説明

繊維状体及びこれを利用した蛍光体

【課題】実際に利用可能な特定の形態の無機微粒子又は有機微粒子を内包させた微細な繊維(繊維状体)及びこれを利用した蛍光体を提供する。
【解決手段】本発明に係る繊維状体は、散在する結節を有する繊維状体であって、該繊維状体はポリマーからなり、その繊維部分の外径が0.5〜0.1μmである。そして、この繊維状体において、無機微粒子又は有機微粒子は、繊維状体の結節相当部に内包されたものとすることができる。このような繊維状体のなかで、無機微粒子が蛍光体微粒子である繊維状体を所定の波長の光が放射される光源面に層状に付着させることによって、効率的な蛍光体を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散在する結節を有する繊維状のポリマーからなり、その結節相当部に無機微粒子又は有機微粒子が内包されている繊維状体及びこれを利用した蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
静電紡糸法、静電噴霧法等の静電加工技術によれば、ポリマーからなる微細な繊維、粒子若しくはビーズ、薄膜、液滴等を作製することができる。なかでも、静電紡糸法によれば、ポリマーからなるナノメートル・スケールの直径を有するナノ繊維からそれよりも大きい0.1〜数10μmの直径を有するマイクロ繊維(1μm以下の繊維をナノ繊維と呼ぶ場合もある)を作製することができる。このため、ポリマーからなる微細な繊維は、そのような粒子若しくはビーズとは異なった新しい利用分野が考えられることから、その微細な繊維の利用の検討が進められている。
【0003】
例えば、ナノ繊維の比表面積が大きい特性を利用して、特許文献1に、低密度で綿状の気孔度に富む繊維集合体を製造することができる静電防止法及び装置が提案されている。
【0004】
また、特許文献2に、細胞を固定化するための固定化法が提案されている。すなわち、少なくとも1つの目的物質を含む溶液をキャピラリーに供給し、前記溶液に電圧を印加して静電噴霧するエレクトロスプレイステップと、前記エレクトロスプレイステップで噴霧された溶液中の目的物質をその機能性および/または活性を保持したまま乾燥した状態で任意の形状の被塗物に静電気力で固定化して、ナノメートルオーダーの厚さの乾燥した微小構造体を形成する固定化ステップと、を含む固定化方法が提案されている。そして、ポリエチレングリコール(PEG)を静電噴霧する場合、PEGの分子量が5万を超えると繊維状の構造体になり、噴霧する溶液のPEG濃度を薄くすれば、より細い繊維直径を得られることが開示されている。
【0005】
特許文献3には、絶縁性プラスチックフィルムの少なくとも片面に、機能性付与のための樹脂を含有する樹脂組成物が微小な線状体及び/又は粒子状体として付着した表面層を有する、表面改質プラスチックフィルムであり、該樹脂組成物が、更に無機微粒子を含み、該微小な線状体及び/又は粒子状体の直径が100μm〜1nmである表面改質プラスチックフィルムが提案されている。そして、シリカを分散させたアクリル系樹脂の静電噴霧を行い、得られたフィルム上の線状体をエネルギー分散X線分析法により分析したところSi原子の存在が確認されたことが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006-5336号公報
【特許文献2】国際公開WO 04/074172 A1号公報
【特許文献3】特開2005-281679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ナノ繊維又はマイクロ繊維は、特許文献1又は2に提案されているようにそれ自体の特性を利用するものであるのもよいが、繊維という性質を活かし、無機微粒子又は有機微粒子を内包させた微細な繊維又は繊維複合材として利用されるならば、その応用の可能性はさらに広いものが考えられる。しかしながら、特許文献3に示されているように、そのような無機微粒子又は有機微粒子を内包させた微細な繊維又は繊維複合材の利用、開示の例は少ない。
【0008】
本発明は、無機微粒子又は有機微粒子を内包させた微細な繊維の利用の大きな可能性に鑑み、実際に利用可能な特定の形態の無機微粒子又は有機微粒子を内包させた微細な繊維(繊維状体)及びこれを利用した蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る繊維状体は、散在する結節を有する繊維状体であって、該繊維状体はポリマーからなり、その繊維部分の外径が0.5〜0.1μmである。そして、この繊維状体において、繊維状体の結節相当部に無機微粒子又は有機微粒子が内包されたものとすることができる。
