説明

繊維素材改質剤及びそれを用いた繊維素材の改質方法

【課題】繊維素材に対して十分な柔軟性を付与し、しかも洗濯しても容易に柔軟効果が低下することがなく、かつ比較的容易に入手、製造が可能な汎用性の高い繊維素材改質剤とその改質方法を提供する。また、柔軟性と同時に、繊維素材に対して撥水性や吸水性を付与することができる繊維素材の改質方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの炭素数6〜25の炭化水素基及び炭素数1〜5の炭化水素基あるいはポリオキシアルキレン基を有する3級アミンと、エピハロヒドリンとの反応生成物を、繊維素材の改質剤として、アルカリ水溶液中で繊維素材を処理することで、繊維製品に柔軟性とともに撥水性あるいは吸水性を付与する。本発明の繊維素材改質剤で処理された繊維製品は優れた洗濯耐久性を示すとともに、アニオン性化合物あるいは両性化合物で引き続いて処理することにより、さらに撥水性あるいは吸水性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維素材改質剤ならび該改質剤を用いた繊維素材の改質方法に関する。さらに詳しくは、好適には活性水素を含有する繊維に対して、柔軟性と撥水性あるいは吸水性を付与し、かつこれらの効果が洗濯によっても失われずに持続する繊維素材改質剤ならびに改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、繊維製品は、糸の形態から織物または編物を経て縫製されることによって製品となるが、繊維が本来備えている性質だけでは多岐にわたる消費者ニーズを満たすことができないため、繊維の加工処理の段階で各種の機能性付与剤を用いて繊維を処理することにより、消費者ニーズに合ったものに改質されている。
【0003】
繊維に好ましい触感を付与する機能性付与剤として柔軟仕上剤があり、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤からなる各種の薬剤が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、スルホン酸塩型アニオン性界面活性剤と、エステル基もしくはアミド基を有する3級アミン化合物の中和塩または4級化物とを含有する柔軟仕上剤が開示されている。
【0005】
特許文献2には、スルホコハク酸エステル型アニオン性界面活性剤と、ポリエチレンポリアミン高級脂肪酸アミド型カチオン性界面活性剤と、非イオン性界面活性剤とからなる柔軟仕上剤において、当該カチオン性界面活性剤としてジエチレントリアミンなどのポリエチレンポリアミンに高級脂肪酸を反応させたアミド化合物に、さらにエピクロロヒドリンを付加した化合物が開示されている。
【0006】
しかしながら、従来の柔軟仕上剤は、繊維の処理直後の柔軟性付与には効果があるものの、耐洗濯性や耐ドライクリーニング性が劣り、実際の使用において耐久性のある柔軟性を満足できないという問題点があった。
【0007】
また、従来から耐洗濯性などの耐久性のある柔軟仕上剤として使用されているポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂等は、繊維素材に対して満足な耐久柔軟性を付与できないことが多い。また、初期柔軟性も十分でなく、実用性に欠けるという問題がある。さらに、耐久性の点では、オリゴマーから高分子の領域に属する化合物は、それが有する特有の接着力により耐久性のある柔軟性を有するが、同時に繊維相互間を接着し繊維間の静摩擦や動摩擦を大きくするため、柔軟効果自体が十分ではないという問題がある。
【0008】
一方、特許文献3には、N,N,N´,N´テトラメチル−1,2−ジアミノエタンなどの2つ以上の3級窒素原子を有するポリアミン化合物と、エピクロルヒドリンとを反応させた化合物が開示されている。しかし、この化合物は、精製セルロース繊維のフィブリル化防止剤であり、繊維自体が持つ風合いを阻害しないことが示されているに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−171399号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平5−311575号公報(請求項1、段落[0010])
【特許文献3】特開平11−279944号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、繊維素材に対して洗濯しても容易に柔軟効果が低下することがない耐久性のある柔軟性を付与する繊維素材改質剤、及びそれを用いた繊維素材の改質方法を提供することを目的とする。
また、同時に、繊維素材に対して撥水性や吸水性を付与することができる繊維素材の改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明の繊維素材改質剤は、一般式(1)で表される3級アミンと、エピハロヒドリンとの反応生成物を含有することを特徴とする。
【化1】

(式(1)中、R1は炭素数6〜25の飽和または不飽和炭化水素基であり、R2、R3は互いに独立して、炭素数6〜25の飽和または不飽和炭化水素基または炭素数1〜5の炭化水素基または−(AO)nH基である。なお、Aは炭素数2〜3のアルキレン基、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す整数である。)
【0012】
本発明の繊維素材の改質方法は、繊維素材を、上記の繊維素材改質剤を含有するアルカリ水溶液の浴中で処理することを特徴とする。これにより、繊維素材に柔軟性とともに撥水性あるいは吸水性を付与することができる。また、繊維素材改質剤を適宜選択することにより、繊維素材の撥水性や吸水性をコントロールすることができる。
