説明

繊維状基材及び機能性フレキシブルシート

【課題】電気的機能素子を形成した繊維状基材を織り込む際、各繊維状基材を確実位置決めし、電気的接続を可能にする。
【解決手段】表面に電気的機能素子を形成した繊維状基材と導電性の繊維状基材、あるいは電気的機能素子を形成した繊維状基材同士を織り込んだ際に、交差接触する箇所の少なくとも一方に位置決めガイド構造を形成するとともに、交差接触する箇所のいずれかに、両繊維状基材を結合する結合手段及び電気的に接続する電気的接続手段を配設することにより、交差接触する箇所のいずれかで、両繊維状基材間の結合及び電気的接続が行われるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に電気的機能素子を形成した繊維状基材及びこの繊維状基材を織布化することにより得られる機能性フレキシブルシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
センサーやアクチュエータ等に代表される微小電気機械システム(MEMS)デバイスは、Siウエハーをベースとしたプロセス技術で開発されてきた。しかし、Siウエハーのサイズの拡大には限界があり、大面積対応のデバイス開発には発想の転換が必要とされてきた。
また、ソレノイド型微小コイルやカテーテル等のようにデバイス形状そのものが平板ではなく、円筒形状や繊維形状である場合、プロセスを展開する基板表面も立体的な場合がある。
【0003】
そこで、成膜、パターニング、エッチング技術を繊維状基材表面で展開することによって様々なMEMS構造を繊維状基材表面に形成し、図1(a)に例示したオン・ファイバー・デバイスを実現する研究開発が進められている。
繊維状基材表面に微細構造を加工する方法として、機械加工、MEMS製造技術、熱インプリント技術を利用した手法がある。
【0004】
下記特許文献1 には、ナイフブレード及び回転ブレードに振動エネルギーを付与し、医療用縫合糸の表面に対して切り込むように所定の角度で接触させることにより、とげを形成する方法が開示されている。
【0005】
また下記非特許文献1には、石英角ファイバー表面にMEMS製造技術によって、多結晶シリコン薄膜トランジスターを形成する手法も開示されている。
【0006】
さらに、下記非特許文献2、3には、熱インプリント法によって、石英角ファイバーやテフロン(登録商標)PFA中空ファーバー表面に微細パターンやMEMS構造を形成する手法が開示されている。
【0007】
これに対して、図1(b)に示したようにオン・ファイバー・デバイス同士を織り込み、織布化することによって、柔軟で所定の面積を有する機能性織布とすれば、様々な分野で飛躍的な応用が期待できるが、このようにフレキシブルで大面積対応のデバイスを開発する場合には、機能発現のための微細構造を繊維状基材表面に予め加工しておく必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許公開2009―66421号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Y.Sugawara et al.,Appl.Phys.Lett.,vol.91,p.203518(2007)
【非特許文献2】H.Mekaru et al.,Proc.Int.Conf.of EIPBN2009,P−1I−38(2009)
【非特許文献3】H.Mekaru et al.,Proc.Int.Conf.of EIPBN2009,P−1I−11(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
単体のオン・ファイバー・デバイスでは、電気的結線は繊維状基材内で完結していればよいが、オン・ファイバー・デバイス同士をたて糸及びよこ糸として織り込んで、柔軟で所定の面積を有する機能性織布とするためには、オン・ファイバー・デバイス同士を同士を織り込んだ際のたて糸及びよこ糸としての位置決めと物理的接続、そしてこれらを電気的に接続する電気的接点が必要となる。
したがって、オン・ファイバー・デバイスのベースとなる繊維状基材には、MEMS構造のパターン以外に、織り込み時の位置決めガイド構造と、電気的接続を行う接点支持構造を形成する必要がある。
【0011】
しかし、繊維状基材を織り込む際の位置決めガイド構造と電気的接続を行う接点支持構造の適切な形状は提案されておらず、これらの構造を繊維状基材表面に高速、且つ連続的に加工する技術も確立されていないのが現状である。
