説明

繊維構造物の抗ウィルス・制菌加工法

【課題】科学技術の発達や向上にともない様々な繊維構造物への機能性を付与された製品であり、繊維業界では健康的で安全な衣料、快適な生活環境及び医療分野での制菌.MRSA感染症を予防するための繊維製品の技術開発、商品化となるこれら繊維構造物へ安全で環境人体適応性に優れ、医療分野への対応も可能な耐久性のある繊維構造物への抗ウィルス・制菌加工法を提供する。
【解決手段】親水性の置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩・ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムを共存させ含浸あるいは浸漬させた後、酸結合剤を用いてアルカリ浴に調液し繊維構造物を30℃〜90℃の熱処理を実施する加工工程を有することを特徴とする耐久性のある繊維構造物への抗ウィルス・制菌加工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は親水置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩・ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムを共存させた水溶液中に繊維構造物を含浸あるいは浸漬させ熱処理工程を実施することにより繊維構造物に耐久性のある抗ウィルス・制菌性能を付与、向上させるものである。より具体的には親水置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩・ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムを共存させた水溶液を酸結合剤を用いてアルカリ浴に調液し繊維構造物を含浸(パッド.ドライ法)あるいは浸漬(浴中吸尽法)させ30℃〜90℃の熱処理を付し、繊維構造物に耐久性のある抗ウィルス・制菌性能を付与、向上させて安全で環境・人体適応性に優れ医療分野への対応も可能な繊維構造物の市場を拡大させる、耐久性のある抗ウィルス・制菌性能を付与、向上させる加工法である。
【技術背景】
【0002】
近年、科学技術の発達、向上に伴って繊維構造物への様々な機能を付与された技術が紹介されている。
【0003】
しかし、地球温暖化や人間の健康問題等で機能性を重視しつつも環境に優しく、安全で人体適合性に優れ、衛生的で健康的な生活環境を訴追するライフスタイルへと消費者ニーズを変化させている。
【0004】
この様な人間の生活環境の中で近年豚インフルエンザから変異してヒトからヒトへ感染するようになった新型インフルエンザが地球的な規模で拡大して多くの人間が死亡している。
【0005】
又、世界保健機構(WHO)によると鳥インフルエンザは現在のところ感染者は少ないが、新型インフルエンザに比べ非常に毒性が強く致死率が極端に高いとの報告がされている。
【0006】
鳥インフルエンザについてもヒトからヒトへの感染は起きていないとの報告もあるが、将来鳥インフルエンザ由来の新型がヒトに感染するような状況も予測され、世界レベルでの社会や経済に深刻な打撃を与える可能性があると指摘されている。
【0007】
又、1980年頃からMRSA(Methicilin.Resistant.Staphylococus.Aureus)感染症患者が急増している。その対応策として医療用抗菌・制菌繊維製品や高齢者社会の到来とともに寝たきり老人・病人などの皮膚の保護や悪臭防止対策として抗菌防臭加工製品が提案され商品・製品化されている。
【0008】
これらのことを受けて多くの繊維関連企業及び加工製造業はエネルギーの高騰、産業構造の低コスト地域への移行で不況化にあるもののこれらの指向を敏感に取り入れ大学及び製薬会社との協力を得ながら差別化商品・製品として提案している。
【0009】
すなわち、繊維構造物上でウィルスの活性化を抑制し医療用抗菌制菌の繊維製品の研究開発、商品・製品販売に力を注いで繊維不況対策を模索しているのが現状である。
【0010】
ヒト及び動物を侵す代表的なウィルスとして、インフルエンザウィルスがあり、インフルエンザ及び肺炎を引き起こす病気とされ伝搬の経路は飛沫とされている。
【0011】
ウィルスは接触、飛沫及び蚊の媒体によってヒトや動物の赤血球に収着され、赤血球の基質に存在するシアリン酸という物質にウィルスが作用し、両者は酵素と基質の関係で細胞内で増殖し、発病すると考えられている。
【0012】
しかし、ヒト及び動物を侵すウィルス病の体液性免疫において回復患者やワクチン被接種者の血清中に中和抗体が存在してウィルスと結合して無毒化する働きがあるとされるが一旦発病すると治療面においてウィルスに特効的に作用する科学療法剤は皆無とされている。