【0013】
また、本発明の繊維素材の改質方法は、繊維素材を、上記の繊維素材改質剤を含有するアルカリ水溶液の浴中で処理した後、さらにアニオン性化合物または両性化合物から選ばれる1種以上の化合物を含有する浴中で処理することを特徴とする。これにより、繊維素材の撥水性あるいは吸水性がさらに向上するので、繊維素材改質剤と組合せることによって、繊維素材の撥水性や吸水性をコントロールすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の繊維素材改質剤を繊維素材の改質加工に使用することにより、繊維素材に柔軟性とともに撥水性あるいは吸水性を付与することができ、しかもこれらの効果は、洗濯後においても維持することが可能である。したがって、従来のカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤からなる柔軟剤と比較して、洗濯による繊維素材からの脱落がほとんどないので、洗濯の度に処理をすることなく柔軟効果と、撥水効果あるいは吸水効果を持続することができる。また、高分子タイプの柔軟剤と比較すると、繊維同士を接着することがないので、良好な柔軟性を付与することができる。
【0015】
さらに、本発明の繊維素材の改質方法により改質した繊維素材は、繊維製品に吸水性、速乾性などの機能を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】繊維素材改質剤による推定改質モデル。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の繊維素材改質剤は、前記一般式(1)で表される3級アミンと、エピハロヒドリンとの反応生成物を含有することを特徴とするものであり、反応には一般式(1)に示される3級アミンが使用される。
一般式(1)において、R1は炭素数6〜25、好ましくは炭素数10〜22、さらに好ましくは炭素数12〜18の飽和または不飽和炭化水素基である。炭化水素基としては、アルキル基またはアルケニル基等の脂肪族基があげられる。
R2、R3は互いに独立して、炭素数6〜25、好ましくは炭素数10〜22、さらに好ましくは炭素数12〜18の飽和または不飽和炭化水素基、または、炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3の直鎖または分岐の炭化水素基、または、−(AO)nH基である。なお、Aは炭素数2〜3のアルキレン基、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す整数である。
【0018】
上記R1、R2、R3の炭素数が全て5以下の場合は、十分な柔軟性が得られなくなり、本発明の目的を達し得なくなる。一方、分子中に炭素数26以上の炭化水素基を有する場合は、反応生成物の水に対する溶解性が低くなるため処理浴が増粘して使用し難くなる場合や、反応生成物が水に溶解しなくなり改質剤となり得なくなる場合がある。
【0019】
一般式(1)において、炭素数1〜5の直鎖または分岐の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等があげられる。特にメチル基が好ましい。
【0020】
一般式(1)において、−(AO)nH基は、Aが炭素数2〜3のアルキレン基であり、例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等があげられる。このうち、エチレン基またはプロピレン基が好ましい。平均付加モル数(n)は、好ましくは1〜50、さらに好ましくは1〜20である。また、ポリオキシアルキレン基が、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド共重合体の場合には、ブロック型、ランダム型の何れでも良い。
【0021】
具体的には、R1が炭素数6〜25の飽和または不飽和炭化水素基で、R2、R3が炭素数1〜5の直鎖または分岐の炭化水素基である3級アミンとしては、ジメチルオクチルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジブチルステアリルアミン等があげられる。
【0022】
R1、R2が炭素数6〜25の飽和または不飽和炭化水素基で、R3が炭素数1〜5の直鎖または分岐の炭化水素基である3級アミンとしては、メチルジオクチルアミン、メチルジラウリルアミン、メチルジステアリルアミン、メチルジオレイルアミン、メチルジベヘニルアミン等があげられる。
【0023】
R1が炭素数6〜25の飽和または不飽和炭化水素基で、R2、R3が−(AO)nH基である3級アミンとしては、N,N−ビス(ポリオキシエチレン(n=5))ベヘニルアミン、N,N−ビス(ポリオキシプロピレン(n=7.5))ステアリルアミン、N,N−ビス(ポリオキシエチレン(n=2.5)ポリオキシプロピレン(n=2.5))ラウリルアミン、N,N−ビス(ポリオキシエチレン(n=1))オクチルアミン等があげられる。
R1、R2が炭素数6〜25の飽和または不飽和炭化水素基で、R3が−(AO)nH基である3級アミンとしては、ポリオキシエチレン(n=20)ジステアリルアミン、オキシエチレン(n=1))ジラウリルアミン、ポリオキシエチレン(n=20)ジオレイルアミン等があげられる。
【0024】
R1、R2、R3が炭素数6〜25の飽和または不飽和炭化水素基である3級アミンとしては、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリベヘニルアミン等があげられる。
【0025】
