説明

繊維状無機酸化物構造体の製造方法

【課題】 無機酸化物の曳糸性ゾル溶液をエレクトロスピニング法により繊維状に成形後、これを焼成して、独立した繊維よりなる繊維状無機酸化物構造体を製造する方法において、長時間安定して、且つ、高い歩留まりで、該繊維状無機酸化物構造体を製造することが可能な方法を提供する。
【解決手段】無機酸化物繊維、有機高分子化合物、および、沸点90〜150℃のアルコールを含む曳糸性ゾル溶液を、電圧が印加された吐出口より吐出せしめ、該吐出口に対して相対速度が1〜40cm/秒で移動するコレクター面上に、前記無機酸化物繊維および有機高分子化合物を含む繊維状成形体として析出せしめた後、上記繊維状成形体を焼成して有機高分子化合物を除去することにより、繊維状無機酸化物構造体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスピニング法を利用した繊維状無機酸化物構造体の新規な製造方法に関する。詳しくは、無機酸化物繊維の曳糸性ゾル溶液をエレクトロスピニング法により繊維状に成形後、これを焼成して、独立した繊維よりなる繊維状無機酸化物構造体を製造する方法において、長時間安定して、且つ、高い歩留まりで、該繊維状無機酸化物構造体を製造することが可能な方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ゾル−ゲル法によって得られ、一般に、径が0.05〜20μm、長さが0.1〜10000μm程度の無機酸化物繊維を含む凝集成形体よりなり、直径0.05〜10μm程度の繊維の形態を有する繊維状無機酸化物構造体は、高い比表面積や耐熱性などを有することから、触媒の坦持材料などへの応用が期待されている。
【0003】
上記繊維状無機酸化物構造体の製造方法としては、無機酸化物繊維を含む曳糸性ゾル溶液を、電圧が印加された吐出口より吐出せしめ、コレクター面上に前記無機酸化物繊維および有機高分子化合物を含む繊維状成形体として析出せしめる、いわゆる、エレクトロスピニング法を利用した方法が知られている。
【0004】
たとえば、エタノールを溶媒として使用し、有機高分子化合物および構造指向剤の存在下に、金属アルコキシドを酸触媒下で加水分解して、無機酸化物繊維を含む曳糸性ゾル溶液を調製し、該曳糸性ゾル溶液を、回転ドラムよりなるコレクター面上に繊維状成形体を析出せしめた後、上記繊維状成形体を焼成して繊維状無機酸化物構造体を製造する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、本発明者の追試実験によれば、エレクトロスピニング法を実施する際、開始から2時間未満で曳糸性ゾル溶液を吐出する吐出口が閉塞し、連続運転ができなくなるという問題があることが判明した。
【0006】
一方、上記方法と目的物は異なるが、エレクトロスピニング法を利用して、複数の繊維が融着した繊維状無機酸化物構造体を製造する方法において、エレクトロスピニング法における曳糸性ゾル溶液の吐出を安定化させるために、溶媒として使用するエタノールにブタノールの如き高沸点のアルコールを添加する方法が示されている(特許文献1参照)。
【0007】
そこで、曳糸性ゾル溶液の調製において、メタノールのみを溶媒として使用する前記方法において、溶媒としてブタノールを添加した方法についても追試実験を行ったところ、長時間安定して曳糸性ゾル溶液を吐出することができた。
【0008】
しかしながら、上記改良方法において、コレクター面を構成する回転ドラムに析出した無機酸化物の繊維状物は、続く焼成において崩壊し易く、得られる繊維状無機酸化物構造体の歩留まりが極めて低くなるという問題が存在することが判った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許3963439号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】サン・イ・ローら(Sung−Hee Roh、Yooh−Ah Lee、Jae−Wook Lee、Sun−Il Kim))著、「プレパレーション アンド キャラクタリゼーション オブ エレクトロスパン シリカ ナノファイバーズ フロム PVP/P123ブレンディッド