【0013】
この様な報告が公表される中で、ウィルスのヒトへの感染予防策の製品、商品及び消毒液が発表され、販売されている。
【0014】
ウィルスの活性化を失わせるためには100℃の熱湯で消毒すれば10分間以上耐えるウィルスは無いとされている。
【0015】
消毒液の中では塩素やホルマリンがウィルスを殺菌する力が強いとされている。
【0016】
又、波調2.537Åの紫外線はウィルスを不活性化する力が強く、ワクチンを製造する時にウィルスを殺すのに使用されている。
【0017】
これらの公知の事実に基づいて、手洗いに用いる食塩水の電解により精製される次亜塩素酸での殺菌技術、コロナ放電によるオゾンでの殺菌技術、電気放電による紫外線での殺菌技術及び商品・製品が発表され、販売されている。しかし、これらの殺菌技術には消毒溶液中に残留塩素や次亜塩素酸が必要不可欠であり塩素による有害性の指摘や刺激臭がありヒトへの安全性に問題がある。
【0018】
繊維製品においては、無機の金属類を合成樹脂で被膜固着させ紫外線を照射して活性酸素を発生させウィルスを不活性化させる光触媒の技術を用いた繊維製品が発表されているが紫外線を長時間照射しないと抗ウィルス効果は無い。この事は無機の金属類から発生させる活性酸素が抗ウィルスに効果があるのか、紫外線による抗ウィルス効果なのか、この加工を施された繊維製品の抗ウィルス性能には疑問を提さざるを得ない。
【0019】
繊維製品を着用すると汗・皮脂・垢など人体の皮膚から代謝老廃物が繊維構造物の表面に付着して皮膚常在細菌や外部より付着した細菌(微生物)はこれらを栄養源として増殖する。
【0020】
この繊維構造物での細菌(微生物)を殺菌するのが制菌加工で法である。
【0021】
現状の制菌加工法は、後処理加工法と原糸改良加工法に大別できる。
【0022】
後処理加工法で制菌性能を付与する加工方法はスプレー法・浸漬法・パッド法及びコーティング法などがあり、制菌効果のある薬剤及び無機の金属類を合成樹脂やシロキサン誘導体で繊維構造物に熱固着させる。一般的には仕上げ工程での最終段階で処理をする。
【0023】
原糸改良加工法については練り込み法を採用するが無機の金属類を微分化させ化合繊維構造物に混在させる。
【0024】
後処理加工法は単に抗菌剤を繊維構造物に熱固着で被膜化するだけであり、洗濯を実施すると繊維構造物の摩擦によって合成樹脂並び抗菌剤が脱落してしまう。原糸改良法についても混在しているだけであるので耐久性のある抗菌及び制菌効果は得られない。
【0025】
なお、これらの加工方法は合成樹脂やシロキサン誘導体を用いるためホルマリンの発生及び発ガン性の指摘における着衣の安全性に問題がある。加工後の残留薬剤及び排水・廃水は生物化学的酸素要求量(B.O.D)負荷を高める。
【0026】
本発明に用いる親水性の置換基を有するジハロゲノトリアジン系化合物を用いた繊維構造物の抗菌防臭・制菌加工方法が提案されている(特許文献1)
【0027】
【特許文献1】 特願2008−287149(特許請求の範囲)
しかし、この特許文献1の技術では、効果及び使用する抗菌剤のいずれにおいても相違するものである。
【特許文献1】 特許3415576号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
すなわち本発明の目的は、親水性置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩・ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムを共存させた水溶液を酸結合剤を用いてアルカリ浴に調液し繊維構造物を含浸(パッド.ドライ法)あるいは、浸漬(浴中吸尽法)させ30℃〜90℃の熱処理を付し繊維構造物に耐久性のある抗ウィルス・制菌性能を付与、向上させて安全で環境、人体適応性に優れ医療分野への対応も可能な繊維構造物の市場を拡大させる加工法である。
【0029】
更にアミノ基(NH基)・アルコール性水酸基(OH基)・カルボキシル基(COOH基)など(H)部位を有する繊維構造物に、抗ウイルス・制菌性能を付与・向上させる加工法である。
【問題を解決するための手段】
【0030】
上記課題を解決するために、本発明に係る繊維構造物の抗ウィルス・制菌加工法は、親水性置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩・ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムを共存させ含浸(パッド.ドライ法)あるいは浸漬(浴中吸尽法)を用いる。
【0031】
