説明

繊維積層体用水性接着剤

【課題】 水性且つハロゲンフリーであって、優れた難燃性及び耐熱性を有する繊維積層体を得ることができる繊維積層体用水性接着剤を提供すること。
【解決手段】 (A)ヒドロキシル基を有しており、且つ(a)ポリイソシアネートと(b)ポリカーボネートポリオール及びポリエステルポリオールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する多官能性化合物含有組成物とを原料として得られたものである水性ポリウレタン樹脂、(B)水性ポリイソシアネート、(C)リン系難燃剤及び(D)ポリオキシエチレン鎖を含有しない多価アルコールポリグリシジルエーテルを含有することを特徴とする繊維積層体用水性接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維積層体用水性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の繊維積層体の製造方法としては、例えば、先ず、樹脂等からなる表皮層上に有機溶剤に溶解された樹脂を含む接着剤を塗布し、これを乾燥させて有機溶剤を揮発させることにより前記表皮層上に接着剤層を形成し、次いで、前記接着剤層を介して前記表皮層と繊維基材とを貼りあわせるドライラミネート法が知られており、前記接着剤に用いる樹脂としては、ポリウレタン樹脂が多く用いられている。
【0003】
このような従来の接着剤は、接着剤層を形成する際や繊維基材との貼り合わせの際に、加熱によって有機溶剤を蒸発させ、ポリウレタン樹脂を反応あるいは固化させることで接着強度を確保するものである。しかしながら、有機溶剤を含有する接着剤を用いた場合は、有機溶剤が大気中に揮散することによる環境への影響が問題視されており、使用のためには排煙装置等を設置するためのコストがかかるといった問題を有していた。また、有機溶剤を含有する接着剤を用いて得られた積層体においては積層体内部に有機溶剤が残留するおそれがあり、近年のシックハウス症候群、化学物質過敏症、皮膚障害等の人体への影響も問題視されている。このような有機溶剤の使用により生じる問題を解決することを目的として、繊維積層体用の接着剤を有機溶剤に溶解されたポリウレタン樹脂を含有する接着剤から、水性ポリウレタン樹脂を含有する水性接着剤に移行すべく検討がなされている。しかしながら、水性接着剤においては、接着性が未だ十分ではなく、有機溶剤を含有する接着剤に匹敵する性能が得られていないのが現状である。
【0004】
また、繊維積層体の性能として難燃性が要求される場合、例えば、繊維積層体を車輌用シート等の内装材に使用する場合等には、例えば、繊維積層体を構成する各層にハロゲン化合物等の難燃剤を添加して繊維積層体に難燃性を付与する方法が採用されている。しかしながら、ハロゲン化合物により難燃性が付与された繊維積層体は、成型加工、加熱溶融、焼却等における加熱によりハロゲン化水素やダイオキシン類を生成したり、金属の腐食等をひき起こすおそれがある。
【0005】
そこで、ハロゲンを含まない難燃剤として、リン系難燃剤を用いる検討が進んでいる。例えば、特開平7−18584号公報(特許文献1)には、人工スエード状構造物において、ポリウレタン樹脂の多孔質層を形成させるにあたり、ポリウレタン樹脂を有機溶剤に溶解させた樹脂液にリン化合物を添加し、これを布帛に含浸させることが記載されている。また、特開2005−15942号公報(特許文献2)には、窒素−リン系難燃剤を用いて難燃加工した基布の少なくとも片面に、リン酸エステル系難燃剤及び窒素系難燃剤から選ばれた1種以上の難燃剤を含有する熱可塑性ポリウレタン系樹脂層を設けた合成樹脂レザーが開示されている。しかしながら、繊維積層体においてリン系難燃剤を用いると繊維積層体の劣化が加速される傾向にあり、特に、前記合成樹脂レザー等のようにポリウレタン樹脂とリン系難燃剤とを組み合わせて用いる場合や、耐熱性や耐光性が要求される車輌用シート等の内装材として用いる場合には、高熱によって繊維積層体の劣化が著しく加速されるため、難燃性と耐熱性とを両立させることが困難であるという問題を有していた。さらに、リン系難燃剤が経時的にブリードアウトし、繊維積層体の品質が低下するといった問題も有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−18584号公報
【特許文献2】特開2005−15942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水性且つハロゲンフリーであって、優れた難燃性及び耐熱性を有する繊維積層体を得ることができる繊維積層体用水性接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の水性ポリウレタン樹脂と、水性ポリイソシアネート、リン系難燃剤、及び特定の多価アルコールポリグリシジルエーテルを組み合わせて用いることにより、水性且つハロゲンフリーである水性接着剤を得ることができ、さらに、この水性接着剤によれば、繊維積層体に優れた難燃性を付与しつつ、リン系難燃剤に起因する繊維積層体の熱劣化が抑制できるため、優れた難燃性及び耐熱性を有する繊維積層体を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の繊維積層体用水性接着剤は、
(A)ヒドロキシル基を有しており、且つ(a)ポリイソシアネートと(b)ポリカーボネートポリオール及びポリエステルポリオールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する多官能性化合物含有組成物とを原料として得られたものである水性ポリウレタン樹脂、(B)水性ポリイソシアネート、(C)リン系難燃剤及び(D)ポリオキシエチレン鎖を含有しない多価アルコールポリグリシジルエーテルを含有することを特徴とするものである。
【0010】
また、前記(A)水性ポリウレタン樹脂としては、
前記(a)ポリイソシアネートと、前記(b)多官能性化合物含有組成物と、(c)アニオン性親水基及び2個以上の活性水素を有する化合物とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーを、
(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長反応させ、
前記鎖伸長反応と同時及び/又は前記鎖伸長反応の後に、(e)ヒドロキシル基を有する第一級アミン化合物及びヒドロキシル基を有する第二級アミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を用いて前記イソシアネート基末端プレポリマーの末端イソシアネート基を封鎖することにより得られたものであり、且つ、
水中に分散されていること、
が好ましい。
【0011】
さらに、本発明の繊維積層体用水性接着剤においては、前記(A)水性ポリウレタン樹脂の流出開始温度が50〜80℃であることが好ましい。また、本発明の繊維積層体用水性接着剤においては、前記(C)リン系難燃剤が、リン酸塩系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤及びホスフィン酸エステル系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
なお、本発明によって上記目的が達成されるようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の水性接着剤においては、ポリカーボネートポリオール及び/又はポリエステルポリオールを主成分とし、末端にヒドロキシル基を有する特定の水性ポリウレタン樹脂と、水性ポリイソシアネートとからなる二液型の水系接着剤に、さらに、リン系難燃剤及び特定の多価アルコールポリグリシジルエーテルを組み合わせて添加することにより、ハロゲン系難燃剤を使用しなくても、繊維積層体に難燃性を付与することができる。さらに、このような水系接着剤によれば、リン系難燃剤による繊維積層体の劣化を抑制できるため、優れた難燃性及び耐熱性を有する繊維積層体を得ることが可能となると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水性且つハロゲンフリーであって、優れた難燃性及び耐熱性を有する繊維積層体を得ることができる繊維積層体用水性接着剤を提供することが可能となる。
【0014】
また、本発明の水性接着剤によれば、有機溶剤を極力あるいは全く含まないため、有機溶剤による大気汚染や水質汚濁、有機溶剤の回収労力等の問題の解消や作業環境の改善、さらには揮発性有機化合物(VOC)の排出を抑制することが可能となる。さらに、本発明の水性接着剤は、リン系難燃剤を含有しているにもかかわらず耐熱性を維持することができるものであることから、本発明の水性接着剤によれば、ハロゲンフリーであり、且つ、難燃性及び耐熱性を備えた繊維積層体を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