ポリマー ソリューション(Preparaion and Characterization of Erectrospun Silica Nanofibers from PVP/P123 Blended Polymer Solution)」(韓国)ジャーナル オブ ナノサイエンス アンド ナノテクノロジー(Journal of Nanoscience and Nanotechnology)、Vol.8、5147−5151、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、エレクトロスピニング法を利用して、独立した繊維よりなる繊維状無機酸化物構造体を製造する方法において、長時間安定して、且つ、高い歩留まりで、該繊維状無機酸化物構造体を製造することが可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた。その結果、曳糸性ゾル溶液より、独立した繊維よりなる繊維状無機酸化物構造体を得ようとする場合、吐出口に対してコレクター面の移動は必要であるが、その移動速度とコレクター面に析出する無機酸化物繊維を含む繊維状成形体の焼成における崩壊性とが密接な関係にあることを見出した。特に、曳糸性ゾル溶液の調製において、溶媒としてブタノールを併用した場合、上記関係は顕著であるという知見を得た。
【0013】
かかる知見に基づいて、さらに研究を重ねた結果、前記非特許文献に記載の方法においてコレクターとして採用されている回転ドラムは、コレクター面として作用するドラムの回転速度、換言すれば、吐出口に対するドラム面の移動速度が極めて早いことが判明した。即ち、上記使用される回転ドラムの仕様からみると、かかる移動速度は、一般的に市販されているエレクトロスピニング装置での速度に換算すると、最低でも52cm/秒に達する。本発明者らは、さらに、数々の実験を行った結果、吐出口に印加する電圧、吐出口とコレクターとの距離によって多少異なるが、実用的な範囲において、吐出口に対するドラム面の移動速度を特定の値に調整することによって、コレクター面に析出する無機酸化物の繊維状物の焼成における崩壊性が効果的に防止でき、得られる繊維状無機酸化物構造体の歩留まりを著しく改善することができることを見出した。
【0014】
さらに、コレクター面に析出する無機酸化物の繊維状物の焼成における崩壊性を改良するためのブタノールによる効果は、沸点90〜150℃のアルコールにおいて、担保し得ることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明によれば、無機酸化物繊維、有機高分子化合物、および、沸点90〜150℃のアルコールを含む曳糸性ゾル溶液を、電圧が印加された吐出口より吐出せしめ、該吐出口に対して相対速度が1〜40cm/秒で移動するコレクター面上に、前記無機酸化物繊維および有機高分子化合物を含む繊維状成形体として析出せしめた後、上記繊維状成形体を焼成して有機高分子化合物を除去することを特徴とする繊維状無機酸化物構造体の製造方法が提供される。
【0016】
また、上記方法において、前記曳糸性ゾル溶液は、平均分子量が10,000〜3,000,000g/molの有機高分子化合物および構造指向剤の存在下に、金属アルコキシドを酸触媒下で加水分解して無機酸化物繊維を生成せしめることにより得られたものであることが望ましい。
【0017】
さらに、前記曳糸性ゾル溶液に含有せしめる沸点90〜150℃のアルコールは、曳糸性ゾル溶液の5〜80質量%となる割合で使用することが好ましい。
【0018】
さらにまた、前記コレクター面は、回転ドラムのような曲面で構成するより、平面である方が、コレクター面に析出する無機酸化物の繊維状物の焼成における崩壊性の防止効果が高く、好ましい。
【0019】
また、本発明において、前記吐出口に印加する電圧は、10〜30kVが一般に採用される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、エレクトロスピニング法を利用した、独立した繊維よりなる繊維状無機酸化物構造体の製造を、長時間安定して、且つ、高い歩留まりで、行うことができる。
【0021】
