説明

繊維用防縮剤及び繊維構造物

【課題】洗剤と漂白剤とを併用した洗濯の繰り返しによる繊維構造物の縮み防止性(防縮性)に優れ、さらには繊維構造物の持つ適度な撥水性を保持することが可能な繊維用防縮剤を提供すること。
【解決手段】特定構造のN−置換イミド単位を特定量含有するポリオレフィン共重合体A、Bを有効成分とする繊維用防縮剤。ポリオレフィン共重合体A:オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が特定式で表される置換基であるポリオレフィン共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維用防縮剤に関するものであり、詳しくは繊維の風合いを損なうことなく優れた防縮性を付与させることが可能な繊維用防縮剤と、その繊維用防縮剤を付与してなる繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
獣毛繊維、絹、綿などの天然繊維や、レーヨンなどの再生繊維などの繊維製品は、洗濯を繰り返すことで収縮する性質を有している。特に羊毛やカシミヤなどの獣毛繊維はその縮みの傾向が顕著である。このような獣毛繊維の洗濯による縮みの防止(防縮)に関しては、従来より多くの方法が提案され、代表的な方法として、サンホライズ加工、塩素化ハーコセット加工が広く知られている。
【0003】
サンホライズ加工とは、熱を加えながら繊維基材を経方向に収縮させる方法で、洗濯による繊維構造物の縮みを防ぐ効果が高く、主に綿、レーヨンなどのセルロース繊維からなる繊維基材に適用されている。一方、塩素化ハーコセット加工とは、繊維のスケールを親水化した後、繊維をポリアミドエピクロルヒドリン樹脂で被覆する方法で、フエルト化による繊維構造物の縮みを防ぐ効果が高く、主に獣毛繊維からなる繊維基材に適用されている。
【0004】
サンホライズ加工、塩素化ハーコセット加工はともに防縮加工法として広く普及しており、一応完成された方法として当業者間に知られている。
【0005】
しかし、近年、高速水流により高い洗浄効果を得る技術が導入され、洗濯時に繊維構造物が従来に比べ高い水圧を受ける機会が増えてきている。この点、サンホライズ加工は、物理的手段に基づく防縮加工法であるため、水圧による繊維構造物の伸びを抑える効果に乏しく、伸びに伴う防縮性の低下という新たな問題が顕在化しつつある。一方、塩素化ハーコセット加工では、酸化剤として次亜塩素酸などの塩素化合物を用いるため、環境保護の点で問題があることに加え、スケール表面の撥水層が酸化剤により破壊され、獣毛繊維本来の特徴たる撥水性が失われるという問題がある。
【0006】
そこで、環境面に配慮した化学的手段に基づく方法として、ポリウレタン樹脂を主成分とする防縮剤を繊維基材に付与する方法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭52−37900号公報
【特許文献2】特開平5−78983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記文献記載の防縮剤を用いて加工された繊維構造物においては、一般的な家庭用洗濯用洗剤(例えば、JIS K3371に規定する第1種)での洗濯に対し、一定の防縮効果が確認されている。しかしながら、繊維製品の洗濯方法には、目的に応じ様々な方法があり、中には洗剤と漂白剤を併用して洗濯する方法や、漂白剤成分を含有する洗剤を用いて洗濯する方法なども提案されている。上記繊維構造物の場合、漂白剤を併用して洗濯すると防縮性が大きく低減するという問題があり、特に繊維基材が獣毛繊維から構成されているときには、これに加え、ポリウレタン樹脂の親水性が非常に高いことに起因して、獣毛繊維が本来的に有する適度な撥水性が失われるという問題もある。
【0009】
本発明は、上記のような問題に鑑み、洗剤と漂白剤とを併用した洗濯の繰り返しによる繊維構造物の縮み防止性(防縮性)に優れ、さらに繊維構造物の持つ適度な撥水性を保持することが可能な繊維用防縮剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定構造のN−置換イミド単位を特定量含有するポリオレフィン共重合体を有効成分とする繊維用防縮剤を用いることで、繊維構造物に優れた防縮性を与え、さらに、洗濯を繰り返してもその防縮性を維持できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)下記A、Bのポリオレフィン共重合体の少なくとも一方と、水性媒体とを含有することを特徴とする繊維用防縮剤。
ポリオレフィン共重合体A:オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が式(I)で表される置換基であるポリオレフィン共重合体
−(CH)nNR (I)
(式(I)中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、nは1〜5の整数を示す。)
ポリオレフィン共重合体B:オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が式(II)で表される置換基であるポリオレフィン共重合体
−(CH)nN・X (II)
(式(II)中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、Rは四級化反応により導入された四級化剤の残基、X−はアニオン性対イオン、nは1〜5の整数を示す。)
(2)ポリオレフィン共重合体の数平均粒子径が1000nm以下であることを特徴とする上記1記載の繊維用防縮剤。
(3)ポリオレフィン共重合体が、不飽和カルボン酸単位を含有し、酸価が0.1〜50mgKOH/gであることを特徴とする上記1又は2記載の繊維用防縮剤。
(4)天然繊維、再生繊維の少なくとも一方を含む繊維構造物であって、繊維基材に上記1〜3いずれかに記載の繊維用防縮剤を付着させ、後に水性媒体を除去してなることを特徴とする繊維構造物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の繊維用防縮剤は、繊維構造物の風合いや撥水性を良好に保ちつつ、洗剤と漂白剤を併用するような過酷な条件の洗濯を繰り返した場合であっても、繊維構造物に優れた防縮性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の繊維用防縮剤は、下記A、Bのポリオレフィン共重合体の少なくとも一方と、水性媒体とを含有するものである。なお、A及びBを混在して使用する場合はA、Bの混合比率としては特に限定されず、目的に応じて任意の量で配合してよい。
【0015】
<ポリオレフィン共重合体A>
本発明に用いられるポリオレフィン共重合体Aは、オレフィン系炭化水素単位と、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有するもので、繊維構造物の防縮性を向上させる効果が高い。
【0016】
ポリオレフィン共重合体Aには、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位が0.1モル%以上10モル%未満含有されており、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が式(I)により表される。
【0017】
−(CHNR (I)
式(I)中、R、Rは、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基であり、炭素数1〜2のアルキル基が好ましい。また式(I)中、nは、1〜5の整数であって、2〜4の整数が好ましく、2〜3の整数がより好ましい。
【0018】
本発明では、ポリオレフィン共重合体Aを後述する水性分散体の形態で繊維用防縮剤として用いることが好ましいが、水性分散体の形態では、含有する不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が式(I´)で表される置換基であることが、防縮性の効果をより高める点、及び水性分散化が容易となる点で好ましい。
【0019】
−(CH・X (I´)
式(I´)中、R、R、nは、上記と同様のものを示す。Xはアニオン性対イオンを示す。アニオン性対イオンとは、N−置換基中のNと一組のイオン対を形成することが可能な組成物をいう。
【0020】
式(I)又は(I´)中、R、Rの炭素数、及びnの整数が、前記の範囲を下回ると、爆発の危険性がある原料を使用する必要があったり、樹脂がゲル化したりするため、ポリオレフィン共重合体を得るのが難しくなる。一方、前記の範囲を上回ると、繊維構造物における防縮性の効果が低下する。
【0021】
式(I)で表される置換基としては、N,N−ジメチルアミノエチル基、N,N−ジメチルアミノプロピル基、N,N−ジメチルアミノブチル基、N,N−ジエチルアミノエチル基、N,N−ジエチルアミノプロピル基、N,N−ジエチルアミノブチル基などがあげられ、(I´)としてはこれらが中和されたものがあげられる。中でも、共重合体の繊維基材への付着性や、繊維構造物の防縮性の観点から、(I)としては、N,N−ジメチルアミノプロピル基が好ましく、(I´)としては、それが中和されたものが好ましい。
【0022】
<ポリオレフィン共重合体B>
ポリオレフィン共重合体Bとは、ポリオレフィン共重合体Aにおいて式(I)で表される置換基の一部又は全てを四級化したものである。
【0023】
オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が式(II)で表される置換基であるポリオレフィン共重合体である。
【0024】
−(CH・X (II)
