繊維架橋体および繊維架橋体の製造方法
【課題】生分解性、生体適合性および吸湿・吸水性に優れるとともに、水に溶解しない耐水性を備えた繊維架橋体および繊維架橋体の製造方法を提供すること。
【解決手段】分子量20万以上のポリグルタミン酸ナトリウムと高分子架橋剤とを原料として用いた繊維が架橋されてなることを特徴とする繊維架橋体。高分子架橋剤としては、オキサゾリン基を有する重合体またはエポキシ基を有する重合体であることが好ましい。製造方法としては、これらの原料を混合した溶液を静電紡糸法により紡糸して繊維および繊維集合体を形成する紡糸形成工程と、前記繊維および前記繊維集合体に加熱処理を施して繊維架橋体を形成する加熱工程と、を備える。
【解決手段】分子量20万以上のポリグルタミン酸ナトリウムと高分子架橋剤とを原料として用いた繊維が架橋されてなることを特徴とする繊維架橋体。高分子架橋剤としては、オキサゾリン基を有する重合体またはエポキシ基を有する重合体であることが好ましい。製造方法としては、これらの原料を混合した溶液を静電紡糸法により紡糸して繊維および繊維集合体を形成する紡糸形成工程と、前記繊維および前記繊維集合体に加熱処理を施して繊維架橋体を形成する加熱工程と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維架橋体および繊維架橋体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグルタミン酸は、納豆の糸として古くから知られており、生分解性、生体適合性、高吸水性に優れた樹脂として注目されている。近年では、このポリグルタミン酸を工業的に製造することが可能となっている。
例えば、ポリグルタミン酸を架橋したゲルを化粧品などの保湿剤として使用したり、ポリグルタミン酸を含有した繊維が知られている(例えば、特許文献1〜3)。
特許文献1には、ポリ−γ−グルタミン酸を含浸させた繊維が開示されている。
特許文献2には、ポリグルタミン酸を化学架橋してなるゲルが開示されている。
特許文献3には、ポリグルタミン酸を含む高分子をナノファイバー化した繊維を用いた医用材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3737749号公報
【特許文献2】特開平10−251402号公報
【特許文献3】特開2004−321484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、既存の繊維製品にポリ−γ−グルタミン酸を含浸させているため、繊維製品におけるポリ−γ−グルタミン酸の含有量が少ない。また、基本的に、繊維の特性は加工する繊維素材の特性に依存し、ポリグルタミン酸の生分解性等の特徴を繊維としては有していない。
また、特許文献2は、ポリ−γ−グルタミン酸架橋体からなるゲル状の吸水性樹脂は吸水性に優れるものの、ナノファイバー状のものは得られていない。一方、特許文献3では、単なるポリグルタミン酸を用いた繊維からなる不織布は水を含んだ状態で長時間経過すると水溶化してしまい、繊維としての役割を果たせない可能性があった。
【0005】
本発明の目的は、生分解性、生体適合性および吸湿・吸水性に優れるとともに、水に溶解しない耐水性を備えた繊維架橋体および繊維架橋体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のような繊維架橋体および繊維架橋体の製造方法を提供するものである。
(1)本発明の繊維架橋体は、縮合性の官能基を含有する親水性化合物と高分子架橋剤とを原料として繊維状に架橋され、下記式(1)で表される架橋度が20%以上であることを特徴とする。
架橋度(%)=MA/MB×100 …(1)
(式(1)中、MAは繊維架橋体を水に浸漬した後乾燥させた繊維架橋体の質量を表し、MBは繊維架橋体を水に浸漬する前の繊維架橋体の質量を表す。)
(2)上記した(1)に記載の繊維架橋体において、前記縮合性の官能基を含有する親水性化合物は、ポリグルタミン酸であることが好ましい。
(3)上記した(1)または(2)に記載の繊維架橋体において、前記高分子架橋剤は、オキサゾリン基を有する重合体であることが好ましい。
(4)上記した(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維架橋体において、前記高分子架橋剤は、エポキシ基を有する重合体であることが好ましい。
(5)上記した(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維架橋体において、モノマー架橋剤でさらに架橋処理されたことが好ましい。
(6)上記した(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維架橋体において、収斂剤でさらに収斂処理されたことが好ましい。
(7)上記した(1)〜(6)のいずれかに記載の繊維架橋体において、前記繊維の径寸法は、0.01μm以上3μm以下であることが好ましい。
(8)上記した(1)〜(7)のいずれかに記載の繊維架橋体において、前記繊維は、繊維集合体を構成していることが好ましい。
(9)本発明の繊維架橋体の製造方法は、前記縮合性の官能基を含有する親水性化合物および高分子架橋剤を含有する溶液を静電紡糸法により紡糸して繊維および繊維集合体を形成する紡糸形成工程と、前記繊維および前記繊維集合体に加熱処理を施して繊維架橋体を形成する加熱工程と、を備えたことを特徴とする。
(10)上記した(9)に記載の繊維架橋体の製造方法において、前記加熱工程の後に、モノマー架橋剤でさらに架橋処理を施す架橋処理工程と収斂剤でさらに収斂処理を施す収斂処理工程のうち少なくともいずれか一方を備えたことが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
生分解性、生体適合性および吸湿・吸水性に優れるとともに、吸湿・吸水した場合に水に溶解しない耐水性を備えた繊維架橋体および繊維架橋体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1における繊維架橋体の試験前の拡大写真。
【図2】実施例1における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図3】実施例1における繊維架橋体の耐水試験後の拡大写真。
【図4】実施例2における繊維架橋体の試験前の拡大写真。
【図5】実施例2における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図6】実施例3における繊維架橋体の試験前の拡大写真。
【図7】実施例3における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図8】実施例4における繊維架橋体の試験前の拡大写真。
【図9】実施例4における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図10】実施例5における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図11】実施例5における繊維架橋体の耐水試験後の拡大写真。
【図12】実施例6における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図13】実施例6における繊維架橋体の耐水試験後の拡大写真。
【図14】実施例7における繊維架橋体の試験前の拡大写真。
【図15】実施例7における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図16】実施例7における繊維架橋体の耐水試験後の拡大写真。
【図17】比較例1における繊維架橋体の試験前の拡大写真。
【図18】比較例1における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図19】本実施例における繊維架橋体の耐水試験の写真。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態では、縮合性の官能基を含有する親水性化合物、高分子架橋剤および助剤を含む溶液を静電紡糸法により紡糸して繊維および繊維集合体を形成し、この繊維および繊維集合体に架橋処理を施して繊維架橋体を形成する。
