説明

繊維芽細胞増殖因子制御ペプチド

【課題】毛髪成長阻害剤、脱毛剤、もしくは美白剤等として有用な新規FGF5様活性物質の提供。
【解決手段】アミノ酸配列中にGly-Ser-Leu-Tyr、Ser-Leu-Tyr、Gly-Ser-Leu、Leu-Tyr、またはLeu-Tyr-Phe-Argからなる配列を有するペプチド又はその塩からなる、少なくともFGF5様活性を有するペプチド。
【効果】FGF5アゴニストとして極めて短い配列を有し、ペプチド合成が極めて簡便で、安価で経皮吸収性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも繊維芽細胞増殖因子5(以下、FGF5という。)様活性を有するペプチド、該ペプチドを有効成分とするFGF5様薬剤、FGF5の活性促進剤、FGF5欠乏に基づく疾患の治療剤、毛髪成長阻害剤あるいは脱毛剤、若しくは美白剤あるいは日焼防止剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維芽細胞増殖因子(以下FGFと称する)といった様々なポリペプチド増殖因子が皮膚組織において発現していることが知られている。マウス及びヒトにおいては、FGFは22種類の異なる遺伝子によってコードされるが、特に、FGF5は毛成長に関与していることが報告されている(非特許文献1参照)。そこで、FGF5による毛成長抑制作用を阻害するFGF5アンタゴニストは、脱毛に対する抑制剤として期待されており(非特許文献2参照)、FGF5の一部からなるポリペプチドがFGF5アンタゴニストとして知られている(特許文献1、2、非特許文献3参照)。
【0003】
一方、FGF5の生理的機能としては、毛髪成長阻害作用の他、繊維芽細胞の増殖作用、脳神経系の栄養または機能調節作用、美白作用および紫外線防御作用などが知られており(非特許文献4、5、特許文献3、4参照)、FGF5様活性物質もしくはFGF5様活性促進物質については、これらの作用の他、毛髪成長阻害作用、脱毛作用、繊維芽細胞増殖作用。脳神経系の栄養又は機能調節作用、美白作用および紫外線防御作用に基づく様々な薬剤に利用することが期待される。このような状況下、本発明者等は、FGF5の一部アミノ酸配列を有するFGF5アゴニストがチロシナーゼ阻害作用を有し、美白剤として有用であることを見いだしている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開第2002-293720号明細書
【特許文献2】特開第2005-298371号明細書
【特許文献3】特開平09-316096号明細書
【特許文献4】特開第2000-344796号明細書
【特許文献5】特開第2007-99677号明細書
【非特許文献1】Hebert, JM., Rosenquist, T., Gotz, J. and Martin, GR.,1994. FGF-5 as a regulator of the hair growth cycle: Evidence from targeted and spontaneous mutations. Cell 78:1017-1025.
【非特許文献2】Suzuki, S., Ota Y., Ozawa K. and Imamura T. 2000. Dual-mode regulation of hair growth cycle by two Fgf-5 gene products. J. Invest. Dearmatol. 114:456-463.
【非特許文献3】Ito, C., Saitoh, Y., Fujita, Y., Yamazaki, Y., Imamura, T., Oka, S. and Suzuki, S. 2003. Decapeptide with fibroblast growth factor (FGF)-5 partial sequence inhibits hair growth suppressing activity of FGF-5. J. Cell. Physiol. 197:272-283.
【非特許文献4】Zhan, X., Bates, B., Hu, X., and Goldfarb, M., 1988. The human FGF-5 oncogene encodes a novel protein related to fibroblast growth factors. Mol. Cell Biol. 8:3487-3495.
