説明

繊維状アルミナ粒子を含むポリエチレンナフタレート繊維、ディップコード及び繊維の製造方法

【課題】本発明の目的は、繊維状アルミナを添加した強度、弾性率、耐熱収縮性、アルカリ耐性に優れたポリエチレンナフタレート繊維を提供することにある。
【解決手段】主たる繰り返し単位がエチレン−2,6−ナフタレートであるポリエチレンナフタレート中に下記条件(1)〜(3)を満たす繊維状アルミナ粒子を含有し、ポリエチレンナフタレートが下記条件(4)〜(5)を満たすポリエチレンナフタレート組成物を溶融紡糸して得られることを特徴とするポリエチレンナフタレート繊維。
(1)繊維状アルミナ粒子の粒子の平均繊維径が5〜15nm、平均繊維長が70〜200nmであること。
(2)繊維状アルミナ粒子の比表面積が50〜250mm/gであること。
(3)ポリエチレンナフタレート繊維全質量に対する繊維状アルミナ粒子の含有量が0.2〜4.0重量%であること。
(4)ポリエチレンナフタレートの固有粘度が0.55〜1.50dL/gであること。
(5)ポリエチレンナフタレート繊維全質量に対するジエチレングリコールの含有量が0.2〜4.0質量%であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状アルミナ粒子を含むポリエチレンナフタレート組成物から製造されたポリエチレンナフタレート繊維に関し、さらに詳しくは優れた強度・ヤング率、耐熱性を有するディップコード、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンナフタレート(以下、PENと省略することがある)は、剛直な分子鎖を有し、高強度・高弾性率・高ガラス転移点を有する特徴があり、タイヤ、ベルト、ホース等の産業用糸及びゴム補強材用糸として好適であり、特にタイヤコード用として最適の物性を発現できる。このPEN繊維の優れた物性をさらに高めることが期待されており、各種の改質が検討されている。その一例として、アスペクト比の高い繊維状アルミナ粒子を添加することにより、弾性率を向上したポリエステル繊維が報告されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
過去の報告では、繊維状アルミナ粒子を添加することにより強度・弾性率が向上した、ポリエチレンテレフタレートをはじめとする熱可塑性樹脂が得られることが報告されているが、目的とするゴム補強用途に適した強度・弾性率を向上させ、優れた耐熱性を有するポリエチレンナフタレート繊維を得ることは困難であった。
【0004】
強度・弾性率の高いPEN繊維を得るためには、アスペクト比の高い繊維状アルミナ粒子を均一に分散させることが重要であり、そのためには繊維状アルミナ粒子を分散させたスラリーをPEN樹脂の製造段階で添加する方法が好ましく用いられていた。しかし、アスペクト比の高い繊維状アルミナ微粒子を添加すると、副生成物としてジエチレングリコール(以下、DEGと省略することがある)が大量に発生する欠点があった。
【0005】
高いDEG含有率はタイヤ・ベルト補強用途をはじめとするゴム製品に悪影響を与える。具体的には、ゴム製品を製造する際、ディップ、加硫の工程において、高温下、アルカリ成分を含む処理を施されるが、DEG含有量が多い場合、処理工程でのアルカリ成分による加水分解が増え、ゴム製品の強度をはじめとする諸物性が低下してしまう。これは、DEG含有率が高い場合、糸のガラス転移点が低下することとDEG部分が糸の欠陥となることで、繊維内部にアルカリ成分が浸透しやすくなり、分解を促進してしまっていると考えられている。
【0006】
また高いDEGの含有量は、PET繊維に比べ、特にPEN繊維において糸物性を低下する要因となる。PET繊維対比、剛直なナフタレン環を有し、結晶性が低いPEN樹脂の場合、DEG含有率の増加によって従来の低い結晶性がさらに低下し、糸の強度・弾性率が低下してしまうためである。低下した強度・弾性率は、延伸倍率を増加させ、補うことも可能だが、乾熱収縮率(以下、乾収とも略記する)が増加するなど、耐熱性が低下してしまうため、抜本的な解決方法とは言えない。
【0007】
さらに、高いDEG含有率はガラス転移点の低下を招き、高温下でのモジュラス(ヤング率、貯蔵弾性率)低下を引き起こす欠点も含む。ガラス転移点の低下は、特にタイヤをはじめとするゴム補強用途にとって深刻である。タイヤを例にした場合、タイヤ走行時に生じる熱によって、補強剤であるPEN繊維の弾性率が低下し、車のハンドリング性が低下するなど重大な欠点となる。
【0008】
糸物性、製品物性だけでなく、工程への影響も大きい。DEGの増大によるガラス転移点の低下、及び結晶性の低下は、乾燥工程、固相重合プロセスにおいて、PENチップ同士を融着しやすくする欠点がある。融着したPENチップは大きな塊となって紡糸機での噛み込み不良が発生する、また固相重合装置内で装置に融着するなど、工程不良を引き起こす問題を有していた。
【0009】
繊維状アルミナを添加する際、DEGの発生しない方法も検討されている。例えば、2軸混練機による繊維状アルミナ微粒子の練り込みが考えられるが、凝集した繊維状アルミナの二次粒子を十分に解砕することができず、得られる糸やゴム製品の物性は十分なものとは言えない。また、アルミナ粒子を添加する際に、酸成分を添加する例示できるが、酸成分の大量添加が必要であり、DEGの生成を完全に抑制できるものではなかった。
