説明

繊維機械

【課題】複数の作業台車からの作業を受けることが可能な処理ユニットが存在する場合において、作業を行う作業台車を効率よく制御可能な繊維機械を提供することを目的とする。
【解決手段】重複領域Tに対向する紡績ユニット2、即ち、第1糸継台車31及び第2糸継台車32からの糸継作業を受けることが可能な紡績ユニット2に対して糸継作業を行う必要がある場合、各糸継台車3の専属領域S1及びS2に対向する紡績ユニット2からの糸継要求の発生状況に応じて、糸継作業を行う糸継台車3を選択する。これにより、糸継要求に対する処理能力に応じた糸継台車3が選択され、処理能力に応じて選択された糸継台車3によって重複領域Tに対向する紡績ユニット2に対して糸継作業を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1〜3に記載された技術が知られている。特許文献1には、複数の巻取ユニットと、巻取ユニット間を移動して玉揚作業を行う2台の玉揚台車と、を備えた自動ワインダが記載されている。この自動ワインダは、玉揚作業が必要となった巻取ユニット(要玉揚ユニット)が発生した場合、玉揚台車の現在位置から最も近い位置にある要玉揚ユニットの方向へ玉揚台車を移動させる。また、2台の玉揚台車は、玉揚作業を行う受持ち領域が重複しており、玉揚台車同士が干渉しないように、一方の玉揚台車が反対側へ移動することが記載されている。
【0003】
特許文献2には、複数の紡績ユニットと、複数の紡績ユニット間を走行する複数の作業台車とを備えた繊維機械が記載されている。この繊維機械の作業台車は、予め定められた作業領域内で作業を行う。また、作業台車はお互いの現在位置を把握しており、ある作業台車が移動するときに他の作業台車が移動の妨げとなる場合、移動の妨げとなる他の作業台車は予め退避する構成となっている。
【0004】
特許文献3には、複数の紡績ユニットと、複数の紡績ユニット間を走行する複数の作業台車とを備えた繊維機械が記載されている。この繊維機械の作業台車は、例えば、隣接する紡績ユニットに対して2台の作業台車がそれぞれ作業を行うなど、お互いが干渉する位置で作業を行う必要がある場合、作業が必要な紡績ユニットまでの距離に基づいて作業順序の順位付けを行い、順位付けに基づいて作業を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−8943号公報
【特許文献2】特開2005−330596号公報
【特許文献3】特開2007−262607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、玉揚台車同士の干渉を避けることが記載されているだけであり、受持ち領域が重複する領域と、受持ち領域が重複しない領域と、において玉揚作業が必要となった場合の玉揚台車の移動の制御について、詳細には記載されていない。また、玉揚台車の現在位置から最も近い位置にある要玉揚ユニットの方向へ玉揚台車を移動させると、作業を行わない玉揚台車が発生する場合があり、自動ワインダ全体としての効率が低下する可能性がある。また、特許文献2及び3では、各作業台車は、専属の作業領域内でしか作業を行うことができない。そこで、本発明は、複数の作業台車からの作業を受けることが可能な処理ユニットが存在する場合において、作業を行う作業台車を効率よく制御可能な繊維機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る繊維機械は、糸処理を行う複数の処理ユニットと、複数の処理ユニット間を走行する複数の作業台車と、複数の処理ユニットのいずれかである作業要求ユニットからの作業要求に応じて、作業要求ユニットに対して作業を行う作業実施台車を複数の作業台車から選択する制御部と、を備える。制御部は、作業要求ユニットが複数の作業台車からの作業を受けることが可能である場合、当該作業要求ユニットに対して作業が可能な複数の作業台車の中から、それぞれの作業台車のみが作業可能な作業要求ユニットからの作業要求の発生状況に応じて、作業を行う作業実施台車を選択することを特徴とする。
【0008】
この繊維機械では、作業要求ユニットが複数の作業台車からの作業を受けることが可能である場合、当該作業要求ユニットに対して作業が可能な複数の作業台車の中から、それぞれの作業台車のみが作業可能な作業要求ユニットからの作業要求の発生状況に応じて、作業を行う作業実施台車が選択される。これにより、作業要求に対する処理能力に応じた作業実施台車が選択され、処理能力に応じて選択された作業実施台車によって、複数の作業台車からの作業を受けることが可能な作業要求ユニットに対して作業を行うことができる。このように本発明に係る繊維機械は、複数の作業台車からの作業を受けることが可能な処理ユニットが存在する場合において、作業を行う作業台車を効率よく制御することができる。
【0009】
制御部は、複数の作業台車からの作業を受けることが可能な作業要求ユニットから作業要求が行われた場合、当該作業要求ユニットに対して作業が可能な複数の作業台車の中から、それぞれの作業台車のみが作業可能な作業要求ユニットからの作業要求の発生数が最も少ない作業台車を、作業を行う作業実施台車として選択することが好ましい。この構成によれば、作業要求の発生数が最も少ない作業台車が、作業要求がされた作業要求ユニットに対して作業を行う作業実施台車として選択される。これにより、作業要求に対する処理能力に余裕がある作業台車によって、複数の作業台車からの作業を受けることが可能な作業要求ユニットに対する作業を行うことができる。
【0010】
制御部は、複数の作業台車からの作業を受けることが可能な作業要求ユニットから作業要求が行われた場合、当該作業要求ユニットに対して作業が可能な複数の作業台車のうち、それぞれの作業台車のみが作業可能な作業要求ユニットからの作業要求の発生数が最も多い作業台車については、当該作業台車のみが作業可能な作業要求ユニットに対してのみ作業を行わせることが好ましい。この構成によれば、作業要求の発生数が最も多い作業台車は、当該作業台車のみが作業可能な作業要求ユニットに対してのみ作業を行わせ、作業要求の発生数が少ない作業台車によって複数の作業台車からの作業を受けることが可能な作業要求ユニットに対する作業を行わせることができる。これにより、作業要求の発生数が多い作業台車に作業が集中することなく、作業を行う作業台車を効率よく制御することができる。