【非特許文献5】Haub, O., Drucker, B., Goldfarb, M., 1990. Expression of the murine fibroblast growth factor-5 gene in the adult central nervous system. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 87:8022-8026.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記した特許文献に記載されているような従来のFGF5アゴニストペプチドと異なる構造をもち、かつ、ペプチド合成が簡便で、安価で、経皮吸収性にも優れた新規FGF5アゴニストペプチドを見いだし、これを用いた毛髪成長阻害剤、脱毛剤、もしくは美白剤等として有用な医薬組成物、医薬部外品組成物または化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、FGF5のアミノ酸配列を参考にして、様々なペプチドを合成し、これらペプチドのFGF5様活性を詳細に検討した。そして、これらペプチド中に、極めて低分子量で、かつ有効なFGF5様活性を有するとともに、さらにFGF5の活性を増強、促進する物質を見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は以下に示すとおりである。
【0006】
(1)アミノ酸配列中にGly-Ser-Leu-Tyr、Ser-Leu-Tyr、Gly-Ser-Leu、Leu-Tyr、または、Leu-Tyr-Phe-Argなる配列を有し、かつ少なくとも繊維芽細胞成長因子5様活性を有するペプチド又はその塩。
(2)下記(I)〜(V)のいずれかに記載のアミノ酸配列で示される上記(1)に記載のペプチド又はその塩。
(I)Gly-Ser-Leu-Tyr
(II)Ser-Leu-Tyr
(III)Gly-Ser-Leu
(IV)Leu-Tyr
(V)Leu-Tyr-Phe-Arg
(3)上記(1)又は(2)に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、繊維芽細胞成長因子5様活性を有する薬剤。
(4)上記(1)又は(2)に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、繊維芽細胞成長因子5の活性促進剤。
(5)上記(1)又は(2)に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、FGF5の欠乏により生ずる疾患の治療剤。
(6)上記(1)又は(2)に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、毛髪成長阻害剤又は脱毛剤。
(7)上記(1)又は(2)に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、チロシナーゼ阻害剤。
(8)上記(1)又は(2)に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、美白又は日焼け防止剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明のペプチドは、FGF5アゴニストとして極めて短い配列を有し、ペプチド合成が極めて簡便で、安価で経皮吸収性に優れる。また、特に、上記アミノ酸配列(IV)のペプチドは、従来、FGF5アゴニストペプチドとして知られていた上記特許文献5に記載のアミノ酸6個または、13個からなるペプチドと比較して、分子量が1/3または1/6と極めて小さい。
したがって、本発明によれば、より低分子量で、安価なFGF5様作用を有する薬剤あるいはFGF5様活性促進作用を有する薬剤を提供することが可能となり、FGF5様活性あるいはその促進作用を有効に利用できる皮膚外用剤として、特に毛髪成長阻害剤及び脱毛剤、チロシナーゼ阻害剤もしくは美白剤あるいは日焼防止剤等の開発に大いに貢献することができる。すなわち、本発明は、FGF5アゴニストペプチドを有効成分として含有し、毛髪成長阻害剤や脱毛剤、および美白剤などの皮膚外用剤として極めて有用な医薬組成物、医薬部外品組成物または化粧料を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のポリペプチドは、上記(1)に記載した配列を有するもので、少なくともFGF5様の細胞増殖活性を有する限り、本発明に包含される。アミノ酸配列の長さは特に限定はないが、アミノ酸数6個以下のペプチドが、合成のし易さ、薬剤の吸収性の点で望ましい。
本発明におけるペプチドを具体的に挙げると、例えば、以下のアミノ酸配列を有するものが挙げられる。
(I)Gly-Ser-Leu-Tyr(配列番号1)
(II)Ser-Leu-Tyr
(III)Gly-Ser-Leu
(IV)Leu-Tyr
(V)Leu-Tyr-Phe-Arg(配列番号2)
【0009】
本発明のこれらペプチドは、上記各ペプチドのN末端に1または数個のアミノ酸を有していてもよい。これに対して、C末端に1または数個のアミノ酸を付加する場合、FGF5阻害作用を有するケースが多い(特開2005-298371号公報)。