本発明の繊維積層体用水性接着剤は、(A)水性ポリウレタン樹脂、(B)水性ポリイソシアネート、(C)リン系難燃剤、及び(D)多価アルコールポリグリシジルエーテルを含有することを特徴とするものである。
【0017】
<(A)水性ポリウレタン樹脂>
本発明に係る(A)水性ポリウレタン樹脂は、ヒドロキシル基を有する水性のポリウレタン樹脂である。前記ヒドロキシル基の含有量としては、前記(A)水性ポリウレタン樹脂の全質量に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましい。前記ヒドロキシル基の含有量が前記下限未満である場合には水性接着剤の接着性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には得られる繊維積層体の耐熱性が不十分となる傾向にある。なお、前記ヒドロキシル基の含有量は、ポリウレタン樹脂のヒドロキシル価をJIS K0070(1992)に準拠して測定し、前記水性ポリウレタン樹脂におけるヒドロキシル基の含有量に換算することにより求められる。
【0018】
なお、本発明において、水性のポリウレタン樹脂とは、水溶性あるいは自己乳化性(乳化剤の添加なしで、それ自身で乳化分散可能な性能を持つこと)を有するポリウレタン樹脂を示し、具体的には、ポリウレタン樹脂の濃度が35質量%である水分散液を室温(25℃程度)に1日静置した場合に、乳化剤を存在せしめなくても沈降物が生じないポリウレタン樹脂を示す。
【0019】
本発明に係る(A)水性ポリウレタン樹脂は、(a)ポリイソシアネートと、(b)ポリカーボネートポリオール及びポリエステルポリオールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する多官能性化合物含有組成物とを原料として得られるものである。本発明に係る(A)水性ポリウレタン樹脂が、前記(a)ポリイソシアネートと前記(b)多官能性化合物含有組成物とを原料として得られるものであることにより、本発明の繊維積層体用水性接着剤は優れた接着性を有し、優れた難燃性及び耐熱性を有する繊維積層体を得ることができる。
【0020】
前記(a)ポリイソシアネートとしては、1分子内に2個以上のイソシアネート基を有していればよく、特に制限されないが、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートが挙げられる。
【0021】
前記芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、テトラヒドロナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。前記脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。前記脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイシソアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0022】
前記(a)ポリイソシアネートとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの中でも、前記(a)ポリイソシアネートとしては、得られる水性ポリウレタン樹脂が無黄変性のものとなるという観点から、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートを用いることが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート及び1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0023】
前記(b)多官能性化合物含有組成物は、(b1−1)ポリカーボネートポリオール及び(b1−2)ポリエステルポリオールからなる群から選択される少なくとも1種を含有している。なお、本発明において多官能性化合物とは、ヒドロキシル基、アミノ基及びイミノ基等のイソシアネート基と反応し得る基を分子内に2個以上有する化合物をいう。
【0024】
前記(b1−1)ポリカーボネートポリオール及び(b1−2)ポリエステルポリオールの重量平均分子量としては、得られる繊維積層体の耐熱性がより向上するという観点から、それぞれ、500〜5,000であることが好ましく、500〜4,000であることがより好ましい。なお、本発明において、前記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)(「HLC−8020」東ソー社製;溶媒:テトラヒドロフラン;カラム:「TSK−GEL G5000HHR」、「TSK−GEL G4000HHR」、「TSK−GEL G3000HHR」の3本(各東ソー社製)を接続;温度:40℃;速度:1.0ml/分)を用いて測定され、標準ポリスチレンにより換算することにより求められる。
【0025】
前記(b1−1)ポリカーボネートポリオールとしては、その構造内に2個以上のカーボネート基(−O−CO−O−)を有するポリオールであればよく、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等からなる群から選択される少なくとも1種のグリコールと、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジフェニルカーボネート及びホスゲンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物との反応により得られるポリカーボネートポリオール;このポリカーボネートポリオールにさらにラクトンを開環付加重合して得られるラクトン変性ポリカーボネートポリオール;下記のポリエステルポリオールを含むポリエステルポリオールとポリカーボネートポリオールとを共縮合させた共縮合ポリカーボネートポリオールが挙げられる。このような(b1−1)ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンポリ−3−メチルペンタンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオール、ポリ(ヘキサメチレン−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネート)ジオール等が挙げられ、中でも、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンポリ−3−メチルペンタンカーボネートジオールを用いることが好ましい。また、前記(b1−1)ポリカーボネートポリオールとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
前記(b1−2)ポリエステルポリオールとしては、その構造内に2個以上のエステル基(−CO−O−)を有するポリオールであればよく、例えば、グリコール成分と酸成分との脱水縮合反応により得られたポリエステルポリオール、ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応により得られたポリエステルポリオール、及びこれらの共重合ポリエステルが挙げられる。なお、本発明において、前記(b1−2)ポリエステルポリオールには前記カーボネート基を有する(b1−1)ポリカーボネートポリオール及び下記ポリエーテル鎖を有するポリエーテルエステルポリオールは含まれない。
【0027】
前記グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン及びこれらのアルキレンオキシド付加体が挙げられる。また、前記酸成分としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸等のジカルボン酸;これらのジカルボン酸の無水物及びエステル形成性誘導体が挙げられる。このような(b1−2)ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンイソフタレートアジペートジオール、ポリエチレンサクシネートジオール、ポリブチレンサクシネートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン)アジペートジオール、1,6−ヘキサンジオールとダイマー酸との重縮合物、1,6−ヘキサンジオールとアジピン酸とダイマー酸との共重縮合物、ノナンジオールとダイマー酸との重縮合物、エチレングリコールとアジピン酸とダイマー酸との共重縮合物、ポリ−3−メチルペンタンアジペートジオール等が挙げられ、中でも、ポリ−3−メチルペンタンアジペートジオールを用いることが好ましい。また、前記(b1−2)ポリエステルポリオールとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