【0010】
(1・原料)
(1−1.縮合性の官能基を含有する親水性化合物)
縮合性の官能基とは、縮合反応により高分子架橋剤が有する官能基と反応しうる官能基をいう。例えば、アミノ基、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、シラノール基、エステル基、アミド基などが挙げられる。高分子架橋剤が有する官能基がオキサゾリン基である場合は、その反応性が高いことからカルボキシル基を用いることが望ましい。
【0011】
このような縮合性の官能基を含有する親水性化合物の例としては、縮合性官能基を含有する脂肪族、芳香族などの低分子有機化合物、高分子化合物、ビニルモノマー、金属錯体、生体由来化合物など多種多様なものを挙げることができる。低分子有機化合物の例としては、エタノール、エチレングリコール、グリセロールなどの水酸基含有化合物、エチレンジアミンなどのアミノ基含有化合物、酢酸、マレイン酸、フタル酸などのカルボキシル基含有化合物などを挙げることができる。高分子化合物としては、セルロースなどの水酸基含有高分子、ポリエチレンイミンなどのアミノ基含有高分子、ポリ(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸を含有する種々の共重合体などのカルボキシル基含有高分子などを挙げることができる。また生体由来化合物としては、アミノ酸全般、タンパク質、キトサンなどのセルロース誘導体、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などの保湿性高分子、油脂、ビタミン類、その他の生理活性物質などを挙げることができる。好ましくは、アミノ酸、キトサン、セルロース誘導体、ヒアルロン酸が挙げられる。特に好ましくは、ポリグルタミン酸である。
【0012】
本実施形態では、縮合性の官能基を含有する親水性化合物としてポリグルタミン酸塩を用いる。ポリグルタミン酸は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸が直鎖状に連結した高分子で、生分解性、生体適合性などの特性を備えている。
ポリグルタミン酸塩としては、分子量が20万以上であれば特に限定されず、公知の製法で得られたもの、天然物由来のもの等を使用することができる。分子量が20万未満であると、静電紡糸法で繊維化する際に粒子しか生成されず、繊維化することが困難となるおそれがある。ポリグルタミン酸はD体、L体、または種々の誘導体を用いることができる。これらのうち、吸水・保水性があり、工業的に安定的に得られる点からポリ−γ−グルタミン酸ナトリウムを好適に用いることができる。
【0013】
(1−2.高分子架橋剤)
高分子架橋剤は、ポリグルタミン酸のカルボキシル基と架橋可能な高分子として、オキサゾリン基を有する高分子架橋剤またはエポキシ基を有する高分子架橋剤を用いることができる。
オキサゾリン基を有する高分子架橋剤としては、下式一般式(1)で表される2−オキサゾリン基を有するビニルモノマーと必要に応じて1種以上の他のビニルモノマーを重合して得られるものを挙げることができる。
【0014】
【化1】
【0015】
上式中、Xは水素原子またはメチル基を表し、R1,R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フェニル基、置換フェニル基またはハロゲン基を表す。
2−オキサゾリン基を有するビニルモノマーの具体例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリンなどが挙げられる。中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0016】
2−オキサゾリン基を有するビニルモノマーと共重合する他のビニルモノマーとしては、2−オキサゾリン基と反応しない、共重合可能なビニルモノマーであれば特に限定はない。例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチルおよびその塩類などの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどの不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの含ハロゲンモノマー、スチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウムなどの芳香族官能基含有モノマーなどが挙げられ、これらの1種以上の混合物を使用することができる。
オキサゾリン基を有する重合体の重合方法については特に制限はなく、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合などの各種の重合法が任意に選択できる。
【0017】
エポキシ基を有する高分子架橋剤としては、例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0018】
高分子架橋剤の配合量は、ポリグルタミン酸に対して固形分比で0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。高分子架橋剤の配合量が0.1質量%未満であると架橋が不十分となり、形成された繊維架橋体は水に溶解してしまうおそれがある。また、高分子架橋剤の配合量が50質量%を超えるとポリグルタミン酸ナトリウムの特性(生分解性、生体適合性、吸湿・吸水性、保水性)が損なわれるおそれがある。
【0019】
このような高分子架橋剤は、加熱処理を施すことによりポリグルタミン酸ナトリウムと架橋させることができる。特に、固体状態でも熱架橋するため、繊維を保持したまま架橋度を高めることができる。また、必要に応じて電子線架橋、紫外線架橋、放射線架橋、およびグルタルアルデヒド架橋剤に浸漬するなどの公知の架橋処理を併用してもよい。
【0020】
(1−3.助剤)
必要に応じて、各種助剤を添加してもよい。
例えば、塩酸、酢酸、シュウ酸、りんご酸、クエン酸などの酸で溶液を酸性にすると、ポリグルタミン酸とオキサゾリン基またはエポキシ基との反応が促進される。すなわち、ポリグルタミン酸ナトリウムと高分子架橋剤との反応を促進する。これにより繊維架橋体の耐水性が向上する。
このような酸の配合量は、配合溶液が酸性になる量を加える必要があり、pH7以下が好ましく、pH5以下がより好ましい。なお、pH7を超えると架橋反応が進まなくなる可能性がある。
【0021】
また、必要に応じてバインダーを配合してもよい。ここで用いられるバインダーとしては公知のものが使用可能で、例えば、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリプロリレンオキサイド、ポリエチレンイミド、ポリアニリン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、シリコーン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンサルファイド、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリエチレンテレフタレート、など溶媒に溶解可能な合成高分子が挙げられる。また、コラーゲン、ゼラチン、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、セリシン、フィブロイン、核酸、ヒアルロン酸、エラスチン、ヘパリン、カテキンなどの天然高分子も使用することが出来る。さらに、オルガノシリカやオルガノチタンなどのゾル溶液も挙げられる。
【0022】
さらに、ポリグルタミン酸塩を溶解せしめる溶媒には、水と水溶性有機溶媒が用いられる。特に、ポリグルタミン酸ナトリウムは水に可溶であるが、静電紡糸する際の紡糸性を向上させるため、水溶性有機溶媒と併用する。
