説明

繊維片製造方法

【課題】長い繊維を高収率かつ狭い長さ分布で切断することで、短繊維を簡単に作製すること。
【解決手段】電界紡糸繊維のような切断すべき長繊維を、何れもこの長繊維の貧溶媒である二つの液体相の界面に置く。次に、図に示すように、界面に位置している長繊維をホモジナイザー中にあるような回転刃で切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解紡糸法(エレクトロスピニング法)などで作成されたもののような細い繊維を切断することにより繊維片を製造する、簡単で効率的な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界紡糸法は低コストで比較的生産性が高い、直接的且つ多目的な方法である。電界紡糸による繊維のサイズは、電界の均一性、ポリマーの粘性、電界の強さ、及びノズルと捕集器の間の距離の調節によって制御される。電界紡糸プロセスは、通常は不織布またはスポンジ状の形態で連続した繊維を生成する。今日に至るまで、これらの連続繊維は、光電子工学、センサ技術、触媒作用、濾過、医薬及び生体組織工学の分野において広く応用できることが実証されている。
【0003】
しかしながら、電界紡糸繊維の繊維片、つまり短い電界紡糸繊維にはほとんど注意が払われてこなかった。電界紡糸繊維などの繊維短片は、制御された生体内薬物送達のための高効率な運搬手段を提供したり、複合材料強化を改善したり、またマイクロメートルやナノメートルスケールの新規なデバイスを設計したりするのに役に立つ可能性があるが、注目されなかった主な理由は、このような短い電界紡糸繊維を作成するためのいくつかの方法は提案されたにもかかわらず、効率的な方法がなかったことにある。
【0004】
例えば、非特許文献1は、熱処理されたポリマー/生体活性ガラス複合材電界紡糸ナノファイバーをエタノール中でボールミル技術を使用して切り刻むことによって短い生体活性ガラスナノファイバーを作成することを報告した。しかしながら、この方法は剛性が高いナノファイバーには適するが、従来のポリマー電界紡糸ファイバーには適していない。
【0005】
非特許文献2は、液体窒素下で剃刀の刃によってポリマー/無機ナノ粒子複合材ナノファイバーを切断し、これによって50〜100μmを中心とした平均長のナノファイバーを得たことを報告した。明らかに、この方法はナノファイバー長の分布を十分に制御できず、またもっと短い(数μmの長さの)ナノファイバーを作成することはできない。これに加えて、この方法は工業目的には適切ではなく、単に実験室で採用できるだけであるように思われる。
【0006】
非特許文献3は、ミクロトーム(microtome)装置を使用した機械的切断プロセスにより短くされた不等電界紡糸ナイロン6ナノファイバー(shortened, anisometric electrospinning nylon 6 nanofibers)を作成する方法を報告した。この方法は以下の複数のステップを含む:電界紡糸ナノファイバーマットを予備的に切断する;不活性媒体中で凍結した埋め込みサンプルを準備する;ミクロトームを用いて、サンプルを−20℃で薄い切片に切り分ける;切片を解凍して不活性媒体を除去する。この方法を使えば、長さが数μmのナノファイバーを作成できる。この技術の基本的な問題は、収率が低いことである(3回の切断後で、わずか6%の収率が観測された)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、比較的長い繊維を切断することによって繊維片、つまり短繊維を製造する、低コストで簡単に実現でき、かつ短繊維の収率が高い方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、2つ以上の液相の界面または中間層に位置する繊維を刃を用いて切断するステップを設けた、繊維片を製造する方法が提供される。
【0009】
前記繊維は電界紡糸ファイバーであってよい。
【0010】
前記繊維はポリマーから成っていてよい。
【0011】
前記繊維はホモポリマーまたはコポリマーから成っていてよい。
【0012】
前記刃は前記2つ以上の液相中で回転してよい。
【0013】
本方法は更にホモジナイザーを提供するステップを含むとともに、前記刃は前記ホモジナイザーに含まれてよい。
【0014】
前記繊維の平均直径は50nmから10μmの範囲であってよい。
【0015】
前記繊維の平均直径は100nmから1000nmの範囲であってよい。
【0016】