前記(b)多官能性化合物含有組成物としては、前記(b1−1)ポリカーボネートポリオール及び前記(b1−2)ポリエステルポリオールからなる群から選択される1種を単独で含有していてもよく、2種以上を組み合わせて含有していてもよく、100質量%が前記(b1−1)ポリカーボネートポリオール及び前記(b1−2)ポリエステルポリオールからなる群から選択される1種又は2種以上の化合物からなるものであってもよいが、繊維積層体の耐熱性がより維持できるという観点から、前記(b)多官能性化合物含有組成物としては、前記(b1−1)ポリカーボネートポリオール及び前記(b1−2)ポリエステルポリオールの総含有量が50〜99質量%であることが好ましい。
【0029】
前記(b)多官能性化合物含有組成物としては、前記(b1−1)ポリカーボネートポリオール及び前記(b1−2)ポリエステルポリオールの他にも、さらに(b2)ポリエーテルポリオール及びダイマージオールからなる群から選択される1種又は2種以上をさらに含有していてもよい。
【0030】
前記ポリエーテルポリオール及び前記ダイマージオールの重量平均分子量としては、それぞれ、得られる繊維積層体の耐熱性がより向上するという観点から、500〜5,000であることが好ましく、500〜4,000であることがより好ましい。
【0031】
前記ポリエーテルポリオールとしては、エーテル基(−O−)を含む構造の平均繰り返し単位数が2以上であるポリエーテル鎖を分子内に有するポリオールが挙げられ、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールの単独重合体/ブロック共重合体/ランダム共重合体;エチレンオキシド及びプロピレンオキシド、エチレンオキシド及びブチレンオキシドのランダム共重合体/ブロック共重合体が挙げられる。また、これらのポリエーテルポリオールとしては、ポリエーテル鎖間が単独のエステル結合により結合されるポリエーテルエステルポリオールであってもよい。
【0032】
前記ダイマージオールとしては、重合脂肪酸を還元して得られるジオールを主成分とするものが挙げられる。前記重合脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸等の炭素数18の不飽和脂肪酸;乾性油脂肪酸;半乾性油脂肪酸;及びこれらの化合物の低級モノアルコールエステルをディールスアルダー反応により二分子重合せしめて得られる反応生成物が挙げられる。このような重合脂肪酸としては、種々のタイプの重合脂肪酸が市販されているが、代表的なものとしては、炭素数18のモノカルボン酸0〜5質量%、炭素数36のダイマー酸70〜98質量%、炭素数54のトリマー酸0〜30質量%からなるものが挙げられる。
【0033】
このような(b2)ポリエーテルポリオール及び/又はダイマージオールを含有する場合、(b2)ポリエーテルポリオール及びダイマージオールの総含有量は、前記(b)多官能性化合物含有組成物の全質量に対して50質量%未満であることが好ましい。前記含有量が前記上限を超える場合にはリン系難燃剤による繊維積層体の熱劣化が十分に抑制されず、得られる繊維積層体の耐熱性が不十分となる傾向にある。
【0034】
また、前記(b)多官能性化合物含有組成物としては、前述の高分子量のポリオール(b1及びb2)の他にも、必要に応じて、(b3)鎖延長剤をさらに含有していてもよい。前記(b3)鎖延長剤とは、前記(a)ポリイソシアネートと前記高分子量のポリオール(b1及び必要に応じてb2)とからイソシアネート基末端プレポリマーを合成する際に用いられ、2個以上の活性水素原子を有する低分子量の化合物である。なお、本発明において、(b3)鎖延長剤には、下記の(c)アニオン性親水基及び2個以上の活性水素を有する化合物は含まれない。このような(b3)鎖延長剤としては、得られる繊維積層体の耐熱性がより向上するという観点から、分子量が400以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましい。前記(b3)鎖延長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の低分子量多価アルコール;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の低分子量ポリアミン等が挙げられる。これらの(b3)鎖延長剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
このような(b3)鎖延長剤を含有する場合、(b3)鎖延長剤の総含有量は、前記(b)多官能性化合物含有組成物の全質量に対して20質量%未満であることが好ましい。前記含有量が前記上限を超える場合には水性ポリウレタン樹脂が硬くなりすぎるため、水性接着剤の接着性が不十分となる傾向にある。
【0036】
前記(a)ポリイソシアネートと前記(b)多官能性化合物含有組成物とを原料として用いて本発明に係る(A)水性ポリウレタン樹脂を得る方法としては、イソシアネート成分とポリオール成分とからポリウレタン樹脂を得る公知の方法を適宜採用することができるが、本発明に係る(A)水性ポリウレタン樹脂としては、より接着性に優れた水系接着剤を得ることができ、さらに、リン系難燃剤による繊維積層体の熱劣化がより抑制され、より優れた耐熱性を有する繊維積層体を得ることができるという観点から、
前記(a)ポリイソシアネートと、前記(b)多官能性化合物含有組成物と、(c)アニオン性親水基及び2個以上の活性水素を有する化合物とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーを、
(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長反応させ、
前記鎖伸長反応と同時及び/又は前記鎖伸長反応の後に、(e)ヒドロキシル基を有する第一級アミン化合物及びヒドロキシル基を有する第二級アミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を用いて前記イソシアネート基末端プレポリマーの末端イソシアネート基を封鎖することにより得られたものであることが好ましい。
【0037】
前記(c)アニオン性親水基及び2個以上の活性水素を有する化合物とは、アニオン性親水基を有し、さらに、前記アニオン性親水基とは別に、少なくとも2個の活性水素を有する化合物である。また、このような化合物(c)としては、分子量が400以下であることが好ましい。このような化合物(c)を用いることにより、骨格中にアニオン性親水基を有するポリウレタン樹脂を得ることができ、得られるポリウレタン樹脂を水性とすることができる。このようなアニオン性親水基としては、より優れた接着性を有する水性接着剤が得られる傾向にあるという観点から、カルボキシル基、スルホ基及びこれらの塩からなる群から選択される少なくともいずれか1種であることが好ましく、カルボキシル基及びその塩からなる群から選択される少なくともいずれか1種であることがより好ましい。前記塩としては、アンモニウム;アルキル基及びアルカノールの炭素数が1〜4程度であるトリアルキルアミン、ジアルキルモノアルカノールアミン、モノアルキルジアルカノールアミン、トリアルカノールアミン等のアミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物等が挙げられ、中でも、アンモニウム及びアミン類が好ましい。
【0038】
前記(c)アニオン性親水基及び2個以上の活性水素を有する化合物としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸及びこれらの塩等が挙げられる。また、前記アニオン性親水基がカルボキシル基である場合、前記化合物(c)としては、カルボキシル基を有するジオールと、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸等とを反応させて得られるペンダント型カルボキシル基を有するポリエステルポリオールであってもよい。これらの化合物(c)としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
前記化合物(c)の使用量としては、得られる水性ポリウレタン樹脂の全質量に対して、化合物(c)由来のアニオン性親水基の含有量が0.1〜5.0質量%となる量であることが好ましく、0.3〜3.0質量%となる量であることが好ましい。前記アニオン性親水基の含有量が前記下限未満である場合には水性ポリウレタン樹脂の水分散液の安定性、すなわちポリウレタン樹脂の水への分散性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には得られる繊維積層体の耐水性が低下する傾向にある。
【0040】
