説明

繊維製品の加工方法

【課題】繊維製品表面に発生した毛羽あるいはフィブリルを効果的に除去すると共に繊維製品の脱色を行う繊維製品の加工方法である。
【解決手段】過マンガン酸塩と粒状無機塩の混合物を繊維製品に接触させて繊維製品表面の毛羽あるいは発生したフィブリルを除去する。また、過マンガン酸塩に対して異なる脱色性を示す染料を用いて染色した繊維製品に、過マンガン酸塩と粒状無機塩の混合物を接触させて繊維製品表面の毛羽あるいは発生したフィブリルを除去すると共に、繊維製品の脱色を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過マンガン酸塩と粒状無機塩の混合物を染色前あるいは染色後の繊維製品と接触させて、繊維製品の品位を著しく低下させる毛羽あるいはフィブリルを除去して繊維製品の品位を向上させる加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品は通常染色加工あるいは樹脂加工等の何らかの加工を施されて製品化されが、この過程で発生する毛羽あるいはフィブリルの多少は繊維製品の品位を決定する重要な指標の一つになっている。
特にポリノジック繊維や溶剤紡糸セルロ−ス繊維等の易フィブリル化繊維あるいはこれらを混紡、交編織した繊維製品の加工は、発生したフィブリルを除去するための工程が必須となっている。通常この工程はセルラ−ゼ等の酵素剤を用いて取り除く、所謂バイオ加工が主流になっており、例えば溶剤紡糸セルロ−ス系繊維やその構造物にアルカリ性溶液を施与して繊維を膨潤させ機械的な力でフィブリルを発現させた後、セルラーゼを施与してフィブリルを切断する方法が開示されている(特許文献1参照。)しかしながら、この方法は加工に長時間を要することと繊維径の細いフィブリルは容易に除去できても繊維径の太い毛羽まで除去し繊維製品表面をクリアーに仕上げようとすると著しい強力低下が起こり、薄物の繊維製品に適応することが困難である等の問題が残されており用途、使用方法等が限られている。
【0003】
また、近年消費者ニ−ズの多様化やファッション性の観点から、これらの繊維製品にも均一染色や捺染あるいは抜染等とは異なる人為的に斑を発生させた斑染めやデニム衣類に見られるような石洗いという軽石で繊維表面の染料を削り取るような方法、あるいは次亜塩素酸塩のような塩素系脱色剤で均一なフェ−ド調に処理して洗いざらし調外観を有する繊維製品や、顔料を吸尽染色した後、顔料の脱落しやすい性質を利用した洗い晒し調の特殊染色効果を持つ多彩な繊維製品の開発も望まれている。しかしながら石洗いという軽石で繊維表面の染料を削り取るような方法、あるいは次亜塩素酸塩のような塩素系脱色剤で均一なフェ−ド調に処理するこれらの方法は、いずれも繊維の損傷が大きく比較的厚地のデニム衣類に限定されて適用されている。また、顔料による方法では吸尽染色時の染色機の汚れが大きいことや、最終的な顔料の固定に樹脂を使用する必要があり、工程が煩雑になり、たとえ樹脂を使用したとしても濃色では洗濯堅牢度あるいは摩擦堅牢度が悪く、淡色や中間色に限定される欠点があった。
【0004】
ポリノジック繊維や溶剤紡糸セルロ−ス繊維等の易フィブリル化繊維は特に毛羽やフィブリルの発生により製品の品位が著しく低下することから、発生するフィブリルの除去と共に繊維の損傷の少ない、しかも、均一染色、捺染、抜染や洗いざらし調の多彩な彩色にも適用できる加工方法が望まれていた。
【特許文献1】特開平11−140772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、繊維を痛めることなくポリノジック繊維や溶剤紡糸セルロ−ス繊維等の易フィブリル化繊維、あるいはこれらを混紡、交編織した繊維製品に発生する毛羽、フィブリルを効果的に除去でき、同時に染色された繊維製品については、このような処理により、洗いざらし調の多彩な彩色にも適用できる加工方法を提供することにある。
