説明

繊維構造体および繊維製品

【課題】単繊維径が1000nm以下のフィラメント糸Aを含み、かつ優れた消臭性能を有する繊維構造体および該繊維構造体を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】単繊維径が1000nm以下のフィラメント糸Aを含む繊維構造体であって、前記フィラメント糸Aが、ポリエステルにポリエチレングリコールおよび/またはその誘導体を共重合してなるポリエステル共重合体で形成されることを特徴とする繊維構造体、および該繊維構造体を用いてなる繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
単繊維径が1000nm以下のフィラメント糸を含み、かつ優れた消臭性能を有する繊維構造体および該繊維構造体を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、快適生活を目指した生活環境の多様化に伴い、消臭性などの各種機能を有する繊維やそれを用いた繊維構造体が提案されている。例えば、消臭性微粒子を含有する繊維形成性熱可塑性高分子化合物を溶融紡糸して得られた機能性繊維(例えば特許文献1参照)や、消臭性微粒子を後加工によりバインダー樹脂を介して繊維構造体に付与して得られた消臭性繊維構造体などが提案されている(例えば特許文献2参照)。
しかしながら、これらの消臭性繊維構造体において、消臭性の点でまだ十分とはいえなかった。
他方、近年では、ナノファイバーと称せられる超極細繊維を用いた繊維構造体が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−222614号公報
【特許文献2】特開2004−270042号公報
【特許文献3】特開2007−291567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、単繊維径が1000nm以下のフィラメント糸Aを含み、かつ優れた消臭性能を有する繊維構造体および該繊維構造体を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、単繊維径が1000nm以下のフィラメント糸Aを含む繊維構造体がある程度の消臭性を有すること、また、前記フィラメント糸Aを、ポリエステルにポリエチレングリコールおよび/またはその誘導体を共重合したポリエステル共重合体で形成すると、繊維に親水基が付与されるため臭気成分を吸着しやすくなり、その結果、特に優れた消臭性を奏することを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「単繊維径が1000nm以下のフィラメント糸Aを含む繊維構造体であって、前記フィラメント糸Aが、ポリエステルにポリエチレングリコールおよび/またはその誘導体を共重合してなるポリエステル共重合体で形成されることを特徴とする繊維構造体。」が提供される。
【0007】
その際、前記ポリエチレングリコール誘導体が下記の一般式(1)で表されるポリエチレングリコール誘導体であることが好ましい。
【化1】

[上記式中、Rは炭素数1〜18個の炭化水素基を表し、nは40〜150の自然数を表す。]
【0008】
また、前記ポリエステル共重合体に光触媒微粒子が含まれることが好ましい。また、前記光触媒微粒子が光触媒酸化チタンであることが好ましい。また、前記光触媒微粒子の平均2次粒子径が0.8〜1.2μmの範囲内であることが好ましい。
【0009】
本発明の繊維構造体において、前記フィラメント糸Aが凝集密着することなくばらけた状態で存在することが好ましい。また、前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。また、前記フィラメント糸Aが、繊維構造体の全重量に対し30重量%以上含まれることが好ましい。また、繊維構造体が織物組織または編物組織を有することが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、前記の繊維構造体を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、靴材、おしめや介護用シーツの医療・衛生用品、寝装寝具、椅子やソファーの表皮材、カーテン、カーペット、カーシート地、インテリア用品、および空気清浄機用や浄水器用のフィルター製品からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、単繊維径が1000nm以下のフィラメント糸Aを含み、かつ優れた消臭性能を有する繊維構造体および該繊維構造体を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、フィラメント糸A(以下、「ナノファイバー」と称することもある。)において、その単繊維径(単繊維の直径)が1000nm以下(好ましくは10〜1000nm、より好ましくは100〜900nm、特に好ましくは550〜900nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、0.01dtex以下に相当する。該単繊維径が1000nmよりも大きい場合は、本発明の主目的とする優れた消臭性が得られないおそれがあり好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。また、単繊維繊度のばらつきが−20%〜+20%の範囲内であることが好ましい。
