説明

繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法

【課題】 重合時の安定性、加工時の安定性、耐水性、及び風合いに優れる繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】 メチルメタクリレート(x−1)、炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)、及び(メタ)アクリロニトリル(x−3)からなる群から選ばれる、少なくとも1種の単量体(X)と共に、下記一般式〔I〕、
R−(BO)−(EO)−H ・・・一般式〔I〕
〔式中、Rは分子鎖末端に結合した不飽和アルケニル基、BOはオキシブチレン基、EOはオキシエチレン基、mは2〜10の間の数値、nは10〜60の間の数値。〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)を反応性乳化剤として含有するエチレン性不飽和単量体混合物を、水中で乳化重合する繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法であり、且つ前記エチレン性不飽和単量体混合物が条件(1)〜(4)を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法に関する。更に詳しくは、重合時の安定性、加工時の安定性、耐水性、及び風合いに優れる繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維素繊維とは、一般に木質パルプを原料にセルロースだけを精製して作られた植物系繊維のことをいい、例えばテンセル、バンブー、レーヨン、綿、麻、紙等が挙げられる。
【0003】
繊維素繊維に、水性樹脂分散体に含有される樹脂を担持させる加工方法としては、例えば塗工法、含浸法、噴霧法(スプレー法)などの種々の加工方法があるが、それらの中でも繊維素繊維の改質には主に含浸法が採用されている。
【0004】
水性樹脂分散体による含浸加工後の繊維素繊維、所謂「含浸繊維素繊維」は、繊維素繊維の間隙に樹脂を介在させることにより、繊維素繊維のみでは得られない特性、例えば優れた耐水性などの特性を得ることが可能となるため、繊維素繊維の加工に用いられる水性樹脂分散体には、優れた耐水性が必須の特性として要求される。
【0005】
また、水性樹脂分散体を用いて含浸加工を行うためには、水性樹脂分散体の加工時の安定性、即ち機械的安定性が必須の特性として求められる。
【0006】
このような繊維素繊維加工用の水性樹脂分散体として、従来から(メタ)アクリル酸エステル系重合体の水性樹脂分散体が使用されており、該重合体の乳化重合時には、通常、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、あるいはポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性高分子界面活性剤などが用いられていた。
【0007】
しかしながら、これら界面活性剤を用いて得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体の水性樹脂分散体は、前述のような界面活性剤の使用量が多いため、水性樹脂分散体により形成される塗膜の耐水性、あるいは水性樹脂分散体を用いて加工した基材の耐水性に極めて劣り、決して満足できるものではなかった。
【0008】
かかる問題に対処するために、(メタ)アクリル酸エステルと、該(メタ)アクリル酸エステルに対し0.1〜20重量%のスチレンと、界面活性剤とを少なくとも含有するモノマー組成物を乳化重合する微粒子エマルジョンの製造方法が提案されており、かかる微粒子エマルジョンを用いることにより、重合時の安定性が得られ、良好な耐水性を発現し得る緻密な皮膜を形成できるという(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の製造方法では、エマルジョン粒子中に含まれるポリマーのガラス転移温度(Tg)が10〜70℃で比較的高く、耐水性が未だ不充分であり、且つ微粒子エマルジョンを容易に得ることができず、また、微粒子化された水性樹脂分散体の粘度が一般に高いために高固形分化が困難であるという問題があった。
【0010】
また、ラジカル重合可能なエチレン性単量体を、スルホコハク酸エステル系やアルキルフェノールエーテル系反応性乳化剤の存在下に、乳化重合する水性樹脂分散体の製造方法において、水と上記単量体と上記反応性乳化剤とを入れた反応釜に、上記単量体と上記反応性乳化剤と水とを含む混合物を滴下して有機系重合開始剤によりラジカル重合する水性樹脂分散体の製造方法が提案されており、かかる製造方法によれば、水性樹脂分散体の製造時における乳化安定性が良好で、樹脂の粒子径が小さく、皮膜耐水性が良好であるという(例えば、特許文献2参照。)。
【0011】
しかしながら、特許文献2記載の製造方法では、スルホコハク酸エステル系やアルキルフェノールエーテル系反応性乳化剤の使用量を多くし、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を併用しなければ、水性樹脂分散体の安定性を維持することが難しく、このような反応性乳化剤を用いたり、あるいはカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を併用したりすると、樹脂に親水性の強い極性基が過剰に導入され、耐水性が著しく低下してしまうという問題があった。
【0012】
更に、従来の繊維素繊維加工用の水性樹脂分散体では、加工時の安定性、及び風合いなどの特性も未だ不満足なものであった。
【0013】
以上のように、これまで、重合時の安定性、加工時の安定性、耐水性、及び風合いなどの特性に優れる繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法の開発が切望されていた。
【0014】
【特許文献1】特開2000−327722号公報
