説明

繊維構造物の製造方法

【課題】 簡便な方法で光沢を有する繊維構造物の製法を提供する。
【解決手段】可塑剤を含有する熱可塑性繊維を含む繊維構造物の少なくとも一部を、可塑剤を含有する熱可塑性繊維のガラス転移温度(Tg)以上の温度を有する熱圧体で押圧した後、可塑剤を溶出する繊維構造物の製造方法である。可塑剤の少なくとも一部が、水溶性可塑剤であることが好ましい。また、該熱可塑性繊維は、セルロース混合エステルを主成分とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高級感のある光沢を、布帛に簡便な方法で恒久的に付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サテン織物や絹は、その光沢から高級感のある素材として用いられていた。サテンは、織物の経糸が表面に浮き上がって並列することによって光沢が得られているもので、また、絹は染色性が優れる上に、繊維の一本一本が平らに近い側面を有する三角断面に近い構造であるため、光を反射することで優美な光沢が得られている。そこで合成繊維では、あらかじめ、絹に似せた異形断面になるよう繊維を紡糸して、絹様の光沢を付与することも行われている。
【0003】
また一方、布帛に付加価値をつける手段として、柄を付与することが昔から盛んに行われてきた。
【0004】
布帛に柄を付与する方法としては、染顔料を含有する糊をプリントし色素を固着させる捺染、染顔料を含むインクを付与して色柄を形成するインクジェットなど、着色による柄を後加工で付与する方法や、ジャガードやドビー織機によって、織り組織からなるふくらみや光沢、または先染め糸使いによって製織段階で模様を付与する方法、また、薬剤を布帛にプリントして、繊維を部分的に腐食、または膨潤させて、透け感や縮みによる柄を付与する方法、あるいは、樹脂を塗布して部分的な光沢や発泡によるふくらみを持たせる方法などがある。
【0005】
特に、透明感やふくらみ、光沢により柄を形成したものは、着色による柄とは異なり、単一色による無地調の落ち着きがありながら、その意匠性により布帛に高級感を与えることが出来、付加価値の高い製品となる。
【0006】
この中でも、織り組織によって、部分的に糸を浮かせることにより、糸の光沢感を利用して柄を表現する織り柄は、最も高級感があり価値の高いものであるが、織り工程から特定の織機を用いる必要があるためコストがかかり、かつクイックレスポンス性が悪く、高価な織物となってしまう。また、生地が厚くなりがちであるため、冬物衣料や内装品などに用途が限定されるものであった。
【0007】
一方、布帛に樹脂加工を施し、加熱発泡させてふくらみを出したり、樹脂塗布面の光沢を利用したり、微粉末を接着してフロッキーを形成するプリント、また、熱可塑性樹脂を付与後にプレスすることにより布帛に凹凸を持たせるエンボス加工(特許文献1参照)などは、比較的安価でクイックレスポンス性も高く、布帛を選ばず加工できる利点はあるが、反面、樹脂塗布により本質的に布帛が硬くなり、安っぽい品位になりがちである。また、樹脂加工して熱圧することによる光沢は、構造体全体が平らに圧縮される上に、平滑な樹脂面により光沢が生じるものであり、高級感がなく、光沢というよりは好まれないテカリになりがちである。
【0008】
また、樹脂加工せず布帛に加熱押圧するだけでも、ある程度光沢を持たせることが出来るが、この場合、高圧でなければ布帛に十分な光沢を付与することは出来ず、これにより得られる光沢は一時的であって、例えばもまれて繊維構造が変化すると失われやすく、あるいは、布帛の構造を圧縮するために、布帛の風合いが極めて硬くなるという問題がある。そして、恒久的に光沢を与えるために、単繊維の断面が強制的に変形するような高温で押圧すると、繊維は熱硬化して布帛が粗硬になり、あるいは強力が低下するなどして品位を下げる結果となる。
【0009】
また、薬剤を布帛に塗布し、部分的に繊維を膨潤させたり溶解させることにより、凹凸を付与する方法(特許文献2参照)や、酸を塗布して繊維を腐食し柄を形成するオパール加工などは、その加工部分の強度低下が大きく、また、透け感が強すぎるなどの理由によりこれも用途が限定されるのが実状であった。
【特許文献1】特開平9−250078号公報
【特許文献2】特開昭56−37367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は上記のような問題点を克服し、装飾性に優れ、高級感のある光沢を有する繊維構造物の製造方法およびその製造方法により得られる繊維構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した本発明の課題は、以下の手段により解決することが出来る。