式(II)中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基であり、炭素数1〜2のアルキル基が好ましい。Rは四級化反応により導入された四級化剤の残基であり、炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。また、式(II)中、nは1〜5の整数であって、2〜4の整数が好ましく、2〜3の整数が好ましい。そして、Xはアニオン性対イオンを示す。アニオン性対イオンとは、N−置換基中のNと一組のイオン対を形成することが可能な組成物をいう。
【0025】
四級化剤としては、式(I)で表される置換基を四級化して、式(II)で表される置換基とすることが可能なものであればよい。四級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸などのジアルキル硫酸類;メチルクロライド、エチルクロライド、ベンジルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、ベンジルブロマイド、メチルヨーダイド、エチルヨーダイド、ベンジルヨーダイドなどのハロゲン化アルキル類;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルなどのエポキシ類;メタンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸メチルなどのアルキル又はアリールスルホン酸メチル類などがあげられる。これらの中でも、ジアルキル硫酸類、ハロゲン化アルキル類が四級化の反応性に優れるため好ましく、ジアルキル硫酸類がより好ましい。これらは、単独で用いても2種類以上を併用しても構わない。
【0026】
式(II)中、R、Rの炭素数、及びnの整数が前記の範囲を下回ると、爆発の危険性がある原料を使用する必要があったり、樹脂がゲル化したりするため、ポリオレフィン共重合体を得るのが難しくなる。一方、前記の範囲を上回ると、防縮性の効果が低下する。
【0027】
なお、ポリオレフィン共重合体Bは、式(I)で表される置換基と式(II)で表される置換基とを共に備えたものでも使用できる。ただし、置換基(I)、(II)の合計は、0.1モル%以上10モル%未満とする必要がある。
<ポリオレフィン共重合体>
以下、「ポリオレフィン共重合体」とは、「ポリオレフィン共重合体A」と「ポリオレフィン共重合体B」とを総称したものである。本発明におけるポリオレフィン共重合体は、上述のように、正(プラス)の電荷を帯びたカチオン性ポリオレフィン共重合体であることが、繊維構造物における防縮性の効果をより高めかつ水性分散化を容易にする観点から好ましい。
【0028】
上述のように、本発明におけるポリオレフィン共重合体は、構成成分として、オレフィン系炭化水素単位と、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有するものである。
【0029】
オレフィン系炭化水素単位としては、炭素数2〜6であるものが好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−へキセンなどのアルケン類や、ブタジエン、イソプレンなどのジエン類があげられる。これらの単位を複数有するものであってもよい。中でも、樹脂の製造のし易さ、各種材料に対する密着性などの点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンが好ましく、エチレン、プロピレンがより好ましい。
【0030】
ポリオレフィン共重合体中、オレフィン系炭化水素単位の含有量は、65〜99.9モル%であることが好ましく、70〜99.9モル%がより好ましく、80〜99.9モル%がさらに好ましく、85〜99.9モル%が特に好ましい。オレフィン系炭化水素単位の含有量が65モル%未満であると、防縮性の効果が低下することがある。一方、99.9モル%を超えると、共重合体の繊維基材への付着性が悪化したり、ポリオレフィン共重合体の水性分散化が困難となるときがある。
【0031】
ここで、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位について説明する。
【0032】
上述のように、ポリオレフィン共重合体A中のN−置換基イミド単位を構成するN−置換基は、式(I)で表されるものである。その具体例としては、N,N−ジメチルアミノエチル基、N,N−ジメチルアミノプロピル基、N,N−ジメチルアミノブチル基、N,N−ジエチルアミノエチル基、N,N−ジエチルアミノプロピル基、N,N−ジエチルアミノブチル基などがあげられる。中でも、防縮性の効果を良好とする観点から、N,N−ジメチルアミノプロピル基が好ましい。
【0033】
また、上述のように、ポリオレフィン共重合体BのN−置換基は、式(II)で表されるものである。該置換基は、ポリオレフィン共重合体Aで示した式(I)で表される置換基を四級化剤で四級化したものである。
【0034】
不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位を与える不飽和カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸などがあげられる。なかでも、オレフィン系炭化水素単位と共重合しやすいことから、無水マレイン酸が好ましい。
【0035】
不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の具体例としては、ポリオレフィン共重合体Aの場合は、N,N−ジメチルアミノエチルマレイミド、N,N−ジメチルアミノプロピルマレイミド、N,N−ジメチルアミノブチルマレイミド、N,N−ジエチルアミノエチルマレイミド、N,N−ジエチルアミノプロピルマレイミド、N,N−ジエチルアミノブチルマレイミドなどがあげられる。これらの2種類以上が共重合されていてもよい。中でも、防縮性の効果を良好とする観点から、N,N−ジメチルアミノプロピルマレイミドが好ましい。一方、ポリオレフィン共重合体Bの場合は、これらを四級化したものなどがあげられ、それらは2種類以上が共重合されていてもよい。
【0036】
ポリオレフィン共重合体における不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量としては、0.1モル%以上10モル%未満であることが必要であり、0.1%以上5モル%未満であることが好ましく、0.1以上4モル%未満であることがより好ましく、0.1以上3モル%未満であることがさらに好ましく、0.1以上2モル%未満であることが特に好ましく、0.1以上1モル%未満であることが最も好ましい。不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%未満であると、繊維構造物における防縮性の効果が不十分となる。さらにポリオレフィン共重合体を水性分散化することが困難となる。一方、10モル%以上になると、防縮性の効果が不十分となる。さらには繊維基材に備わった撥水性も低下する。
【0037】
ポリオレフィン共重合体は、さらに構成成分として不飽和カルボン酸単位を含有していることが好ましい。不飽和カルボン酸単位を含有することで、繊維基材への付着性や、防縮性の効果がより優れるものとなる。不飽和カルボン酸単位としては、無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、クロトン酸などがあげられる。中でも、ポリオレフィン樹脂に共重合しやすい無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸が好ましく、特に無水マレイン酸、マレイン酸が好ましい。
【0038】
ポリオレフィン共重合体における不飽和カルボン酸単位の含有量は、酸価を測定することにより求めることができる。本発明において、ポリオレフィン共重合体の酸価(単位:mgKOH/g)は、以下のようにして求めることができる。すなわち、ポリオレフィン共重合体を、テトラヒドロフラン/トルエン/水を、質量比で20/4.8/0.2のように混合した溶媒に溶解し、クレゾールレッドを指示薬としてKOHで滴定を行い、溶液の色調が紫色に変色し、且つその色調が20秒間変化しなくなった時点のKOH消費量(mL)から求めることができる。このようにして求められたポリオレフィン共重合体の酸価は、0.1〜50mgKOH/gであることが好ましく、0.2〜40mgKOH/gがより好ましく、0.5〜30mgKOH/gがさらに好ましく、1.0〜20mgKOH/gが特に好ましい。ポリオレフィン共重合体の酸価が50mgKOH/gを超えると、共重合体の水性分散化が困難になることがある。一方、ポリオレフィン共重合体の酸価が0.1mgKOH/g未満になると、不飽和カルボン酸の含有量が少なすぎるため、繊維構造物における防縮性の向上効果が低くなることがある。
【0039】
また、ポリオレフィン共重合体は、上記オレフィン系炭化水素単位、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位や不飽和カルボン酸単位以外のモノマー単位(以下、「その他のモノマー単位」と称することがある)を有するものであってもよい。
【0040】
その他のモノマー単位としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのマレイン酸エステル;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル並びにビニルエステルを塩基性化合物などでケン化して得られるビニルアルコールなどがあげられる。中でも、繊維基材への付着性や、防縮性の効果がより向上させる観点から、その他のモノマー単位として、(メタ)アクリル酸エステル単位を有していることが好ましい。
