説明

繊維用集束剤

【課題】 チョップドストランド形状を保つことができ、マトリックス樹脂であるポリオレフィンと繊維の両方と親和性が高く、複合材料の曲げ強度が十分である繊維用集束剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 プロピレンを必須成分とした重合体であって、分子内にアミノ基を1個以上有するポリオレフィン樹脂(A)、およびガラス転移温度が−150〜25℃であるエラストマー(B)が水性媒体(C)中に溶解もしくは分散されていることを特徴とするオレフィン系熱可塑性樹脂強化用繊維の集束剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化樹脂用の繊維に使用される集束剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維およびスラッグ繊維などの高弾性繊維が、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化樹脂と組み合わされ、複合材料としてスポーツ、レジャー、航空宇宙分野等に広く利用されている。
しかし、これら熱硬化性樹脂は、硬化後の物性に優れるものの、硬化・脱型に数分から数時間を要するため生産性が低い。
【0003】
そこで近年、生産性向上のため、ポリオレフィン、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂をマトリックスとする複合材料が検討されている。特にポリオレフィンは比重が小さく、これら複合材料の特長である軽量化を最大限発揮できる樹脂として注目されている。しかしながら、ポリオレフィンは繊維との親和性に乏しいため、複合材料の強度が思うように向上しないという課題があった。
【0004】
このため、繊維表面に処理する集束剤にポリオレフィンと繊維との親和性を向上させる機能をもたせて、この課題を解決しようという提案がなされている。
例えば、特許文献1では酸で変性されたポリオレフィンが集束剤に用いられている。この方法は一定の効果はあるものの、繊維と集束剤との親和性が十分ではないため複合材料の曲げ強度は満足できるものではなかった。
また、特許文献2ではポリアリルアミンが集束剤として用いられている。しかしながらこの方法では、ポリアリルアミンとポリオレフィンとの親和性が乏しいため、複合材料の曲げ強度は不十分であった。
また、ポリオレフィンと混合するときの繊維の形態として、集束剤処理された繊維束を数mm〜数cmの長さに切断した、いわゆるチョップドストランドが用いられることが多いが、前記の特許文献1、2のいずれの方法も、集束剤そのものが脆いため、繊維束切断時の衝撃でチョップドストランドが割れてしまい、形状を保持できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−241623号公報
【特許文献2】特開平7−266462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、繊維との親和性が高く、複合材料の曲げ強度が十分であり、チョップドストランド形状を保つ繊維用集束剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、プロピレンを必須成分とした重合体であって、分子内にアミノ基を1個以上有するポリオレフィン樹脂(A)、およびガラス転移温度が−150〜25℃であるエラストマー(B)が水性媒体(C)中に溶解もしくは分散されていることを特徴とするオレフィン系熱可塑性樹脂強化用繊維の集束剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維用集束剤は、チョップドストランド形状を保つことができ、曲げ強度に優れた繊維強化樹脂を与えることができる。その結果、取り扱い時の問題なく、複合材料からなる成形品を軽量化することができるので経済性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のオレフィン系熱可塑性樹脂強化用の集束剤は、アミノ基を分子内に1個以上有するポリオレフィン樹脂(A)、ガラス転移温度が−150〜25℃であるエラストマー(B)および水性媒体(C)を含有し、その性状は水性溶液もしくは水性エマルジョン状である。そして、このポリオレフィン樹脂(A)はプロピレンを必須成分とした重合体である。
【0010】
プロピレンを必須成分とする重合体は、プロピレン単独の重合体でもかまわないが、プロピレン以外に共重合成分として、オレフィン(a1)、ジエン(a2)、ビニル化合物(a3)などの炭素―炭素二重結合を分子内に1個以上有するモノマーから選ばれる1種以上を用いることもできる。
【0011】
上記のオレフィン(a1)としては、炭素数2〜18のオレフィン、例えばエチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、などが挙げられる。
【0012】
上記のジエン(a2)としては、炭素数4〜10のジエン、例えばブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、などが挙げられる。
【0013】
