説明

繊維構造体の製造方法

【課題】繊維構造体の繊維構造を実質的に変えずに繊維構造体の繊維径を制御する、繊維構造体の製造方法を提供すること。
【解決手段】静電紡糸法により繊維構造体を製造する方法において、紡糸ノズル先端に紡糸溶液の液滴を生じさせない条件下で、紡糸ノズル径を変えることにより、前記繊維構造体の繊維構造を実質的に変えずに繊維構造体の繊維径を制御することを特徴とする、繊維構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電紡糸法により作製される繊維構造体の繊維径制御することができる、繊維構造体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
有機高分子からなる材料を中心として、従来の繊維よりも細い繊維を作製する方法としてエレクトロスピニング法が知られている。エレクトロスピニング法は、有機高分子などの繊維形成性の溶質を溶解させた溶液に高電圧を印加させることにより、溶液を電極に向かって噴出させ、噴出によって溶媒が蒸発し、簡便に極細の繊維構造体を得ることのできる方法である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
作製される繊維構造は、印加電圧、紡糸距離、紡糸ノズル径、ポリマー分子量、濃度、溶媒、表面張力、気温など様々な因子によって影響を受けることが知られており、特に繊維径に対しては濃度の影響が大きく、濃度が高いと繊維径が大きく、濃度が低いと繊維径が小さくなる傾向があることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、濃度を低くすることによって、より細い繊維構造体を得ようとした場合に、濃度の低下と同時に紡糸安定性も低下してしまうことから、作製された繊維構造体の繊維径のばらつきが大きくなったり、紡糸ノズル先端から液滴が飛散してしまい繊維構造が作製できなかったりするなど問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2002−249966号公報
【非特許文献1】ラマクリシュら(S.Ramakrishna,X.M.Mo,C.Y.Xu,M.Kotaki)著、「エレクトロスパンP(LLA−CL)ナノファイバー:アバイオミメティックエクストラマトリックスフォースムーズマスルセルアンドエンドセリアルセルプロライファレーション(Electrospun P(LLA−CL)nanofiber:a biomimetic extracellular matrix for smooth muscle cell and endothelial cell proliferation)」、バイオマテリアルズ、2004年8月、第25巻、P1883〜1890
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、繊維構造体の繊維構造を実質的に変えずに繊維構造体の繊維径を制御する、繊維構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の目的は、静電紡糸法により繊維構造体を製造する方法において、紡糸ノズル先端に液滴を生じさせない条件下で紡糸ノズル径を変えることにより、前記繊維構造体の繊維構造を実質的に変えずに繊維構造体の繊維径を制御する、繊維構造体の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維構造体の製造方法では、静電紡糸法により作製される繊維構造体の繊維構造を実質的に変えずに、静電紡糸法により作製される繊維構造体の繊維径を制御することができる。また、作製された繊維構造体の集合体は、フィルターや細胞培養基材などの機能性素材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の繊維構造体の製造方法では、静電紡糸法により作製された繊維集合体の繊維径の制御を行うことができる。
ここで、静電紡糸法とは、繊維形成性の溶質を溶解させた溶液を電極間で形成された静電場中に吐出し、溶液を電極に向けて曳糸し、形成される繊維状物質を捕集基板上に累積することによって繊維構造体を得る方法であって、繊維状物質とは、繊維形成性の溶質を溶解させた溶媒が留去して繊維積層体となっている状態のみならず、前記溶媒が繊維状物質に含まれている状態も示している。
【0009】