【0011】
制御部は、更に、複数の作業台車からの作業を受けることが可能な作業要求ユニットから作業台車までの距離に基づいて、作業を行う作業実施台車を選択することが好ましい。この構成によれば、例えば、複数の作業台車からの作業を受けることが可能な作業要求ユニットから作業要求があった場合、当該作業要求ユニットまでの距離が近い作業台車によって作業を行うことができるなど、作業要求を行った作業要求ユニットへすばやく作業実施台車を移動させることができる。
【0012】
処理ユニットは、作業を行った作業実施台車を識別する識別手段を備えることが好ましい。ここで、複数の作業台車からの作業を受けることが可能な処理ユニットが、作業を行った作業台車を識別する識別手段を備えることで、作業を行った作業台車を処理ユニットが把握することができる。
【0013】
繊維機械は、作業台車の走行路を規定する規定手段を更に備えることが好ましい。この構成によれば、作業台車の走行路を、規定手段によって確実に規定することができる。
【0014】
規定手段は、走行路の範囲端の少なくとも一端に設けられた範囲端センサであることが好ましい。この構成によれば、走行路の範囲端の少なくとも一端に設けられた範囲端センサによって、作業台車の走行路を規定することができる。
【0015】
繊維機械は、複数の作業台車を走行路に沿って走行するように案内する軌道レールを更に備え、隣接する作業台車の走行路をそれぞれ規定する範囲端センサのうち、一方の範囲端センサは軌道レールの延在方向に略平行な方向に延びる第1面に設けられ、他方の範囲端センサは第1面とは異なる面であって軌道レールの延在方向に略平行な方向に延びる第2面に設けられていることが好ましい。範囲端センサによって規定される走行路が重複する場合、一方の走行路を規定する範囲端センサと、他方の走行路を規定する範囲端センサと、を軌道レールの異なる面にそれぞれ設ける。このように範囲端センサを設ける位置を異ならせることで、範囲端の誤検出を防止し、範囲端センサによって確実に走行路を規定することができる。
【0016】
複数の処理ユニットのそれぞれは、紡績糸を生成する紡績装置と、紡績装置によって生成された紡績糸をパッケージに巻き取る巻取装置と、を有していることが好ましい。これにより、紡績装置と巻取装置とを備えた処理ユニットに対して作業を行う作業台車を効率よく制御することができる。
【0017】
作業台車は、紡績糸の連続状態が分断された場合に、紡績装置から紡出される紡績糸とパッケージからの紡績糸とを継ぐ糸継作業を行う糸継台車であることが好ましい。この構成によれば、糸継作業を行う糸継台車を、効率よく制御することができる。
【0018】
紡績装置は、旋回気流によって繊維束を加撚して紡績糸を生成する空気紡績装置であることが好ましい。この構成によれば、空気紡績機を備える処理ユニットに備えられた作業台車を、効率よく制御することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複数の作業台車からの作業を受けることが可能な処理ユニットが存在する場合において、作業を行う作業台車を効率よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る紡績機の正面図である。
【図2】図1の紡績機の縦断面図である。
【図3】糸継台車の移動領域を示す模式図である。
【図4】紡績機の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】制御装置が糸継処理を行う紡績ユニットを選択する処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。図1は紡績機の全体的な構成を示した正面図、図2は紡績機の縦断面図である。
【0022】
図1に示す繊維機械としての紡績機1は、並設された多数の紡績ユニット2を備えている。この紡績機1は、糸継台車3と、ブロアボックス80と、原動機ボックス5と、を備えている。なお、紡績機1が設置される工場では、糸継台車3に対して紡績糸10の糸道側に、紡績ユニット2の配列方向に延びる作業者通路が設けられる。作業者は、作業者通路側から、各紡績ユニット2の操作や監視等を行うことができる。
【0023】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、空気紡績装置9と、糸貯留装置12と、ワキシング装置14と、巻取装置13と、を備えている。ドラフト装置7は紡績機1の筐体6の上端近傍に設けられている。このドラフト装置7から送られてくる繊維束8は空気紡績装置9で紡績される。空気紡績装置9から送出された紡績糸10はヤーンクリアラ52を通過した後、糸貯留装置12で更に下方に送られてワキシング装置14でワックスが付与される。その後、紡績糸10は、巻取装置13によって巻き取られ、これによりパッケージ45が形成される。
【0024】
ドラフト装置7は、スライバ15を延伸して繊維束8にするためのものである。このドラフト装置7は図2に示すように、バックローラ対16、サードローラ対17、エプロンベルト18を装架したミドルローラ対19、及びフロントローラ対20の4つのローラ対を備えている。各ローラ対16,17,19,20のボトムローラは、原動機ボックス5又は個別に設けられた不図示の駆動源からの動力により駆動される。各ローラ対16,17,19,20は、回転速度を異ならせて駆動され、この結果、上流側から供給されたスライバ15を延伸して繊維束8にし、下流側の空気紡績装置9に送ることができる。
【0025】
空気紡績装置9は、旋回気流を利用して繊維束8に撚りを与え、紡績糸10を生成する。空気紡績装置9は、詳細な説明や図示は省略するが、繊維案内部と、旋回流発生ノズルと、中空ガイド軸体と、を備えている。繊維案内部は、ドラフト装置7から送られた繊維束8を、空気紡績装置9の内部に形成される紡績室に案内する。旋回流発生ノズルは、繊維束8の経路の周囲に配置され、紡績室内に旋回流を発生させる。この旋回流によって、紡績室内の繊維束8の繊維端が反転され旋回する。中空ガイド軸体は、紡績された紡績糸10を紡績室から空気紡績装置9の外部へと案内する。