【0012】
すなわち、可塑剤を含有する熱可塑性繊維を含む繊維構造物の少なくとも一部を、可塑剤を含有する熱可塑性繊維のガラス転移温度(Tg)以上の温度を有する熱圧体で押圧し、その後、可塑剤の溶出を行うことを特徴とする繊維構造物の製造方法である。また、その可塑剤の少なくとも一部は、水溶性可塑剤であることが望ましく、その該熱可塑性繊維は、セルロース混合エステルを主成分とすることが好ましく採用できる。
【0013】
さらに、可塑剤を溶出する前後における繊維のガラス転移温度(Tg)の差は、40℃以上であり、また、熱圧体の温度が160℃以下であること、また、可塑剤を溶出する前の、可塑剤を含有する繊維のガラス転移温度(Tg)が130℃以下であること、さらには、可塑剤を溶出した後の、可塑剤を含有しない繊維のガラス転移温度(Tg)が150℃以上であることが好ましく採用出来る。
【0014】
そして、これらの製法により得られる繊維構造物は、表層の単繊維が、熱押圧によって繊維構造物表面に平行する平らな面を有する形状を有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって製造された光沢を有する繊維構造物は、樹脂加工や薬剤処理などによる柄付与と異なり布帛が本来有する柔軟性や強度を失なうことなく、恒久的な光沢感を保持することが出来る。また、織り柄織物の生産とは異なりクイックレスポンス性も良好で、薄地から厚地まで幅広い生地種に対応出来る。これにより、全面的な光沢を有する繊維構造物、または高級感のある光沢柄を有する繊維構造物を衣料用途を含め繊維全般に好適に提供することがはじめて可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において可塑剤を含有する熱可塑性繊維とは、少なくとも繊維が、主成分のポリマーと副成分の可塑剤を含有し、熱により容易に変形する性質を有しているものをいう。
【0017】
ポリマーと可塑剤は相溶性に応じて選べば良く、特に限定されない。
【0018】
可塑剤を用いるポリマーとしては、一般的には塩化ビニルや塩化ビニリデンが有名であるが、特に可塑剤を添加して繊維化したのち衣料に用いることの容易な物性を有するポリマーとしては、セルロース脂肪酸エステルが上げられる。本発明においてセルロース脂肪酸エステルとは、セルロースの水酸基の少なくとも一部がアシル基によって置換されているものを言い、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートおよびセルロースアセテートフタレート等が挙げられる。
【0019】
置換基の比率は特に限定されないが、好ましくは、少なくとも一部がアセチル基であって、また残りの置換基の少なくとも一部がプロピオニル基あるいはブチリル基であるセルロース混合エステルであれば、可塑剤添加物の熱変形性が良好であり、好適である。
【0020】
本発明において可塑剤とは、ポリマーに良好な熱軟化性を付与する添加剤を意味する。
【0021】
更に好ましくは、可塑剤は水溶性であれば、熱押圧後に可塑剤を除去する際、有機溶剤を用いず水系処理により行う事が出来るため、環境、コスト面からも有益である。
【0022】
本発明において水溶性とは、20℃の水に1質量%以上溶解する場合をいう。特に水溶性が高く、20℃の水に5重量%以上溶解する性質であれば、水により容易に除去出来るため、本発明の効果を容易に得ることが出来る。
【0023】
本発明において好適に用いられる可塑剤としては、ポリビニルアルコールあるいはその共重合体、およびポリエーテル化合物を挙げることができる。中でも、次の一般式(1)で示されるポリエーテル化合物を用いることが好ましい。
1−O−{(CH2)nO}m−R2 ・・・(1)
(但し、R1とR2は、H、アルキル基およびアシル基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を表す。nは2〜5の整数であり、mは3〜30の整数である。)。R1とR2のアルキル基とアシル基は、水への溶解性が向上するため、炭素数は1〜5であることが好ましい。炭素数は、さらに好ましくは1である。
【0024】
具体的なポリエーテル化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンジメチルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンジステアレートおよびポリオキシエチレンジオレートなどが挙げられる。この中でも、ポリエチレングリコールとポリオキシエチレンジラウレートが好ましく用いられる。