【0010】
かかる事情により、繊維状アルミナを含有させ、ポリエチレンナフタレート繊維の強度、弾性率を改善し、同時にタイヤをはじめとするゴム製品に要求される耐熱低収縮、アルカリ耐性を併せ持たせることは困難となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−213689号公報
【特許文献2】特開2004−175865号公報
【特許文献3】特開2004−149687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、繊維状アルミナ粒子を添加した強度、弾性率、耐熱収縮性に優れたポリエチレンナフタレート繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、比表面積が一定範囲の値を有する繊維状アルミナ微粒子を含むポリエチレンナフタレート組成物を見出し、本発明を完成するに至った。驚くべきことに、添加する繊維状アルミナ粒子の比表面積をその一定範囲のものを選択することにより、DEGの生成を抑制し、強度、弾性率、耐熱性に優れたポリエチレンナフタレート繊維が得られることができた。
【0014】
すなわち本発明は、主たる繰り返し単位がエチレン2,6−ナフタレートであるポリエチレンナフタレート中に、下記条件(1)〜(3)を満たす繊維状アルミナ粒子を含有し、ポリエチレンナフタレートが下記条件(4)〜(5)を満たすポリエチレンナフタレート組成物を溶融紡糸して得られることを特徴とするポリエチレンナフタレート繊維である。
(1)繊維状アルミナ粒子の粒子の平均繊維径が5〜15nm、平均繊維長が70〜200nmであること。
(2)繊維状アルミナ粒子の比表面積が50〜250mm/gであること。
(3)ポリエチレンナフタレート繊維全質量に対する繊維状アルミナ粒子の含有量が0.2〜4.0重量%であること。
(4)ポリエチレンナフタレートの固有粘度が0.55〜1.50dL/gであること。
(5)ポリエチレンナフタレート繊維全質量に対するジエチレングリコールの含有量が0.2〜4.0質量%であること。
【発明の効果】
【0015】
本発明の繊維状アルミナ粒子を含むポリエチレンナフタレート繊維により、高強力・高弾性率、高耐熱性、高耐熱収縮性を有する繊維、及びディップコードが得られ、タイヤ及びベルト等のゴム製品の補強材として、又はその他の産業的用途に有用に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明を詳しく説明する。
(ポリエチレンナフタレートの共重合成分)
本発明のポリエチレンナフタレート組成物とは主たる繰り返し単位がエチレンナフタレート、すなわち酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコールを用いたポリエステルポリマーを示している。主たるとは構成している繰り返し単位の全酸成分中93モル%以上であることを表す。より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは97.5モル%以上であることを表す。
【0017】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物には、全酸成分の7モル%以下の範囲で共重合成分を共重合することが可能である。共重合可能な酸成分としてはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェノキシブタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;グリコール酸、p−オキシ安息香酸等のオキシ酸等があげられる。
【0018】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂組成物には、全グリコール成分の7モル%未満の範囲で他のジオール成分が共重合されることが可能である。共重合可能なジオール成分として、トリメチレングリコール、1,2−プロパンジオール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、オクタメチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−(β−4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−(β−4−ヒドロキシエトキシエトキシフェニル)プロパン(ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物)等のジオールが挙げられる。
【0019】
酸成分及び/又はグリコール成分の共重合量が7モル%を超える場合、ポリエチレンナフタレート本来の物性、例えば強度、モジュラス、ヤング率、寸法安定性などが低下する。また結晶乾燥化の工程において、融着を引き起こすなど欠点があるため、共重合量はポリエチレンナフタレート組成物に対し、好ましくは、5モル%以下、さらに好ましくは2.5モル%以下である。
【0020】