3級アミンの好ましい具体例としては、ジメチルアルキルアミン、ジメチルアルケニルアミン、メチルジアルキルアミン、メチルジアルケニルアミン、N,N−ビス(ポリオキシアルキレン)アルキルアミンまたはこれらの混合物があげられる。ここで、アルキル基およびアルケニル基は、炭素数6〜25、好ましくは炭素数10〜22、さらに好ましくは炭素数12〜18である。
【0026】
本発明で用いる一般式(1)で表わされる3級アミンは、商業的に入手できるものを使用することもできるし、公知の方法により合成することもできる。
【0027】
本発明の繊維素材改質剤は、繊維素材に対して柔軟性を付与すると同時に撥水性あるいは吸水性を付与することができる。撥水性あるいは吸水性の付与は、主に、前記3級アミンの炭化水素基の炭素鎖長を選択することで制御することができる。
【0028】
例えば、柔軟性と同時に撥水性を付与するには、R1が炭素数20〜25の飽和炭化水素基で、R2、R2が炭素数1〜5の直鎖または分岐の炭化水素基である、3級アミンが好ましい。
【0029】
一方で、柔軟性と同時に吸水性を付与するには、R1が炭素数6〜18の飽和または不飽和の炭化水素基で、R2、R3が互いに独立して、炭素数1〜5の直鎖または分岐の炭化水素基またはポリオキシアルキレン基である、3級アミンが好ましい。
【0030】
エピハロヒドリンとしては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンがあげられるが、汎用性やコストの面からエピクロロヒドリンが好ましい。
【0031】
前記の3級アミンとエピハロヒドリンとの反応は、無機酸を用いるか否かによって、3通りの方法により実施することができる。
【0032】
無機酸を用いる場合には2通りの方法があり、1つは、3級アミンに塩酸等の無機酸水溶液を滴下して3級アミンの塩を調製した後、エピハロヒドリンを滴下する方法であり、もう1つの方法は、3級アミンにエピハロヒドリンを滴下して反応させた後、さらに塩酸等の無機酸水溶液を滴下する方法である。
【0033】
無機酸としては、塩酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等の無機酸が好ましく、塩酸が特に好ましい。
【0034】
残る1つの方法は塩酸等の無機酸を用いない方法であり、3級アミンにエピハロヒドリンを滴下して反応させるだけで反応を終了する方法である。
【0035】
これらの方法による反応生成物の詳細は不明であるが、塩酸等の無機酸を用いる2つの方法の場合の反応生成物は、下記一般式(2)に示す4級アンモニウム塩が主成分であると推定される。
【化2】

【0036】
一方、塩酸等の無機酸を用いない場合の反応生成物は、下記一般式(3)に示す4級アンモニウム塩が主成分であると推定される。
【化3】

【0037】
本発明の繊維素材改質剤による繊維素材の処理は、アルカリ水溶液中で実施する。アルカリ水溶液のpHは8以上、より好ましくは10以上であり、アルカリ水溶液としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの水溶液が好適である。
【0038】
繊維素材を、本発明の繊維素材改質剤を含有するアルカリ浴中で処理する場合、繊維素材改質剤の使用量は、繊維素材に対して、有効成分で1〜300重量%であり、好ましくは10〜250重量%、さらに好ましくは20〜200重量%である。繊維素材改質剤の使用量が1重量%以上であれば、繊維素材に対して効率よく反応し、柔軟性とともに撥水性あるいは吸水性を付与することができる。一方、使用量が300重量%以下であれば、アルカリ浴の増粘や繊維素材改質剤の分離が発生することがなく、また必要以上に使用することによって不経済となるのを避けることができる。
【0039】
繊維素材改質剤の繊維素材に対する固着量は、0.05〜10重量%であり、好ましくは0.1〜8重量%、さらに好ましくは0.2〜5重量%である。
【0040】
本発明の繊維素材改質剤を含有するアルカリ浴で繊維素材を処理する方法としては、特に限定されるものではなく、静置状態あるいは撹拌しながら繊維素材を浸漬する浸漬法、パッド・ロール法、カレンダー法、インクジェットプリント法、パッド・ドライ・キュアー法、パッド・スチーム法を含むパッディング法、捺染法、スプレー法、コールドバッチ法などを用いることができるが、中でも浸漬法が好ましい。
【0041】
本発明の繊維素材改質剤により繊維素材を改質する場合の、処理浴の浴比や処理温度、処理時間などの処理条件は、繊維素材改質剤の使用量や固着量に応じて適宜決定するが、通常、浴比は1:10〜1:20、処理温度は40〜80℃、処理時間は30〜120分で行う。
【0042】
本発明において、繊維素材は特に限定されるものではないが、繊維の構造中にヒドロキシル基やカルボキシル基などの活性水素を持つ繊維、中でも、セルロース繊維やポリビニルアルコール(ビニロン)繊維、ポリクラール繊維(ビニルアルコール−塩化ビニルグラフト繊維)が好適である。
【0043】
セルロース繊維としては、ビスコースレーヨン(普通レーヨン、ポリノジック、ポリビスコース等)、銅アンモニアレーヨン(キュプラ、ベンベルグ(登録商標)等)、精製セルロース(例えば英国コートールズ社製、製品名“テンセル”)などの再生セルロース繊維、酢酸セルロース(アセテート、ジアセテート、トリアセテート)繊維、半合成セルロース繊維、木綿繊維、麻繊維、木質繊維等があげられる。
【0044】
本発明の繊維素材改質剤は、アルカリ水溶液中で繊維素材中の活性水素と反応して脱ハロゲン反応を起こして繊維素材と反応するため、洗濯耐久性に優れた柔軟性と、同時に撥水性あるいは吸水性を付与する。
【0045】