【特許文献2】特開平5−209007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、重合時の安定性、加工時の安定性、耐水性、及び風合いなどの特性に優れる繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、メチルメタクリレート(x−1)、炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)、及び(メタ)アクリロニトリル(x−3)からなる群から選ばれる、少なくとも1種の単量体(X)と共に、反応性乳化剤としてポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)を含有するエチレン性不飽和単量体混合物を、水中で乳化重合する繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法であり、特定の条件を満たす前記エチレン性不飽和単量体混合物を用いることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
即ち、本発明は、メチルメタクリレート(x−1)、炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)、及び(メタ)アクリロニトリル(x−3)からなる群から選ばれる、少なくとも1種の単量体(X)と共に、反応性乳化剤として下記一般式〔I〕、
R−(BO)−(EO)−H ・・・一般式〔I〕
〔式中、Rは分子鎖末端に結合した不飽和アルケニル基、BOはオキシブチレン基、EOはオキシエチレン基であり、mは2〜10の間の数値、nは10〜60の間の数値を表す。〕
で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)を含有するエチレン性不飽和単量体混合物を水中で乳化重合する繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法であり、且つ、前記エチレン性不飽和単量体混合物が下記(1)〜(4)の条件を満たすものであることを特徴とする繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法を提供することである。
条件(1)は、メチルメタクリレート(x−1)、炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)、及び(メタ)アクリロニトリル(x−3)からなる群から選ばれる、少なくとも1種の単量体(X)の前記エチレン性不飽和単量体混合物における含有率が90重量%以上であること。
条件(2)は、前記一般式〔I〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)の前記エチレン性不飽和単量体混合物における含有率が1〜10重量%であること。
条件(3)は、20℃における水への溶解度が10g/100ml以上のエチレン性不飽和単量体(x−4)のエチレン性不飽和単量体混合物における含有率が1重量%以下であること(但し、一般式〔I〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテルを除く。)。
条件(4)は、乳化重合して得られる樹脂の示差走査熱量計(DSC)によるガラス転移温度(Tg)が−40〜0℃であること。
【発明の効果】
【0018】
本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法は、従来の製造方法では必須に用いられていたカルボキシル基及びスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体等の強い親水性を有する単量体を用いずに、重合時の安定性、加工時の安定性、耐水性、及び風合いなどの優れた特性を発揮する繊維素繊維水性樹脂分散体を与えることができ、該繊維素繊維水性樹脂分散体を基材に用いた場合、加工基材として、特に耐水性が要求される繊維素繊維の加工分野、例えば壁紙、ふすま紙及び羽毛布団等の目止め防止、あるいは衣料の防水加工など、多岐にわたり極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明についてより詳しく説明する。
本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法においては、エチレン性不飽和単量体混合物を水中で乳化重合する。
【0020】
前記エチレン性不飽和単量体混合物とは、メチルメタクリレート(x−1)、炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)、及び(メタ)アクリロニトリル(x−3)からなる群から選ばれる、少なくとも1種の単量体(X)と、反応性乳化剤として前記一般式〔I〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)とを少なくとも含有し、更に、必要に応じて、その他の成分として、20℃における水への溶解度が10g/100ml未満のエチレン性不飽和単量体(x−5)を含有してなる。
【0021】
<エチレン性不飽和単量体混合物の条件(1)>
前記エチレン性不飽和単量体混合物は、必須の単量体(X)として、メチルメタクリレート(x−1)、炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)、及び(メタ)アクリロニトリル(x−3)からなる群から選ばれる、少なくとも1種の単量体を90重量%以上、より好ましくは93〜97重量%の範囲で含有してなる。
【0022】
前記単量体(X)の前記エチレン性不飽和単量体混合物における含有率が、90重量%未満では、前記単量体(X)と前記ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)とを含有するエチレン性不飽和単量体混合物として、水中で乳化重合した際に、優れた重合時の安定性、及び加工時の安定性などの特性を得ることができない。
【0023】
