説明

繊維状補強剤及びその製造方法

【課題】マトリックス樹脂に対する分散性が高く、マトリックス樹脂を効果的に補強可能な繊維状補強剤を提供する。
【解決手段】本発明の繊維状補強剤は、セルロース系繊維(A)と、合成樹脂繊維(B)とに、溶媒中で機械的剪断力を作用させて得られる繊維(A)及び(B)の微小繊維を含有する。繊維(B)は、オレフィン系の分割繊維であってもよい。セルロース系繊維(A)と、繊維(B)との固形分重量比は、10/90〜90/10であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体の機械的強度などを改善するのに有用な繊維状補強剤及びその製造方法、この繊維状補強剤を含む繊維強化樹脂、並びに繊維強化樹脂で形成された成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維径が小さい微小繊維状樹脂(又は微小繊維)は、種々の添加剤、例えば、樹脂成形体の強度を向上させるためのフィラーとして、また、不織布状シートの強度を改善するための強化剤又は紙力強化剤、濾過性能を向上させるための濾過助剤、食品添加物などに広く利用されている。
【0003】
また、微小繊維状樹脂は、表面積の大きさ、均一分散性、絡み合い、粉体保持性などの特性を利用して、物質強度の向上以外にも、隠蔽性、絶縁性、軽量化などの改善において、広く実用化されている。
【0004】
しかし、微小繊維状樹脂を、ベース樹脂に混合する場合、ベース樹脂及び/又は微小繊維状樹脂の種類などによっては、微小繊維状樹脂を、ベース樹脂に均一に分散するのが困難であり、併用効果を十分に得られない場合がある。特に、セルロース系樹脂は、親水性基を有するため、セルロース系微小繊維の樹脂に対する分散性は低い。
【0005】
例えば、特表平9−509694号公報(特許文献1)には、熱可塑性ポリマーマトリックスとセルロース充填材とを含む組成物において、セルロース充填材が個別化されたミクロフィブリルセルロースを含むことが開示されている。この文献には、ポリマーマトリックスとしてポリマー粒子を含むポリマーラテックスが記載され、ポリマーラテックスとミクロフィブリルセルロースの水溶性懸濁液とを撹拌下で混合して水溶性組成物を得ることが記載されている。さらに、この文献では、セルロースのミクロフィブリル化において、ホモジナイザーを使用することが記載されている。しかし、この方法では、樹脂の種類が親水性又は水分散性樹脂に制限され、用途が著しく限定される。また、コスト面においても有用でない。
【0006】
また、特開2008−179922号公報(特許文献2)には、相分離した複数の樹脂で構成された複合繊維を叩解処理により分割して得られるフィブリル化繊維が記載されており、このようなフィブリル化繊維が水に対して高い分散性を有することが開示されている。しかし、特許文献2には、マトリックス樹脂に対するフィブリル化繊維の分散性及び補強性については開示されていない。
【特許文献1】特表平9−509694号公報(請求項1、6、第8頁第7〜9行)
【特許文献2】特開2008−179922号公報(請求項1、段落番号[0071][0075][0076])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、疎水性マトリックス樹脂などを用いる場合であっても、マトリックス樹脂への分散性又はマトリックス樹脂の補強性を大きく改善できる繊維状補強剤、及びこの繊維状補強剤を簡便にかつ効率よく製造する方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、幅広い種類の樹脂に対して、均一に分散可能で、樹脂成形体の機械的強度を改善可能な繊維状補強剤及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本願発明のさらに他の目的は、マトリックス樹脂に微小繊維が高い分散性で分散し、機械的強度が改善された繊維強化樹脂又は成形体(樹脂成形体)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、セルロース系繊維と、合成樹脂繊維(B)とを、溶媒中で機械的に剪断すると、疎水性マトリックス樹脂を用いる場合であっても、マトリックス樹脂に対して均一に分散可能で、マトリックス樹脂を効果的に補強できる繊維状補強剤(繊維状組成物)が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の繊維状補強剤は、マトリックス樹脂を補強するための繊維状補強剤であって、セルロース系繊維(A)と、合成樹脂繊維(B)とに、溶媒中で、機械的剪断力を作用させて得られ、かつ前記セルロース系繊維(A)及び合成樹脂繊維(B)の微小繊維を含有する。なお、セルロース系繊維(A)の微小繊維は、疎水化剤(サイズ剤、金属カップリング剤、アシル化剤、イソシアン酸誘導体、油脂類、ワックス及び/又は疎水性樹脂など)で疎水化処理されていない非疎水化微小繊維であってもよい。
【0012】
合成樹脂繊維(B)は、繊維状オレフィン系樹脂、又は繊維状オレフィン系樹脂を叩解処理して得られる微小繊維状オレフィン系樹脂であってもよい。繊維状補強剤は、セルロース系繊維(A)の微小繊維と、合成樹脂繊維(B)の微小繊維とを、10/90〜90/10の割合(固形分重量比)で含有してもよい。繊維状補強剤において、セルロース系繊維(A)及び合成樹脂繊維(B)の微小繊維は、それぞれ、平均繊維長(L)0.01〜1mm、平均繊維径(D)0.001〜1μm、及びアスペクト比(L/D)100〜10000を有してもよい。
【0013】
前記繊維状補強剤は、溶媒中で、セルロース系繊維(A)と、合成樹脂繊維(B)とに、溶媒中で機械的に剪断処理して、懸濁液を調製し、この懸濁液から溶媒を除去することにより製造できる。機械的剪断処理は、ホモジナイズ処理であってもよい。
【0014】