前記繊維片の平均長は1から50μmの範囲であってよい。
【0017】
前記2つ以上の液相は前記繊維の貧溶媒から成っていてよい。
【0018】
前記2つ以上の液相の最上相は前記2つ以上の液相のうちの他の相よりも低い表面張力を有してよい。
【0019】
前記2つ以上の液相は2つの液相であり、前記2つの液相の対は以下の群から選ばれてよい:
2,2−ジメチルブタン/水、
2,3−ジメチルブタン/水、
2−メチルペンタン/水、
3−メチルペンタン/水、
n−ヘキサン/水、
2,4−ジメチルペンタン/水、
2,3−ジメチルペンタン/水、
3−メチルヘキサン/水、
n−ヘプタン/水、
2,2,4−トリメチルペンタン/水、
2,3,4−トリメチルペンタン/水、
トリメチルペンタン混合物/水、
ジメチルヘキサン混合物/水、
n−オクタン/水、
2,2,5−トリメチルヘキサン/水、
n−ノナン/水、
n−デカン/水、
n−ウンデカン/水、
n−ドデカン/水、
n−トリデカン/水、
メチルエチルケトン/水、
メチルイソブチルケトン/水、
ジイソプロピルエーテル/水、
ジブチルエーテル/水、
メチルtert−ブチルエーテル/水、
エチルアセテート/水、
イソプロピルアセテート/水、
n−ブチルアセテート/水、
テトラヒドロフラン(THF)/MeOH。

【発明の効果】
【0020】
本発明により、短い繊維を簡単に、大量に、高収率で、かつ低コストで作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】電界紡糸繊維のような繊維を切断する方法の概略説明図。
【図2】PMMAの10重量%DMF溶液から電界紡糸した繊維のSEM像。
【図3】切断後の短いPMMA繊維のSEM像。
【図4】切断後の短いPMMA繊維の長さ分布の棒グラフ。
【図5】ポリ(MMA−co−BIEM)の10重量%DMF溶液から電界紡糸した繊維のSEM像。
【図6】切断後の短いポリ(MMA−co−BIEM)繊維のSEM像。
【図7】図6に示す切断後の短いポリ(MMA−co−BIEM)繊維の大倍率のSEM像。
【図8】切断後の短いポリ(MMA−co−BIEM)繊維の長さ分布の棒グラフ。
【図9】ポリ(St−co−VBP)の30重量%DMF溶液から電界紡糸した繊維のSEM像。
【図10】切断後の短いポリ(St−co−VBP)繊維のSEM像。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、電界紡糸繊維などを切断することによって短い繊維を製造する、簡単で効率的な方法を提供する。本方法では、切断するための装置として商業的に入手可能なホモジナイザーを使用することができる。幾種類かのホモジナイザーが存在するが、本発明のための切断装置としては回転刃を備えたホモジナイザーが適切である。電界紡糸繊維などの切断は溶液系の中で行われる。繊維を損なわないようにするため、使用される液体はこれらの繊維の貧溶媒であるべきである。
【0023】
具体的には、ここにおいて、二相液体混合系を使用して切断プロセスを促進する。これらの液体は互いに混ざり合わず、また繊維に対しては貧溶媒である。これら2相の液体のうちの上側相(例えばヘキサン)は相対的に小さな表面張力と密度を有し、下側相(例えば水)は相対的に大きな表面張力と密度を有する。電界紡糸繊維を添加することで、サンドイッチ状構造が形成される。これが引き起こされるのは、下側相の大きな表面張力によって繊維が当該相の頂部に押しやられ、他方、上側相の小さな表面張力によりナノファイバーが当該相の底に沈降するという事実によると考えられる。その結果、添加された電界紡糸繊維などは二相系の界面に閉じ込められる。本願発明者の知る限りでは、電界紡糸繊維の切断を支援するために二相溶液混合系を使用するのは、これが最初の報告である。繊維切断効率を上げるために、例えば氷水浴によって系を冷却することにより、ポリマー鎖の剛性を増大させるという方策を取ることができる。
【0024】
電界紡糸繊維のような繊維を切断するための、報告されている他の方法と比較するに、
全体として見て、本発明の方法はいくつかの特筆すべき利点を有する。本発明の方法においては、他の付加化合物を添加する必要はない。得られる短繊維の長さは切断時間によって制御できる。切断時間を長くするほど、より短い繊維が高い収率で得られる。更には、長時間の切断を行うと、短繊維間の類似性が高くなる(つまり、長さの分布が狭くなる)。
【0025】