上記のビニル化合物としては、炭素数3〜8の不飽和モノカルボン酸や炭素数8〜10の芳香族系ビニル化合物などが挙げられる。不飽和モノカルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)、芳香族系ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレンなどが挙げられる。
【0014】
これらの共重合モノマーとして好ましいものは、オレフィン(a1)、ジエン(a2)であり、さらに好ましいものは、エチレン、ブタジエンである。プロピレンとこれら共重合比は通常、プロピレン/共重合モノマー=40〜100/60〜0(mol%)である。好ましくは、50〜100/50〜0であり、さらに好ましくは70〜98/30〜2である。これら共重合はブロックでもランダムでもかまわない。
【0015】
本発明のポリオレフィン樹脂(A)は、アミノ基を分子内に1個以上有する。(A)は、プロピレンを必須成分とする(共)重合体を変性することにより得ることができる。
アミノ基の導入量は、アミン価(JIS K7237記載の方法)を測定することにより求められる。
【0016】
ポリオレフィン樹脂(A)のアミン価は通常、0.5〜500である。0.5未満であると、繊維との親和性が低くなり、500を超えると、マトリックス樹脂であるポリオレフィンとの親和性が低くなる。いずれも複合材料の曲げ強度が十分ではなくなる。アミン価として好ましくは、1〜450であり、さらに好ましくは5〜400である。
【0017】
プロピレンを必須成分とする(共)重合体に、アミノ基を導入する方法としては、
(1)プロピレンを必須成分とする(共)重合体を一旦、窒素などの不活性ガス下で300〜400℃で30分程度、熱減成処理する方法、
(2)プロピレンを必須成分とする(共)重合体を熱減成せずに直接アミノ基を導入する方法が挙げられる。
(3)(1)の熱減成処理で得られる重合体に不飽和ジカルボン酸類を反応させた酸変性ポリプロピレン系重合体を経由する方法
などがある。
なお、(1)の熱減成処理で得られる重合体としては、三洋化成工業株式会社製「ビスコール330−P」、「ビスコール440−P」、「ビスコール550−P」、「ビスコール660−P」、「ビスコール770−P」や、これらの二種以上の混合物を使用することができる。
また、(3)の酸変性ポリプロピレン系重合体としては、三洋化成工業株式会社製「ユーメックス1001」、「ユーメックス1010」、「ユーメックス100TS」、「ユーメックス110TS」や、これら二種以上の混合物を使用することができる。
【0018】
さらに、アミノ基を導入する方法について説明する。具体的には以下の方法などが挙げられる。
(1−1)熱減成プロピレン系重合体に活性ガス下、不飽和アミン(アリルアミン、アミノスチレンなど)を150〜250℃で1〜5時間反応させる方法
(1−2)熱減成プロピレン系重合体に不活性ガス下、アクリルアミドを150〜250℃で1〜5時間反応させ、アミド基を水素還元させる方法
(2−1)プロピレン系重合体に不活性ガス下、パーオキサイド存在下、不飽和アミンを150〜300℃で1〜5時間反応させる方法
(2−2)プロピレン系重合体に不活性ガス下、パーオキサイド存在下、アクリルアミドを150〜300℃で1〜5時間反応させ、アミド基を水素還元させる方法
(3−1)酸変性ポリプロピレン系重合体に不活性ガスをバブリングさせて多官能アミンを100〜200℃で1〜5時間反応させる方法
【0019】
これらのうち、好ましいものは、不純物を低減し構造を制御する観点から、(1−1)、(3−1)の方法が好ましい。さらに好ましいのは、(3−1)の方法である。
【0020】
酸変性ポリプロピレン系重合体と反応させる多官能アミンとしては、ポリアルキレンポリアミン(エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなど)、ポリアリルアミン(日東紡株式会社製 PAAシリーズなど)、ポリエチレンイミン(日本触媒株式会社製 エポミンシリーズなど)、ポリアルキレングリコールの末端アミノ基変性物(三洋化成工業株式会社製 ケミスタットY−400など)などが挙げられる。
これらのうち、好ましいものは、繊維との親和性の観点から、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリアルキレングリコールの末端アミノ基変性物が好ましい。
【0021】
本発明のポリオレフィン樹脂(A)の構成成分のうち、プロピレン系重合体、熱減成プロピレン系重合体、酸変性ポリプロピレン系重合体とアミンに由来する成分の重量比は通常、90/10〜10/90であり、好ましくは、70/30〜30/70である。アミンに由来する成分の重量比が10未満であると、繊維との親和性が低くなり、プロピレン系重合体、熱減成プロピレン系重合体、酸変性ポリプロピレン系重合体の重量比が10未満であるとマトリックス樹脂であるポリオレフィンとの親和性が低くなる。いずれも複合材料の曲げ強度が十分ではなくなる。
【0022】
(A)の数平均分子量(以下、Mnと略称することがある。)は通常、3,000〜300,000であり、好ましくは5,000〜100,000である。Mnが3,000未満であると、複合材料の曲げ強度が十分ではなくなる。また、Mnが300,000より大きいと繊維表面での集束剤皮膜が硬くなりすぎ、毛羽や糸切れが発生する。