本発明には、前記繊維状補強剤を含む繊維強化樹脂、及びこの繊維強化樹脂で形成された樹脂成形体も含まれる。繊維強化樹脂は、繊維状補強剤と、合成樹脂繊維(B)を構成する樹脂繊維と同種の樹脂とを含んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の繊維状補強剤は、セルロース系繊維と、合成樹脂繊維(B)とを、溶媒中で機械的に剪断するので、疎水性マトリックス樹脂などを用いる場合であっても、マトリックス樹脂への分散性又はマトリックス樹脂の補強性が大きく改善されている。しかも、本発明では、このような繊維状補強剤を簡便にかつ効率よく製造することができる。また、前記繊維組成物は、幅広い種類の樹脂に対して、均一に分散可能で、樹脂成形体の機械的強度を効果的に改善することができる。また、繊維状補強剤とマトリックス樹脂とを組み合わせると、マトリックス樹脂に繊維状補強剤(の微小繊維)が高い分散性で分散するため、繊維強化樹脂又は成形体(樹脂成形体)の機械的強度を大きく改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の繊維状補強剤(繊維状組成物)は、セルロース系繊維(A)と、合成樹脂繊維(B)とに、溶媒中で、機械的剪断力を作用させることにより得られ、セルロース系繊維(A)及び上記繊維(B)が微小化された微小繊維を含有する。
【0017】
(セルロース系繊維)
セルロース系繊維としては、高等植物由来のセルロース繊維[例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然セルロース繊維(パルプ繊維)など]、動物由来のセルロース繊維(ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース繊維、化学的に合成されたセルロース繊維[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどの有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル;硝酸酢酸セルロースなどの混酸エステル;ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロースなど);カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロースなど);アルキルセルロース(メチルセルロース、エチルセルロースなど);再生セルロース(レーヨン、セロファンなど)などのセルロース誘導体など]などが挙げられる。これらのセルロース系繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0018】
なお、セルロース系繊維として、パルプを用いる場合、パルプは、機械的方法で得られたパルプ(砕木パルプ、リファイナ・グランド・パルプ、サーモメカニカルパルプ、セミケミカルパルプ、ケミグランドパルプなど)、または化学的方法で得られたパルプ(クラフトパルプ、亜硫酸パルプなど)などであってもよく、必要に応じて叩解(予備叩解)処理された叩解繊維(叩解パルプなど)であってもよい。なお、セルロース系繊維は、慣用の精製処理、例えば、脱脂処理などが施された繊維(例えば、脱脂綿など)であってもよい。
【0019】
原料となるセルロース系繊維の平均繊維長は、0.01〜5mm(例えば、0.01〜3mm)、好ましくは0.03〜4mm(例えば、0.05〜2.5mm)、さらに好ましくは0.06〜3mm(特に、0.1〜2mm)程度であり、通常0.1〜5mm程度である。また、原料セルロース系繊維の平均繊維径は、0.01〜500μm(例えば、0.03〜400μm)、好ましくは0.05〜450μm(例えば、0.06〜400μm)、さらに好ましくは0.1〜300μm(例えば、0.2〜250μm)程度である。
【0020】
なお、セルロース系繊維(A)の微小繊維は、疎水化剤[微小繊維状セルロースの親水性基(ヒドロキシル基など)に疎水性保護基を結合させて疎水性基を導入することにより疎水化可能な化合物(サイズ剤、金属カップリング剤(金属アルキル又はアリールアルコキシドなど)、アシル化剤、イソシアン酸誘導体(アルキルエステル、アラルキルエステルなどのイソシアン酸エステルなど)など)、及び/又は微小繊維状セルロースの表面の少なくとも一部に付着又は被覆することにより疎水化可能な疎水性化合物(油脂類、ワックス、疎水性樹脂など)など]で疎水化処理されていない非疎水化微小繊維であってもよい。
【0021】
(合成樹脂繊維(B))
セルロース系繊維(A)と組み合わせて用いる合成樹脂繊維(B)としては、セルロース系繊維以外の各種樹脂繊維が使用できる。樹脂繊維(B)は、セルロース系繊維(A)とともに機械的剪断処理することにより、微小繊維が得られる種類の樹脂の繊維であればよく、微小繊維(フィブリル化又はミクロフィブリル化繊維)であってもよく、機械的剪断処理により微小化(フィブリル化又はミクロフィブリル化)可能な繊維であってもよい。
【0022】
合成樹脂繊維(B)を構成する合成樹脂としては、特に制限されず、熱硬化性樹脂(フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂など)、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリケトン系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、脂肪酸ビニルエステル系樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリプロピオン酸ビニルなどのポリ脂肪酸ビニルエステル;脂肪酸ビニルエステルと他の共重合性単量体との共重合体など)、ビニル系樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂のうち、ポリアミド系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂などが好ましい。
【0024】
ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド46、ポリアミド5、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/66、ポリアミド6/11などの脂肪族ポリアミド;脂環族ポリアミド;ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミドMXDなどの芳香族ポリアミド;これらのポリアミドのうち少なくとも二種の異なったポリアミド形成成分により形成されるコポリアミドなどが挙げられる。なお、ポリアミド系樹脂には、ポリアミドエラストマーも含まれる。
【0025】
飽和ポリエステル系樹脂としては、芳香族ポリエステル(テレフタル酸単位を含むポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリC2−4アルキレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレート;ナフタレン酸単位を含むポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリC2−4アルキレンナフタレートなどのポリアルキレンナフタレートなど);脂肪族ポリエステル(アジピン酸単位を含むポリエステル、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどのポリアルキレンアジペート;ポリ乳酸など)、ポリアリレート、液晶性ポリエステルなどが挙げられる。これらのポリエステルは、通常、結晶性を有している。なお、結晶性ポリエステルは、構成成分以外のジカルボン酸成分及び/又はグリコール成分により変性されていてもよい。また、前記ポリエステル系樹脂には、ポリエステルエラストマーも含まれる。
【0026】
ポリフェニレンオキシド系樹脂としては、ポリ(2,5−ジメチル−1,4−フェニレン)オキシド、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)オキシド、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)オキシド、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)オキシド、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)オキシドなどの単独重合体、これらの単独重合体をベースとして構成された変性ポリフェニレンオキシド共重合体、ポリフェニレンオキシド又はその共重合体にスチレン系重合体がグラフトしている変性グラフト共重合体などが挙げられる。
【0027】
ポリフェニレンスルフィド系樹脂としては、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリビフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどが挙げられる。
【0028】
オレフィン系樹脂としては、オレフィン系単量体の単独重合体の他、オレフィン系単量体の共重合体、オレフィン系単量体と他の共重合性単量体との共重合体が含まれる。オレフィン系単量体としては、例えば、鎖状オレフィン類[エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどのα−C2−20オレフィン(好ましくはα−C2−10オレフィン、さらに好ましくはα−C2−4オレフィン)など]、環状オレフィン類[例えば、シクロペンテンなどのシクロアルケン(C4−10シクロアルケンなど);シクロペンタジエンなどのシクロアルカジエン(C4−10シクロアルカジエンなど);ノルボルネン、ノルボルナジエンなどのビシクロアルケン又はビシクロアルカジエン(C8−20ビシクロアルケン又はビシクロアルカジエンなど);ジヒドロジシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどのトリシクロアルケン又はトリシクロアルカジエン(C10−25トリシクロアルケン又はトリシクロアルカジエンなど)など]などが挙げられる。これらのオレフィン系単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。上記オレフィン系単量体のうち、エチレン、プロピレンなどのα−C2−4オレフィンなどの鎖状オレフィン類が好ましい。
【0029】
他の共重合性単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル;(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル系単量体;マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸又はその無水物;カルボン酸のビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)など];ノルボルネン、シクロペンタジエンなどの環状オレフィン;及びブタジエン、イソプレンなどのジエン類などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0030】