【0010】
また、上記発明において、ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、生分解性ポリマーPLGA又はキトサンを使用することができる。無機微粒子は、Y3Al5O12:Ce、Y2O3:Eu、ZnO:EuもしくはY2SiO5Tb3+の蛍光体微粒子、SiO2、TiO2、ZrO2もしくはBaTiO3の酸化物微粒子、または、FePtもしくはBaFe12O19の磁性体微粒子を使用することができる。有機微粒子は、顔料、キトサン又はインスリンの微粒子を使用することができる。
【0011】
このような繊維状体のなかで、無機微粒子が蛍光体微粒子である繊維状体を所定の波長の光が放射される光源面に層状に付着させることによって、効率的な蛍光体を製造することができる。この蛍光体において、光源面に層状に付着させる繊維状体の層厚さは、0.5〜10μmであるのがよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る繊維状体は、散在する結節を有する繊維状体であり、微細な繊維と繊維とが交錯し、その繊維間に高い開口率の開口部が形成されるとともに無機微粒子又は有機微粒子が適度に点在した微細な網目状体を形成させることができる。そして、そのような網目状体を利用して、高効率の蛍光体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る繊維状体の発明の実施の形態について図面を基に説明する。図1は、本発明に係る繊維状体を平面上に乱雑に重ねた状態の低倍率の透過電子顕微鏡(TEM)写真を示し、図2は高倍率のTEM写真を示す。本繊維状体10は、図2に示すように、繊維11の途中に存在する瘤状の結節相当部13を有する形態をしており、全体的に観察すると、繊維状体10は、図1に示すように、ちょうど適当な間隔をおいて結節が設けられた相当長い糸のような形態、すなわち、散在する結節を有する繊維状をしている。
【0014】
繊維11は繊維状体10の主要部をなし、外径が0.5〜0.1μmである。外径が0.5μmを越えると、光の透過性が悪くなるので好ましくない。一方、一般的な蛍光体微粒子の大きさがサブミクロンサイズ(数百μm)であることを考慮すると、そのような蛍光体微粒子を内包させる繊維11としては0.1μm以上であることが望ましい。なお、上記の各寸法は、平均値をいい、以下同様である。
【0015】
また、繊維11は、ポリマーからなる。ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、生分解性ポリマーPLGA(Copoly lactic acid/glycolic acid)、キトサンを使用することができる。ポリメタクリル酸メチルのようなアクリル系ポリマーはポリマー自体の透明性が高いため、蛍光体微粒子を内包させる繊維11に好都合である。ポリアクリロニトリルは機械的特性に優れるため、強度を要する繊維11に用いるのに好ましい。ポリマーとして生分解性のPLGAやキトサンを用いる場合は、薬物粒子を内包させるポリマーとして好ましく、医薬品への応用が期待される。なお、キトサンは、以下に説明する有機微粒子としても使用することができる。
【0016】
結節相当部13は、この部分に無機微粒子又は有機微粒子が内包されており、瘤状にふくらんでいる。結節相当部13の外径Dは、繊維11の線径dを0.5〜0.1μmとするとき、5〜1μm、D/dを2〜50にすることができる。また、結節相当部13の無機微粒子又は有機微粒子が内包された被膜相当部の厚さは、0.05〜0.5μmとすることができ、無機微粒子又は有機微粒子をポリマー内部に安定して保持することができる。
【0017】
無機微粒子は、Y3Al5O12:Ce、Y2O3:Eu、ZnO:EuもしくはY2SiO5Tb3+の蛍光体微粒子、SiO2、TiO2、ZrO2もしくはBaTiO3の酸化物微粒子、FePtもしくはBaFe12O19の磁性体微粒子を使用することができる。無機微粒子として蛍光体微粒子を使用する場合、目的とする蛍光色を得るため適切なものが選ばれる。例えば、黄色蛍光色を得るにはY2O3:Euが使用され、赤色蛍光色を得るにはY2O3:Euが使用される。また、無機微粒子として酸化物微粒子を使用する場合、SiO2、TiO2、ZrO2もしくはBaTiO3の酸化物は屈折率が高いので光学特性に優れた材料を製造することができる。
【0018】
有機微粒子は、顔料、キトサン、インスリンの微粒子を使用することができる。有機微粒子として顔料を使用する場合、高い感光性をもつ優れた顔料材料を製造することができる。なお、キトサンは、ポリマーとしても使用することができる。