【0013】
前記フィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、優れた消臭性を得る上で500本以上(より好ましくは2000〜10000本)であることが好ましい。また、フィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。
【0014】
前記フィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。短繊維(紡績糸)の場合は、繊維が集束しているため、十分な消臭性が得られないおそれがある。単繊維の断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0015】
前記フィラメント糸Aを形成するポリマーの種類としては、ポリエステルにポリエチレングリコールおよび/またはその誘導体を共重合してなるポリエステル共重合体である。
ここで、ポリエステルにポリエチレングリコールおよび/またはその誘導体が共重合されていない場合は、本発明の主目的である優れた消臭性が得られないおそれがあり、好ましくない。
【0016】
また、本発明におけるポリエステルとしては、テレフタル酸とエチレングリコールの重縮合反応により得られるエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルが好ましく用いられる。ここで主たるとは全繰り返し単位中70モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることを表す。好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上である。
【0017】
本発明に使用するポリエステルの製造方法は、通常知られている製造方法が用いられる。すなわち、まずテレフタル酸の如きジカルボン酸成分とエチレングリコールの如きグリコール成分とを直接エステル化反応させる方法(エステル化反応工程)、又はテレフタル酸ジメチルの如きジカルボン酸成分の低級アルキルエステルとエチレングリコールの如きグリコール成分とをエステル交換反応触媒の存在下エステル交換反応させる方法(エステル交換反応工程)などにより、ジカルボン酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を製造する。次いでこの反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることによって(重縮合反応工程)、目的とするポリエステルが製造される。上述したエステル交換反応触媒としてはカルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物又はチタン化合物等が好ましく例示され、重合触媒としてはアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物が好ましく例示される。
【0018】
また、ポリエステルに共重合されるポリエチレングリコールおよび/またはその誘導体としては、ポリエチレングリコールでもよいが、優れた消臭性を得る上で、下記一般式(1)で表されるポリエチレングリコール誘導体が好ましい。ポリエステルにかかるポリエチレングリコール誘導体が共重合されていると、繊維表面に親水基が付与され、臭気成分をより吸着しやすくなるため、優れた消臭性が得られる。特開2006−104379号公報の化学式(III)に記載されているような通常のポリエチレングリコールの場合、ポリエチレングリコールの主鎖に共重合されるため、下記一般式(1)で表されるポリエチレングリコール誘導体を共重合したポリエステルほどには消臭性が得られない可能性がある。
【0019】
【化2】

[上記式中、Rは炭素数1〜18個の炭化水素基を表し、nは40〜150の自然数を表す。]
【0020】
また、ポリエチレングリコールおよび/またはその誘導体の共重合量としては全ポリエステル質量に対して1.0〜30.0質量%(より好ましくは1.5〜20質量%)の範囲内であることが好ましい。かかる共重合量が1.0質量%未満の場合、得られるポリエステル繊維の消臭性が不十分となり、30.0質量%を超えると本来ポリエステルが有している耐熱性、寸法安定性等の特徴が損なわれるおそれがある。
【0021】