【0041】
ここで、その他のモノマー単位が(メタ)アクリル酸エステル単位を有する場合において、該(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、0.1〜25モル%であることが好ましく、0.1〜20モル%がより好ましく、1〜15モル%がさらに好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量が上記範囲を外れると、繊維構造物における防縮性の向上効果が乏しくなることがある。一方、25モル%を超えると、繊維基材に備わった撥水性が低下することがある。
【0042】
ポリオレフィン共重合体の分子量としては、質量平均分子量で5000〜500000であることが好ましく、10000〜200000がより好ましく、15000〜100000がさらに好ましく、20000〜80000が特に好ましい。質量平均分子量が5000未満であると、繊維構造物における防縮性の向上効果が乏しくなることがある。一方、質量平均分子量が500000を超えると、共重合体を水性分散化することが困難となることがある。なお、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求められる。
【0043】
ただし、一般にポリオレフィン共重合体は、溶剤に対して難溶であるため、分子量測定が困難となることがある。そのような場合においては、質量平均分子量に代えて、溶融樹脂の流動性を示すメルトフローレート値が分子量の目安とされる。本発明において、メルトフローレート値は、JIS K7210:1999に準じて測定されるものである。ポリオレフィン共重合体のメルトフローレート値としては、0.1〜2000g/10分であることが好ましく、0.5〜1000g/10分であることがよりに好ましく、1〜500g/10分であることがさらに好ましく、2〜200g/10分であることが特に好ましい。メルトフローレート値が、2000g/10分を超えると、防縮性の向上効果が乏しくなることがある。一方、メルトフローレート値が0.1g/10分未満のときは、水性分散化が困難となることがある。
【0044】
<ポリオレフィン共重合体の製造方法>
まず、ポリオレフィン共重合体Aの製造方法について説明する。
【0045】
ポリオレフィン共重合体Aの製造方法としては、例えば、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位とを構成成分とする共重合体と、式(I)で表される置換基を有する1級アミンとをイミド化反応させる方法があげられる。かかる方法によれば、原料を入手し易く、きわめて特殊な装置を用いることなくポリオレフィン共重合体Aを得ることが可能である。
【0046】
以下、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位とを構成成分とする共重合体と、式(I)で表される置換基を有する1級アミンとをイミド化反応させる方法について詳しく説明する。
【0047】
イミド化反応においては、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位とを構成成分として有する共重合体(以下、「無水物含有共重合体」と称することがある)を、原料樹脂として用いる。無水物含有共重合体を構成するオレフィン系炭化水素単位や、不飽和カルボン酸無水物単位の種類や含有量、分子量などは、該無水物含有共重合体をイミド化反応に付して得られたポリオレフィン共重合体組成が、本発明に用いられるポリオレフィン共重合体の構成を満足するものであれば特に制限されない。また、無水物含有共重合体は、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位以外のモノマー単位(その他のモノマー単位)を有するものであってもよい。
【0048】
無水物含有共重合体の具体例としては、エチレン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸グラフト共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸プロピル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸ブチル−無水マレイン酸三元共重合体などのエチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体、プロピレン−無水マレイン酸グラフト共重合体、プロピレン−ブテン−無水マレイン酸グラフト共重合体、プロピレン−ブテン−エチレン−無水マレイン酸グラフト共重合体などがあげられる。
【0049】
中でも、無水物含有共重合体のイミド化により得られるポリオレフィン共重合体を用いて防縮剤となす場合において、繊維構造物における防縮性の向上効果をより向上させる観点から、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸プロピル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸ブチル−無水マレイン酸三元共重合体などのエチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体が好ましい。
【0050】
無水物含有共重合体としては、市販品も好適に使用することができる。例えば、アルケマ社製「ボンダイン」、「ロタダー」、「オレバック」、日本ポリエチレン社製「レクスパールET」、「アドテクス」、日油社製「モディパ」、三洋化成社製「ユーメックス」、三井化学社製「アドマー」、日本製紙ケミカル社製「アウローレン」などがあげられる。
【0051】
上記無水物含有共重合体と、式(III)で表されるアミノ化合物(以下、「アミノ化合物」と称することがある)とを、イミド化反応させることによってポリオレフィン共重合体Aが得られる。式(III)で表されるアミノ化合物は、式(I)で表される置換基を有する1級アミンである。
【0052】
N−(CHNR (III)
式(III)中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基であり、炭素数1〜2のアルキル基が好ましい。炭素数6以上の場合は、防縮性の向上効果が低下することがある。また、R、Rのどちらか一方又は両方が水素であると、ポリオレフィン共重合体の製造が困難となることがある。
【0053】
また、式(III)中、nは1〜5の整数であって、2〜4の整数が好ましく、2〜3の整数がより好ましい。nの範囲が上記を下回ると、取り扱い中に爆発する危険性が高まる傾向にある。一方、nの範囲が上記を上回ると、防縮性の向上効果が低下することがある。
【0054】
上述のような式(III)で表されるアミノ化合物は、分子内の1級アミンが無水物含有共重合体のカルボン酸無水物とイミド結合する。それにより、式(I)で表される置換基を有するN−置換不飽和カルボン酸イミドを生成することが可能となる。
【0055】
式(III)で表されるアミノ化合物としては、N,N−ジアルキルアミノアルキルアミンがあげられる。中でも、繊維基材との密着性や耐溶剤性などの観点から、N,N−ジメチルアミノエチルアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N,N−ジメチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノエチルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルアミン、N,N−ジエチルアミノブチルアミンなどが好ましく、N,N−ジメチルアミノプロピルアミンがより好ましい。
【0056】
イミド化反応の際の反応温度としては、50〜300℃が好ましく、70〜250℃がより好ましく、90〜200℃がさらに好ましく、100〜170℃が特に好ましい。反応温度が50℃未満になると、イミド化反応速度が過度に低下することがある。一方、300℃を超えると、それ以上のイミド化反応を促進させる効果が認められず、また、得られる共重合体が着色することがある。イミド化反応に要する時間は特に限定されず、例えば、30秒〜1時間が好ましく、1〜45分がより好ましい。なお、本発明におけるイミド化反応は反応性が高いため、反応を促進するための触媒の添加は通常必要としない。また、イミド化反応を速やかに進行させるために、好ましくはイミド化反応の際、無水物含有共重合体とアミノ化合物とを撹拌するなどの方法で混ぜ合わせる。
【0057】
さらに、本発明では、無水物含有共重合体とアミノ化合物とをイミド化反応させるとき、無水物含有共重合体中に含まれる全ての不飽和カルボン酸無水物単位をイミド化する必要はなく、目的に応じて一部の単位を残してもよい。不飽和カルボン酸無水物単位の一部をイミド化せずに残しておくことにより、不飽和カルボン酸単位を含有するポリオレフィン共重合体を得ることができる。このようなポリオレフィン共重合体を用いて防縮剤となせば、共重合体の繊維基材に対する付着性や、防縮性の効果がより優れるものとなる。なお、この場合、ポリオレフィン共重合体に含まれる不飽和カルボン酸単位の含有量は、イミド化反応において、アミノ化合物の添加量などを調整することにより制御できる。
【0058】
イミド化反応におけるアミノ化合物の添加量としては、無水物含有共重合体中の不飽和カルボン酸無水物単位のモル数に対して、通常、0.2〜10倍当量モル程度の範囲であればよい。含有する不飽和カルボン酸無水物単位のすべてをイミド化せずに、その一部を不飽和カルボン酸無水物単位して残す観点から、0.3〜2倍当量モルが好ましく、0.4〜1.5倍当量モルがより好ましく、0.4〜1倍当量モルがさらに好ましく、0.4〜0.9倍当量が特に好ましく、0.4〜0.8倍当量が最も好ましい。