前記イソシアネート基末端プレポリマーは、前記(a)ポリイソシアネートと、前記(b)多官能性化合物含有組成物と、前記(c)アニオン性親水基及び2個以上の活性水素を有する化合物とを混合して、イソシアネート基とそれに反応する活性水素とを重付加反応せしめることにより得られる。前記重付加反応の方法としては、従来公知の方法を適宜採用することができ、一段式のワンショット法であっても、多段式の方法であってもよい。このような重付加反応の温度としては40〜150℃であることが好ましく、反応時間としては15分〜10時間であることが好ましい。また、前記重付加反応において、反応組成物中における各原料の混合比としては、前記(a)ポリイソシアネートに由来するイソシアネート基が前記(b)多官能性化合物含有組成物及び前記(c)アニオン性親水基及び2個以上の活性水素を有する化合物に由来する活性水素に対して過剰となる混合比であることが好ましく、前記イソシアネート基と前記活性水素とのモル比(イソシアネート基のモル数/活性水素のモル数)が100/80〜100/60となるように調整することがより好ましく、100/75〜100/65となるように調整することがさらに好ましい。
【0041】
前記重付加反応においては、必要に応じて、さらにジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫−2−エチルヘキサノエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン等の反応触媒を添加してもよい。また、前記重付加反応は無溶媒で行ってもよく、反応中又は反応終了後にイソシアネート基と反応しない有機溶剤をさらに添加して行ってもよい。前記有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンが挙げられる。このような有機溶剤を用いた場合には、前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基を封鎖した後に、例えば、減圧蒸留等の方法によって前記有機溶剤を除去することが好ましい。また、前記有機溶剤を除去する際には、アニオン界面活性剤やノニオン界面活性剤等を用いることにより乳化性を保持させてもよい。
【0042】
前記イソシアネート基末端プレポリマーとしては、前記重付加反応終了時において、イソシアネート基末端プレポリマー全量に対する遊離イソシアネート基の含有量が0.5〜8質量%であることが好ましい。前記遊離イソシアネート基の含有量が前記下限未満の場合には、水性ポリウレタン樹脂の水分散液の安定性、すなわちポリウレタン樹脂の水への分散性が低下する傾向にあり、他方、含有量が前記上限を超える場合には、水性接着剤の接着性及び得られる繊維積層体の耐熱性が不十分となる傾向にある。
【0043】
前記(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物とは、前述の工程により得られた前記イソシアネート基末端プレポリマーを鎖伸長反応せしめる化合物である。このようなポリアミン化合物としては、1分子中に2個以上のアミノ基及び/又はイミノ基を有する化合物であればよいが、本発明において、前記(d)ポリアミン化合物には下記の(e)ヒドロキシル基を有する第一級アミン化合物及びヒドロキシル基を有する第二級アミン化合物は含まれない。前記(d)ポリアミン化合物としては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヒドラジン、ノルボルナンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン等のジアミン;テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン等のポリアミン;ジ第一級アミン及びモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン;ジ第一級アミンのモノケチミン等のアミン誘導体;シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,1’−エチレンヒドラジン、1,1’−トリメチレンヒドラジン、1,1’−(1,4−ブチレン)ジヒドラジン等のヒドラジン誘導体が挙げられる。また、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミン等の前記(b3)鎖延長剤として例示した化合物を前記(d)ポリアミン化合物として用いてもよい。また、これらの(d)ポリアミン化合物としては1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ヒドラジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンを用いることが好ましい。
【0044】
前記鎖伸長反応としては、前記イソシアネート基末端プレポリマーと、前記(d)ポリアミン化合物と、水とを混合し、10〜60℃の温度において10分間〜2時間反応させることが好ましい。また、前記イソシアネート基末端プレポリマーと、前記(d)ポリアミン化合物との混合比としては、前記イソシアネート基末端プレポリマーにおける遊離イソシアネート基と、前記(d)ポリアミン化合物におけるアミノ基及びイミノ基とのモル比(イソシアネート基のモル数/アミノ基及びイミノ基の総モル数)が1/1.2〜1.2/1となるように調整することが好ましい。
【0045】
本発明に係る(A)水性ポリウレタン樹脂としては、前記鎖伸長反応の後及び/又は前記鎖伸長反応と同時に、(e)ヒドロキシル基を有する第一級アミン化合物及びヒドロキシル基を有する第二級アミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を用いて前記イソシアネート基末端プレポリマーの末端イソシアネート基を封鎖することにより得られたものであることが好ましい。
【0046】
前記(e)ヒドロキシル基を有する第一級アミン化合物及びヒドロキシル基を有する第二級アミン化合物としては、例えば、ヒドロキシルアミン、エタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチルプロパン−1,3−ジオール、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン等の第一級アミン;N−メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、N,N’−ジ−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N,N’−ジ−2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、N,N’−ジ−2−ヒドロキシプロピルプロピレンジアミン等の第二級アミンが挙げられる。これらの(e)アミン化合物としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、エタノールアミン及びジエタノールアミンを用いることが好ましい。このような(e)ヒドロキシル基を有する第一級アミン化合物及び/又はヒドロキシル基を有する第二級アミン化合物を用いることにより、前記イソシアネート基末端プレポリマーの末端イソシアネート基が封鎖され、ヒドロキシル基が導入されたポリウレタン樹脂を得ることができる。
【0047】
前記イソシアネート基末端プレポリマーの末端イソシアネート基を封鎖する方法としては、前記鎖伸長反応において、前記イソシアネート基末端プレポリマー及び前記(d)ポリアミン化合物にさらに前記(e)アミン化合物を添加する方法や、前記鎖伸長反応後の反応溶液に前記(e)アミン化合物を添加して10〜60℃の温度において10分間〜2時間さらに反応させる方法が挙げられる。また、前記(e)アミン化合物の添加量としては、得られる水性ポリウレタン樹脂の全質量に対する(e)アミン化合物由来のヒドロキシル基の含有量が0.1〜5.0質量%となる量であることが好ましい。
【0048】
本発明に係る(A)水性ポリウレタン樹脂を本発明の繊維積層体用水性接着剤に用いる際には、水中に分散させた分散液として用いることが好ましい。なお、前述の方法により、本発明に係る(A)水性ポリウレタン樹脂は水に分散された分散液として得られるため、前述の方法により得られた水性ポリウレタン樹脂をそのまま本発明の繊維積層体用水性接着剤に用いることができる。また、このような(A)水性ポリウレタン樹脂の水分散液としては、前記(A)水性ポリウレタン樹脂の濃度が10〜60質量%であることが好ましい。
【0049】
前記(A)水性ポリウレタン樹脂を水中に分散させる方法としては、前記イソシアネート基末端プレポリマーの製造前、前記鎖伸長反応の前及び前記鎖伸長反応の後のうちのいずれかにおいて、前記(c)アニオン性親水基及び2個以上の活性水素を有する化合物に由来するアニオン性親水基を中和させる方法が挙げられる。このような中和により、ポリウレタン樹脂の水への分散が容易となる。
【0050】
前記中和に用いる化合物としては、特に制限されず、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチル−ジエタノールアミン、N,N−ジメチルモノエタノールアミン、N,N−ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノールアミン等の第三級モノアミン類;水酸化カリウム;水酸化ナトリウム;アンモニア等を挙げることができる。これらの中でも、繊維積層体用水性接着剤を乾燥させる際に最も一般的な100〜120℃程度の温度で揮発させることができるという観点から、第三級アミンを用いることが好ましく、トリエチルアミンを用いることがより好ましい。
