説明

繊維積層体および繊維積層体の製造方法

【課題】
細繊維層の両主面を別の繊維層で補強してなる、従来技術に係る繊維積層体に対しプリーツ折りするなどして張力や応力を作用させて加工すると、加工後の繊維積層体の内部で細繊維層が破断することで、諸性能が低下することがあった。

【解決手段】
本発明によれば、細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも平均繊維径が大きな太繊維から構成された、第一太繊維層および第二太繊維層によって、細繊維層の両主面が補強されていると共に、ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて調製した繊維層から繊維積層体がなることで、細繊維層が破断し難い繊維積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性と取り扱い性に優れる、繊維積層体および繊維積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平均繊維径の細い繊維を用いることで、繊維表面積の広い繊維シートを調製できることが知られている。そのため前記繊維シートは、流体中から微粒子を濾別する性能、保液性、吸音性などに優れることが知られており、気体濾過フィルタや液体濾過フィルタ、セパレータなどの電気化学素子用材料、貼付剤用基材やプラスター剤用基材や人工皮膚などの医療用基材、芯地など衣料基材、壁材や壁紙などの建築用基材、吸音材や遮音材など、様々な産業資材用途に有用である。
【0003】
そして、前記繊維シートを用いた産業資材における諸性能の向上のために、より平均繊維径の細い繊維を用いて調製された繊維シートが求められている。
【0004】
このような前記繊維シートを調製する方法として、ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集することで繊維シートを調製できる、エレクトロスピニング法や、ポリマー溶液をノズルから吐出すると共にポリマー溶液の吐出方向に対して平行に気体流を作用させる方法(例えば、特許文献1)などが知られている。
【0005】
しかし、より平均繊維径の細い繊維を用いて調製された繊維シートは、そのままでは引張り強度など強度に劣ることから、わずかでも張力や応力を作用させると破断してしまい、産業資材用途として使用するために必要な、加工性と取り扱い性に劣るものであった。
【0006】
そこで、前記繊維シート(以降、細繊維層と称する)の両主面を別の繊維層で補強して、加工性と取り扱い性を向上した繊維積層体が検討されている。
【0007】
このような繊維積層体として、例えば特許文献2には、中間層(上述した細繊維層に相当)の両主面を、中間層を構成する細繊維よりも直径の大きな繊維からなる上層および下層で補強した、多層繊維構造体が記載されている。
【0008】
更に、特許文献2には、
1.中間層を介して、中間層の両主面に上層と下層を部分的に熱圧着することで、多層繊維構造体を調製すること、
2.上層と下層はスパンレース法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法、トウ開繊法、抄紙法、カーディング法、エアレイド法、フィラメント直交法などにより製造できること、
3.エレクトロスピニング法を用いて紡糸し、下層の主面に繊維を捕集することで、下層に中間層を積層できること、
が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-287138号公報(特許請求の範囲など)
【特許文献2】特開2010-89456号公報(特許請求の範囲、0018、0025、0030、0039-0045など)
【0010】
しかし、特許文献2に係る多層繊維構造体の記載のように、細繊維層を介して、細繊維層の両主面に上層と下層に相当する不織布を部分的に熱圧着することで繊維積層体を調製した場合、調製した繊維積層体をプリーツ折りするなどして張力や応力を作用させて加工すると、加工後の繊維積層体は流体中から微粒子を濾別する際の捕集効率が低下するなど、諸性能が低下することがあった。
【0011】
加工後の繊維積層体において諸特性の低下が生じる原因として、繊維積層体へ張力や応力を作用させた際に、繊維積層体の内部で細繊維層が破断しているためであると考えられた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、加工性と取り扱い性に優れ、加工後の繊維積層体における諸特性の低下を防ぐことのできる、繊維積層体および繊維積層体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、
「細繊維層の主面及びもう一方の主面に、前記細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも平均繊維径が大きな繊維から構成された太繊維層が積層してなる繊維積層体であって、
(a)第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて調製した第一太繊維層の一方の主面に、
第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して細繊維層を形成し、
更に、形成された前記細繊維層の主面に、第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して第二太繊維層を形成したものである、
あるいは、
(b)第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて調製した細繊維層の一方の主面に、
第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して第一太繊維層を形成し、
更に、前記細繊維層のもう一方の主面に、第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して第二太繊維層を形成したものである、
ことを特徴とする繊維積層体。」
である。
【0014】
請求項2に係る発明は、