【0026】
空気紡績装置9の下流には、糸貯留装置12が設けられている。この糸貯留装置12は、紡績糸10に所定の張力を与えて空気紡績装置9から引き出す機能と、糸継台車3による糸継ぎ時などに空気紡績装置9から送出される紡績糸10を滞留させて紡績糸10の弛みを防止する機能と、巻取装置13側の張力の変動が空気紡績装置9側に伝わらないように張力を調節する機能と、を有している。図2に示すように、糸貯留装置12は、糸貯留ローラ21と、糸掛け部材22と、上流側ガイド23と、電動モータ25と、下流側ガイド26と、糸貯留量センサ27と、を備えている。
【0027】
糸掛け部材22は、紡績糸10に係合する(引っ掛ける)ことが可能に構成されており、紡績糸10に係合した状態で糸貯留ローラ21と一体回転することにより、当該糸貯留ローラ21の外周面に紡績糸10を巻き付けることができる。
【0028】
糸貯留ローラ21は、その外周面に紡績糸10を一定量巻き付けて貯留することができる。また、糸貯留ローラ21は、電動モータ25によって回転駆動される。この構成で、糸貯留ローラ21の外周に巻き付けられた紡績糸10は、糸貯留ローラ21が回転することにより当該糸貯留ローラ21を締め付けるようにして巻かれ、糸貯留装置12よりも上流側の紡績糸10を引っ張る。即ち、外周に紡績糸10を巻き付けた状態の糸貯留ローラ21を所定の回転速度で回転させることで、糸貯留装置12は、紡績糸10に所定の張力を与えて空気紡績装置9から紡績糸10を所定の速度で引き出し、所定の速度で下流側に搬送することができる。
【0029】
そして、糸貯留ローラ21の外周に所定量の紡績糸10を巻き付けることで、糸貯留ローラ21と紡績糸10との間で所定の接触面積を確保することができる。これにより、糸貯留ローラ21が十分な力で紡績糸10を保持して引っ張ることが可能となり、糸貯留装置12はスリップ等を発生させることなく空気紡績装置9から安定した速度で紡績糸10を引き出すことができる。
【0030】
糸貯留量センサ27は糸貯留ローラ21上に貯留されている紡績糸10の貯留量を非接触式で検出し、制御装置53(図4参照)に送信するように構成されている。
【0031】
上流側ガイド23は糸貯留ローラ21のやや上流側に配置される。上流側ガイド23は、糸貯留ローラ21の外周面に対して紡績糸10を適切に案内する案内部材であるとともに、空気紡績装置9から伝播してくる紡績糸10の撚りが当該上流側ガイド23よりも下流側に伝わることを防止する撚り止めの役割を兼ねている。
【0032】
紡績機1の筐体6の前面側であって空気紡績装置9と糸貯留装置12との間の位置には、ヤーンクリアラ52が設けられている。空気紡績装置9で紡出された紡績糸10は、糸貯留装置12で巻き取られる前にヤーンクリアラ52を通過するようになっている。ヤーンクリアラ52は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号を制御装置53へ送信する。
【0033】
上記制御装置53は、糸欠点検出信号を受信すると、直ちに、空気紡績装置9の旋回気流発生ノズルからの圧空の噴出を停止させる。これにより、旋回気流が停止して繊維束8の加撚が停止すると共に空気紡績装置9への繊維束8の導入も停止する。そして、空気紡績装置9において繊維の連続状態が分断され、紡績糸10が切断される。その後、制御装置53は、更にドラフト装置7等を停止させる。また、制御装置53は糸継台車3に制御信号を送り、当該紡績ユニット2の前まで走行させる。その後、空気紡績装置9等を再び駆動し、糸継台車3に糸継ぎを行わせて巻取りを再開させる。このとき、糸貯留装置12は、空気紡績装置9が紡績を再開してから巻取りが再開されるまでの間、空気紡績装置9から連続的に送出される紡績糸10を糸貯留ローラ21に滞留させて紡績糸10の弛みを取る。
【0034】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は、ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、レール41に沿って当該紡績ユニット2まで走行し、停止する。サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動しながら、空気紡績装置9から送出される糸端を吸い込みつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動しながら、巻取装置13に支持されたパッケージ45から糸端を吸引しつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。スプライサ43は、案内された糸端同士の糸継ぎを行う。
【0035】
糸貯留装置12の下流には、ワキシング装置14が設けられている。ワキシング装置14は、糸貯留装置12から巻取装置13に向けて走行する紡績糸10に、ワックスを付与する。
【0036】
巻取装置13は、支軸70まわりに揺動可能に支持されたクレードルアーム71を備える。このクレードルアーム71は、紡績糸10を巻回するためのボビン48を回転可能に支持することができる。
【0037】
また、巻取装置13は、巻取ドラム72と、トラバース装置75と、を備えている。巻取ドラム72は、ボビン48やそれに紡績糸10を巻回して形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。また、トラバース装置75は、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76を備えている。この構成で、巻取装置13は、トラバースガイド76を図略の駆動手段によって往復動させながら巻取ドラム72を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム72に接触するパッケージ45を回転させ、紡績糸10を綾振りしつつパッケージ45を巻き取るようになっている。なお、トラバース装置75のトラバースガイド76は、複数の紡績ユニット2で共有されるシャフトにより、各紡績ユニット2で共通に駆動される。
【0038】
ブロアボックス80には、紡績ユニット2の各部や糸継台車3等に供給するエアーを発生させるエアー供給源(負圧源)が格納されている。