重縮合反応の過程においてエチレングリコールより副生成物として発生するジエチレングリコール(DEG)の含有量については、得られるポリエチレンナフタレート繊維全質量に対して、0.2〜4.0質量%の範囲にあることが好ましい。DEG含有量が極端に低い場合、ポリエチレンナフタレートの溶融粘度が増加し、流動性が悪化し、製糸性が低下する欠点となる。またDEG含有量が多い場合、結晶性の低下、ガラス転移点の低下を引き起こすため、好ましくない。ポリエチレンナフタレート繊維全質量に対するDEG含有量は好ましくは0.3〜3.0質量%であり、さらに好ましくは0.4〜2.0質量%である。
【0021】
また、本発明のポリエチレンナフタレート組成物に分岐成分、例えばトリカルバリル酸、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸若しくはこれらの酸無水物等の三官能又は四官能のエステル形成能を持つ酸、又はグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット(ペンタエリスリトール)などの三官能又は四官能のエステル形成能を持つアルコールを共重合してもよい。その場合にそれらの化合物は全酸成分を基準にして1.0モル%以下、好ましくは、0.5モル%以下、さらに好ましくは、0.3モル%以下である。更に、本発明のポリエチレンナフタレート組成物はこれら共重合成分を2種類以上組み合わせて使用しても構わない。
【0022】
(固有粘度)
本発明に用いるポリエチレンナフタレート組成物の固有粘度は好ましくは、固有粘度(ポリエチレンナフタレート組成物チップをフェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)混合溶媒に溶解した希薄溶液を、35℃でオストワルト型粘度計を用いて測定した値)が、0.55〜1.50dL/gである。0.55dL/g以上であることが、充分な強度を得る上で好ましい。固有粘度の上限については、2.00dL/g以下であることが、紡糸性、延伸性を確保する上で好ましい。より好ましくは0.60〜1.20dL/g、さらに好ましくは0.70〜1.10dL/gの範囲である。また0.55dL/g未満であると、後述の繊維状アルミナ粒子として適切なものを選択したとしても強度・弾性率の値が充分なものとならないことがある。
【0023】
(繊維状アルミナ粒子)
本発明者らが鋭意検討した結果、本発明に用いる繊維状アルミナ粒子は、その粒子の平均繊維径が5〜15nm、平均繊維長が70〜200nm、比表面積が50〜250mm2/gの範囲にある。好ましくは一次粒子としての平均繊維径、平均繊維長がこの値の範囲内であることである。ここで一次粒子とは凝集していない粒子のことを表す。
【0024】
特許文献1に「アスペクト比が高いものが好ましい」、「平均繊維径1〜5nmが好ましい」との記載があるが、このように平均繊維径を小さくし、アスペクト比を高くすると、比表面積が大きくなる。比表面積が増大すると粒子表面で反応溶媒のエチレングリコール同士の反応が促進され、副生成物であるDEGの発生を増大させ、ポリエチレンナフタレート組成物中のDEG含有量が増えてしまう欠点を有する。このような問題点があることを我々発明者は気づき、その問題点を改良するために鋭意検討した結果本発明を見出したものである。
【0025】
繊維状アルミナ粒子の平均繊維径が5nm未満の場合、DEG発生量を増大させるため、好ましくない。比表面積が250mm/gを超える場合、DEG発生量を増大させるため、やはり好ましくない。平均繊維長が70nm未満の場合及び比表面積が50mm/g未満の場合、ポリエチレンナフタレート組成物の強度・弾性率の改善効果が減少するため、好ましくない。繊維径が15nmを超える場合及び繊維長が200nmを超える場合、繊維状アルミナ粒子が粗大なため、紡糸時のパック圧が急上昇する、紡糸時に断糸が多発するなど、生産上好ましくない。
【0026】
繊維状アルミナ粒子の物性としては、平均繊維径が好ましくは7〜14nm、さらに好ましくは8〜13nmであり、平均繊維長さが好ましくは60〜180nm、さらに好ましくは70〜150nmであり、比表面積が好ましくは60〜230mm/g、さらに好ましくは70〜180mm/gである。
【0027】
また、本発明のポリエチレンナフタレート繊維全質量に対する繊維状アルミナ粒子の含有量は0.2〜4.0質量%であることが必要である。0.2質量%未満ではポリエチレンナフタレート繊維の強度、弾性率、寸法安定性向上の効果が発揮されできない。一方、含有量が上限の4.0質量%を超えると、繊維状アルミナ粒子の濃度が増加し、繊維状アルミナ粒子同士が2次凝集した粗大粒子が発生しやすくなり、強度、弾性率、寸法安定性向上の効果の低減が見られる。また別に4.0質量%を超えると繊維状アルミナ粒子による、ポリエチレンナフタレートの分解、特に加水分解が原因と思われる溶融紡糸時の重合度低下が発生しやすくなる。これらの理由により、ポリエチレンナフタレート繊維全質量における繊維状アルミナ粒子の含有量は、好ましくは0.3〜3.0重量%、さらに好ましくは0.4〜2.0重量%の範囲である。
【0028】
(繊維状アルミナ粒子の添加方法)
本発明で使用する繊維状アルミナ粒子のポリエチレンナフタレートへの添加時期は、特に限定されるものではないが、エチレングリコールと2,6−ナフタレンジカルボン酸ジアルキルのエステル交換反応の反応前、反応中、反応後、エチレングリコールと2,6−ナフタレンジカルボン酸のエステル化反応の反応前、反応中、反応後、及びビスヒドロキシエトキシナフタレートの縮合重合反応中に添加することが、繊維状アルミナ粒子をポリエチレンナフタレート内により均一に分散させる上で好ましい。さらに好ましくは、繊維状アルミナ粒子を溶媒中に分散させたスラリーを調整し、そのスラリー状態で、ポリエチレンナフタレートを製造する任意の段階(工程)中に添加すると分散性がより良好となり好ましい。