水溶性有機溶媒としてはポリグルタミン酸塩水溶液と混合しうるものが適宜選択される。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類以外にも、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどを用いることができる。この中でも、取り扱いが容易かつ経済的である点で、特に、炭素数1〜3の脂肪族低級アルコールであるメタノール、エタノール、プロパノールを用いることが好ましい。これらは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
そして、必要に応じて、界面活性剤、金属塩、増粘剤、色剤、防腐剤、各種安定剤を適宜使用することができる。
界面活性剤としては、特に制限はなく、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤といった公知の界面活性剤を使用することができ、具体的には、p−ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルオキシスルホン酸ナトリウム、ラウリルオキシリン酸二ナトリウム等のアニオン界面活性剤や、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド等のカチオン界面活性剤や、ステアリン酸ポリエチレングリコール、ペンタエリスリットステアリン酸モノエステル等のノニオン界面活性剤や、ラウリルジメチルペタイン等の両性界面活性剤が挙げられ、これらの一種を単独で、または、二種以上を組み合わせて使用することができる。
金属塩としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物などの金属塩が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、メチルセルロースやヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、各種ガム類やペクチン、アルギン酸ソーダ、デキストリン、寒天、ゼラチン等の天然高分子増粘剤が挙げられる。
【0024】
(2.製造方法)
ポリグルタミン酸塩としてポリグルタミン酸ナトリウムを用い、高分子架橋剤および助剤を溶媒とともに所定の配合比で混合して溶液を調整する。
そして、調整された溶液を帯電させることにより紡糸する静電防止法(エレクトロスピニング法)で繊維および繊維集合体を形成する。
次に、繊維集合体に加熱処理を施すことにより繊維架橋体を形成する。なお、必要に応じて電子線架橋、紫外線架橋、放射線架橋、グルタルアルデヒド架橋剤に浸漬するなどの公知の架橋処理を併用してもよい。
【0025】
また、上述の架橋処理によって形成された繊維架橋体に対して、モノマー架橋剤を用いてさらに架橋処理を行う。モノマー架橋剤としては、例えば、ジベニルベンゼン、グルタルアルデヒド、ジアクリレート、ジメタクリレートが挙げられる。これによれば、吸湿しても溶解しにくく、より繊維状の形態を保持することのできる繊維架橋体を提供することができる。
さらに、この繊維架橋体に対して、収斂剤を用いて収斂処理を行う。収斂剤としては、例えば、ミョウバン、タンニン、柿渋、ビスマス等が挙げられる。これによれば、吸湿しても溶解しにくく、より繊維状の形態を保持することのできる繊維架橋体を提供することができる。
なお、これらの架橋処理および収斂処理はいずれか一方のみを行ってもよいし、両方を行ってもよい。
【0026】
このようにして形成された繊維集合体および繊維架橋体を構成する繊維は、その径が、0.01μm以上3μm以下となる。なお、繊維径のより好ましい範囲は0.05μm以上1.8μm以下である。繊維径が3μmを超えると、超極細繊維としての特徴であるフィルター性能および表面積による吸水性が低下し、風合い的にもゴアゴア感が生じてくる可能性がある。一方繊維径が0.01μm未満であると、生産性、強度、取り扱いに問題が生じる可能性がある。
したがって、繊維径を上記範囲内とすることにより、繊維集合体および繊維架橋体の表面積を大きくすることができ、繊維間に多数の細孔が形成される。これは、細孔に水分が取り込まれやすく、取り込まれた水分は流出しにくい構造となるため、吸水性と保水性に優れた繊維集合体および繊維架橋体とすることができる。
【0027】
(3.本実施形態の作用効果)
以上の実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
本実施形態では、ポリグルタミン酸は生分解性および生体適合性に優れているので、ポリグルタミン酸ナトリウムを用いた溶液を紡糸して得られるポリグルタミン酸からなる繊維架橋体は、生分解性および生体適合性に優れる。
【0028】
また、本実施形態では、ポリグルタミン酸ナトリウムと高分子架橋剤とを含む溶液を静電紡糸法により紡糸し、繊維集合体を形成させた。静電紡糸法によれば、電荷の高まりにより糸の細化を促進し、この細化に伴い溶媒の揮散が進むため、極細繊維を得ることができる。これによれば、繊維架橋体に浸入してきた水分と接触する表面積が大きくなるため、吸湿・吸水性に優れる。また、極細繊維であるため、繊維集合体としての風合い、柔軟性に優れる。さらに、本実施形態では、溶媒として水および水溶性有機溶媒を用いることができるため、経済的かつ取り扱いや製造を容易に行うことができる。
【0029】
そして、本実施形態では、ポリグルタミン酸ナトリウムに高分子架橋剤を配合した。この混合溶液を静電紡糸法により紡糸して繊維および繊維集合体を形成した。この繊維および繊維集合体に対して加熱処理を施す。架橋は、加熱によりポリグルタミン酸のカルボキシル基と高分子架橋剤の官能基と開環重合することで生じ、繊維架橋体が形成される。このようにして得られる繊維架橋体は、ポリグルタミン酸と高分子架橋剤の官能基とが架橋しているため、水溶化しにくい。したがって、吸湿・吸水した状態で長時間経過したとしても、水溶化せず耐水性に優れた製品を提供することができる。
また、本実施形態では、繊維および繊維集合体を加熱処理するのみで繊維架橋体を形成することができるので、処理工程としても加熱設備を設けるだけなので、経済的に有利である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の効果を実施例および比較例により確認する。なお、本発明のその要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
ポリグルタミン酸ナトリウムとして味丹社製「HM−NaFORM」(分子量130万Da)、オキサゾリン基含有高分子架橋剤の25%水溶液として日本触媒社製「WS−770」、エポキシ基含有高分子架橋剤として日本油脂社製「エピオールE−400」を用い、以下の実施例1〜7および比較例1〜3に示す配合比でポリグルタミン酸溶液を調整した。
なお、分子量の測定は、ポリグルタミン酸ナトリウム5mlを水1mlに溶解し、ゲル浸透クロマトグラフ測定(島津製作所製「LC−10ADvpシステム」、カラム:昭和電工製「SHODEX ASAHIPAK GS−710+GS−310 7G」、室温、移動相:(50mmol/lリン酸緩衝液)+(0.3mol/lNaCl水溶液)、0.7ml/min、検出器:示差屈折率検出器)により行った。
【0031】
次に、静電紡糸を行う装置としてエルマルコ社製「NS−LAB200S」を用いた。各種条件は、電極間距離100mm以上110mm以下、電圧40kV以上75kV以下、電極回転速度4r/min、ライン速度0.08m/minであった。上述の調整したポリグルタミン酸溶液をこの装置で静電紡糸することにより、目付け30g/m2のポリプロピレン製不織布(出光ユニテック社製「RC2030」)にナノファイバーを堆積させた。
次に、ナノファイバーが堆積された不織布を、120℃の真空オーブンで1時間加熱することにより、ポリグルタミン酸繊維を熱架橋処理した。熱架橋処理における加熱温度は100℃以上120℃以下であることが好ましい。加熱温度が100℃未満であると架橋処理が完了するまでに時間がかかり過ぎる。一方、120℃を越えるとポリグルタミン酸及びこれを堆積させている基材の熱劣化が懸念される。