【0006】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、過マンガン酸塩と粒状無機塩の混合物を繊維製品に接触させることにより、繊維製品に発生した毛羽あるいはフィブリルを効果的に除去できることを見出し、更に、過マンガン酸塩に対して異なる脱色性を示す染料を用いて染色された繊維製品を同様に処理することによって、同時に多彩な彩色加工をするという上記目的を達成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明の第一の方法は、繊維製品に過マンガン酸塩とその希釈剤である粒状無機塩の混合物を染色前に接触させて、糊抜き精練漂白工程等で繊維製品表面に発生した毛羽あるいはフィブリルを効果的に除去し、その後の工程においても毛羽あるいはフィブリルの発生がない品位の高い繊維製品を得る加工方法である。
第二の方法は、過マンガン酸塩に対して異なる脱色性を示す染料を用いてあらかじめ染色した繊維製品に、過マンガン酸塩とその希釈剤である粒状無機塩の混合物を接触させて繊維製品表面の毛羽あるいは発生したフィブリルを除去すると共に繊維製品の脱色を行う繊維製品の加工方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の染色加工方法によれば、繊維を痛めることなくポリノジック繊維や溶剤紡糸セルロ−ス繊維等の易フィブリル化繊維、あるいはこれらを混紡、交編織した繊維製品に発生する毛羽、フィブリルを効果的に除去でき、同時に染色した製品については、薄地から厚地まで均一染色、捺染、抜染や洗いざらし調の多彩な彩色が表現可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明でいう繊維製品とは、ポリノジック繊維や溶剤紡糸セルロ−ス繊維等の易フィブリル化繊維、あるいはこれらと綿、麻等の植物繊維、羊毛、絹等の動物繊維、ビスコ−スレ−ヨン、銅アンモニアレ−ヨン等の再生セルロ−ス繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維等の合成繊維等を混紡した織物またはニット及びこれらが縫製された縫製品を用いることが出来る。
本発明に用いる過マンガン酸塩は、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩を好適に用いることが出来る。具体例としては過マンガン酸リチウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム等を挙げることができるが、過マンガン酸カリウムが一般的である。これらの過マンガン酸塩は通常結晶塊として入手されるが、本発明では粒状化して使用するのが作用効果の点で望ましい。
【0010】
粒状無機塩は、過マンガン酸塩の希釈剤として過マンガン酸塩を繊維製品に適度に、均一に接触させるための重要な役割を果たしており、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩を用いることが出来る。具体例としては塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硝酸リチウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム等を挙げることができるが、反応染料用の染色助剤として多量に用いられている硫酸ナトリウムが一般的である。
【0011】
本発明では、これらの過マンガン酸塩粒状物と粒状無機塩を繊維製品に付加して処理を行うが、過マンガン酸塩を純度の高い状態で繊維製品に接触させることは繊維製品の著しい強度低下を招くので好ましくなく、無機塩で希釈された希釈過マンガン酸塩粒状物として用いるのが良い。また、繊維製品の乾燥重量に対する過マンガン酸塩の付加量は0.01〜1.0重量%と少量で十分な効果が得られるので、あらかじめ10重量%程度に粒状無機塩で希釈した物を用いる方が計量誤差も少なく、粒状無機塩との混合も容易になるので好ましい。このような希釈された過マンガン酸塩粒状物として、過マンガン酸カリウムを硫酸ナトリウムで希釈し、過マンガン酸カリウムの含有率を10重量%としたGS−KP(商品名、サン化学(株)製)が上市されている。GS−KPは本発明の過マンガン酸塩粒状物として好適に用いることが出来る。この過マンガン酸塩と無機塩の粒状混合物に、過マンガン酸塩を希釈するために更に粒状無機塩を加えることが出来る。また、本発明でいう繊維製品の乾燥重量とは標準状態(温度20℃、相対湿度65%)での繊維製品の重量である。