本発明のペプチドは少なくともFGF5様作用を有するほか、FGF5の活性をさらに増強・促進する作用も有する。したがって、本発明のペプチドは、毛髪成長阻害作用、繊維芽細胞の増殖作用、脳神経系の栄養または機能調節作用、毛髪成長阻害作用、チロシナーゼ阻害作用、美白作用および紫外線防御作用等を有し、FGF5欠乏が原因で生じる様々な症状、疾患を改善乃至治療し得る。
【0010】
本発明のペプチドは、ペプチド合成に通常用いられる固相法および液相法などの化学的手法により極めて容易に合成することができる。また、通常の酵素処理等の生物学的手法に従って、植物あるいは動物由来のタンパク質を酵素処理等により加水分解し、加水分解物から上記(I)〜(V)に示される配列を有するペプチドを分離精製し、FGF5様の細胞増殖活性あるいはFGF5様細胞増殖活性促進作用を指標にしてスクリーニングすることによっても得ることができる。更に、蛋白質分解酵素を多く含有する植物、食品等にペプチドとして含有しているケースもあり、これらの植物、食品等より所望のペプチドを分離精製することもできる。
【0011】
本発明の上記ペプチドは、毛髪成長阻害剤や脱毛剤または美白剤等として用いる場合、上記ペプチドまたは生理学的に許容されるその塩から選ばれる1または2種以上のペプチドをそのまま例えば水溶液の形態で用いてもよく、また、製剤学的に許容される1または2種以上の製剤添加物を用いて上記ペプチドの1または2種以上を有効成分として含む製剤形態として製造して投与することもできる。このような製剤形態としては例えばクリーム剤、噴霧剤、塗布剤、または貼付剤等の外用剤の形態が挙げられるが、例えば注射剤として患部に直接投与してもよい。さらに上記ポリペプチドは、シャンプーやリンスに配合してもよいし、例えばリポソーム等に封入して製剤を調製してもよい。
【0012】
また、後述するように、本発明のペプチドはFGF5様の細胞増殖を促進する活性を有し、例えばFGFレセプターの1つであるFGFR1(III)cを遺伝子発現操作により細胞表面に強制的に発現させたマウスIL-3依存性proB細胞であるBa/F3細胞株(R1c/Ba/F3細胞)を用いた場合、実施例2で詳述する条件においてFGF5様の細胞増殖活性は、アミノ酸配列(I)のペプチド1mM添加時で115%、アミノ酸配列(II)のペプチドでは同156%、アミノ酸配列(III)のペプチドでは同156%、アミノ酸配列(IV)のペプチドでは153%、アミノ酸配列(V)のペプチドでは159%の高い細胞増殖活性を示している。
さらに、FGF5及びこれらのペプチドを同時添加した結果、各ペプチドはFGF5による細胞増殖活性を促進することも確認されている。また、何れのペプチドも該細胞のInterleukin -3による細胞増殖に対しては作用せず、本発明のペプチドは、FGF5に対して高い特異性を有するFGF5の活性促進剤となりうるものである。
【0013】
以上、本発明のペプチドは、FGF5様の細胞増殖活性を有し、さらにFGF5の細胞増殖活性を促進する作用を有し、毛髪成長阻害剤や脱毛剤または美白剤などとして有用な医薬品、医薬部外品または化粧品を提供するものである。以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
以下の実施例1(1)は、本発明のポリペプチドのFGF5の細胞増殖活性を測定するために使用した、FGFレセプター(FGFR1(III)c)を細胞表面に有するR1c/Ba/F3細胞の調製例を示すものである。
同実施例1(2)は、本発明のアミノ酸配列(I)〜(V)のペプチドが、FGF5により増殖するR1c/Ba/F3細胞に対して、単独でFGF5様の細胞増殖活性を示すものである。これらのペプチドは、また、FGF5によるR1c/Ba/F3細胞の増殖を更に促進し、FGF5活性促進作用を有することを示した。
実施例2は、本発明のアミノ酸配列(IV)のペプチドの in vivo 作用について、毛周期の休止期にあるC3H/Heマウスに塗布することによって試験し、当該ペプチドには、発毛抑制剤としての作用があることを示したものである。
【0015】
〔実施例1〕
(1) R1c/Ba/F3細胞は以下の参考文献1に記載されているそれ自体公知の方法に従い作成した。すなわちヒトFGFR-1(III)cプラスミド(参考文献2)を電気せん孔法によりBa/F3細胞に挿入した。10% FBS、500μg/mlの抗Antibiotic G-418 Sulfate(プロメガ社)、10 ng/mlのFGF1と10μg/mlのheparinを含むRPMI培地で継代培養して形質転換させた安定なR1c/Ba/F3細胞を得た。
参考文献1;Yoneda, A., Asada, M., Oda, Y., Suzuki, M. and Imamura, T., 2000. Engineering of an FGF-proteoglycan fusion protein with heparin-independent, mitogenic activity. Nat. Biotec. 18(6):641-644.