「(a)第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて、第一太繊維層を調製する工程、
第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、前記第一太繊維層の一方の主面上に捕集して、前記第一太繊維層の主面上に、前記第一太繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも小さな平均繊維径を備える繊維から構成された細繊維層を調製する工程、
第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、前記細繊維層の主面上に捕集して、前記細繊維層の主面上に、前記細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも大きな平均繊維径を備える繊維から構成された第二太繊維層を調製する工程、
あるいは、
(b)第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて、細繊維層を調製する工程、
第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、前記細繊維層の一方の主面上に捕集して、前記細繊維層の一方の主面上に、前記細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも大きな平均繊維径を備える繊維から構成された第一太繊維層を調製する工程、
第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、前記細繊維層のもう一方の主面上に捕集して、前記細繊維層のもう一方の主面上に、前記細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも大きな平均繊維径を備える繊維から構成された第二太繊維層を調製する工程、
を備えることを特徴とする繊維積層体の製造方法。」
である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に係る繊維積層体は、「細繊維から構成された細繊維層の主面及びもう一方の主面に、前記細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも平均繊維径が大きな太繊維から構成された太繊維層が積層してなる繊維積層体」であるため、細繊維層の両主面が第一太繊維層および第二太繊維層により補強されてなる繊維積層体であると共に、「(a)第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて調製した第一太繊維層の一方の主面に、
第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して細繊維層を形成し、
更に、形成された前記細繊維層の主面に、第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して第二太繊維層を形成したものである、
あるいは、
(b)第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて調製した細繊維層の一方の主面に、
第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して第一太繊維層を形成し、
更に、前記細繊維層のもう一方の主面に、第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して第二太繊維層を形成したものである」と細繊維層が破断し難い繊維積層体であることを見出した。
【0016】
そのため、本発明の請求項1に係る繊維積層体は、加工性と取り扱い性に優れ、加工後の繊維積層体における諸特性の低下を防ぐことのできる、繊維積層体である。
【0017】
本発明の請求項2に係る繊維積層体の製造方法は、「(a)第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて、第一太繊維層を調製する工程、
第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、前記第一太繊維層の一方の主面上に捕集して、前記第一太繊維層の主面上に、前記第一太繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも小さな平均繊維径を備える繊維から構成された細繊維層を調製する工程、
第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、前記細繊維層の主面上に捕集して、前記細繊維層の主面上に、前記細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも大きな平均繊維径を備える繊維から構成された第二太繊維層を調製する工程、
あるいは、
(b)第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて、細繊維層を調製する工程、
第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、前記細繊維層の一方の主面上に捕集して、前記細繊維層の一方の主面上に、前記細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも大きな平均繊維径を備える繊維から構成された第一太繊維層を調製する工程、
第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、前記細繊維層のもう一方の主面上に捕集して、前記細繊維層のもう一方の主面上に、前記細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも大きな平均繊維径を備える繊維から構成された第二太繊維層を調製する工程」を備えていると、細繊維層の両主面が第一太繊維層および第二太繊維層により補強されてなると共に、細繊維層が破断し難い繊維積層体を製造できることを見出した。
【0018】