【0039】
次に、糸継台車3の移動領域について説明する。図3は、糸継台車の移動領域を示す模式図であり、図3(a)は、紡績ユニットを正面から見た模式図、図3(b)は、上レール及び糸継台車を上方から見た模式図である。なお、図3(a)及び図3(b)に示すように、本実施形態における紡績機1には、糸継台車3として第1糸継台車31及び第2糸継台車32が備えられている。また、紡績機1には、40台の紡績ユニット2が備えられている。また、紡績ユニット2には、各紡績ユニット2を識別するために、紡績機1の一端側から順に、ユニット番号Y1,Y2,…,Y39,Y40が割り当てられているものとする。
【0040】
図3(a)及び図3(b)に示すように、第1糸継台車31及び第2糸継台車32は、紡績機1内に敷設された共通のレール41に沿って走行する走行輪42(図1参照)を備えており、この走行輪42を走行輪駆動モータ35(図4参照)によって駆動することで走行する。なお、レール41は、上レール(軌道レール)41aと、下レール41bと、より構成されている。糸継台車3がレール41に沿って走行する際、上レール41aは糸継台車3の上側をガイドし、下レール41bは糸継台車3の下側をガイドする。
【0041】
図3(a)及び図3(b)に示すように、第1糸継台車31は、ユニット番号Y1からユニット番号Y24までの紡績ユニット2に対して作業を行うための領域である移動領域X1内を移動するように設定されている。第1糸継台車31は、移動領域(走行路)X1内を移動して、ユニット番号Y1〜Y24までの紡績ユニット2のうち作業対象とする紡績ユニット2の前で停止し、作業対象とする紡績ユニット2に対して糸継作業を行う。また、第2糸継台車32は、ユニット番号Y17からユニット番号Y40までの紡績ユニット2に対して作業を行うための領域である移動領域X2内を移動するように設定されている。第2糸継台車32は、移動領域(走行路)X2内を移動して、ユニット番号Y17〜Y40までの紡績ユニット2のうち作業対象とする紡績ユニット2の前で停止し、作業対象とする紡績ユニット2に対して糸継作業を行う。
【0042】
従って、第1糸継台車31が移動する移動領域X1は、第1糸継台車31のみが移動する専属領域S1と、第2糸継台車32が移動する移動領域X2と重複する重複領域Tと、を含む。専属領域S1は、ユニット番号Y1〜16の紡績ユニット2に対向し、重複領域Tは、ユニット番号Y17〜24の紡績ユニット2に対向している。また、第2糸継台車32が移動する移動領域X2は、第2糸継台車32のみが移動する専属領域S2と、第1糸継台車31が移動する移動領域X1と重複する重複領域Tと、を含む。専属領域S2は、ユニット番号Y25〜40の紡績ユニット2に対向している。即ち、専属領域S1に対向するユニット番号Y1〜16の紡績ユニット2は、第1糸継台車31のみによって糸継作業が行われる。重複領域Tに対向するユニット番号Y17〜24の紡績ユニット2は、第1糸継台車31及び第2糸継台車32によって糸継作業が行われる。専属領域S2に対向するユニット番号Y25〜40の紡績ユニット2は、第2糸継台車32のみによって糸継作業が行われる。
【0043】
次に、紡績機1の電気的構成を説明する。図4は、紡績機の電気的構成を示すブロック図である。図4に示すように、紡績機1は、中央制御装置4を備える。中央制御装置4は、多数並べられた紡績ユニット2がそれぞれ備える制御装置53に、信号線を介して接続される。中央制御装置4は、紡績機1内における糸継台車3以外の場所に設けられている。これにより、中央制御装置4は、紡績ユニット2の状態に関する信号を各紡績ユニット2の制御装置53から受信する。紡績ユニット2の状態に関する信号には、例えば、紡績糸10が切れて糸継ぎが必要になった旨の信号(糸継要求信号)や、紡績ユニット2に何らかの異常が発生して停止した旨の信号等がある。
【0044】
なお、図3(a)に示すように、各紡績ユニット2には、ユニット番号Y1〜Y40が割り当てられており、このユニット番号は、各紡績ユニット2の制御装置53に記憶されている。このユニット番号の情報は、紡績ユニット2が糸継要求信号などを中央制御装置4へ送信する際に、その信号に含ませることとする。これにより中央制御装置4は、現在、どの番号の紡績ユニットが糸継ぎを要求しているかを認識することができる。
【0045】
また中央制御装置4は、第1糸継台車31の制御装置(制御部)38や第2糸継台車32の制御装置(制御部)38に対しても信号線を介して接続されており、各制御装置38に対して糸継要求信号や各種情報を送信したり、第1糸継台車31側や第2糸継台車32側から各種情報を取得したりする。なお、中央制御装置4から各制御装置38へ送信される各種情報には、第1糸継台車31及び第2糸継台車32の位置についての情報が含まれている。
【0046】
第1糸継台車31及び第2糸継台車32は、それぞれ、スプライサ43、走行輪42を駆動する走行輪駆動モータ35、紡績ユニット2ごとに設けられた図略のドックを検知するためのドックセンサ36、台車側送信部37、制御装置38、及び、範囲端検出センサ39を備えている。
【0047】
第1糸継台車31の制御装置38は、走行輪駆動モータ35を作動させることで、糸継要求(作業要求)を行った紡績ユニット(作業要求ユニット)2に向けて第1糸継台車31を移動させる。そして、第1糸継台車31の制御装置38は、ドックセンサ36の検知結果に基づいて、糸継要求を行った紡績ユニット2に対向する位置に当該第1糸継台車31を位置決めして停止させた上で、スプライサ43を作動させて糸継ぎを行わせる。第2糸継台車32の制御装置38においても、第1糸継台車31の制御装置38と同様に、糸継要求を行った紡績ユニット2向けて第2糸継台車32を走行させ、スプライサ43を作動させて糸継ぎを行わせる。
【0048】