特にセルロース繊維は、ナイロン等の合成繊維と比べて吸水性が良好であり、肌着をはじめ、様々な用途に使用されているが、一方で繊維自身が合成繊維に比べて柔軟性に劣り、また、洗濯後の乾燥時に乾きにくいという難点がある。本発明の繊維素材改質剤を用いることにより、セルロース繊維等の繊維に対して柔軟性を与えることができ、かつ、撥水性あるいは吸水性をコントロールすることが可能となる。図1は、本発明の繊維素材改質剤をセルロース繊維に適用したときの推定モデル図である。
【0046】
本発明において、繊維素材の形態は、特に限定されず、綿(ワタ)、トウ、糸、織物、編物、不織布等、何れの形態でもよい。中でも、綿(ワタ)やトウあるいは糸の状態で、本発明の繊維素材改質剤ならびに改質方法により改質した繊維素材を織物や編物とする場合は、撥水性や吸水性の異なる2種以上の繊維を使用できるため、吸水速乾性や吸放湿性等の様々な機能を織物や編物に付与することができる。
【0047】
また、繊維素材としてパルプや木材チップを用いることもでき、紙パックなどの成型品の状態で改質、あるいは成型前のパルプスラリーや木材チップスラリーの状態で改質することもできるが、成型前のパルプスラリーや木材チップスラリー中に本発明の繊維素材改質剤を添加することが工程上好ましい。
【0048】
本発明の繊維素材改質剤は、エマルションとして水に分散して使用することもできる。エマルション化の方法は、本発明の繊維素材改質剤に水を加えて、ホモミキサー等の乳化機で乳化・分散してもよいし、界面活性剤を乳化剤として加えて乳化・分散してもよい。乳化剤としては、非イオン性界面活性剤またはカチオン性界面活性剤を用いることができるが、中でも、活性水素を持たない界面活性剤が好ましい。
【0049】
本発明の繊維素材改質剤を用いる場合に、本発明による効果を阻害しない範囲で、浸透性を付与するための各種界面活性剤や、公知の繊維用柔軟剤、あるいは繊維を連続的に処理する場合に均一性を付与するためのマイグレーション防止剤や増粘剤の、繊維製品に常用される薬剤を併用することもできる。併用する薬剤は、活性水素をもたない薬剤が好ましい。
【0050】
本発明の繊維の改質法によれば、繊維素材を本発明の繊維素材改質剤で処理した後、引き続いて繊維素材をアニオン性化合物あるいは両性化合物で処理することにより、繊維素材の柔軟性に影響を及ぼすことなく、撥水性あるいは吸水性を制御することができる。また、柔軟性をさらに向上することも可能となる。アニオン性化合物、両性化合物としては、アニオン性界面活性剤あるいは両性界面活性剤から選ばれる少なくとも1種であることが、実用的であり好ましい。
【0051】
アニオン性界面活性剤としては、脂肪族カルボン酸塩、アルコールまたはアルコールのアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩、あるいはスルホン酸塩、リン酸エステル塩などが挙げられ、両性界面活性剤としてはイミダゾリニウムベタイン系、アミドプロピルベタイン系、アラニン系があげられる。
【0052】
これらのアニオン性化合物、両性化合物の中でも、アニオン性化合物が好ましい。アニオン性化合物は、本発明の繊維素材改質剤と強固に結合することが可能であるため、洗濯耐久性に優れ、また、その種類によって撥水性や吸水性がよりコントロールし易くなるためである。
【0053】
撥水性を高めるのに用いられるアニオン性化合物としては、ステアリン酸Naやベヘン酸Naなどの炭素数18〜22の石鹸や、α−オレフィンスルホン酸Na、ラウリルリン酸エステルなどのリン酸エステルがあげられる。
【0054】
一方、吸水性を高めるのに用いられるアニオン性化合物としては、ラウリン酸Naなどの炭素数10〜12の石鹸、ジオクチルスルホコハク酸Naやジオレイルスルホコハク酸Naなどのスルホコハク酸塩などがあげられる。
【0055】
また、繊維素材を本発明の繊維素材改質材で処理した後、引き続いて柔軟剤で処理することにより、さらに高い柔軟性および洗濯耐久性を付与することができる。柔軟剤は公知の化合物が使用できるが、アニオン性柔軟剤あるいは両性柔軟剤から選ばれる1種以上であることが実用的であり、中でもアニオン性柔軟剤が好ましい。
【0056】
アニオン性柔軟剤としては、長鎖アルキルスルホン酸塩やアニオン変性シリコーンの他、市販のアニオン性柔軟剤を使用することができる。中でもアニオン変性シリコーンが好ましく、特にカルボキシ変性シリコーンが洗濯耐久性の向上の面より好ましい。
【0057】
これらのアニオン性化合物あるいは両性化合物による繊維素材の処理、および、アニオン性柔軟剤あるいは両性柔軟剤による繊維素材の処理は、本発明の繊維素材改質剤で改質した繊維素材を乾燥してから処理してもよいし、本発明の繊維素材改質剤で処理し絞った状態の湿潤状態の繊維素材を引き続き処理してもよい。
【0058】
アニオン性化合物あるいは両性化合物で繊維素材を処理する方法は、前記の本発明の繊維素材改質剤による処理方法と同様の方法で行うことができる。すなわち、これらのアニオン性化合物あるいは両性化合物の水溶液を調製し、静置状態あるいは撹拌しながら繊維素材を浸漬する浸漬法、パッド・ロール法、カレンダー法、インクジェットプリント法、パッド・ドライ・キュアー法、パッド・スチーム法を含むパッディング法、捺染法、スプレー法、コールドバッチ法などにより処理することができるが、中でも浸漬法が好ましい。
【0059】
アニオン性化合物あるいは両性化合物の好ましい使用量は、繊維素材に対して有効成分で0.5〜15重量%である。
【0060】