繊維形成性の溶質としては、静電紡糸法によって繊維構造体が形成されるものであれば適用することができるが、例えば有機高分子やセラミックス前駆化合物などが挙げられる。有機高分子としては、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、エーテルセルロース、ペクチン、澱粉、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルイソシアネート、ポリブチルイソシアネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリノルマルプロピルメタクリレート、ポリノルマルブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド−3,4′―オキシジフェニレンテレフタラミド共重合体、ポリメタフェニレンイソフタラミド、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、メチルセルロース、プロピルセルロース、ベンジルセルロース、フィブロイン、天然ゴム、ポリビニルアセテート、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルノルマルプロピルエーテル、ポリビニルイソプロピルエーテル、ポリビニルノルマルブチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリビニルターシャリーブチルエーテル、ポリビニリデンクロリド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニルカルバゾル)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリビニルメチルケトン、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリプロピレンオキシド、ポリシクロペンテンオキシド、ポリスチレンサルホン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、並びにこれらの共重合体などが挙げられる。
【0010】
また、セラミックスとしては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物などが挙げられるが、耐熱性、加工性などの点から酸化物(酸化物系セラミックス)が好ましい。
酸化物には、具体的にAl、SiO、TiO、LiO、NaO、MgO、CaO、SrO、BaO、B、P、SnO、ZrO、KO、CsO、ZnO、Sb、As、CeO、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、Y、Lu、Yb、HfO、Nbなどが挙げられ、セラミックス前駆化合物としては、金属アルコキシドや金属アルコキシドの加水分解物または金属塩化物などが挙げられる。
【0011】
また、繊維構造体中に前記繊維形成性の溶質を複数含ませることも可能である。
次いで、静電紡糸法で用いる装置について説明する。前述の電極は、金属、無機物、または有機物のいかなるものでも導電性を示しさえすれば用いることができ、また、絶縁物上に導電性を示す金属、無機物、または有機物の薄膜を持つものであっても良い。
【0012】
また、静電場は一対又は複数の電極間で形成されており、いずれの電極に高電圧を印加しても良い。これは、例えば電圧値が異なる高電圧の電極が2つ(例えば15kVと10kV)と、アースにつながった電極の合計3つの電極を用いる場合も含み、または3つを越える数の電極を使う場合も含むものとする。
次いで、紡糸によって得られた繊維構造体を累積させる段階について説明する。
本発明の製造方法では、静電紡糸法によって紡糸を行うため、繊維構造体は捕集基板である電極上に積層される。捕集基板に平面を用いれば平面状の不織布が得られるが、捕集基板の形状を変えることによって、所望の形状の構造体を作製することも出来る。
【0013】
また、繊維構造体が基板上の一箇所に集中して積層されるなど、均一性が低い場合には、基板を揺動かしたり、回転させたりすることも可能である。
次いで、紡糸ノズルについて説明する。本発明の繊維径制御方法では、紡糸ノズル径を変更することによって繊維径の制御を行う。用いる紡糸ノズル径としては、本発明の条件下で制御が行えれば限定されないが、紡糸ノズル内径の直径が0.01〜2mmであることが紡糸の安定性から好ましい。より好ましくは、0.01〜0.5mmである。
【0014】
また、紡糸ノズルの形状は、先端が鋭角を形成していることが好ましい。本発明では、紡糸ノズル先端に液滴を生じさせない条件下で紡糸を行う必要があるが、紡糸ノズルの先端が鋭角を形成していない場合には、紡糸ノズル先端の液滴形成を制御することが困難となり、先端が鋭角を形成していない紡糸ノズルを使用した場合には、通常紡糸ノズル先端に液滴が生じる。そのため、図2、3に示す様に、紡糸ノズル先端が鋭角を形成していることが好ましい。また、紡糸ノズル先端の角度については、5〜20°であることが更に好ましい。