第1糸継台車31の台車側送信部37は、第1糸継台車31が目的の紡績ユニット2に到着して停止したとき、その停止位置に対向する紡績ユニット2に備えられたセンサ(識別手段)61へ信号を出力する。そして、信号を受信したセンサ61を備える紡績ユニット2の制御装置53は、自身のユニット番号を含む信号を、自身の前に停止している第1糸継台車31の制御装置38に対して中央制御装置4を介して出力する。同様に、第2糸継台車32の台車側送信部37は、第2糸継台車32が目的の紡績ユニット2に到着して停止したとき、その停止位置に対向する紡績ユニット2に備えられたセンサ61へ信号を出力する。そして、信号を受信したセンサ61を備える紡績ユニット2の制御装置53は、自身のユニット番号を含む信号を、自身の前に停止している第2糸継台車32の制御装置38に対して中央制御装置4を介して出力する。これにより、停止中の第1糸継台車31及び第2糸継台車32は、複数ある紡績ユニット2のうちどの紡績ユニット2の手前に現在停止しているか、即ち、自己の位置情報を認識することができる。そして、第1糸継台車31及び第2糸継台車32がその位置から走行を開始するときは、この位置情報を基準としてドックセンサ36の検知数をカウントすることにより、現在の位置を認識することができる。
【0049】
中央制御装置4は、上述のように、紡績ユニット2の制御装置53より出力される信号を受信することで第1糸継台車31及び第2糸継台車32の位置を把握することができる。中央制御装置4は、把握された第1糸継台車31の位置についての情報を第2糸継台車32へ送信し、把握された第2糸継台車32の位置についての情報を第1糸継台車31へ送信する。これにより第1糸継台車31及び第2糸継台車32は、互いの現在位置を把握することができる。
【0050】
第1糸継台車31及び第2糸継台車32の台車側送信部37から紡績ユニット2のセンサ61へ送信される信号には、第1糸継台車31及び第2糸継台車32を識別するための識別信号が含まれている。これにより、紡績ユニット2は、第1糸継台車31及び第2糸継台車32のいずれの糸継台車3によって糸継作業が行われているかを認識することができる。
【0051】
第1糸継台車31に備えられた制御装置38は、第1糸継台車31に設定された移動領域X1と、第2糸継台車32に設定された移動領域X2と、を記憶している。同様に、第2糸継台車32に備えられた制御装置38は、第2糸継台車32に設定された移動領域X2と、第1糸継台車31に設定された移動領域X1と、を記憶している。即ち、第1糸継台車31に備えられた制御装置38は、第2糸継台車32と移動領域が重複する重複領域Tと、第1糸継台車31のみが走行する専属領域S1と、を把握している。同様に、第2糸継台車32に備えられた制御装置38は、第1糸継台車31と移動領域が重複する重複領域Tと、第2糸継台車32のみが走行する専属領域S2と、を把握している。
【0052】
第1糸継台車31に備えられた範囲端検出センサ39は、第1糸継台車31の移動領域X1の範囲端を検出するためのものである。具体的には、第1糸継台車31に備えられた範囲端検出センサ39は、上レール41aに設けられた第1範囲端検出用ドック(規定手段、範囲端センサ)50aを検出することで、移動領域X1の範囲端を検出する。なお、第1範囲端検出用ドック50aは、移動領域X1の両側の範囲端にそれぞれ設けられている。第1糸継台車31の制御装置38は、範囲端検出センサ39によって移動領域X1の範囲端が検出されると、移動領域X1から逸脱することがないように走行輪駆動モータ35を制御する。このように、第1糸継台車31の制御装置38は、上述したドックセンサ36を用いた現在位置の認識に加え、範囲端検出センサ39によっても移動領域X1の範囲端を認識することができる。これらの検出結果を用いることで、第1糸継台車31が移動領域X1から逸脱してしまうことをより確実に防止することができる。
【0053】
同様に、第2糸継台車32に備えられた範囲端検出センサ39は、第2糸継台車32の移動領域X2の範囲端を検出するためのものである。具体的には、第2糸継台車32に備えられた範囲端検出センサ39は、上レール41aに設けられた第2範囲端検出用ドック(規定手段、範囲端センサ)50bを検出することで、移動領域X2の範囲端を検出する。なお、第2範囲端検出用ドック50bは、移動領域X2の両側の範囲端にそれぞれ設けられている。第2糸継台車32の制御装置38は、範囲端検出センサ39によって移動領域X2の範囲端が検出されると、移動領域X2から逸脱することがないように走行輪駆動モータ35を制御する。このように、第2糸継台車32の制御装置38は、上述したドックセンサ36を用いた現在位置の認識に加え、範囲端検出センサ39によっても移動領域X2の範囲端を認識することができる。これらの検出結果を用いることで、第2糸継台車32が移動領域X2から逸脱してしまうことをより確実に防止することができる。
【0054】
第1範囲端検出用ドック50aは、上レール41aにおける第1面47aに設けられている。一方、第2範囲端検出用ドック50bは、上レール41aにおける第1面47aとは異なる第2面47bに設けられている。即ち、第1糸継台車31に設けられた範囲端検出センサ39と第2糸継台車32に設けられた範囲端検出センサ39とは、それぞれ上レール41aにおいて異なる面を検出対象としている。本実施形態では、第1面47aと第2面47bとは、対向しているものとする。
【0055】
第1糸継台車31及び第2糸継台車32にそれぞれ備えられた制御装置38は、図示しないCPU、ROM、RAM等を有する公知のマイクロコンピュータとして構成され、予めROM等に記憶されたプログラムを実行する。
【0056】
次に、第1糸継台車31及び第2糸継台車32の制御装置38が、糸継作業を行う紡績ユニット2を選択する処理の詳細について説明する。図5は、制御装置が糸継処理を行う紡績ユニットを選択する処理の流れを示すフローチャートである。なお、第1糸継台車31の制御装置38は、移動領域X1に対向する複数の紡績ユニット2から糸継要求がされている場合、基本的には、糸継要求を行った紡績ユニット2の中で最も近い位置に存在する紡績ユニット2を、糸継作業の対象として選択する。第2糸継台車32の制御装置38も、第1糸継台車31の制御装置38と同様に、糸継作業の対象となる紡績ユニット2を選択する。なお、糸継要求がない場合、第1糸継台車31及び第2糸継台車32は、現在位置又は所定位置に留まり、糸継要求があるまで待機する。第1糸継台車31に備えられた制御装置38と、第2糸継台車32に備えられた制御装置38とは同じ処理を行うものであり、以下では、第1糸継台車31に備えられた制御装置38が行う処理を代表させて説明する。
【0057】