そこで、本発明は、織り込み時の確実な位置決めと電気的接続を実現した繊維状基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、繊維状基材同士を織り込む際に、位置決めガイドと電気的接続を行う接点支持構造を、ホットエンボッシング及び熱インプリント、もしくはプレス成形によって微細構造として加工できると考え、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、繊維状基材の製織工程で、縦と横に交互に織り込まれる繊維状基材の位置決めを行うとともに、これらを結合し、しかも、電気的に接続することにより、これら繊維状基材をベースとしたオン・ファイバー・デバイスを織り込み、織布化された製織デバイスの機能を発現させるための機能を奏させるものである。
【0014】
具体的には、本発明の繊維状基材は、表面に電気的機能素子を形成した繊維状基材と導電性の繊維状基材とからなり、両繊維状基材を織り込んだ際に交差接触する箇所の少なくとも一方に位置決めガイド構造を形成するとともに、前記交差接触する箇所のいずれかに、前記両繊維状基材を結合する結合手段及び電気的に接続する電気的接続手段を配設することにより、前記交差接触する箇所のいずれかで、前記両繊維状基材間の結合及び電気的接続が行われるようにしたものである。
【0015】
また、本発明の繊維状基材は、表面に電気的機能素子を形成した繊維状基材からなり、これらの繊維状基材を織り込んだ際に交差接触する箇所の少なくとも一方に位置決めガイド構造を形成するとともに、前記交差接触する箇所のいずれかに、前記繊維状基材を結合する結合手段及び電気的に接続する電気的接続手段を配設することにより、前記交差接触する箇所のいずれかで、前記繊維状基材間の結合及び電気的接続が行われるようにしてもよい。
【0016】
上記繊維状基材において、前記位置決めガイド構造を、前記繊維状基材が交差接触する箇所において、少なくとも一方の繊維状基材に形成した凹部により形成してもよい。
【0017】
また、上記繊維状基材において、前記結合手段は、前記交差接触する箇所において、双方の繊維状基材に互い違いに形成された凹凸部からなり、該凹凸部を互いに嵌合することにより双方の繊維状基材を結合するようにしてもよい。
【0018】
前記電気的接続手段は、前記交差接触する箇所において成膜した導体層で形成しても、繊維状基材間に挿入した導体材料で形成してもよい。
【0019】
さらに、前記凹凸部は、繊維状基材表面に凹凸が反転したパターンを有するモールドを加熱して押し付ける、ホットエンボッシング、熱インプリント、室温でのプレス加工のいずれかの方法によって形成するとよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、繊維状基材表面に予め位置決めガイド構造と電気的接続を行う接点支持構造を形成しておくことによって、製織工程で所望の相対位置に繊維状基材を配置し、互いの繊維状基材の物理的固定、もしくは電気的接続が可能となり、製織織布デバイスとしての種々の機能を発現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)オン・ファイバー・デバイスのイメージ図と(b)フレキシブルシートデバイスのイメージ図。
【図2】フレキシブルシートデバイスの位置決めガイドと可動接点の拡大図
【図3】本発明に係る位置決めガイド構造と接点支持構造を形成するためのモールドの断面図と、繊維状基材に成形された位置決めガイド構造と接点支持構造。 (a)位置決めガイド構造の側壁が垂直な場合。 (b)側壁が曲面もしくは傾斜している場合。 (c)片方の側壁が垂直で、もう片方が曲面もしくは傾斜している場合。
【図4】本発明に係る繊維状基材表面の位置決めガイド構造と接点支持構造の形状、及び織り込み後の固定図。(a)織り込み後の自由度が無い場合。(b)織り込み後に水平方向の自由度がある場合。(c)織り込み後に回転方向の自由度がある場合。
【図5】本発明に係る矩形型位置決めガイド構造と接点支持構造を有するモールドのMEMS製造技術による作製プロセス。
【図6】MEMS製造技術よって作製された電鋳Niモールドと中間生成物、及び直径90μmナイロンファイバー表面に熱インプリントした本発明に係る製織位置決めガイド構造と接点支持構造の走査型電子顕微鏡と光学顕微鏡写真。