【0051】
本発明に係る(A)水性ポリウレタン樹脂としては、流出開始温度が30〜120℃であることが好ましく、50〜80℃であることがより好ましい。前記流出温度が前記下限未満である場合にはリン系難燃剤による繊維積層体の熱劣化が十分に抑制されず、得られる繊維積層体の耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には水性接着剤の接着性が低下する傾向にある。なお、本発明において、前記流出開始温度とは、ポリウレタン樹脂の硬化物1.2gを、オリフィス(内径1mm、長さ1mm)に入れ、高化式フローテスター(「CFT−500D」(株)島津製作所製)を用いて、荷重10kgf、昇温速度3℃/分の条件で昇温し、前記ポリウレタン樹脂がオリフィスの孔から流出し始める温度(℃)を測定することにより得られる温度である。
【0052】
本発明において、前記(A)水性ポリウレタン樹脂の流出開始温度が前記範囲内となるように調整する方法としては、前記(A)水性ポリウレタン樹脂の重量平均分子量を大きくする方法、前記(b1)ポリカーボネートポリオール又はポリエステルポリオールとして融点が高いものを用いる方法、並びに、前記(b)多官能性化合物含有組成物に含有されるポリオールの種類を少なくする方法等が挙げられる。前記(A)水性ポリウレタン樹脂の重量平均分子量を大きくする方法としては、例えば、前記鎖伸長反応に用いる(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物のうち、アミノ基及び/又はイミノ基を3個以上有するポリアミン化合物の使用量を増やす方法が挙げられる。
【0053】
また、本発明に係る(A)水性ポリウレタン樹脂としては、重量平均分子量が10,000〜100,000であることが好ましく、30,000〜60,000であることがより好ましい。前記重量平均分子量が前記下限未満である場合にはリン系難燃剤による繊維積層体の熱劣化が十分に抑制されず、得られる繊維積層体の耐熱性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には水性接着剤の接着性が低下する傾向にある。
【0054】
<(B)水性ポリイソシアネート>
本発明に係る(B)水性ポリイソシアネートは、水性のポリイソシアネートであり、前記(A)水性ポリウレタン樹脂同士を架橋する架橋剤として機能する。なお、本発明において、水性のポリイソシアネートとは、水溶性あるいは自己乳化性(乳化剤の添加なしで、それ自身で乳化分散可能な性能を持つこと)を有するポリイソシアネートを示し、具体的には、ポリイソシアネートと水とを混合し、乳化剤を添加せずにポリイソシアネートの濃度が10質量%である水分散液を調製した場合に、これを室温(25℃程度)に1時間静置しても沈降物が生じないポリイソシアネートを指す。
【0055】
本発明に係る水性ポリイソシアネート(B)としては、疎水性ポリイソシアネートに親水性基を導入することにより得ることができる。前記疎水性ポリイソシアネートとしては、前記(a)ポリイソシアネートとして例示したポリイソシアネート;前記(a)ポリイソシアネートを構成要素として得られるイソシアヌレート型ポリイソシアネート、ウレトジオン型ポリイソシアネート、アロファネート型ポリイソシアネート;ジイソシアネート化合物と2官能以上のポリオールとの反応によって得られるアダクト型ポリイソシアネート等が挙げられる。このような(B)水性ポリイソシアネートとしては、より高い架橋度が得られる傾向にあるという観点から、イソシアヌレート型ポリイソシアネート、アダクト型ポリイソシアネートが好ましい。前記親水性基としては、例えば、アルキレンオキシド鎖等が挙げられ、中でも、ポリイソシアネートの水への分散性がより向上する傾向にあるという観点から、エチレンオキシド鎖が好ましい。前記疎水性ポリイソシアネートに前記親水性基を導入する方法としては、例えば、前記疎水性ポリイソシアネートと、アルコールや脂肪酸のエチレンオキシド付加物、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドのランダム又はブロック付加物等の親水性化合物とを反応させる方法が挙げられる。
【0056】
本発明に係る(B)水性ポリイソシアネートとしては、前記親水性基の含有量(好ましくは、エチレンオキシド付加物の含有量)が2〜50質量%であることが好ましい。前記親水性基の含有量が前記下限未満である場合には、界面張力を下げる効果が十分に発揮されず、水性ポリイソシアネートの乳化が不十分になる傾向にある。他方、前記上限を超える場合には、水性ポリイソシアネートのイソシアネート基の水に対する反応性が大きくなりすぎるために水性接着剤の接着性が低下する傾向にある。
【0057】
前記(B)水性ポリイソシアネートとしては、例えば、デュラネートWB40−100(旭化成(株)製)、アクアネート100、110、120、200、210(日本ポリウレタン工業(株)製)、タケラックW511、525、535(武田薬品工業(株)製)等を用いることができる。本発明において、このような(B)水性ポリイソシアネートとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
<(C)リン系難燃剤>
本発明に係る(C)リン系難燃剤としては、難燃成分としてリン化合物を含有していればよく、難燃剤として公知のものを適宜用いることができるが、繊維積層体の難燃性及び耐熱性がより維持される傾向にあるという観点から、リン酸塩系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、ホスフィン酸エステル系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0059】
前記リン酸塩系難燃剤としては、下記一般式(1):
【0060】
【化1】

【0061】
[式(1)中、Xは同一でも異なっていてもよく、それぞれアンモニウム及びアルカリ金属からなる群から選択される1種を示し、nは整数を示す。]
で表されるポリリン酸及び/又はその塩を含有する難燃剤が挙げられる。
【0062】
前記式(1)中、前記アルカリ金属としては、ナトリウム及びカリウム等が挙げられる。前記Xとしては、難燃効果が高い傾向にあるという観点から、アンモニウムであることが好ましい。また、前記nは重合度であって、耐熱性がより高い傾向にあるという観点から、20〜2500であることが好ましく、20〜2000であることがより好ましい。さらに、このようなポリリン酸及び/又はその塩としては、例えば、特開2001−262466号公報、特開2000−63842号公報等に記載されているように、その粒子表面がメラミン樹脂、シリコーン樹脂、シランカップリング剤により被覆されたものであってもよい。
【0063】
前記リン酸エステル系難燃剤としては、下記一般式(2):
【0064】
【化2】

【0065】
[式(2)中、R、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、炭素数5〜6の脂環アルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基からなる群から選択される1種を示し、RとRとが互いに結合して、リン原子及びそれに結合している酸素原子とともに環を形成していてもよい。]
で表わされるリン酸エステルを含有する難燃剤が挙げられる。
【0066】
前記式(2)中、前記炭素数1〜24のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、2−ブチルオクチル基、2−ブチルデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、2−オクチルデシル基、ドコシル基、テトラコシル基が挙げられ、これらの中でも、化合物中のリン含有量を高めるという観点から、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。
【0067】
前記炭素数2〜22のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、エイコセニル基、ドコセニル基が挙げられ、これらの中でも、化合物中のリン含有量を高めるという観点から、炭素数2〜6のアルケニル基であることが好ましい。
【0068】
さらに、前記式(2)中、前記炭素数5〜6の脂環アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。前記置換基を有していてもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ビフェニル基が挙げられる。また、かかる置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヒドロキシル基、フェニル基が挙げられる。