図5に示すように、第1糸継台車31に備えられた制御装置38は、糸継要求を行った移動領域X1に対向する紡績ユニット2の中で、第1糸継台車31の現在位置から最も近い位置に存在する紡績ユニット2を糸継対象として特定する。そして特定された紡績ユニット2の位置が、重複領域Tに対向しているか否かを判断する(ステップS101)。特定された紡績ユニット2が重複領域Tに対向していない場合(ステップS101:NO)、即ち、特定された紡績ユニット2が、第1糸継台車31の専属領域S1に対向する場合、第1糸継台車31の制御装置38は、特定された紡績ユニット2に対して第1糸継台車(作業実施台車)31が糸継作業を行うように各部を制御する(ステップS105)。この糸継作業の際に、第1糸継台車31の台車側送信部37から糸継作業が行われる紡績ユニット2のセンサ61に対して信号が送信されることで、糸継作業が行われる紡績ユニット2は、糸継ぎを行った糸継台車3を識別することができる。糸継作業の終了後、再び、上述のステップS101の処理を行う。
【0058】
一方、特定された紡績ユニット2が重複領域Tに対向している場合(ステップS101:YES)、第1糸継台車31の制御装置38は、第2糸継台車32に対して専属領域S2に対向する紡績ユニット2から糸継要求がされているか否か、即ち、第2糸継台車32が糸継作業を行うべき紡績ユニット2を持っているか否かを判断する(ステップS102)。第2糸継台車32が糸継作業を行うべき紡績ユニット2を持っている場合(ステップS102:YES)、第1糸継台車31の制御装置38は、特定された紡績ユニット2に対して第1糸継台車31が糸継作業を行うように各部を制御する(ステップS105)。一方、第2糸継台車32が糸継作業を行うべき紡績ユニット2を持っていない場合(ステップS102:NO)、第1糸継台車31の制御装置38は、第2糸継台車32の現在位置が重複領域Tから所定距離内であるか否かを判断する(ステップS103)。なお、第2糸継台車32が糸継作業を行うべき紡績ユニット2を持っていない場合以外にも、第2糸継台車32が糸継作業を行うべき紡績ユニット2の数と、第1糸継台車31が糸継作業を行うべき紡績ユニット2の数と、が同数である場合に、ステップS102の判断をNOとして、ステップS103の処理へ進んでもよい。
【0059】
第2糸継台車32の現在位置が重複領域Tから所定距離内でない場合(ステップS103:NO)、第1糸継台車31の制御装置38は、特定された紡績ユニット2に対して第1糸継台車31が糸継作業を行うように制御する(ステップS105)。一方、第2糸継台車32の現在位置が重複領域Tから所定距離内である場合(ステップS103:YES)、第1糸継台車31の制御装置38は、重複領域Tに対向する紡績ユニット2に対しては糸継作業を行わず、専属領域S1に対向する紡績ユニット2に対する糸継作業を行うように各部を制御する(ステップS104)。このとき第1糸継台車31は、専属領域S1に対向する糸継要求を行った紡績ユニット2のうち、第1糸継台車31の現在の位置から最も近い位置の紡績ユニット2に対して糸継作業を行う。即ち、糸継要求を行った重複領域Tに対向する紡績ユニット2の糸継作業は第2糸継台車32に任せ、第1糸継台車31は専属領域S1に対向する紡績ユニット2に対する糸継作業を行う。この場合、第2糸継台車32は、糸継要求を行った重複領域Tに対向する紡績ユニット2に近く、また、第1糸継台車31よりも糸継作業の処理能力に余裕があること考えられる。このため、この重複領域Tに対向する紡績ユニット2に対して第1糸継台車31が糸継作業を行わず、第2糸継台車32に糸継作業を任せることで、糸継作業の作業効率が向上する。専属領域S1に対向する紡績ユニット2に対する糸継作業の終了後、再び、上述のステップS101の処理を行う。
【0060】
次に、紡績ユニット2から糸継要求がされた場合における第1糸継台車31及び第2糸継台車32の動作について、具体的例を用いて説明する。ここでは、図3(a)に示すように、ユニット番号Y20,Y38,Y39の紡績ユニット2から糸継要求がされているものとする。また、第1糸継台車31の現在地は、ユニット番号Y14の紡績ユニット2の正面とし、第2糸継台車32の現在地は、ユニット番号Y22の正面とする。
【0061】
まず、第2糸継台車32側から見た動作について説明する。第2糸継台車32の制御装置38は、第2糸継台車32の現在位置から最も近くに位置するユニット番号Y20の紡績ユニット2を、糸継対象として特定する。ここで、ユニット番号Y20の紡績ユニット2は重複領域Tに対向している(ステップS101:YES)ため、第2糸継台車32の制御装置38は、第1糸継台車31が糸継作業を行うべき紡績ユニット2を持っているか否かを判断する。ここでは、第1糸継台車31が専属領域S1に対向する紡績ユニット2に対して行うべき糸継作業がなく(ステップS102:NO)、重複領域Tから所定距離(ここでは、紡績ユニット2の5つ分の距離とする)内(ステップS103:YES)である。このため、重複領域Tに対向する紡績ユニット2の糸継作業は第1糸継台車31に任せ、第2糸継台車32はユニット番号Y38の紡績ユニット2の糸継作業を行う(ステップS104)。ユニット番号Y38の紡績ユニット2の糸継作業後、第2糸継台車32は、ユニット番号Y39の紡績ユニット2の糸継作業を行う。このとき、第1糸継台車31は、重複領域Tに対向するユニット番号Y20の紡績ユニット2の糸継作業を行う。
【0062】
次に、第1糸継台車31側から見た動作について説明する。第1糸継台車31の制御装置38は、第1糸継台車31の現在位置から最も近くに位置するユニット番号Y20の紡績ユニット2を、糸継対象として特定する。ここで、ユニット番号Y20の紡績ユニット2は重複領域Tに対向している(ステップS101:YES)ため、第1糸継台車31の制御装置38は、第2糸継台車32が糸継作業を行うべき紡績ユニット2を持っているか否かを判断する。ここでは、第2糸継台車32が専属領域S2に対向するユニット番号Y38及びY39の紡績ユニット2に対する糸継作業がある(ステップS102:YES)。このため、第1糸継台車31が、重複領域Tに対向するユニット番号Y20の紡績ユニット2の糸継作業を行う(ステップ105)。このとき、第2糸継台車32は、ユニット番号Y38及びY39の紡績ユニット2の糸継作業を行う。