参考文献2;Ornitz, DM., Xu, J., Colvin, JS., McEwen, DG., MacArthur, CA., Coulier, F., Gao, G. and Goldfarb, M., 1996. Receptor specificity of the fibroblast growth factor family. J. Biol. Chem. 271(25):15292-15297.
【0016】
(2) 10% FBS、500μg/mlのAntibiotic G-418 Sulfateを含むRPMI1640培地(測定用培地)の入った96穴の細胞培養用プレートに、本発明の種々の濃度のペプチド((I)〜(V))、Heparin(5μg/ml)、FGF5(1.54 x 10-9M:和光純薬工業株式会社製)、及び、測定用培地に懸濁した上記R1c/Ba/F3細胞(ウエルあたり5 x 104個)を加え、1ウエルあたり100μlの培地で、72時間培養した。R1c/Ba/F3細胞の増殖活性は、各ウエルにWST-8(和光純薬工業株式会社)溶液 5μlを加え、さらに3時間培養し、WST-8ホルマザンの産生量に伴う450 nmの発色を測定して求めた。結果を図1a、b、及び、図3a、bに示す。
【0017】
図1aは、FGF5無添加で、本発明のアミノ酸配列(I)〜(IV)のペプチド(終濃度1mM)を培養液に添加した結果を示すものであり、これらのペプチドは、いずれもFGF5様の細胞増殖活性を有することを示した。図1aによれば、FGF5様の細胞増殖活性は、ペプチド無添加時の細胞増殖活性を100%とすると、それぞれアミノ酸配列(I)のペプチド添加時では115%、アミノ酸配列(II)のペプチドでは156%、アミノ酸配列(III)のペプチドでは156%、アミノ酸配列(IV)のペプチドでは153%の細胞増殖活性を有していた。上記各ペプチドの細胞増殖活性は、各ペプチドの添加濃度を低くすると、添加濃度依存的に細胞増殖活性は低下した。
一方、図1bは、本発明の(I)〜(IV)のぺプチド(終濃度1mM)について、FGF5による細胞増殖活性を更に促進する作用(FGF5活性促進作用)について示したグラフである。図1bによれば、本発明のぺプチドのFGF5活性促進作用は、アミノ酸配列(IV)のペプチドでは、FGF5無添加でペプチド(IV)(1mM)の単独添加による細胞増殖は、450 nmの発色量で0.018であったが、FGF5及びペプチドを添加すると発色量は0.057増大し、ペプチド単独添加により誘導される細胞増殖活性を大幅に上回っていた。この結果は、当該ペプチドには、FGF5活性を増強するFGF5活性促進作用を有することが示された。FGF5の活性増強・促進作用は、本発明の(I)〜(IV)のぺプチドすべてについて示された。
【0018】
図3aは、FGF5無添加で、本発明のアミノ酸配列(V)のペプチド(終濃度1mM)を培養液に添加した結果を示すものであり、このペプチドはFGF5様の細胞増殖活性を有することを示した。図3aによれば、FGF5様の細胞増殖活性は、ペプチド無添加時の細胞増殖活性を100%とすると、ペプチド(V)(終濃度1mM)添加時では159%の細胞増殖活性を有していた。ペプチド(V)の細胞増殖活性は、ペプチドの添加濃度を低くすると、添加濃度依存的に細胞増殖活性は低下した。
一方、図3bは、本発明のアミノ酸配列(V)のペプチド(終濃度1mM及び0.1mM)について、FGF5による細胞増殖活性を更に促進する作用(FGF5活性促進作用)について示したグラフである。図3bによれば、本発明のぺプチドのFGF5活性促進作用は、アミノ酸配列(V)のペプチドでは、FGF5無添加で、ペプチド(V)(1mM)の単独添加による細胞増殖は、450 nmの発色量で0.029増大したが、FGF5存在下でペプチド(V)(1mM)を添加すると発色量は0.061増大し、ペプチド単独添加により誘導される細胞増殖活性を大幅に上回っていた。ペプチドの添加濃度を更に低くすると、FGF5存在下でペプチド(V)(終濃度0.1mM)を添加した場合では発色量の増大は0.009であり、添加濃度依存的にFGF5活性促進作用は低下した。この結果は、当該ペプチドには、FGF5活性を増強するFGF5活性促進作用を有することが示された。