本願発明の製造方法では、従来の水性樹脂分散体の製造方法で必須に用いられるカルボキシル基又はスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体等の強い親水性を有する単量体を用いずに、前記単量体(X)と前記ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)とを含有するエチレン性不飽和単量体混合物を、水中で乳化重合することにより、従来の技術では達成できなかったレベルの優れた重合時の安定性、加工時の安定性、耐水性、及び風合いなどの特性を得ることができる。
【0024】
前記エチレン性不飽和単量体混合物において、単量体(X)として、メチルメタクリレート(x−1)を含有してもよく、これにより、重合時の安定性に優れると共に、共重合性に優れエチレン性不飽和単量体の未反応物を減少でき、得られる水性樹脂分散体は加工時の安定性に優れるものとなる。また、乳化重合して得られる樹脂の適切なガラス転移温度(Tg)の範囲への調整が容易にできる。
【0025】
前記エチレン性不飽和単量体混合物において、単量体(X)として、前記炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)を含有してもよく、例えば、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、その中でもブチル(メタ)アクリレートが、共重合性に優れエチレン性不飽和単量体の未反応物を減少でき、得られる水性樹脂分散体は加工時の安定性に優れ、それを加工してなる水性樹脂分散体含浸繊維素繊維の風合いに優れる点で好ましい。
前記炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)は、単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)のアルキル基は、直鎖構造でも分岐構造でも環状構造であっても構わない。
【0027】
前記炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)を用いることにより、これにより、重合時の安定性に優れると共に、共重合性に優れエチレン性不飽和単量体の未反応物を減少でき、得られる水性樹脂分散体は加工時の安定性に優れるものとなる。また、乳化重合して得られる樹脂の適切なガラス転移温度(Tg)の範囲への調整が容易にできる。
【0028】
前記エチレン性不飽和単量体混合物において、単量体(X)として、(メタ)アクリロニトリル(x−3)を含有してもよく、これにより、重合時の安定性に優れると共に、共重合性に優れエチレン性不飽和単量体の未反応物を減少でき、得られる水性樹脂分散体は加工時の安定性に優れるものとなる。また、乳化重合して得られる樹脂の適切なガラス転移温度(Tg)の範囲への調整が容易にできる。
【0029】
前記単量体(X)は、好ましくは炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)と、メチルメタクリレート(x−1)及び/又は(メタ)アクリロニトリル(x−3)を含有する混合物であるが、より好ましくはブチル(メタ)アクリレートと、メチルメタクリレート(x−1)及び/又は(メタ)アクリロニトリル(x−3)を含有する混合物である。
炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)として、ブチル(メタ)アクリレートを用いることにより、得られる水性樹脂分散体は加工時の安定性に優れ、それを加工してなる水性樹脂分散体含浸繊維素繊維は風合いに優れる。
【0030】
<エチレン性不飽和単量体混合物の条件(2)>
前記エチレン性不飽和単量体混合物は、前記単量体(X)と共に、反応性乳化剤として下記一般式〔I〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)を含有してなる。
R−(BO)−(EO)−H ・・・一般式〔I〕
【0031】
式中のRは分子鎖末端に結合した不飽和アルケニル基、BOはオキシブチレン基、EOはオキシエチレン基であり、mは2〜10の間の数値であり、より好ましくは4〜8の間の数値であり、また、nは10〜60の間の数値であり、より好ましくは20〜50の間の数値である。
【0032】
前記一般式〔I〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)のm及びnの数値が、上記範囲外であるならば、良好な状態のミセルを形成できず、重合時の安定性が不良となり、重合時にフロック(凝集物)が発生し、且つ、優れた加工時の安定性及び耐水性を有する水性樹脂分散体を得ることができない。
【0033】
前記ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)の前記エチレン性不飽和単量体混合物における含有率は、1〜10重量%の範囲であり、より好ましくは3〜7重量%の範囲である。
【0034】
前記ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)の前記エチレン性不飽和単量体混合物における含有率が、1重量%未満である場合は、重合時の安定性及び加工時の安定性に劣り、10重量%を超える場合は、使用量に比べ、重合時の安定性及び加工時の安定性の向上効果が得られず、逆に前記ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)を使用すると樹脂中の親水成分が過剰となり耐水性が低下するという弊害が生じてしまう。
【0035】
本発明で用いるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)は、ポリオキシブチレン−ポリオキシエチレンのブロック共重合体の分子鎖の片末端に不飽和アルケニル基が結合したもの(即ち「片末端不飽和アルケニル体」)であり、通常のポリオキシエチレンのみのノニオン界面活性剤に比べて、水への溶解度が低く、且つ、反応性に富むため、未反応のままフリーの形で残存する界面活性剤の量を低減できると共に、予想外に優れた耐水性などの効果を得ることができる。
【0036】