本発明の繊維素材改質剤を含有するアルカリ水溶液の浴中で繊維素材を処理した後、さらにアニオン性化合物または両性化合物を含有する浴中で処理する場合の、処理浴の浴比や処理温度、処理時間などの処理条件は、処理化合物の種類に応じて適宜決定するが、通常、浴比は1:10〜1:20、処理温度は60〜100℃、処理時間は5〜60分で行う。その後、処理後の繊維素材を80〜100℃で30分〜60分乾燥することにより、改質した繊維素材を得ることができる。処理後の繊維素材は、必要に応じて水洗等の処理を行い、その後に乾燥してもよい。
【0061】
アニオン性柔軟剤あるいは両性柔軟剤で繊維素材を処理する方法も、前記のアニオン性化合物あるいは両性化合物による処理方法と同様の方法で行うことができる。すなわち、アニオン性柔軟剤あるいは両性柔軟剤の水溶液を調製し、静置状態あるいは撹拌しながら繊維素材を浸漬する浸漬法、パッド・ロール法、カレンダー法、インクジェットプリント法、パッド・ドライ・キュアー法、パッド・スチーム法を含むパッディング法、捺染法、スプレー法、コールドバッチ法などにより処理することができるが、中でも浸漬法が好ましい。
【0062】
アニオン性柔軟剤あるいは両性柔軟剤の好ましい使用量は、繊維素材に対して有効成分で0.5〜50重量%である。
【0063】
本発明の繊維素材改質剤を含有するアルカリ水溶液の浴中で繊維素材を処理した後、さらにアニオン性柔軟剤または両性柔軟剤を含有する浴中で処理する場合の、処理浴の浴比や処理温度、処理時間などの処理条件は、処理化合物の種類に応じて適宜決定するが、通常、浴比は1:10〜1:20、処理温度は60〜100℃、処理時間は5〜60分で行う。その後、処理後の繊維素材を80〜100℃で30分〜60分乾燥することにより、改質した繊維素材を得ることができる。処理後の繊維素材は、必要に応じて水洗等の処理を行い、その後に乾燥してもよい。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0065】
(評価方法)
本発明に用いた評価方法は以下の通りである。
(1)柔軟性
綿ブロードを使用して処理を行い、JIS L1096E法(Handle−O−Meter法)に準じて柔軟性を測定した。数値(g)は小さい方が柔軟性良好と評価した。
【0066】
(2)撥水性、吸水性
綿ブロードを用いて処理を行い、JIS L1907吸水速度B法(バイレック法)に準じて測定を行った。数値(mm)が小さい方が撥水性良好、数値(mm)が大きい方が吸水性良好と評価した。
【0067】
(3)洗濯耐久性
綿ブロードを用いて処理を行い、JIS L0217 103法に準じて、家庭洗濯を10回繰り返した。洗濯後の柔軟性および撥水性、吸水性を上記の方法で測定し、洗濯前と洗濯後での差が少ないほど洗濯耐久性が良好と評価した。
【0068】
(合成例1)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置を備えた500mlのコルベンに、100g(0.337mol)のジメチルステアリルアミンを仕込み、撹拌しながら80℃まで昇温した。80〜90℃にコントロールしながら塩酸溶液(36%)34.1g(0.337mol)を滴下した。滴下終了後、同じく80〜90℃にコントロールしながらエピクロロヒドリン31.1g(0.337mol)を滴下した。滴下終了後、90〜100℃にて2時間熟成して反応を終了し、目的の合成物を得た。次いで、水215gを添加して有効成分が40重量%になるように調製した。
【0069】
(合成例2)
合成例1と同様にして、ジメチルドデシルアミンと塩酸溶液(36%)及びエピクロロヒドリンを各0.469mol使用し、反応させて目的の合成物を得た。次いで、水を添加して有効成分が40重量%になるように調製した。
【0070】
(合成例3)
合成例1と同様にして、ジメチルベへニルアミンと塩酸溶液(36%)及びエピクロルヒドリンを各0.283mol使用し、反応させて目的の合成物を得た。次いで、水を添加して有効成分が40重量%になるように調製した。
【0071】
(合成例4)
合成例1と同様にして、メチルジドデシルアミンと塩酸溶液(36%)及びエピクロルヒドリンを各0.272mol使用し、反応させて目的の合成物を得た。次いで、水を添加して有効成分が40重量%になるように調製した。
【0072】
(合成例5)
合成例1と同様にして、メチルジオレイルアミンと塩酸溶液(36%)及びエピクロルヒドリンを各0.188mol使用し、反応させて目的の合成物を得た。次いで、水を添加して有効成分が40重量%になるように調製した。
【0073】
(合成例6)
合成例1と同様にして、N,N−ビス(ポリオキシエチレン(n=2))ステアリルアミンと塩酸溶液(36%)及びエピクロロヒドリンを各0.225mol使用し、反応させて目的の合成物を得た。次いで、水を添加して有効成分が40重量%になるように調製した。
【0074】
(比較合成例1)
合成例1と同様にして、トリメチルアミンと塩酸溶液(36%)及びエピクロルヒドリンを各1.69mol使用し、反応させて目的の合成物を得た。次いで、水を添加して有効成分が40重量%になるように調製した。
【0075】
(比較合成例2)
合成例1と同様にして、トリブチルアミンと塩酸溶液(36%)及びエピクロルヒドリンを各0.540mol使用し、反応させて目的の合成物を得た。次いで、水を添加して有効成分が40重量%になるように調製した。
【0076】
(比較合成例3)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置を備えた500mlのコルベンに、100g(0.337mol)のジメチルステアリルアミンを仕込み、撹拌しながら80℃まで昇温した後、塩化ベンジル42.7g(0.337mol)と水50gを添加し、95〜100℃にて3時間熟成して反応を終了した。次いで、水164gを添加して有効成分が40重量%になるように調製した。
【0077】
(実施例1)