前記水溶液を酸結合剤を用いてアルカリ浴に調液して、繊維構造物を含浸あるいは、浸漬した後30℃〜90℃までの熱処理することを特徴とするものである。
【0032】
本発明において用いる親水性置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩は化学式CONCINa・官報公示整理番号5−988(化審法)・CAS.NO2736−18−7とされる物質である。
【0033】
本発明において用いる、ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩は化学式CSNa・官報公示整理番号3−2057(化審法)CAS.NO3177−22−8とされる物質である。
【0034】
本発明において用いる、塩化ジデシルジメチルアンモニウムは化学式C2248Cl・官報公示整理番号2−184(化審法)・CAS.NO7173−51−5とされる物質である。
【0035】
前記物質を共存させた水溶液をアルカリ浴に調液するためには、苛性ソーダ、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムを少なくとも一種を用いる。
【0036】
「パッド.ドライ法」は連続乾熱処理温度を60℃〜90℃として繊維構造物を実質的に乾燥するまでの熱処理を用いる。加工機としてシリンダー乾燥機・シュリンク乾燥機及びテンター乾燥機などがある。60℃〜90℃に乾燥機内及びシリンダーの温度を設定して3分間〜20分間かけて実質的に乾燥するまでの処理をすれば良い。
【0037】
「浴中吸尽法」は昇温熱処理を用いて水浴液温度30℃〜90℃までの加工を実施する。加工機として液流染色機・ウインス染色機・ジッカー染色機及びワッシャー染色機などがあり反応染色を実施する染色方法とよく似た条件で加工することが出来る。第一次の熱処理として30℃〜60℃まで20分間〜30分間かけて徐々に昇温、第二次の熱処理として60℃〜90℃の処理温度の時間は30分間〜60分間が好ましい。急激に昇温すると親水性の置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩のCl基が加水分解を引き起こし、ジアミノベンゼンスルフォン酸の有するNH基及び塩化ジデシルジメチルアンモニウム有するCH基の(H)部位に有効に共有結合を実施しないのみならず繊維構造物の有する(H)部位に有効的な共有結合及び造塩結合を実施しない。より具体的には昇温温度は2℃/分以下である事が好ましい。
【0038】
また本発明に用いる繊維構造物は分子中にアミノ基(NH基)・アルコール系水酸基(OH基)及びカルボキシル基(COOH基)など(H)ハロゲン水素部位を有した置換基を有していることが必須条件であり、絹・ウール・綿・麻などの天然有機素材、レーヨン・キュプラなどの再生繊維、ナイロン等があげられる。更に皮革・羽毛も考えられる。
【0039】
前記のジアミノベンゼンスルフォン酸及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムは2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩と熱処理における電子置換性における、共有結合及び造塩結合を実施して繊維構造物の(H)部位に立体的な網目構造としてトリアジン環を構成して被膜化し耐久性のある抗ウィルス・制菌制を付与、向上させることができると考えられる。
【発明の効果】
【0040】
本発明に用いる塩化ジデシルジメチルアンモニウムは陽イオン性界面活性剤であり、毒性が低く、安全な消毒剤である。
【0041】
しかし、化学情報においてヒトの手や指にも適応して細菌類に効果があり、ウィルス、結核菌及び細菌胞子(芽胞)には無効であると記載されている。
【0042】
本発明に用いる物質、2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩・ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムも化審法「第一種.第二種特定化学物質」及び「第一種〜第三種.監視科学物質」に該当しない化審法をクリアした安全な物質である。
【0043】
本発明に用いる薬剤及び製造方法によって得られる抗ウィルス・制菌性能を付与・向上された繊維構造物は、残留塩素及び次亜塩素酸を繊維内部に保持することを回避させる。すでに製品、商品化され販売されている、抗菌性能.抗ウィルス繊維製品に用いられている合成樹脂やシロキサン誘導体から発生されるホルマリンも回避させることができる。又長時間の紫外線の照射も必要としない。
【0044】