そのため、本発明の請求項2に係る繊維積層体の製造方法は、加工性と取り扱い性に優れ、加工後の繊維積層体における諸特性の低下を防ぐことのできる、繊維積層体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る繊維積層体を示す、模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る繊維積層体について、本発明に係る繊維積層体を示す、模式的側面図である、図1を用いて説明する。
【0021】
本発明に係る図1の繊維積層体(10)は、細繊維層(12)の一方の主面に、第一太繊維層(11)が積層しており、そして、細繊維層(12)におけるもう一方の主面に、第二太繊維層(13)が積層した態様をしている。
【0022】
細繊維層(12)と第一太繊維層(11)及び第二太繊維層(13)は各々、不織布であり、第一太繊維層(11)及び第二太繊維層(13)は、細繊維層(12)を構成する細繊維の平均繊維径よりも平均繊維径が太い繊維から構成されている。
【0023】
細繊維層(12)と第一太繊維層(11)及び第二太繊維層(13)は各々、後述するように、ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて調製した繊維の層であり、第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて調製した第一太繊維層(11)の一方の主面に、第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して細繊維層(12)を形成し、更に、調製された前記細繊維層(12)の主面に、第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して第二太繊維層(13)を形成してなる、あるいは、第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて調製した細繊維層(12)の一方の主面に、第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して第一太繊維層(11)を形成し、更に、前記細繊維層(12)のもう一方の主面に、第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して第二太繊維層(13)を形成してなる、繊維積層体(10)である。
【0024】
本発明に係る繊維積層体(10)は、上述の構成を備えてなる繊維積層体(10)であるため、細繊維層(12)が破断し難い繊維積層体(10)である。
【0025】
そのため、本発明に係る繊維積層体(10)は、加工性と取り扱い性に優れ、加工後の繊維積層体における諸特性の低下を防ぐことのできる、繊維積層体である。
【0026】
この理由は明らかになっていないが、細繊維層(12)を構成する細繊維と太繊維層(11、13)を構成する太繊維とが、溶媒によって湿潤した状態で接触することで各繊維同士の接触部分が一体化して、細繊維層(12)の両主面全体が第一太繊維層(11)及び第二太繊維層(13)によって均一に補強される結果、繊維積層体(10)に張力や応力を作用させて加工した場合であっても、細繊維層(12)が破断し難くなるためであると考えられる。
【0027】
なお、ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させてなる細繊維層(12)および太繊維層(11、13)には、完全に揮発することなく溶媒が残留していることで、細繊維層(12)を構成する細繊維と太繊維層(11、13)を構成する太繊維との接触部分が一体化し易いものであると考えられる。
【0028】
本発明に係る繊維積層体(10)について、以下に詳細を説明する。なお、第一太繊維層(11)と第二太繊維層(13)を総称して、以降、太繊維層(11,13)と称する場合もある。
【0029】
本発明でいう「平均繊維径」は、繊維層から無作為に選んだ50本の繊維の繊維径の算術平均値をいい、「繊維径」は繊維の電子顕微鏡写真を基に計測して得られる、繊維直径の値をいう。
【0030】
また、本発明でいう目付とは、不織布の面積1mあたりの質量をいう。
【0031】
本発明でいう細繊維層(12)とは、平均繊維径が1nm〜1μmの繊維から構成された不織布の層をいう。
【0032】
細繊維層(12)を構成する繊維の繊維径が小さければ小さいほど、繊維表面積が広い細繊維層(12)であることができ、その結果、産業資材用途に有用な繊維積層体(10)であるため好ましい。一方、細繊維層(12)を構成する繊維の繊維径が小さすぎると、流体中から微粒子を濾別する際の通気抵抗や圧力損失が上昇するなどして、産業資材用途に有用な繊維積層体(10)であることが、困難になるおそれがある。
【0033】
そのため、細繊維層(12)は、平均繊維径が10nm〜900nmの繊維から構成されているのが、より好ましく、平均繊維径が50nm〜400nmの繊維から構成されているのが、最も好ましい。
【0034】
細繊維層(12)の目付は、繊維積層体(10)の求められる諸物性によって適宜調整するのが好ましく、0.01g/m2〜10g/m2の範囲で調整することができる。
【0035】
本発明でいう太繊維層(11、13)とは、細繊維層(12)を構成する繊維の平均繊維径よりも平均繊維径が大きな繊維から構成された不織布の層であり、細繊維層(12)の主面及びもう一方の主面に形成されている。
【0036】
太繊維層(11、13)を構成する繊維の平均繊維径が、細繊維層(12)を構成する細繊維の平均繊維径よりも大きいことで、細繊維層(12)の両主面を、細繊維層(12)を構成する細繊維の平均繊維径よりも平均繊維径が太い繊維の層で補強することができ、その結果、繊維積層体(10)に張力や応力を作用させて加工した場合であっても、細繊維層(12)に破断が生じるのを防ぐことができる。
【0037】
太繊維層(11、13)を構成する繊維の平均繊維径の上限は、特に限定すべきものではないが、太繊維層(11、13)を構成する繊維の平均繊維径が大きすぎると、流体中から微粒子を濾別する際の捕集効率が低下したり、保液性が劣るなど、諸特性が低下し、産業資材用途に有用な繊維積層体(10)であることが、困難になるおそれがある。