なお、Mnはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で下記の条件で測定することができる。
【0023】
<Mnの測定方法>
(1)装置:Water製AllianceGPCV2000
(2)分離カラム:PLgel10μmMIXED−B
(3)測定温度:135℃
(4)キャリア:オルトジクロロベンゼン
(5)流量:1.0mL/分
(6)注入量:215μL
(7)検出器:示差屈折
(8)分子量標準:標準ポリスチレン
【0024】
ガラス転移温度が−150〜25℃であるエラストマー(B)は、集束剤処理した繊維束を切断した際、繊維が束の形状を保つ目的で用いられる。エラストマー(B)のガラス転移温度(Tg)は通常−150〜25℃であり、衝撃エネルギー吸収性の観点から、好ましくは−150〜0℃、更に好ましくは−150〜−20℃である。ガラス転移温度はJIS K7121(1987)記載のDSC法により測定することができる。
【0025】
エラストマー(B)としては、ウレタン樹脂エラストマー、共役ジエンエラストマー(ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ブタジエン/スチレン共重合体及びブタジエン/アクリロニトリル共重合体およびこれらの水添物等)並びにアクリル樹脂エラストマー(エチレン/プロピレンゴム及びアクリル酸アルキル等)等が挙げられる。これらは架橋されていてもかまわない。また、単独でも2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、繊維及びマトリックス樹脂との親和性の観点から、ウレタン樹脂エラストマー及び共役ジエンエラストマーが好ましい。
【0026】
ウレタン樹脂エラストマーとしては、ポリイソシアネート成分(b1)、ポリオール成分(b2)、及びその他の成分(b3)とから構成されるエラストマーが挙げられる。
ポリイソシアネート成分(b1)としては、2〜6個又はそれ以上(好ましくは2〜3個特に2個)のイソシアネート基を有する下記のポリイソシアネート及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
(b11)炭素数(イソシアネート基中の炭素を除く、以下同様)2〜18の脂肪族ポリイソシアネート:
エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、2,6−ジイソシアナトエチルカプロエート、
ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート及びビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート等のジイソシアネート;1,6,1 1−ウンデカントリイソシアネート、
1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート及びリジンエステルトリイソシアネート(例えばリジンとアルカノールアミンとの反応生成物のホスゲン化物、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート及び2−又は3−イソシアナトプロピル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート)等の3官能以上のポリイソシアネート;
【0027】
(b12)炭素数4〜15の脂環式ポリイソシアネート:
イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、 メチルシクロヘキシ
レンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキシレン−1,2−ジカルボキシレート及び2,5−又は2,6−ノルボルナンジイソシアネート等のジイソシアネート;ビシクロヘプタントリイソシアネート等の3官能以上のポリイソシアネート;
(b13)炭素数8〜15の芳香脂肪族ポリイソシアネート:
m−又はp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジエチルベンゼンジイソシアネート及びα,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等;
(b14)炭素数6〜20の芳香族ポリイソシアネート:
1,3−又は1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4, 4’−又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネー
ト(MDI)、m−及びp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン及び1,5−ナフチレンジイソシアネート等のジイソシアネート;粗製TDI及び粗製MDI(ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート)等の3官能以上のポリイソシアネート;
【0028】
(b15)ポリイソシアネートの変性体:
上記ポリイソシアネートの変性体、例えば、カルボジイミド、ウレタン、ウレア、イソシアヌレート、ウレトイミン、アロファネート、ビウレット、オキサゾリドン及び/又はウレトジオン基を有する変性体[MDI、TDI、HDI及びIPDI等のウレタン変性物(ポリオールと過剰のポリイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート末端ウレタンプレポリマー)、ビウレット変性物、イソシアヌレート変性物及びトリヒドロカルビルホスフェート変性物等]並びにこれらの混合物。
【0029】
これらのうちで好ましいものは、衝撃エネルギー吸収性の観点から、(b12)、(b13)及び(b14)であり、更に好ましくは、(b13)及び(b14)のうちのジイソシアネートである。
【0030】
ポリオール成分(b2)としては、Mnが400〜5,000の高分子ポリオール(b21)、Mn400未満の低分子ポリオール(b22)及びウレタン樹脂エラストマーを親水性にして乳化させやすくするための親水基含有低分子ポリオール(b23)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0031】
高分子ポリオール(b21)としては、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオール及びポリエーテルジオール並びにこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0032】
ポリカーボネートジオールとしては、通常の方法すなわちジオール成分(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジオール等の単独又は2種以上の混合物等)とエチレンカーボネートを反応させ脱エチレングリコール化による方法、あるいは上記ジオール成分とアリールカーボネート、例えばジフェニルカーボネートとのエステル交換による方法で得られるもの等が挙げられる。
【0033】
ポリカーボネートジオールの具体例としては、炭素数4〜10の直鎖状アルキレン基を有するポリカーボネートジオール(例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール及びノナンジオールのポリカーボネートジオール)、炭素数4〜10の分岐状アルキレン基を有するポリカーボネートジオール(例えば、ジオール成分が2−メチルブタンジオール、2−エチルブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチルペンタンジオール又は3−メチルペンタンジオールのポリカーボネートジオール)並びにこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0034】
ポリエステルジオールとしては、通常の方法すなわちジオール成分(前述と同様のもの)とジカルボン酸成分[脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等)等の単独又は2種以上の混合物等]とを反応(縮合)させることによる方法、あるいは、ラクトン(ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の単独又は2種以上の混合物等)を開環重合させることによる方法で得られるもの等が挙げられる。
【0035】
ポリエーテルジオールとしては、通常の方法すなわち先に例示したジオール成分等へのアルキレンオキサイド(以下、AOと略記)[エチレンオキサイド(以下、EOと略記)、プロピレンオキサイド(以下、POと略記)、1,2−、2,3−もしくは1,3−ブチレンオキサイド(以下BOと略記)、テトラヒドロフラン、スチレンオキサイド、α−オレフィンオキサイド、エピクロルヒドリン等の単独又は2種以上の混合物等]の付加を、無触媒で又は触媒(アルカリ触媒、アミン系触媒及び酸性触媒等)の存在下(とくにAO付加の後半の段階で)に常圧又は加圧下に1段階又は多段階で行なうことによる方法で得られるもの等が挙げられる。尚、AOを2種以上用いる場合の付加形態はブロックでもランダムでもよい。
【0036】
衝撃エネルギー吸収性の観点から、高分子ポリオール(b21)のうちで好ましいものは、ポリエーテルジオールであり、更に好ましくはEO、PO及びBOからなる群から選ばれる1種以上を用いたポリエーテルジオールである。(b21)の使用量は、(b2)の合計重量に基づいて通常40〜99%、好ましくは60〜95%である。前記及び以下において、特に限定しない限り、%は重量%を表す。
【0037】
低分子ポリオール(b22)としては、炭素数2〜15の多価アルコール類[2価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール及びジエチレングリコール);3価アルコール(例えばグリセリン及びトリメチロールプロパン);これらの多価アルコールのアルキレンオキサイド(EO及び/又はPO)低モル付加物(Mn400未満)等]が挙げられる。
(b22)の使用量は、(b2)の合計重量に基づいて通常10%以下、好ましくは8%以下である。
【0038】
ウレタン樹脂エラストマーを親水性にして乳化させやすくするための親水基含有低分子ポリオール(b23)としては、例えばカルボキシル基含有ジオール(2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸及び酒石酸等)が挙げられる。