一般式(1)で表されるジオール成分の化合物の官能基Rは炭素数1〜18個の炭化水素基を表す。より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、分岐のあるノニル基、デシル基、ラウリル基等のドデシル基、ミリスチル基等のテトラデシル基、パルミチル基等のヘキサデシル基、ステアリル基等のオクタデシル基を挙げることができる。官能基Rが炭素数18個を超えると、共重合されたポリエステルの熱分解が起こりやすくなるなどの問題が発生するおそれがある。またエチレンオキサイド単位の重合度を表しているnは40から150であることが好ましい。40未満であるとポリエステルの制電性が発現しないことがあり、150を超えると実用に耐えうる高い固有粘度(重合度)のポリエステルを得ることが困難になるか、ポリエステルの耐熱性が極端に低下するおそれがある。より好ましいのは、官能基Rがメチル基又はオクタデシル基であり、nは40〜100の範囲の場合であり、より好ましくはnは40〜80の場合である。ここでポリエステル製造時における上記式(1)の化合物の添加時期としては特に限定はないが、共重合率を高めるため、直接エステル化反応の開始前から反応後の任意の段階、あるいはエステル交換反応終了後、エステル交換反応開始前の段階が好ましい。
【0022】
前記のポリエステル共重合体は、制電性を付加するためスルホイソフタル酸塩をポリエステテルを構成するジカルボン酸に対して、0.2〜1.0モル%共重合していてもよい。スルホイソフタル酸塩としては、スルホイソフタル酸金属塩、スルホイソフタル酸(4級)アンモニウム塩、スルホイソフタル酸ホスホニウム塩を挙げることができる。その中でスルホイソフタル酸金属塩を形成する金属種類としては、Li、Na、K、Ca、Mg、Alなどが挙げられるが、制電性、コスト面を考慮するとアルカリ金属種が好ましく、中でもNa塩がより好ましい。すなわちスルホイソフタル酸塩としてはスルホイソフタル酸アルカリ金属塩が好ましく、具体的にはスルホイソフタル酸ナトリム塩、スルホイソフタル酸リチウム塩、スルホイソフタル酸カリウム塩が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記ポリエステル共重合体の固有粘度(溶媒:オルトクロロフェノール、測定温度:35℃)は特に限定はないが、0.5〜1.0dL/gの範囲にあることが好ましい。該固有粘度が0.5dL/g未満の場合、得られるポリエステル繊維の機械的特性が不十分となり、1.0dL/gを超える場合、溶融成形性が低下する為好ましくない、ポリエステルの固有粘度は0.6〜0.8dL/gの範囲が更に好ましい。
【0024】
前記ポリエステル共重合体には、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、固相重合促進剤、整色剤、蛍光増白剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安添加するポリオキシエチレン構造の耐熱性を高める為、特に好ましく添加される。なかでも、優れた消臭性を得る上で、前記ポリエステル共重合体に光触媒微粒子が含まれることが好ましい。その際、かかる光触媒微粒子としては、光触媒酸化チタンが好適に例示される。該光触媒酸化チタンはアナターゼ型、ルチル型、アモルファス型のいずれでもよく、特に光触媒活性の強さからアナターゼ型酸化チタンが好適である。
前記光触媒微粒子の平均2次粒子径としては、0.8〜1.2μmの範囲内であることが好ましい。
【0025】
また、本発明の繊維構造体において、フィラメント糸A同士が凝集密着することなく、ばらけた状態で存在することが好ましい。ここで、本発明でいう「ばらけた状態」とは、特開2007−291567号公報の図1および図2に示すように、フィラメント糸Aが互いに独立していることをいう。フィラメント糸Aがこのようにばらけた状態で存在することにより、繊維構造体は、消臭性能を十分に発現できる。これに対して、特開2007−291567号公報の図3および図4に示された、ナノファイバー同士が凝集密着した繊維構造体の場合、消臭性能を十分に発現できないおそれがある。なお、本発明において、「ばらけた状態」とは100本以上のナノファイバーが密着凝集した単糸塊がないという意味であり、ナノファイバー同士は完全に独立している必要はなく、100本未満のナノファイバーが凝集密着した単糸塊が存在してもよい。また、このような「ばらけた状態」とするには後記のように高圧水で処理するとよい。
【0026】
本発明の繊維構造体において、前記のフィラメント糸Aが30重量%以上(より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは100重量%)含まれることが好ましい。フィラメント糸Aの含有量が30重量%未満では、十分な消臭性が発現されないおそれがある。
【0027】
本発明の繊維構造体において、繊維構造体の形態としては特に限定されず、織編物、フェルト、糸条、不織布などが例示される。なかでも織編物が好適である。
編物の場合では、D1/2×Co×Weが10000以上(より好ましくは20000〜100000)であると、優れた消臭性が得られやすく好ましい。ただし、Dは前記マルチフィラメント糸条の総繊度(dtex)、Coは2.54cmあたりのコース数、Weは2.54cmあたりのウエール数である。
【0028】
一方、織物の場合では、下記式により算出されるカバーファクターCFが1500以上(より好ましくは1700〜3800)であると、優れた消臭性が得られやすく好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0029】