【0029】
この分散させる溶媒としては、ポリエチレンナフタレートの原料であるジオールとしてエチレングリコール、ポリマーと実質的に反応しない溶媒として、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミドを例示することができる。具体的な方法としては、以下のような方法を好ましく利用できる。
【0030】
繊維状アルミナ粒子を、例えばボールミル、媒体攪拌型ミル、ホモジナイザー、超音波処理などにより、ポリエチレンナフタレートの原料となるジオール中に分散させたものを用いて、ポリエチレンナフタレートの重合を行う。繊維状アルミナ粒子のジオール分散液は、ポリエチレンナフタレートのエステル交換反応又はエステル化反応の終了後に、ポリエステルの原料と混合する。分散液の濃度としては、ジオールに対して繊維状アルミナ粒子の1〜90重量%であることが好ましい。1重量%未満の場合には、ジオールの量が多く、重縮合反応時間が増加するため好ましくない。90重量%以上の場合、ポリエチレンナフタレート組成物中に繊維状アルミナ粒子を充分分散させることが困難となるため好ましくない。より好ましくは3〜70重量%さらに好ましくは5〜50重量%である。
【0031】
(分散剤について)
ポリエチレンナフタレートを製造する任意の段階で、下記一般式(8)〜(9)で示されるリン化合物及び繊維状アルミナ粒子を含むスラリーを添加することができる。
【0032】
【化1】

【化2】

[R、R、R及びRは水素原子又は炭化水素残基を示し、R、R、R及びRは同一又は、異なっていても良い。]
【0033】
これらの化合物の一般式中R、R、R及びRは水素原子又は炭化水素残基を表し、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、フェニル基を挙げることができる。これらの中から1種または複数種の官能基を選択することができる。これらリン化合物を添加すると、繊維状アルミナ粒子の分散性が向上し、強度、伸度をはじめとする糸物性が向上するため、好ましく用いることができる。リン化合物としては、正リン酸、亜燐酸、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、亜燐酸ジメチル、亜リン酸ジエチルを好ましく例示することができる。リン化合物の添加量は、ポリエチレンナフタレートのモノマーの酸成分に対して、1〜200ミリモル%の範囲と非常に微少量で効果を発揮する。添加量が過剰の場合、重縮合触媒を阻害し、重合時間の長時間化を引き起こすため、好ましくない。また添加量が少ないと、糸物性の向上はほとんど見られない。
【0034】
(ポリエチレンナフタレート繊維とその製造方法)
本発明のポリエチレンナフタレート繊維は強度が7.0〜11.0cN/dtex、伸度が6.0〜15.0%、180℃乾熱収縮率が2.0〜5.5%であることが好ましい。このような物性のポリエチレンナフタレート繊維を得るためには、上述のような物性を有するポリエチレンナフタレートと、特性の平均繊維径・平均繊維長・比表面積範囲を有する繊維状アルミナ粒子を用いることが必要である。
【0035】
本発明におけるポリエチレンナフタレート繊維は通常知られている溶融紡糸装置を用いて、溶融紡糸することができる。ただし、紡糸口金孔径が0.60〜0.80mmの口金を用いて溶融紡糸し、溶融紡糸時の口金孔からのシェアレートが1200s−1以下であることが好ましい。より好ましくは1000s−1以下である。シェアレートが1200s−1を越えると、繊維の繊維軸方向に対して垂直な断面における断面径が不均一となって好ましくない。シェアレートが1200s−1以下にするためには紡糸に使用する口金孔の径を上記の範囲内で大きくすることにより達成することができる。また後述のように紡糸時の条件の1つである吐出量とのバランスによっても設定することが出来る。
【0036】
さらに得られるポリエチレンナフタレート繊維の単繊維繊度は50〜3000dtexであることがこのましい。単繊維繊度が50dtex未満の繊維は安定して紡糸を継続することができる吐出量とすることが難しい、または、口金の孔数増加に伴う紡糸性不良が増加するなどの点から好ましくない。一方、単繊維繊度が3000dtex以上でも連続紡糸する事が困難になる恐れがある。単繊維繊度は好ましくは100〜2500dtexであり、より好ましくは200〜2000dtex、よりもっと好ましくは300〜1800dtexである。単繊維繊度は紡糸工程での口金の孔の大きさ、吐出量、ドラフト、シェアレート等の条件、延伸工程での延伸倍率の設定条件等により適宜調製することができる。また繊維を構成するフィラメント数は50〜2000本であることが好ましい。
【0037】