これらのうちで好ましいものは2,2−ジメチロールプロピオン酸及び2,2−ジメチロールブタン酸である。(b23)の使用量は、(b2)の合計重量に基づいて通常1〜50%、好ましくは2〜20%である。
【0039】
(b3)としては、高分子ポリオール(b21)と共に使用される化合物(b31)、鎖伸長剤(b32)及び停止剤(b33)等が挙げられる。
【0040】
高分子ポリオール(b21)と共に使用される化合物(b31)としては、炭素数2〜10のジアミン類(例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、トルエンジアミン及びピペラジン)、ポリアルキレンポリアミン類(例えばジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミン)、ヒドラジンもしくはその誘導体(二塩基酸ジヒドラジド;例えばアジピン酸ジヒドラジド)、炭素数2〜10のアミノアルコール類(例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール及びトリエタノールアミン)、並びに前述の親水基含有低分子ポリオール(b22)と同様の効果を有するカルボキシル基含有モノアミン(グリシン、アラニン及びバリン等)、並びにカルボキシル基含有ジアミン(リジン及びアルギニン等)等が挙げられる。
(b31)の使用量は、(b1)のイソシアネート基の当量に基づいて通常0.2当量以下、好ましくは0.1当量以下である。
【0041】
鎖伸長剤(b32)としては(b31)で挙げた炭素数2〜10のジアミン類及び炭素
数2〜10のアミノアルコール類が挙げられる。
停止剤(b33)としては、炭素数1〜8のモノアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、セロソルブ類及びカルビトール類等)、炭素数1〜10のモノアミン類(モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、モノオクチルアミン等のモノもしくはジアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のモノもしくはジアルカノールアミン等)等が挙げられる。
(b32)及び(b33)の使用量の合計は、(b1)のイソシアネート基の当量に基づいて通常0.8当量以下、好ましくは0.6当量以下である。
【0042】
また、ウレタン樹脂エラストマーは、前述の親水基含有低分子ポリオール(b23)、又は(b23)と同様の効果を有する前述のカルボキシル基含有モノアミンもしくはカルボキシル基含有ジアミンを使用する場合は、それらの親水基(カルボキシル基等)を中和する塩基性化合物を含有していてもよい。
塩基性化合物としては、アミン類[例えばアンモニア、アルキルアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン及びジプロピルアミン等)、アルカノールアミン(トリエタノールアミン、ジエタノールアミン及びアミノエチルプロパノール等)及び脂環式アミン(モルホリン等)]並びにアルカリ金属(ナトリウム、カリウム、リチウム等)水酸化物等が挙げられる。これらの中で好ましいものは、乳化安定性の観点からアミン類であり、更に好ましくはアンモニア、トリエチルアミン及びアミノエチルプロパノールである。
【0043】
ウレタン樹脂エラストマーは公知の方法で製造できる。例えば、ワンショット法又は多段法で前記原料を用いてウレタン化反応させることにより得られる。ウレタン化の反応温度は通常30〜200℃、好ましくは50〜180℃である。反応時間は通常0.1〜30時間、好ましくは0.1〜8時間である。
【0044】
ウレタン化反応は、通常、無溶剤系又はポリイソシアネートに不活性な有機溶剤中で行われる。有機溶剤としてはアセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド、トルエン、ジオキサン及び酢酸エチルエステル等が挙げられる。
【0045】
ウレタン化反応において、ポリイソシアネート中のイソシアネート当量と、ポリオール成分(b2)等に含まれる活性水素基の当量の比(イソシアネート当量/活性水素基の当量)は、通常0.9〜3、好ましくは1.1〜2、特に好ましくは1.2〜1.6である。また、上記ウレタン化反応により得られるポリウレタン樹脂中のイソシアネート基含有量は、通常0〜10%、好ましくは0.5〜10%である。
【0046】
また、前述の親水基含有低分子ポリオール(b23)、又は(b23)と同様の効果を有する前述のカルボキシル基含有モノアミンもしくはカルボキシル基含有ジアミンを使用する場合は、これらのカルボキシル基を中和させた後、水中に分散させてもよい。この後、水及び/又は鎖伸長剤(b32)で鎖伸長することもできる。
【0047】
共役ジエン系エラストマーとしては、スチレン/ブタジエン共重合体およびこれらの水添物が好ましい。具体的には、SBRラテックス「ナルスターSR−113」(日本A&L社製)などが挙げられる。
【0048】
本発明の集束剤は、水性溶液状若しくは水性エマルジョン状であり、水性媒体(C)を含有する。水性媒体を含有することにより、繊維へのポリオレフィン樹脂(A)およびエラストマー(B)の付着量を適量に調整することが容易であるため、複合材料としたときの強度がさらに優れる。