【0015】
本発明の繊維径制御方法では、図5に示す様に、紡糸ノズル先端に液滴を生じさせない条件下で紡糸を行う必要がある。紡糸ノズル先端に液滴を生じさせないように制御するには、用いる紡糸ノズル径に合わせて、溶液の供給量であるフィード量を制御すること、印加電圧を制御することが必要になる。一般に、図4に示す様に、紡糸ノズル先端に液滴が生じている場合には、フィード量を下げる方法、または印加電圧を上げる方法によって液滴を生じさせないように制御することが出来る。
紡糸ノズル先端に液滴が生じる場合には、紡糸ノズル先端に形成された液滴の表面から紡糸される。そのため、作製される繊維構造体の繊維径は、紡糸ノズル先端に形成された液滴の形状(曲率など)に負うことから、紡糸ノズル内径に直接の影響を受けない。
【0016】
次いで、本発明の繊維径制御方法で使用する溶媒について説明する。本発明の繊維径制御方法では、溶媒中に極性溶媒を含むことが紡糸制御を行い易くなることから好ましい。極性溶媒としては、水、アルコール類、アミン類、アミド類、ケトン類、カルボン酸類、エステル類などが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、また、本願発明の効果を奏する限り、混合して用いてよいが、水、アルコール類、カルボン酸類が制御の行い易さから更に好ましい。また、更に好ましくは、水が挙げられる。
また、本発明の繊維径制御方法では、繊維集合体を構成する繊維構造体の繊維構造を実質的に変えずに、繊維径を制御することが出来る。ここで、実質的にとは、繊維構造体の表面構造に大きな差が認められないことを示している。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等限定を受けるものではない。また以下の各実施例、比較例における評価項目は以下のとおりの手法にて実施した。
平均繊維径:
得られた繊維構造体の集合体表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)により撮影(倍率2000倍)して得た写真図から無作為に50箇所を選んで繊維構造体の繊維径を測定し、すべての繊維径(n=50)の平均値を求めて平均繊維径とした。
【0018】
[実施例1]
チタンテトラノルマルブトキシド(和光純薬工業株式会社製、一級)1重量部に、酢酸(和光純薬工業株式会社製、特級)1.3重量部を添加し均一な溶液を得た。この溶液にイオン交換水1重量部を攪拌しながら添加することにより溶液中にゲルが生成した。生成したゲルは、更に攪拌を続けることにより解離し、透明な溶液を調製することが出来た。
調製した溶液に、ポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、一級、平均分子量300,000〜500,000)0.016重量部混合し紡糸溶液を調製した。この紡糸溶液から図1に示す装置を用いて、内径が0.08mm、先端角度が10°の紡糸ノズルを用いて、電圧20kV、フィード量5mg/分、紡糸距離10cmで紡糸を行った。また、この条件では、紡糸ノズル先端には液滴は生じず、紡糸ノズル内部から液が噴出されるのが確認された。
得られた繊維構造体の集合体表面を電子顕微鏡で観察したところ、平均繊維径は300nmであった。繊維構造体の集合体表面の走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。
【0019】
[実施例2]
実施例1と同じ条件で調製した紡糸溶液から図1に示す装置を用いて、内径が0.2mm、先端角度が12°の紡糸ノズルを用いて、電圧20kV、フィード量3mg/分、紡糸距離10cmで紡糸を行った。また、この条件では、紡糸ノズル先端には液滴は生じず、紡糸ノズル内部から液が噴出されるのが確認された。
得られた繊維構造体の集合体表面を電子顕微鏡で観察したところ、平均繊維径は350nmであった。繊維構造体の集合体表面の走査型電子顕微鏡写真を図6に示す。
【0020】
[比較例1]
実施例1と同じ条件で調製した紡糸溶液から図1に示す装置を用いて、内径が0.08mm、先端角度が10°の紡糸ノズルを用いて、電圧4kV、フィード量5mg/分、紡糸距離10cmで紡糸を行った。また、この条件では、紡糸ノズル先端に液滴が生じ、液滴表面から液が噴出されるのが確認された。
得られた繊維構造体の集合体表面を電子顕微鏡で観察したところ、平均繊維径は700nmであった。繊維構造体の集合体表面の走査型電子顕微鏡写真を図7に示す。
【0021】
[比較例2]
実施例1と同じ条件で調製した紡糸溶液から図1に示す装置を用いて、内径が0.2mm、先端角度が12°の紡糸ノズルを用いて、電圧4kV、フィード量3mg/分、紡糸距離10cmで紡糸を行った。また、この条件では、紡糸ノズル先端に液滴が生じ、液滴表面から液が噴出されるのが確認された。