更に本発明に用いる設備は既存及び遊休の染色機や乾燥機を用いれば良い。更に繊維加工業のみならず、洗濯業者やクリーニング店でも簡単に加工・製造ができるなど、優れた経済性のもとで、従来規制・制約の多かった衣料分野・工業資材・寝装用品・医療分野まで繊維製品の用途を広く拡大できる、耐久性のある抗ウィルス・制菌加工法である。
【0045】
具体的には、カジュアル衣料・ユニホームなどの一般衣料、枕・布団・シーツなどの寝装分野、ドクターコート・ナースコート・マスク・介護用品などの医療分野、靴下・ショーツ・ランジェリー・ファンデーションなどの下着用途・カーシート・カーペット・カーテン・壁紙・クロスなどの工業用資材、皮革製品などに使用できる。
【0046】
このように、本発明の耐久性のある繊維構造物の抗ウィルス・制菌加工方法は技術的価値・実用的価値が高く、新型インフルエンザへの対応や、将来ヒトへの感染が予測される、毒性が強く致死率の高い鳥インフルエンザ予防への対応など、地球規模の健康問題に寄与できる。更に加工、製造過程におけるエネルギー削減及び排水・廃水における生物化学的酸素要求量(B.O.D)の負荷削減にも寄与するなど、環境問題にも寄与し構造不況下にある繊維業界・加工業界・アパレル業界などに大いに貢献する事ができるものであるのみならずヒトの健康を保持し、世界的な社会・経済への打撃を抑止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明において望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0048】
本発明の繊維構造物の抗ウィルス・制菌加工方法は親水性置換基を有する2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩・ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムを共存させた水溶液を酸結合剤を用いてアルカリ浴に調液し、繊維構造物を含浸(パッド.ドライ法)あるいは、浸漬(浴中吸尽法)させ30℃〜90℃の熱処理工程を有するものである。
【0049】
ここで繊維構造物にアミノ基(NH基)・アルコール性水酸基(OH基)・カルボキシル基(COOH基)など(H)ハロゲン水素の末端基を有している事が必須条件である。
【0050】
含浸とは該構造物に親水性置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩・ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムを共存させた水溶液を含ませることをいう。含浸させる手段は浸漬・スプレー・シャワーなどの適宣の方法によって行う事ができる。酸結合剤にてアルカリ液に調液された水溶液が含浸されている状態で繊維構造物を30℃〜90℃での熱処理工程に付すものである。
【0051】
本発明の製造方法・反応形態を説明する。
【0052】
繊維構造物の耐久性ある抗ウィルス・制菌加工法は親水性置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩・ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムを共存させ酸結合剤を用いてPh8.0〜13.0のアルカリ浴に調液する。その後30℃〜90℃の熱処理を付す。
【0053】
反応形態を説明する。親水性置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩・ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムはアルカリ浴の30℃〜60℃の中で第一次の共有反応及び造塩反応を実施する。親水性置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩のトリアジン環は、第一部位ONa基、第二部位Cl基、第三部位Clを有する。ジアミノベンゼンスルフォン酸のトリアジン環は、第一部位NaSO基、第二.第三部位NH基を有する。塩化ジデシルジメチルアンモニウムは第四部位にCH基を有する。塩化シアヌールの塩素の化合物との反応性は芳香族アミン>脂肪族アミン>アルコール>フェノールの順である事は公知であるから、2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩はジアミノベンゼンスルフォン酸のNH基と中間生成物を構成しつつ、遂次塩化ジデシルジメチルのCH基と反応してモノクロルトリアジン環を有する生成物となる。この時点において酸結合剤の有するNa基と塩化ジデシルジメチルアンモニウムの有するCl基も造塩反応を実施してNaCl(塩)となって存在する。