前記オレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン(低密度、中密度、高密度又は線状低密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1などの三元共重合体などの鎖状オレフィン類(特にα−C2−4オレフィン)の共重合体などが挙げられる。また、オレフィン系単量体と他の共重合性単量体との共重合体の具体例としては、例えば、鎖状オレフィン類(特に、エチレン、プロピレンなどのα−C2−4オレフィン)と脂肪酸ビニルエステル単量体との共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレンープロピオン酸ビニル共重合体など);鎖状オレフィン類と(メタ)アクリル系単量体との共重合体[鎖状オレフィン類(特にα−C2−4オレフィン)と(メタ)アクリル酸との共重合体(例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、プロピレン−(メタ)アクリル酸共重合体、アイオノマーなど);鎖状オレフィン類(特にα−C2−4オレフィン)とアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体(例えば、エチレン−アルキル(メタ)アクリレート共重合体など);など];鎖状オレフィン類(特にα−C2−4オレフィン)とジエン類との共重合体(例えば、エチレン−ブタジエン共重合体など);エポキシ変性ポリオレフィン(例えば、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体)、カルボキシ変性ポリオレフィン(例えば、エチレン−無水マレイン酸共重合体)、エポキシ及びカルボキシ変性ポリオレフィン(例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸−無水マレイン酸共重合体)などの変性ポリオレフィン;オレフィン系エラストマー(エチレンプロピレンゴムなど)などが挙げられる。オレフィン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
アクリル系樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシルなどの(メタ)アクリル酸C1−10アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;(メタ)アクリル酸グリシジルエステルなど]、アクリロニトリルなどのアクリル系モノマーの単独重合体又は共重合体;アクリル系モノマーと他のモノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0032】
前記アクリル系単独重合体又は共重合体としては、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。アクリル系モノマーと他のモノマーとの共重合体としては、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
【0033】
ビニル系樹脂としては、塩化ビニル系樹脂[塩化ビニル系モノマーの単独重合体(ポリ塩化ビニル系樹脂など)、塩化ビニル系モノマーと他のモノマーとの共重合体(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)など]、ビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコールなどのビニルアルコール系モノマーの単独重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系モノマーと他のモノマーとの共重合体など)、ポリビニルホルマールなどのポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。これらのビニル系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0034】
合成樹脂繊維(B)としては、一種の合成樹脂繊維を用いてもよく、二種以上の合成樹脂繊維を組み合わせてもよい。また、合成樹脂繊維(B)は、二種以上の樹脂繊維が複合化された複合繊維(例えば、相分離した複数の樹脂で構成された複合繊維)を用いてもよく、このような複合繊維を叩解処理して得られる繊維(分割繊維)を用いてもよい。なお、分割繊維では、繊維の叩解処理により、各樹脂の相が分割された状態となる。なお、分割繊維の詳細は、例えば、特開2008−179922号公報を参照できる。
【0035】
前記複合繊維を構成する樹脂は、特に制限されず、熱硬化性樹脂であってもよいが、通常、熱可塑性樹脂(オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂など)などを用いる場合が多い。これらの樹脂のうち、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などが好ましい。これらの樹脂としては、前記合成樹脂繊維(B)を構成する熱可塑性樹脂の項で例示の各樹脂が使用できる。
【0036】
前記オレフィン系樹脂のうち、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが好ましく、前記ポリエステル系樹脂のうち、芳香族ポリエステル(テレフタル酸単位を含むポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレート);脂肪族ポリエステル(アジピン酸単位を含むポリエステル、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどのポリアルキレンアジペート;ポリ乳酸など)などが好ましい。また、好ましいポリアミド系樹脂には、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12などの脂肪族ポリアミド系樹脂などが含まれる。また、ビニル系樹脂としては、塩化ビニル系樹脂などが好ましい。
【0037】
これらの複合繊維を構成する樹脂のうち、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリアミド系樹脂、特に、オレフィン系樹脂などが好ましい。なお、前記複合繊維は、通常、相分離した二種の樹脂で構成されている場合が多い。
【0038】
