説明

繊維製フィルタ

【課題】高温多湿によりホルムアルデヒドが発生するおそれのあるバインダや難燃剤を含んでいる場合でもこのホルムアルデヒドが周囲に及ぶのを防止することで高温多湿下の長時間にわたる使用が可能な繊維製フィルタを提供する。
【解決手段】本発明の繊維製フィルタは、ガラス繊維製フィルタ素材同士をバインダで結合して構成され、このガラス繊維製フィルタ素材に、リン酸グアニジン及びヒドラジン誘導体化合物を保持してあるものである。上記ヒドラジン誘導体化合物は、耐熱性がありかつ水に対して難溶性であるため高温多湿下においてフィルタ素材から脱離することなくその機能を発揮するものであり、具体的には、ヒドラジン又はセミカルバジドと、炭素数4〜16のモノ,又はジカルボン酸、或いは芳香族モノ,又はジカルボン酸との反応生成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台所、調理場、厨房等に設置した換気扇付きのレンジフードに装着される繊維製フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラス繊維製のフィルタ素材にリン酸グアニジンを含んだ難燃剤を付着させることにより、フィルタ素材に油脂が付着してその油脂に火炎が当たった場合に着火、延焼が生じるのを防げるように難燃化した繊維製フィルタがある(特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第2788146号公報
【特許文献2】特許第3523781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の繊維製フィルタは、フィルタ素材同士を結合するバインダとして、尿素系樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等のホルムアルデヒド縮合型樹脂を使用している。このホルムアルデヒド縮合型樹脂は、高温多湿な状況で加水分解してホルムアルデヒドが発生するおそれがある。
【0005】
特許文献2の繊維製フィルタは、ホルムアルデヒド縮合型樹脂の加水分解を抑制するため、難燃剤のリン酸グアニジンをホルムアルデヒドでメチロール化している。このレンジフードフィルタも高温多湿下で長期にわたって使用すれば、メチロール化したリン酸グアニジンからホルムアルデヒドが発生するおそれがある。
【0006】
このようにホルムアルデヒドが発生してレンジフードの周囲、すなわち台所、調理場、厨房等に広がればその使用が困難になる。
【0007】
本発明は、高温多湿によりホルムアルデヒドが発生するバインダや難燃剤を含んでいる場合でもこのホルムアルデヒドが周囲に及ぶのを防止することで高温多湿下の長期にわたる使用が可能である繊維製フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、ガラス繊維製のフィルタ素材同士をバインダで結合して構成される繊維製フィルタであって、
前記ガラス繊維製のフィルタ素材には、リン酸グアニジン及びヒドラジン誘導体化合物が保持されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の繊維製フィルタにおいて、前記ヒドラジン誘導体化合物が、ヒドラジン又はセミカルバジドと、炭素数4〜16のモノ,又はジカルボン酸、或いは芳香族モノ,又はジカルボン酸との反応生成物であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の繊維製フィルタにおいて、前記バインダは、ホルムアルデヒド縮合型樹脂を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の繊維製フィルタにおいて、前記ヒドラジン誘導化合物と前記バインダとの重量比は、0.1:1.0から2.0:1.0までの範囲であることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維製フィルタにおいて、前記リン酸グアニジンは、ホルムアルデヒドでメチロール化されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の繊維製フィルタにおいて、前記ヒドラジン誘導化合物と前記メチロール化されたリン酸グアニジンとの重量比は、0.5:1.0から2.0:1.0までの範囲であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の繊維製フィルタにおいて、前記リン酸グアニジンのリン酸に対するグアニジンのモル比が1.4以上2.0以下であることを特徴とする。