更に本願のポリエチレンナフタレート繊維を製造する際には、紡糸口金孔径が0.30〜0.80mmの口金を用いて溶融紡糸することが好ましい。紡糸口金孔径が0.30〜0.80mmの範囲を越えると繊維の繊維径分散度が20%以上となって好ましくない。また、本発明のポリエチレンナフタレート繊維の断面形状については特に限定されるものではなく、例えば丸形、楕円形、三角・四角・六角などの多角形、星形・十(十字形)・C字形・Y字形・H字形・W字形・花びら形・帽子形などの異形断面、およびこれらの形状に更に1又は2以上の中空部を有する形状などを挙げることができ、これらの形状を一部変更したものや合成したものでもよい。また、これらの各種の断面形状を組み合わせてもよい。
【0038】
(ディップコード、ゴム製品について)
また本発明のポリエチレンナフタレート繊維は、紡糸時に油剤を0.05〜2重量%付着したものであることが好ましく、より好ましくは0.1〜1重量%である。このような油剤の付与方法としては、ストレート(原油もしくは溶剤希釈など非含水)油剤又はエマルジョン(水での乳化)油剤を、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等公知の方法により付与することで得ることができる。付与する工程は、紡出糸条が固化した時点以降いずれの時点でも良いが、通常は引取ローラーより前の時点で繊維糸条に付与することが好ましい。
【0039】
本発明のポリエチレンナフタレート繊維に付与する油剤としては、特に制限されるものでなく、公知のものを製糸・加工工程や用途に応じて用いても良いが、ゴムとの接着性及び耐熱性に優れ、製糸時あるいは製織加工時の毛羽発生や生産性低下のないものが好ましく、例えば、タイヤコード用途には脂肪族エステル化合物及び/あるいは脂肪族アルコール及びそのエステル化合物等が油剤の主成分として好適に挙げられる。さらに好ましくは、脂肪族エステル化合物としては、例えば、オレイルオレート等のモノエステル、ジオレイルチオジプロピオネート等のジエステルを例示することができる。一方、脂肪族アルコール及びそのエステル化合物としては、ヤシ油、ナタネ油等のトリグリセライドや、トリメチロールプロパントリラウレート、ペンタエリスリトールトリラウレート等の多価アルコールエステルを例示することができる。かかるような油剤の主体成分を1種もしくは2種以上を組み合わせて油剤の主成分として用いることができる。
【0040】
また、油剤組成物として、必要に応じて乳化剤、高分子活性剤、制電剤、酸化防止剤等の成分を1種あるいは2種以上組み合わせて適時調整して用いることができることは言うまでも無い。さらに、本発明におけるポリエチレンナフタレート繊維には、ゴム接着に対する前処理剤として、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、ウレタン化合物やポリイミン化合物等を製糸工程で付与しても差し支えなく、取扱い上の利便性からはエポキシ化合物を特に好適に用いることができる。
【0041】
さらに本発明のポリエチレンナフタレート繊維よりなるディップコードは、ゴム用接着剤が付着していることを必須とする。このゴム・繊維用の接着剤としては汎用的に用いられているレゾルシン−ホルマリン−ラテックス系接着剤(以下RFL接着剤と記す)処理したものであることが好ましい。RFL接着剤はレゾルシン、ホルマリンの初期縮合物にゴムラテックスを混合したものである。
【0042】
さらに本発明のディップコードを用いる際には、撚糸しなくても用いることはできるが、合成繊維が撚糸されたコードであることが好ましい。撚りとしては50〜1000回/mの範囲であることが好ましく、下撚りと上撚りを行い合糸することも好ましい。このようなコードは、上記のゴム補強用合成繊維に、常法に従って撚糸を加え、或いは無撚の状態でRFL処理剤を付着させ、緊張熱処理、定長熱処理あるいは弛緩熱処理を施すことにより得ることができる。本発明のディップコードにあっては、上述のポリエチレンナフタレート繊維2本を下撚りと上撚りを行い合糸し、更にRFL接着剤を付与する処理をすることがより好ましい。
【0043】
このようにして得られた本発明のディップコードにあっては、下記(6)、(7)の要件を満たすことが好ましい。
(6)寸法安定性指数が1〜5(%)
(寸法安定性指数)(単位:%)=(4cN/dtexにおける伸度)+(150℃乾熱収縮率)
(7)強度が4.0〜8.0g/dtex
【0044】
このような物性のディップコードを得るためには、上述のような物性を有するポリエチレンナフタレートと、特性の平均繊維径・平均繊維長・比表面積範囲を有する繊維状アルミナ粒子を用い、上述の手法による得られるポリエチレンナフタレート繊維を用いることが必要である。
【0045】
そのようなディップコードは、タイヤ、ホース、ベルトなどのゴム補強用に好適に使用できる処理ディップコードとなり、通常の方法によりこのディップコードを補強材として含まれるタイヤ、ホース、ベルトなどのゴム製品を製造することができる。このように本発明のポリエチレンナフタレート繊維は、繊維状アルミナ粒子を分散したことにより補強され、高強度、高弾性率かつ寸法安定性、耐熱収縮性、ゴム接着力に優れたポリエチレンナフタレート繊維、更にRFL接着剤処理等を行いディップコードとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0046】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0047】
(ア)固有粘度:
ポリエチレンナフタレート組成物チップをフェノール・テトラクロロエタン=6/4(重量比)混合溶媒に溶解した希薄溶液を、35℃でオストワルド型粘度計を用いて測定した。
