通過経路が直線状となる図1の様なメッキ処理槽の場合には、図示しないメッキ液の循環装置によってメッキ処理槽内にメッキ液が供給されることにより、オーバーフローしている通過口に向かってメッキ液の流れが発生するので、メッキ処理槽内に繊維束の走行方向と平行な順方向又は逆方向にメッキ液の流れを作り出すことは容易い。図3の様にプーリー等によって繊維束の通過経路が蛇行している場合には、部分的に直線状となっている繊維束の両側にメッキ液の整流板を配置させ、循環するメッキ液の供給部を繊維束走行の上流側(又は下流側)に設置すれば、繊維束の走行方向の下流側(又は上流側)に向かって走行方向と平行な順方向又は逆方向のメッキ液の流れを作り出すことができる。
【0031】
本発明においては、繊維束の通過経路がメッキ液の液面の下方、1〜200mmの範囲にあることが好ましい。この範囲の深さに繊維束の通過経路を置くことで、その走行異常を肉眼やセンサーで容易に感知することができる。メッキ液の処方によっても異なるが、メッキ液の吸光性により、深さ200mmを超えるとメッキ液中のメッキ対象物が光では観察し難くなる。従来のリール・トゥ・リールタイプのメッキ槽の多くは、上下方向にローラーやプーリーを配置し、その間に繊維束を蛇行走行させる方式であるため、繊維束の通過経路はメッキ液の液面から深い位置になり、繊維束の走行状態に異常が発生してもそれを肉眼やセンサーで感知することが困難であった。しかし、本発明によれば、繊維束のメッキ処理中、常に繊維束の走行状態を肉眼やセンサーで確認する事ができる。もし走行に異常が発生しても、容易にそれを発見し、速やかに対処する事ができる。
【0032】
更に、上下方向にローラーやプーリーを配置し、その間に繊維束を蛇行走行させるという構造である従来のリール・トゥ・リールタイプのメッキ槽の場合は、加工前のセッティングとして、ローラーやプーリーの上部と下部に繊維束を通す必要があり、作業が煩雑であった。しかし、本発明によれば、繊維束を通過口に通し、必要であれば浅い位置に配されたプーリー間に繊維束を通すだけでよく、セッティング作業は非常に容易である。
【0033】
本発明において、繊維束の通過経路の長さが、0.1〜50mであることが好ましい。単位時間当たりの析出量はメッキ液の処方によって異なるが、望むべき加工速度から、必要な通過経路長を求めることができる。すなわち、加工速度が遅い場合は短い通過経路であっても十分なメッキ析出量を得ることができるし、早い加工速度を望む場合は長い通過経路が必要となる。通過経路の長さが0.1m未満であると、メッキ液の処方によらず十分なメッキ析出量を得ることが困難となる。また、通過経路の長さが50mを超えると、繊維束の走行状態が不安定となるばかりでなく、繊維束にかかる張力も大きくなりすぎる虞がある。
【0034】
本発明において、繊維束の撚り回数が0〜100回/mの状態でメッキ処理を行うことが好ましい。撚り回数が100回/m未満であると、メッキ液に浸漬された繊維束を適度に開繊することができる。撚り回数が100回/mを超えると、メッキ処理槽内で繊維束が十分に開繊されず、均一な金属膜が得られない虞がある。撚り回数が100回/m以上の繊維束であっても、メッキ処理槽内に導入する直前に公知の解撚方法で所定の撚り回数にすることで、本発明を適用することができる。
【0035】
上記で説明した様に、メッキ処理時は無撚もしく低撚の状態が好ましいが、メッキ処理後に導電性繊維として使用する際には繊維束を追撚させた方が優れた性能を発揮するのでより好ましい。無撚もしく低撚の状態ではフィラメントがばらけやすく形状が不安定であるが、追撚することでフィラメントがまとまり形状が安定となる。また追撚により隣り合うフィラメント間で電気的に並列回路の形成が促進され、電気伝導度が低くなる。更には形状が変化した時の電気伝導度の低下を抑えるができる。
【0036】
本発明でメッキ処理される繊維束に用いられる繊維素材としては、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン66など)、アラミド、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系、ポリウレタン系などの合成繊維、セルロース系(ジアセテート、トリアセテートなど)、蛋白質系(プロミックスなど)などの半合成繊維、セルロース系(レーヨン、キュプラなど)、蛋白質系(カゼイン繊維など)などの再生繊維を挙げることができる。なかでも、加工時の薬品に対する安定性および導電性繊維としての強度等を考慮すると合成繊維が好ましい。
【0037】
本発明では、上記繊維素材からなるフィラメント糸を用いた繊維束を連続的にメッキ処理することができる。その際、上記の繊維素材からなるフィラメント糸を単独でそろえて繊維束とすることもできるし、2種以上の繊維素材からなるフィラメント糸を混合して一本の繊維束とすることもできる。繊維束の形状や繊度、フィラメント数やウーリー加工などの付帯加工の有無については特に問わない。