【0019】
(3) ペプチドの非特異的細胞増殖活性促進作用を調べるために、FGF5とheparin に代えて、50 pg/ml のマウスIL-3を含む培地を使用する他は、上記(2)と同様にしてR1c/Ba/F3細胞増殖活性促進作用に基づく発色を測定した。その結果、上記(I)〜(V)の各ペプチドは、終濃度1mMの溶液について、IL-3によるR1c/Ba/F3細胞の増殖をほとんど促進しなかった。このことから、アミノ酸配列(I)〜(V)のペプチドは、いずれも特異性の高いFGF5活性促進作用物質であることが示された。
【0020】
〔実施例2〕
FGF5様活性物質の in vivo での作用を見るために、毛周期の休止期にあるC3H/Heマウスで試験した。
ペプチド(IV)を生理的リン酸緩衝液(PBS(-))に溶解し、同量のエタノールを添加することによって、ペプチド(IV)の50%エタノール溶液を作製した。その後、グリセロールを1%になるように添加し、被験液とした。この様にして得られたペプチド(IV)溶液(49.5%エタノール、1%グリセロールを含有)について、毛周期の休止期にある7週齢のC3H/He 雄マウスの背部皮膚に塗布した。マウスに麻酔をし、背部毛をバリカンにより優しく剃毛した。剃毛後、被験液として12mMペプチド(IV)溶液(49.5%エタノール、1%グリセロールを含有)、陽性対照として、2%ミノキシジル溶液、陰性対照として、水−エタノール−グリセロール溶液(49.5%水、49.5%エタノール、1%グリセロールを含有)、200μl をそれぞれ1群5匹のマウス背部皮膚に塗布した(第0日)。同様にして、11日間(5日目、及び6日目を除く)に渡って毎日塗布し、第7日、10日、14日、17日、22日、24日目のマウス背部の発毛状態を目視により観察し、また、写真撮影を行うとともに、発毛スコアーを得た。発毛スコアーは、1)皮膚の黒化:1点、2)短かな毛並み:2点、3)通常の毛並み:3点とし、それぞれの発毛状態の面積が全剃毛面積に対して占める割合を%で示し、以下の式で求めた。本算出法によると、全剃毛面積が通常の毛並みに回復した場合、100点となる。
発毛スコアー=(皮膚の黒化面積の割合(%)×1+(短かな毛並み面積の割合(%)×2+通常毛並み面積の割合(%)×3)/3
第一回の塗布後、第7日、10日、14日、17日、22日、24日目におけるマウス背部の発毛状態を観察した結果、図2に示す通り、ペプチド(IV)溶液塗布群は、陰性対照群(水−エタノール−グリセロール溶液(49.5%水、49.5%エタノール、1%グリセロールを含有)塗布群)に比較して発毛スコアーが低く、発毛が有意に抑制された。
【0021】
〔実施例3〕
以下の処方に従ってヘアシャンプーを製造した。
(処方)
成 分 重量%
1.12mMペプチド(IV)溶液 0.1
2.ラウリルエーテル硫酸ナトリウムエタノール 20
3.ラウリル硫酸ナトリウム 10
4.1,3ブチレングリコール 1
5.香料 適量
6.精製水 残量(全量で100とする)
上記処方成分を80℃に加熱し、攪拌混合した後、攪拌冷却し本発明のヘアシャンプーを製造した。
【0022】
〔実施例4〕
以下の処方に従ってヘアリキッドを製造した。
(処方)
成 分 重量%
1.12mMペプチド(IV)溶液 0.1
2.エタノール 40
3.グリセリン 1
4.香料 適量
5.精製水 残量(全量で100とする)
