説明

繊維構造体の製造方法および製造装置

【課題】極めて簡便な方法で繊維構造体の均質性や生産効率を改善した静電紡糸法を提供すること。
【解決手段】静電紡糸法により繊維構造体を製造する方法において、紡出する糸を捕集するための捕集基材として、導電性物質を含み、繊維径が1〜20μmの繊維からなる織布を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維構造体の製造方法および製造装置に関する。更に詳しくは、本発明は生産性が改善された静電紡糸法による超極細繊維構造体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電紡糸法(electrospinning)による繊維構造体の製造では、原料となる繊維形成性化合物の溶液を、微細な孔を通して供給しながら、同時に電場を掛けると、溶媒が揮発し、凝固して繊維を形成し、一定距離離れた場所に位置する捕集基材上に集積される。この繊維構造体は、数nm〜数千nmの間の直径を有する繊維が3次元的に絡み合った、不織布のような構造であり、単位体積当たりの表面積が非常に大きいという特徴を有するため、医療用材料や回路基板、リチウム二次電池用セパレータなどへの応用が検討されている(例えば特許文献1〜3参照。)。
【0003】
静電紡糸法は、幅広い材料に適用でき、不織布状やシート状、フィルム状、チューブ状など様々な構造体を製造することができる。
しかしながら、静電紡糸法で密度の小さい繊維構造体や強度の小さい繊維からなる繊維構造体を製造しようとすると、捕集基材から取り外す際に繊維が捕集基材に残ってしまい、得られる繊維構造体の均質性が低下したり、生産効率が悪くなるという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2004−321484号公報
【特許文献2】特開2003−193358号公報
【特許文献3】特表2003−533861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題点を解消し、極めて簡便な方法で繊維構造体の均質性や生産効率を改善した静電紡糸法を提供することにある。
さらに本発明の他の目的は、極めて簡便な方法で繊維構造体の均質性や生産効率を改善した静電紡糸法のための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の目的は、
静電紡糸法により繊維構造体を製造する方法において、紡出する糸を捕集するための捕集基材として、導電性物質を含み、繊維径が1〜20μmの繊維からなる織布を用いることを特徴とする、繊維構造体の製造方法によって達成することができる。
【0007】
さらに、本発明の他の目的は、
静電紡糸法により繊維構造体を作成するための静電紡糸装置において、繊維形成性の化合物を溶媒に溶解させた溶液を荷電させるための電荷を供給する高電圧発生部と、前記荷電された溶液を噴射するノズル部と、前記ノズル部と離れた場所に位置し、接地またはノズル部と荷電極性の異なる極性に帯電される、導電性物質を含み、繊維径が1〜20μmの繊維からなる捕集基材を含むことを特徴とする、静電紡糸装置によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維構造体の製造方法によれば、密度の小さい繊維構造体や強度の小さい繊維からなる均質性の高い繊維構造体でも、従来の静電紡糸法よりも効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の一実施形態による静電紡糸装置を示す概略図である。図1において、静電紡糸装置には、繊維の原料となる繊維形成性化合物を紡出する紡糸ノズル1と、紡糸ノズル1に対向して対向電極5とが配置されており、この対向電極は接地されている。該紡糸ノズル1と対向電極5の間に捕集基材4が設置されている。この際、捕集基材4の要件は、紡糸ノズル1より離れた場所に設置され、紡糸ノズル1と対向電極5の間に位置すれば良く、捕集基材4が対向電極5と接触していても良く、接触していなくても良い。
【0010】
本発明においては、この捕集基材4として導電性物質を含み、繊維径が1〜20μmの繊維からなる織布を用いることを特徴とする。捕集基材4として導電性物質を含まないと、紡糸過程において捕集基材4が帯電してしまい、繊維が捕集基材以外の部分にも堆積されてしまうため、好ましくない。導電性物質としては、特に金属が入手の容易さや取扱性から好ましい。
【0011】
該織布の繊維径は1〜20μmであることが必要である。繊維径が1μm未満では、得られた繊維構造体を捕集基材から剥離する細に繊維が一部捕集基材4に残ってしまい、好ましくない。また、繊維径が20μm以上では、繊維構造体に斑が生じるため好ましくない。より好ましい繊維径は5〜20μmである。
また、捕集基材として織布の代わりに不織布を用いると、繊維構造体を剥離する際に繊維が捕集基材に残ったり、繊維構造体の均質性が悪くなるため好ましくない。
【0012】
本発明においては、図1、2に示すように、織布を搬送しながら用いても良く、また図3のように捕集基材として用いる織布を毎葉やロール表面に巻き付けた形状で使用しても良い。
なお、紡糸ノズル1には、繊維形成性化合物の溶液7を溶液保持槽3から紡糸ノズル1に溶液を供給する供給機2が接続されており、紡糸ノズル1の先端部には高電圧電源6が接続されている。供給機2としては単段・多段遠心ポンプ、斜流ポンプ、回転ポンプ等のポンプや、溶液の自重を利用したシステムなど種々の装置を用いることが出来る。