【0069】
前記リン酸エステルとしては、難燃効果が高い傾向にあるという観点から、前記式(2)中のRが置換基を有していてもよいアリール基(より好ましくはビフェニル基)であり、RとRとが互いに結合してリン原子及びそれに結合している酸素原子とともに環を形成していることが好ましい。
【0070】
前記ホスフィン酸エステル系難燃剤としては、下記一般式(3):
【0071】
【化3】

【0072】
[式(3)中、Rは、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜10のアルコキシ基及び置換基を有していてもよいアラルキルオキシ基からなる群から選択される1種を示す。]
で表わされるホスフィン酸エステルを含有する難燃剤が挙げられる。
【0073】
前記式(3)中、前記炭素数1〜24のアルキル基並びに前記炭素数2〜22のアルケニル基としては、上記一般式(2)中のR、R及びRにおいて例示した基とそれぞれ同様のものが挙げられる。また、前記炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシデシル基が挙げられる。
【0074】
さらに、前記置換基を有していてもよいアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−ヒドロキシ−3,5−t−ブチルベンジル基が挙げられる。また、かかる置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシル基が挙げられる。
【0075】
前記炭素数1〜10のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基が挙げられる。
【0076】
前記置換基を有していてもよいアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、3−メチルベンジルオキシ基、4−メトキシベンジルオキシ基が挙げられる。また、かかる置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシル基が挙げられる。
【0077】
前記ホスフィン酸エステルとしては、難燃効果が高い傾向にあるという観点から、前記式(3)中のRがベンジル基であることが好ましい。
【0078】
本発明において、これらのリン系難燃剤としては1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記リン酸塩系難燃剤、前記リン酸エステル系難燃剤、前記ホスフィン酸エステル系難燃剤としては、前記ポリリン酸及び/又はその塩、前記リン酸エステル、前記ホスフィン酸エステル等のリン化合物を、アニオン界面活性剤や非イオン界面活性剤を用いて予め水に分散させたものであってもよい。
【0079】
<(D)多価アルコールポリグリシジルエーテル>
本発明に係る(D)多価アルコールポリグリシジルエーテルとしては、多価アルコールとエピハロヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエーテルが挙げられる。前記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセロール、ジグリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール等が挙げられ、中でも、得られる繊維積層体の耐熱性がより向上するという観点から、3価以上の多価アルコールであることが好ましい。このような(D)多価アルコールポリグリシジルエーテルとしては、得られる繊維積層体の耐熱性がさらに向上するという観点から、分子内にエポキシ基を3個以上有することが好ましい。
【0080】
また、本発明に係る(D)多価アルコールポリグリシジルエーテルは、ポリオキシエチレン鎖を有さない。これにより、本発明の水性接着剤はリン系難燃剤による繊維積層体の熱劣化を十分に抑制することができ、優れた耐熱性を有する繊維積層体を得ることができる。前記ポリオキシエチレン鎖とは、オキシエチレン基の平均繰り返し単位数が2以上のものを指す。
【0081】
このような(D)多価アルコールポリグリシジルエーテルとしては、例えば、「デナコール」(ナガセケムテックス(株))のシリーズ名で市販されているソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
<繊維積層体用水性接着剤>
本発明の繊維積層体用水性接着剤は、前記(A)水性ポリウレタン樹脂、前記(B)水性ポリイソシアネート、前記(C)リン系難燃剤、及び前記(D)多価アルコールポリグリシジルエーテルを含有することを特徴とするものである。
【0083】
本発明の繊維積層体用水性接着剤においては、前記(A)水性ポリウレタン樹脂由来のヒドロキシル基当量(OH当量)と前記(B)水性ポリイソシアネート由来のイソシアネート基当量(NCO当量)との当量比(NCO当量/OH当量)が0.5〜3.0であることが好ましく、1.3〜2.0であることがより好ましい。前記当量比が前記下限未満である場合には、水性接着剤の架橋密度が不十分となって十分な接着性が発揮されない傾向にある。他方、前記上限を超える場合には、前記(B)水性ポリイソシアネートを多く添加することになり、経済的に不利となる傾向にある。
【0084】
また、本発明の繊維積層体用水性接着剤においては、前記(C)リン系難燃剤におけるリン化合物の含有量が、前記(A)水性ポリウレタン樹脂100質量部に対して5〜40質量部であることが好ましく、7〜30質量部であることがより好ましい。前記含有量が前記下限未満である場合には、難燃性付与効果が十分に奏されない傾向にある。他方、前記上限を超えて前記(C)リン系難燃剤を含有せしめても、それ以上の難燃性付与効果の向上がみられず不経済であるばかりか、得られる繊維積層体の耐熱性が低下する傾向にある。
【0085】
さらに、本発明の繊維積層体用水性接着剤においては、前記(D)多価アルコールポリグリシジルエーテルの含有量が、前記(A)水性ポリウレタン樹脂100質量部に対して0.3〜5質量部であることが好ましい。前記含有量が前記下限未満である場合には、得られる繊維積層体において、耐熱性が十分に維持されない傾向にあり、他方、前記上限を超えて前記(D)多価アルコールポリグリシジルエーテルを含有せしめても、それ以上の耐熱性の維持効果がみられず不経済であるばかりか、接着剤の粘度が高くなりすぎて作業性が低下する傾向にある。
【0086】
本発明の繊維積層体用水性接着剤においては、前記(A)水性ポリウレタン樹脂、前記(B)水性ポリイソシアネート、前記(C)リン系難燃剤、及び前記(D)多価アルコールポリグリシジルエーテルの他に、本発明の効果を阻害しない範囲において、増粘剤、酸化防止剤、耐光向上剤、耐候向上剤等の添加剤をさらに含有していてもよい。これらの添加剤を含有する場合、その含有量は乾燥前の繊維積層体用水性接着剤全量に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0087】
本発明の繊維積層体用水性接着剤は、繊維積層体の製造の前に、前記(A)水性ポリウレタン樹脂、前記(B)水性ポリイソシアネート、前記(C)リン系難燃剤、及び前記(D)多価アルコールポリグリシジルエーテルと、必要に応じて前記添加剤とを混合して調製されることが好ましい。
【0088】
本発明の水性接着剤を用いて2つの基材を接着させる具体的手段としては、従来公知の方法を適宜採用してよく、例えば、ドライラミネート法が挙げられる。前記ドライラミネート法としては、例えば、先ず、少なくとも一方の基材に本発明の水性接着剤を塗布した後、強制的に加熱乾燥させ、次いで、他方の基材を前記接着剤塗布表面に積層し、前記接着剤塗布表面の温度を少なくとも45℃以上に保って熱圧着する方法が挙げられる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
(i)水性ポリウレタン樹脂の合成
(合成例1)
先ず、攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(重量平均分子量2,000)300g、2,2−ジメチロールプロピオン酸3.8g、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン0.02g及びメチルエチルケトン120gを入れ、これらを均一に混合した。次いで、ヘキサメチレンジイソシアネート12.0g及びイソホロンジイソシアネート37.0gをさらに加えて80℃において5時間撹拌して、イソシアネート基末端プレポリマー全量(不揮発分)に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.0質量%であるイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を30℃まで冷却し、トリエチルアミン2.8gで中和した後に水600gを徐々に加えながら、アンカー羽根を用いてイソシアネート基末端プレポリマーの乳化分散液を得た。この乳化分散液にエチレンジアミン2.0gとジエタノールアミン5.0gを添加して乳化分散せしめ、40℃において90分間反応させてポリウレタン樹脂を合成した。次いで、これを減圧下で2時間かけて50℃まで昇温することによりメチルエチルケトンを除去して、ヒドロキシル基を有する水性ポリウレタン樹脂の水分散液(水性ポリウレタン樹脂含有量:40質量%)を得た。得られた水性ポリウレタン樹脂において、2,2−ジメチロールプロピオン酸由来のカルボキシル基含有量は0.4質量%であり、ヒドロキシル基の含有量は0.5質量%であった。