【0032】
得られたポリグルタミン酸繊維架橋体について、吸湿性および耐水性を以下の方法で評価し、その評価結果を表1および図1〜図19に示す。
[吸湿試験]
ポリグルタミン酸架橋体を温度23℃、湿度50%の環境に12時間放置し、放置前後の状態の観察および繊維径の測定を行った。
なお、繊維径の測定は、サンユー電子社製「SC−701 GUICKCOATER」を用いて金蒸着し、キーエンス社製の3Dリアルサーフェイスビュー顕微鏡「VE−8800」を用いて繊維径を観察した。
【0033】
[耐水試験]
ポリグルタミン酸繊維架橋体を水に4時間浸漬し、その状態を観察した。浸漬後、繊維架橋体を真空乾燥機で12時間乾燥させた。浸漬前後の繊維架橋体の質量を以下の式(1)に示す架橋度として表し、架橋度が20%以上のものを水に浸漬しても完全溶解しないポリグルタミン酸繊維架橋体とする。
架橋度(%)=MA/MB×100 …(1)
式(1)中、MAは繊維架橋体を水に浸漬した後乾燥させた繊維架橋体の質量を表し、MBは繊維架橋体を水に浸漬する前の繊維架橋体の質量を表す。
なお、耐水試験中の繊維架橋体の状態を図19に示す。図19において、左から実施例1、2、3、4、6、5、比較例1の繊維架橋体の状態を示している。
評価結果を以下の表1に示す。
【0034】
[実施例1]
水/エタノール/1N−HCL水溶液/ポリグルタミン酸ナトリウム/オキサゾリン基含有高分子架橋剤=45質量%/27質量%/20質量%/4.8質量%/3.2質量%の割合で配合し、ポリグルタミン酸60質量%の繊維架橋体を作製した。
図1および図2から分かるように吸湿しても繊維架橋体は溶解せず、図3から分かるように水に浸漬しても繊維架橋体の形態を保持していた。これを乾燥すると、一部がフィルム状になったが溶解することなく繊維状の形態も認められた。
【0035】
[実施例2]
水/エタノール/1N−HCL水溶液/ポリグルタミン酸ナトリウム/オキサゾリン基含有高分子架橋剤=45質量%/27質量%/20質量%/7.2質量%/0.8質量%の割合で配合し、ポリグルタミン酸90質量%の繊維架橋体を作製した。
図4および図5に示すように、吸湿しても溶解しなかった。また、水に浸漬してもわずかに透明になり乾固するとフィルム状になるが、溶解してなくなることは無かった。
【0036】
[実施例3]
水/エタノール/1N−HCL水溶液/ポリグルタミン酸ナトリウム/オキサゾリン基含有高分子架橋剤=45質量%/27質量%/20質量%/7.7質量%/0.3質量%の割合で配合し、ポリグルタミン酸96質量%の繊維架橋体を作製した。
図6および図7に示すように吸湿しても溶解しなかった。また、水に浸漬してもやや透明になり乾固するとフィルム状になるが、溶解してなくなることは無かった。
【0037】
[実施例4]
水/エタノール/1N−HCL水溶液/ポリグルタミン酸ナトリウム/オキサゾリン基含有高分子架橋剤=45質量%/27質量%/20質量%/7.94質量%/0.06質量%の割合で配合し、ポリグルタミン酸99.3質量%の繊維架橋体を作成した。
図8および図9に示すように、吸湿してかなりフィルム状になったが溶解しなかった。また、水に浸漬するとかなり透明になり乾固するとフィルム状になるが、溶解してなくなることは無かった。
【0038】
[実施例5]
実施例2の繊維架橋体を用い、グルタルアルデヒド/Na2SO4/H2SO4=0.06/0.96/0.4Mの水溶液に12時間浸漬し、水洗、真空乾燥させ、グルタルアルデヒドで架橋処理したポリグルタミン酸90質量%の繊維架橋体を作製した。
グルタルアルデヒドで架橋処理する際に繊維が収縮するが、図10に示すように吸湿しても溶解しない。また、図11に示すように水に浸漬しても繊維状の形態を保持していた。
【0039】
[実施例6]
実施例2の繊維架橋体を用い、ミョウバン0.1Mの水溶液に1時間浸漬し、水洗、真空乾燥させ、ミョウバン水で収斂処理したポリグルタミン酸90質量%の繊維架橋体を作製した。
ミョウバン水で収斂処理する際に繊維がかなり収縮するが、図12に示すように吸湿しても溶解しない。また、図13に示すように水に浸漬しても繊維状の形態を保持していた。
【0040】
[実施例7]
水/メタノール/1N−HCL水溶液/ポリグルタミン酸ナトリウム/エポキシ基含有高分子架橋剤=36質量%/15質量%/1質量%/9質量%/39質量%の割合で配合し、ポリグルタミン酸18質量%の繊維架橋体を作製した。
図14および15から分かるように、吸湿しても溶解しない。また、図16から分かるように、水に浸漬しても形態を保持していた。これを乾燥した状態でも一部がフィルム状になったが溶解することなく繊維状の形態も認められた。
【0041】
[比較例1]
水/エタノール/ポリグルタミン酸ナトリウム=65質量%/27質量%/8質量%の割合で配合し、ポリグルタミン酸ナトリウム100質量%の繊維を作製した。
図17および図18から分かるように、吸湿、吸水して全て溶出してしまった。
【0042】
[比較例2]
比較例1の繊維を用い、実施例5と同様の架橋処理をした。
繊維は架橋処理時に溶解してしまった。
【0043】
[比較例3]
比較例1の繊維を用い、実施例6と同様の架橋処理をした。
繊維は収斂処理時に溶解してしまった。
【0044】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、パックやフェイスマスクなどの化粧用品、創傷被覆剤や止血シートや癒着防止シートなどの医療用品、また、細胞培養床や発芽シートなどのバイオ、農業用品、さらには、水系インクの受理体としての日用品や電気電子材料に利用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維架橋体および繊維架橋体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグルタミン酸は、納豆の糸として古くから知られており、生分解性、生体適合性、高吸水性に優れた樹脂として注目されている。近年では、このポリグルタミン酸を工業的に製造することが可能となっている。
例えば、ポリグルタミン酸を架橋したゲルを化粧品などの保湿剤として使用したり、ポリグルタミン酸を含有した繊維が知られている(例えば、特許文献1〜3)。
特許文献1には、ポリ−γ−グルタミン酸を含浸させた繊維が開示されている。
特許文献2には、ポリグルタミン酸を化学架橋してなるゲルが開示されている。
特許文献3には、ポリグルタミン酸を含む高分子をナノファイバー化した繊維を用いた医用材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3737749号公報
【特許文献2】特開平10−251402号公報
【特許文献3】特開2004−321484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、既存の繊維製品にポリ−γ−グルタミン酸を含浸させているため、繊維製品におけるポリ−γ−グルタミン酸の含有量が少ない。また、基本的に、繊維の特性は加工する繊維素材の特性に依存し、ポリグルタミン酸の生分解性等の特徴を繊維としては有していない。
また、特許文献2は、ポリ−γ−グルタミン酸架橋体からなるゲル状の吸水性樹脂は吸水性に優れるものの、ナノファイバー状のものは得られていない。一方、特許文献3では、単なるポリグルタミン酸を用いた繊維からなる不織布は水を含んだ状態で長時間経過すると水溶化してしまい、繊維としての役割を果たせない可能性があった。
【0005】
本発明の目的は、生分解性、生体適合性および吸湿・吸水性に優れるとともに、水に溶解しない耐水性を備えた繊維架橋体および繊維架橋体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のような繊維架橋体および繊維架橋体の製造方法を提供するものである。
(1)本発明の繊維架橋体は、縮合性の官能基を含有する親水性化合物と高分子架橋剤とを原料として繊維状に架橋され、下記式(1)で表される架橋度が20%以上であることを特徴とする。