【0063】
以上、上記本実施形態に係る紡績機1では、重複領域Tに対向する紡績ユニット2、即ち、第1糸継台車31及び第2糸継台車32からの糸継作業を受けることが可能な紡績ユニット2に対して糸継作業を行う必要がある場合、各糸継台車3の専属領域S1及びS2に対向する紡績ユニット2からの糸継要求の発生状況に応じて、糸継作業を行う糸継台車3が選択される。これにより、糸継要求に対する処理能力に応じた糸継台車3が選択され、処理能力に応じて選択された糸継台車3によって重複領域Tに対向する紡績ユニット2に対して糸継作業を行うことができる。このように本実施形態に係る紡績機1は、複数の糸継台車3からの糸継作業を受けることができる紡績ユニット2が存在する場合において、糸継作業を行う糸継台車3を効率よく制御することができる。
【0064】
重複領域Tに対向する紡績ユニット2に対して糸継作業を行う必要がある場合、専属領域S1,S2に対向する紡績ユニット2からの糸継要求の発生数が最も少ない糸継台車3が、糸継作業を行う糸継台車3として選択される。これにより、糸継要求に対する処理能力に余裕がある糸継台車3によって、重複領域Tに対向する紡績ユニット2に対して糸継作業を行うことができる。
【0065】
専属領域S1又はS2に対向する紡績ユニット2からの糸継要求の発生数が多い糸継台車3については、当該糸継台車3の専属領域に対向する紡績ユニット2に対してのみ糸継作業を行わせることで、専属領域S1又はS2に対向する紡績ユニット2からの糸継要求の発生数が少ない糸継台車3によって重複領域Tに対向する紡績ユニット2に対する糸継作業を行うことができる。これにより、糸継要求の発生数が多い糸継台車3に糸継作業が集中することなく、糸継作業を行う糸継台車3を効率よく制御することができる。
【0066】
重複領域Tに対向する紡績ユニット2に対して糸継作業を行う必要がある場合、重複領域Tから糸継台車3までの距離を考慮して糸継作業を行う糸継台車3を選択することで、糸継要求を行った紡績ユニット2へすばやく糸継台車3を移動させることができる。
【0067】
重複領域Tに対向する紡績ユニット2は、複数の糸継台車3によって糸継作業が行われる。そこで、糸継作業を行う糸継台車3の台車側送信部37から、糸継作業が行われる紡績ユニット2のセンサ61に向けて、糸継作業を行う糸継台車3の識別情報を含む信号を送信することで、紡績ユニット2は糸継作業を行った糸継台車3を把握することができる。
【0068】
移動領域X1の範囲端に第1範囲端検出用ドック50aを設けて、第1糸継台車31の範囲端検出センサ39によって第1範囲端検出用ドック50aを検出することで、第1糸継台車31は移動領域X1の範囲端を検出することができる。この範囲端の検出結果に基づいて第1糸継台車31の移動の制御を行うことで、第1糸継台車31が移動領域X1から逸脱してしまうことを防止できる。同様に、移動領域X2の範囲端に第2範囲端検出用ドック50bを設けて、第2糸継台車32の範囲端検出センサ39によって第2範囲端検出用ドック50bを検出することで、第2糸継台車32が移動領域X2から逸脱してしまうことを防止できる。
【0069】
移動領域X1と移動領域X2とが重複する場合、移動領域X1の範囲を規定する第1範囲端検出用ドック50aと、移動領域X2の範囲を規定する第2範囲端検出用ドック50bと、を上レール41aの異なる面にそれぞれ設ける。このように第1範囲端検出用ドック50aと第2範囲端検出用ドック50bとを設ける位置を異ならせることで、範囲端の誤検出を防止し、より確実に移動領域X1及びX2を規定することができる。
【0070】
ドラフト装置7と、空気紡績装置9と、巻取装置13と、を備えた紡績ユニット2に対して、上述のように糸継台車3の移動を制御することができるので、糸継台車3による糸継作業の効率を向上させることができる。
【0071】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
【0072】
例えば、実施形態の紡績機1及び紡績ユニット2では、紡績糸10を一定量巻き付けて貯留する糸貯留ローラ21によって空気紡績装置9から紡績糸10を引き出しているが、本発明は、デリベリローラとニップローラとで空気紡績装置から紡績糸を引き出すタイプの紡績機及び紡績ユニットに適用してもよい。
【0073】
実施形態の紡績機1及び紡績ユニット2では、上部のドラフト装置7から下部の巻取装置13に向けて、紡績糸10が下向きに走行するように糸道が設定されているが、本発明は、紡績糸が機台高さ方向において下から上に向けて走行するように糸道が設定された紡績機や紡績ユニットに適用してもよい。
【0074】
実施形態の紡績機1及び紡績ユニット2では、空気紡績装置9は、繊維案内部に保持され、紡績室に突出するように配置されたニードルを備えていてもよい。当該ニードルは、繊維束8の撚りが空気紡績装置9の上流側に伝播することを防止する。空気紡績装置9は、ニードルの代わりに、繊維案内部の下流側端部により、繊維束8の撚りの伝播を防止してもよい。また、空気紡績装置9は、互いに反対方向に撚りを掛ける一対のエアジェットノズルを備えていてもよい。
【0075】
実施形態の紡績機1及び紡績ユニット2では、ドラフト装置7の複数のボトムローラのうちの少なくとも一部やトラバース装置75のトラバースガイド76が、各紡績ユニット2に共通で駆動されているが、本発明は、紡績ユニットの各部(例えば、ドラフト装置、空気紡績装置、糸巻取装置等)が各紡績ユニット2で独立で駆動されるタイプの紡績機及び紡績ユニットに適用してもよい。
【0076】
実施形態の紡績機1は、40台の紡績ユニット2を備えるものとしたが、紡績ユニット2の数はこれに限定されるものではない。また、実施形態の紡績機1は、2台の糸継台車3を備えるものとしたが、糸継台車3の台数はこれに限定されるものではない。
【0077】
実施形態の紡績機1では、糸継台車3の走行の制御を当該糸継台車3に備えられた制御装置38によって行うものとしたが、これ以外にも、例えば、中央制御装置4が糸継台車3の走行の制御処理や糸継作業を行う紡績ユニット2の決定処理等を行うこともできる。
【0078】