【0012】
次に、具体的な処理方法について説明する。第一の方法の場合、被処理物は均一染色や捺染、抜染あるいは斑染めされる前の糊抜き精練漂白等の染色前処理された繊維製品を用いて行う。過マンガン酸塩と粒状無機塩の混合物と繊維製品の接触処理は、適度な均質性を得るために動的状態で行うが、数秒〜数分間の停止が繰り返されてもかまわない。動的状態が得られれば特に装置の限定はないが、タンブラ−、ワッシャ−等を好適に用いることが出来る。染色前処理した繊維製品は、これらの回転装置に投入して湿潤状態で接触処理するが、本発明でいう湿潤状態の繊維製品とは絞り率30%〜150%の繊維製品であり、好ましくは絞り率50%〜100%の繊維製品である。予め粒状無機塩を繊維製品の乾燥重量に対して1倍重量〜5倍重量準備し、乾燥繊維製品に対して過マンガン酸塩の使用量が0.01〜1.0重量%となるよう上述のGS−KP(サン化学(株)製)を0.1重量%〜10重量%、好ましくは0.3重量%〜7重量%を該粒状無機塩と共に回転装置に投入して良く撹拌し、これに湿潤状態の繊維製品を投入して室温で5分〜60分、好ましくは10分〜40分間操作を行う。
【0013】
接触処理した繊維製品には、過マンガン酸塩と繊維等の有機物質との反応生成物である水不溶性の二酸化マンガンが付着しているので水洗して未反応の過マンガン酸塩と無機塩を除去した後、公知の方法、即ち還元剤等で処理して取り除けば毛羽あるいはフィブリルが除去された繊維製品を得ることが出来る。還元剤等で処理して二酸化マンガンを取り除いた後、公知の方法で均一染色や捺染、抜染あるいは斑染めすれば、毛羽やフィブリルが最小限に抑えられた品位の高いこれらの繊維製品を得ることが出来る。
【0014】
毛羽あるいはフィブリルが除去される反応機構は明らかではないが、おそらく強い酸化剤である過マンガン酸塩の濃度分布と関係があると思われる。本発明は半乾燥状態で反応が進むため、少量の水に溶解した過マンガン酸塩は時間の経過と共に乾燥が進み(粒状無機塩の脱水作用も関係していると思われる)繊維表面に移動する。即ち、毛羽やフィブリル中の過マンガン酸塩濃度が高まって高分子鎖の切断反応と物理的な揉みが相乗して除去されるのではないかと考えられる。
【0015】
更に、フィブリルの除去と繊維製品の脱色を同時に行う第二の方法について説明する。この方法においては、被処理物は均一染色や捺染、抜染あるいは斑染めされた繊維製品であり、染色は過マンガン酸塩に対して易脱色性から難脱色性を示す染料種属から所望の染料を選んで公知の方法で行えばよい。これらの染料として直接染料、硫化染料、酸性染料、反応染料を挙げることができるが、多彩な色相を持ちセルロ−ス系繊維の染色を中心に広く用いられている反応染料を好適に用いることが出来る。
【0016】
一例として反応性染料について述べると、反応染料の内、過マンガン酸塩に対して易脱色性を示す反応染料は例えば、スミフィックス ブリリアント オレンジ3R(Sumifix Brillant Orange 3R、住友化学工業(株)製)、スミフィックス レッド B(Sumifix Red B、住友化学工業(株)製)、スミフィックス ブリリアント レッド BB(Sumifix Brillant Red BB、住友化学工業(株)製)、チバクロン レッド FN−2BL(Cibacron Red FN-2BL、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)、スミフィックス ブリリアント ブルー R(Sumifix Brillannt Blue R、住友化学工業(株)製)、スミフィックス スプラ ブルー BRF (Sumifix Supra Blue BRF、住友化学工業(株)製)、チバクロン ブリリアントブルー FN−G(Cibacron Brillant Blue FN-G、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)、チバクロン ブルー FN−R(Cibacron Blue FN-R、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)、レアノヴァ ブルー CA(ReaNova Blue CA、ダイスター・ジャパン(株)製)等を挙げることができる。