本発明の目的を阻害しない範囲であれば、樹脂の乳化重合の際に、前記ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)以外の公知の反応性乳化剤、あるいはアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、又はカチオン界面活性剤などの公知の界面活性剤を併用してもよい。
【0037】
前記アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤又はカチオン界面活性剤などの界面活性剤の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができる。
【0038】
かかる界面活性剤の併用は、耐水性を低下させるおそれがあるので、その併用は避ける方が望ましいが、併用する場合はその使用量は極力減らすべきであり、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下である。
【0039】
<エチレン性不飽和単量体混合物の条件(3)>
前記エチレン性不飽和単量体混合物は、メチルメタクリレート(x−1)、炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)、及び(メタ)アクリロニトリル(x−3)からなる群から選ばれる、少なくとも1種の単量体(X)を90重量%以上、前記ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)を1〜10重量%で含有し、且つ、20℃における水への溶解度が10g/100ml以上のエチレン性不飽和単量体(x−4)の含有率が1重量%以下であることを条件とし、より好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは使用しないことである(但し、一般式〔I〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)を除く。)。
【0040】
前記20℃における水への溶解度が10g/100ml以上のエチレン性不飽和単量体(x−4)の含有率が、1重量%を超えると、得られる樹脂の親水性が強まり、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体が十分な耐水性を得ることができない。
【0041】
前記20℃における水への溶解度が10g/100ml以上のエチレン性不飽和単量体(x−4)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリルアミド等のエチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
【0042】
また、本発明では、メチルメタクリレート(x−1)、炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)、及び(メタ)アクリロニトリル(x−3)からなる群から選ばれる、少なくとも1種の単量体(X)と共に、更に、その他の成分として、20℃における水への溶解度が10g/100ml未満のエチレン性不飽和単量体(x−5)を含有してもよい。
【0043】
前記その他の成分として使用可能な、20℃における水への溶解度が10g/100ml未満のエチレン性不飽和単量体(x−5)とは、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルスチレン等の芳香族環を有するエチレン性不飽和単量体;メチルアクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、ブタジエン、イソプレン等の脂肪族共役ジエン単量体;エチレン性不飽和ニトリル、等が挙げられ、これら化合物は単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
【0044】
但し、前記エチレン性不飽和単量体(x−5)の中でも、メチルアクリレートは、特に加水分解しやすく、加水分解すると20℃における水への溶解度が10g/100ml以上のアクリル酸とメタノールになり、水性樹脂分散体中にアクリル酸を残留させ種々の悪影響を与えるため、使用しないことが好ましいが、併用する場合であってもその使用量は最小限に留めるべきであり、その使用量は1重量%以下とする。
【0045】
<エチレン性不飽和単量体混合物の条件(4)>
本発明で、水中で乳化重合して得られる繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の樹脂の示差走査熱量計(DSC)によるガラス転移温度(Tg)は、−40〜0℃の範囲であり、より好ましくは−30〜−10℃の範囲である。
【0046】
前記樹脂のガラス転移温度(Tg)が、−40℃未満の場合には、水性樹脂分散体が粘着性を呈し、繊維素繊維への加工に際しブロッキングや加工時の安定性不良等の問題を生じる。また、0℃を超える場合には、水性樹脂分散体の皮膜造膜性が劣るばかりでなく、加工した加工基材の風合いが悪化する。
【0047】
前記樹脂のガラス転移温度(Tg)は、付加重合可能な任意のエチレン性不飽和単量体を組み合わせることで、目的に応じて調整できる。
【0048】
尚、樹脂の実際のガラス転移温度を測定する方法は、様々な方法が知られているが、本発明では示差走査熱量計(DSC)での測定方法を採用し、その内容は後述する。
【0049】
前記樹脂の製造時に使用する重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類;過酸化水素等の過酸化物、などが挙げられ、特に制限しない。
【0050】
これら過酸化物のみを用いてラジカル重合するか、或いは前記過酸化物と、例えば、アスコルビン酸、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウムのような還元剤とを併用したレドックス重合開始剤系によっても重合でき、また、例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ系開始剤を使用することも可能であり、これら化合物は、単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