【図7】本発明に係る円弧型位置決めガイド構造と接点支持構造を有するモールドの精密機械加工技術による作製プロセス。
【図8】精密機械加工技術よって作製されたNi-Pモールドと中間生成物、及び直径90μmナイロンファイバー表面に熱インプリントした本発明に係る製織位置決め構造と接点支持構造の走査型電子顕微鏡と光学顕微鏡写真。
【図9】本発明に係る位置決めガイド構造と接点支持構造によって編み込んだナイロンファイバー格子の光学顕微鏡写真。(a)矩形型ガイド溝によって編み込んだ場合。(b)円弧型ガイド溝によって編み込んだ場合。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図2は、繊維状基材が、よこ糸Y〜Y、たて糸T〜T4として編み込まれたフレキシブルシートデバイスの一例の拡大図を示す。
【0023】
たて糸T〜T4は導電性繊維上に、例えば、力、光、熱、音等々物理的、化学的な入力に対して抵抗、容量変化、電荷発生など電気的な応答を示す機能性薄膜が電気的機能素子として形成されており、よこ糸Y〜Yは導電性の繊維である。
この例では、導電性の繊維であるよこ糸Y〜Yには、一定間隔毎に小径とすることにより凹部が設けられ、図2に示されるように、この凹部を位置決めガイド構造として、たて糸T〜T4が交互に織り込まれてフレキシブルシートデバイスが構成されている。
【0024】
たて糸T〜Tとよこ糸Y〜Yが交差接触する、凹部の箇所においては、後述する結合手段と電気的接続手段とが、適当な間隔で設けられている。
この例では、たて糸T〜T4に、凹部でのよこ糸Y〜Yとの交差接触部に上部電極がパターニングされており、ナノワイヤ絡み合いなどによりよこ両者の電気的接続が行われるようになっている。
例えば、点Xにおける電気的応答を取得するにはよこ糸Y4とたて糸T3間での信号を測定すればよい。
また、よこ糸Y-たて糸T、よこ糸Y-たて糸T、・・・・・、よこ糸Y-たて糸Tというように時系列で走査測定することで対象とする物理、化学量の面内分布を測定することもできる。
【0025】
次に、図3を参照しながら、繊維状基材を織り込む際の位置決めガイド構造と電気的接続手段である接点支持構造について説明する。
図3は本実施例に係るモールドと成形後の繊維状基材の断面図であって、モールド表面には製織位置決めガイド構造と接点支持構造の凹凸を反転させた形状が加工されている。
繊維状基材の断面は丸、四角など様々な形状があり、位置決めガイド構造の幅は、繊維状基材の断面形状の幅と同程度、もしくはそれ以上の長さを有する。
【0026】
図示されていない繊維状基材が製織工程で直交するように織り込まれる際、図3(a)のようにガイド構造の両側壁が垂直な場合には、繊維状基材の相対位置は硬直的に定められる。また製織工程では、位置決めガイド構造に直交繊維状基材がはめ込まれるまで大きな抵抗力が働くと予想される。しかし、一度はまり込んだ直交繊維状基材は容易には外れなくなる。
【0027】
また、図3(b)のように位置決めガイド構造の側面が曲面もしくは傾斜している場合には、織り込まれた後でもある程度位置をずらすことができ、製織デバイス全体に柔軟性を付与できる。さらに、製織工程でも直交繊維状基材を位置決めガイド構造にはめ込むことが容易になる。
しかし同時に位置決めガイド構造から直交繊維状基材が抜け易くもあり、パッケージング等により製織デバイスの形状保持に必要な強度を補完しないと製織デバイスに大きな力を加えられない欠点がる。
【0028】
そこで図3(c)のように両方の利点を組み合わせた位置決めガイド構造も考えられる。片方の側壁は垂直で、もう片方の側壁は曲面、もしくは傾斜している。そのため、製織工程では直交繊維状基材は曲面、もしくは傾斜した側壁側からはめ込んで、製織デバイスに力が加わる場合は位置決めガイド構造の垂直側壁側に力が加わるように工夫すれば、非対称な位置決めガイド形状の特徴を生かすことができる。
【0029】
次に、図4を参照しながら、接点支持構造について説明する。繊維状基材を織り込む際の位置決め構造には、直交する繊維状基材同士を物理的に固定するための接点支持構造が付随する。
図4(a)の矩形型位置決めガイド構造には、複数の円柱構造が織り込んだ際に相互が羽目合うように配置されている。これらの微細構造により、織り込み後の繊維状基材の位置は自由度が無い状態で一義的に固定される。
【0030】