【0017】
また、難脱色性を示す反応染料としては例えば、スミフィックス イエロー GR(Sumifix Yellow GR、住友化学工業(株)製)、スミフィックス スプラ イエロー 3RF(Sumifix Supra Yellow 3RF、住友化学工業(株)製)、チバクロン イエロー FN−2R(Cibacron Yellow FN-2R、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)、レアノヴァ イエロー CA(ReaNova Yellow CA、ダイスター・ジャパン(株)製)、スミフィックス スプラ レッド 3BF(Sumifix Supra Red 3BF、住友化学工業(株)製)、チバクロン レッド FN−R(Cibacron Red FN-R、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)、レアノヴァ レッド CA(ReaNova Red CA、ダイスター・ジャパン(株)製)スミフィックス スプラ ブルー E−XF(Sumifix Supra Blue E-XF、住友化学工業(株)製)、レアノヴァ ネイヴイ CA(ReaNova Navy CA、ダイスター・ジャパン(株)製)等を挙げることができる。
【0018】
次いで、脱色と毛羽あるいはフィブリルの除去を行うが、これらの反応は同時進行し上述した第一の方法と同様の方法で行えば、毛羽やフィブリルが最小限に抑えられ、適度な脱色作用により品位の高い自然な洗いざらし調の外観を有する繊維製品を得ることが出来る。還元剤等で処理して二酸化マンガンを取り除いた後、必要に応じてソ−ピング、樹脂加工、仕上げ油剤処理等の工程に移るが、これらの工程は特に限定されるものではなく一般的な方法で行うことが出来る。
【0019】
本発明は、湿潤状態の繊維製品に過マンガン酸塩とその希釈剤である粒状無機塩の混合物を動的状態で接触させて、染色までの工程で繊維製品表面に発生した毛羽あるいはフィブリルの除去をし、染料を適宜選択すれば、毛羽あるいはフィブリルを除去すると共に斑染めされた洗いざらし調の外観を有し、なおかつ品位の高い繊維製品を得ることができる。また、本加工方法は半乾燥状態で反応が進むため損傷を受ける繊維は繊維製品表面の極めて浅い部分のみに留まり、製品強度に与える影響を最小限に留めることが出来る。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこの範囲に限定されるものではない。なお、本実施例中の品位、生地強度の測定は下記方法に基づいた。
・品位 試料を5人の検査員で目視判定し、下記の基準で合議して判定した。
〇:毛羽やフィブリルの発生が少なく、外観が優れている。
△:フィブリルの発生は少ないが、毛羽がやや目立ち外観がやや劣る。
×:毛羽やフィブリルの発生が多く、外観が劣る。
・生地強度 JIS L 1018 8.17A法(ミュ−レン法)
【0021】
〔実施例1〕
テンセル(登録商標)80番双糸天竺ニット生地試料を三つ用意しそれぞれ試料1、比較試料1、比較試料2とした。装置として神前鉄工(株)製の神前式洗濯機(型式:ミニ試験機)を用いて精練剤である商品名エスピト−ルBSconc(サン化学(株)製)を1g/リットルと炭酸ナトリウムを2g/リットル含む処理浴中で浴比1:20、80℃で30分間精練した後、試料1を絞り率が80%になるように脱水した後、あらかじめ、試料1の乾燥重量の2.5倍重量の粒状硫酸ナトリウムと、該粒状硫酸ナトリウムに対して2.5重量%のGS−KPを目張りした神前鉄工(株)製の神前式洗濯機(型式:ミニ試験機)に投入して良く撹拌し、これに脱水した試料1を投入し室温で30分間接触処理を行った。接触処理した試料1を取り出して水洗した後、2.5g/Lの還元剤である製品名GS−N(サン化学(株)製)を含む処理浴中で浴比1:20、60℃で15分間処理した後水洗して試料1に付着した二酸化マンガンを水溶化して除去し水洗した。