得られた繊維構造体の集合体表面を電子顕微鏡で観察したところ、平均繊維径は500nmであった。繊維構造体の集合体表面の走査型電子顕微鏡写真を図8に示す。
【0022】
[比較例3]
チタンテトラノルマルブトキシド(和光純薬工業株式会社製、一級)1重量部に、酢酸(和光純薬工業株式会社製、特級)1.3重量部を添加し均一な溶液を得た。この溶液にイオン交換水2重量部を攪拌しながら添加することにより溶液中にゲルが生成した。生成したゲルは、更に攪拌を続けることにより解離し、透明な溶液を調製することが出来た。
調製した溶液に、ポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、一級、平均分子量300,000〜500,000)0.016重量部混合し紡糸溶液を調製した。この紡糸溶液から図1に示す装置を用いて、内径が0.2mm、先端角度が12°の紡糸ノズルを用いて、電圧20kV、フィード量3mg/分、紡糸距離10cmで紡糸を行った。また、この条件では、紡糸ノズル先端に液滴が生じ、液滴表面から液が噴出されるのが確認された。
得られた繊維構造体の集合体表面を電子顕微鏡で観察したところ、繊維径の斑が大きく、品質の悪いものであった(実施例2に対して繊維径がより細く、安定した繊維径の繊維構造体は得られなかった)。繊維構造体の集合体表面の走査型電子顕微鏡写真を図9に示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の繊維構造体の製造方法に使用した製造装置を模式的に示した図である。
【図2】本発明の繊維構造体の製造方法に使用した紡糸ノズルを正面から見た模式図である。
【図3】本発明の繊維構造体の製造方法に使用した紡糸ノズルを側面から見た模式図である。
【図4】本発明の繊維構造体の製造方法において、紡糸ノズル先端に液滴を生じさせた状態からの紡糸様子を模式的に表した図である。
【図5】本発明の繊維構造体の製造方法において、紡糸ノズル先端に液滴を生じさせない状態からの紡糸様子を模式的に表した図である。
【図6】実施例1の操作で得られた繊維構造体の集合体表面を走査型電子顕微鏡で撮影(2000倍)して得られた写真図である。
【図7】実施例2の操作で得られた繊維構造体の集合体表面を走査型電子顕微鏡で撮影(2000倍)して得られた写真図である。
【図8】比較例1の操作で得られた繊維構造体の集合体表面を走査型電子顕微鏡で撮影(2000倍)して得られた写真図である。
【図9】比較例2の操作で得られた繊維構造体の集合体表面を走査型電子顕微鏡で撮影(2000倍)して得られた写真図である。
【図10】比較例3の操作で得られた繊維構造体の集合体表面を走査型電子顕微鏡で撮影(2000倍)して得られた写真図である。
【符号の説明】
【0024】
1 紡糸ノズル
2 溶液
3 溶液保持槽
4 電極
5 高電圧発生器
6 液滴
7 噴出された溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電紡糸法により繊維構造体を製造する方法において、紡糸ノズル先端に紡糸溶液の液滴を生じさせない条件下で紡糸ノズル径を変えることにより、前記繊維構造体の繊維構造を実質的に変えずに繊維構造体の繊維径を制御することを特徴とする、繊維構造体の製造方法。
【請求項2】
前記紡糸ノズルの先端が鋭角を形成している、請求項1記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項3】
前記静電紡糸法に用いる溶媒が極性溶媒を含む溶媒である、請求項1記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項4】
前記極性溶媒が水、アルコール、カルボン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項3記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項5】
前記繊維構造体がセラミックス前駆化合物を含む、請求項1記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス前駆化合物が酸化チタン前駆化合物である、請求項5記載の繊維構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−92238(P2007−92238A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283969(P2005−283969)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】