【0091】
(合成例2)
先ず、攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、ポリヘキサメチレンポリ−3−メチルペンタンカーボネートジオール(重量平均分子量3,000)250.0g、1,4−ブタンジオール5.0g、2,2−ジメチロールブタン酸15.4g、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン0.02g及びメチルエチルケトン120gを入れ、これらを均一に混合した。次いで、イソホロンジイソシアネート77.1gをさらに加えて80℃において3時間撹拌して、イソシアネート基末端プレポリマー全量(不揮発分)に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.9質量%であるイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を30℃まで冷却し、トリエチルアミン10.3gで中和した後に水600gを徐々に加えながら、アンカー羽根を用いてイソシアネート基末端プレポリマーの乳化分散液を得た。この乳化分散液に水加ヒドラジンの60質量%水溶液4.6gとジエタノールアミン8.2gとを添加して乳化分散せしめ、40℃において90分間反応させてポリウレタン樹脂を合成した。次いで、これを減圧下で2時間かけて50℃まで昇温することによりメチルエチルケトンを除去して、ヒドロキシル基を有する水性ポリウレタン樹脂の水分散液(水性ポリウレタン樹脂含有量:40質量%)を得た。得られた水性ポリウレタン樹脂において、2,2−ジメチロールブタン酸由来のカルボキシル基含有量は1.3質量%であり、ヒドロキシル基の含有量は0.7質量%であった。
【0092】
(合成例3)
先ず、攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、ポリ−3−メチルペンタンアジペートジオール(重量平均分子量2,000)200.0g、ポリエチレングリコール(重量平均分子量600)14.3g、ダイマージオール(「ペスポールHP−1000」東亞合成(株)製、重量平均分子量570)38.6g、2,2−ジメチロールブタン酸16.9g、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン0.02g及びメチルエチルケトン120gを入れ、これらを均一に混合した。次いで、イソホロンジイソシアネート105.7gをさらに加えて80℃において3時間撹拌して、イソシアネート基末端プレポリマー全量(不揮発分)に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.9質量%であるイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を30℃まで冷却し、トリエチルアミン11.5gで中和した後に水600gを徐々に加えながら、アンカー羽根を用いてイソシアネート基末端プレポリマーの乳化分散液を得た。この乳化分散液に水加ヒドラジンの60質量%水溶液7.9gとジエタノールアミン9.5gを添加して乳化分散せしめ、40℃において90分間反応させてポリウレタン樹脂を合成した。次いで、これを減圧下で2時間かけて50℃まで昇温することによりメチルエチルケトンを除去して、水性ポリウレタン樹脂の水分散液(水性ポリウレタン樹脂含有量:40質量%)を得た。得られた水性ポリウレタン樹脂において、2,2−ジメチロールブタン酸由来のカルボキシル基含有量は1.3質量%であり、ヒドロキシル基の含有量は0.7質量%であった。
【0093】
(合成例4)
先ず、攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、ポリヘキサメチレンポリ−3−メチルペンタンカーボネートジオール(重量平均分子量3,000)77.8g、ポリヘキサメチレンポリ−3−メチルペンタンカーボネートジオール(重量平均分子量2,000)254.3g、2,2−ジメチロールプロピオン酸5.6g、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン0.02g及びメチルエチルケトン170gを入れ、これらを均一に混合した。次いで、ヘキサメチレンジイソシアネート28.8g及びイソホロンジイソシアネート21.8gをさらに加えて80℃において5時間撹拌して、イソシアネート基末端プレポリマー全量(不揮発分)に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.0質量%であるイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を30℃まで冷却し、トリエチルアミン4.2gで中和した後に水600gを徐々に加えながら、アンカー羽根を用いてイソシアネート基末端プレポリマーの乳化分散液を得た。この乳化分散液にジエチレントリアミン2.9gとジエタノールアミン4.6gを添加して乳化分散せしめ、40℃において90分間反応させてポリウレタン樹脂を合成した。次いで、これを減圧下で2時間かけて50℃まで昇温することによりメチルエチルケトンを除去して、ヒドロキシル基を有する水性ポリウレタン樹脂の水分散液(水性ポリウレタン樹脂含有量:40質量%)を得た。得られた水性ポリウレタン樹脂において、2,2−ジメチロールプロピオン酸由来のカルボキシル基含有量は0.4質量%であり、ヒドロキシル基の含有量は0.4質量%であった。
【0094】
(ii)水性ポリウレタン樹脂の評価
各合成例において得られた水性ポリウレタン樹脂について、以下の重量平均分子量の測定及び流出開始温度の測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0095】
<重量平均分子量の測定>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)(「HLC−8020」東ソー社製;溶媒:テトラヒドロフラン;カラム:「TSK−GEL G5000HHR」、「TSK−GEL G4000HHR」、「TSK−GEL G3000HHR」の3本(各東ソー社製)を接続;温度:40℃;速度:1.0ml/分)を用いて測定し、標準ポリスチレンにより換算することにより求めた。
【0096】
<流出開始温度の測定>
先ず、水性ポリウレタン樹脂の水分散液を、乾燥後の膜厚が0.4mmとなるように型に流し、温度20℃、相対湿度65%RHにおいて2日間乾燥させた後、120℃において45分間熱処理(キュア)し、温度20℃、相対湿度65%RHにおいて2時間調湿してポリウレタン樹脂のフィルムを得た。次いで、得られたフィルム1.2gを、オリフィス(内径1mm、長さ1mm)に入れ、高化式フローテスター(「CFT−500D」(株)島津製作所製)を用いて、荷重10kgf、昇温速度3℃/分の条件で昇温し、ポリウレタン樹脂がオリフィスの孔から流出し始める温度(℃)を測定し、これを水性ポリウレタン樹脂の流出開始温度とした。
【0097】
【表1】

【0098】
(iii)難燃剤の調製
(調製例1)
メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム(「エクソリットAP462」、クラリアントジャパン(株)製、下記式(4):
【0099】
【化4】

【0100】
[式(4)中、nは1000である。]
で表わされるポリリン酸アンモニウム塩)40質量部、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド10モル付加物4質量部、及び水56質量部を混合し、難燃剤水分散物1(難燃成分(ポリリン酸アンモニウム塩)含有量:36.2質量%)を調製した。
【0101】
(調製例2)
下記式(5):
【0102】
【化5】

【0103】
で表わされるホスフィン酸エステル40質量部、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド15モル付加物の硫酸エステルアンモニウム塩10質量部、及び水50質量部を混合し、難燃剤水分散物2(難燃成分(ホスフィン酸エステル)含有量:40質量%)を調製した。
【0104】
(調製例3)
下記式(6):
【0105】
【化6】

【0106】
で表わされるリン酸エステル40質量部、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド15モル付加物の硫酸エステルアンモニウム塩10質量部、及び水50質量部を混合し、難燃剤水分散物3(難燃成分(リン酸エステル)含有量:40質量%)を調製した。