第一次の熱処理として30℃〜60℃の水溶液中での塩化シアヌールの電子置換性により繊維構造物の(H)ハロゲン水素部位との反応するという事より、共有結合及び造塩結合による酸化還元によるNaCl(塩)の合成と抗ウィルス・制菌性能の付与・向上に寄与する中間合成物が生成されるものと推定する。その後60℃〜90℃における第二次の熱処理を実施するが、塩化シアヌールのCI基の反応性はNH>OH>SH>COOHの順である事が公知である。この熱処理を実施する時間の中で第一次の熱処理によって合成された中間合成物が第二次の熱処理によって繊維構造物の(H)ハロゲン部位と共有結合及びジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩のNa部位と造塩結合を実施、繊維構造物に網目的な、立体的トリアジン環の酸化還元反応において、ウィルスの不活性化及び制菌性能を有する安全な有効塩素が繊維構造物にPicoレベルで被膜化して耐久性のある抗ウィルス.制菌性能の付与・向上が実現できる。
【0054】
殺菌や抗菌性のある界面活性剤には陰イオン性界面活性剤・陽イオン性界面活性剤・両性界面活性剤などがありそれぞれに特徴を有している。
【0055】
陽イオン性界面活性剤はウィルス・結核菌・細菌胞子(発芽)には無効であると科学情報に記載されているが塩化ジデシルジメチルアンモニウムはこの類に属している。
【0056】
ウィルスの化学的組成は核酸を主要成分とする複合タンパク質である。陽イオン性界面活性剤、第四級アンモニウム塩及び塩化ベンザルコニウムはウィルスの細胞膜へ吸着及び取り込まれ、細胞の物性変化をもたらし、破裂させることによりウィルスの不活化を実現させる。
【0057】
本発明の耐久性のある繊維構造物の抗ウィルス・制菌性能のシステムは以下の様に考えられる。
【0058】
2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩は酸結合剤との電子置換性により強い−イオンを帯びたトリアジン環を構成し、そのトリアジン環にジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムの有する(H)ハロゲン水素部位が共有結合及び造塩結合し合成されたNaClと共存して繊維構造物に被膜化している。更に塩化ジデシルジメチルアンモニウムの有する(−Cl)は酸結合剤の有するNa基及びジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩の有するNa基と造塩結合してNaClを合成すると推定する。繊維構造物はアミノ基・アルコール水酸基及びカルボシル基を有して(H)ハロゲン水素を有して、繊維構造内部に水分を有している。この事は電子置換性によって生成された安全で有効な塩素を有する食塩水(NaCl+HO)を高濃度で保持していることとなる。繊維構造物にウィルス及び細菌は複合タンパク質とされているので、これらが繊維構造物に付着すると、これらの有するアミノ酸(NH)へ有効な塩素が酸化還元反応を実施HCl(塩化水素)を発生させウィルス及び細菌のアミノ酸を(NH−)として破壊してウィルスの不活性化及び殺菌効果が得られると考えられる。
【0059】
この事は、陽イオン性界面活性剤、第四級アンモ二ウム塩及び塩化ベンザルコニウムのウィルス・結核菌・細菌胞子(芽胞)に無効との科学的な情報をくつがえす理論となる。従って2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩及びジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルとの共有結合及び造塩結合は繊維構造物が保持する水分と酸化還元反応の相乗効果により耐久性のある抗ウィルス・制菌性能を繊維構造物に付与・向上できる。
【0060】
本発明に用いる加工薬剤2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩は、ドイツ公開特許第2357252号公報、あるいはアメリカ特許第5601971号明細書等に記載があるように公知の合成法に準じて合成することができる。
【0061】
これらの繊維構造物は、綿や糸の段階、織編物製品、不織布あるいは工程途中の半製品などに加工することも可能である。これらは親水性置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩と反応することができる反応基を有する繊維からなる繊維構造物である。
【0063】