実施形態の紡績機1では、上レール41aに第1範囲端検出用ドック50a及び第2範囲端検出用ドック50bを設けるものとしたが、これに限定されることなく、例えば、下レール41bに設けてもよい。図3に示すように、第1範囲端検出用ドック50a及び第2範囲端検出用ドック50bを、それぞれ移動領域X1及びX2の両端部に設けるものとしたが、いずれか一方の端部に設けてもよい。
【0079】
実施形態では、上レール41aに設けられた第1範囲端検出用ドック50a及び第2範囲端検出用ドック50bを範囲端検出センサ39によって検出することで、第1糸継台車31及び第2糸継台車32が、移動領域X1及び移動領域X2からそれぞれ逸脱することを防止するものとした。これ以外にも、例えば、物理的に接触をさせることで糸継台車3の移動を規制するバンパーを設けて、糸継台車3の移動領域からの逸脱を防止してもよい。
【0080】
実施形態では、紡績機1に備えられた糸継作業を行う糸継台車3に対して上述の制御を行うものとしたが、糸継台車3に代えて、満巻となったパッケージ45を巻取装置13から取り外して所定の場所へ移動させる玉揚台車に対して上述の制御を行ってもよい。また、紡績機1に備えられた糸継台車3に限らず、紡績糸を巻き取ってパッケージを形成する自動ワインダ等、繊維機械に備えられた複数の処理ユニット間を走行する作業台車に、上述の制御を適用してもよい。
【0081】
実施形態のヤーンクリアラ52は、紡績糸10の太さを監視して紡績糸10の糸欠点を検出するものとしたが、紡績糸10に含まれる異物の有無を監視し、異物が含まれている場合を糸欠点として検出することもできる。
【符号の説明】
【0082】
1…紡績機(繊維機械)、2…紡績ユニット(処理ユニット)、3…糸継台車(作業台車)、7…ドラフト装置、9…空気紡績装置(紡績装置)、13…巻取装置、31…第1糸継台車(作業台車)、32…第2糸継台車(作業台車)、38…制御装置(制御部)、41a…上レール(軌道レール)、50a…第1範囲端検出用ドック(規定手段、範囲端センサ)、50b…第2範囲端検出用ドック(規定手段、範囲端センサ)、61…センサ(識別手段)、X1,X2…移動領域(走行路)、S1,S2…専属領域、T…重複領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸処理を行う複数の処理ユニットと、
前記複数の処理ユニット間を走行する複数の作業台車と、
前記複数の処理ユニットのいずれかである作業要求ユニットからの作業要求に応じて、前記作業要求ユニットに対して作業を行う作業実施台車を前記複数の作業台車から選択する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記作業要求ユニットが複数の前記作業台車からの作業を受けることが可能である場合、当該作業要求ユニットに対して作業が可能な複数の前記作業台車の中から、それぞれの前記作業台車のみが作業可能な前記作業要求ユニットからの前記作業要求の発生状況に応じて、作業を行う前記作業実施台車を選択することを特徴とする繊維機械。
【請求項2】
前記制御部は、複数の前記作業台車からの作業を受けることが可能な前記作業要求ユニットから前記作業要求が行われた場合、当該作業要求ユニットに対して作業が可能な複数の前記作業台車の中から、それぞれの前記作業台車のみが作業可能な前記作業要求ユニットからの前記作業要求の発生数が最も少ない前記作業台車を、作業を行う前記作業実施台車として選択することを特徴とする請求項1に記載の繊維機械。
【請求項3】
前記制御部は、複数の前記作業台車からの作業を受けることが可能な前記作業要求ユニットから前記作業要求が行われた場合、当該作業要求ユニットに対して作業が可能な複数の前記作業台車のうち、それぞれの前記作業台車のみが作業可能な前記作業要求ユニットからの前記作業要求の発生数が最も多い前記作業台車については、当該作業台車のみが作業可能な前記作業要求ユニットに対してのみ作業を行わせることを特徴とする請求項1に記載の繊維機械。
【請求項4】
前記制御部は、更に、複数の作業台車からの作業を受けることが可能な前記作業要求ユニットから前記作業台車までの距離に基づいて、前記作業を行う前記作業実施台車を選択することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維機械。
【請求項5】
前記処理ユニットは、作業を行った前記作業実施台車を識別する識別手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維機械。
【請求項6】
前記作業台車の走行路を規定する規定手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の繊維機械。
【請求項7】
前記規定手段は、前記走行路の範囲端の少なくとも一端に設けられた範囲端センサであることを特徴とする請求項6に記載の繊維機械。
【請求項8】
前記複数の作業台車を前記走行路に沿って走行するように案内する軌道レールを更に備え、
隣接する前記作業台車の前記走行路をそれぞれ規定する前記範囲端センサのうち、一方の前記範囲端センサは前記軌道レールの延在方向に略平行な方向に延びる第1面に設けられ、他方の前記範囲端センサは前記第1面とは異なる面であって前記軌道レールの延在方向に略平行な方向に延びる第2面に設けられていることを特徴とする請求項7に記載の繊維機械。
【請求項9】
前記複数の処理ユニットのそれぞれは、
紡績糸を生成する紡績装置と、
前記紡績装置によって生成された前記紡績糸をパッケージに巻き取る巻取装置と、を有していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の繊維機械。
【請求項10】
前記作業台車は、前記紡績糸の連続状態が分断された場合に、前記紡績装置から紡出される紡績糸と前記パッケージからの紡績糸とを継ぐ糸継作業を行う糸継台車であることを特徴とする請求項9に記載の繊維機械。
【請求項11】
前記紡績装置は、旋回気流によって繊維束を加撚して紡績糸を生成する空気紡績装置であることを特徴とする請求項9又は10に記載の繊維機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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