架橋度(%)=MA/MB×100 …(1)
(式(1)中、MAは繊維架橋体を水に浸漬した後乾燥させた繊維架橋体の質量を表し、MBは繊維架橋体を水に浸漬する前の繊維架橋体の質量を表す。)
(2)上記した(1)に記載の繊維架橋体において、前記縮合性の官能基を含有する親水性化合物は、ポリグルタミン酸であることが好ましい。
(3)上記した(1)または(2)に記載の繊維架橋体において、前記高分子架橋剤は、オキサゾリン基を有する重合体であることが好ましい。
(4)上記した(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維架橋体において、前記高分子架橋剤は、エポキシ基を有する重合体であることが好ましい。
(5)上記した(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維架橋体において、モノマー架橋剤でさらに架橋処理されたことが好ましい。
(6)上記した(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維架橋体において、収斂剤でさらに収斂処理されたことが好ましい。
(7)上記した(1)〜(6)のいずれかに記載の繊維架橋体において、前記繊維の径寸法は、0.01μm以上3μm以下であることが好ましい。
(8)上記した(1)〜(7)のいずれかに記載の繊維架橋体において、前記繊維は、繊維集合体を構成していることが好ましい。
(9)本発明の繊維架橋体の製造方法は、前記縮合性の官能基を含有する親水性化合物および高分子架橋剤を含有する溶液を静電紡糸法により紡糸して繊維および繊維集合体を形成する紡糸形成工程と、前記繊維および前記繊維集合体に加熱処理を施して繊維架橋体を形成する加熱工程と、を備えたことを特徴とする。
(10)上記した(9)に記載の繊維架橋体の製造方法において、前記加熱工程の後に、モノマー架橋剤でさらに架橋処理を施す架橋処理工程と収斂剤でさらに収斂処理を施す収斂処理工程のうち少なくともいずれか一方を備えたことが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
生分解性、生体適合性および吸湿・吸水性に優れるとともに、吸湿・吸水した場合に水に溶解しない耐水性を備えた繊維架橋体および繊維架橋体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1における繊維架橋体の試験前の拡大写真。
【図2】実施例1における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図3】実施例1における繊維架橋体の耐水試験後の拡大写真。
【図4】実施例2における繊維架橋体の試験前の拡大写真。
【図5】実施例2における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図6】実施例3における繊維架橋体の試験前の拡大写真。
【図7】実施例3における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図8】実施例4における繊維架橋体の試験前の拡大写真。
【図9】実施例4における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図10】実施例5における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図11】実施例5における繊維架橋体の耐水試験後の拡大写真。
【図12】実施例6における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図13】実施例6における繊維架橋体の耐水試験後の拡大写真。
【図14】実施例7における繊維架橋体の試験前の拡大写真。
【図15】実施例7における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図16】実施例7における繊維架橋体の耐水試験後の拡大写真。
【図17】比較例1における繊維架橋体の試験前の拡大写真。
【図18】比較例1における繊維架橋体の吸湿試験後の拡大写真。
【図19】本実施例における繊維架橋体の耐水試験の写真。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態では、縮合性の官能基を含有する親水性化合物、高分子架橋剤および助剤を含む溶液を静電紡糸法により紡糸して繊維および繊維集合体を形成し、この繊維および繊維集合体に架橋処理を施して繊維架橋体を形成する。
【0010】
(1・原料)
(1−1.縮合性の官能基を含有する親水性化合物)
縮合性の官能基とは、縮合反応により高分子架橋剤が有する官能基と反応しうる官能基をいう。例えば、アミノ基、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、シラノール基、エステル基、アミド基などが挙げられる。高分子架橋剤が有する官能基がオキサゾリン基である場合は、その反応性が高いことからカルボキシル基を用いることが望ましい。
【0011】
このような縮合性の官能基を含有する親水性化合物の例としては、縮合性官能基を含有する脂肪族、芳香族などの低分子有機化合物、高分子化合物、ビニルモノマー、金属錯体、生体由来化合物など多種多様なものを挙げることができる。低分子有機化合物の例としては、エタノール、エチレングリコール、グリセロールなどの水酸基含有化合物、エチレンジアミンなどのアミノ基含有化合物、酢酸、マレイン酸、フタル酸などのカルボキシル基含有化合物などを挙げることができる。高分子化合物としては、セルロースなどの水酸基含有高分子、ポリエチレンイミンなどのアミノ基含有高分子、ポリ(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸を含有する種々の共重合体などのカルボキシル基含有高分子などを挙げることができる。また生体由来化合物としては、アミノ酸全般、タンパク質、キトサンなどのセルロース誘導体、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などの保湿性高分子、油脂、ビタミン類、その他の生理活性物質などを挙げることができる。好ましくは、アミノ酸、キトサン、セルロース誘導体、ヒアルロン酸が挙げられる。特に好ましくは、ポリグルタミン酸である。
【0012】
本実施形態では、縮合性の官能基を含有する親水性化合物としてポリグルタミン酸塩を用いる。ポリグルタミン酸は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸が直鎖状に連結した高分子で、生分解性、生体適合性などの特性を備えている。
ポリグルタミン酸塩としては、分子量が20万以上であれば特に限定されず、公知の製法で得られたもの、天然物由来のもの等を使用することができる。分子量が20万未満であると、静電紡糸法で繊維化する際に粒子しか生成されず、繊維化することが困難となるおそれがある。ポリグルタミン酸はD体、L体、または種々の誘導体を用いることができる。これらのうち、吸水・保水性があり、工業的に安定的に得られる点からポリ−γ−グルタミン酸ナトリウムを好適に用いることができる。
【0013】
(1−2.高分子架橋剤)
高分子架橋剤は、ポリグルタミン酸のカルボキシル基と架橋可能な高分子として、オキサゾリン基を有する高分子架橋剤またはエポキシ基を有する高分子架橋剤を用いることができる。
オキサゾリン基を有する高分子架橋剤としては、下式一般式(1)で表される2−オキサゾリン基を有するビニルモノマーと必要に応じて1種以上の他のビニルモノマーを重合して得られるものを挙げることができる。
【0014】
【化1】
【0015】
上式中、Xは水素原子またはメチル基を表し、R1,R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フェニル基、置換フェニル基またはハロゲン基を表す。