なお、繊維構造体が織編物である場合、ナノファイバーはマルチフィラメント糸条として織編物中に配される。その際、マルチフィラメント糸条のナノファイバー数は、500以上(より好ましくは2000〜10000)であることが好ましい。
【0030】
また、繊維構造体が織物または編物である場合は、目付けは20g/m以上(好ましくは20〜200g/m)であることが好ましい。該目付けが20g/m未満では、満足な消臭性が得られないおそれがある。
なお、本発明の繊維構造体において、フィラメント糸A以外の他糸条が含まれる場合、かかる他糸条の繊維種類は限定されないが、リサクル性の点でポリエステル繊維糸条が好ましい。
【0031】
本発明の繊維構造体は、例えば以下の製造方法により製造することができる。すなわち、海成分と島成分とからなり、かつ島成分の径が1000nm以下の海島型複合繊維を用いて繊維構造体を得た後、前記の海成分を溶解除去し、必要に応じて高圧水で該繊維構造体を噴射処理することが好ましい。
【0032】
ここで、海成分を溶解除去した直後、島成分(ナノファイバー)同士は凝集密着しているが、前記の噴射処理により、凝集密着した複数のナノファイバーがばらけた状態で存在することになる。その際、高圧水の圧力としては、3〜10MPa(30〜100kgf/cm)の範囲が好ましく、装置としては、スパンレース用ウオーターニードル装置(噴射孔径は0.2mm以下が好ましい。)や超音波水が好適である。
【0033】
また、海島型複合繊維としては、以下のものが好適である。すなわち、ポリマーの組合せは、海成分ポリマーが島成分ポリマーよりも溶解性が高い組合せであれば任意であるが、特に溶解速度比(海/島)が200以上であることが好ましい。かかる溶解速度比が200未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解させている間に繊維断面表層部の島成分の一部も溶解されるため、海成分を完全に溶解除去するためには、島成分の何割かも減量されてしまうことになり、島成分の太さ斑や溶剤浸食による強度劣化が発生して、毛羽やピリングなどの品位に問題が生じやすくなる。
【0034】
海成分ポリマーは、好ましくは島成分との溶解速度比が200以上であればいかなるポリマーであってもよいが、特に繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。また、ナイロン6は、ギ酸溶解性があり、ポリスチレン・ポリエチレンはトルエンなど有機溶剤に非常によく溶ける。なかでも、アルカリ易溶解性と海島断面形成性とを両立させるため、ポリエステル系のポリマーとしては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。なお、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加効果が大きくなるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性・紡糸安定性などの点から好ましくなくなる。また、共重合量が10重量%以上になると、本来溶融粘度低下作用があるので、あまり好ましくなく、上記の範囲で、両成分を共重合することが好ましい。
【0035】
一方、島成分ポリマーは、前記のポリエステル共重合体を用いる。上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合重量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合したり、島成分の大部分が接合して海島型複合繊維とは異なるものになり難い。
【0036】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0、特に1.3〜1.5の範囲である。この比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
【0037】
次に島数は、多いほど海成分を溶解除去して極細繊維を製造する場合の生産性が高くなり、しかも得られるナノファイバーの細さも顕著となってナノファイバー特有の柔らかさ、滑らかさを表現することができる点で100以上(より好ましくは300〜1000)であることが好ましい。ここで、島数が100未満の場合には、海成分を溶解除去しても極細繊度の単糸からなるハイマルチフィラメント糸を得ることができず本発明の目的を達成することができないおそれがある。なお、島数があまりに多くなりすぎると紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、加工精度自体も低下しやすくなるので10000以下とするのが好ましい。
【0038】
次に、島成分の径は、1000nm以下(好ましくは10〜1000nm)とする必要がある。また、海島複合繊維断面内の各島は、その径が均一であるほど海成分を除去して得られる編地の品位や耐久性が向上するので好ましい。
【0039】