【0019】
以上、本発明に係る繊維状体10について説明した。上述のように、本繊維状体10は、繊維11の線径dを0.5〜0.1μmとするとき、結節相当部13の外径Dを5〜1μm、D/dを2〜50にすることができる。これにより、繊維間に高開口率を有し、蛍光体微粒子が点在する高効率の蛍光体を製造することができる。そのような蛍光体の例を図3に示す。
【0020】
本例の蛍光体20は、図3(a)に示すように、発光源25から所定の光が放射される光源面23に繊維状体10が付着されてなる。そして、繊維状体10は、図3(b)に示すように、繊維11及び結節相当部13からなる。図3(a)に模式的に示すように、光源面23には、微細な繊維と繊維とが交錯し、その繊維間に高い開口率の開口部が形成されるとともに無機微粒子又は有機微粒子が適度に点在した微細な網目状体を形成させることができる。
【0021】
本蛍光体20において、発光源25として、例えば青色REDを使用することができる。また、繊維状体10において、繊維11は、例えばポリアクリロニトリルからなるものとし、結節相当部13にはY2O3:Eu蛍光体微粒子が内包されたものとすることができる。これにより、発光源25から放射される所要量の青色の放射光27が光源面23に付着された繊維状体10間の隙間を貫通し、また、所要量の青色の放射光27がY2O3:Eu蛍光体微粒子に当たってこれを励起して黄色発光させ、所定の白色光を得ることができる。
【実施例1】
【0022】
本発明に係る繊維状体の作製試験を行った。まずポリマーとしてポリアクリロニトリルの7質量%を溶媒(NN-ジメチルポマミド)にマグネットスタラー(magnetic stirrer)で24時間攪拌することによって完全に溶解させ、その溶液にポリアクリロニトリルに対して10質量%の濃度のY3Al5O12:Ce蛍光体粒子(平均粒径800nm)をホモジナイジャー(homogenizer)を用いて撹拌スピード13500 rpmで10分撹拌しながら混合した。つぎに、その攪拌された混合液を噴霧量3μL/min、印加電圧5〜7kVで静電紡糸し、繊維状体を作製した。試験結果の一例のTEM写真を図1に示した。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る繊維状体の低倍率TEM写真を示す図面である。
【図2】本発明に係る繊維状体の高倍率TEM写真を示す図面である。
【図3】蛍光体の構成を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0024】
10 繊維状体
11 繊維
13 結節相当部
23 光源面
25 発光源
27 放射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
散在する結節を有する繊維状体であって、該繊維状体はポリマーからなり、その繊維部分の外径が0.5〜0.1μmである繊維状体。
【請求項2】
結節相当部に無機微粒子又は有機微粒子が内包されている請求項1に記載の繊維状体。
【請求項3】
ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、生分解性ポリマーPLGA又はキトサンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維状体。
【請求項4】
無機微粒子は、Y3Al5O12:Ce、Y2O3:Eu、ZnO:EuもしくはY2SiO5Tb3+の蛍光体微粒子、SiO2、TiO2、ZrO2もしくはBaTiO3の酸化物微粒子、または、FePtもしくはBaFe12O19の磁性体微粒子であることを特徴とする請求項2又は3に記載の繊維状体。
【請求項5】
有機微粒子は、顔料、キトサン又はインスリンの微粒子であることを特徴とする請求項2又は3に記載の繊維状体。
【請求項6】
無機微粒子が蛍光体微粒子である請求項1〜3のいずれかに記載の繊維状体が、所定の波長の光が放射される光源面に層状に付着された蛍光体。
【請求項7】
付着された繊維状体の層厚さは、0.5〜10μmであることを特徴とする請求項6に記載の蛍光体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−240172(P2008−240172A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78882(P2007−78882)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】