2−オキサゾリン基を有するビニルモノマーの具体例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリンなどが挙げられる。中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0016】
2−オキサゾリン基を有するビニルモノマーと共重合する他のビニルモノマーとしては、2−オキサゾリン基と反応しない、共重合可能なビニルモノマーであれば特に限定はない。例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチルおよびその塩類などの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどの不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの含ハロゲンモノマー、スチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウムなどの芳香族官能基含有モノマーなどが挙げられ、これらの1種以上の混合物を使用することができる。
オキサゾリン基を有する重合体の重合方法については特に制限はなく、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合などの各種の重合法が任意に選択できる。
【0017】
エポキシ基を有する高分子架橋剤としては、例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0018】
高分子架橋剤の配合量は、ポリグルタミン酸に対して固形分比で0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。高分子架橋剤の配合量が0.1質量%未満であると架橋が不十分となり、形成された繊維架橋体は水に溶解してしまうおそれがある。また、高分子架橋剤の配合量が50質量%を超えるとポリグルタミン酸ナトリウムの特性(生分解性、生体適合性、吸湿・吸水性、保水性)が損なわれるおそれがある。
【0019】
このような高分子架橋剤は、加熱処理を施すことによりポリグルタミン酸ナトリウムと架橋させることができる。特に、固体状態でも熱架橋するため、繊維を保持したまま架橋度を高めることができる。また、必要に応じて電子線架橋、紫外線架橋、放射線架橋、およびグルタルアルデヒド架橋剤に浸漬するなどの公知の架橋処理を併用してもよい。
【0020】
(1−3.助剤)
必要に応じて、各種助剤を添加してもよい。
例えば、塩酸、酢酸、シュウ酸、りんご酸、クエン酸などの酸で溶液を酸性にすると、ポリグルタミン酸とオキサゾリン基またはエポキシ基との反応が促進される。すなわち、ポリグルタミン酸ナトリウムと高分子架橋剤との反応を促進する。これにより繊維架橋体の耐水性が向上する。
このような酸の配合量は、配合溶液が酸性になる量を加える必要があり、pH7以下が好ましく、pH5以下がより好ましい。なお、pH7を超えると架橋反応が進まなくなる可能性がある。
【0021】
また、必要に応じてバインダーを配合してもよい。ここで用いられるバインダーとしては公知のものが使用可能で、例えば、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリプロリレンオキサイド、ポリエチレンイミド、ポリアニリン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、シリコーン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンサルファイド、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリエチレンテレフタレート、など溶媒に溶解可能な合成高分子が挙げられる。また、コラーゲン、ゼラチン、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、セリシン、フィブロイン、核酸、ヒアルロン酸、エラスチン、ヘパリン、カテキンなどの天然高分子も使用することが出来る。さらに、オルガノシリカやオルガノチタンなどのゾル溶液も挙げられる。
【0022】
さらに、ポリグルタミン酸塩を溶解せしめる溶媒には、水と水溶性有機溶媒が用いられる。特に、ポリグルタミン酸ナトリウムは水に可溶であるが、静電紡糸する際の紡糸性を向上させるため、水溶性有機溶媒と併用する。
水溶性有機溶媒としてはポリグルタミン酸塩水溶液と混合しうるものが適宜選択される。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類以外にも、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどを用いることができる。この中でも、取り扱いが容易かつ経済的である点で、特に、炭素数1〜3の脂肪族低級アルコールであるメタノール、エタノール、プロパノールを用いることが好ましい。これらは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
そして、必要に応じて、界面活性剤、金属塩、増粘剤、色剤、防腐剤、各種安定剤を適宜使用することができる。
界面活性剤としては、特に制限はなく、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤といった公知の界面活性剤を使用することができ、具体的には、p−ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルオキシスルホン酸ナトリウム、ラウリルオキシリン酸二ナトリウム等のアニオン界面活性剤や、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド等のカチオン界面活性剤や、ステアリン酸ポリエチレングリコール、ペンタエリスリットステアリン酸モノエステル等のノニオン界面活性剤や、ラウリルジメチルペタイン等の両性界面活性剤が挙げられ、これらの一種を単独で、または、二種以上を組み合わせて使用することができる。
金属塩としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物などの金属塩が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、メチルセルロースやヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、各種ガム類やペクチン、アルギン酸ソーダ、デキストリン、寒天、ゼラチン等の天然高分子増粘剤が挙げられる。
【0024】
(2.製造方法)
ポリグルタミン酸塩としてポリグルタミン酸ナトリウムを用い、高分子架橋剤および助剤を溶媒とともに所定の配合比で混合して溶液を調整する。
そして、調整された溶液を帯電させることにより紡糸する静電防止法(エレクトロスピニング法)で繊維および繊維集合体を形成する。
次に、繊維集合体に加熱処理を施すことにより繊維架橋体を形成する。なお、必要に応じて電子線架橋、紫外線架橋、放射線架橋、グルタルアルデヒド架橋剤に浸漬するなどの公知の架橋処理を併用してもよい。
【0025】
また、上述の架橋処理によって形成された繊維架橋体に対して、モノマー架橋剤を用いてさらに架橋処理を行う。モノマー架橋剤としては、例えば、ジベニルベンゼン、グルタルアルデヒド、ジアクリレート、ジメタクリレートが挙げられる。これによれば、吸湿しても溶解しにくく、より繊維状の形態を保持することのできる繊維架橋体を提供することができる。
さらに、この繊維架橋体に対して、収斂剤を用いて収斂処理を行う。収斂剤としては、例えば、ミョウバン、タンニン、柿渋、ビスマス等が挙げられる。これによれば、吸湿しても溶解しにくく、より繊維状の形態を保持することのできる繊維架橋体を提供することができる。
なお、これらの架橋処理および収斂処理はいずれか一方のみを行ってもよいし、両方を行ってもよい。
【0026】