前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が40%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方5%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなる。
【0040】
前記の海島型複合繊維において、その島間の海成分厚みが500nm以下、特に20〜200nmの範囲が適当であり、該厚みが500nmを越える場合には、該厚い海成分を溶解除去する間に島成分の溶解が進むため、島成分間の均質性が低下するだけでなく、毛羽やピリングなど着用時の欠陥や染め斑も発生しやすくなる。
【0041】
前記の海島型複合繊維は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、まず溶融粘度が高く且つ易溶解性であるポリマーと溶融粘度が低く且つ難溶解性のポリマーとを、前者が海成分で後者が島成分となるように溶融紡糸する。ここで、海成分と島成分の溶融粘度の関係は重要で、海成分の比率が小さくなって島間の厚みが小さくなると、海成分の溶融粘度が小さい場合には島間の一部の流路を海成分が高速流動するようになり、島間に接合が起こりやすくなるので好ましくない。
【0042】
溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面形成がなされるいかなる紡糸口金でもよい。
【0043】
吐出された海島型断面複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。
【0044】
ここで、特に微細な島径を有する海島型複合繊維を高効率で製造するために、通常のいわゆる配向結晶化を伴うネック延伸(配向結晶化延伸)に先立って、繊維構造は変化させないで繊維径のみを極細化する流動延伸工程を採用することが好ましい。流動延伸を容易とするため、熱容量の大きい水媒体を用いて繊維を均一に予熱し、低速で延伸することが好ましい。このようにすることにより延伸時に流動状態を形成しやすくなり、繊維の微細構造の発達を伴わずに容易に延伸することができる。このプロセスでは、特に海成分および島成分が共にガラス転移温度100℃以下のポリマーであることが好ましい。具体的には60〜100℃、好ましくは60〜80℃の範囲の温水バスに浸漬して均一加熱を施し、延伸倍率は10〜30倍、供給速度は1〜10m/分、巻取り速度は300m/分以下、特に10〜300m/分の範囲で実施することが好ましい。予熱温度不足および延伸速度が速すぎる場合には、目的とする高倍率延伸を達成することができなくなる。
【0045】
得られた流動状態で延伸された延伸糸は、その強伸度などの機械的特性を向上させるため、定法にしたがって60〜220℃の温度で配向結晶化延伸する。該延伸条件がこの範囲外の温度では、得られる繊維の物性が不十分なものとなる。なお、この延伸倍率は、溶融紡糸条件、流動延伸条件、配向結晶化延伸条件などによって変わってくるが、該配向結晶化延伸条件で延伸可能な最大延伸倍率の0.6〜0.95倍で延伸すればよい。
【0046】
以上に説明した海島型複合繊維を、無撚あるいは必要に応じて追撚した上で、必要に応じて他糸条とともに織編物などの繊維構造体を得た後、前記の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去し、前記のように高圧水で該繊維構造体を噴射処理することにより、ナノファイバー同士をばらけた状態にすることができる。
【0047】
なお、前記のアルカリ水溶液による海成分の溶解除去処理の前および/または後に染色加工を施してもよい。さらに、常法の親水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、さらには、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0048】
かくして得られた繊維構造体において、フィラメント糸Aはその単繊維径が1000nm以下と極めて小さいので、繊維の表面積が大きくなる。また同時に、フィラメント糸Aが前記ポリエステル共重合体で形成されているので、繊維に親水基が付与されるため臭気成分を吸着しやすくなり、優れた消臭性が得られる。特に、フィラメント糸Aに光触媒微粒子が含まれる場合、繊維に付与された親水基と光触媒微粒子との相乗効果により優れた消臭性が得られる。また、フィラメント糸A同士が凝集密着することなく、ばらけた状態で存在していると特に優れた消臭性能を呈する。
【0049】
本発明の繊維構造体は、前記の繊維構造体を含む、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、靴材、おしめや介護用シーツの医療・衛生用品、寝装寝具、椅子やソファーの表皮材、カーテン、カーペット、カーシート地、インテリア用品、および空気清浄機用や浄水器用のフィルター製品からなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。
かかる繊維製品は前記の繊維構造体を含んでいるので優れた消臭性能を呈する。