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の繊維製フィルタにおいて、前記ガラス繊維製フィルタ素材は、ポリリン酸アンモニウムをさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、高温多湿によりホルムアルデヒドが発生するバインダや難燃剤を含んでいる場合でも、これらバインダや難燃剤から発生したホルムアルデヒドをヒドラジン誘導体化合物(ヒドラジン誘導体群から選択された一種以上の化合物)に吸着させてこのホルムアルデヒドが周囲に広がるのを防ぐことにより、高温多湿下で長期にわたって使用可能な繊維製フィルタを提供することができる。
【0017】
しかも本発明の繊維性フィルタは、レンジフードに装着して使用している間にこの使用環境においてホルムアルデヒド等の悪臭成分が発生したとき、この悪臭成分を上記ヒドラジン誘導体化合物により吸着して良好な使用環境を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の繊維製フィルタは、台所、調理場、厨房等の換気扇付きのレンジフードに装着して使用される。この繊維製フィルタはガラス繊維製のフィルタ素材同士をバインダで結合させたものであり、このフィルタ素材は、リン酸グアニジンを含む難燃剤及びヒドラジン誘導体群から選択された一種以上の化合物(以下、ヒドラジン誘導体化合物)を保持している。
【0019】
ヒドラジン誘導体化合物は、このヒドラジン誘導体化合物をバインダに含有させることによりフィルタ素材に保持させてもよいし、難燃剤に含有させることによりフィルタ素材に保持させてもよい。またヒドラジン誘導体化合物でガラス繊維製のフィルタ素材を熱処理することにより、このヒドラジン誘導体化合物をガラス繊維製のフィルタ素材に保持させてもよい。
【0020】
上記熱処理として、(a)ヒドラジン誘導体化合物の水溶液又は水分散液中にガラス繊維製のフィルタ素材を浸漬し、高圧下で110〜150℃で10〜60分間処理すること、又は(b)ヒドラジン誘導体化合物の水溶液又は水分散液を含浸させたガラス繊維製のフィルタ素材を中間乾燥により乾燥後、130℃〜200℃で30秒〜300秒の間、乾燥処理又は蒸熱処理することにより実行される。
【0021】
上記ヒドラジン誘導体化合物は、耐熱性がありかつ水に対して難溶性であるため高温多湿下においてフィルタ素材から脱離することなくその機能を発揮するものである。具体的には、ヒドラジン又はセミカルバジドと、炭素数4〜16のモノ,又はジカルボン酸、或いは芳香族モノ,又はジカルボン酸との反応生成物である。この反応生成物は、例えばセバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸化ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒラジド等である。
【0022】
上記バインダがホルムアルデヒド縮合型樹脂を含む場合、上記ヒドラジン誘導体化合物とバインダとの重量比は、0.1:1.0から2.0:1.0までの範囲であることが好ましい。リン酸グアニジンがホルムアルデヒドでメチロール化されている場合、ヒドラジン誘導化合物とメチロール化されたリン酸グアニジンとの重量比は、0.5:1.0から2.0:1.0までの範囲であることが好ましい。最も好ましくは、ヒドラジン誘導体化合物が、上記ヒドラジン誘導体化合物とバインダとの重量比が0.1:1.0から2.0:1.0までの範囲で、かつヒドラジン誘導化合物とメチロール化されたリン酸グアニジンとの重量比が0.5:1.0から2.0:1.0までの範囲であることである。各重量比が各範囲より小さい場合、高温多湿下でバインダ(メチロール化したリン酸グアニジン)から発生するホルムアルデヒドを確実に吸着できないおそれがある。一方、各重量比が両方の範囲の上限値の大きい方より大きい場合、このヒドラジン誘導体化合物をガラス繊維製のフィルタ素材に塗布して付着させるのが困難になるおそれがあり、この大きい重量比のヒドラジン誘導体化合物をバインダ(又は難燃剤)に含有させて保持させればバインダの結合力(又は難燃剤の難燃性の程度)が低下して長期にわたる高温多湿下の使用に耐え切れないおそれがある。
【0023】