【0107】
(調製例4)
トリス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)シアヌレート40質量部、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド15モル付加物の硫酸エステルアンモニウム塩10質量部及び水50質量部を混合し、難燃剤水分散物4(難燃成分(トリス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)シアヌレート)含有量:40質量%)を調製した。
【0108】
(iv)水性接着剤及び繊維積層体の製造
<表皮層の製造>
水性ポリウレタン樹脂組成物(「エバファノールHA−50C」日華化学(株)製)100質量部、増粘剤(「ネオステッカーS」日華化学(株)製)1質量部、架橋剤(「NKアシストCI−02」日華化学(株)製)3質量部、及び、顔料(「SAブラックDY−6」御国色素(株)製)1質量部を混合した表皮用混合液を、離型紙上に乾燥前の厚さが200μmとなるように塗布し、温風乾燥機を用いて80℃で2分間予備乾燥し、その後120℃で2分間乾燥させて表皮層を得た。
【0109】
(実施例1)
先ず、合成例1で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散液100質量部(水性ポリウレタン樹脂含有量:40質量%)、水性ポリイソシアネート(「アクアネート120」日本ポリウレタン工業(株)製、不揮発分100質量%)10質量部、調製例1で得られた難燃剤水分散物1 10質量部(難燃成分(ポリリン酸アンモニウム塩)含有量:36.2質量%)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(「デナコールEX−614B」ナガセケムテックス(株)製、不揮発分100質量%)0.6質量部、及び増粘剤(「ネオステッカーS」日華化学(株)製)0.6質量部を混合し、水性接着剤を得た。
【0110】
次いで、この水性接着剤を前記表皮層の離型紙とは反対の面上に乾燥前の厚さが200μmとなるように塗布し、温風乾燥機を用いて120℃で2分間乾燥させ、乾燥直後に接着剤塗布表面に繊維基材(ポリエステル100質量%ジャージ)を積層した。その後、120℃のカレンダーに通すことにより前記表皮層と前記繊維基材とを貼り合せた。次いで、これを50℃で2日間熟成させた後に離型紙を剥離し、表皮層と繊維基材とが積層された繊維積層体を得た。
【0111】
(実施例2〜8、比較例1〜9)
表2〜3に記載した成分及び比率で、実施例1と同様にしてそれぞれ水性接着剤を得た。また、この水性接着剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、それぞれ繊維積層体を得た。なお、表2〜3に記載の多価アルコールポリグリシジルエーテルとして用いた化合物は、それぞれ、グリセロールポリグリシジルエーテル(「デナコールEX−313」ナガセケムテックス(株)製、不揮発分100質量%)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(「デナコールEX−810」ナガセケムテックス(株)製、不揮発分100質量%)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(「デナコールEX−841」ナガセケムテックス(株)製、不揮発分100質量%、ポリオキシエチレン鎖の平均繰り返し単位数:13)である。
【0112】
(v)水性接着剤及び繊維積層体の評価
各実施例及び比較例において得られた繊維積層体について、以下の方法により接着性、難燃性及び耐熱性の評価を行った。
【0113】
<接着性評価>
繊維積層体を幅3cm×長さ10cmの大きさに切り、引張試験機(「オートグラフAG−IS」(株)島津製作所製)を用いて引張速度200mm/分で、T形剥離試験により剥離強度(N/3cm)を測定し、以下の基準:
A:剥離強度30N/3cm以上
B:剥離強度20N/3cm以上30N/3cm未満
C:剥離強度20N/3cm未満
に従って接着性を評価した。
【0114】
<難燃性評価>
自動車の難燃性基準として用いられているJIS D 1201(1998)に従い、FMVSS燃焼性試験(水平法)器を用いて試験を行い、以下の基準:
A:A標線前に自消する
B:A標線を超えて自消する
C:自己消火性なし
に従って難燃性を評価した。
【0115】
<耐熱性評価>
繊維積層体を120℃で恒温にした温風乾燥機内に400時間吊るした後、表皮層の外観変化を目視にて観察し、以下の基準:
A:離型紙由来の凹凸に変化なし
B:離型紙由来の凹凸が確認できる
C:離型紙由来の凹凸が無くなり基布の凹凸が見える
に従って耐熱性を評価した。
【0116】
実施例1〜8において得られた繊維積層体について、接着性、難燃性、耐熱性の評価を行った結果を各水性接着剤の組成と共に表2に示す。また、比較例1〜9において得られた繊維積層体について、接着性、難燃性、耐熱性の評価を行った結果を各水性接着剤の組成と共に表3に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
【表3】

【0119】
表2〜3に示した結果から明らかなように、本発明の水性接着剤を用いて得られた繊維積層体は、優れた接着性及び難燃性を有し、且つ、リン系難燃剤が含有されているにもかかわらず、ハロゲン系難燃剤を含有する水性接着剤を用いて得られた繊維積層体(比較例7〜8)と同等の耐熱性を有していることが確認された。他方、比較例1〜6及び9の水性接着剤を用いて得られた繊維積層体は、接着性は有しているものの、特に耐熱性が著しく劣ることが確認された。また、表1〜3に示した結果から明らかなように、本発明の水性接着剤であって、且つ流出開始温度が特定の範囲にある水性ポリウレタン樹脂を用いた水性接着剤は、特に優れた接着性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
以上説明したように、本発明によれば、水性且つハロゲンフリーであって、優れた難燃性及び耐熱性を有する繊維積層体を得ることができる繊維積層体用水性接着剤を提供することが可能となる。従って、本発明は、難燃性及び耐熱性が必要とされる繊維積層体、特に車輌用シート等の内装材に使用される繊維積層体の製造に適した水性接着剤として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ヒドロキシル基を有しており、且つ(a)ポリイソシアネートと(b)ポリカーボネートポリオール及びポリエステルポリオールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する多官能性化合物含有組成物とを原料として得られたものである水性ポリウレタン樹脂、(B)水性ポリイソシアネート、(C)リン系難燃剤及び(D)ポリオキシエチレン鎖を含有しない多価アルコールポリグリシジルエーテルを含有することを特徴とする繊維積層体用水性接着剤。
【請求項2】
前記(A)水性ポリウレタン樹脂が、
前記(a)ポリイソシアネートと、前記(b)多官能性化合物含有組成物と、(c)アニオン性親水基及び2個以上の活性水素を有する化合物とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーを、
(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長反応させ、
前記鎖伸長反応と同時及び/又は前記鎖伸長反応の後に、(e)ヒドロキシル基を有する第一級アミン化合物及びヒドロキシル基を有する第二級アミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を用いて前記イソシアネート基末端プレポリマーの末端イソシアネート基を封鎖することにより得られたものであり、且つ、
前記(A)水性ポリウレタン樹脂が水中に分散されていること、
を特徴とする請求項1に記載の繊維積層体用水性接着剤。
【請求項3】
前記(A)水性ポリウレタン樹脂の流出開始温度が50〜80℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維積層体用水性接着剤。
【請求項4】
前記(C)リン系難燃剤が、リン酸塩系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤及びホスフィン酸エステル系難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の繊維積層体用水性接着剤。

【公開番号】特開2013−87122(P2013−87122A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225542(P2011−225542)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】