上記処方成分を加えて攪拌溶解した後、精製水を加えてヘアリキッドを製造した。
【0023】
〔実施例5〕
この実施例は、本発明であるペプチドを用いたヘアクリームの処方及び製造法を示すものである。
以下の処方に従ってヘアクリームを製造した。
(処方)
成 分 重量%
1.12mMペプチド(IV)溶液 0.1
2.流動パラフィン 40
3.ワセリン 1
4.セトステアリルアルコール 1
5.メチルポリシロキサン 1
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
7.プロピレングリコール 5
8.香料 適量
9.精製水 残量(全量で100とする)
上記処方成分を攪拌混合し、本発明のヘアクリームを製造した。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のアミノ酸配列(I)〜(IV)のペプチド(1mM)について、FGF5様のR1c/Ba/F3細胞増殖活性を測定した結果を示すグラフ(a)、及び各ペプチドによるFGF5のR1c/Ba/F3細胞増殖活性を促進する作用を測定した結果を示すグラフ(b)である。
【図2】本発明のアミノ酸配列(IV)のペプチドについて、in vivo での作用を見るために、毛周期の休止期にあるC3H/Heマウスの背部皮膚に11日間塗布した試験結果を発毛スコアーで示したグラフである。
【図3】本発明のアミノ酸配列(V)のペプチド(1mM)について、FGF5様のR1c/Ba/F3細胞増殖活性を測定した結果を示すグラフ(a)、及び、ペプチド(V)によるFGF5のR1c/Ba/F3細胞増殖活性を促進する作用を測定した結果を示すグラフ(b)である。
【図1a】

【図1b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列中にGly-Ser-Leu-Tyr、Ser-Leu-Tyr、Gly-Ser-Leu、Leu-Tyr、または、Leu-Tyr-Phe-Argなる配列を有し、かつ少なくとも繊維芽細胞成長因子5様活性を有するペプチド又はその塩。
【請求項2】
下記(I)〜(V)のいずれかに記載のアミノ酸配列で示される請求項1に記載のペプチド又はその塩。
(I)Gly-Ser-Leu-Tyr
(II)Ser-Leu-Tyr
(III)Gly-Ser-Leu
(IV)Leu-Tyr
(V)Leu-Tyr-Phe-Arg
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、繊維芽細胞成長因子5様活性を有する薬剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、繊維芽細胞成長因子5の活性促進剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とするFGF5の欠乏により生ずる疾患の治療剤。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、毛髪成長阻害剤又は脱毛剤。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、チロシナーゼ阻害剤。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする、美白又は日焼け防止剤。

【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【公開番号】特開2009−62363(P2009−62363A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201432(P2008−201432)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】