上記ガラス繊維製のフィルタ素材は、レンジフードに装着して長期にわたって高温多湿下で使用可能であり、具体的には、ガラス繊維、又はこのガラス繊維を主成分として無機繊維、セラミック繊維、金属繊維、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維、天然繊維(例えばレイヨンやトウモロコシを原料としたもの)等の不燃乃至難燃繊維を併用した繊維よりなる織布、不織布、あるいはそれらの組合せから構成されたものが用いられる。不織布は、メッシュ(網状布)や糸(例えば長手方向に)で補強したもの、織布、不織布等の製造の際に使用される樹脂加工、ゴム加工等を施したものが用いられる。フィルタ素材としては織布、不織布共に目付量が50g/m乃至300g/m程度のものが使用される。なお上記ガラス繊維製のフィルタ素材の径は、フィルタ機能(圧力損失及び被フィルタ物質の捕集率)の低下を防ぐため100mm以下にする一方で、このガラス繊維製のフィルタ素材の表面上におけるヒドラジン誘導体化合物の付着量を確保するため10mm以上にすることが好ましい。
【0024】
上記バインダとして、尿素系樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等のホルムアルデヒド縮合型樹脂、その他、ホルムアルデヒドを含まないアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、あるいは架橋反応によりホルムアルデヒドを生成しない熱硬化性水性組成物(エチレン性不飽和モノカルボン酸、エチレン性不飽和ジカルボン酸又はこれらの混合物、リン酸基を有する不飽和単量体とをラジカル重合して得られる重合体又はヒドロキシル基を有する化合物を含有する化学組成物)が用いられる。
【0025】
上記難燃剤にはリン酸グアニジンが含まれ、このリン酸に対するグアニジン(すなわちグアニジン/リン酸)のモル比は1.4以上2.0以下にされている。このモル比が1.4以上2.0以下であるリン酸グアニジンは水溶性が低く上記フィルタ素材のバインダを加水分解させることなく、難燃性を高くする。リン酸グアニジンは、そのモル比が1.4以下であると水溶性が高く上記フィルタ素材のバインダの加水分解を促進し易くなり、上記モル比が2.0以上であると難燃性が低くなる。
【0026】
上記難燃剤はポリリン酸アンモニウムをさらに含み、このポリリン酸アンモニウムは水溶性が低く上記ガラス繊維製のフィルタ素材同士の結合を維持するものであり、その分子量は500以上(好ましくは1000以上1200以下)にしたものが用いられる。
【0027】
上記難燃剤をガラス繊維製のフィルタ素材に保持(付着)させる方法は以下のものがある。第1の方法としては、この難燃剤を適当な濃度で含む水溶液としてレンジフード用フィルタ素材の表面にのみ又は表裏両面に吹き付け、次いで、刷毛、ローラ刷毛、ローラ等で1回又は2回以上塗布して乾燥させるものである。第2の方法としては、上記難燃剤を含む水溶液中にレンジフード用フィルタ素材を浸漬し、次いで、余分の上記水溶液を振り切って乾燥させる工程を1〜2回以上繰り返すものである。第3の方法としては、上記第1の方法と第2の方法とを併用するものである。塗布後の乾燥は、自然乾燥、熱風乾燥、加熱乾燥、高周波乾燥によって行う。
【0028】
以下、本発明の実施例について説明する。
本発明の実施例である繊維製フィルタは、ガラス繊維製のフィルタ(サイズは292mm×305mmであり、重量が13gであり、ガラス繊維製のフィルタ素材の径は70mmであり、バインダとしてホルムアルデヒド縮合型樹脂であるメラニン系樹脂及び尿素系樹脂を含んだものを6g採用)にヒドラジン誘導体化合物(例えばヒドラジン誘導体化合物は5%水溶液を用いて)を熱処理で保持させ、かつ、このフィルタにメチロール化したリン酸グアニジン5gを付着させたものである。ヒドラジン誘導体化合物は、ヒドラジン誘導体化合物とバインダとの重量比が0.1:1.0から2.0:1.0までの範囲内で、かつヒドラジン誘導化合物とメチロール化されたリン酸グアニジンとの重量比が0.5:1.0から2.0:1.0までの範囲内になるように設定してある。このヒドラジン誘導体化合物は、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸化ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒラジド等である。このリン酸グアニジンはそのモル比が1.4以上2.0以下である。
【0029】
実験においては、上記繊維製フィルタを5リットル(以下、リットルをLとする)のテドラーバッグに入れてからこのテドラーバッグにポンプで空気3Lを注入し、40℃の恒温乾燥機中に24時間放置して温度を40℃にし湿度を30%にした状態で、ガステック社製検知管でテドラーバッグ内のホルムアルデヒド濃度を計測してホルムアルデヒドを検出する。