【0059】
次にイミド化反応の具体的な方法について説明する。ただしこれらの方法に限定されるものではない。
【0060】
イミド化反応は、公知の装置、方法で行うことができる。例えば、無水物含有共重合体とアミノ化合物とを、反応容器内で加熱、撹拌する方法や、押出し機で連続的に加熱、撹拌する方法などがあげられる。
【0061】
無水物含有共重合体とアミノ化合物を反応容器内で加熱、撹拌する方法としては、撹拌翼と必要に応じて凝縮器を備えた反応容器を用いる方法があげられる。イミド化反応の際は反応容器が耐圧性であれば密閉してもよく、反応容器が耐圧性でなければ加熱によって発生した蒸気を、凝縮器を介して反応容器内に還流してもよい。原料たる無水物含有共重合体とアミノ化合物とは、反応前に一括して反応容器内に投入してもよいし、予め無水物含有共重合体だけを投入しておいて、加熱後、アミノ化合物を投入し、攪拌してもよい。撹拌翼の形状としては、特に限定されるものではない。また、撹拌速度も限定されるものではないが、通常200rpmを超えるような高速回転は必要としないため、200rpm以下が一般的である。また、攪拌は間欠であってもよい。そして、ポリオレフィン共重合体の酸化を抑えるために、反応容器内のガスを窒素ガスに置換してもよい。
【0062】
さらに、イミド化反応においては、均一性向上の観点から、無水物含有共重合体とアミノ化合物とを50〜300℃に加熱し、無水物含有共重合体を溶融させることが好ましい。また、無水物含有共重合体の溶融粘度が高く撹拌機の負荷が大きいときや、撹拌効率が悪いときは、溶媒を加えてもよい。該溶媒としては、撹拌効率を上げる点で無水物含有共重合体を溶解するようなものが好ましいが、水のように無水物含有共重合体に対して溶解性がないものであってもよい。だたし、溶媒として、不揮発性であるもの、高沸点のもの、及び原料の無水物含有共重合体やアミノ化合物と反応性のあるものは好ましくない。なお、溶媒の沸点は、後述の溶媒を除去する工程において、溶媒を除去しやすくするため、150℃以下が好ましい。上記の溶媒の好適な具体例としては、トルエンやキシレンなどがあげられる。溶媒の投入量は状況によって適宜選択すればよいが、原料たる樹脂の合計量100質量部に対して100質量部程度であれば攪拌効率を十分向上させることができる。
【0063】
このようにイミド化反応をした後は、反応容器内の未反応アミノ化合物や溶媒を除く工程を設けることが望ましい。未反応アミノ化合物や溶媒を除く方法としては、反応容器内を加熱撹拌し、必要に応じて減圧にして、発生した蒸気を、凝縮器を介して反応容器の外に留去する方法が好ましい。この際の反応容器内の温度は、アミノ化合物や溶媒の沸点より高めに設定することが好ましい。
【0064】
イミド化反応後、得られたポリオレフィン共重合体を反応容器より払いだす際は、取り扱いのし易い10mm以下のペレットとすることが好ましい。
【0065】
他方、押出し機を用いてイミド化反応を行うときは、無水物含有共重合体とアミノ化合物とを押出し機で連続的に加熱、撹拌することが好ましい。このような押出し機としては、ホッパーと液注入装置を備えた押出し機を用いることが好ましい。また押出し機は、2軸押出し機であることが好ましい。すなわち、樹脂の温度が50〜300℃になるように加熱された押出し機に、ホッパーより無水物含有共重合体を定量的に供給し、さらにバレル途中に設けられた液注ノズルからアミノ化合物を定量的に投入することで、イミド化反応できる。スクリューの回転速度は限定されず、通常20〜200rpmの範囲であればよい。このように押出し機内でイミド化反応をした後は、上述の反応容器を用いてイミド化反応を行うときと同様に、未反応アミノ化合物を除く工程を設けることが望ましい。未反応アミノ化合物を除く方法としては、押出し機のバレル後半に設けられたベントより押出し機内を減圧にして、発生した蒸気を、凝縮器を介して押出し機の外に留去する方法が好ましい。
【0066】
以上の様な方法で得られたポリオレフィン共重合体Aは、必要に応じてさらに未反応アミノ化合物を除く工程を設けてもよい。未反応アミノ化合物を除く方法としては、得られたポリオレフィン共重合体Aを加熱乾燥する方法、得られたポリオレフィン共重合体Aを加熱真空乾燥する方法、得られたポリオレフィン共重合体Aを抽出する方法などがあげられる。
【0067】
次に、ポリオレフィン共重合体Bの製造方法について説明する。ポリオレフィン共重合体Bは、上述のように、ポリオレフィン共重合体A中の式(I)で表される置換基の一部又は全てを前記四級化剤で四級化したものである。
【0068】
四級化剤の添加量としては、式(I)で表される置換基のモル数に対して、0.5〜5倍当量モルが好ましく、0.6〜2倍当量モルがより好ましく、0.8〜1.5倍当量モルがさらに好ましく、0.9〜1.0倍当量モルが特に好ましい。四級化剤の添加量が0.5倍当量モル未満の場合には、得られたポリオレフィン共重合体Bの水性分散化が困難となることがあり、一方、5倍当量モルを超える場合には、添加の効果が飽和することがある。
【0069】
当該置換基を四級化する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ポリオレフィン共重合体Aと四級化剤とを、反応容器内で加熱、撹拌する方法や、押出し機で連続的に加熱、撹拌する方法などがあげられる。四級化に好ましい反応温度としては、通常30〜200℃の範囲であり、好ましい反応時間は通常1分以上である。このような反応条件の下で、ポリオレフィン共重合体Aと、四級化剤とを混ぜ合わせることで、式(I)で表される置換基の一部又は全てを四級化し、式(II)で表される置換基を有するポリオレフィン共重合体Bを得ることができる。
【0070】
<水性分散体>
本発明の繊維用防縮剤は、上記ポリオレフィン共重合体が水性媒体中に分散された水性分散体であることが好ましい。
本発明に用いるポリオレフィン共重合体の水性分散体は、ポリオレフィン共重合体Aを水性媒体中に分散させた水性分散体M、ポリオレフィン共重合体Bを水性媒体中に分散させた水性分散体Nである。
【0071】
本発明における水性媒体とは、水、又は水と有機溶媒との混合液をいう。本発明においては、水性媒体を用いて分散体を得ているため、環境への影響、作業者や作業環境への安全性を向上させることができる。
【0072】
まず、本発明に用いられる水性分散体Mについて説明する。
【0073】
水性分散体Mには、酸が含有されていることが好ましい。つまり、水性分散体M中に含まれるポリオレフィン共重合体Aは、式(I)で表される置換基の一部又は全てが、酸で中和されていることが好ましい。置換基が酸で中和されることによってポリオレフィン共重合体にアミノカチオンが生成し、アミノカチオン間の電気反発力によってポリオレフィン共重合体が微粒子化され、かつ微粒子間の凝集が解れる。その結果、水性分散体に安定性が付与され、酸性域で安定な水性分散体となる。
【0074】
つまり、ポリオレフィン共重合体A中の不飽和カルボン酸無水物由来のN−置換イミド単位のN−置換基が、式(I´)で表される置換基となることで、ポリオレフィン共重合体Aが水性媒体中に分散し、水性分散体Mを得ることができる。
【0075】
水性分散体Mにおける酸の含有量としては、ポリオレフィン共重合体Aに含有される式(I´)で表される置換基のモル数に対して0.5〜5倍当量モルが好ましく、0.8〜3倍当量モルがより好ましく、1〜2.5倍当量モルがさらに好ましい。酸の含有量が0.5倍当量モル未満になると、水性分散体の形態を安定して保てないことがある。一方、5倍当量モルを超えると、水性分散体が着色したり、繊維基材に防縮剤を付着させた後の乾燥時間が長くなったりすることがある。
【0076】
中和に用いる酸としては、式(I)で表される置換基を中和することが可能なものであって、酸解離定数(pKa)が−9〜8であるものが好ましく、pKaが−9〜7であるものがより好ましく、pKaが−5〜6であるものがさらに好ましく、pKaが0〜5であるものが特に好ましい。酸解離定数(pKa)が8を超えると、置換基が中和されにくくなり、水性分散化することが困難となることがある。一方、酸解離定数が−9未満であると、水性分散体を得る際の作業性が困難となることがある。
【0077】
また、酸は揮発性であることが好ましい。具体的には、沸点が20〜250℃であることが好ましく、30〜200℃がより好ましく、50〜150℃がさらに好ましく、50〜120℃が特に好ましい。酸が不揮発性であると、後に繊維構造物表面に酸が残留し、防縮の効果が低下する場合がある。一方、酸の沸点が低すぎると水性分散化の際に揮発する割合が多くなり、所望の中和効率が得られないことがある。
【0078】
上記のような酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、乳酸、クエン酸などの有機酸;塩酸、硫酸、リン酸、硝酸などの無機酸があげられる。これらは単独で用いても2種類以上を併用しても構わない。中でも、置換基の中和に優れることから有機酸が好ましく、その中でもギ酸、酢酸がさらに好ましい。
【0079】
次に、本発明に用いられる水性分散体Nについて説明する。水性分散体Nは、ポリオレフィン共重合体Bが水性媒体中に分散したものである。ポリオレフィン共重合体Bでは、式(II)で表される置換基が四級化されていることで、既にアミノカチオンを有しているため、酸を含有しなくても、酸性域で安定な分散体となる。
【0080】