合成例1で得た水溶液100g(有効成分として40g)と水酸化ナトリウム10gを水で希釈して1Lとし処理液を調製した。
処理液を60℃に加温し、浴比が1:20となるよう綿ブロード50gを60分間浸漬した。60℃の温水で2回洗浄し、次いで水で1回洗浄し、pH6に中和した後、100℃で30分間乾燥して、本発明の加工布を得た。
得られた加工布について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。ついで、加工布の洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0078】
(実施例2〜6)
合成例2〜6で調製した水溶液を用いる以外は、それぞれ実施例1と同様にして本発明の加工布を得た。得られた加工布の柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定し、ついで、加工布の洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0079】
(実施例7)
合成例1で調製した水溶液25g(有効成分として10g)と水酸化カリウム2.5gを水で希釈して1Lとし処理液を調製した。
得られた処理液を用いて、実施例1と同様にして本発明の加工布を得た。得られた加工布の柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定し、ついで、加工布の洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0080】
(比較例1〜3)
比較合成例1〜3で得た水溶液を用いる以外は、それぞれ実施例1と同様にして加工布を得た。得られた加工布の柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定し、ついで、加工布の洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0081】
(比較例4)
処理液を水のみとした以外は、実施例1と同様にして加工布を得た。得られた加工布の柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定し、ついで、加工布の洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0082】
実施例1〜7ならびに比較例1〜4の柔軟性ならびに撥水性、吸水性の測定結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1より、実施例1〜7の本発明の加工布は柔軟性に優れており、かつ、洗濯後も柔軟性の低下がないことがわかる。
【0085】
(実施例8)
実施例1と同様にして加工布を得た。得られた加工布をステアリン酸Na水溶液(処理濃度:10%owf)の浴中に、浴比1:20で、80℃で30分間浸漬し、水で1回洗浄した後、100℃、30分間乾燥して、アニオン処理加工布を得た。
得られたアニオン処理加工布について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。ついで、洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。結果を表2に示す。
【0086】
(実施例9〜14)
用いるアニオン性化合物を、表2に示すように代えた以外は、実施例8と同様にしてアニオン処理加工布を得た。なお、実施例14におけるラウリル燐酸エステルNaは、モノラウリル燐酸エステルNaとジラウリル燐酸エステルNaの混合物を使用した。
得られたアニオン処理加工布について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。ついで、洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0087】
(実施例15)
実施例2と同様にして加工布を得た。得られた加工布をステアリン酸Na水溶液(処理濃度:10%owf)の浴中に、浴比1:20で、80℃で30分間浸漬し、水で1回洗浄した後、100℃、30分間乾燥して、アニオン処理加工布を得た。
得られたアニオン処理加工布について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。ついで、洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0088】
(実施例16〜17)
用いるアニオン性化合物を、表2に示すように代えた以外は、実施例15と同様にしてアニオン処理加工布を得た。
得られたアニオン処理加工布について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。ついで、洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0089】
(実施例18)
アニオン性化合物としてベヘン酸Naを用い、その処理濃度を5%owfに代えた以外は、実施例15と同様にしてアニオン処理布を得た。
得られたアニオン処理加工布について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。ついで、洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0090】
(実施例19)
アニオン性化合物としてステアリン酸Naを用い、その処理濃度を1%owfに代えた以外は、実施例15と同様にしてアニオン処理布を得た。