図4(b)では片方の繊維状基材表面にはライン/スペース構造が配置され、もう片方の繊維状基材表面には円柱構造が加工されている。このため、織り込み後の円柱構造はライン/スペースパターン間にはめ込まれ、ライン/スペースパターン間でスライドさせることができる。したがって、図中で水平方向に自由度を持たせることができ、繊維状基材の相互位置を微調整することができる。
【0031】
図4(c)に示した片方の繊維状基材表面に加工された位置決めガイド構造内には、リング形状の微細構造が成形されており、もう片方の繊維状基材表面には円柱構造が形成されている。これらの微細構造が相互にはめ合うことにより、回転方向に自由度を持つ接点を形成できる。
実際の接点支持構造は上記の三種類を複合した形状の場合もあり、特にこれらの三種類の例示構造に拘束されるものでもない。
【0032】
また、上記の実施例では、繊維状基材として、たて糸を導電性繊維上に電気的機能素子が形成されたものとし、よこ糸は導電性のものとしたが、たて糸及びよこ糸の両者を導電性繊維上に電気的機能素子が形成されたものとしてもよい。
また、位置決めガイド構造を、たて糸及びよこ糸の両者に設けてもよい。
【0033】
次に具体的な実験例を示す。
[実験例1:MEMS製造技術による電鋳Niモールドの作製と熱インプリントによるナイロンファイバー表面への矩形型位置決めガイド構造と接点支持構造の形成]
繊維状基材を織り込む際の位置決めガイド構造の断面形状は矩形で、ガイド構造の底面には電気的接点の支持構造として、直径5、10、20μmの円柱アレイを配列した。
これらの構造が一回の熱インプリントで繊維状基材表面に形成できるように、モールドは二段構造となっている。モールドは図5に示したように、MEMS製造技術と電鋳技術を組み合わせて作製した。
【0034】
まず、繊維状基材2の表面に、厚み400μmのSiウエハーに厚み650nmの熱酸化膜1を形成した(図5(1))。
【0035】
次に、片側のSiO2層の上にポジ型紫外線感光性樹脂4(S1830;Shipley Company L.L.C.)をスピン塗布し(図5(2))、紫外線露光用マスクを介して位置決めガイド構造のパターンを紫外線ステッパー1500MVS RPCsystem(Ultratech Inc.)によって転写した(図5(3))。
【0036】
その後、現像後にC4F8ガスを用いた反応性イオンエッチング法(RIE)によってSiO層をエッチングした(図5(4))。
そして、次に、Si基板の一部が露出したSiO2層の表面にネガ型紫外線硬化性樹脂6(AZ5200NJ;AZ Photoresist Products)をスピン塗布して(図5(5))、上述とは別の紫外線露光用マスクによって円柱アレイ形成のためのパターンを転写した(図5(6))。
【0037】
位置決めガイド構造のパターンが円柱アレイパターンと重なるように、両方の紫外線露光用マスクには1500MVS R−PC system用のアライメントマークを用意した。
現像後の紫外線硬化性樹脂層をマスク層として、Si基板をSF、C、OガスによるBoschプロセスによってエッチングし、深さ10μmの円柱アレイを形成した(図5(7))。
【0038】
紫外線硬化性樹脂をO アッシング法によって除去した後、パターン化されたSiO2層をマスク層としてSi基板全面を再度Boschプロセスによってエッチングした(図5(8))。この時、エッチング時間を調整することで、位置決めガイド構造を20、30、40、50μmの4種類の深さで加工した。
次に、SiO層をCエッチング法によって除去した後、ACマグネトロンスパッタリング法によって厚み40nmのNi層をシード層として成膜した後、厚み2mmまでNiを電鋳した(図5(9))。
【0039】
最後に、電鋳Ni層の表面を研磨加工した後、Si基板を化学的に除去し、電鋳Niモールドを完成させた(図5(10))。
【0040】
図6はモールドパターンの深さが50μmの場合の一回目のSiエッチング後と二回目のSiエッチング後のSiマスターパターン、及び電鋳Niモールドの位置決めガイド構造の走査型電子顕微鏡写真を示した。直径5、10、20μmの円柱アレイを有する位置決めガイド構造が充分な精度で形成できることを確認した。
【0041】
熱インプリント実験では、デスクトップ型ナノインプリントシステムNI-273(ナノクラフトテクノロジーズ株式会社)を使用した。繊維状基材はデモンストレーション用として直径90μmのナイロン製丸型ファイバー(アミラン、東レ株式会社)を選択した。