【0038】
そのため、太繊維層(11、13)は、平均繊維径が100μm以下の繊維から構成されているのが好ましく、平均繊維径が50μm以下の繊維から構成されているのが好ましく、平均繊維径が10μm以下の繊維から構成されているのが最も好ましい。
【0039】
また、太繊維層(11、13)を構成する繊維における平均繊維径の下限は、細繊維層(12)を構成する繊維の平均繊維径よりも大きければ良く、その値は限定されるものではない。太繊維層(11、13)を構成する繊維は、細繊維層(12)を構成する繊維の平均繊維径よりも、10nm以上大きい平均繊維径を備えるのが好ましく、100nm以上大きい平均繊維径を備えるのがより好ましく、200nm以上大きい平均繊維径を備えるのが更に好ましく、300nm以上大きい平均繊維径を備えるのが更に好ましい。
【0040】
なお、第一太繊維層(11)と第二太繊維層(13)は、互いに同一の平均繊維径を備える太繊維から構成されていても、互いに異なる平均繊維径を備える太繊維から構成されていても良い。
【0041】
また、太繊維層(11、13)の目付は、繊維積層体(10)の求められる諸物性によって適宜調整するのが好ましく、0.01g/m2〜10g/m2の範囲で調整することができる。第一太繊維層(11)と第二太繊維層(13)は、互いに同一の目付を備えていても、互いに異なる目付を備えていても良い。
【0042】
第一太繊維層(11)と第二太繊維層(13)を構成する繊維の、平均繊維径及び/又は目付が互いに同一であると、細繊維層(12)が更に破断し難い繊維積層体(10)である傾向があり好ましい。
【0043】
この理由は明らかになっていないが、細繊維層(12)の両主面において、細繊維層(12)を構成する細繊維と太繊維層(11,13)を構成する太繊維との一体化している態様が同一となり、繊維積層体(10)に張力や応力を作用させて加工した場合であっても、繊維積層体(10)へ張力や応力が均等に分散して作用することで、細繊維層(12)の一部分に張力や応力が集中するのを防ぐことができるためだと考えられる。
【0044】
本発明でいうポリマー溶液とは、溶媒にポリマーを溶解したものをいう。
【0045】
本発明で使用できるポリマーとして、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基又はフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニル又は塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機ポリマー、あるいは、金属アルコキシド(ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ホウ素、スズ、亜鉛などのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシドなど)が重合したゾルあるいはゲル化合物などを挙げることができる。
【0046】
なお、これらのポリマーは、直鎖状ポリマー又は分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、またポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、またポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも良く、特に限定されるものではない。
【0047】
なお、これら例示以外のポリマーも使用可能であり、例示以外のポリマーも含め、2種以上のポリマーを混ぜ合わせたものを使用することもできる。
【0048】
本発明で使用できる溶媒は、使用する樹脂や紡糸条件によっても変化するため、特に限定されるものではないが、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。
【0049】
なお、これら例示以外の溶媒も使用可能であり、例示以外の溶媒も含め、2種以上の溶媒を混合した混合溶媒を使用することもできる。
【0050】
ポリマー溶液の粘度は使用するポリマーの組成、ポリマーの分子量、溶媒の組成、溶媒に対するポリマー濃度等によって変化するため特に限定されるものではないが、紡糸性の点から、粘度が10-6000mPa・sの範囲となるような濃度であるのが好ましく、20-5000mPa・sの範囲となるような濃度であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、ポリマー溶液の粘度が低すぎて紡糸しにくい傾向があり、粘度が6000mPa・sよりも大きいと、粘度が高すぎて紡糸しにくい傾向がある。
【0051】
なお、この「粘度」は粘度測定装置を用い、温度25℃で測定したシェアレート100s−1時の値をいう。
【0052】
ポリマー溶液の粘度を調整するため、ポリマー溶液に粘度調整剤や、ポリマーが酸化あるいは光により変性しないように、ポリマー溶液に酸化防止剤、光安定剤、或いはポリマー溶液の繊維化を補助する塩などを添加しても良い。
【0053】
このポリマー溶液の繊維化を補助する塩として、無機塩や有機塩を使用できる。塩の種類は特に限定されるものではないが、無機塩として、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、炭酸ナトリウム、硫酸銅、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸マグネシウム、硝酸水酸化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、リン酸アルミニウムおよびリン酸アンモニウムなど、無機酸から誘導される無機塩を使用することができる。また、有機塩として、例えば、ギ酸カリウム、ギ酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、ステアリン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸アンモニウム、フタル酸カリウム、フタル酸アンモニウム、イソフタル酸アンモニウム、テレフタル酸アンモニウム、クエン酸カリウム、クエン酸アンモニウム、ヒドロキシ安息香酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、メタンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸アンモニウム、ベンゼンスルホン酸アンモニウム、トシル酸アンモニウムおよびトシル酸ナトリウムなど、有機酸から誘導される有機塩を使用することができる。なお、これら例示以外の塩も使用可能であり、例示以外の塩も含め、2種以上の塩をポリマー溶液に添加することもできる。そして、ポリマー溶液に添加する塩の濃度は、適宜調整する。