水性分散体M、Nを比べた場合、水性分散体Nは、四級化された置換基を有するポリオレフィン共重合体Bを用いているため、水性分散化が容易となり、製造し易い。しかしながら、水性分散体Nは、水性分散体Mより、得られる乾燥塗膜の耐水性に劣る傾向がある。よって、繊維用防縮剤として、繊維構造物に防縮性と撥水性とを付与する観点からは、ポリオレフィン共重合体Aが分散させた水性分散体Mのほうが好ましいといえる。
【0081】
以下、「水性分散体」とは、「水性分散体M」、「水性分散体N」を総称するものである。
【0082】
本発明における水性分散体では、ポリオレフィン共重合体の数平均粒子径が1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましく、90nm以下であることが最も好ましい。数平均粒子径が1000nmを超えると、水性分散体の保存安定性が低下したり、繊維基材に均一に防縮剤を付着させるのが困難となり、所望の防縮効果が得られない傾向にある。なお、数平均粒子径の測定方法は、実施例において詳述する。
【0083】
さらに、水性分散体中のポリオレフィン共重合体の体積平均粒子径としては、水性分散体の保存安定性や防縮性の観点から、1000nm以下であることが好ましく、中でも500nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、90nm以下であることが特に好ましい。なお、体積平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。
【0084】
粒子径の分布度(体積平均粒子径/数平均粒子径)としては、水性分散体の保存安定性や繊維基材に防縮剤を均一に付着させる観点から、1〜3が好ましく、1〜2.5がより好ましく、1〜2がさらに好ましい。粒子径の分布度が3を超えると、水性分散体の保存安定性が低下することがある。一方、粒子径の分布度が1未満であると、繊維基材に防縮剤を均一に付着させるのが困難となることがある。
【0085】
本発明に用いられる水性分散体のpHとしては、特に限定されないが、pH2〜6であることが好ましい。
【0086】
また、本発明に用いられる水性分散体は、不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有していないことが好ましい。不揮発性水性分散化助剤は、水性分散体から得られる塗膜に残存し、塗膜を可塑化したり親水化したりする。そのため、防縮の効果を悪化させる。
【0087】
ここで「不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しない」とは、不揮発性水性分散化助剤を積極的には系に添加しないことにより、ポリオレフィン共重合体成分100質量部に対して不揮発性水性分散化助剤の含有量が0.1質量部未満であることをいう。好ましくは、不揮発性水性分散化助剤の含有量が0質量部である。また、不揮発性とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは常圧で300℃以上の高沸点であることを指す。
【0088】
本発明において、不揮発性水性分散化助剤とは、水性分散化において、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される不揮発性の薬剤や化合物を指す。具体的には、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高アミノ変性化合物、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などがあげられる。
【0089】
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤があげられ、一般に乳化重合に用いられるものの他、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネートなどがあげられる。ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体などがあげられる。そして、カチオン性乳化剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩などの第四級アンモニウム塩類やアルキルアミン塩類などがあげられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイドなどがあげられる。
【0090】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高アミノ変性化合物、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、アミノ変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びその塩、アミノ基含有ポリエチレンワックス、アミノ基含有ポリプロピレンワックス、アミノ基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下のアミノ変性ポリオレフィンワックス類及びその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼインなど、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物があげられる。
【0091】
ポリオレフィン共重合体の水性分散体における水性媒体は、上述のように、水、又は水と有機溶媒との混合液を示すが、本発明では、ポリオレフィン共重合体の水性分散化において、分散化をより促進させる観点から、水性媒体として水と有機溶媒との混合液を用いることが好ましい。
【0092】
有機溶媒としては、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上であることが好ましく、100g/L以上であることがより好ましく、600g/L以上であることがさらに好ましい。このような有機溶媒を併用することで、不揮発性水性分散化助剤を実質的に添加しなくても、ポリオレフィン共重合体の水性媒体への分散化を促進し、ポリオレフィン共重合体の粒子径を小さくすることができる。
【0093】
有機溶媒の沸点としては、30〜250℃であることが好ましい。有機溶媒の沸点が30℃未満になると、水性分散化時に溶媒が揮発する割合が多くなり、分散化の効率が十分に向上しないことがある。一方、250℃を超えると、繊維構造物の表面に優位溶媒が残留し、防縮の効果が低下する傾向にある。
【0094】
20℃における水に対する溶解性が50g/L以上で、かつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルなどのエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチルなどがあげられる。なお、これら有機溶媒は、単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0095】
上記の中でも、水性分散化の促進効果が高く、しかも後述する方法で水性媒体中から有機溶媒を除去し易いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0096】
水性媒体中における有機溶剤の含有量としては、50質量%以下が好ましく、1〜40質量%であることがより好ましく、2〜35質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。有機溶剤の含有量が50質量%を超える場合には、水性分散化の促進効果が変らないかもしくは低下することがある。
【0097】
水性分散化の際に併用された上記のような有機溶媒は、水性分散化の後、水性分散体から除くことができる。例えば、ストリッピングと呼ばれる脱溶剤操作で、その一部を水性分散体から除くことができる。このようなストリッピングによって有機溶媒の含有量は必要に応じて0.1質量%以下まで低減することが可能である。有機溶媒の含有量が0.1質量%以下となっても、水性分散体の性能は影響を受けない。ストリッピングの方法としては、常圧又は減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶媒を留去する方法をあげることができる。また、水性媒体が留去されることにより、水性分散体中の樹脂固形分濃度が高くなるため、樹脂固形分濃度を後述する好ましい範囲に調整することが可能である。
【0098】
水性分散体中のポリオレフィン共重合体の固形分濃度としては、特に限定されないが、共重合体を繊維基材へ容易に付着させる観点から、好ましくは水性分散体の0.1〜60質量%の範囲とし、より好ましくは0.2〜20質量%の範囲とする。
【0099】
また、水性分散体の粘度としては、同じく共重合体を繊維基材へ容易に付着させる観点から、B型粘度計で20℃条件下にて測定したときの粘度として100000mPa・S以下が好ましく、1000mPa・Sがより好ましい。
<水性分散体の製造方法>
次に、本発明に用いられる水性分散体の製造方法について説明する。
【0100】
水性分散体Mを得るための製造方法は、ポリオレフィン共重合体Aと、水性媒体と、酸とを80〜250℃で攪拌するものである。具体的には、水性分散体Mを得る際には、密閉可能な容器中で、ポリオレフィン共重合体Aと水性媒体と、酸とを、80〜250℃で攪拌することにより、式(I´)で表される置換基を有するポリオレフィン共重合体Aを分散化させることができる。
【0101】
一方、水性分散体Nを得るための製造方法は、ポリオレフィン共重合体Bと、水性媒体とを80〜250℃で攪拌するものである。具体的には、水性分散体Nを得る際にも、密閉可能な容器中で、ポリオレフィン共重合体Bと、水性媒体とを80〜250℃で攪拌することにより、ポリオレフィン重合体Bを分散化することができる。