【0013】
また、図2に示すように、繊維形成性化合物の溶液を直接荷電させても良い。この場合は、紡糸ノズル1に接続される溶液溜め8中の繊維形成性化合物溶液中に電極9が設置され、これが高電圧電源6に接続されている。
また、図では紡糸ノズル1に対向して設置される対向電極5とは別に捕集基材4を設置しているが、例えば捕集基材4を直接接地するなどにより、捕集基材4を対向電極5として兼ねさせることも可能である。
【0014】
本発明において繊維形成性化合物とは、静電紡糸によって繊維構造を形成しうる化合物のことである。本発明の紡糸装置に使用可能な繊維形成性化合物としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、ペクチン、澱粉、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルイソシアネート、ポリブチルイソシアネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリノルマルプロピルメタクリレート、ポリノルマルブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド−3,4′―オキシジフェニレンテレフタラミド共重合体、ポリメタフェニレンイソフタラミド、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、メチルセルロース、プロピルセルロース、ベンジルセルロース、フィブロイン、天然ゴム、ポリビニルアセテート、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルノルマルプロピルエーテル、ポリビニルイソプロピルエーテル、ポリビニルノルマルブチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリビニルターシャリーブチルエーテル、ポリビニリデンクロリド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニルカルバゾル)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリビニルメチルケトン、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリプロピレンオキシド、ポリシクロペンテンオキシド、ポリスチレンサルホン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、並びにこれらの共重合体などの有機高分子や塩基性塩化アルミニウム、ポリアルキルアロキサン、ポリアルコキシアロキサン、ポリアシロアロキサン、ポリチタノシロキサン、ポリチタノキサン、ポリアルミノシロキサン、ポリボロシロキサン、ポリシロキサン、シリコーン、ポリメチルシラン、ポリカルボシランなどの無機高分子などを挙げることができる。
【0015】
本発明の静電紡糸装置では、該繊維形成性化合物を溶媒に溶かした溶液を使用できるが、該溶媒としては、静電紡糸の過程で揮発するものであれば特に限定されない。該溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、プロパノール、ヘキサン、シクロヘキサン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸、蟻酸、トリフルオロ酢酸、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、ヘキサフルオロイソプロパノール、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、アセトニトリル、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、1,3−ジオキソランなどが挙げられる。
【0016】
本発明の静電紡糸装置では、静電紡糸を妨げない範囲で該溶液に種々の化合物を添加しても良い。例えば、該溶液にセラミックの原料となる金属アルコキシドなどを添加して紡糸し、これを焼成してセラミックの繊維構造体を得ることも出来る。金属アルコキシドとしては、例えばテトラエトキシシラン、テトラブトキシチタン、ジルコニウムテトラブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシドなどを挙げることが出来る。また、無機微粒子や界面活性剤、エマルジョンなどを添加しても構わない。
【0017】
以上のような静電紡糸装置により繊維構造体を製造する方法は、次のように行われる。
まず、繊維形成性化合物を含む溶液7を作成し、該溶液を供給機2から紡糸ノズル1に供給する。次に紡糸ノズル1および/または溶液7と対向電極5間に高電圧を印加した状態で、紡糸ノズル1の先端から該溶液7を吐出する。なお、この際には紡糸ノズル1と対向電極5間に電界が生じればよく、図1または2に示すように紡糸ノズル1および/または溶液7に高電圧を印加し、対向電極5を接地している場合だけでなく、紡糸ノズル1および/または溶液7を設置し、対向電極5に高電圧を印加しても良く、または紡糸ノズル1および/または溶液7と対向電極5双方に高電圧を印加することも出来る。
【0018】
また、紡糸ノズル1および/または溶液7の温度は、溶液の粘度や紡糸条件に合わせて適宜選択することが可能である。さらに紡糸ノズル1と捕集基材5間の空間の温度、湿度も紡糸条件に合わせて適宜選択することが可能である。