【0025】
可塑剤の配合量は、ポリマー全量に対して5〜25重量%であることが好ましい。可塑剤の配合量を25重量%以下とすることにより、可塑剤含有状態での繊維の機械的特性が良好で、繊維構造物として形成が容易であることから好ましい。可塑剤の配合量は、より好ましくは20重量%以下である。一方、可塑剤の配合量を5重量%以上とすることにより、組成物の熱可塑性が向上するために熱押圧により良好な光沢を付与することが出来る。可塑剤の配合量は、より好ましくは10重量%以上である。
【0026】
本発明においては必要に応じて要求される性能を損なわない範囲内で、熱劣化防止用、着色防止用の安定剤として、エポキシ化合物、弱有機酸、ホスファイト、チオフォスファイト等を単独または2種類以上混合して添加してもよい。また、その他有機酸系の生分解促進剤、滑剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、艶消剤等の添加剤を配合することは何らさしつかえない。
【0027】
可塑剤を含有している熱可塑性繊維は、ガラス転移温度がポリマーの本来の温度より低下する。そのために、低温での光沢の付与が可能となり、しかも、可塑剤溶出後はガラス転移温度が上がるため、耐熱性が向上する。
【0028】
本発明の熱可塑性繊維は、可塑剤を溶出する前後における繊維のガラス転移温度(Tg)の差が、40℃以上あることが望ましい。40℃以上の差があれば、明らかに、本来のポリマーのTgより低い温度で熱変形による光沢を付与することが出来、しかも、熱変形後に可塑剤を溶出すれば、あらためて熱変形する温度が40℃以上高くなるために、その後は変形した繊維による光沢が維持される。
【0029】
好ましくは、可塑剤溶出前の繊維のTgは、130℃以下であれば、光沢を付与するための熱圧温度も低く設定できるため、作業性が良く、しかも繊維構造物の風合い、物性へのダメージが少ない。
【0030】
また、可塑剤溶出後の繊維のTgは150℃以上であれば、可塑剤溶出前に熱変形した繊維は低温ではもはや変形しにくくなるため、光沢が保持されやすい上に、その後衣料等に使用しても、アイロン耐熱性や摩擦によるテカリの問題がなくなるため、望ましい。
【0031】
より好ましくは、可塑剤溶出前のTgが120℃以下、可塑剤溶出後のTgが170℃以上であれば、繊維構造物への熱圧加工が容易で、かつ、可塑剤溶出後の繊維の物性が良いものが得られる。
【0032】
本発明における繊維構造物とは、織物、編物、不織布を問わず、布帛として構成されているものをいう。繊維構造物には上記の可塑剤を含有する熱可塑性繊維が含まれていれば、その他の繊維も複合されていてもよいが、好ましくは、該熱可塑性繊維が25%以上含まれていることが望ましい。25%以上であれば、繊維構造物全体のうち、残りの繊維は押圧により容易に変形しなくても、変形した繊維によって、十分な光沢感を得ることが出来る。
【0033】
本発明において熱圧体とは、加熱された平滑な金属、または樹脂からなるロール、又は平板、あるいは、表面に凹凸による模様が形取られた金属または樹脂からなるロールまたは平版などで、任意の温度と圧力を布帛にかけることが出来るものをいう。
【0034】
本発明で得られる光沢は、熱圧体が全面平面、もしくは平滑なロールであれば、一様に光沢を有する繊維構造物となるし、また、凹凸による模様があれば、光沢のありなしによって柄が形成された、高級感のある繊維構造物を得ることが出来る。
【0035】
熱圧体の温度は、繊維構造物に対して高温すぎると繊維を熱硬化させ、風合い、強度を悪化させやすい。その温度は、可塑剤を含有する熱可塑性繊維のガラス転移温度以上でなければならないが、好ましくはガラス転移温度より10℃以上高ければ、可塑剤を含有した繊維の形状を容易に変化させることができる。さらに好ましくは、ガラス転移点より20℃〜60℃高い熱圧体を用いると、変形が容易でまた繊維の物性に悪影響を与えず、融着等もないため、良好な品位の光沢を与えることが出来る。
【0036】
また、その温度は、160℃以下であれば、可塑剤を含有する熱可塑性繊維や、それと複合したその他の繊維の物性に悪影響を与えずに光沢を付与することが出来るうえに、熱圧体を極めて高温に上げる必要がないため、処理の安定性も良い。
【0037】
また、繊維構造物の表側の面のみ熱ロールや熱板を接触させ、裏面は低温体を用いても良い。その場合は表側にのみ光沢が付与された製品が得られ、両面を加熱する場合に比べ、繊維構造物のふくらみがより保持される利点がある。