得られたアニオン処理加工布について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。ついで、洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0091】
(実施例20)
両性化合物としてオクタデシルベタインを用い、その処理濃度を1%owfに代えた以外は、実施例15と同様にして両性処理布を得た。
得られた両性処理加工布について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。ついで、洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0092】
(比較例5〜7)
比較例2と同様にして加工布を得た。得られた加工布を、表2に示すアニオン性化合物の水溶液(処理濃度:10%owf)の浴中に、浴比1:20で、80℃で30分間浸漬し、水で1回洗浄した後、100℃、30分間乾燥して、アニオン処理加工布を得た。
得られたアニオン処理加工布について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。ついで、洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0093】
実施例8〜20ならびに比較例5〜7の結果を表2に示す。なお、表2には、各実施例および各比較例の対照となるアニオン処理を行う前の加工布のデータも併せて記載した。
【0094】
【表2】

【0095】
(合成例7)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置を備えた500mlのコルベンに、100g(0.337mol)のジメチルステアリルアミンを仕込み、撹拌しながら80℃まで昇温した。80〜90℃にコントロールしながらエピクロロヒドリン31.1g(0.337mol)を滴下した。滴下終了後、90〜100℃で2時間熟成して反応させた後、80〜90℃にコントロールしながら塩酸溶液(36%)34.1g(0.337mol)を滴下し、目的の合成物を得た。次いで、水を添加して有効成分が40重量%になるように調製した。
【0096】
(合成例8)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置を備えた500mlのコルベンに、100g(0.337mol)のジメチルステアリルアミンを仕込み、撹拌しながら80℃まで昇温した。80〜90℃にコントロールしながらエピクロロヒドリン31.1g(0.337mol)を滴下した。滴下終了後、90〜100℃で2時間熟成して反応させて目的の合成物を得た。次いで、水を添加して有効成分が40重量%になるように調製した。
【0097】
(実施例21)
合成例7で調製した水溶液を用いる以外は、実施例1と同様にして本発明の加工布を得た。得られた加工布について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。ついで、加工布の洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0098】
(実施例22)
合成例8で調製した水溶液を用いる以外は、実施例1と同様にして本発明の加工布を得た。得られた加工布について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。ついで、加工布の 洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0099】
実施例21ならびに22の結果を表3に示す。なお、表3には、実施例1のデータも対比として併せて記載した。
【0100】
【表3】

【0101】
(柔軟剤合成例1)
片末端カルボキシ変性シリコーンX−22−3710ST(信越化学工業株式会社製)20重量%に、非イオン系界面活性剤ノイゲンXL−100、XL140およびXL−160(第一工業製薬株式会社製)を用い、XL−100/XL−140/XL−160=3/1/2の重量比で、合計濃度が10重量%になるように添加した後、水を加えて乳化し、KOH水溶液(50%)でpHを8.0に調整して有効成分30%の柔軟剤を得た。
【0102】
(柔軟剤合成例2)
片末端カルボキシ変性シリコーンとしてBY−16−880(東レ・ダウコーニング株式会社製)を用いる以外は、柔軟剤合成例1と同様にして乳化し、KOH水溶液(50%)でpHを8.0に調整して有効成分30%の柔軟剤を得た。
【0103】
(実施例23)
実施例2と同様に処理して調製した加工布を、柔軟剤合成例1で得られた柔軟剤の浴中に、有効成分として30%owf、浴比1:20で、60℃で60分間浸漬した後、水で1回洗浄し、次いで100℃で30分間乾燥して、アニオン性柔軟剤処理加工布を得た。
得られたアニオン性柔軟剤処理加工布の柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定し、ついで、洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0104】
(実施例24)
使用するアニオン性柔軟剤として、柔軟剤合成例2で得られた柔軟剤を用いる以外は実施例23と同様にして、アニオン性柔軟剤処理加工布を得た。
得られたアニオン性柔軟剤処理加工布の柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定し、ついで、洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0105】
(実施例25)
アニオン性柔軟剤として、アニオン性の変性シリコーンであるシリコーランANS−30(一方社油脂株式会社製、有効成分24%)を用いる以外は実施例23と同様にして、アニオン性柔軟剤処理加工布を得た。