ここで、より長い時間の切断を行うことで生成される短繊維の長さの類似性が大きくなる理由を簡潔に説明する。短い切断時間の場合には、例えばホモジナイザーによる切断は連続した繊維の一部にしか行われない。その時点では、生産物は切断されていない繊維(連続した繊維)と数cmから数μmに渡る長さを持った切断された繊維から成っていて、長さについて非常に広い分布を有する。切断時間が長くなると、残っている未切断繊維及び比較的長い繊維は、体積の違いにより、比較的短い繊維に比べて高い確率で切断されるものと考えられる。その結果、未切断繊維(連続した繊維)がなくなり、比較的長い繊維の長さの短縮と得られる繊維の長さ分布の狭隘化がもたらされる。よって、切断時間を長くすることで、短繊維の類似性が大きくなる(長さの分布が狭くなる)と言うことができる。
【0026】
換言すれば、繊維がホモジナイザーなどの使用される切断機器の刃に出会う確率を考えてみることによってこの理由をもっとよく理解することができる。長い繊維ほど刃に出会う確率が高いので、長いものほど優先的に切断される傾向がある。従って、切断時間が長いほど、長い繊維がより優先的に切断され、切断された繊維の長さの分散がより小さくなる。
【0027】
最後に、また最も重要なこととして、本方法は電界紡糸繊維のような繊維を、損傷を与えることなく比較的大量に切断するために利用することができ、また過酷な化学的処理や高価で特製の機器は一切必要としない。
【0028】
本発明により、電界紡糸繊維などを切断することによって短繊維を製造する簡単で効率的な方法が与えられる。本方法の一例では、第1に、製造されたままの状態の電界紡糸繊維マットを剃刀やはさみで予備的に切断する。これにより1〜2cmの面積の小片を作る。次に、これらの小片を適切な複数種の液体とともに容器(例えば、ガラス瓶、ビーカーなど)に入れて、(水とヘキサンを体積比(水/ヘキサン)1/9〜9/1で混ぜた)二相液体混合系の界面中に置いて、サンドイッチ状構造を形成する。次に、図1に概略を示すように、この容器を氷水浴中に置き、ホモジナイザー(IKA, ULTRA-TURRAX T25)によって電界紡糸繊維を切断する。得られる短繊維の長さは、切断時間によって制御できる。切断時間をより長くすると、より短い繊維が得られる。切断時間を長くすると、短繊維の類似性もまた大きくなる(長さの分布が狭くなる)。最後に、生産物をフリーズドライ法によって回収する。
【0029】
上で説明したような予備的切処理は繊維切断及び切断繊維長分布の狭隘化のために必要な時間を短縮するという効果はあるが、必須ではないということに注意する必要がある。
【0030】
本発明に従った方法では、切断装置として商業的に入手可能なホモジナイザーを使用してもよい。電界紡糸繊維などの切断は二相液体系中の液−液界面(あるいは、より一般的には、多相液体系中の界面あるいは中間層)において行われる。繊維は機械力によって切断される。この過程は切断すべき繊維の直径、化学組成、向きなどには依存しないので、本方法は適当な液体系を用いて電界紡糸繊維を含む細い繊維に一般的に適用することができる。
【0031】
例えば、後述の実験における液体の対は水/ヘキサンを使用したが、水/ヘキサンの代わりに他の多くの対を使用することができる。両方の液体は繊維に対して貧溶媒でなければならない。よって、液体の選択は切断すべき繊維を作るために使用されたポリマーなどの材料の性質に依存する。可能な液体の対のリストには以下のものが含まれる:
2,2−ジメチルブタン/水、
2,3−ジメチルブタン/水、
2−メチルペンタン/水、
3−メチルペンタン/水、
n−ヘキサン/水、
2,4−ジメチルペンタン/水、
2,3−ジメチルペンタン/水、
3−メチルヘキサン/水、
n−ヘプタン/水、
2,2,4−トリメチルペンタン/水、
2,3,4−トリメチルペンタン/水、
トリメチルペンタン混合物/水、
ジメチルヘキサン混合物/水、
n−オクタン/水、
2,2,5−トリメチルヘキサン/水、
n−ノナン/水、
n−デカン/水、
n−ウンデカン/水、
n−ドデカン/水、
n−トリデカン/水、
メチルエチルケトン/水、
メチルイソブチルケトン/水、
ジイソプロピルエーテル/水、
ジブチルエーテル/水、
メチルtert−ブチルエーテル/水、
エチルアセテート/水、
イソプロピルアセテート/水、
n−ブチルアセテート/水、
テトラヒドロフラン(THF)/MeOH、
その他、多数。
【0032】