【0038】
また、その圧力は特に限定されるものではなく、繊維構造物の構造や密度に応じて、繊維構造物が十分光沢を生じる圧力をかければよい。好ましくは0.01〜5MPa、さらに好ましくは0.05〜1MPa程度であれば、繊維構造物の強度低下を招くような損傷を与えることなく、また、押しつぶして扁平化しすぎることで風合いを損なうことなどもなく、十分な光沢感を付与することが出来る。
【0039】
押圧時間も特に限定されるものではなく、繊維構造体の厚みや装置の形式によって任意の時間、またはロールであれば、任意の速度で処理すればよい。
【0040】
繊維の変形は、熱圧後、もしくは可塑剤溶出後の繊維構造物を切断し、SEMで単繊維断面を観察すると明らかに確認する事が出来る。
【0041】
その変形状態は、熱圧前に比べて、明らかに繊維構造物の表層の単繊維が平らな面を有する形状に変形しているものが多いことが特徴である。また、その平らな面は、加工糸や異形断面紡糸糸と異なり、繊維構造物形成後の押圧で形成されるが故に、繊維構造物の表面に平行に近い状態で並ぶことが多くなるため、その面の反射により、繊維構造物に光沢が生じるのである。一方、加工糸や異形断面糸は、平らな面がランダムな方向で分散するため、本発明のような明らかな光沢が生じることはない。また、加工糸や異形断面糸を用いた繊維構造物であっても、本発明によれば、繊維構造物表面に平行な平らな面を多く有する状態に変形した繊維が多くなるために、明らかな光沢が付与出来る。
【0042】
この押圧により生じた平らな面の割合は、特に限定されるものではなく、その繊維構造物の表面状態に応じて、光沢が得られるだけの変形であればよいが、繊維表面のうち10%以上に、表面に平行に変形した平らな面があれば、明らかな光沢の向上が認められる。また、70%以上が表面に平行な平らな面に変形してしまうと、フィルムのようにてかる光沢になるため、繊維構造物としての品位が落ちることが多い。
【0043】
本発明において、熱圧により光沢を付与した繊維構造物は、その後、可塑剤を除去することが重要である。
【0044】
可塑剤を除去する方法については特に限定されないが、ポリマーを溶かさず可塑剤を容易に溶解する溶剤で抽出すればよい。特に好ましくは、可塑剤が水溶性のものを用いてあれば、水もしくは熱水処理により可塑剤を溶出することが可能で、一般的な布帛の高次加工工程において除去出来るため、工程通過性やコストの面から好ましい。
【0045】
可塑剤を除去する処理時間は、特に限定されるものではないが、処理装置の方式や、繊維構造物の形態によって異なり、装置の能力や作業性、コスト面から決めれば良い。
【0046】
可塑剤の除去された繊維は、含有していた可塑剤が80%以上除去されていれば、除去前後のTgの差が大きくなり、また、その後の染色や洗濯への影響が小さいため望ましい。
【0047】
本発明による繊維は、その後、常法によって、染色、仕上げ加工等を行うことが可能である。本発明で得られる光沢を有する繊維構造物は、通常の布帛の高次加工に用いられる液流染色機、ウインス、ジッガー、ビーム染色機などを適用出来る。特に、液流やウインスといった、もみ効果の入る装置を用いても、光沢を維持しやすいという特徴がある。
【0048】
また、可塑剤溶出後のTgは高いことから、中間セットや仕上げセットも可能であり、また製品のアイロンがけも出来ることから、衣料用素材としての品位や性能を得ることが容易であるという特徴を有する。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1)光沢感
得られた繊維構造物の風合いを官能検査によって評価した。光沢感が優れているものを3、やや光沢があるものを2、光沢がないものを1とした。繊維が融着してフィルム状になった場合は、被膜状のテカリになるため繊維構造物として好ましい品位にはなく、NGとした。なお、3は好ましい効果があり、2はやや効果があるが、1は審美的効果がない。
2)風合い
得られた繊維構造物の風合いを官能検査によって評価した。衣料用として十分に柔らかく感じるものを3、やや硬いと感じるものを2、衣料として用いるには硬く感じるものを1とした。なお、3は好ましく、2は許容できる範囲であるが、1は問題がある。
3)耐アイロン性
重さ2kgの家庭用アイロンを用い、100〜140℃(低温)の設定で繊維構造物にアイロンをかけた。
【0050】