【0038】
本発明は、電気メッキであっても無電解メッキであっても適用が可能である。炭素繊維などの一部の材料を除いて、一般的に繊維束は非導電性であるため、第一段階として無電解メッキを行う必要がある。無電解メッキを施すためには、その核となるメッキ触媒を付与しなければならないが、本発明においては、前処理として公知のメッキ触媒付与方法を用いることができる。
【0039】
メッキ処方についても特に限定するものではなく、公知の湿式メッキ処方を用いることができる。すなわち、電気メッキ、無電解メッキなどの化学メッキ、置換メッキなどを用いることができる。
【0040】
金属膜を形成するメッキ金属としては、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、およびそれらの合金などを挙げることができるが、導電性および製造コストを考慮すると、銅、ニッケルが好ましい。これらの金属によって形成される被膜は1層あるいは2層であることが好ましい。金属被膜を2層に積層する場合は、同種の金属を2層に積層してもよく、また、異なる金属を積層してもよい。これらは、求められる導電性や耐久性を考慮して適宜に設定すればよい。
【0041】
本発明は、繊維束のメッキ加工に有効であるだけではなく、その前処理・後処理にも有効である。メッキの前処理・後処理の多く、例えば無電解メッキ前に行うプライマー付与、コンディショニング、キャタライジング、アクセラレーティングなどの加工についても、メッキ液を所定の加工液に変更することで適用可能である。前処理・後処理においても、繊維束のフィラメント1本1本に加工液を浸漬させることが、これらの加工のポイントであるからである。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を挙げ本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0043】
[テープ剥離試験]
日東電工株式会社製包装用粘着テープNo.3305を試料に貼り付け、上から質量2kg、直径120mm、円周幅25mmの金属製ローラーを10ストロークさせて押さえつけた後、粘着テープを粘着面に対して120°の角度でゆっくり剥離し、剥離後の粘着テープ面に付着したメッキ金属の量を肉眼で確認する。
○・・・剥離がまったくない
△・・・剥離は認められないが、金属面に僅かに損傷がある
×・・・剥離があり、繊維束の表面が露出している
【0044】
[実施例1]
繊維束には、太さ1670dtexでフィラメント本数1000本のアラミド繊維束を用いた。撚り回数は2〜3回/mであった。前処理は公知の無電界メッキ前処理方法である、パラジウム−スズコロイドを用いた触媒付与処方を用いた。無電解銅メッキ液は、塩化銅第二水和物9g/L、キレート剤20g/L、水酸化ナトリウム(32%)30mL/L、ホルマリン(37%)9mL/L、少量の界面活性剤と安定剤をイオン交換水に溶解し、液温を50℃として使用した。メッキ槽として長さ3m、奥行き30cm、深さ5cmのものを用いた。繊維束は1本のみを直線状で走行させた。通過口は幅1cm×高さ2cmの長方形とし、加工中はこの通過口よりメッキ液をオーバーフローさせた。繊維束の通過経路は3m、加工スピードは35m/hとした。繊維束にかかる張力を測定したところ、繊維束の太さ1dtex当たり0.030mNであった。上記条件で無電解銅メッキを行い導電性繊維を得た。得られた導電性繊維の金属層を酸で溶解し、原子吸光法で金属量を測定した所、アラミド繊維束には112mg/mの銅が付与されていた。また、繊維束の電気抵抗値を測定した所、3.0Ω/mであった。無電解銅メッキ後の試料をテープ剥離試験によってメッキ密着性を評価したところ、剥離せず良好な密着性を示した。
【0045】
[実施例2]
メッキ槽内にプーリーを配して繊維束を11ターンの蛇行走行とし、通過経路を30m、加工スピードを90m/hとした以外は実施例1と同様にして導電性繊維を得た。繊維束にかかる張力は、繊維束の太さ1dtex当たり0.036mNであった。得られた導電性繊維について、銅の付与量は500mg/m、電気抵抗値は0.6Ω/mであった。テープ剥離試験による評価では、メッキ金属が剥離せず良好な密着性を示した。
【0046】
[実施例3]
繊維束として太さ1100dtex、フィラメント本数192本のPET繊維を用い、加工スピードを300m/hとした以外は実施例2と同様にして導電性繊維を得た。繊維束の太さ1dtex当たりにかかる張力は、0.055mNであった。得られた導電性繊維について、銅の付与量は70mg/m、電気抵抗値は5.0Ω/mであり、テープ剥離試験による評価では、金属面に僅かに亀裂があるものの、剥離せず良好な密着性を示した。
【0047】
[実施例4]