【0051】
重合方法としては、例えば、使用する全てのエチレン性不飽和単量体を一括で仕込み重合する回分重合法、あるいは、エチレン性不飽和単量体の一部を重合反応中に連続で添加する半回分重合法などが挙げられ、何れの方法で行ってもよく、特に制限はない。
【0052】
重合反応中、同一温度に保つ必要はなく、重合反応の進行に伴い適宜温度調整を行いながら、加熱又は除熱をしながら重合を行ってもよく、特に限定しない。
【0053】
重合温度は使用するエチレン性不飽和単量体や重合開始剤の種類などにより異なるため、特に限定しないが、単一開始剤の場合には通常30〜100℃の範囲であり、レドックス系重合開始剤の場合には通常20〜80℃の範囲であり、逐次添加する場合には通常30〜95℃の範囲である。また、反応釜が高圧密閉系であれば、安全上問題のない範囲で100℃を超えても構わない。
【0054】
重合時間も特に限定しないが、通常1〜40時間であり、また、連続重合反応装置による連続反応も可能である。
【0055】
重合反応器内の雰囲気は特に限定しないが、重合反応を速やかに行わせるためには窒素ガス等の不活性ガスで反応開始前から置換しておくことが好ましい。
【0056】
連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸、チオグリセリン等のメルカプタン類、α−メチルスチレン・ダイマー等が挙げられ、その使用量により分子量が調整できる。これら化合物は、単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
【0057】
中和剤として用いる塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジメチルプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の水溶性の有機アミン類等が挙げられ、これらは単独使用でもよく2種以上を使用することができる。これらの中でも得られる被膜の耐水性をより向上させるためには、常温或いは加熱により飛散する塩基性物質が好ましく、アンモニアを使用することが特に好ましい。
【0058】
前記樹脂の重合では、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシラン等のビニル基含有シランカップリング剤;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のエチレン性不飽和カルボン酸のグリシジルエステル等の架橋剤を使用することで更なる耐水性の向上を図ることができる。
【0059】
また、本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体には、必要に応じて本発明の所望の効果を阻害しない範囲で、充填剤、顔料、pH調整剤、被膜形成助剤、レベリング剤、増粘剤、撥水剤、消泡剤等の公知の添加剤を適宜添加して使用することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例及び比較例により、一層具体的に説明するが、本発明はそれら実施例のみに限定されるものではない。
また、文中「部」及び「%」は特に断りのない限り重量基準であるものとする。
尚、諸物性は以下に記した方法により評価した。
【0061】
〔水性樹脂分散体の重合時の安定性の評価方法〕
水性樹脂分散体の重合時の安定性は、重合後の水性樹脂分散体を200メッシュ濾布で濾過し、濾取したフロック(凝集物)を140℃で10分間乾燥させ、乾燥後の残渣の重量を測定し、水性樹脂分散体のWET重量に対する割合(%)を計算し、計算結果を以下の基準に従い評価し、その評価結果(評価レベル5〜1)を表2に示した。評価レベルが大きい程、重合時の安定性に優れることを意味する。
重合時の安定性の判定基準
評価レベル5→割合が0.01%未満。
評価レベル4→割合が0.01%以上、0.02%未満。
評価レベル3→割合が0.02%以上、0.03%未満。
評価レベル2→割合が0.03%以上、0.04%未満。
評価レベル1→割合が0.04%以上。
【0062】
〔水性樹脂分散体の加工時の安定性の評価方法〕
水性樹脂分散体の加工時の安定性は、以下に記載するマーロン機械的安定性試験で評価を行った。得られた繊維素繊維加工用水性樹脂分散体に水を加え、固形分濃度を20%に調整したもの50gを、荷重10kgで2000回転にて10分間のシェアをかけた後、200メッシュ濾布で濾過した後の残渣量を測定し、水性樹脂分散体のSolid重量に対しての残渣量の割合(%)を測定し、測定結果を以下の基準に従い評価し、その評価結果(評価レベル5〜1)を表2に示した。評価レベルが大きい程、加工時の安定性に優れることを意味する。
加工時の安定性の判定基準
評価レベル5→濾過後の残渣量が0.05%未満。
評価レベル4→濾過後の残渣量が0.05%以上、0.15%未満。
評価レベル3→濾過後の残渣量が0.15%以上、0.25%未満。
評価レベル2→濾過後の残渣量が0.25%以上、0.35%未満。
評価レベル1→濾過後の残渣量が0.35%以上。
【0063】
〔耐水性の評価方法〕
水性樹脂分散体を常温乾燥により膜厚0.6mmのフィルム状とし、更に140℃で5分間乾燥キュアを行い、耐水性評価用のアクリル樹脂フィルムを作成した。アクリル樹脂フィルムを24時間水に浸漬させた後、樹脂フィルムの面積膨潤率を測定し、測定結果を以下の基準に従い評価し、その評価結果(評価レベル5〜1)を表2に示した。評価レベルが大きい程、耐水性に優れることを意味する。
耐水性の判定基準
評価レベル5→面積膨潤率が10%未満。
評価レベル4→面積膨潤率が10%以上、17.5%未満。
評価レベル3→面積膨潤率が17.5%以上、25%未満。
評価レベル2→面積膨潤率が25%以上、32.5%未満。
評価レベル1→面積膨潤率が32.5%以上。
【0064】
〔風合いの評価方法〕
得られた繊維素繊維加工用水性樹脂分散体に水を加え、固形分濃度を20%に調整した含浸液に、パルプ繊維不織布(約140g/mのもの。)を浸績し、加工基材に対する樹脂付着量が8〜9%になるようにマングルロールで絞り、熱風循環乾燥機にて140℃で10分間乾燥キュアを行い、加工基材を作成した。加工基材の風合いを触感により、以下の基準に従い評価し、その評価レベル(○、△、×にて表記。)を表2に示した。