このようにして形成された繊維集合体および繊維架橋体を構成する繊維は、その径が、0.01μm以上3μm以下となる。なお、繊維径のより好ましい範囲は0.05μm以上1.8μm以下である。繊維径が3μmを超えると、超極細繊維としての特徴であるフィルター性能および表面積による吸水性が低下し、風合い的にもゴアゴア感が生じてくる可能性がある。一方繊維径が0.01μm未満であると、生産性、強度、取り扱いに問題が生じる可能性がある。
したがって、繊維径を上記範囲内とすることにより、繊維集合体および繊維架橋体の表面積を大きくすることができ、繊維間に多数の細孔が形成される。これは、細孔に水分が取り込まれやすく、取り込まれた水分は流出しにくい構造となるため、吸水性と保水性に優れた繊維集合体および繊維架橋体とすることができる。
【0027】
(3.本実施形態の作用効果)
以上の実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
本実施形態では、ポリグルタミン酸は生分解性および生体適合性に優れているので、ポリグルタミン酸ナトリウムを用いた溶液を紡糸して得られるポリグルタミン酸からなる繊維架橋体は、生分解性および生体適合性に優れる。
【0028】
また、本実施形態では、ポリグルタミン酸ナトリウムと高分子架橋剤とを含む溶液を静電紡糸法により紡糸し、繊維集合体を形成させた。静電紡糸法によれば、電荷の高まりにより糸の細化を促進し、この細化に伴い溶媒の揮散が進むため、極細繊維を得ることができる。これによれば、繊維架橋体に浸入してきた水分と接触する表面積が大きくなるため、吸湿・吸水性に優れる。また、極細繊維であるため、繊維集合体としての風合い、柔軟性に優れる。さらに、本実施形態では、溶媒として水および水溶性有機溶媒を用いることができるため、経済的かつ取り扱いや製造を容易に行うことができる。
【0029】
そして、本実施形態では、ポリグルタミン酸ナトリウムに高分子架橋剤を配合した。この混合溶液を静電紡糸法により紡糸して繊維および繊維集合体を形成した。この繊維および繊維集合体に対して加熱処理を施す。架橋は、加熱によりポリグルタミン酸のカルボキシル基と高分子架橋剤の官能基と開環重合することで生じ、繊維架橋体が形成される。このようにして得られる繊維架橋体は、ポリグルタミン酸と高分子架橋剤の官能基とが架橋しているため、水溶化しにくい。したがって、吸湿・吸水した状態で長時間経過したとしても、水溶化せず耐水性に優れた製品を提供することができる。
また、本実施形態では、繊維および繊維集合体を加熱処理するのみで繊維架橋体を形成することができるので、処理工程としても加熱設備を設けるだけなので、経済的に有利である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の効果を実施例および比較例により確認する。なお、本発明のその要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
ポリグルタミン酸ナトリウムとして味丹社製「HM−NaFORM」(分子量130万Da)、オキサゾリン基含有高分子架橋剤の25%水溶液として日本触媒社製「WS−770」、エポキシ基含有高分子架橋剤として日本油脂社製「エピオールE−400」を用い、以下の実施例1〜7および比較例1〜3に示す配合比でポリグルタミン酸溶液を調整した。
なお、分子量の測定は、ポリグルタミン酸ナトリウム5mlを水1mlに溶解し、ゲル浸透クロマトグラフ測定(島津製作所製「LC−10ADvpシステム」、カラム:昭和電工製「SHODEX ASAHIPAK GS−710+GS−310 7G」、室温、移動相:(50mmol/lリン酸緩衝液)+(0.3mol/lNaCl水溶液)、0.7ml/min、検出器:示差屈折率検出器)により行った。
【0031】
次に、静電紡糸を行う装置としてエルマルコ社製「NS−LAB200S」を用いた。各種条件は、電極間距離100mm以上110mm以下、電圧40kV以上75kV以下、電極回転速度4r/min、ライン速度0.08m/minであった。上述の調整したポリグルタミン酸溶液をこの装置で静電紡糸することにより、目付け30g/m2のポリプロピレン製不織布(出光ユニテック社製「RC2030」)にナノファイバーを堆積させた。
次に、ナノファイバーが堆積された不織布を、120℃の真空オーブンで1時間加熱することにより、ポリグルタミン酸繊維を熱架橋処理した。熱架橋処理における加熱温度は100℃以上120℃以下であることが好ましい。加熱温度が100℃未満であると架橋処理が完了するまでに時間がかかり過ぎる。一方、120℃を越えるとポリグルタミン酸及びこれを堆積させている基材の熱劣化が懸念される。
【0032】
得られたポリグルタミン酸繊維架橋体について、吸湿性および耐水性を以下の方法で評価し、その評価結果を表1および図1〜図19に示す。
[吸湿試験]
ポリグルタミン酸架橋体を温度23℃、湿度50%の環境に12時間放置し、放置前後の状態の観察および繊維径の測定を行った。
なお、繊維径の測定は、サンユー電子社製「SC−701 GUICKCOATER」を用いて金蒸着し、キーエンス社製の3Dリアルサーフェイスビュー顕微鏡「VE−8800」を用いて繊維径を観察した。
【0033】
[耐水試験]
ポリグルタミン酸繊維架橋体を水に4時間浸漬し、その状態を観察した。浸漬後、繊維架橋体を真空乾燥機で12時間乾燥させた。浸漬前後の繊維架橋体の質量を以下の式(1)に示す架橋度として表し、架橋度が20%以上のものを水に浸漬しても完全溶解しないポリグルタミン酸繊維架橋体とする。
架橋度(%)=MA/MB×100 …(1)
式(1)中、MAは繊維架橋体を水に浸漬した後乾燥させた繊維架橋体の質量を表し、MBは繊維架橋体を水に浸漬する前の繊維架橋体の質量を表す。
なお、耐水試験中の繊維架橋体の状態を図19に示す。図19において、左から実施例1、2、3、4、6、5、比較例1の繊維架橋体の状態を示している。
評価結果を以下の表1に示す。
【0034】
[実施例1]
水/エタノール/1N−HCL水溶液/ポリグルタミン酸ナトリウム/オキサゾリン基含有高分子架橋剤=45質量%/27質量%/20質量%/4.8質量%/3.2質量%の割合で配合し、ポリグルタミン酸60質量%の繊維架橋体を作製した。
図1および図2から分かるように吸湿しても繊維架橋体は溶解せず、図3から分かるように水に浸漬しても繊維架橋体の形態を保持していた。これを乾燥すると、一部がフィルム状になったが溶解することなく繊維状の形態も認められた。
【0035】
[実施例2]
水/エタノール/1N−HCL水溶液/ポリグルタミン酸ナトリウム/オキサゾリン基含有高分子架橋剤=45質量%/27質量%/20質量%/7.2質量%/0.8質量%の割合で配合し、ポリグルタミン酸90質量%の繊維架橋体を作製した。
図4および図5に示すように、吸湿しても溶解しなかった。また、水に浸漬してもわずかに透明になり乾固するとフィルム状になるが、溶解してなくなることは無かった。
【0036】
[実施例3]
水/エタノール/1N−HCL水溶液/ポリグルタミン酸ナトリウム/オキサゾリン基含有高分子架橋剤=45質量%/27質量%/20質量%/7.7質量%/0.3質量%の割合で配合し、ポリグルタミン酸96質量%の繊維架橋体を作製した。
図6および図7に示すように吸湿しても溶解しなかった。また、水に浸漬してもやや透明になり乾固するとフィルム状になるが、溶解してなくなることは無かった。
【0037】
[実施例4]
水/エタノール/1N−HCL水溶液/ポリグルタミン酸ナトリウム/オキサゾリン基含有高分子架橋剤=45質量%/27質量%/20質量%/7.94質量%/0.06質量%の割合で配合し、ポリグルタミン酸99.3質量%の繊維架橋体を作成した。
図8および図9に示すように、吸湿してかなりフィルム状になったが溶解しなかった。また、水に浸漬するとかなり透明になり乾固するとフィルム状になるが、溶解してなくなることは無かった。
【0038】
[実施例5]
実施例2の繊維架橋体を用い、グルタルアルデヒド/Na2SO4/H2SO4=0.06/0.96/0.4Mの水溶液に12時間浸漬し、水洗、真空乾燥させ、グルタルアルデヒドで架橋処理したポリグルタミン酸90質量%の繊維架橋体を作製した。
グルタルアルデヒドで架橋処理する際に繊維が収縮するが、図10に示すように吸湿しても溶解しない。また、図11に示すように水に浸漬しても繊維状の形態を保持していた。