【0022】
別に、比較試料1を精練処理と同じ装置を用いて、セルラ−ゼを含む酵素剤である商品名セルライザ−HP(長瀬生化学工業(株)製)を1.5g/リットル、酢酸を0.5g/リットル、酢酸ナトリウムを1.0g/リットル含むpHが5.2の処理浴中で浴比1:20、50℃で60分間処理し水洗した後、90℃で10分間酵素の失活処理を行い水洗した。次いで、精練処理、接触処理、還元処理した試料1に精練処理、酵素処理、失活処理した比較試料1と精練処理した比較試料2を加えてスミフィックス スプラ イエロー 3RF(Sumifix Supra Yellow 3RF 150%、住友化学工業(株)製)を試料1、比較試料1、比較試料2の合計に対して0.86重量%と、スミフィックス スプラ ブリリアント レッド 3BF(Sumifix Supra Brillant Red 3BF 150%、住友化学工業(株)製)を試料1、比較試料1、比較試料2の合計に対して0.73重量%と、スミフィックス スプラ ブルー 3BRF(Sumifix Supra Blue BRF 150%、住友化学工業(株)製)を試料1、比較試料1、比較試料2の合計に対して0.62重量%の染料を配合して反応染料の染色方法に準じて常法で染色し、さらに2g/Lのソ−ピング剤である商品名トライポンP−60(一方社油脂工業(株)製)を含む処理浴中で浴比1:20、80℃で15分間ソ−ピングして水洗し、2g/Lの仕上げ油剤である製品名FS−W−100を含む処理浴中で浴比1:20、50℃で10分間油剤処理した後、脱水乾燥して濃茶色に均一に染色された試料1と比較試料1と比較試料2を得た。得られた試料1、比較試料1、比較試料2の品位、生地強度の測定結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1から明らかなように、本発明の試料1は試料表面の毛羽やフィブリルが最小限に抑えられ、均一に濃茶色に染色された品位の高い試料であったのに対して、本発明によらない比較試料1はフィブリルの発生は抑えられているものの毛羽がやや認められ、生地強度もやや劣り、これ以上の毛羽の除去を目的に酵素濃度を高くすると、生地強度が実用強度に満たなくなる可能性がある濃茶色に染色された品位のやや劣る試料であった。比較試料2は、試料表面全面に毛羽やフィブリルが発生し、濃茶色に染色された品位の劣る試料であった。また、本発明の試料1の生地強度は、表1から分かるように接触処理、酵素処理のない比較試料2と比較して若干の低下は見られるが、この程度の低下は実用上問題になるものではない。
【0025】
〔実施例2〕
テンセル(登録商標)70%と綿30%混紡糸の80番双糸天竺ニット生地試料を二つ用意し、一方を試料2、他方を比較試料3とした。通常の方法で精練漂白した後、試料2を実施例1と同様の方法で接触処理、還元処理を行った。次いで、試料2に比較試料3を加えて実施例1と同様の方法で染色、ソ−ピング、油剤処理、乾燥を行い濃茶色に均一に染色された試料2と比較試料3を得た。得られた試料2、比較試料3の品位、生地強度の測定結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2から明らかなように、本発明の試料2はテンセルと綿の混紡試料であっても試料表面の毛羽やフィブリルが最小限に抑えられ、均一に濃茶色に染色された品位の高い試料であったのに対して、本発明によらない比較試料3は、試料表面全面に毛羽やフィブリルが発生し、濃茶色に染色された品位の劣る試料であった。また、生地強度は、表2から分かるように試料2に若干の低下は見られるが、この程度の低下は実用上問題になるものではない。
【0028】
〔実施例3〕