本発明のために使用される液体系は上の説明では二相系であったが、この液体系に三つあるいはもっと多くの液体の相を使用することもできることに注意しなければならない。繊維切断のための本発明の液体系として三つあるいはもっと多くの液体を使用する場合、切断すべき繊維は、二つの隣接する液体層の間の界面に置く代わりに、任意の中間層中に、つまり最上層と最下層の間にある任意の液体層中に置いてもよい。重要なのは、切断すべき繊維は液体系の表面に浮遊していたりあるいはその底に沈降しているのではなく、表面からもまた底からも離れている必要があるということである。
【0033】
本明細書中では電界紡糸繊維だけを例として挙げたが、本発明は、言うまでもなく、電界紡糸法以外の方法によって製造された繊維の切断に有効に使用することができる。その上、本発明の方法を使用して、例えば、直径が好ましくは50nmから10μm、より好ましくは100nmから1000nmの範囲であるような、多様な繊維を切断することができる。
【実施例】
【0034】
1.ホモポリマー(ポリ(メチルメタクリレート)、(PMMA))電界紡糸繊維の切断
<PMMAの作成>
標準的なプロセスにより、MMA(5g、50mmol)及びAIBN(0.008g、0.05mmol)をトルエン(5g)中に溶解した溶液を準備した。次に、この溶液を三方コック付きの重合チューブに移送し、凍結−排気−解凍サイクルを3回繰り返すことでガス抜きし、Nを再充填して密閉した。重合チューブを温度調節された油浴中で16時間の間60℃に加熱した。得られた生産物をCHCl/ヘキサン対を使った再沈殿法を3回繰り返すことにより精製し、真空中において室温で乾燥した。得られたPMMAの分子量は、10mMのLiCl入りのDMF中でのGPCによって決定したところ、Mn=184,000(Mw/Mn=2.01)であった。
【0035】
<電界紡糸によるPMMA繊維の製造>
この電界紡糸プロセスでは、高電圧電源(大阪の日本スタビライザー工業株式会社製HSP−30k−2)を使用して印加電圧を制御し、紡糸速度はシリンジポンプで制御した。DMFを溶媒としたPMMAの10重量%溶液を、印加電圧30kV、使用ニードル内径約0.45mm、溶液供給率1ml/hrで電界紡糸して繊維を製造した。PMMA繊維をニードル先端から13cmの距離にあるアルミ箔上に回収した。図2の走査電子顕微鏡(SEM)像に示すように、アルミ箔上に回収されたこのPMMA電界紡糸繊維は、向きがランダムであり、直径は594±81nmであった。
【0036】
<PMMA電界紡糸繊維の切断>
PMMA電界紡糸繊維を水とヘキサンの二相液体系(水/ヘキサン=1/1(体積/体積))に入れて、上述の方法で切断した。図3のSEM像は、約20000rpm(回転氏の回転)の速度で3時間切断を行った後の短繊維を示す。図4のグラフから判るように、これらの短繊維の長さは4.37±1,94μmの範囲内に分布していた(観測したサンプルの個数n=100)。SEMを使った観察により、本方法は繊維の形状には何の影響も与えなかったことも確認できた。電界紡糸マットの129mgのサンプルから出発して、凍結乾燥によって102mgの切断された短繊維を回収したが、これは79%の収率に相当する。
【0037】
2.コポリマー(ポリ(メチルメタクリレート)−co−2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)エチルメタクリレート)(ポリ(MMA−co−BIEM))電界紡糸繊維の切断
<ポリ(MMA−co−BIEM)の作製>
標準的なプロセスにより、MMA(5g、50mmol)、BIEM(2.29g、10mmol)及びAIBN(0.010g、006mmol)をトルエン(7.8g)中に溶解した溶液を準備した。次に、この溶液を三方コック付きの重合チューブに移送し、凍結−排気−解凍サイクルを3回繰り返すことでガス抜きし、Nを再充填して密閉した。重合チューブを温度調節された油浴中で16時間の間60℃に加熱した。得られた生産物をCHCl/ヘキサン対を使った再沈殿法を3回繰り返すことにより精製し、真空中において室温で乾燥した。得られたポリ(MMA−co−BIEM)の分子量を、10mMのLiCl入りのDMF中でのGPCによって決定した。ポリ(MMA−co−BIEM)の組成はCDCl中でNMR測定により決定した。こうして、Mnが193,000(Mw/Mn=1.98)、PBIEMセグメントのモル比(fPBIEM)が17.3%のポリ(MMA−co−BIEM)を作製した。
【0038】
<電界紡糸によるポリ(MMA−co−BIEM)繊維の製造>