風合いの判定基準
評価レベル○→風合いがソフトであり肌触りに優れる。
評価レベル△→風合いが中間的であり肌触りが普通である。
評価レベル×→風合いがハードであり肌触りに劣る。
【0065】
〔実施例1〕
表1に示した如く、撹拌装置を備えた重合容器に窒素ガスを飽和させた後、水417部を仕込み、内温60℃に昇温した。別の容器に下記式〔II〕で示した反応性乳化剤(Y)を20部、単量体(X)としてエチルアクリレート(EA)208部とブチルアクリレート(BA)135.2部とアクリロニトリル(AN)36部、架橋剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.8部、及び水160部を仕込み、攪拌を行い乳化させ、乳化液を調整した。
CH=C(CH)−CO−(BO)6.4−(EO)20.4−H ・・式〔II〕
前記乳化液の3重量%を前記重合容器に仕込み、10%過硫酸ナトリウム水溶液1.6部を添加し、重合を開始させた。次いで、残りのモノマー混合物の乳化液と10%過硫酸ナトリウム水溶液14.4部を4時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、10%過硫酸アンモニウム水溶液2部を投入し、内温60℃にて2時間保持した。次いで、冷却を行い、アンモニア水でエマルジョンをpH7.0に調整し、本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(1)を得た。評価結果を表1及び表2に示したが、本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(1)の樹脂の示差走査熱量計(DSC、TAインスツルメント株式会社製)で測定したガラス転移温度(Tg)は−13℃であり、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の重合時の安定性、加工時の安定性、耐水性、及び風合いは何れも優れていた。
【0066】
〔実施例2〕
実施例1における単量体(X)として、アクリロニトリル(AN)の代わりにメチルメタクリレート(MMA)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(2)を得た。評価結果を表1及び表2に示したが、本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の樹脂のガラス転移温度(Tg)は−22℃であり、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の重合時の安定性、加工時の安定性、耐水性、及び風合いは何れも優れていた。
【0067】
〔実施例3〕
実施例1における式〔II〕で示した反応性乳化剤の代わりに、下記式〔III〕で示した反応性乳化剤(Y)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(3)を得た。評価結果を表1及び表2に示したが、本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の樹脂のガラス転移温度(Tg)は−15℃であり、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の重合時の安定性、加工時の安定性、耐水性、及び風合いは何れも優れていた。
CH=C(CH)−CO−(BO)6.3−(EO)30.2−H ・・式〔III〕
【0068】
〔実施例4〕
実施例1における式〔II〕で示した反応性乳化剤の代わりに、下記式〔IV〕で示した反応性乳化剤(Y)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(4)を得た。評価結果を表1及び表2に示したが、本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の樹脂のガラス転移温度(Tg)は−14℃であり、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の重合時の安定性、加工時の安定性、耐水性、及び風合いは何れも優れていた。
CH=C(CH)−CO−(BO)6.2−(EO)49.3−H ・・式〔IV〕
【0069】
〔実施例5〕
実施例1におけるエチレン性不飽和単量体(X)をエチルアクリレート(EA)208部とブチルアクリレート(BA)128部とアクリロニトリル(AN)36部にし、且つ、反応性乳化剤(Y)として式〔II〕で示した反応性乳化剤20部の代わりに12部と、ポリオキシアルキレンデシルエーテル8部(ノイゲンXL−160、第一工業製薬株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様に行い、本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(5)を得た。評価結果を表1及び表2に示したが、本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の樹脂のガラス転移温度(Tg)は−15℃であり、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の重合時の安定性、加工時の安定性、耐水性、及び風合いは何れも優れていた。
【0070】
〔比較例1〕
反応性乳化剤(Y)を除くエチレン性不飽和単量体(X)の組成をエチルアクリレート(EA)208部とブチルアクリレート(BA)135.2部とメチルメタクリレート(MMA)26部、及びアクリル酸(AA)を10部用い、架橋剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.8部にした以外は、実施例1と同様に行い、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(6)を得た。評価結果を表1及び表2に示したが、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(6)の樹脂のガラス転移温度(Tg)は−20℃であり、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体は耐水性に劣っていた。