好ましい組み合わせとしては、(a)相分離可能な複数のオレフィン系樹脂の組み合わせ(例えば、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との組み合わせなどの異なるオレフィン系樹脂の組み合わせ、相分離可能な異なるポリプロピレン系樹脂の組み合わせなど)の他、(b)オレフィン系樹脂と、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリアミド系樹脂から選択された少なくとも一種との組み合わせ、(c)ビニル系樹脂と、ポリアミド系樹脂との組み合わせなどが挙げられる。
【0039】
特に、ポリプロピレン系樹脂と、このポリプロピレン系樹脂と相分離可能な他の樹脂(ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂など)との組み合わせが好ましい。ポリプロピレン系樹脂と、相分離可能な他の樹脂(ポリエチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂など)との割合(重量比)は、例えば、ポリプロピレン系樹脂/相分離可能な他の樹脂=10/90〜90/10、好ましくは30/70〜85/15、さらに好ましくは50/50〜80/20程度であってもよい。
【0040】
前記複合繊維の断面構造(横断面構造)は、特に制限されず、例えば、放射状配列型(例えば、複数の樹脂のうち一方の成分と他方の成分とが放射状に配置された形状、一方の成分が薄層状で放射状に配置され、この薄層状の成分により他方の成分が放射状に分割された形状、接着剤層などにより、一方の成分と他方の成分とが放射状に分割された形態など)、サイドバイサイド型(又は並列型又は多層積層型)、海島型、芯鞘型などであってもよい。また、前記複合繊維は、中実であってもよく、中空であってもよい。
【0041】
また、前記複合繊維の断面形状(横断面形状)は、特に制限されず、例えば、円形、多角形(三角形、四角形など)などであってもよい。
【0042】
前記複合繊維の平均繊維径は、特に制限されず、0.1〜50μm、好ましくは0.5〜40μm、さらに好ましくは1〜30μm程度であってもよい。また、前記複合繊維の平均繊維長は、例えば、0.1〜10mm、好ましくは0.5〜8mm、さらに好ましくは0.8〜6mm程度であってもよい。
【0043】
なお、前記複合繊維は、必要により、他の繊維[天然繊維(セルロース繊維など)、合成繊維、半合成繊維(アセテートなど)]を含んでいてもよく、添加剤(例えば、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、芳香剤、脱臭剤、抗菌剤など)を併用してもよい。
【0044】
前記複合繊維を叩解処理した分割繊維を繊維(B)として用いる場合、複合繊維の叩解処理は、慣用の叩解処理方法、例えば、リファイナー処理及びホモジナイズ処理から選択された少なくとも一種の処理方法などにより行うことができる。このような叩解処理の詳細は、特開2008−179922号公報を参照できる。
【0045】
複合繊維の叩解処理により得られる分割繊維(フィブリル化繊維)の平均繊維径は、0.01〜30μmの広い範囲から選択でき、例えば、0.05〜25μm、好ましくは、0.1〜20μm、さらに好ましくは0.3〜20μm程度であってもよい。また、前記フィブリル化繊維の平均繊維長は、0.1〜5mmの広い範囲から選択でき、例えば、0.1〜4mm、好ましくは0.3〜4mm、さらに好ましくは0.3〜3mm程度であってもよい。
【0046】
合成樹脂繊維(B)の割合は、固形分換算で、例えば、セルロース系繊維(A)100重量部に対して、1〜1000重量部、好ましくは10〜500重量部、さらに好ましくは20〜200重量部、特に、50〜150重量部程度であってもよい。なお、このような割合は、機械的剪断処理後のセルロース系繊維(A)の微小繊維に対する樹脂繊維(B)の微小繊維の割合にも対応している。
【0047】
前記セルロース系繊維(A)及び合成樹脂繊維(B)の平均繊維長(L)は、0.01〜1mm(例えば、0.02〜0.7mm)、好ましくは0.03〜0.9mm、さらに好ましくは0.05〜0.8mm(特に、0.06〜0.7mm)程度であってもよい。また、微小繊維の平均繊維径(D)は、0.001〜1μm、好ましくは0.005〜0.8μm、さらに好ましくは0.01〜0.6μm(特に、0.1〜0.4μm)程度であってもよい。微小繊維のアスペクト比(L/D)は、100〜10000、好ましくは200〜8000、さらに好ましくは400〜6000(特に、600〜4000)程度であってもよい。また、前記微小繊維の平均繊維長及び平均繊維径は、機械的に剪断処理を行う前の原料繊維の平均繊維長及び平均繊維径と同じか又はそれ以下である。
【0048】
なお、繊維状補強剤は、不定形状(ペレット状、粉粒状など)の微小樹脂(平均径0.01〜50mmを有する不定形状樹脂に機械的剪断力を作用させて得られる不定形状微小樹脂など)を実質的に含有しなくてもよい。
【0049】
(繊維状補強剤の製造方法)
前記繊維状補強剤は、セルロース系繊維(A)と、合成樹脂繊維(B)とを、溶媒中で機械的に剪断処理して、懸濁液を調製し、この懸濁液から溶媒を除去することにより製造できる。
【0050】
前記溶媒としては、原料樹脂繊維に化学的又は物理的損傷を与えない限り特に制限されず、例えば、水、有機溶媒[アルコール類(メタノール、エタノール、2−プロパノール、イソプロパノールなどC1−4アルカノールなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジC1−4アルキルエーテル、テトラヒドロフランなどの環状エーテル(環状C4−6エーテルなど))、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトンなどのジアルキルケトン(ジC1−5アルキルケトンなど);シクロヘキサノンなどのシクロアルカノン(C4−10シクロアルカノンなど))、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン系炭化水素類(塩化メチル、フッ化メチルなど)など]などが挙げられる。
【0051】
これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。また、これらの溶媒のうち、生産性、コストの点から、水が好適であり、必要により、水と水性有機溶媒(C1−4アルカノール、アセトンなど)との混合溶媒を用いてもよい。
【0052】
機械的剪断処理に供するセルロース系繊維(A)及び合成樹脂繊維(B)は、溶媒中に少なくとも共存した状態であればよく、機械的剪断処理に先だって、セルロース系繊維(A)及び合成樹脂繊維(B)を、溶媒中に分散させてもよい。分散は、例えば、慣用の分散機(超音波分散機、ホモディスパー、スリーワンモーターなど)などを用いて行ってもよい。なお、前記分散機は、機械的撹拌手段(撹拌棒、撹拌子など)を備えていてもよい。
【0053】
セルロース系繊維(A)及び合成樹脂繊維(B)の溶媒中における濃度は、双方の繊維の総量として、0.01〜50重量%、好ましくは0.05〜40重量%、さらに好ましくは0.1〜30重量%程度であってもよい。
【0054】
前記機械的剪断力は、機械的な剪断力を作用させて原料樹脂を微小化できる限り特に制限されず、例えば、叩解処理(ホモジナイズ処理、リファイナー処理など)などの機械的剪断力や、超音波処理を作用させてもよく、特に、ホモジナイズ処理などの叩解処理で機械的剪断力を作用させるのが好ましい。これらの機械的剪断力は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。なお、必要により、機械的剪断力に先だって、慣用の予備叩解処理を行ってもよい。
【0055】
ホモジナイズ処理では、慣用の均質化装置(例えば、ホモジナイザー、特に、高圧ホモジナイザーなど)を使用することができる。
【0056】
なお、高圧ホモジナイザーは、内部に狭まった流路(例えば、オリフィス(小径オリフィスなど)など)を備え、前記分散液を狭まった流路に通過させることにより、圧力を負荷し、容器内壁などの壁面に衝突させることにより、剪断応力又は切断作用を付与するタイプの装置であってもよい。
【0057】
このような高圧ホモジナイザーにおいて、狭まった流路を通過させることにより負荷される圧力(又は高圧ホモジナイザーへ圧送する圧力(又は処理圧力))は、例えば、30〜100MPa、好ましくは35〜80MPa、さらに好ましくは40〜60MPa(例えば、45〜55MPa)程度であってもよい。
【0058】
また、狭まった流路の通過と壁面への衝突とを繰り返して行うことにより、前記原料樹脂繊維の微小化、及び分散液の均質化の程度を適宜調整することができる。狭まった流路の通過と壁面への衝突との繰り返し数(又は処理回数(又はパス回数))は、5〜30回、好ましくは、7〜25回、さらに好ましくは10〜20回(例えば、12〜18回)程度であってもよい。
【0059】
なお、このような高圧ホモジナイザーによる微小化の詳細は、例えば、特公昭60−19921号公報などを参照できる。
【0060】
このような方法により得られる懸濁液では、セルロース系繊維(A)及び合成樹脂繊維(B)が高度に微小化され、繊維(A)及び(B)の微小繊維が互いに入り組んでいるため、微小繊維が溶媒中に均一に分散し、安定した懸濁液(又はスラリー状懸濁液)を形成している。
【0061】
なお、懸濁液は、必要により、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、安定剤[酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤など)、収縮防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、耐候安定剤など]、滑剤、離型剤、潤滑剤、衝撃改良剤、着色剤(染料や顔料など)、可塑剤、難燃剤、抗菌剤、防腐剤、防カビ剤、防虫剤、消臭剤などを含有していてもよい。
【0062】
溶媒の除去方法としては、慣用の脱液処理(例えば、濾過、圧搾、遠心分離など)、乾燥処理などが挙げられる。これらの処理は、適宜組み合わせて使用してもよいが、少なくとも乾燥処理するのが好ましく、例えば、濾過などにより脱液した後、乾燥してもよい。また、繊維状補強剤の製造に伴って、前記懸濁液の溶媒の種類を置換(溶媒置換)してもよい。溶媒置換を行う場合、例えば、水系溶媒を脱液した後、有機溶媒(前記例示の有機溶媒、例えば、C1−4アルカノール、アセトンなど)に微小繊維を分散させ、さらに脱液処理を行ってもよい。また、水系溶媒の脱液及び/又は有機溶媒の脱液の後、必要により、乾燥してもよい。
【0063】
乾燥温度は、20〜300℃程度の広い範囲から選択できるが、複数の微小樹脂のガラス転移温度(Tg)より低い温度、例えば、25〜250℃、好ましくは28〜200℃、さらに好ましくは30〜150℃(特に40〜130℃)程度であってもよい。このような温度で乾燥すると、微小繊維が熱により接着することなく、微小化による効果を損わない。
【0064】
乾燥には、必要に応じて、公知の乾燥機、例えば、ナウター型乾燥機、棚型乾燥機、加熱ジャケット付回転式混合機などが使用できる。
【0065】
前記繊維状補強剤は、必要に応じて、粉砕処理、ペレタイズ処理などに供してもよい。粉砕には、公知の粉砕機、例えば、サンプルミル、ハンマーミル、カッターミルなどを使用してもよい。また、ペレタイズ処理には、公知のペレット化装置、例えば、ペレタイザなどを使用してもよい。
【0066】
また、前記繊維状補強剤は、さらに他の樹脂と組み合わせて樹脂組成物として使用してもよい。特に、繊維状補強剤をマスターバッチとして使用し、他の樹脂(又はマトリックス樹脂)を用いて、混合(希釈)し、繊維強化樹脂(又は繊維強化樹脂組成物)として使用してもよい。なお、他の樹脂は、繊維状樹脂であってもよく、粉粒状樹脂又はペレット状樹脂であってもよい。また、他の樹脂は、固体状態及び溶融状態のいずれの状態であってもよい。セルロース系繊維(A)及び合成樹脂繊維(B)の微小繊維が均一に分散された前記繊維組成物を用いることにより、マトリックス樹脂が疎水性であっても、マトリックス樹脂に均一に分散でき、マトリックス樹脂を効果的に補強できる。そのため、前記繊維状補強剤は、幅広い種類のマトリックス樹脂に適用することができ、種々のマトリックス樹脂の補強剤又は強化剤として有用である。