本発明の水性媒体(C)としては、公知の水性媒体を用いることができ、例えば、水、親水性有機溶媒[炭素数1〜4の低級アルコール(メタノール、エタノール及び、イソプロパノール等)、炭素数3〜6のケトン(アセトン、エチルメチルケトン及び、メチルイソブチルケトン等)、炭素数2〜6のグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等)およびそのメチルもしくはエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、炭素数3〜5の酢酸アルキルエステル(酢酸メチル及び酢酸エチル等)等]が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
これらのうち、安全性等の観点から、水単独、並びに親水性有機溶媒と水の混合溶媒が好ましく、さらに好ましいのは水単独である。
【0049】
本発明の集束剤中のポリオレフィン樹脂(A)とエラストマー(B)の重量比率(A)/(B)は通常、10/90〜90/10である。(A)の比率が10より小さいと、マトリックス樹脂との親和性が低下するため、複合材料の曲げ強度が低下する。(B)の比率が30より小さいと、チョップドストランド形状を保つことができなくなる。
好ましくは、20/80〜70/30であり、さらに好ましくは、30/70〜60/40である。
【0050】
集束剤中の水性媒体(C)の割合集束剤中の水性媒体(C)の含有量は、通常30〜70重量%である。(C)の割合が30重量%未満では集束剤の経時安定性が低下し、保管などにより分離する。(C)の割合が70重量%を超えると、経時安定性の向上は得られず、輸送などのコストがかさみ、経済的に好ましくない。
【0051】
本発明の集束剤中には、(A)、(B)、(C)以外の成分として、必要に応じて乳化剤、平滑剤、防腐剤および酸化防止剤などを含有させてもよい。
乳化剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及び両性界面活性剤などの公知の界面活性剤(特開2006−124877号公報、WO2003/37964号公報記載のもの)等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0052】
平滑剤としては、ワックス類(ポリエチレン、ポリプロピレン、酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレン、変性ポリエチレン及び変性ポリプロピレン等)、高級脂肪酸アルキル(炭素数1〜24)エステル類(メチルステアレート、エチルステアレート、プロプルステアレート、ブチルステアレート、オクチルステアレート及びステアリルステアレート等)、高級脂肪酸(ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸等)、天然油脂(ヤシ油、牛脂、オリーブ油及びナタネ油等)及び流動パラフィン等が挙げられる。
【0053】
防腐剤としては、安息香酸類、サリチル酸類、ソルビン酸類及び第4級アンモニウム塩類イミダゾール類等が挙げられる。
【0054】
酸化防止剤としては、フェノール類(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール等)、チオジプロピオネート類(ジラウリル 3,3’−チオジプロピオネート等)及びホスファイト類(トリフェニルホスファイト等)等が挙げられる。
【0055】
本発明の集束剤は、水性溶液状若しくは水性エマルジョン状である。公知の混合装置を用いて50〜200℃の温度をかけて1〜20時間攪拌することにより本発明の集束剤を得ることができる。
【0056】
混合装置に制限はなく、撹拌羽根(羽根形状:カイ型及び三段パドル等)、ナウターミキサー、リボンミキサー、コニカルブレンダー、モルタルミキサー、万能混合機(万能混合攪拌機5DM−L、株式会社三英製作所製等)及びヘンシェルミキサー等が使用できる。これらの混合装置は、耐圧性を有していることが好ましい。
【0057】
本発明の集束剤を適用できる繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維およびスラッグ繊維が挙げられ、成形体強度の観点から、好ましくは炭素繊維である。これらの繊維は2種以上を併用してもよい。
【0058】
本発明の繊維束は、これらの繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の単繊維を、3,000〜3万本程度を束ねて、上記の集束剤で処理して得られる。
【0059】
繊維の処理方法としては、スプレー法又は浸漬法等が挙げられる。繊維上への(A)および(B)の付着量(重量%)は、繊維の重量に基づいて、0.05〜10が好ましく、更に好ましくは0.5〜5である。0.05より少ない場合は、繊維表面上を十分に覆うことができず、複合材料の曲げ強度が低下する。また、10より多い場合は、繊維表面上の集束剤層が厚くなりすぎ、複合材料の曲げ強度が低下する。
【0060】