本発明において前記薬剤並び化合物を共存させ、繊維構造物の耐久性のある抗ウィルス・制菌性能を付与・向上させる製造方法には「浴中吸尽法」と「パッド.ドライ法」があるが好ましくは「浴中吸尽法」を用いる。しかし、近年の石油エネルギーの高騰によるコスト合理化には「パッド.ドライ法」の優位性も無視する事はできない。
【0064】
本発明において前記薬剤及び化合物を用いて繊維構造物へ耐久性のある抗ウィルス・制菌性能を向上・付与させる製造方法「浴中吸尽法」の概要を説明する。昇温熱処理を用いる加工機は液流染色機・ウインス染色機・ジッカー染色機・ワッシャー染色機などを用いる。繊維構造物の総重量に対し、浴比1:60以下になる様、染色機内の水量にする。この時の水の温度は30℃以下の条件が好ましい。親水性の置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩を薬剤純度100%換算で0.1%〜10%(o.m.s)・ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩0.01%〜10%(o.m.s)及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムを0.01%〜10%(o.m.s)共存させ仕込む。苛性ソーダー・炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれた少なくとも一種の酸結合剤を用いてPh8.0〜13.0のアルカリ浴に調液する。調液が終了すれば、約5分間〜10分間30℃以下の水温を条件として稼動、調液された加工液が充分繊維構造物内へ含浸あるいは浸漬させる。充分含浸あるいは浸漬させるためには加工液の濃度を高める必要があるが無水盲硝を適当量仕込んでも良い。その後第一次の昇温熱処理として0.1℃〜2℃/分の条件で60℃まで20分間〜30分間かけて徐々に昇温熱処理を実施する。この時は親水性の置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩の第一次反応部位(Cl基)はアルカリ浴中ではジアミノベンゼンスルフォン酸の部位(NH基)と電子置換反応を実施OH−NHとして共有結合し新たな生成化合物となる。更に塩化ジデシルジメチルアンモニウムの部位(CH基)はOH−CHと電子置換反応を実施して溶液はモノクロルトリアジン環を有する新たな生成化合物と造塩反応により生成されたNaClを混在する加工液となる。従って、急激な昇温は2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩の(Cl基)が加水分解を引き起こし、有効な電子置換反応を実施しないため、徐々に昇温熱処理を実施することを必修とする。第二次の昇温熱処理として60℃〜90℃で第二次反応部位(Cl基)は繊維構造物の有するアミに基(NH基)はOH−NH−、アルコール系水酸基(OH基)はO−、カルボキシル基(COOH基)はCOO−としてトリアジン環と共有結合する。繊維構造物と電子置換させ共有結合させるためには、30分間〜90分間の熱処理工程を必修とする。その後水洗い、湯洗い、酸中和などの処理を実施、乾燥すれば繊維構造物に耐久性のある抗ウィルス・制菌性能が付与された製品が得られる。
【0065】
また本発明においては30℃〜90℃の「昇温熱処理」並び「連続熱処理」が含まれていれば良い。
【0066】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制約されるものではない。
【0067】
実施例1
ガラス容器の中へ水温25℃として、2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩10%水溶液の中へジアミノベンゼンスルフォン酸をo.w.s5%投入して撹拌混合した剤を作成し、この剤を8cc容器内へ投入した。無水盲硝10g、炭酸ナトリウム5g、炭酸水素ナトリウム10g、塩化ジデシルジメチルアンモニウム80%濃度液5cc投入し撹拌混合した。この加工液の中へJIS規格(標準白布)40g投入し含浸・浸漬した後5分間稼動した。その後約20分間かけて60℃まで昇温稼動した後電熱機を使用して80℃まで昇温稼動して80℃の温度を保持しつつ撹拌稼動を30分間実施した。その後、排水を実施し、水洗い5分間、約50℃の水温度で酢酸を用いて15分間酸中和稼動し排水、水洗いを実施した。その後、綿に使用する風合い加工剤を用いて乾燥を実施した。得られた布帛について、京都府立医科大学においてJIS L−1902菌液吸尽法に準じて鳥インフルエンザの不活性化評価を実施した。更にJIS L−1902菌液吸尽法において供試菌MRSA(Methicillin Resistant Staphylococcus Avreva) LLD 1677の抗菌性試験を(財)日本化学繊維協会で評価した結果を表1に示す。