【実施例】
【0050】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
<溶融粘度>乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度−溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000秒−1の時の溶融粘度を見る。
<溶解速度>海・島成分の各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取り、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製する。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
<ナノファイバーのばらけ状態>繊維構造体を液体窒素に浸漬して固まらせた後カットした後、断面(縦61μm×横80μm、面積4880μm)を電子顕微鏡で10箇所撮影し(倍率1500倍)、100本以上のナノファイバーが凝集密着したナノファイバー塊の合計個数をカウントした。合計個数が0個の場合は合格、1個以上の場合は不合格である。
<目付>JIS L1096 6.4.2に従って測定した。
<消臭性能>社団法人繊維評価技術協議会が定める消臭/機器分析試験実施マニュアル記載の方法を用い、放置中は紫外線ランプをUV強度0.12W/m2にて照射し消臭性能を測定した。
【0051】
[実施例1]
島成分として、下記の化学式(2)で表される数平均分子量3000、n=65のポリエチレングリコール誘導体をポリエチレンテレフタレートの全質量に対して15質量%共重合したポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ、平均2次粒子径が0.8μmのアナターゼ型光触媒酸化チタン粒子を1.0重量%含有する)、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1750ポイズ)を用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=836の海島型複合繊維未延伸糸を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。
【0052】
【化3】

【0053】
得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合繊維延伸糸(フィラメント糸A用)は55dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
ついで、経糸用として、通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(35デシテックス72フィラメント)を無撚にて整経した、一方で、緯糸用として、前述の海島型複合繊維延伸糸を用意した。そして、通常のラピア織機を使用して、織密度を経、緯ともに190本/2.54cmにて平織物を製織し、織物を得た。
【0054】
そして、該織物を温度55℃の2.5%水酸化ナトリウム水溶液にて上記海島型複合繊維の海成分のみを溶解した。その後、温度120℃、キープ時間20分にて通常のリラックス、温度130℃、キープ時間45分にて通常の染色加工を施した。さらに、温度180℃、時間1分で乾熱ファイナルセットを施した。
次いで、この織物に対し、スパンレース用のウオーターニードル装置(噴射孔径:0.1mm、孔ピッチ:1.0mm、孔配列:2列千鳥)にて、水圧60kg/cm、編地の送り速度2m/分、編地の支持メッシュ:50メッシュの条件で高圧水を噴射した。
【0055】
得られた織物において、目付けは50g/mであり、光触媒酸化チタンを1.0重量%含有する、単繊維径が700nmのフィラメント糸Aが50重量%含まれていた。また、単繊維径が9.1μmのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントが50重量%含まれていた。該織物においてナノファイバー同士が凝集密着することなく、ばらけた状態で存在しており、ナノファイバー塊の個数は0個であった。
該織物を用いて、各臭気成分に対する消臭性能試験を行ったところ、評価時間2時間にて、アンモニア98%、酢酸99%、アセトアルデヒド98%、イソ吉草酸100%、ノネナール100%、硫化水素91%と高い消臭率を示した。
次いで、該織物を用いてアウター用衣料を得て着用したところ優れた消臭性能を有するものであった。
【0056】
[比較例1]
実施例1において、海島型複合繊維の島成分として用いたポリエチレンテレフタレートにポリエチレングリコール誘導体を共重合しないこと(光触媒粒子を含有する)以外は、すべて実施例1と同様にして、織物を得た。
得られた織物において、目付けは49g/mであった。該織物を用いて、各臭気成分に対する消臭性能試験を行ったところ、評価時間2時間にて、アンモニア95%、酢酸97%、アセトアルデヒド91%、イソ吉草酸100%、ノネナール100%、硫化水素91%と一部の臭気に対して効果が低い結果を示した。