また、本発明によって得られる繊維状無機酸化物構造体は、繊維状を構成する構造体のそれぞれが独立した繊維として得られると共に、該構造体自体に10nm以下の微細孔を有するため、高い比表面積を有し、また、無機酸化物であることによる耐熱性などにより、触媒の坦持材料などの用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の製造方法では、(1)無機酸化物繊維を含む曳糸性ゾル溶液(以下、単に「ゾル溶液」ともいう)の調製工程、(2)エレクトロスピニング法による紡糸工程、および(3)焼成工程によって、繊維状無機酸化物構造体を得る。
【0023】
(1)ゾル溶液の調製工程
本発明において、ゾル溶液の調製は、後述する沸点90〜150℃のアルコールを含有するゾル液を調製する方法であれば、公知の調製方法が特に制限無く採用される。
【0024】
例えば、有機高分子化合物および構造指向剤の存在下において、金属アルコキシドを酸触媒下で加水分解して重縮合して、上記有機高分子化合物を鋳型とした無機酸化物繊維を含むゾル溶液を調製する方法が一般的である。
【0025】
上記有機高分子化合物は溶媒に溶解するものであれば特に限定するものではないが、例えばポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸塩、エチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ニトロセルロース、結晶セルロース、並びにこれらの共重合体などが挙げられるが、特にポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドが好ましい。
【0026】
上記有機高分子化合物の平均分子量は、平均分子量が10,000〜3,000,000g/molであることが好ましい。即ち、上記平均分子量が10,000g/molより小さい場合、ゾル溶液の粘度が不十分となったり、後述する紡糸工程において繊維形状が得られ難くなったりする傾向がある。また、前記平均分子量が3,000,000g/molよりも大きいとゾルの粘度が高くなりすぎて、紡糸工程において吐出口から射出することが困難になる傾向がある。
【0027】
また、前記構造指向剤は、例えばポリアルキレンオキサイドの共重合体(例えばPOEOブロックコポリマー)やシランカップリング剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤などの両親媒性を持つものが好ましい。
【0028】
前記無機化合物繊維の原料は、金属アルコキシドであれば特に限定されるものではないが、例えば、アルコキシシランやアルコキシチタンなどを挙げることができる。これらは、1種類でもよく、複数を混合したものでも良い。必要であれば、金属塩を混同することもできる。
【0029】
更に、本発明において、調製されるゾル溶液中の無機酸化物繊維の濃度は0.1〜12wt%が好ましく、1〜10wt%がより好ましい。即ち、無機酸化物繊維の濃度が0.1wt%より小さいと、最終的に生成する繊維状無機酸化物構造体の回収量が少なくなり、また、12wt%より大きいと、ゾル溶液の粘度調製が困難になったり、最終的に生成する繊維状無機酸化物構造体の細繊維化が困難になったりする傾向がある。
【0030】
また、前記溶液の加水分解による重縮合反応を促進するために、水の他に触媒を添加してもよい。この触媒は特に限定されるものではないが、酸性に調製させる酸、またはアルカリ性に調製させるアンモニアや塩であることが好ましい。触媒を添加するタイミングは加水分解の前後どちらでもよい。
【0031】
本発明の特徴は、上述のゾル溶液に沸点90〜150℃のアルコール(以下、特定アルコールともいう。)を含有させることにある。かかるアルコールを含有させることにより、ゾル溶液の紡糸状態を安定化させことができ、長期間にわたってノズルの閉塞を防止してゾル溶液を供給することができる。上記特定アルコールの沸点は、前記したように、90〜150℃であることが必要である。即ち、かかる沸点が90℃より低い場合、ゾル溶液の安定化が不十分となり、防止時のノズル閉塞の原因となる。また、該特定アルコールの沸点が150℃より高い場合、後述するコレクター面上に析出される繊維状成形体への溶媒の残存が多くなり、これを焼成して得られる無機酸化物含有構造体の繊維形状が崩壊する原因となる。