【0048】
(イ)ジエチレングリコール含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエチレンナフタレート繊維又は組成物チップを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
【0049】
(ウ)示差走査熱量計:
TAインスツルメンツ社製Q10型示差走査熱量計を用いて測定した。測定条件は下記の通り。
該ポリエチレンナフタレート組成物を溶融し、300℃で2分間保持、溶融させたサンプルを液体窒素中で急冷・固化させることにより得られた該組成物に対し、示差走査熱量計を用い、窒素気流下、10℃/分の昇温条件にて測定した。緩和現象によって生じた比熱の変化の開始温度をガラス転移点(Tgと表記した)、現れる発熱ピークの頂点温度を結晶化温度(Tcと表記)、吸熱ピークの頂点温度を融点(Tmと表記)とした。
【0050】
(エ)強伸度:
JIS L−1013に準拠し、引張荷重測定器(島津製作所製オートグラフ)にて測定した。
【0051】
(オ)乾熱収縮率:
試料を20℃、65%相対湿度の標準状態で24時間放置した後、荷重0.1g/dtexにおける長さ(L0)を測定した。次いで、試料を無張力条件下の一定温度のドライオーブンに30 分間保持した後、取出して4時間放置してから荷重g/dtexにおける長さ(L)を測定した。下記数式(3)に従って乾熱収縮率(%)を計算した。
乾熱収縮率(%)=(L0−L)/L0×100
【0052】
(カ)寸法安定性指数:
下記数式(X)に従って、寸法安定性指数(%)を計算した。
寸法安定性指数(%)=(4cN/dtexにおける伸度)+(180℃乾熱収縮率)
【0053】
(キ)繊維状アルミナ粒子の平均繊維径、平均繊維長:
ポリエチレンナフタレート繊維サンプルをビームカプセル及びシリコン平板に固定後、エポキシ樹脂で5日間包理した。これをミクロトームで、縦断面は繊維軸に対して平行に、横断面は繊維軸に対して垂直に薄切りしたサンプルを透過型電子顕微鏡で観察し、それぞれ100個繊維状アルミナ微粒子の1次粒子の長さを測定した。繊維状アルミナ粒子は繊維軸方向に配向しているため、この長さから繊維状アルミナ粒子の平均繊維径、平均繊維長をそれぞれ求めることができ、縦断面から繊維長を、横断面から繊維径を測定した。それぞれ結果を数平均して、平均繊維半径、平均繊維長を求めた。
【0054】
(ク)比表面積:
繊維状アルミナ粒子の比表面積はユアサアイオニクス社製NOVA1000を用い、窒素のガス吸着定容法により測定した。
【0055】
(ケ)繊維状アルミナ粒子の含有量:
ポリエチレンナフタレートを溶解し、粒子は溶解させない溶媒を選択し、ポリエチレンナフタレート組成物中の繊維状アルミナ粒子をポリマーから遠心分離し、繊維状アルミナ粒子の全体重量に対する比率(重量%)をもって粒子含有量とした。
【0056】
(コ)ポリエステル組成・共重合組成
ポリエチレンナフタレートの組成は、上述のポリエチレンナフタレートが溶解した溶液からポリエチレンナフタレートを回収し、重水素化トリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解した。得られた溶液を日本電子(株)製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)を測定した。そのスペクトルパターンから常法に従ってポリエチレンナフタレートの繰り返し単位の化学構造を同定し、共重合成分の定性、定量分析を行った。
【0057】
[実施例1]
(1)繊維状アルミナ粒子スラリーの調製
溶媒であるエチレングリコールに対し、繊維状アルミナ粒子を5質量%加え、家庭用卓上ミキサーにて20分間混合して5重量%のスラリーを調製した。このスラリーをスギノマシン製連続式微粒化装置アルティマイザーシステムHJP−25005型機にて、圧力80MPaの高圧状態とし、相互に向かい合ったノズルから放出し、粒子の衝突による解砕処理を全量実施した。この解砕処理を2回繰り返し、続いてこの処理液を日本ポール製フィルタープロファイルIIのカートリッジグレード070(99.98%濾過精度7μm相当)のMCYタイプフィルターにて濾過し、最終スラリーとした。
【0058】
(2)ポリエチレンナフタレート組成物チップの製造
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100質量部とエチレングリコール50質量部との混合物に酢酸マンガン四水和物0.030質量部、酢酸ナトリウム三水和物0.0056質量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。この間190℃にて、(1)で調製した繊維状アルミナ粒子の5%スラリー20質量部を加え反応を続けた後、リン酸トリメチル0.020質量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.024質量部を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、305℃まで昇温させ、30Pa以下の高真空で縮合重合反応を行い、固有粘度0.65dL/g、ジエチレングリコール含有量が0.85質量%であるポリエチレンナフタレート組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。