【0102】
このような密閉可能な容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入されたポリオレフィン共重合体や水性媒体や酸を、適度に攪拌できるものであればよい。そのような装置としては、固/液攪拌装置や乳化機を使用することができ、耐圧性であることがさらに好ましい。
【0103】
これらの水性分散体の製造方法において、攪拌の方法、攪拌の回転速度は特に限定されない。本発明においては、ポリオレフィン共重合体が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の攪拌でも、十分に水性化が達成されるため、高速攪拌(例えば、1000rpm以上の攪拌)は必須ではない。このため、簡便な装置でも水性分散体の製造が可能である。
【0104】
前記のような容器に、ポリオレフィン共重合体Aと水性媒体と酸を、又はポリオレフィン共重合体Bと水性媒体とを投入し、次いで、槽内の温度を80〜250℃、好ましくは90〜200℃、さらに好ましくは100〜190℃の温度に保ちつつ、5〜180分間攪拌を続けることによりポリオレフィン共重合体を十分に分散化させることができる。槽内の温度が80℃未満であると、ポリオレフィン共重合体の分散効果が乏しく、250℃を超えても水性分散化の効果はそれ以上向上しない場合がある。その後、例えば、攪拌下で40℃以下に冷却することにより、所望の水性分散体を得ることができる。
【0105】
このような方法によれば、不揮発性水性化助剤を実質的に添加しなくとも、ポリオレフィン共重合体を良好に水性分散体とすることができる。
【0106】
本発明に用いられるポリオレフィン共重合体は、水性分散化がきわめて良好であり、水性媒体中には未分散樹脂がほとんどまたは全く残存することがない。しかしながら、容器内の異物や少量の未分散樹脂を除くために、水性分散体を払い出す際は、濾過工程を設けてもよい。濾過方法は限定されないが、例えば、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(例えば、空気圧0.5MPa)する方法があげられる。このような濾過工程を設けることで、異物や未分散樹脂が存在した場合であっても除去することができ、水性分散体を以降の工程で、問題なく使用することができる。
【0107】
本発明の繊維用防縮剤は、上記ポリオレフィン共重合体の水性分散体からなるものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリオレフィン共重合体の水性分散体に各種の添加剤を加えてもよい。
【0108】
<添加剤>
添加剤としては、例えば、本発明に用いられるポリオレフィン共重合体以外の他の樹脂、架橋剤あるいは無機微粒子など、又はその水性分散体や水溶液などを、本発明のポリオレフィン共重合体の水性分散体に添加、混合することができる。
【0109】
上述したポリオレフィン共重合体以外の他の樹脂(以下、「他の樹脂」と称する場合がある)は、特に限定されない。例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、エチレン−アミノアクリルアミド共重合体、エチレン−アミノアクリレート共重合体、ポリ塩化ビリニデン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−アミノアルキルマレイミド共重合体、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン系エラストマー、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素含有樹脂、ポリエチレンイミン、UV硬化型樹脂などや、それらの水性分散体又はそれらの水溶液をあげることができる。これらは、単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、防縮性の観点から、ウレタン樹脂が好ましく、ウレタン樹脂水性分散体であることがより好ましい。
【0110】
本発明のポリオレフィン共重合体の水性分散体は、架橋剤を添加することで、より優れた防縮性を備えることが可能となる。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤;アミノ基、アクリル酸エステルやカルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する架橋剤;多価の配位座を有する金属錯体などを用いることができる。具体的には、ヒドラジド化合物、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤、有機過酸化物などがあげられ、これらの架橋剤は組み合わせて使用してもよい。
【0111】
中でも、本発明に用いられるポリオレフィン共重合体が構成成分として不飽和カルボン酸単位を含有している場合は、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する架橋剤との反応性などに優れるため、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する架橋剤がより好ましい。このような、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する架橋剤の好ましい具体例としては、ヒドラジド化合物やブロックイソシアネートがあげられる。ヒドラジド化合物としては、アジピン酸ジヒドラジドが好ましく。ブロックイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのポリイソシアネートに活性水素を有するブロック剤を付加させることによって得ることができるものであって、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生するものが好ましく、それらは水性分散体又は水溶液の形態のものが好ましい。
【0112】
架橋剤の添加量としては、架橋構造を十分に形成させる観点から、ポリオレフィン共重合体100質量部に対して架橋剤の固形分0.01〜300質量部の範囲が好ましく、0.1〜100質量部の範囲がより好ましく、0.2〜50質量部の範囲が特に好ましく、0.5〜30質量部の範囲がさらに好ましい。
【0113】
添加剤としての無機微粒子としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、などの金属微粒子や金属酸化物、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、雲母、タルク、擬ベーマイト、アルミナ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化イットリウムなどの無機粒子があげられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0114】
無機微粒子の平均粒子径としては、分散安定性の面から0.0005〜100μmが好ましく、0.005〜10μmがより好ましい。
【0115】
さらに、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、触媒、光触媒、UV硬化剤、濡れ剤、浸透剤、柔軟剤、撥水剤、帯電防止剤などの各種薬剤、顔料あるいは染料、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどを添加してもよい。また、必要であれば、発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の有機もしくは無機の化合物をポリオレフィン共重合体の水性分散体に添加することも可能である。
【0116】
上記のような他の樹脂、無機粒子、架橋剤、各種薬剤、顔料あるいは染料などの添加剤は単独で用いてもよいし、あるいは2種類以上、組み合わせて用いてもよい。
【0117】
このようにして得られた、ポリオレフィン共重合体の水性分散体は、繊維用防縮剤として好適に用いることができる。ここで繊維用防縮剤とは、繊維基材に防縮剤を付着させることにより、得られる繊維構造物の洗濯による縮みを抑える効果のあるもののことである。また、付着とは、繊維構造物の表面及び/又は内部の少なくとも一部に、繊維用防縮剤及び/又は繊維用防縮剤の乾燥物が固定化されている状態のことをいう。
【0118】
本発明の繊維構造物には、基本的にどのような種類の繊維が含まれていてもよいが、好ましくは天然繊維、再生繊維の少なくとも一方を含ませる。天然繊維としては、獣毛繊維、木綿、絹、麻などがあげられ、再生繊維としては、レーヨン、リヨセル、アセテート、キュプラなどがあげられる。これらの中でも、獣毛繊維が好ましい。獣毛繊維とは、羊、山羊、ラマ、アルパカその他の陸生の哺乳動物から採取された繊維このことであり、獣毛繊維の中でも、羊毛が最も好ましい。
【0119】
そして、繊維構造物に含まれる天然繊維、再生繊維以外の繊維としては、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタンなどがあげられる。本発明における繊維は、断面形状、太さは特に限定されない。
本発明の繊維構造物を得るには、まず、上記繊維からなる繊維基材を用意する。繊維基材とは、単繊維、スライバー、糸条、織物、編物、不織布など繊維を用いた有形物全般をいう。
【0120】
次に、繊維基材に上記繊維用防縮剤を付着させる。繊維用防縮剤としては、上記水性分散体をそのままの状態で用いてもよいし、目的に応じて、希釈、濃縮してもよい。また、上記添加剤、他の樹脂などを配合した後、用いてもよい。