この電界紡糸プロセスでは、高電圧電源(大阪の日本スタビライザー工業株式会社製HSP−30k−2)を使用して印加電圧を制御し、紡糸速度はシリンジポンプで制御した。DMFを溶媒としたポリ(MMA−co−BIEM)の10重量%溶液を、印加電圧30kV、使用ニードル内径約0.45mm、溶液供給率1ml/時間で電界紡糸して繊維を製造した。ポリ(MMA−co−BIEM)繊維をニードル先端から13cmの距離にあるアルミ箔上に回収した。図5の走査電子顕微鏡(SEM)像に示すように、アルミ箔上に回収されたこのポリ(MMA−co−BIEM)電界紡糸繊維は、向きがランダムであり、直径は190±36nmであった。
【0039】
<ポリ(MMA−co−BIEM)電界紡糸繊維の切断>
ポリ(MMA−co−BIEM)電界紡糸繊維を水とヘキサンの二相液体系(水/ヘキサン=1/1(体積/体積))に入れて、上述の方法を使用して切断した。図6及び図7のSEM像は、約20000rpm(回転子の回転)の速度で3時間切断を行った後に得られた短繊維を示す。図8のグラフから判るように、これらの短繊維の長さは2.45±1.30μmの範囲内に分布していた(n=100)。SEMを使った観察により、本方法は繊維の形状には何の影響も与えなかったことも確認できた。電界紡糸マットの147mgのサンプルから出発して、凍結乾燥によって115mgの切断された短繊維を回収したが、これは78%の収率に相当する。
【0040】
3.コポリマー(ポリ(スチレン−co−(4−ビニルベンジル−2−ブロモプロピオン酸))(ポリ(St−co−VBP))電界紡糸繊維の切断
<ポリ(St−co−VBP)の作製>
標準的なプロセスにより、St(13.86g、133mmol)、VBP(2.04g、7.6mmol)及び2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)(VR−110)(2.3mg、0.009mmol)の溶液を準備した。次に、この溶液を三方コック付きの重合チューブに移送し、凍結−排気−解凍サイクルを5回繰り返すことでガス抜きし、Nを再充填して密閉した。重合チューブを温度調節された油浴中で9時間の間110℃に加熱した。観測された生産物をテトラヒドロフラン(THF)/MeOH対を使った再沈殿法を3回繰り返すことにより精製し、真空中において室温で乾燥した。得られたポリ(St−co−VBP)の分子量を10mMのLiCl入りのDMF中でのGPCによって決定したところ、105,200(M/M=2.82)であった。GPCカラムはPS標準を使用して較正した。CDCl中でのHNMR測定により、このポリ(St−co−VBP)はPVBPセグメントのモル比(fPVBP)が6.0%であることが示された。
【0041】
<電界紡糸による繊維の製造>
この電界紡糸プロセスでは、高電圧電源(大阪の日本スタビライザー工業株式会社製HSP−30k−2)を使用して印加電圧を制御し、紡糸速度はシリンジポンプで制御した。DMFを溶媒としたポリ(St−co−VBP)の30重量%溶液を、印加電圧20kV、使用ニードル内径約0.45mm、溶液供給率1ml/時間で電界紡糸して繊維を製造した。繊維をニードル先端から15cmの距離にあるアルミ箔上に回収した。図9の走査電子顕微鏡(SEM)像に示すように、アルミ箔上に回収されたこの電界紡糸繊維は、向きがランダムであり、狭い直径分布(593±74nm)を有していた。
【0042】
<電界紡糸繊維の切断>
この電界紡糸繊維を液体として水及びヘキサンを使用し、上述の方法を使用して切断した。約20000rpmの速度で3時間切断を行ったところ、図10のSEM像に示すように、切断された短繊維の長さは数μmから数十μmの範囲であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
上で詳細に説明したように、本発明を用いて、例えば制御された生体内薬物送達のための高効率な運搬手段、改善された複合材料強化材、またマイクロメートル及びナノメートルスケールの新規なデバイス用に使用することができる短繊維を低コストで大量に製造することができる。
【0044】
例えば、ウィスカーはしばしばフィラーとして使用される。非特許文献4の報告によれば、汎用高分子に酸化スズウィスカーを添加したとき、同じ材料の粒子フィラーと比較してより少ない量で同等のレベルの導電性を与えることができた。これは、繊維状構造の材料がもたらすところの、添加量が同じ場合に粒子構造のものよりも高い充填率となることによるものである。本発明によって切断された短繊維はその形状がウィスカーやナノロッドと類似しているので、この短繊維はフィラーとして有利に使用できることが期待される。二つの液相の間に挟まれている電界紡糸繊維のような細い繊維を切断する本発明の方法は、操作の簡単さ、大量生産、低生産コストその他の点で、ウィスカーやロッドについての製造方法に対して勝っている。