紡糸ノズル1は特に限定することなく、従来公知の種々の紡糸ノズルを使用することが出来、その数量および形状、配置も適宜変更することが出来る。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何等限定を受けるものではない。
【0020】
[実施例1]
ポリアクリロニトリル(和光純薬工業)1重量部、N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業、特級)9重量部よりなる溶液を作成した。図3にしめす装置を用いて、該溶液を紡糸した。紡糸ノズル1の内径は0.8mm、電圧は15kV、噴出ノズル1から捕集基材までの距離は15cmであった。捕集基材として、繊維径12μmのステンレス繊維からなる織布を用い、対向電極上に設置した。図4にステンレス織布の走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)による写真を示す。対向電極として、ステンレス板を用いた。
このとき、紡糸ノズルと捕集基材の間の空間は、温度23℃、湿度30%であり、紡糸量は0.1mL/分であり、紡糸時間は10分である。
得られた繊維構造体は捕集基材より容易に剥離し、捕集基材上への繊維の残存は観察されなかった。
【0021】
[実施例2]
チタンテトラノルマルブトキシド(和光純薬工業、一級)1重量部に、酢酸(和光純薬工業、特級)1.3重量部を添加し、均一な溶液を得た。この溶液にイオン交換水1重量部を攪拌しながら添加することにより溶液中にゲルが生成した。生成したゲルは更に攪拌を続けることにより解離し、透明な溶液を調整することが出来た。
調整した溶液に、ポリエチレングリコール(和光純薬工業、一級、平均分子量300,000〜500,000)0.0165重量部混合し、紡糸溶液を調整した。
実施例1と同様の条件で紡糸して、繊維構造体を得た。
得られた繊維構造体は捕集基材より容易に剥離し、捕集基材上への繊維の残存は観察されなかった。
【0022】
[比較例1]
捕集基材として、繊維径12μmのステンレス不織布を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。ステンレス不織布の走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)による写真を図5に示す。
得られた繊維構造体を捕集基材より剥離する際、繊維の一部が捕集基材に残った。
【0023】
[比較例2]
捕集基材を設置せず、直接対向電極の上に紡糸した以外は実施例2と同様の操作を行った。
得られた繊維構造体を対向電極より剥離する際、繊維構造体が割れて電極上に一部残った。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の製造方法によれば、静電紡糸法によって均質性の良い繊維構造体を生産性良く得ることが出来る。特に密度の小さい超極細繊維不織布や、セラミックの前駆体など強度の小さい繊維からなる構造体を製造する際に有用である。
本発明の製造方法によっていられる繊維構造体は、各種フィルターや触媒担持体、医療用材料、プリプレグ、電子基板材料など幅広い応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の静電紡糸装置構成の一態様を模式的に示した図である。
【図2】本発明の静電紡糸装置構成の一態様を模式的に示した図である。
【図3】本発明の静電紡糸装置構成の一態様を模式的に示した図である。
【図4】実施例1で捕集基材として用いた織布を走査型電子顕微鏡で撮影(100倍)して得られた写真図である。
【図5】比較例1で捕集基材として用いた不織布を走査型電子顕微鏡で撮影(400倍)して得られた写真図である。
【符号の説明】
【0026】
1 紡糸ノズル
2 供給機
3 溶液保持槽
4 捕集基材
5 対向電極
6 高電圧発生器
7 溶液
8 溶液溜め
9 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電紡糸法により繊維構造体を製造する方法において、紡出する糸を捕集するための捕集基材として、導電性物質を含み、繊維径が1〜20μmの繊維からなる織布を用いることを特徴とする、繊維構造体の製造方法。
【請求項2】
導電性物質が金属であることを特徴とする、請求項1記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項3】
静電紡糸法により繊維構造体を製造するための静電紡糸装置において、繊維形成性の化合物を溶媒に溶解させた溶液を荷電させるための電荷を供給する高電圧発生部と、前記荷電された溶液を噴射するノズル部と、前記ノズル部と離れた場所に位置し、接地またはノズル部と荷電極性の異なる極性に帯電される対向電極と、導電性物質を含み、繊維径が1〜20μmの繊維からなる捕集基材を含むことを特徴とする、静電紡糸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−92210(P2007−92210A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281666(P2005−281666)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】