【0032】
前記特定アルコールは、ゾル溶液総量に対して5〜80wt%の濃度で含有させることが好ましい。即ち、上記濃度が5wt%より小さい場合、紡糸中のゾル溶液の安定性が低くなり、ノズルが閉塞し易くなる傾向があり、また、前記濃度が80wt%より大きい場合、紡糸後に得られる繊維状の無機酸化物含有構造体への溶媒の残存が多くなり、焼成工程後の繊維形状が崩壊し易くなる傾向がある。
【0033】
また、該特定アルコールを添加するタイミングは、前記のゾル溶液の調製における加水分解反応の前後いずれでもよい。
【0034】
本発明において、前記特定アルコールの種類は特に限定されるものではなく、1−プロパノール、2−メトキシエタノール、2−メチルプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールが好ましい。
【0035】
本発明のゾル溶液の調製において、前記ゾル溶液中に含まれる無機酸化物繊維をより安定化させるためにキレート剤やシランカップリング剤などの安定化剤を加えてもよい。また、接着性改善のための化合物や着色のための染料や顔料を添加してもよい。ここで、上記安定化剤、接着性改善のための化合物、着色のための染料や顔料を添加するタイミングは加水分解反応の前後いずれでもよい。
【0036】
本発明において、上記方法により調製されるゾル溶液は、後述する紡糸工程(2)において、紡糸に好適な粘度に調製される。かかる粘度は、好ましくは、10〜10,000mPa・s、より好ましくは、100〜3,000mPa・s、特に好ましくは、200〜1,000mPa・sが適当である。即ち、前記粘度が10mPa・sより小さくなると、紡糸工程において繊維状の構造体が得られ難くなる傾向があり、該粘度が10,000mPa・sより大きくなると、細繊維化が困難となったり、吐出口が閉塞し易くなったりする傾向がある。
【0037】
また、ゾル溶液の粘度調整は、前記ゾル溶液の調整に使用した材料、具体的には、水、有機高分子化合物、特定アルコールなどの添加量を適宜調整することによって行うことができる。
【0038】
(2)紡糸工程
本発明において、前記方法によって調製されたゾル溶液は、エレクトロスピニング法による紡糸を行なうことによって、コレクター面上に、前記無機酸化物繊維および有機高分子化合物を含む繊維状成形体として析出される。ここで、エレクトロスピニング法とは、ゾル溶液を吐出口となるノズルから押し出して、そのノズルから押し出したゾル溶液に電界を作用させることによって細繊維化し、コレクターもしくはコレクター上の担体に集積させる方法である。ゾル溶液に電界を作用させる方法は特に限定するものではなく、例えばノズルとコレクターとに異なる電圧を印加してもよいし、コレクターはアースしてもよい。
【0039】
本発明において、重要な要件は、エレクトロスピニング法による紡糸における、ノズルとコレクターの相対速度を1〜40cm/秒、好ましくは、1〜20cm/秒、更に好ましくは、1〜10cm/秒とすることにある。即ち、上記相対速度が40cm/秒より速いと無機酸化物構造体の繊維形状が崩壊する原因となり、本発明の目的を達成することができない。一方、前記相対速度は、1cm/秒以下でも無機酸化物構造体を形成できるが、1cm/秒以下で長時間連続運転を行なうと、コレクター上に積載した無機酸化物構造体が、ノズルとコレクター間に生じる電場の阻害原因となる虞があるため、1cm/秒より速い相対速度が採用される。
【0040】
尚、ノズルとコレクターの相対速度が速過ぎた場合、無機酸化物含有構造体は焼成後に繊維形状を維持することなく崩壊する原因は明らかではないが、ノズルとコレクターの相対速度が速すぎると、ノズルとコレクターとの間に生じる電界が不安定となり、溶媒が十分に揮発せずに無機酸化物構造体に残存するため、焼成工程において溶媒の乾燥収縮が生じて繊維形状が崩壊するものと考えられる。
【0041】
ここで、ノズルとコレクターの相対速度とは、ノズルをコレクターの方向に垂直に下ろした点に対するコレクターもしくはコレクター上の担体との相対速度を示す。移動するのはノズルでもコレクターもしくはコレクター上の担体のどちらか一方もしくは両方のどちらでもよい。