【0054】
なお、炭素繊維から構成される繊維積層体を燃料電池用電極として使用する場合、炭化可能な繊維からなる繊維積層体を焼成することで炭素繊維から構成される繊維積層体を調製することができるが、カチオン種がアンモニウムイオンである塩を添加したポリマー溶液を用いることで、炭素繊維の強度を低下させることなく、炭素繊維からなる繊維積層体を調製することができるため好適である。より具体的には、安息香酸アンモニウムや酢酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、トシル酸アンモニウムなどをポリマー溶液に添加するのが好ましい。
【0055】
本発明では、第一太繊維層(11)を調製するために使用するポリマー溶液を第一ポリマー溶液、細繊維層(12)を調製するために使用するポリマー溶液を第二ポリマー溶液、第二太繊維層(11)を調製するために使用するポリマー溶液を第三ポリマー溶液と称する。
【0056】
細繊維層(12)を調製可能な第二ポリマー溶液の組成と、太繊維層(11、13)を調製可能な第一ポリマー溶液又は第三ポリマー溶液の組成とは、同一でも、互いに異なっていてもよく、ポリマー溶液におけるポリマーの種類、ポリマー溶液におけるポリマー濃度、ポリマーを溶解する溶媒の種類など、各々のポリマー溶液は、適宜調整することができる。
【0057】
第一ポリマー溶液と第二ポリマー溶液と第三ポリマー溶液を構成する溶媒の種類がいずれも同じである、又は、第二ポリマー溶液と第一ポリマー溶液、あるいは第二ポリマー溶液と第三ポリマー溶液を構成する溶媒の種類が同一であると、細繊維層(12)が更に破断し難い繊維積層体(10)である傾向があり好ましい。
【0058】
この理由は明らかになっていないが、同一の溶媒を用いて調製されたポリマー溶液を用いて細繊維層(12)と第一太繊維層(11)及び/又は第二太繊維層(13)を調製すると、細繊維層(12)を構成する繊維と第一太繊維層(11)を構成する繊維及び/又は第二太繊維層(13)を構成する繊維とが、交点で更に一体化し易くなり、細繊維層(12)が第一太繊維層(11)及び/又は第二太繊維層(13)によって効果的に補強されるためだと考えられる。
【0059】
上述のポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて細繊維層(12)及び太繊維層(11,13)を調製する。
【0060】
細繊維層(12)と第一太繊維層(11)及び/又は第二太繊維層(13)を調製可能な紡糸方法として、ポリマー溶液を静電紡糸法へ供する方法、ポリマー溶液をノズルや非加熱状態のメルトブローダイなどポリマー溶液の吐出部から吐出すると共にポリマー溶液の吐出方向に対して角度を付けて気体流を作用させる方法、ポリマー溶液をノズルなどから吐出すると共にポリマー溶液の吐出方向に対して平行に気体流を作用させる方法(例えば、特許文献1)などを採用することができる。
【0061】
なお、ポリマー溶液の吐出部を固定した状態でポリマー溶液を吐出しても、ポリマー溶液の吐出部をエンドレス移動させながらポリマー溶液を吐出してもよい。
【0062】
また、吐出部は1箇所である必要はなく、2箇所以上であることができ、2箇所以上であることによって、生産性良く、繊維層(12、13、14)を形成することができる。
【0063】
なお、細繊維層(12)と第一太繊維層(11)及び/又は第二太繊維層(13)の各々は、互いに同一の紡糸方法によって調製されていても、互いに異なる紡糸方法によって調製されていても良いが、いずれの繊維層も同一の紡糸方法によって調製されていると、細繊維層(12)が更に破断し難い繊維積層体(10)である傾向があり好ましい。
【0064】
この理由は明らかになっていないが、細繊維層(12)と第一太繊維層(11)及び/又は第二太繊維層(13)の各々が、互いに同一の紡糸方法によって調製されていると、細繊維層(12)を構成する繊維と第一太繊維層(11)を構成する繊維及び/又は第二太繊維層(13)を構成する繊維とが、交点で更に一体化し易くなり、細繊維層(12)が第一太繊維層(11)及び/又は第二太繊維層(13)によって効果的に補強されるためだと考えられる。
【0065】
本発明に係る繊維積層体(10)は、例えば、以下に説明する製造方法によって調製することができる。
【0066】
第一の製造方法:まず、第一ポリマー溶液を調製すると共に、第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、捕集体へ捕集することで第一太繊維層(11)を調製する。
次いで、第二ポリマー溶液を調製すると共に、調製した第一太繊維層(11)の一方の主面に、第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集することで細繊維層(12)を調製する。
更に、第三ポリマー溶液を調製すると共に、第一太繊維層(11)の一方の主面に捕集した細繊維層(12)の主面に、第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集することで第二太繊維層(13)を調製することで、本発明に係る繊維積層体(10)を調製する。
【0067】
第二の製造方法:まず、第二ポリマー溶液を調製すると共に、第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、捕集体へ捕集することで細繊維層(12)を調製する。