【0057】
[比較例2]
比較例1において、海島型複合繊維の島成分として光触媒粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、すべて比較例1と同様にして、織物を得た。
得られた織物において、目付けは49g/mであった。該織物を用いて、各臭気成分に対する消臭性能試験を行ったところ、評価時間2時間にて、アンモニア28%、酢酸93%、アセトアルデヒド0%、イソ吉草酸98%、ノネナール84%と一部の臭気に対して効果が低い結果を示した。
【0058】
[比較例3]
実施例1において、海島型複合繊維にかえて、平均2次粒子径が0.8μmのアナターゼ型光触媒酸化チタン粒子を1.0重量%含有する、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(35デシテックス72フィラメント、単繊維径6.7μm)を無撚にて用いた以外は、すべて実施例1と同様にして、織物を得た。
得られた織物において、目付けは49g/mであった。該織物を用いて、各臭気成分に対する消臭性能試験を行ったところ、評価時間2時間にて、酢酸55%、イソ吉草酸70%、ノネナール60%と、実施例1のものより効果が低いものであった。
【0059】
[比較例4]
実施例1において、海島型複合繊維にかえて、通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(35デシテックス72フィラメント、単繊維径6.7μm、ポリエチレングリコールおよび/またはその誘導体を共重合しない、光触媒粒子を含有しない)を無撚にて用いた以外は、すべて実施例1と同様にして、織物を得た。
得られた織物において、目付けは49g/mであった。該織物を用いて、各臭気成分に対する消臭性能試験を行ったところ、評価時間2時間にて、酢酸25%、イソ吉草酸7%、ノネナール3%と一部の臭気に対して、極めて効果が低い結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、単繊維径が1000nm以下のフィラメント糸Aを含み、かつ優れた消臭性能を有する繊維構造体および該繊維構造体を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維径が1000nm以下のフィラメント糸Aを含む繊維構造体であって、前記フィラメント糸Aが、ポリエステルにポリエチレングリコールおよび/またはその誘導体を共重合してなるポリエステル共重合体で形成されることを特徴とする繊維構造体。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコール誘導体が下記の一般式(1)で表されるポリエチレングリコール誘導体である、請求項1に記載の繊維構造体。
【化1】

[上記式中、Rは炭素数1〜18個の炭化水素基を表し、nは40〜150の自然数を表す。]
【請求項3】
前記ポリエステル共重合体に光触媒微粒子が含まれる、請求項1または請求項2に記載の繊維構造体。
【請求項4】
前記光触媒微粒子が光触媒酸化チタンである、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維構造体。
【請求項5】
前記光触媒微粒子の平均2次粒子径が0.8〜1.2μmの範囲内である、請求項3または請求項4に記載の繊維構造体。
【請求項6】
前記フィラメント糸Aが凝集密着することなくばらけた状態で存在する、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維構造体。
【請求項7】
前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条である、請求項1〜6のいずれかに記載の繊維構造体。
【請求項8】
前記フィラメント糸Aが、繊維構造体の全重量に対し30重量%以上含まれる、請求項1〜7のいずれかに記載の繊維構造体。
【請求項9】
繊維構造体が織物組織または編物組織を有する、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維構造体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の繊維構造体を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、靴材、おしめや介護用シーツの医療・衛生用品、寝装寝具、椅子やソファーの表皮材、カーテン、カーペット、カーシート地、インテリア用品、および空気清浄機用や浄水器用のフィルター製品からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【公開番号】特開2010−275649(P2010−275649A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127724(P2009−127724)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】