繊維束として太さ500dtex、フィラメント本数144本のウーリー加工を施したPET繊維を用い、加工スピードを100m/hとした以外は実施例2と同様にして導電性繊維を得た。繊維束の太さ1dtex当たりにかかる張力は0.030mNであった。得られた導電性繊維について、銅の付与量は100mg/m、電気抵抗値は2.0Ω/mであった。テープ剥離試験による評価では、メッキ金属が剥離せず良好な密着性を示した。
【0048】
[実施例5]
加工スピードを18m/hとし、繊維束の太さ1dtex当たりにかかる張力を0.599mNとした以外は実施例1と同様にして導電性繊維を得た。得られた導電性繊維について銅の付与量は210mg/m、電気抵抗値は4.0Ω/mであった。テープ剥離試験による評価では、金属面に僅かに亀裂があるものの、剥離せずに良好な密着性を示した。
【0049】
[実施例6]
無電解銅メッキ液に替えて無電解ニッケルメッキ液を用い、加工スピードを9m/hとした以外は実施例1と同様にして導電性繊維を得た。無電解ニッケルメッキ液は、硫酸ニッケル六水和物18g/L、キレート剤20g/L、次亜リン酸ナトリウム一水和物15g/L、適量のpH調整剤をイオン交換水に溶解し、液温を50℃として使用した。繊維束の太さ1dtex当たりにかかる張力は0.030mNであった。得られた導電性繊維について、ニッケルの付与量は130mg/m、電気抵抗値は30Ω/mであった。テープ剥離試験による評価では、メッキ金属が剥離せず良好な密着性を示した。
【0050】
[比較例1]
メッキ液の供給をせず、メッキ槽の通過口からメッキ液をオーバーフローさせない状態で実施例1と同様にして導電性繊維を得た。加工中、繊維束はメッキ液の表面に接触したり離れたりしながら走行していた。得られた導電性繊維について銅の付与量は60mg/m、電気抵抗値は110Ω/mであり、メッキ金属の付与状態は均一ではなく、フィラメントの一部にはメッキ金属が付与されずに繊維が露出している箇所がみられた。また、テープ剥離試験による評価では、ムラ付きしたメッキ金属が剥離し密着性は不良であった。
【0051】
実施例および比較例の評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【符号の説明】
【0053】
1 メッキ処理槽
21、22 通過口
3 繊維束
5 プーリー
6 整流板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチフィラメントからなる繊維束を連続的にメッキ処理する方法において、メッキ処理槽に設けられた通過口より該繊維束を導入し、該メッキ処理槽内のメッキ液を該通過口よりオーバーフローさせた状態で該繊維束をメッキ液に浸漬し、更に該メッキ処理槽内における該繊維束の通過経路が概ねメッキ液面と平行な面内にあり、該繊維束にかかる張力を常に一定としてメッキ処理することを特徴とする繊維束の連続メッキ処理方法。
【請求項2】
メッキ液に浸漬中の該繊維束にかかる張力が、該繊維束の太さ1dtex当たりの張力として0.005〜1.000mNであることを特徴とする請求項1に記載の繊維束の連続メッキ処理方法。
【請求項3】
該メッキ処理槽内を走行する該繊維束に対して、メッキ液を該繊維束の走行方向と平行な順方向または逆方向に流すことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の繊維束の連続メッキ処理方法。
【請求項4】
該繊維束の通過経路が、メッキ液の液面の下方、1〜200mmの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維束の連続メッキ処理方法。
【請求項5】
該繊維束の通過経路の長さが、0.1〜50mであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維束の連続メッキ処理方法。
【請求項6】
該繊維束の撚り回数が、0〜100回/mの状態でメッキ処理を行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維束の連続メッキ処理方法。
【請求項7】
繊維束を導入すると共にメッキ液をオーバーフローさせる通過口を設けたメッキ処理槽を有し、該メッキ処理槽内における該繊維束の通過経路をメッキ液面と平行な面内とする取り回し手段と、該メッキ処理槽内のメッキ液を該繊維束の走行方向と平行な順方向または逆方向に流して該通過口よりオーバーフローさせる整流手段とを有することを特徴とする繊維束の連続メッキ処理装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−153365(P2011−153365A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16693(P2010−16693)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】