本発明の短繊維束は、上記繊維束を切断することにより得られる。短繊維束の長さは通常、1〜100mmであり、好ましくは、3〜50mmであり、さらに好ましくは5〜30mmである。短繊維束の長さが1mmより短いと繊維による強度向上効果が少なくなり、複合材料の曲げ強度が低下する。また、100mmより長いとマトリックス樹脂と混練しにくくなり、作業性が低下する
【0061】
この短繊維束をマトリックス樹脂と150〜350℃で混練し、ペレット状などに成形して複合中間体を得ることができる。通常、この複合中間体をプレス成形や射出成形することにより、複合材料成形体が得られる。
【0062】
マトリックス樹脂と短繊維束との重量比(マトリックス樹脂/短繊維束)は、成形体強度等の観点から、90/10〜50/50が好ましく、さらに好ましくは80/20〜60/40である。
マトリックス樹脂/短繊維束の重量比が90/10より大きいと十分な複合効果が出ず、曲げ強度が向上しない。また、50/50よりも小さいと成形性が悪化する。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0064】
製造例1:繊維用集束剤製造用のポリオレフィン樹脂(A−1)の製造
Mn150,000のエチレン/プロピレン共重合体(モル比で78/22)を窒素通気下、360℃×30分間熱減成してMn29,000、炭素原子1,000個当たりの二重結合数0.5個のポリオレフィンを得た。
この熱減成ポリオレフィン98部を冷却管付き4ツ口ガラス反応装置に仕込み、窒素置換した後、窒素通気下に180℃まで加熱昇温し溶融させた。これに無水マレイン酸2部を加え、均一に混合した後、キシレン10部に溶解したジ−t−ブチルパーオキサイド0.3部を滴下し、180℃で3時間撹拌を続けた。その後、減圧下でキシレンを留去し、酸価11のエチレン/プロピレン共重合体の無水マレイン酸変性物を得た。
ここにMn約1,800のポリエチレンイミン(日本触媒(株)製「エポミンSP−018」)50部を仕込み、窒素流通下、190℃で2時間反応させ、アミノ基で変性された全アミン価390のポリオレフィン樹脂(A−1)150部を得た。
【0065】
製造例2:繊維用集束剤製造用のポリオレフィン樹脂(A−2)の製造
窒素導入管、温度計、排ガス流出管および攪拌棒を備えた1Lの4ツ口ガラス反応装置に無水マレイン酸変性された酸価26のポリプロピレン樹脂(三洋化成工業(株)製「ユーメックス1001」)100部とポリエチレングリコール(Mn4,000)の両末端アミノプロピルエーテル化物(三洋化成工業(株)製「ケミスタットY−400」)208部を仕込み、窒素流通下、190℃で2時間反応させ、1級アミノ基で変性された全アミン価7のポリオレフィン樹脂(A−2)300部を得た。
【0066】
製造例3:ウレタン樹脂エラストマー水分散体(B−1)の製造
ポリプロピレングリコール(三洋化成工業社製「ニューポールPP−2000」、Mn約2,000)200部、ジメチロールプロピオン酸25部、イソホロンジイソシアネート80部、ジブチルチンジラウレート0.2部を加え、90℃で7時間反応させた。ここにトリエチルアミン21部を加えて中和した。
このプレポリマーを660部の水中に25℃で攪拌下加え、さらにエチレンジアミン4.5部を加え、50℃で2時間反応させて、990部のウレタン樹脂エラストマーの33%水分散体(B−1)を得た。
(B−1)を100℃で2時間乾燥して水分を除去し、ウレタン樹脂エラストマー(B’−1)を得た。(B’−1)のガラス転移温度は−39℃であった。なお、ガラス転移温度の測定はセイコーインスツルメンツ社製「示差走査熱量計ModelRDC220」を用いて、JIS K7121(1987)記載のDSC法に従って測定した。
【0067】
製造例4:集束剤(X−1)の製造
攪拌機を備えた1Lの耐圧容器に製造例1で得たポリオレフィン樹脂(A−1)100部と水400部を仕込み、150℃で1時間攪拌し、分散させた。常温まで冷却し、1級アミノ基で変性されたポリオレフィン樹脂の20%水性分散体500部を得た。ここにウレタン樹脂エラストマー33%水分散体(B−1)160部を加えて、集束剤(X−1)660部(水以外の純分23%)を得た。
【0068】
製造例5:集束剤(X−2)の製造
(A−1)の代わりに(A−2)を使用した他は製造例4と同様にして集束剤(X−2)660部(水以外の純分23%)を得た。
【0069】
比較製造例1:集束剤(X’−1)の製造
攪拌機を備えた1Lの耐圧容器に、無水マレイン酸で変性された酸価26のポリプロピレン樹脂(三洋化成工業(株)製「ユーメックス1001」)(A’−1)97部と水酸化カリウム3部と水400部を仕込み、150℃で1時間攪拌し、分散させた。常温まで冷却し、無水マレイン酸で変性されたポリオレフィン樹脂の20%水性分散体である集束剤(X’−1)500部を得た。
【0070】
比較製造例2:集束剤(X’−2)の製造
攪拌機を備えた1Lの4ツ口ガラス反応装置に、ポリアリルアミン (日東紡績(株)製、「PAA HCl 10S」、分子量約80,000) (A’−2)を50部、水450部を仕込み、50℃で3時間攪拌し、1級アミンで変性されたポリオレフィン樹脂の10%水性溶液である集束剤(X’−2)500部を得た。
【0071】
ポリプロピレンとの相溶性、炭素繊維との親和性、複合材料の曲げ強度を下記に示した方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