得られたチップを180℃で6時間結晶化させた後、窒素雰囲気下、220℃、0.5mmHgの条件で固相重合反応を行い、固有粘度0.75dL/gのポリエチレンナフタレート組成物を得た。得られた組成物の物性を表1に示した。
【0059】
[実施例2]
(1)繊維状アルミナ粒子スラリーの調製
実施例1で日本ポール製のMCYタイプフィルターにて濾過した溶液に対して、正リン酸0.080質量%加え、家庭用卓上ミキサーで20分間混合して、最終スラリーとした。
【0060】
(2)ポリエチレンナフタレート組成物チップの製造
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100質量部とエチレングリコール50質量部との混合物に酢酸マンガン四水和物0.030質量部、酢酸ナトリウム三水和物0.0056質量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。この間190℃にて、(1)で調製した繊維状アルミナ粒子の5%スラリー20質量部を加え反応を続け、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.024質量部を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、305℃まで昇温させ、30Pa以下の高真空で縮合重合反応を行い、ポリエチレンナフタレート組成物を得た後、チップ化、固相重合を実施した。得られた組成物の物性を表1に示した。
【0061】
[実施例3]
(1)繊維状アルミナ粒子スラリーの調製
実施例1の(1)で日本ポール製のMCYタイプフィルターにて濾過した溶液に対して、正リン酸0.040質量%加え、家庭用卓上ミキサーで20分間混合して、最終スラリーとした。
【0062】
(2)ポリエチレンナフタレート組成物チップの製造
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100質量部とエチレングリコール50質量部との混合物に酢酸マンガン四水和物0.030質量部、酢酸ナトリウム三水和物0.0056質量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。この間190℃にて、(1)で調製した繊維状アルミナ粒子の5%スラリー20質量部を加え反応を続け、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.024質量部を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、305℃まで昇温させ、30Pa以下の高真空で縮合重合反応を行い、ポリエチレンナフタレート組成物を得た後、チップ化、固相重合を実施した。得られた組成物の物性を表1に示した。
【0063】
[比較例1]
(2)ポリエチレンナフタレート組成物チップの製造
繊維状アルミナ粒子スラリーを添加しない以外は実施例1のポリエチレンナフタレート組成物チップの製造と同様に、ポリエチレンナフタレートの重合、チップ化、固相重合を実施した。得られた組成物の物性を表1に示した。
【0064】
[比較例2]
(1)酸化アルミナスラリーの調製
繊維状アルミナ粒子の代わりに、アルゴナイド社製の酸化アルミニウムを用いた以外は、実施例1の(1)と同様にアルミナスラリーを調製した。
【0065】
(2)ポリエチレンナフタレート組成物チップの製造
繊維状アルミナ粒子スラリーの代わりに、(1)のスラリーを用いる以外は実施例1のポリエチレンナフタレート組成物チップの製造と同様に、ポリエチレンナフタレートの重合、チップ化、固相重合を実施した。得られた組成物の物性を表1に示した。
【0066】
[比較例3]
(1)酸化アルミナスラリーの調製
繊維状アルミナ粒子の代わりに、アルゴナイド社製の酸化アルミニウムを用い、正リン酸の代わりに酢酸5質量%を使用した以外は、実施例1と同様にアルミナスラリーを調製した。
【0067】
(2)ポリエチレンナフタレート組成物チップの製造
繊維状アルミナ粒子スラリーの代わりに、(1)のスラリーを用いた以外は実施例2のポリエチレンナフタレート組成物チップの製造と同様に、ポリエチレンナフタレートの重合、チップ化、固相重合を実施した。得られた組成物の物性を表1に示した。
【0068】
【表1】

【0069】
[実施例4]
実施例1記載のポリエチレンナフタレート組成物を乾燥後、孔径0.4mm、ホール数36の口金より、吐出量:2.0kg/h、紡糸温度:300℃、紡糸速度:500m/分で紡糸し、固有粘度0.63dL/gの未延伸糸を得た。この未延伸糸を1段ローラー温度160℃、2段ローラー温度280℃、3段ローラー温度180℃の条件で、トータル延伸倍率6.1倍で延伸した。得られた延伸糸の物性を表2示した。
【0070】
[実施例5]
使用するポリエチレンナフタレート組成物を実施例2で得られたポリエチレンナフタレート組成物に変更する以外は、実施例4と同様に製糸を行った。得られた延伸糸の物性を表2示した。
【0071】
[実施例6]
使用するポリエチレンナフタレート組成物を実施例3で得られたポリエチレンナフタレート組成物に変更する以外は、実施例4と同様に製糸を行った。得られた延伸糸の物性を表2示した。