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0045】
【非特許文献1】J. Jo et al. (Journal of Biomedical Materials Research Part B: Applied Biomaterials 2009, 91B, 213)
【非特許文献2】O. Kriha et al. (Adv. Mater. 2007, 19, 2483)
【非特許文献3】S. S. Mark et al. (Macromol. Biosci. 2008, 8, 484)
【非特許文献4】Matsushita, et a. (Nippon Kagaku Kaishi 1074 10, 1893)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の液相の界面または中間層に位置する繊維を刃を用いて切断するステップを設けた、繊維片を製造する方法。
【請求項2】
前記繊維は電界紡糸繊維である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記繊維はポリマーから成る、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記繊維はホモポリマーまたはコポリマーから成る、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記刃は前記2つ以上の液相中で回転する、請求項1から4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
ホモジナイザーを提供するステップを更に含むとともに、前記刃は前記ホモジナイザーに含まれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記繊維の平均直径は50nmから10μmの範囲である、請求項1から6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
前記繊維の平均直径は100nmから1000nmの範囲である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記繊維片の平均長は1から50μmの範囲である、請求項1から8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
前記2つ以上の液相は前記繊維の貧溶媒から成る、請求項1から9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
前記2つ以上の液相の最上相は前記2つ以上の液相のうちの他の相よりも低い表面張力を有する、請求項1から10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
前記2つ以上の液相は2つの液相であり、前記2つの液相の対は以下の群から選ばれる、請求項10または11に記載の方法:
2,2−ジメチルブタン/水、
2,3−ジメチルブタン/水、
2−メチルペンタン/水、
3−メチルペンタン/水、
n−ヘキサン/水、
2,4−ジメチルペンタン/水、
2,3−ジメチルペンタン/水、
3−メチルヘキサン/水、
n−ヘプタン/水、
2,2,4−トリメチルペンタン/水、
2,3,4−トリメチルペンタン/水、
トリメチルペンタン混合物/水、
ジメチルヘキサン混合物/水、
n−オクタン/水、
2,2,5−トリメチルヘキサン/水、
n−ノナン/水、
n−デカン/水、
n−ウンデカン/水、
n−ドデカン/水、
n−トリデカン/水、
メチルエチルケトン/水、
メチルイソブチルケトン/水、
ジイソプロピルエーテル/水、
ジブチルエーテル/水、
メチルtert−ブチルエーテル/水、
エチルアセテート/水、
イソプロピルアセテート/水、
n−ブチルアセテート/水。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−52271(P2012−52271A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197279(P2010−197279)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】