【0121】
そして、加工方法としては、パットドライ法、浸漬法、スプレー法など従来公知の方法が採用できる。加工後は、繊維用防縮剤中の水性媒体を除くために乾燥処理工程を設けることが好ましい。また、防縮剤の付着に先立ち、必要に応じて、繊維基材表面をコロナ放電処理、プラズマ処理など各種表面処理しておいてもよい。
【0122】
防縮剤付着量としては、繊維構造物100g対し固形分換算で0.1〜10gであることが好ましく、0.2〜5gがより好ましく、0.3〜4gがさらに好ましく、0.4〜3gが特に好ましい。付着量が0.1g未満の場合は防縮の効果が十分でなく、10g以上の場合は繊維が硬くなり風合いも悪化する傾向にある。
【0123】
このように、繊維基材に繊維用防縮剤を付着させ、後に水性媒体を除去することにより繊維構造物を得ることができる。そして、本発明の繊維構造物は、防縮性に優れている。具体的に、本発明の繊維構造物の場合、JIS L0217の103法に準じた洗濯を30回行った後の寸法収縮率として、0〜−15%の範囲が好ましく、0〜−10%がより好ましく、0〜−7%がさらに好ましく、0〜−5%が特に好ましく、0〜−3%が最も好ましい。なお、寸法収縮率とは、洗濯によって生じた構造物の幅寸法の減少率を示し、負(−)の寸法変化として表される。
【実施例】
【0124】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0125】
各種の特性について、以下の方法で測定又は評価した。
【0126】
1.ポリオレフィン共重合体の特性
(1)ポリオレフィン共重合体の構成
H−NMR分析機(日本電子社製、「ECA500、500MHz」)を用いて求めた。テトラクロロエタン(d)を溶媒とし、120℃で測定した。
【0127】
(2)ポリオレフィン共重合体の酸価(不飽和カルボン酸の含有量)
溶媒としてアセトンを用いて、ポリオレフィン共重合体をソックスレイ抽出した後、乾燥した。該ポリオレフィン共重合体0.25gを、30mlのテトラヒドロフラン/トルエン/水の混合溶剤(質量比で20/4.8/0.2)に投入し、完全に溶解するまでホットスターラーで、液温80℃で加熱撹拌した。加熱攪拌の際に発生した蒸気は、ジムロートを介して還流させた。溶解後、液温を60〜70℃まで冷まし、指示薬(KOHで中和したクレゾールレッド0.1質量%水溶液)を1〜2滴滴下した。次いで、液温を60〜70℃に保った状態で撹拌しつつ、0.1モル/LのKOHメタノール溶液を滴下し、ポリオレフィン共重合体溶液の色調が紫色に変色し、かつその色調が20秒間変化しなくなった時点のKOHメタノール溶液の滴定量(mL)から、ポリオレフィン共重合体の酸価(mgKOH/g)を求めた。なお、ポリオレフィン共重合体を添加していない30mlのテトラヒドロフラン/トルエン/水の混合溶剤(質量比で20/4.8/0.2)を用いて、同様の操作をして得た値をブランクとした。測定はn=3で行い、測定値は3回の平均値とした。酸価は以下の式により求めた。
酸価(mgKOH/g)={[滴定量(mL)]−[ブランク滴定量(mL)]}×56.1×0.1×(0.1モル/LのKOHメタノール溶液の補正値)÷[0.25(mg)]
【0128】
(3)質量平均分子量測定
GPC装置(東ソー社製、「型式HLC−8020GPC」、カラム:TSK−GEL)を用い、40℃で質量平均分子量を測定した。溶離液として、テトラヒドロフランを用いた。TSK標準ポリスチレン換算より求めた。なお、テトラヒドロフランに溶解せず、質量平均分子量を測定できない場合は、下記(4)のメルトフローレート値を分子量の指標とした。
【0129】
(4)ポリオレフィン共重合体のメルトフローレート値(MFR)
JIS K7210:1999記載の方法(190℃、20.2N荷重)に従って測定した。
【0130】
2.水性分散体の特性
(1)水性分散体中のポリオレフィン共重合体の数平均粒子径
水性分散体の数平均粒子径(nm)をマイクロトラック粒度分布計(日機装株式会社製、「UPA150、MODEL No.9340」)を用い、動的光散乱法により求めた。粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
【0131】
3.繊維構造物の特性
(1)撥水性
JIS L1092 6.2(スプレー試験)に準じた撥水度試験により、次の5段階で評価した。
●:表面に湿潤や水滴の付着がないもの。
◎:表面に湿潤しないが、小さな水滴の付着を示すもの。
○:表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの。
△:表面の半分に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示すもの。
×:表面全体に湿潤を示すもの。
【0132】
(2)風合い
10人の専門検査員の手触りによる官能テストにより、次の3段階で評価した。
○:良好
△:普通
×:不良
【0133】
(3)防縮性
JIS L1909 7.1に準じてマーキングした繊維構造物を、JIS L0217 103法に準じた洗濯を30回繰り返した(洗剤は、JIS K3371に規定する第1種と、過炭酸ナトリウム含有漂白剤とを等質量部で混合したものを使用した)。30回洗濯後の繊維構造物の経方向と緯方向のマーキング間の長さを測定し、下記の計算式によって寸法収縮率を求めた。
寸法収縮率(%)=洗濯後のマーキング間の長さ/洗濯前のマーキング間の長さ×100−100
【0134】
原料に用いた樹脂について、以下に示す。
LT4700:アルケマ社製、「ロタダー4700」
HX8290:アルケマ社製、「ボンダインHX8290」
E−A−MAH1:英国特許2091745号明細書、米国特許4617366号明細書及び米国特許644044号明細書に記載された方法に従って、エチレン、アクリル酸エチル、及び無水マレイン酸を高圧ラジカル重合して製造した。
E−A−MAH2:前記E−A−MAH1と同様の方法で製造した。
E−A−MAH3:前記E−A−MAH1と同様の方法で製造した。
UM1001:三洋化成社製、「ユーメックス1001」
原料に用いた樹脂の特性を、表1にまとめて示す。
【0135】
【表1】

なお、表1中の略語は、以下のものを示す。
MAH:無水マレイン酸
EA:エチルアクリレート
【0136】
<ポリオレフィン共重合体の製造>
製造例1
温度計、撹拌機、液注器、ジムロートを備えた1リットルのセパラブルフラスコに、無水物含有共重合体(原料樹脂)として「LT4700」を250g、トルエンを500g仕込み、撹拌機を100prmで回転させた状態で、フラスコを170℃のオイルバスに投入した。数分後トルエンの沸騰が確認されたが、発生した蒸気はジムロートを介してフラスコ内に還流させた。さらに数分後、「LT4700」が完全に溶解したのを確認した後、アミノ化合物としてN,N−ジメチルアミノプロピルアミン〔HN−(CH−N(CH〕(以下、DMAPAとする)を、「LT4700」のカルボン酸無水物単位のモル数に対して2.0倍当量モル添加した。添加後のフラスコ内の温度は117℃であり、この状態を保持しイミド化反応を行った。30分後にジムロートの取り付け方向を換えて、さらに徐々に減圧し、フラスコ内のトルエンと未反応アミノ化合物を留去により除去した。フラスコ内からトルエンと未反応アミノ化合物の蒸気が発生しなくなるのを確認して、さらに10分間4kPa(abs)の減圧を保持したところで放圧し、撹拌機を止め、フラスコをオイルバスから取り出し、フラスコ内のポリオレフィン共重合体を得た。得られたポリオレフィン共重合体はポリオレフィン共重合体Aであり、以下<A−1>と称す。
【0137】
製造例2〜7
無水物含有共重合体(原料樹脂)の種類、アミノ化合物の添加量を、表2のポリオレフィン共重合体の製造に示したように変更した以外は、製造例1と同様の操作を行って、ポリオレフィン共重合体Aを得た。得られたポリオレフィン共重合体Aを<A−2>〜<A−7>と称す。
【0138】
製造例8
温度計、撹拌機、液注器、ジムロートを備えた0.5リットルのセパラブルフラスコに、製造例2で得られた<A−2>を150g、トルエンを100g仕込み、撹拌機を100prmで回転させた状態で、フラスコを150℃のオイルバスに投入した。数分後トルエンの沸騰が確認されたが、発生した蒸気はジムロートを介してフラスコ内に還流させた。さらに数分後、ポリオレフィン共重合体が完全に溶解したのを確認した。次いで、四級化剤として硫酸ジエチル(以下、DESとする)をポリオレフィン共重合体の含有する式(I)で表される置換基のモル数に対して1倍当量モル添加した。添加後のフラスコ内の温度は109℃であり、この状態を保持し四級化反応を行った。30分後にジムロートの取り付け方向を換えて、さらに徐々に減圧し、フラスコ内のトルエンと未反応DESを留去により除去した。フラスコ内から蒸気が発生しなくなるのを確認して、さらに10分間4kPa(abs)の減圧を保持したところで放圧し、撹拌機を止め、フラスコをオイルバスから取り出し、フラスコ内の四級化されたポリオレフィン共重合体Bを得た。得られたポリオレフィン共重合体Bを、以下<B−1>と称す。
【0139】
製造例1〜8で得られたポリオレフィン共重合体<A−1>〜<A−7><B−1>の特性を表2に示す。
【0140】
【表2】

なお、表2中の略語は、以下のものを示す。
DMAPA:ジメチルアミノプロピルアミン
DMAPMI:ジメチルアミノプロピルマレイミド
EA:エチルアクリレート
【0141】
実施例1