【0030】
この実施例の繊維製フィルタの実験結果によれば、この実施例の繊維製フィルタはホルムアルデヒド濃度が殆ど検出されなかった(ホルムアルデヒド濃度は1.0ppm未満であった)。さらに、湿度を上げるため、上記繊維製フィルタをテドラーバッグに入れた時この繊維製フィルタの重量の1%及び3%の水分をテドラーバッグに入れた場合もホルムアルデヒド濃度は殆ど検出されなかった(ホルムアルデヒド濃度は1.0ppm未満であった)。またこの繊維製フィルタの難燃剤にポリリン酸アンモニウム(分子量500以上)を含めたときも同様であった。
【0031】
次に本発明の実施例に対する比較例について説明する。
比較例の繊維製フィルタは、実施例の繊維製フィルタに保持させたヒドラジン誘導体化合物が含まれていないことを除いて上記実施例と同じものである。この繊維製フィルタを上記実施例と同じ方法でホルムアルデヒドが発生するか否かについて実験を行った。
【0032】
この比較例の実験結果によれば、1.4ppmのホルムアルデヒドが検出され、この比較例の繊維製フィルタをテドラーバッグに入れた時にこの繊維製フィルタの重量の1%の水分を添加した場合で1.7ppmのホルムアルデヒドが検出され、同様に比較例2の繊維製フィルタの重量の3%の水分を添加した場合で1.8ppmのホルムアルデヒドが検出された。
【0033】
すなわち本実施例である繊維製フィルタは、比較例である繊維製フィルタと比較して長期にわたって、ホルムアルデヒドが発生するバインダや難燃剤を含んでいる場合でも高温多湿で使用可能であることが確認された。
【0034】
なお上記実施例の繊維製フィルタをガラス容器に置き、このガラス容器にホルムアルデヒドを注入して24時間が経過した後、ホルムアルデヒドは殆ど検出されなかった(ホルムアルデヒド濃度は1.0ppm未満であった)。一方、上記比較例のヒドラジン誘導体化合物を有していない繊維製フィルタを同一条件下に置いてホルムアルデヒドの濃度を検出したところ、その濃度は低下していなかった。すなわち本実施例の繊維製フィルタは、使用環境において発生したホルムアルデヒド等の悪臭成分の濃度を確実に低下させて良好な使用環境を確保することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維製のフィルタ素材同士をバインダで結合して構成される繊維製フィルタであって、
前記ガラス繊維製のフィルタ素材にリン酸グアニジン及びヒドラジン誘導体化合物が保持されていることを特徴とする繊維製フィルタ。
【請求項2】
前記ヒドラジン誘導体化合物が、ヒドラジン又はセミカルバジドと、炭素数4〜16のモノ,又はジカルボン酸、或いは芳香族モノ,又はジカルボン酸との反応生成物であることを特徴とする請求項1に記載の繊維製フィルタ。
【請求項3】
前記バインダは、ホルムアルデヒド縮合型樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の繊維製フィルタ。
【請求項4】
前記ヒドラジン誘導化合物と前記バインダとの重量比は、0.1:1.0から2.0:1.0までの範囲であることを特徴とする請求項3に記載の繊維製フィルタ。
【請求項5】
前記リン酸グアニジンは、ホルムアルデヒドでメチロール化されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の繊維製フィルタ。
【請求項6】
前記ヒドラジン誘導化合物と前記メチロール化されたリン酸グアニジンとの重量比は、0.5:1.0から2.0:1.0までの範囲であることを特徴とする請求項5に記載の繊維製フィルタ。
【請求項7】
前記リン酸グアニジンのリン酸に対するグアニジンのモル比が1.4以上2.0以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の繊維製フィルタ。
【請求項8】
前記ガラス繊維製フィルタ素材は、ポリリン酸アンモニウムをさらに保持することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の繊維製フィルタ。

【公開番号】特開2010−110675(P2010−110675A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283982(P2008−283982)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(593196861)ヤマトヨ産業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】