次いで、第一ポリマー溶液を調製すると共に、調製した細繊維層(12)の一方の主面に、第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集することで第一太繊維層(11)を形成する。
このようにして調製した第一太繊維層(11)と細繊維層(12)との積層構造体を反転した後、更に、第三ポリマー溶液を調製すると共に、反転したことで露出した細繊維層(12)のもう一方の主面に、第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集することで第二太繊維層(13)を形成して、本発明に係る繊維積層体(10)を調製する。
【0068】
第三の製造方法:まず、第二ポリマー溶液を調製すると共に、第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、捕集体へ捕集することで細繊維層(12)を調製する。
このようにして調製した細繊維層(12)を捕集体から剥離した後、次いで、第一ポリマー溶液を調製すると共に、調製した細繊維層(12)の一方の主面に、第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集することで第一太繊維層(11)を形成し、それと同時に、第三ポリマー溶液を調製すると共に、調製した細繊維層(12)のもう一方の主面に、第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集することで第ニ太繊維層(13)を形成して、本発明に係る繊維積層体(10)を調製する。
【0069】
なお、捕集体として、エンドレス回転運動可能なベルトコンベア、メッシュなど多孔板、平板、ローラなどを使用することができる。捕集体として、ローラやエンドレス回転可能なベルトコンベアを用いると、連続長を有する繊維積層体(10)を製造できるため、好ましい。
【0070】
繊維積層体(10)から残留する溶媒を除去するため、調製された繊維積層体(10)を加熱処理してもよい。加熱処理に使用できる装置は、例えば、キャンドライヤやカレンダなどの加熱ローラ、熱風ドライヤ、熱風乾燥機、電気炉、ヒートプレートなど、公知の装置を挙げられる。また、加熱処理における温度条件は適宜調整する。また、繊維積層体(10)に対して、帯電処理、親水化処理(例えば、グラフト重合処理、フッ素ガス処理、プラズマ処理、スルフォン化処理など)などの後加工を実施することもできる。
【0071】
本発明に係る繊維積層体(10)の、上側主面(図1における、繊維積層体(10)の紙面上方向の主面)及び/又は下側主面(図1における、繊維積層体(10)の紙面下方向の主面)には、不織布、織物、編み物などの布帛、発泡体、パンチングメタルや多孔フィルムなど多孔体を、1層以上積層しても良い。
【0072】
繊維積層体(10)とこれら多孔体との積層態様や層間の接着態様、多孔体の目付や平均繊維径は、適宜調整することができる。
【0073】
また、繊維積層体(10)の上側主面及び/又は下側主面に、例えば、酸化鉄、SiO(シリカ)、Al(アルミナ)、アルミナ−シリカ複合酸化物、TiO、SnO、BaTiO、ZrO、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイトなどの粘土;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質又はそれらの人造物などから選ばれる1以上の無機化合物の粒子、あるいは、活性炭やチャコールブラック、色素、難燃剤、脱臭剤などの有機化合物の粒子などを担持してもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0075】
(ポリマー溶液の調製方法)
ポリマー溶液A:重量平均分子量30万の共重合ポリアクリロニトリル(三菱レイヨン製、登録商標:ボンネルH400)を、ポリマー溶液の質量におけるポリマー濃度が16質量%となるように、N,N−ジメチルホルムアミドに溶解して調製した。
ポリマー溶液B:重量平均分子量20万の共重合ポリアクリロニトリル(三菱レイヨン製、登録商標:ボンネルD122)を、ポリマー溶液の質量におけるポリマー濃度が11質量%となるように、N,N−ジメチルホルムアミドに溶解して調製した。
ポリマー溶液C:重量平均分子量20万の共重合ポリアクリロニトリル(三菱レイヨン製、登録商標:ボンネルD122)を、ポリマー溶液の質量におけるポリマー濃度が16質量%となるように、N,N−ジメチルホルムアミドに溶解して調製した。
【0076】
(紡糸装置の準備)
高電圧電源とポリマー溶液を吐出可能な金属製のノズル(直径0.38mm)を接続して、ノズルを帯電可能な態様で設置すると共に、ノズルと対向するように9cm離間して、アースした金属板を設けた。
【0077】
(実施例1)
(第一太繊維層の調製)
ノズルに17kvの電圧を印加することで、ノズルと金属板との間に電界を形成した。
電界の作用によってポリマー溶液Aをノズルから3cm3/hの吐出量で吐出させると共に、ポリマー溶液Aから溶媒を揮発させて繊維化させると共に、金属板の主面上に捕集することで、金属板の主面上に第一太繊維層を調製した。
なお、調製された第一太繊維層を構成する太繊維の平均繊維径は、600nmであった。また、ノズルから吐出されたポリマー溶液Aの体積から算出した、第一太繊維層の目付は、0.68g/m2であった。

(細繊維層の調製)
ポリマー溶液Aの代わりに、ポリマー溶液Bを用いたこと以外は、(実施例1)-(第一太繊維層の調製)の項で説明したのと同様にして、ポリマー溶液Bから溶媒を揮発させて繊維化させると共に、金属板の主面上に捕集された第一太繊維層の主面に捕集して、第一太繊維層の主面に細繊維層を調製した。
なお、調製された細繊維層を構成する細繊維の平均繊維径は、200nmであった。また、ノズルから吐出されたポリマー溶液Bの体積から算出した、細繊維層の目付は、0.23g/m2であった。

(第二太繊維層の調製)
(実施例1)-(第一太繊維層の調製)の項で説明したのと同様にして、ポリマー溶液Aから溶媒を揮発させて繊維化させると共に、細繊維層の主面に捕集して、細繊維層の主面に第二太繊維層を調製することで、繊維積層体を調製した。
なお、調製された第二太繊維層を構成する太繊維の平均繊維径は、600nmであった。また、ノズルから吐出されたポリマー溶液Aの体積から算出した、第二太繊維層の目付は、0.68g/m2であった。