繊維構造物表面にテカリ等の変化がなく、アイロンがけが出来たものを3、表面に弱いテカリを生じたものを2、表面に強いテカリが生じた、もしくは融着したものを1とした。なお、3は好ましく、2はあて布を用いれば許容できる範囲であるが、1は問題がある。
【0051】
実施例1
セルロース(日本製紙(株)溶解パルプ、α−セルロース92wt%)100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロース脂肪酸エステルを濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度は2.4(アセチル基1.9、プロピオニル基0.5)、重量平均分子量は12.0万であった。
【0052】
このセルロースアセテートプロピオネート85重量%と平均分子量が800であるポリエチレングリコール15重量%を二軸エクストルーダーを用いて220℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース脂肪酸エステル組成物ペレットを得た。
【0053】
このペレットを80℃、8時間の真空乾燥を行い、メルター温度250℃にて溶融させ、紡糸温度255℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量15.0g/分の条件で、0.25mmφ−0.50mmLの口金孔を24ホール有した口金より紡出した。この紡出糸条を口金下に設置した加熱筒(長さ100mm)内部を通過させ(口金下温度240℃)、風速0.3m/秒のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、1500m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。得られた繊維(100デシテックス−24フィラメント;単糸繊度4.2デシテックス)の強度は1.40cN/dtex、伸度は27.2%、降伏点応力は0.65cN/dtex、初期引張抵抗度は27.4cN/dtexであった。
【0054】
また、この繊維のTgは、110℃であった。
【0055】
得られた繊維を用いて、エアジェット織機により、織り上げ密度74×71本/インチの平織物生機を作成した。
【0056】
この生機に、10cmおきに半径3cmの水玉模様を浮き彫りにした金属ロールを用いて、接触面温度150℃、圧力0.2MPaの熱圧加工を行った。
【0057】
得られた生機は表面が平滑化し、水玉模様の光沢が生じていた。さらに、この生機を下記条件で液流染色機による精練工程に通し、熱可塑性繊維中の可塑剤を除去した。
【0058】
ソーダ灰 0.5g/l
アデカノールTS−400(浸透剤 旭電化(株)製) 0.2g/l
70℃×20分
その後、水洗、乾燥を行い、精練後の繊維のTgを測定すると、180℃であった。精練後も水玉模様の光沢は保持されていた。また、精練前後の重量変化から計算した可塑剤の溶出率は添加量の90%で、大部分の可塑剤が精練により溶出されていた。
【0059】
さらに160℃で中間セットを行い、下記条件で、液流染色機により染色および還元洗浄を行った。
【0060】
染色
Cibacet blue EL−FGL 1%owf
100℃×45分
還元洗浄
ソーダ灰 1g/l
ハイドロサルファイト 1g/l
アデカノールTS−400(浸透剤 旭電化(株)製) 0.2g/l
70℃×20分
得られた織物は、水玉模様の光沢が保持され、風合いも柔軟で良好な品位であった。
【0061】
また、アイロンをかけてもテカリは出ず、衣料用として十分に使用に耐えるものであった。
【0062】
比較例1
実施例1で作成した平織物生機を用い、先に精練により可塑剤を除去した。可塑剤の溶出率は実施例と同じく90%であった。
【0063】
その後、実施例1と同様の150℃の金属ロールにより、熱圧加工を行ったが、弱い光沢しか得られなかった。
【0064】
さらに、中間セットおよび液流染色をおこなったところ、水玉模様の光沢は、ほとんど判別出来ない状態であった。
【0065】
比較例2
比較例1同様、精練を行って可塑剤を除去した後の平織物について、比較例1より高い190℃での熱圧加工を行った。水玉模様ははっきりと付与されたが、光沢というよりフィルムのように半透明に繊維が融着した状態に変わり、その部分は硬くなっていた。
【0066】
その後、実施例1同様に中間セット、染色を行ったところ、水玉模様は維持されていたものの、フィルム状になった部分の一部が欠損し、孔が生じていた。
【0067】