【0042】
本発明において、コレクターの形式は、前記特に限定されるものではなく、例えば、移動式としては、ドラム式、ベルトコンベア式などが、固定式としては、プレート式が挙げられる。そのうち、上記コレクターを回転ドラムのような曲面で構成するより、平面である方が、コレクター面に析出する無機酸化物の繊維状物の焼成における崩壊性の防止効果が高く、好ましい。また、固定式より移動式の方が、安定して繊維形成を行うことが可能であり好ましい。
前記コレクター上には、前記繊維状成形体を集積する担体を設置するのが一般的である。かかる担体は特に限定されるものではなく、例えばフィルム、不織布、織物を挙げることができる。
本発明の方法において、ゾル溶液をノズルからコレクターに向かって押し出す方向は、重力方向、重力と反対方向、地面と水平方向または斜め方向など特に限定されず実施できる。
【0043】
また、ゾル溶液を押し出すノズルの内径は、目的とする繊維状無機酸化物構造体の繊維径によって任意に変えることができるが、細繊維化の観点から0.01〜0.50mmであることが好ましい。ノズルの数は1本以上であればよく、特に限定されるものではない。
【0044】
更に、ゾル溶液をノズルから押し出す速度、ノズルから押し出すゾル溶液に作用させる電界およびノズルとコレクターもしくはコレクター上の担体との距離は、目的とする繊維状の無機酸化物含有構造体の繊維径や、ノズルとコレクター間の距離、ゾル溶液の粘度などに依存するため特に限定するものではないが、紡糸後の無機酸化物含有構造体の繊維径が2μm以下に細繊維化することを目的とする場合は、押し出し速度は0.01〜5ml/時間が好ましく、0.1〜2ml/時間がより好ましい。また、ノズルから押し出すゾル溶液に作用させる電界は1〜3kV/cmであるのが好ましい。上記電界が1kV/cmより小さいと無機酸化物含有構造体の細繊維化が困難となったり、吐出口が閉塞する原因となる傾向があり、3kV/cmより大きいと無機酸化物含有構造体の繊維同士の繊維径の偏差が著しく大きくなったりする傾向がある。更にまた、ノズルとコレクターもしくはコレクター上の担体との距離は5〜50cmであるのが好ましく、10〜30cmであることがより好ましい。
【0045】
(3)焼成工程
本発明において、ゾル溶液の紡糸によって得られた前記無機酸化物繊維および有機高分子化合物を含む繊維状成形体は、高温で焼成して有機高分子化合物を除去することにより、無機酸化物を主体とする繊維状無機酸化物構造体を得ることができる。
【0046】
本発明において、上記焼成条件は、有機化合物を除去することができる条件が特に限定されることなく採用される。例えば、一定時間焼成炉に静置し、高温下で一定時間焼成する方法が推奨される。上記焼成温度は500〜1,300℃であることが好ましく、焼成時間は特に限定されるものではなく、焼成温度に応じて有機化合物が消失するまでの時間、適宜焼成すればよい。因みに、焼成温度が700℃の場合、2時間程度焼成すればよい。また、焼成工程の前に、焼成工程で焼成の温度より低い温度での乾燥工程を行なってもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1
(1)ゾル溶液の調製
有機高分子化合物としてポリビニルピロリドン(シグマアルドリッチ社製、平均分子量:1,300,000g/mol以下)、構造指向剤としてPOEOブロックコポリマー(シグマアルドリッチ社製、平均分子量:5,800g/mol以下)、溶媒としてエタノール(和光純薬工業社製)と1−ブタノール(和光純薬工業社製)を混合し、次に金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン(信越化学工業社製、商品名:KBE−04)、加水分解の水、および触媒として1規定の塩酸(和光純薬工業製)を混合し、温度78℃で1時間還流操作を行なった。このとき、ポリビニルピロリドン、POEOブロックコポリマー、エタノール、1−ブタノール、テトラエトキシシラン、水、塩酸の混合割合はモル比で0.0001:0.01:10:10:1:0.7:0.01とした。得られたゾル溶液の粘度は480mPa・s(25℃)であった。なお、ゾル溶液の粘度はB型粘度計(トキメック社製、ローターNo.2、60rpm)で測定した。