【0068】
比較例1
実施例1で加工した布帛を京都府織物・機械金属振興センターにて洗濯方法JIS L 0217 103法にて洗濯回数50回として実施した。評価した結果を表1に示す。
【0069】
実施例2
液流染色機内へ水温25℃として500g、2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩10%水溶液8kg、ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩400g、炭酸水素ナトリウム5kg、塩化ジデシルジメチルアンモニウム80%濃度にて、300ccを浴内へ投入して撹拌混合した。浴内へウール100%生地、重量32kgを投入して5分間含浸・浸漬する稼動を実施した。その後1.5℃/分で30分間かけて60℃まで昇温稼動を実施、60℃〜65℃の水温を40分間保持、連続稼動を実施した。その後40℃まで昇温工程を実施した後、排水した。その後、40℃の水温で10分間稼動し、排水を実施した。その後、約50℃の水温で酢酸を用いて15分間 酸中和稼動し、排水した後再度湯洗いを実施し者絨をした後、テンター乾燥機において乾燥し、最終のフルデカ工程を実施した。得られた布帛について京都府立医科大学においてJIS L−1902 菌液吸収法に準じて鳥インフルエンザの不活性化評価を実施した。更にJIS L−1902 菌液吸収法(抗菌防臭性能評価)を(財)日本化学繊維検査協会で評価した結果を表2に示す。
【0070】
比較例2
実施例2で使用したものと同じ布帛を、前記薬剤を用いず実施例2と同様に評価した結果を表2に示す。
【0071】
新たな加工法で加工した繊維製品の鳥インフルエンザに対する抗ウィルス効果
京都府立医科大学 今西二郎 扇谷えり子
[目的]
新たな布加工技術で加工した布について、鳥インフルエンザに対して抗ウィルス効果が認められるか試験する。
[材料]
綿(JIS標準白布) ▲1▼ 新たな布加工技術で加工した布 未洗濯
▲2▼ 新たな布加工技術で加工した布 50回洗濯
▲3▼ 未加工の布:Blank
鳥インフルエンザウィルス A/Duck/Hong kong/342/78(H5N2)
MDCK細胞
[方法]
1)ウィルス不活性化試験
▲1▼被検材料布それぞれ2cm×5cmにカットし、121℃、15分間高圧蒸気厳滅菌して乾燥させた。
▲2▼滅菌布をチューブに入れて、ダルベッコMEM培地で3×10 PFU/150μlに調整したウィルス液150μlを布に浸み込ませた。WOOLは疎水性であったので、培地にtween20を0.05%添加したものでウィルス液を調整した。tween20を0.05%添加した倍地がウィルス感染価に影響をおよぼさないことを予備試験で確認した。
▲3▼密栓して4℃に24時間静置した。
▲4▼ダルベッコMEM培地850μlを添加してボルテックスし布に浸みこませたウィルスを培地中に放出させ、サンプル液とした。
▲5▼サンプル液中のウィルス感染価をプラークアッセイによって測定した。
2)プラークアッセイ
▲1▼サンプル液をMEM培地で10段階希釈した。
▲2▼前日にMDCK細胞を播種しておいた6well−plateの上清を除き、PBS(−)で2回洗浄した後、それぞれのサンプル希釈液を100μl/weelで2weelずつ接種した。
▲3▼1時間ウィルスを吸着させた後、トリプシン加、0.8%アガロース維持培地を4ml/weel添加した。
▲4▼37℃、5% CO インキュベーター下に置き、2日間培養した。
▲5▼感染細胞をダルタルアルデヒドで固定し、アガロース維持培地を取り除いて、クリスタルバイオレットで染色した。
▲6▼各weelのプラーク数をカウントして、各サンプルのplaque forming unit(PFU)を算出した。
▲7▼各被検材料布についてそれぞれ3サンプルずつ作製して行い、それぞれのPFUの平均を求めて、未加工布(Blank)サンプル液に対する、加工布サンプル液のウィルス感染価の減少率をもって抗ウィルス効果を評価した。
【表1−1】

【表1−2】

【0072】
被検材料 ウール
▲1▼新たなウール加工技術で加工した布
▲2▼未加工の布 Blank
【表2−1】

【表2−2】

【0073】