【0067】
前記他の樹脂としては、前記繊維(B)の項で例示の樹脂などが挙げられ、繊維(B)と均質樹脂を構成してもよく、ポリマーアロイを形成してもよい。他の樹脂は、繊維(B)を構成する繊維とは、異なる種類の樹脂であってもよいが、混練性の点からは、繊維(B)を構成する少なくとも一種の樹脂繊維と同種の樹脂であるのが好ましい。異種の樹脂の場合は、相溶化剤などを用いて混練するのが好ましい。
【0068】
前記相溶化剤としては、例えば、極性基を有する化合物で変性した熱可塑性樹脂などが挙げられる。前記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、プロピレンーブテン共重合体など)、ポリアミド系樹脂(ポリアミド6、ポリアミド12など)、環状炭化水素系樹脂(環状オレフィンコポリマーなど)、ポリスチレン系樹脂{ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−共役ジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂など)、スチレン−共役ジエン共重合体及び/又はその水素添加樹脂(SBS、SIS、SIBS、SEBS、SEPS、SEEPS、SBBSなど)、スチレン系熱可塑性エラストマー[スチレン−共役ジエン共重合体及び/又はその水素添加樹脂を含有する混合物又は部分架橋物(例えば、スチレン−共役ジエン共重合体及び/又はその水素添加樹脂と、オレフィン系樹脂及び/又はオイルとを配合した混合物など)など]など}などが挙げられる。これらのうち、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂などが好ましい。
【0069】
これらの熱可塑性樹脂を変性するための変性剤としての極性基を有する化合物において、極性基としては、例えば、カルボキシル基、カルボニル基(エステル基、アミド基、酸はライド基など)、酸無水物基、アミノ基、ヒドロキシル基、グリシジル基、オキサゾリル基などが挙げられる。これらの極性基は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。好ましい極性基は、カルボキシル基、酸無水物基、グリシジル基などである。
【0070】
極性基を有する化合物としては、具体的には、カルボキシル基を有する化合物((メタ)アクリル酸などのモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸などのジカルボン酸及びその無水物など)、不飽和グリシジル化合物及び/又はその誘導体(グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテルなど)が挙げられる。これらのうち、カルボキシル基を有する化合物(特に、無水マレイン酸(MAH)など)、不飽和グリシジル化合物及び/又はその誘導体(特に、グリシジルメタクリレート(GMA)など)などが好ましい。これらの相溶化剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0071】
前記繊維状補強剤と他の樹脂との割合(重量比)は、特に制限されず、例えば、繊維状補強剤/他の樹脂=0.1/99.9〜99/1、好ましくは0.2/99.8〜90/10、さらに好ましくは0.3/99.7〜80/20(例えば、0.4/99.6〜70/30)、特に、0.5/99.5〜60/40(例えば、1/99〜50/50)程度であってもよい。
【0072】
なお、繊維状補強剤中のセルロース系繊維(A)の微小繊維の割合は、繊維状補強剤全体に対して、10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%、さらに好ましくは25〜60重量%程度であってもよい。
【0073】
本発明の成形体は、前記繊維強化樹脂で形成されている。このような成形体は、繊維強化樹脂を、溶融混練し、慣用の成形方法(押出成形、射出成形、圧縮成形など)で成形することにより得ることができる。
【0074】
溶融混練は、慣用の方法、すなわち、慣用の溶融混練機、例えば、一軸又はベント式二軸押出機などを用いて行うことができる。また、溶融混練に先だって、慣用の方法、例えば、混合機(タンブラー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、ナウタミキサー、リボンミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機など)を用いて、繊維強化樹脂と他の成分(前記例示の添加剤など)などとを予備混合してもよい。なお、溶融混練温度は、例えば、70〜300℃、好ましくは80〜280℃、さらに好ましくは85〜260℃程度であってもよい。
【0075】
さらに、得られた成形体は、微小繊維が成形体中(微小繊維に添加された樹脂繊維、又は前記他の樹脂など)に十分に分散されているため、高い強度を有している。
【0076】
前記成形体は、高い強度を有するため、宇宙関連品[人工衛星(人工衛星本体、パラボラアンテナ、太陽電池用フレームなど)、スペースシャトル(機体、翼、遠隔操作棒、荷物室ドアなど)など]、航空機部品(機体、主翼、尾翼、方向舵など)、自動車部品(ボディ、フード、ドア、ドライブシャフトなど)、スポーツ用品(ゴルフシャフト、テニスラケットフレームなど)、レジャー用品(釣り竿など)などに有用である。また、必要に応じて、紡糸することも可能であり、衣服などにも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の繊維状補強剤は、セルロース系繊維及び合成樹脂繊維の微小繊維が均一に分散しており、樹脂への分散性が高い。そのため、樹脂に添加して、補強するための樹脂用補強剤として有用である。また、得られる繊維強化樹脂及び成形体は、高い強度を有するため、宇宙関連品(人工衛星、スペースシャトルなど)、航空機部品、自動車部品、スポーツ用品、レジャー用品などに用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0079】