また、実施例1で作成した繊維を熱圧処理する前と、実施例1に従って熱圧処理した後、および比較例1、2の処理後の繊維について、繊維断面をSEM観察したところ、熱圧処理前の単繊維は全て丸断面であったのに対し、実施例1の構造物の表層の繊維断面は、多くが、繊維構造物表面に平行な、平らに変形した面を持つ状態に変化していた。この構造物を表面方向からSEM観察すると、平らな面は、表面の繊維が占める面積のうち、25%程度存在した。
【0068】
また、比較例1はほとんど繊維断面の変形は見られなかった。さらに比較例2については、繊維構造物断面に著しい変形があり、繊維同志がかたまりのようにくっつきあって圧縮され、織物としてのふくらみがない状態であった。
【0069】
実施例2
セルロースアセテートブチレート(イーストマン社製、アセチル置換度2.0、ブチリル置換度0.7)85重量%と、可塑剤としてポリエチレングリコール(分子量600)15重量%を、二軸エクストルーダーを用いて220℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース脂肪酸エステル組成物ペレットを得た。このペレットを用いて実施例1同様に溶融紡糸した繊維を用いて、織り上げ密度113×50本/インチのツイル織物の生機を作成した。
【0070】
この繊維のガラス転移温度は100℃であった。
【0071】
この織物の生機を、全面フラットな金属の加熱ロールを用い、接触面温度140℃、圧力0.1MPaの熱圧加工を行った。
【0072】
その結果、生機は全面に、本来ツイル織物では得られにくいサテンのようなつや光沢が付与された。
【0073】
さらに、精練および染色を行ったが、この光沢は失われなかった。
【0074】
また、精練後のTgは160℃であった。精練による可塑剤溶出率は95%で、ほぼ可塑剤は溶出されていた。
【0075】
さらに、織物としての風合いを評価したところ、熱圧なしで染色したものに比べ、やや硬いものの、衣料用としても十分に柔軟な状態であった。また、耐アイロン性を調べたが、問題なく使用できるものであった。
【0076】
比較例3
実施例2と同じツイル織物生機について、まず精練を行って可塑剤を除去した。
【0077】
その後実施例2と同様に140℃、0.1MPaで全面熱圧加工を行ったが、光沢はほとんど生じなかった。また、その後精練染色を行ったところ、わずかな光沢は消失してしまった。
【0078】
比較例4
比較例3同様にまず精練を行い、可塑剤を除去したのちに、170℃、0.1MPaで全面熱圧加工を行ったところ、ツイル織物は紙のように圧縮され、フィルム状のテカリはあるものの硬化していた。さらに染色を行おうとしたが、硬いために染色機中で割れが生じ、破断したため工程を通過することが不可能であった。
【0079】
実施例3
セルロース(日本製紙(株)溶解パルプ、α−セルロース92wt%)100重量部に、酢酸67重量部とプロピオン酸300重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸33重量部と無水プロピオン酸466重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロース脂肪酸エステルを濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度は2.6(アセチル基0.2、プロピオニル基2.4)、重量平均分子量は12.0万であった。
【0080】
このセルロースアセテートプロピオネート90重量%と、可塑剤として平均分子量が800であるポリエチレングリコール10重量%を二軸エクストルーダーを用いて220℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース脂肪酸エステル組成物ペレットを得た。
【0081】
このペレットを実施例1同様に溶融紡糸にて繊維化した。得られた繊維(100デシテックス−24フィラメント;単糸繊度4.2デシテックス)の強度は1.20cN/dtex、伸度は25.0%であった。
【0082】
また、この繊維のTgは、105℃であった。
【0083】
得られた繊維を用いて、エアジェット織機により、織り上げ密度74×71本/インチの平織物生機を作成した。
【0084】
この生機を実施例2と同様にして、全面フラットな金属の加熱ロールを用い、接触面温度130℃、圧力0.3MPaの熱圧加工を行った。
【0085】
その結果、生機は全面に、つや光沢が付与され、さらに精練および染色を行ったが、この光沢は失われなかった。
【0086】
また、精練後のTgは150℃であった。精練による可塑剤の溶出率は80%で、大部分の可塑剤が溶出されていた。