【0039】
[実施例6]
実施例2の繊維架橋体を用い、ミョウバン0.1Mの水溶液に1時間浸漬し、水洗、真空乾燥させ、ミョウバン水で収斂処理したポリグルタミン酸90質量%の繊維架橋体を作製した。
ミョウバン水で収斂処理する際に繊維がかなり収縮するが、図12に示すように吸湿しても溶解しない。また、図13に示すように水に浸漬しても繊維状の形態を保持していた。
【0040】
[実施例7]
水/メタノール/1N−HCL水溶液/ポリグルタミン酸ナトリウム/エポキシ基含有高分子架橋剤=36質量%/15質量%/1質量%/9質量%/39質量%の割合で配合し、ポリグルタミン酸18質量%の繊維架橋体を作製した。
図14および15から分かるように、吸湿しても溶解しない。また、図16から分かるように、水に浸漬しても形態を保持していた。これを乾燥した状態でも一部がフィルム状になったが溶解することなく繊維状の形態も認められた。
【0041】
[比較例1]
水/エタノール/ポリグルタミン酸ナトリウム=65質量%/27質量%/8質量%の割合で配合し、ポリグルタミン酸ナトリウム100質量%の繊維を作製した。
図17および図18から分かるように、吸湿、吸水して全て溶出してしまった。
【0042】
[比較例2]
比較例1の繊維を用い、実施例5と同様の架橋処理をした。
繊維は架橋処理時に溶解してしまった。
【0043】
[比較例3]
比較例1の繊維を用い、実施例6と同様の架橋処理をした。
繊維は収斂処理時に溶解してしまった。
【0044】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、パックやフェイスマスクなどの化粧用品、創傷被覆剤や止血シートや癒着防止シートなどの医療用品、また、細胞培養床や発芽シートなどのバイオ、農業用品、さらには、水系インクの受理体としての日用品や電気電子材料に利用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮合性の官能基を含有する親水性化合物と高分子架橋剤とを原料として繊維状に架橋され、
下記式(1)で表される架橋度が20%以上である
ことを特徴とする繊維架橋体。
架橋度(%)=MA/MB×100 …(1)
(式(1)中、MAは繊維架橋体を水に浸漬した後乾燥させた繊維架橋体の質量を表し、MBは繊維架橋体を水に浸漬する前の繊維架橋体の質量を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の繊維架橋体において、
前記縮合性の官能基を含有する親水性化合物は、ポリグルタミン酸である
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の繊維架橋体において、
前記高分子架橋剤は、オキサゾリン基を有する重合体である
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の繊維架橋体において、
前記高分子架橋剤は、エポキシ基を有する重合体である
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の繊維架橋体において、
モノマー架橋剤でさらに架橋処理された
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の繊維架橋体において、
収斂剤でさらに収斂処理された
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の繊維架橋体において、
前記繊維の径寸法は、0.01μm以上3μm以下である
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の繊維架橋体において、
前記繊維は、繊維集合体を構成している
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の繊維架橋体の製造方法であって、
前記縮合性の官能基を含有する親水性化合物および高分子架橋剤を含有する溶液を静電紡糸法により紡糸して繊維および繊維集合体を形成する紡糸形成工程と、
前記繊維および前記繊維集合体に加熱処理を施して繊維架橋体を形成する加熱工程と、を備えた
ことを特徴とする繊維架橋体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の繊維架橋体の製造方法において、
前記加熱工程の後に、モノマー架橋剤でさらに架橋処理を施す架橋処理工程と収斂剤でさらに収斂処理を施す収斂処理工程のうち少なくともいずれか一方を備えた
ことを特徴とする繊維架橋体の製造方法。
【請求項1】
縮合性の官能基を含有する親水性化合物と高分子架橋剤とを原料として繊維状に架橋され、
下記式(1)で表される架橋度が20%以上である
ことを特徴とする繊維架橋体。
架橋度(%)=MA/MB×100 …(1)
(式(1)中、MAは繊維架橋体を水に浸漬した後乾燥させた繊維架橋体の質量を表し、MBは繊維架橋体を水に浸漬する前の繊維架橋体の質量を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の繊維架橋体において、
前記縮合性の官能基を含有する親水性化合物は、ポリグルタミン酸である
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の繊維架橋体において、
前記高分子架橋剤は、オキサゾリン基を有する重合体である
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の繊維架橋体において、
前記高分子架橋剤は、エポキシ基を有する重合体である
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の繊維架橋体において、
モノマー架橋剤でさらに架橋処理された
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の繊維架橋体において、
収斂剤でさらに収斂処理された
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の繊維架橋体において、
前記繊維の径寸法は、0.01μm以上3μm以下である
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の繊維架橋体において、
前記繊維は、繊維集合体を構成している
ことを特徴とする繊維架橋体。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の繊維架橋体の製造方法であって、
前記縮合性の官能基を含有する親水性化合物および高分子架橋剤を含有する溶液を静電紡糸法により紡糸して繊維および繊維集合体を形成する紡糸形成工程と、
前記繊維および前記繊維集合体に加熱処理を施して繊維架橋体を形成する加熱工程と、を備えた
ことを特徴とする繊維架橋体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の繊維架橋体の製造方法において、
前記加熱工程の後に、モノマー架橋剤でさらに架橋処理を施す架橋処理工程と収斂剤でさらに収斂処理を施す収斂処理工程のうち少なくともいずれか一方を備えた
ことを特徴とする繊維架橋体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−196175(P2010−196175A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38652(P2009−38652)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(500242384)出光テクノファイン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(500242384)出光テクノファイン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]