<ポリプロピレンとの相溶性>
ポリプロピレン(サンアロマー(株)製「PM771M」)90部と製造例1で得たポリオレフィン樹脂7部と製造例3で得た(B’−1)3部を、ホットプレート上で220℃に加熱して溶融混合させ、広げた離型紙上に100μm厚みで流し入れ、冷却することによりシートを作成した。このシートの外観により、ポリプロピレンとの相溶性を判断した。製造例2で得た(A−2)も同様にして相溶性を判断した。比較製造例1で用いた「ユーメックス1001」(A’−1)または比較製造例2で用いた「PAA HCl 10S」(A’−2)については、ポリプロピレン(サンアロマー(株)製「PM771M」)90部と(A’−1)または(A’−2)10部とした他は同様にして相溶性を判断した。
○:相分離なし
×:相分離あり
【0074】
<集束剤処理した炭素繊維束の作成>
本発明の集束剤(X−1)、(X−2)、および比較製造例1、2で作成した比較のためのアミン価0でエラストマーを含まない集束剤(X’−1)と、アミン価980でエラストマーを含まない集束剤(X’−2)を用いて、これらの集束剤中の水以外の純分濃度が1.5重量%になるように水で希釈し、炭素繊維(繊度800tex、フィラメント数12000本)を浸漬して集束剤を含浸させた。これを、150℃で3分間熱風乾燥させて炭素繊維束を作成した。
【0075】
<炭素繊維との親和性の評価>
上記の方法で作成した炭素繊維束100gを、80℃に加熱したキシレン500ml中に30分間浸漬させた後取り出して、25℃のキシレン100mlで洗浄した。この操作を3回繰り返した。この繊維束を105℃で1時間乾燥させ、糸の重量を測定した。
炭素繊維との親和性は以下の式に基づき、炭素繊維表面に残存した集束剤の割合(%)として求めた。炭素繊維表面への集束剤残存率が高いほど炭素繊維との親和性が高い。
【0076】
炭素繊維との親和性(%)=(Wa−Wb)×100/Wa
但し、Wa:洗浄後の炭素繊維束の重量、Wb:洗浄前の炭素繊維束の重量
【0077】
<チョップドストランド形状の評価>
集束剤処理した炭素繊維束10部を長さ5mmに切断し、切断片の割れの発生有無を100個目視により測定した。割れが発生した個数が少ないほど取り扱い性が良い。
【0078】
<複合材料の曲げ強度の評価>
混練機(東洋精機製作所製 ラボプラストミル 4M150)を用いてポリプロピレン(サンアロマー(株)製 PM771M)40部とチョップドストランド10部を220℃で30分混練した。これを熱プレス機を用いて厚さ2mmのシート状に加工し、JIS K7017「繊維強化プラスチック−曲げ特性の求め方」に準じて曲げ強度を測定した。
【0079】
本発明のポリオレフィン樹脂(A−1)および(A−2)は、プロピレンを必須成分とした重合体であって、アミノ基を分子内に1個以上有するため、ポリプロピレン、炭素繊維の両方と親和性が高いため、複合材料の曲げ強度が高い。また、エラストマーを含有する集束剤は、チョップドストランドの割れが発生しにくく、取り扱い性が良い。一方、アミノ基を持たない(A’−1)やプロピレンを必須成分とした重合体ではない(A’−2)は、ポリプロピレンまたは炭素繊維いずれかとの親和性に劣るため、複合材料の曲げ強度が不十分である。また、エラストマーを含まない集束剤はチョップドストランドの割れが発生しやすく、取り扱い性が悪い。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の繊維用集束剤は、炭素繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維およびスラッグ繊維用の集束剤として利用できる。また、本発明の繊維用集束剤で処理して得られた繊維束を強化繊維とし、熱可塑性樹脂をマトリックスとして強度の高い複合材料を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンを必須成分とした重合体であって、分子内にアミノ基を1個以上有するポリオレフィン樹脂(A)、およびガラス転移温度が−150〜25℃であるエラストマー(B)が水性媒体(C)中に溶解もしくは分散されていることを特徴とするオレフィン系熱可塑性樹脂強化用繊維の集束剤。
【請求項2】
該ポリオレフィン樹脂(A)のアミン価が0.5〜500である請求項1記載の集束剤。
【請求項3】
該エラストマー(B)が、ウレタン樹脂エラストマーである請求項1または2記載の集束剤。
【請求項4】
炭素繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維およびスラッグ繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を、請求項1〜3いずれか記載の集束剤で処理して得られる繊維束。
【請求項5】
請求項4に記載の繊維束を切断して得られる短繊維束。
【請求項6】
請求項5に記載の繊維束とマトリックス樹脂から得られる複合中間体。

【公開番号】特開2011−214176(P2011−214176A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81441(P2010−81441)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】