【0078】
(実施例2)
(第一太繊維層の調製)
ポリマー溶液Cをノズルから3cm3/hの吐出量で吐出させたこと以外は、(実施例1)-(第一太繊維層の調製)の項と同様にして、ポリマー溶液Cから溶媒を揮発させて繊維化させると共に、金属板の主面上に捕集することで、金属板の主面上に第一太繊維層を調製した。
なお、調製された第一太繊維層を構成する太繊維の平均繊維径は、400nmであった。また、ノズルから吐出されたポリマー溶Cの体積から算出した、第一太繊維層の目付は、0.51g/m2であった。

(細繊維層の調製)
ノズルから吐出される、ポリマー溶液Bの吐出時間を短くした以外は、(実施例1)−(細繊維層の調製)と同様にして、ポリマー溶液Bから溶媒を揮発させて繊維化させると共に、金属板の主面上に捕集された第一太繊維層の主面に捕集して、第一太繊維層の主面に細繊維層を調製した。
なお、調製された細繊維層を構成する細繊維の平均繊維径は、200nmであった。また、ノズルから吐出されたポリマー溶液Bの体積から算出した、細繊維層の目付は、0.08g/m2であった。

(第二太繊維層の調製)
(実施例2)-(第一太繊維層の調製)の項で説明したのと同様にして、ポリマー溶液Cから溶媒を揮発させて繊維化させると共に、細繊維層の主面に捕集して、細繊維層の主面に第二太繊維層を調製することで、繊維積層体を調製した。
なお、調製された第二太繊維層を構成する太繊維の平均繊維径は、400nmであった。また、ノズルから吐出されたポリマー溶液Cの体積から算出した、第二太繊維層の目付は、0.51g/m2であった。
【0079】
(比較例1)
ノズルに20kvの電圧を印加することで、ノズルと金属板との間に電界を形成した。
電界の作用によってポリマー溶液Cをノズルから3cm3/hの吐出量で吐出させると共に、ポリマー溶液Cから溶媒を揮発させて繊維化させると共に、金属板の主面上に捕集することで、金属板の主面上に細繊維層を調製した。
なお、調製された細繊維層を構成する細繊維の平均繊維径は、400nmであった。また、ノズルから吐出されたポリマー溶液Cの体積から算出した、細繊維層の目付は、1.4g/m2であった。
【0080】
(比較例2)
一辺300mmの正方形形状をした平板状のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂のスパンボンド不織布(フロイデンベルグ・スパンウェブ・ジャパン社製、LD7250W、目付:50g/m2、平均繊維径20μm)の一方の主面に対し、共重合オレフィン系接着樹脂(モレスコ製、AC-856、軟化点:146℃)が0.64g/m2塗付されるように、ホットメルトアプリケーター(サンツール製)から、190℃に加熱した共重合オレフィン系接着樹脂を210℃に加熱したホットエアを用いて吐出することで、一方の主面に共重合オレフィン系接着樹脂層を備える複合スパンボンド不織布を2枚調製した。
次いで、比較例1で使用した金属板に1枚の複合スパンボンド不織布を、ノズル側に共重合オレフィン系接着樹脂層がくるようにして静置した。

続いて、ポリマー溶液Cの代わりに、ポリマー溶液Bを用いたこと以外は、比較例1と同様にして、複合スパンボンド不織布の共重合オレフィン系接着樹脂層上に細繊維層を調製した。
なお、調製された細繊維層を構成する細繊維の平均繊維径は、200nmであった。また、ノズルから吐出されたポリマー溶液の体積Bから算出した、細繊維層の目付は、0.6g/m2であった。

更に、上述の細繊維層と共重合オレフィン系接着樹脂層が接触するように、もう一枚の複合スパンボンド不織布を更に積層した状態で、リライアントプレス機(プレス圧:1.0kg/cm2、ローラ表面温度:110℃)へ供することで、細繊維層とスパンボンド不織布とを熱圧着し、試験片を調製した。なお、このような試験片は2枚調製した。
【0081】
(試験片の調製方法)
実施例1-2に係る繊維積層体から、一辺300mmの正方形形状をした平板状の切片を、各々2枚ずつ採取した。また、比較例1に係る細繊維層から、一辺300mmの正方形形状をした平板状の切片を、各々2枚ずつ採取した。
各切片における各主面に、共重合オレフィン系接着樹脂(モレスコ製、AC-856、軟化点:146℃)が0.64g/m2塗付されるように、ホットメルトアプリケーター(サンツール製)から、190℃に加熱した共重合オレフィン系接着樹脂を210℃に加熱したホットエアを用いて吐出した後、各切片における共重合オレフィン系接着樹脂の両塗付面に、一辺300mmの正方形形状をした平板状のPET樹脂のスパンボンド不織布(フロイデンベルグ・スパンウェブ・ジャパン社製、LD7250W、目付:50g/m2、平均繊維径20μm)を積層した。
その後、ロール間が95μmのニップロールへと供して、繊維積層体(10)とスパンボンド不織布とを共重合オレフィン系接着樹脂を介して積層一体化することで、実施例1-2及び比較例1に係る試験片を調製した。

上述のようにして調製した、実施例1-2及び比較例1-2に係る各試験片のうち、一方の試験片をそのままの態様で、以下に説明する測定試験へ供した。この時の試験片をプリーツ加工前試験片と称する。
また、実施例1-2及び比較例1-2に係る各試験片のうち、もう一方の試験片をレシプロ式のプリーツ加工機(ラボスキー社製)に供して、プリーツ高さが25mmとなるように各試験片をプリーツ加工した。その後、プリーツ加工した各試験片を引き伸ばすことで各試料片を平板状にして、以下に説明する測定試験へ供した。この時の試験片をプリーツ加工後試験片と称する。
【0082】
(捕集効率の測定方法)
実施例1-2及び比較例1-2に係る各試験片を、各々、中高性能フィルタ試験機に装着した。このときの試験片における、有効濾過面積は625cm2であった。
試験粒子として大気塵を採用し、風速5.3cm/sかつ試験流量を毎分198リットルとして、大気塵を含有する空気を試験片の一方の主面側(濾過上流側)から供給した。