得られたアニオン性柔軟剤処理加工布の柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定し、ついで、洗濯を10回繰り返した後、柔軟性ならび撥水性、吸水性を測定した。
【0106】
実施例23〜25 の結果を表4に示す。なお、表4には、実施例2のデータも対比として併せて記載した。
【0107】
【表4】

【0108】
表4より、本発明の繊維素材改質剤で処理した後、さらに柔軟剤で処理することにより、加工布の柔軟性はさらに向上し、かつ洗濯後も柔軟性の低下がないことがわかる。
【0109】
次に、繊維素材として綿ブロードの代わりに紙素材を用いて試験を実施した。紙素材として、キムワイプ(パルプ100%、日本製紙クレシア株式会社製)を用い、柔軟性ならびに撥水性、吸水性の評価は以下のようにして行った。
(1)紙素材の柔軟性
官能(ハンドリング性)にて、処理前の紙と比較して、以下の基準で評価した。
柔軟性が認められる:○、柔軟性がやや認められる:△、柔軟性が認められない:×
(2)紙素材の撥水性、吸水性
綿ブロードの場合と同様、JIS L1907吸水速度B法(バイレック法)に準じて測定を行った。数値(mm)が小さい方が撥水性良好、数値(mm)が大きい方が吸水性良好と評価した。
【0110】
(実施例26)
合成例2で得た水溶液100g(有効成分として40g)と水酸化ナトリウム10gを水で希釈して1Lとし処理液を調製した。
処理液を60℃に加温し、浴比が1:20となるよう紙50gを60分間浸漬した。40℃の温水で2回洗浄し、次いで水で1回洗浄し、pH6に中和した後、風乾燥して、本発明の加工紙素材を得た。
得られた加工紙素材について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。
【0111】
(実施例27)
実施例26と同様にして加工紙素材を得た。得られた加工紙素材をベヘン酸カリウム溶液(処理濃度20%owf)の浴中に、浴比1:20で、80℃で30分間浸漬した後、水で1回洗浄し、風乾燥して、アニオン処理加工紙素材を得た。
得られたアニオン処理加工紙素材について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。
【0112】
(比較例8)
処理液を水とした以外は、実施例26と同様にして加工繊維素材を得た。得られた加工繊維素材について、柔軟性ならびに撥水性、吸水性を測定した。
【0113】
実施例26、27および比較例8の結果を表5に示す。
【0114】
【表5】

【0115】
表5より、本発明の繊維素材改質剤で処理することにより、パルプ素材に柔軟性と撥水性が付与できること、そして、さらにアニオン性化合物で処理することにより、柔軟性ならびに撥水性がさらに向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の繊維素材改質剤および改質方法を用いて、繊維を改質することにより、繊維に良好な柔軟性と、同時に撥水性あるいは吸水性を付与することができる。しかも、これらの柔軟性や撥水性、吸水性の機能は洗濯を繰り返しても維持されるため、柔軟な風合いと速乾機能あるいは柔軟な風合いと吸水機能を併せ持つ衣料製品に好適な繊維素材を得ることができる。
【0117】
また、本発明の繊維素材改質剤および改質方法を用いてパルプや木材チップを改質することにより、これらの改質したパルプや木材チップを、木材などの植物繊維を成形した繊維板(例えばパーティクルボードやMDF)や外壁用のパルプセメントあるいは木質セメントなどに適用することができる。
【0118】
パルプに柔軟性を付与することにより、セメントスラリーに添加した場合のパルプの分散がより容易となり、かつ機械による混合を停止しても分散状態を維持できるため、成形後のボードの強度向上や品質の安定化が図れる。また、撥水性を付与することにより、繊維板等が吸湿して膨潤し外観を損ねるという不具合を防止することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される3級アミンと、エピハロヒドリンとの反応生成物を含有することを特徴とする繊維素材改質剤。
【化1】

(式(1)中、R1は炭素数6〜25の飽和または不飽和炭化水素基であり、R2、R3は互いに独立して、炭素数6〜25の飽和または不飽和炭化水素基または炭素数1〜5の炭化水素基または−(AO)nH基である。なお、Aは炭素数2〜3のアルキレン基、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す整数である。)
【請求項2】
繊維素材を、請求項1に記載の繊維素材改質剤を含有するアルカリ水溶液の浴中で処理することを特徴とする繊維素材の改質方法。
【請求項3】
繊維素材を、請求項1に記載の繊維素材改質剤を含有するアルカリ水溶液の浴中で処理した後、さらにアニオン性化合物または両性化合物から選ばれる1種以上の化合物を含有する浴中で処理することを特徴とする繊維素材の改質方法。
【請求項4】
繊維素材が活性水素を有する繊維素材である請求項2または3に記載の繊維素材の改質方法。
【請求項5】
繊維素材が、綿、トウ、糸、織物、編物及び不織布から選ばれる少なくとも1つの形態である請求項2〜4のいずれかに記載の繊維素材の改質方法。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかに記載の繊維素材の改質方法により改質された繊維素材。


【図1】
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