(2)紡糸
形成したゾル溶液をシリンジに供給し、内径0.19mmのノズルから1ml/時間の速度で押し出しながら、ノズルに20kVの電圧を印加した。前記ゾル溶液に1.3kV/cmの電界を作用することにより、コレクター上の繊維状の無機化合物含有構造体の集積担体として使用したアルミ箔に集積させた。このとき、コレクターはベルトコンベヤ式のものを用い、ノズルとコレクター上の担体との相対速度は2cm/秒とした。ノズルとコレクター上の集積担体との距離は15cmとした。なお、ノズルは3本をコレクター上の集積担体と水平方向に2cmの間隔で並べ、いずれも同じ押し出し速度、印加電圧で操作した。射出方向は重力方向とした。紡糸試験の結果、ノズルは6時間連続運転後も閉塞することなく、紡糸が継続できた。
【0049】
(3)焼成
形成した繊維状の無機化合物含有構造体を電気炉にて温度600℃で2時間焼成した。焼成後の繊維状の無機化合物構造体は、繊維径が0.4μmであった。この無機化合物構造体は、繊維同士の融着は見られず、いずれも独立した繊維形状を有していた。なお、形成した繊維状の無機化合物構造体の繊維径は、日立ハイテクノロジーズ社製S−5500で観察し、繊維100本の平均繊維径を算出した。
【0050】
比較例1
(1)のゾル溶液の形成工程において、原料をポリビニルピロリドン、POEOブロックコポリマー、エタノール、テトラエトキシシラン、水、1規定の塩酸とし、混合する割合をモル比で0.0001:0.01:20:1:0.7:0.01とした以外は、実施例1の(1)〜(2)と同じ方法で製造した。(1)のゾル溶液の形成工程後に得られたゾル溶液の粘度は510mPa・s(25℃)であった。この方法では、(2)の紡糸工程において、紡糸開始1時間30分後に3本のノズルのうち1本がゾル溶液から析出した固形物により閉塞したため、連続運転ができなかった。
【0051】
比較例2
(2)の紡糸工程において、繊維状の無機化合物含有構造体を集積するコレクターを直径20cmのドラム形状のものとし、このドラム形状のコレクターの回転数を50rpm(ノズルとの相対速度:52cm/秒)とした以外は実施例1の(1)〜(3)と同じ方法で製造した。この方法では、焼成後の無機酸化物構造体は繊維形状を保っておらず、繊維形状が崩壊した凝集塊となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物繊維、有機高分子化合物、および、沸点90〜150℃のアルコールを含む曳糸性ゾル溶液を、電圧が印加された吐出口より吐出せしめ、該吐出口に対して相対速度が1〜40cm/秒で移動するコレクター面上に、前記無機酸化物繊維および有機高分子化合物を含む繊維状成形体として析出せしめた後、上記繊維状成形体を焼成して有機高分子化合物を除去することを特徴とする繊維状無機酸化物構造体の製造方法。
【請求項2】
前記曳糸性ゾル溶液が、平均分子量が10,000〜3,000,000g/molの有機高分子化合物および構造指向剤の存在下に、金属アルコキシドを酸触媒下で加水分解して無機酸化物繊維を生成せしめることにより得られたものである請求項1記載の繊維状無機酸化物構造体の製造方法。
【請求項3】
前記曳糸性ゾル溶液が、沸点90〜150℃のアルコールを5〜80質量%の割合で含有する請求項1又は2に記載の繊維状無機酸化物構造体の製造方法。
【請求項4】
前記コレクター面が平面である請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維状無機酸化物構造体の製造方法。
【請求項5】
前記吐出口に印加する電圧が、10〜30kvである請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維状無機酸化物構造体の製造方法。

【公開番号】特開2013−44056(P2013−44056A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180504(P2011−180504)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】