試験片の一方の主面側(濾過上流側)およびもう一方の主面側(濾過下流側)で0.01cF(キュービックフィート)の空間中に含まれる、粒子数を光散乱式パーティクルカウンタ(リオン社製)でカウントし、実施例1-2および比較例1-2に係る各試験片の捕集効率を評価して表1にまとめた。なお、光散乱式パーティクルカウンタ(リオン社製)は粒子径が0.3μm〜0.5μmの範囲内の粒子をカウントできるものであった。
なお、捕集効率の値が100%に近いほど、大気塵の捕集効率が高い試験片であることを意味する。
【0083】
(圧力損失の測定方法)
大気塵による捕集効率の測定において、試験流量を有効濾過面積625cm2に対し、5.3cm/sの風速を与えた場合の、捕集効率の測定における圧力損失を微差圧計で測定し、実施例1-2及び比較例1-2に係る各試験片の圧力損失を評価して表1にまとめた。
なお、圧力損失の値が低いほど、通風時の抵抗が低い試験片であることを意味する。
【0084】
【表1】

【0085】
表1の測定結果から、実施例1-2に係る試験片は、プリーツ加工する前後で捕集効率の低下が少ないことが判明した。この理由として、繊維積層体の内部で細繊維層が破断していないためであると考えられた。
【0086】
一方、比較例1-2に係る試験片は、プリーツ加工することで捕集効率が大きく低下することが判明した。この理由として、試験片の内部で細繊維層が破断しているためであると考えられた。
【0087】
このことから、本願発明に係る繊維積層体は、張力や応力を作用させる加工を実施しても、繊維積層体の内部で細繊維層が破断しない繊維積層体であり、加工後の繊維積層体における諸特性の低下を防ぐことのできる、繊維積層体であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係る繊維積層体は、加工性と取り扱い性に優れ、加工後の繊維積層体における諸特性の低下を防ぐことのできる繊維積層体であるため、気体濾過フィルタや液体濾過フィルタ、セパレータなどの電気化学素子用材料、貼付剤用基材やプラスター剤用基材や人工皮膚などの医療用基材、芯地など衣料基材、壁材や壁紙などの建築用基材、吸音材や遮音材など、様々な産業資材用途に使用できる。
また、本発明に係る繊維積層体の製造方法によれば、加工性と取り扱い性に優れ、加工後の繊維積層体における諸特性の低下を防ぐことのできる、産業資材用途に好適に使用できる繊維積層体を製造できる。
【符号の説明】
【0089】
10・・・繊維積層体
11・・・第一太繊維層
12・・・細繊維層
13・・・第二太繊維層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細繊維層の主面及びもう一方の主面に、前記細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも平均繊維径が大きな繊維から構成された太繊維層が積層してなる繊維積層体であって、
(a)第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて調製した第一太繊維層の一方の主面に、
第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して細繊維層を形成し、
更に、形成された前記細繊維層の主面に、第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して第二太繊維層を形成したものである、
あるいは、
(b)第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて調製した細繊維層の一方の主面に、
第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して第一太繊維層を形成し、
更に、前記細繊維層のもう一方の主面に、第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に捕集して第二太繊維層を形成したものである、
ことを特徴とする繊維積層体。
【請求項2】
(a)第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて、第一太繊維層を調製する工程、
第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、前記第一太繊維層の一方の主面上に捕集して、前記第一太繊維層の主面上に、前記第一太繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも小さな平均繊維径を備える繊維から構成された細繊維層を調製する工程、
第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、前記細繊維層の主面上に捕集して、前記細繊維層の主面上に、前記細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも大きな平均繊維径を備える繊維から構成された第二太繊維層を調製する工程、
あるいは、
(b)第二ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させて、細繊維層を調製する工程、
第一ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、前記細繊維層の一方の主面上に捕集して、前記細繊維層の一方の主面上に、前記細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも大きな平均繊維径を備える繊維から構成された第一太繊維層を調製する工程、
第三ポリマー溶液から溶媒を揮発させて繊維化させると共に、前記細繊維層のもう一方の主面上に捕集して、前記細繊維層のもう一方の主面上に、前記細繊維層を構成する繊維の平均繊維径よりも大きな平均繊維径を備える繊維から構成された第二太繊維層を調製する工程、
を備えることを特徴とする繊維積層体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−14849(P2013−14849A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146713(P2011−146713)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】