【0072】
[比較例4]
使用するポリエチレンナフタレート組成物を比較例1で得られたポリエチレンナフタレート組成物に変更する以外は、実施例4と同様に製糸を行った。得られた延伸糸の物性を表2示した。
【0073】
[比較例5]
使用するポリエチレンナフタレート組成物を比較例3で得られたポリエチレンナフタレート組成物に変更する以外は、実施例4と同様に製糸を行った。得られた延伸糸の物性を表2示した。
【0074】
【表2】

【0075】
[実施例7]
実施例4で得られた延伸糸を合糸し、49ターン/10cmの下撚を与えた後、2本合わせて49ターン/10cmの上撚を与え、生コードを作成した。この生コードを49ターン/10cmで上撚りをかけて、撚糸コードとした。得られたコードを、接着剤(RFL液:レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス液)に浸積させ、160℃の加熱炉中で定長で1分間乾燥した後、引続き240℃で1分間緊張熱処理し、更に1%の弛緩を与えつつ、240℃で1分間熱処理して、4.0cN/dtex荷重での伸度を約2.0%に揃えたディップコードを作製した。このディップコードの物性を表3に示した。なお、処理コードの150℃乾熱収縮率は、JIS L−1017−1963(5.12)に準拠して測定した。
【0076】
[比較例6]
用いる延伸糸を、比較例4の延伸糸に変更する以外、実施例7と同様にディップコードを製造した。ディップコードの物性を表3に示した。
【0077】
[実施例8]
実施例7で得られたディップコードを、補強材として用いて定法により加工処理を行うことによって、タイヤを製造することができた。
【0078】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の繊維状アルミナ粒子を含むポリエチレンナフタレート繊維により、高強力・高弾性率、高耐熱性、高耐熱収縮性を有する繊維、及びディップコードが得られ、タイヤ及びベルト等のゴム製品の補強材として、又はその他の産業的用途に有用に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位がエチレン−2,6−ナフタレートであるポリエチレンナフタレート中に下記条件(1)〜(3)を満たす繊維状アルミナ粒子を含有し、ポリエチレンナフタレートが下記条件(4)〜(5)を満たすポリエチレンナフタレート組成物を溶融紡糸して得られることを特徴とするポリエチレンナフタレート繊維。
(1)繊維状アルミナ粒子の粒子の平均繊維径が5〜15nm、平均繊維長が70〜200nmであること。
(2)繊維状アルミナ粒子の比表面積が50〜250mm/gであること。
(3)ポリエチレンナフタレート繊維全質量に対する繊維状アルミナ粒子の含有量が0.2〜4.0重量%であること。
(4)ポリエチレンナフタレートの固有粘度が0.55〜1.50dL/gであること。
(5)ポリエチレンナフタレート繊維全質量に対するジエチレングリコールの含有量が0.2〜4.0質量%であること。
【請求項2】
強度が7.0〜11.0cN/dtex、伸度が6.0〜15.0%、180℃乾熱収縮率が2.0〜5.5%であることを特徴とする請求項1記載のポリエチレンナフタレート繊維。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリエチレンナフタレート繊維2本を下撚りと上撚りを行い合糸し、レゾルシノール−ホルマリン−ラテックス(RFL)で処理して得られる、下記条件(6)〜(7)を満たすことを特徴とするディップコード。
(6)寸法安定性指数が1〜5(%)
(寸法安定性指数)=(4cN/dtexにおける伸度)+(150℃乾熱収縮率)
(7)強度が4.0〜8.0g/dtex
【請求項4】
請求項3に記載のディップコードが補強材として含まれるゴム製品。
【請求項5】
ポリエチレンナフタレートを製造する任意の段階で、下記一般式(8)〜(9)で示されるリン化合物及び下記条件(1)〜(3)を満たす繊維状アルミナ粒子を含むスラリーを添加し、下記条件(4)〜(5)を満たすポリエチレンナフタレート組成物を製造し、該ポリエチレンナフタレート組成物を溶融紡糸することを特徴とするポリエチレンナフタレート繊維の製造方法。
(1)繊維状アルミナ粒子の一次粒子の平均繊維径が5〜15nm、平均繊維長が70〜200nmであること。
(2)繊維状アルミナ粒子の比表面積が50〜250mm/gであること。
(3)ポリエチレンナフタレート繊維全質量に対する繊維状アルミナ粒子の含有量が0.2〜4.0重量%であること。
(4)ポリエチレンナフタレートの固有粘度が0.55〜1.50dL/gであること。
(5)ポリエチレンナフタレート繊維全質量に対するジエチレングリコールの含有量が0.2〜4.0質量%であること。
【化1】

【化2】

[上記式中、R、R、R及びRは水素原子又は炭化水素残基を示し、R、R、R及びRは同一又は、異なっていても良い。]

【公開番号】特開2010−209483(P2010−209483A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54764(P2009−54764)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】