【0087】
さらに、織物としての風合いを評価したところ、熱圧なしで染色したものに比べ、やや硬いものの、衣料用として十分に柔軟な状態であった。
【0088】
この織物の耐アイロン性を調べたところ、弱いテカリが出来たが、合繊に対して一般的に行われるようにあて布を用いればテカリは生じず、十分使用出来るものであった。
【0089】
比較例5
実施例3で作成したセルロースアセテートプロピオネート(置換度2.6、アセチル基0.2、プロピオニル基2.4)90重量%と、可塑剤としてアジピン酸ジオクチル10重量%を二軸エクストルーダーを用いて220℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース脂肪酸エステル組成物ペレットを得た。
【0090】
このペレットを、実施例3同様にして溶融紡糸し、繊維化した。得られた繊維(100デシテックス−24フィラメント;単糸繊度4.2デシテックス)の強度は1.10cN/dtex、伸度は25.7%であった。
【0091】
また、この繊維のTgは、105℃であった。
【0092】
得られた繊維を用いて、エアジェット織機により、織り上げ密度74×71本/インチの平織物生機を作成した。
【0093】
この生機を精練する前に、実施例3と同様の全面フラットな金属の加熱ロールを用い、接触面温度130℃、圧力0.3MPaの熱圧加工を行った。
【0094】
その結果、生機は全面に、つや光沢が付与された。さらに精練を行ったが、この可塑剤は水ではほとんど溶出されず、溶出率は4%であった。また、精練後のTgは108℃であった。その後染色を行ったが、この光沢は失われなかった。しかしながら、この染色物にアイロンをかけると、織物が溶融してアイロンの裏に貼りつき、使用に耐えるものではなかった。
【0095】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明により、簡便な方法で、光沢を有する繊維構造物を提供することが可能となる。得られる繊維構造物は、光沢が恒久的に付与され、審美性が高く、耐熱性もあるため、光沢や光沢からなる柄を活かした衣料分野や、インテリア、産業用繊維などとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑剤を含有する熱可塑性繊維を含む繊維構造物の少なくとも一部を、可塑剤を含有する熱可塑性繊維のガラス転移温度(Tg)以上の温度を有する熱圧体で押圧し、その後、可塑剤の溶出を行うことを特徴とする繊維構造物の製造方法。
【請求項2】
可塑剤の少なくとも一部が水溶性可塑剤であることを特徴とする請求項1に記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項3】
該熱可塑性繊維が、セルロース混合エステルを主成分とすることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項4】
可塑剤を溶出する前後における繊維のガラス転移温度(Tg)の差が、40℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項5】
熱圧体の温度が160℃以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項6】
可塑剤を溶出する前の、可塑剤を含有する繊維のガラス転移温度(Tg)が130℃以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項7】
可塑剤を溶出した後の、可塑剤を含有しない繊維のガラス転移温度(Tg)が150℃以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項8】
繊維構造物の表層の単繊維が、押圧によって繊維構造物表面に平行する平らな面を有する形状を有していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の繊維構造物の製造方法からなる繊維構造物。

【公開番号】特開2006−132031(P2006−132031A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322062(P2004−322062)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/溶融紡糸により得られる天然物由来新規繊維の研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】