京都府立医科大学.今西二郎教授及び扇谷えり子准教授における「新たな加工法で加工した繊維製品の鳥インフルエンザウィルスにおける、抗ウィルス効果について、鳥インフルエンザウィルス A/Duck/Hong kong/342/78(H5N2)の綿に対するウィルスとの24時間接触では、新たな加工法で加工した綿の未洗濯生地においてウィルス減少率が綿加工品では99.87%(平均)及び京都府織物・機械金属センターにおいてLIS L 0217 103法に準拠して50回洗濯を実施した生地においてウィルス減少率が99.92%(平均)でどちらも鳥インフルエンザウィルス(H5N2)に対するウィルス効果が認められた。この結果は陽イオン性界面活性剤(塩化ジデシルジメチルアンモニウム)は科学情報によると細菌類には効果があるがウィルス・結核菌・細菌胞子(芽胞)には無効であるとの情報を根本的にくつがえす評価となった。更に(財)日本科学繊維検査協会での抗菌試験においても未洗濯、LIS L 0217 103法準拠における供試験、MRSA(Methicillin Resistant Staphylococcus Aureua)llD 1677(社)繊維評価技術協議会における制菌性の基準値は、殺菌活性値0.0以上であるため未洗濯殺菌活性値>3.1、LIS L 0217 103法 洗濯50回殺菌活性値>3.1であり、いずれにおいても制菌性能が認められた。これらの結果、本発明の繊維構造物への耐久性のある抗ウィルス・制菌性能を付与・向上させる加工法を実証することとなった。
【0074】
前記、ウールに対する評価も京都府立医科大学において評価を実施した、鳥インフルエンザウィルス(H5N2)に対する抗ウィルス性は認められたが、綿に対してより抗ウィルスの評価が低く、ウールの持っている疎水性が界面活性剤Tween20の0.05%添加では布に表面にウィルス液が広がっただけでウールに充分浸透していなかったことも考えられるとの報告が記された。更に(財)日本科学繊維検査協会での抗菌防臭性能評価においては(社)繊維評価技術協議会における抗菌性の基準値は静菌活性値が2.2以上で抗菌防臭効果が認められるが>5.4となり耐久性のある抗菌防臭性能をも実証した。これらの結果、本発明の繊維構造物への耐久性のある抗ウィルス・制菌性能を付与・向上させる加工法を実証することとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性の置換基を有する2−ヒドロキシ−4.6−ジクロロ−1.3.5−トリアジンナトリウム塩・ジアミノベンゼンスルフォン酸アルカリ塩及び塩化ジデシルジメチルアンモニウムを共存させ浴中吸尽法及びパッドドライ法を用いて熱処理を付して耐久性のある繊維構造物への抗ウィルス・制菌性能を付与、向上させる加工法。
【請求項2】
繊維構造物がアミノ基、アルコール性水酸基及びカルボキシル基を有していることを特徴とする耐久性のある繊維構造物への抗ウィルス・制菌性能を付与、向上させる加工法。
【請求項3】
請求項1〜2の構造物を共存させ30℃〜90℃の熱処理する加工法を有することを特徴とする耐久性のある繊維構造物への抗ウィルス・制菌性能を付与、向上させる加工法。
【請求項4】
請求項1〜3の水溶液中に苛性ソーダー、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムを少なくとも一種用いてPh8.0〜13.0のアルカリ浴に調液することを特徴とする繊維構造物へ耐久性のある抗ウィルス・制菌性能を付与、向上させる加工法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載のいずれかの繊維構造物からなるスーツ・ジャケット・ボトムなどの衣料類、カジュアル衣料、シャツ類、ユニホーム類、トレッキング類、調理士衣料などのアウター類。
【請求項6】
請求項1〜4に記載のいずれかの繊維構造物からなる靴下・ショーツ・ガードル・スリップ・ブラジャー・パンティ、その他のランジェリー、ファンデーション等の下着類。
【請求項7】
請求項1〜4に記載のいずれかの繊維構造物からなるドクターコート・ナースコート・介護用エプロン・介護用シーツ・マスク・オムツ類・生理用品などの医療用品類。
【請求項8】
請求項1〜4に記載のいずれかの繊維構造物からなる布団・枕・毛布・シーツ・寝具用カバー類などの寝具類。
【請求項9】
請求項1〜4に記載のいずれかの繊維構造物からなる鞄・靴・手袋・シート類、テーブルクロス類、カーシート類、椅子・カーペット・カーテン・壁紙・クロスなどの工業製品類。
【請求項10】
請求項1〜4に記載のいずれかの皮繊維構造物からなる鞄・靴・バック・シート・カーシート類。

【公開番号】特開2011−179157(P2011−179157A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61505(P2010−61505)
【出願日】平成22年2月27日(2010.2.27)
【出願人】(505393717)
【出願人】(506339051)環宇企業集團有限公司 (3)
【Fターム(参考)】