NI−273の下部荷重ステージ上には、パターン面が上を向くように電鋳Niモールドを配置した。位置決めガイド構造の幅は100μmで、凸型モールドパターンに直交するように、長さ30mmに切断した二本のナイロンファイバーをモールドパターンの上に載せた。ナイロンファイバーの上には、30mm角で厚み3mmのグラッシーカーボン(GC)板を置いた。次にGC板との距離が1mm以下になるまで上部荷重ステージを下降させた。インプリント工程では、上部荷重ステージは室温で保ち、下部荷重ステージのみ加熱した。ナイロン6やナイロン66のガラス転移温度はおおよそ50℃である。一般に、熱インプリントでは成形材料はガラス転移温度よりも20〜30℃高い温度で成形される。
【0042】
この実験では、将来のインプリント工程の高速化を考慮して、成形時間を僅か1秒に設定した。その代わりに、電鋳Niモールドの加熱温度は若干高めの100℃に設定した。インプリント工程は全て大気中で行い、接触荷重はNI−273の最大荷重である200Nと設定した。インプリント後のナイロンファイバーの光学顕微鏡写真を図5に示す。ナイロンファイバーの表面に成形された位置決めガイド構造と接点支持構造の上部写真から、全ての直径の円柱アレイを含む位置決めガイド構造が明確に転写されていることが確認された。さらに側面からの光学顕微鏡観察から、位置決めガイド構造の成形深さは、円柱アレイの直径に因らず、全て21μmと測定された。このように、熱インプリント法によって、直径90μmのナイロンファイバー表面に製織位置決めガイド構造と接点支持構造の形成に成功した。
【0043】
[実験例2:精密機械加工技術によるNi-Pモールドの作製と熱インプリントによるナイロンファイバー表面への円弧型位置決めガイド構造と接点支持構造の形成]
この実験では、精密機械加工によって断面形状が円弧型の位置決めガイド構造用モールドパターンを作製した。
位置決めガイド構造の底面には、繊維状基材を固定するための円柱アレイが配置されている。
【0044】
図7に精密機械加工によるモールドの作製プロセスを示す。まず、インコネル600基板9を用意し、その表面を化学機械研磨(CMP)法によって平均表面粗度が10nm以下になるまで研磨した(図7(1))。
次に、研磨済みインコネル600基板9上に厚み150μmの無電解Ni−Pめっき層10を形成し(図7(2))、ダイシングソウDAD522(株式会社ディスコ)によって線幅160μm、高さ100μm、長さ15mmの長方形構造をNi-P層に粗加工した(図7(3))。
【0045】
次に、直径20μmのダイヤモンドエンドミルと超精密ナノ加工機ROBONANO α-0iB(ファナック株式会社)を用いて、直径20μm、深さ20μmの半球状穴を加工した後(図7(4))、粗加工で作製した矩形型構造体のエッジ部分を切削し、断面形状が円弧型になるように位置決めガイド構造を仕上げ加工した(図7(5))。モールドには13個の位置決めガイド構造が存在し、ROBONANO α-0iBによる仕上げ加工時間は3時間30分であった。
【0046】
円弧型位置決めガイド構造を有するモールドを用いて、実施例1と同様に直径90μmのナイロンファイバー(アミラン、東レ株式会社)表面にインプリントした。インプリント実験では、実施例1と同様にデスクトップ型ナノインプリントシステムNI-273(ナノクラフトテクノロジーズ株式会社)を用いた。成形条件は、加熱温度:100℃、冷却温度:70℃、成形荷重:100N、成形時間:1sであった。
【0047】
図8にNi-Pモールド上に粗加工、及び仕上げ加工した後の円弧型位置決めガイド構造を走査型電子顕微鏡によって観察した結果を示す。また、Ni-Pモールドを用いて、直径90μmのナイロンファイバー表面にインプリントした結果を光学顕微鏡にて観察した。
円弧型位置決めガイド構造と直径20μmの半球状接点支持構造が明確に転写されたことを確認した。光学顕微鏡による側面からの位置決めガイド構造の観察結果から、成形深さは21μmと測定された。
【0048】
[実験例3:矩形型位置決めガイド、及び円弧型位置決めガイド構造によるナイロンファイバーの織り込み試行]
実験例1と2で作製した位置決めガイド構造と接点支持構造を付与したナイロンファイバーを用いて、ファイバー同士の織り込みを試行した。光学顕微鏡で観察しながらピンセットを用いてそれぞれのナイロンファイバーを手縫いで織り込んだ。