【0071】
〔比較例2〕
反応性乳化剤(Y)を除くエチレン性不飽和単量体(X)の組成をエチルアクリレート(EA)208部とブチルアクリレート(BA)135.2部とメチルメタクリレート(MMA)20部、及びアクリルアミド(AM)を16部、架橋剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.8部にした以外は、実施例1と同様に行い、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(7)を得た。評価結果を表1及び表2に示したが、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(7)の樹脂のガラス転移温度(Tg)は−16℃であり、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体は耐水性に劣っていた。
【0072】
〔比較例3〕
反応性乳化剤(Y)を除くエチレン性不飽和単量体(X)の組成をブチルアクリレート(BA)167.2部とメチルメタクリレート(MMA)212部、及び架橋剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.8部にした以外は、実施例1と同様に行い、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(8)を得た。評価結果を表1及び表2に示したが、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(8)の樹脂のガラス転移温度(Tg)は19℃であり高く、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体を用いて加工した加工基布は風合いが硬く、肌触りに極めて劣っていた。
【0073】
〔比較例4〕
反応性乳化剤(Y)を除くエチレン性不飽和単量体(X)の組成をブチルアクリレート(BA)379.2部、及び架橋剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.8部にした以外は、実施例1と同様に行い、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(9)を得た。評価結果を表1及び表2に示したが、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(9)の樹脂のガラス転移温度(Tg)は−47℃であり低く過ぎ、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体は加工時の安定性に劣っていた。
【0074】
〔比較例5〕
エチレン性不飽和単量体(X)をエチルアクリレート(EA)208部とブチルアクリレート(BA)146部とアクリロニトリル(AN)36部、及びアクリル酸(AA)を10部用い、且つ、式〔II〕で示した反応性乳化剤(Y)20部の代わりにポリオキシアルキレンデシルエーテル20部(ノイゲンXL−160、第一工業製薬製)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(10)を得た。評価結果を表1及び表2に示したが、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(10)の樹脂のガラス転移温度(Tg)は−22℃であり、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体は、重合時の安定性、加工時の安定性、及び耐水性に劣っていた。
【0075】
〔比較例6〕
表1に示した如く、撹拌装置を備えた重合容器に窒素ガスを飽和させた後、水384.3部を仕込み、内温65℃に昇温した。別の容器に式〔V〕で示した反応性乳化剤ラテムルS−180(商標名、花王株式会社製)を15部、単量体(X)としてブチルアクリレート(BA)170部とメチルメタクリレート(MMA)120部及び水281.7部を仕込み、混合しプレエマルジョンを調整した。
反応性乳化剤ラテムルS−180を15部、t−ブチルベンゾエートを0.5部、エリソルビン酸ナトリウムを0.2部、これらを前記重合容器に仕込み、5分後に、別容器にて調整したモノマー混合物、t−ブチルベンゾエート2.5部、エリソルビン酸ナトリウム0.8部の滴下を開始させた。3時間かけて滴下し、重合を行い、滴下終了後、内温80℃にて2時間加熱熟成した。次いで、冷却を行い、アンモニア水でエマルジョンをpH7.0に調整し、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(11)を得た。評価結果を表1及び表2に示したが、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体(11)の樹脂の示差走査熱量計(DSC、TAインスツルメント株式会社製)で測定したガラス転移温度(Tg)は9℃であり、繊維素繊維加工用水性樹脂分散体は、耐水性、及び風合いに劣っていた。
【0076】
【化1】

【0077】
〔式中、Rは炭素数12〜30のアルキル基を表す。〕
【0078】
【表1】

【0079】
表1中の略号は、下記の化合物名を表す。
EA ;エチルアクリレート
BA ;ブチルアクリレート
AN ;アクリロニトリル
MMA;メチルメタクリレート
AA ;アクリル酸
AM ;アクリルアミド
架橋剤;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
式[II];式〔II〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル
式[III];式〔III〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル
式[IV];式〔IV〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル
ラテムルS−180;式〔V〕で示されるスルホコハク酸型反応性乳化剤、花王株式会社製
ノイゲンXL−160;ポリオキシアルキレンデシルエーテル、第一工業製薬株式会社製
【0080】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法は、従来の製造方法では必須に用いていたカルボキシル基及びスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体等の強い親水性を有する単量体を実質的に用いずに、重合時の安定性、加工時の安定性、耐水性、及び風合いなどの優れた特性を発揮する繊維素繊維水性樹脂分散体を与えることができ、これにより得られる繊維素繊維水性樹脂分散体を基材に用いた場合、加工基材として、特に耐水性が要求される繊維素繊維の加工分野、例えば壁紙、ふすま紙及び羽毛布団等の目止め防止、あるいは衣料の防水加工など、多岐にわたり極めて有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルメタクリレート(x−1)、炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)、及び(メタ)アクリロニトリル(x−3)からなる群から選ばれる、少なくとも1種の単量体(X)と共に、反応性乳化剤として下記一般式〔I〕、
R−(BO)−(EO)−H ・・・一般式〔I〕
〔式中、Rは分子鎖末端に結合した不飽和アルケニル基、BOはオキシブチレン基、EOはオキシエチレン基であり、mは2〜10の間の数値、nは10〜60の間の数値を表す。〕
で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)を含有するエチレン性不飽和単量体混合物を水中で乳化重合する繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法であり、且つ、前記エチレン性不飽和単量体混合物が下記(1)〜(4)の条件を満たすものであることを特徴とする繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法。
条件(1);メチルメタクリレート(x−1)、炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)、及び(メタ)アクリロニトリル(x−3)からなる群から選ばれる、少なくとも1種の単量体(X)の前記エチレン性不飽和単量体混合物における含有率が90重量%以上である。
条件(2);前記一般式〔I〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)の前記エチレン性不飽和単量体混合物における含有率が1〜10重量%である。
条件(3);20℃における水への溶解度が10g/100ml以上のエチレン性不飽和単量体(x−4)のエチレン性不飽和単量体混合物における含有率が1重量%以下である(但し、一般式〔I〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)を除く。)。
条件(4);乳化重合して得られる樹脂の示差走査熱量計(DSC)によるガラス転移温度(Tg)が−40〜0℃である。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和単量体混合物における前記単量体(X)の含有率が93〜97重量%であり、前記一般式〔I〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)の含有率が3〜7重量%である請求項1記載の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項3】
前記一般式〔I〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)において、式中のRが分子鎖末端に結合した不飽和アルケニル基、BOがオキシブチレン基、EOがオキシエチレン基であり、mが4〜8の間の数値、nが20〜50の間の数値である請求項1記載の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和単量体混合物において、20℃における水への溶解度が10g/100ml以上のエチレン性不飽和単量体(x−4)の含有率が0.5重量%以下である(但し、一般式〔I〕で示されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(Y)を除く値である。)請求項1記載の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項5】
乳化重合して得られる樹脂の示差走査熱量計(DSC)によるガラス転移温度(Tg)が−30〜−5℃である請求項1記載の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項6】
前記単量体(X)が、炭素原子数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(x−2)と、メチルメタクリレート(x−1)及び/又は(メタ)アクリロニトリル(x−3)を含有する混合物である請求項1〜5の何れか一項に記載の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項7】
前記単量体(X)が、ブチル(メタ)アクリレートと、メチルメタクリレート(x−1)及び/又は(メタ)アクリロニトリル(x−3)を含有する混合物である請求項1〜5の何れか一項に記載の繊維素繊維加工用水性樹脂分散体の製造方法。



【公開番号】特開2007−119620(P2007−119620A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314329(P2005−314329)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】