撹拌機及びヒーターを備えた密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、原料樹脂として製造例1で得た<A−1>を140g(20質量%)、酸としてギ酸をポリオレフィン共重合体中の式(I)で表される置換基のモル数に対して2.0倍当量モル、水性媒体中の有機溶媒としてn−プロパノールを245g(35質量%)、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込んだ。次いで、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体を得た。得られた水性分散体の種類は、正(プラス)の電荷を帯びたカチオン性ポリオレフィン共重合体の水性分散体であり、以下<E−1>と称す。以上は、水性分散体の製造工程である。
【0142】
以下は繊維処理工程である。まず、<E−1>の樹脂固形分濃度を4.0質量%になるよう30質量%イソプロパノール水溶液で希釈したものを繊維用防縮剤として、羊毛100%織物(目付246g/m)を繊維基材として用意し、次に繊維基材をパッドドライ法により処理(2ディップ2ニップ、ニップローラ圧力0.3MPa、乾燥条件150℃×2分間)して、繊維構造物を得た。繊維構造物100g中の繊維用防縮剤固形分は2.0gであった。
【0143】
実施例2〜6
水性分散化に使用する原料樹脂を、表3に示した原料樹脂を用いた以外は、実施例1の水性分散体の製造工程と同様の操作を行って、水性分散体<E−2>〜<E−6>を得た。
【0144】
次に、使用する繊維用防縮剤として表3に示す水性分散体を用いた以外は、実施例1の繊維処理工程と同様の操作を行って、繊維構造物を得た。
【0145】
実施例7
撹拌機及びヒーターを備えた、密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、原料樹脂として<B−1>140g(20質量%)、水性媒体中の有機溶媒としてn−プロパノールを175g(25質量%)、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込み、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したままし冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、正(プラス)の電荷を帯びたカチオン性ポリオレフィン共重合体の水性分散体<E−7>を得た。
【0146】
そして以降は、得られた<E−7>を繊維用防縮剤として使用した以外、実施例1と同様に行い、繊維構造物を得た。
【0147】
実施例8
樹脂固形分濃度が1.0質量%になるよう希釈する以外、実施例2と同様に行い、繊維構造物を得た。
【0148】
実施例9
実施例5における水性分散体に、架橋剤としてブロックイソシアネート化合物(明成化学工業社製、商品名メイカネートWEB、固形分濃度40質量%、以下WEBと示す)を、ポリオレフィン共重合体固形分100質量部に対してWEBの固形分が10質量部となるよう添加した後、固形分濃度が4.0質量%になるよう30質量%イソプロパノール水溶液で希釈した。以降は、得られた水性分散体を繊維用防縮剤として用いる以外、実施例5と同様に行い、繊維構造物を得た。
【0149】
実施例10
架橋剤として、アジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製、以下ADHと示す)を用い、架橋剤の添加量を、<E−5>のポリオレフィン共重合体固形分100質量部に対して2質量部となるようにした以外は、実施例9と同様の操作をおこなって、繊維用防縮剤が付着した繊維を得た。
【0150】
実施例11
繊維基材としてレーヨン織物(目付150g/m)を用いた以外は、実施例2と同様に行い、繊維構造物を得た。
【0151】
比較例1
実施例1から繊維処理工程を省いたもの、すなわち、繊維基材そのものを比較例1とした。
【0152】
比較例2
水性分散化に使用する原料樹脂として、製造例6で得た<A−6>を用いた以外は、実施例1の水性分散体の製造工程と同様の操作を行い、水性分散体<E−8>を得た。このとき、分散体中のポリオレフィン共重合体の数平均粒子径は22nmであった。
次に、得られた<E−8>を、樹脂固形分濃度が4.0質量%になるよう30質量%イソプロパノール水溶液で希釈し、以降は、得られた水性分散体を繊維用防縮剤として用いる以外、実施例1と同様に行い、繊維構造物を得た。
【0153】
比較例3
撹拌機及びヒーターを備えた、密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、原料樹脂として無水物含有共重合体「HX−8290」を140g(20質量%)、中和剤としてトリエチルアミンを「HX−8290」の無水マレイン酸単位のモル数に対して2.0倍当量モル、水性媒体中の有機溶媒としてn−プロパノールを140g(20質量%)、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込み、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体<E−9>を得た。<E−9>は、負(マイナス)の電荷を帯びたアニオン性ポリオレフィン共重合体の水性分散体であり、分散体中のポリオレフィン共重合体の数平均粒子径は71nmであった。
【0154】
次に、得られた<E−9>を、樹脂固形分濃度が4.0質量%になるように、30質量%イソプロパノール水溶液で希釈し、以降は、得られた水性分散体を繊維用防縮剤として用いる以外、実施例1と同様に行い、繊維構造物を得た。
【0155】
比較例4
カチオン性のウレタン樹脂水性分散体(DIC社製、商品名ハイドランCP−7050、固形分濃度25質量%、以下CP−7050と示す)の固形分濃度を4.0質量%になるよう30質量%イソプロパノール水溶液で希釈し、以降は、得られた水性分散体を繊維用防縮剤として用いる以外、実施例1と同様に行い、繊維構造物を得た。
【0156】
比較例5
アニオン性のウレタン樹脂水性分散体(第一工業製薬社製、商品名エラストロンBAP、固形分濃度30質量%、以下BAPと示す)の固形分濃度を4.0質量%になるように、30質量%イソプロパノール水溶液で希釈し、以降は、得られた水性分散体を繊維用防縮剤として用いる以外、実施例1と同様に行い、繊維構造物を得た。
【0157】
比較例6
実施例11から繊維処理工程を省いたもの、すなわち、繊維基材そのものを比較例6とした。
【0158】
実施例1〜11にかかる繊維構造物の評価結果を表3に、比較例1〜6にかかる繊維構造物の評価結果を表4に示した。
【0159】
【表3】

【0160】
【表4】

【0161】
実施例1〜11の結果より、特定構造のN−置換イミド単位を特定量含有するポリオレフィン共重合体を有効成分とする繊維用防縮剤を用いることで、繊維構造物に優れた防縮性を与えうることが確認できた。また、実施例9、10の結果より、架橋剤を併用することで防縮性を高めうる点が確認できた。
【0162】
実施例11の結果より、繊維基材として再生繊維たるレーヨンを用いても防縮効果があることが確認できた。
【0163】
これに対し、比較例2では、水性分散体の含有するポリオレフィン共重合体の不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が、本発明の規定する範囲を超えたため、所望の防縮効果、撥水性、風合いなどを得ることができなかった。
【0164】
比較例3では、本発明の繊維用防縮剤とタイプの異なる水性分散体を用いたため、所望の防縮効果が得られなかった。
【0165】
そして、比較例4、5では、一般に繊維用防縮剤として使用されるポリウレタン樹脂の水性分散体を用いたが、繊維構造物における防縮効果や撥水性、風合いなどは実施例の場合と比べ劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A、Bのポリオレフィン共重合体の少なくとも一方と、水性媒体とを含有することを特徴とする繊維用防縮剤。
ポリオレフィン共重合体A:オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が式(I)で表される置換基であるポリオレフィン共重合体
−(CH)nNR (I)
(式(I)中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、nは1〜5の整数を示す。)
ポリオレフィン共重合体B:オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が式(II)で表される置換基であるポリオレフィン共重合体
−(CH)nN・X (II)
(式(II)中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、Rは四級化反応により導入された四級化剤の残基、X−はアニオン性対イオン、nは1〜5の整数を示す。)
【請求項2】
ポリオレフィン共重合体の数平均粒子径が1000nm以下であることを特徴とする請求項1記載の繊維用防縮剤。
【請求項3】
ポリオレフィン共重合体が、不飽和カルボン酸単位を含有し、酸価が0.1〜50mgKOH/gであることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維用防縮剤。
【請求項4】
天然繊維、再生繊維の少なくとも一方を含む繊維構造物であって、繊維基材に請求項1〜3いずれかの繊維用防縮剤を付着させ、後に水性媒体を除去してなることを特徴とする繊維構造物。


【公開番号】特開2012−46851(P2012−46851A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191224(P2010−191224)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】