いずれの位置決めガイド構造と接点支持構造でも、縦と横に織り込まれたナイロンファイバーがガイド位置で明確に固定されていることが図9に示した拡大光学顕微鏡写真から確認された。なお、精密機械加工によって加工されたNi-Pモールドの円弧型位置決めガイド構造の方が、側壁が曲面であるために製織時の位置決めが容易であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る繊維状基材によれば、繊維状基材表面に予め位置決めガイド構造と電気的接続を行う接点支持構造を形成しておくことによって、製織工程で所望の相対位置に繊維状基材を配置し、互いの繊維状基材の物理的固定、もしくは電気的接続が可能となり、製織デバイスとしての種々の機能を発現でき、広い分野での応用が可能になる。
【符号の説明】
【0050】
1: Siの熱酸化膜(表面)、2: Si基板、3: Siの熱酸化膜(裏面)、4: ポジ型紫外線感光樹脂、5: 紫外線露光用マスク(位置決めガイド構造パターン転写用)、6: ネガ型紫外線硬化性樹脂、7: 紫外線露光用マスク(接点支持構造パターン転写用)、8: 電鋳Niモールド、9: インコネル600基板、10: Ni-P合金めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に電気的機能素子を形成した繊維状基材と導電性の繊維状基材とからなり、
両繊維状基材を織り込んだ際に交差接触する箇所の少なくとも一方に位置決めガイド構造を形成するとともに、
前記交差接触する箇所のいずれかに、前記両繊維状基材を結合する結合手段及び電気的に接続する電気的接続手段を配設することにより、前記交差接触する箇所のいずれかで、前記両繊維状基材間の結合及び電気的接続が行われるようにした繊維状基材。
【請求項2】
表面に電気的機能素子を形成した繊維状基材からなり、
これらの繊維状基材を織り込んだ際に交差接触する箇所の少なくとも一方に位置決めガイド構造を形成するとともに、
前記交差接触する箇所のいずれかに、前記繊維状基材を結合する結合手段及び電気的に接続する電気的接続手段を配設することにより、前記交差接触する箇所のいずれかで、前記繊維状基材間の結合及び電気的接続が行われるようにした繊維状基材。
【請求項3】
前記位置決めガイド構造は、前記繊維状基材が交差接触する箇所において、少なくとも一方の繊維状基材に形成した凹部からなる請求項1または2に記載の繊維状基材。
【請求項4】
前記結合手段は、前記交差接触する箇所において、双方の繊維状基材に互い違いに形成された凹凸部からなり、該凹凸部を互いに嵌合することにより双方の繊維状基材を結合するようにした請求項1ないし3に記載の繊維状基材。
【請求項5】
前記凹凸部は、前記交差接触する箇所において、双方の繊維状基材に互い違いに形成された円柱構造からなり、該円柱構造が互いに嵌め合い、両者を固定するように構成された請求項4に記載の繊維状基材。
【請求項6】
前記凹凸部は、前記交差接触する箇所において、一方の繊維状基材形成されたライン/スペース構造と、他方に形成された円柱構造からなり、これらが互いに嵌め合い、ライン/スペース構造の軸方向にスライド自在に構成された請求項4に記載の繊維状基材。
【請求項7】
前記凹凸部は、前記交差接触する箇所において、一方の繊維状基材形成されたリング構造と、他方に形成された円柱構造からなり、これらが互いに嵌め合い回転方向に自由度を持つよう構成された請求項4に記載の繊維状基材。
【請求項8】
前記電気的接続手段は、前記交差接触する箇所において成膜した導体層からなる請求項1ないし7に記載の繊維状基材。
【請求項9】
前記電気的接続手段は、前記交差接触する箇所において、繊維状基材間に挿入した導体材料のナノワイヤ等による絡み合いからなる請求項1ないし7に記載の繊維状基材。
【請求項10】
前記凹凸部は、繊維状基材表面に凹凸が反転したパターンを有するモールドを加熱して押し付ける、ホットエンボッシング、熱インプリント、室温でのプレス加工のいずれかの方法によって形成した請求項4ないし9に記載の繊維状基材。
【請求項11】
請求項1ないし10に記載の繊維状基材を織り込んでなる機能性フレキシブルシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−69030(P2011−69030A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222757(P2009−222757)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】