実施例1
市販のクラフトパルプ(平均繊維長3mm、平均繊維径12μm)100g、及び繊維状のポリプロピレン樹脂(EDC810 チッソポリプロ社製)100gに、水20Lを加え、よく撹拌した。得られた分散液を均質化装置(GAULIN社製 15M−8TA、高圧ホモジナイザー)に常温で仕込み、44.1MPaの圧力をかけて15回通過させてスラリー状懸濁液を得た。このスラリー状懸濁液を遠心脱液機により脱液し、次いでイソプロピルアルコール100Lを用いて溶剤置換を行った。さらに脱液した後、乾燥して、綿状の熱可塑性繊維/ミクロフィブリル化(MF化)セルロース複合体を得た。
【0080】
得られた綿状複合体と、上記と同様の繊維状ポリプロピレン樹脂とを、MF化セルロース繊維の割合が、40重量%となるように混合し、二軸押出機(日鋼(株)、TEX30α)にて190℃で混練後、ペレタイザによりペレット化した。このペレットの表面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、分散状態が均一であった。
【0081】
比較例1
市販のクラフトパルプを用いることなくスラリー懸濁液を調製する以外は、実施例1と同様の操作を行い、綿状の複合体に代えてMF化PP繊維を得た。
【0082】
得られたMF化PP繊維と、市販のクラフトパルプ(平均繊維長3mm、平均繊維径12μm)とを、クラフトパルプの割合が40重量%となるように混合し、二軸押出機(日鋼(株)、TEX30α)に、190℃で混練後、ペレタイザによりペレット化した。
【0083】
比較例2
市販のクラフトパルプ(平均繊維長3mm、平均繊維径12μm)100gに水20Lを加え、よく撹拌した。得られた分散液を均質化装置(GAULIN社製 15M−8TA、高圧ホモジナイザー)に常温で仕込み、44.1MPaの圧力をかけて15回通過させて、ミクロフィブリル化(MF化)セルロースのスラリー状懸濁液を得た。
【0084】
この懸濁液に、繊維状のポリプロピレン樹脂(EDC810 チッソポリプロ社製)100gを混合し、攪拌機(UT1305 マキタ社製)にて3分間撹拌した。得られた混合物を、遠心脱液機により脱液処理し、次いでイソプロピルアルコール100Lを用いて溶剤置換を行った。さらに脱液した後、乾燥した。
【0085】
得られた乾燥物と、上記と同様の繊維状ポリプロピレン樹脂とを、MF化セルロース繊維の割合が、40重量%となるように混合し、二軸押出機(日鋼(株)、TEX30α)にて190℃で混練後、ペレタイザによりペレット化した。
【0086】
実施例及び比較例で得られたペレットを用いて、下記の物性試験を行うとともに、成形片を目視にて評価した。結果を表1に示す。
(1)密度
ISO1183に準じて、密度(g/cm)を測定した。
(2)曲げ強さ及び曲げ弾性率
ISO178に準じて、曲げ強さ(MPa)及び曲げ弾性率(MPa)を測定した。
(3)シャルピー衝撃強さ
ISO179/1eAに準じて、23℃にて、ノッチ付き試験片を用いてシャルピー衝撃強さ(kJ/m)を測定した。
(4)荷重たわみ温度
ISO75に準じて、1.80MPa及び0.45MPaの条件にて、荷重たわみ温度(℃)を測定した。
【0087】
【表1】

【0088】
表1から明らかなように、比較例に比べて、実施例では、曲げ弾性率、荷重たわみ温度が顕著に改善された。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は実施例1で得られたサンプルの表面における1000倍の走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂を補強するための繊維状補強剤であって、セルロース系繊維(A)と、合成樹脂繊維(B)とに、溶媒中で、機械的剪断力を作用させて得られ、かつ前記セルロース系繊維(A)及び合成樹脂繊維(B)の微小繊維を含む繊維状補強剤。
【請求項2】
合成樹脂繊維(B)が、繊維状オレフィン系樹脂、又は繊維状オレフィン系樹脂を叩解処理して得られる微小繊維状オレフィン系樹脂である請求項1記載の繊維状補強剤。
【請求項3】
セルロース系繊維(A)の微小繊維と、合成樹脂繊維(B)の微小繊維とを、10/90〜90/10の割合(固形分重量比)で含有する請求項1又は2記載の繊維状補強剤。
【請求項4】
セルロース系繊維(A)の微小繊維及び合成樹脂繊維(B)の微小繊維が、それぞれ、平均繊維長(L)0.01〜1mm、平均繊維径(D)0.001〜1μm、及びアスペクト比(L/D)100〜10000を有する請求項1〜3の何れかの項に記載の繊維状補強剤。
【請求項5】
セルロース系繊維(A)と合成樹脂繊維(B)とを、溶媒中で機械的に剪断処理して、懸濁液を調製し、この懸濁液から溶媒を除去して、セルロース系繊維(A)及び合成樹脂繊維(B)の微小繊維を含む繊維状補強剤を製造する方法。
【請求項6】
機械的剪断処理が、ホモジナイズ処理である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4の何れかの項に記載の繊維状補強剤を含む繊維強化樹脂。
【請求項8】
繊維状補強剤と、合成樹脂繊維(B)を構成する樹脂繊維と同種の樹脂とを含む請求項7記載の繊維強化樹脂。
【請求項9】
請求項7又は8記載の繊維強化樹脂で形成された樹脂成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−84281(P2010−84281A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255391(P2008−255391)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】