テンセル(登録商標)70%と防縮加工された羊毛30%混紡糸の60番双糸天竺ニット生地試料を二つ用意し、一方を試料3、他方を比較試料4とした。羊毛が混紡された試料を処理する通常の方法で精練漂白した後、試料3を実施例1と同様の方法で接触処理、還元処理を行った。次いで、試料3に比較試料4を加えてレアノヴァ イエロー CA(ReaNova Yellow CA、ダイスター・ジャパン(株)製)を試料3、比較試料4の合計に対して0.78重量%とレアノヴァ レッド CA(ReaNova Red CA、ダイスター・ジャパン(株)製)を試料3、比較試料4の合計に対して0.74重量%とレアノヴァ ブルー CA(ReaNova Blue CA、ダイスター・ジャパン(株)製)を試料3、比較試料4の合計に対して0.51重量%の染料を配合する他は実施例1と同様に染色、ソ−ピング、油剤処理、乾燥を行い濃茶色に均一に染色された試料3と比較試料4を得た。得られた試料3、比較試料4の品位、生地強度の測定結果を表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
表3からから明らかなように、本発明の試料3はテンセルと羊毛の混紡試料であっても試料表面の毛羽やフィブリルが最小限に抑えられ、均一に濃茶色に染色された品位の高い試料であったのに対して、本発明によらない比較試料4は、試料表面全面に毛羽やフィブリルが発生し、濃茶色に染色された品位の劣る試料であった。また、生地強度は、表3から分かるように試料3に若干の低下は見られるが、この程度の低下は実用上問題になるものではない。
【0031】
〔実施例4〕
実施例1の試料を実施例1と同様に精練し、過マンガン酸塩に対して易脱色性を示すスミフィックス ブリリアント レッド BB150%(Sumifix Brillant Red BB、住友化学工業(株)製)を試料に対して2.4重量%と過マンガン酸塩に対して難脱色性を示すチバクロン イエロー FN−2R(Cibacron Yellow FN-2R、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)を試料に対して0.9重量%を配合して常法で染色し、実施例1と同様の方法でソ−ピングした二つの試料を用意して、一方を試料4、他方を比較試料5とした。試料4を、実施例1と同様に接触処理と還元処理を行った後、1g/Lのソ−ピング剤である商品名トライポンP−60(一方社油脂工業(株)製)を含む処理浴中で浴比1:20、80℃で15分間ソ−ピングして水洗した。次いで、比較試料5を加えて油剤処理、乾燥して、染色された試料4と比較試料5を得た。得られた試料4、比較試料5の品位、生地強度の測定結果を表4に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
試料4は、過マンガン酸塩に対して易脱色性を示す赤色染料のみが脱色されたために脱色地が黄色で、未脱色の赤色とのコントラストが華やかななかにも自然な洗いざらし調であり、しかも表4から明らかなように毛羽やフィブリルの発生の少ない品位の高い試料であった。比較試料5は、試料表面全面に毛羽やフィブリルが発生し、黄赤色に均一に染色された品位の劣る試料であった。また、試料4の生地強度は、表4から分かるように若干の低下は見られるが、この程度の低下は実用上問題になるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の加工方法によれば、繊維を痛めることなくポリノジック繊維や溶剤紡糸セルロ−ス繊維等の易フィブリル化繊維、あるいはこれらを混紡、交編織した繊維製品に発生する毛羽、フィブリルを効果的に除去でき、同時に、染色された繊維製品については、このような処理によりフィブリルを除去する共に、抜染や洗いざらし調の多彩な彩色が表現可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過マンガン酸塩と粒状無機塩の混合物を繊維製品に接触させて、繊維製品表面の毛羽あるいは発生したフィブリルを除去することを特徴とする繊維製品の加工方法。
【請求項2】
過マンガン酸塩と粒状無機塩の混合物を、過マンガン酸塩に対して異なる脱色性を示す染料を用いて染色した繊維製品に接触させて繊維製品表面の毛羽あるいは発生したフィブリルを除去すると共に、繊維製品の脱色を行うことを特徴とする繊維製品の加工方法。

【公開番号】特開2006−176936(P2006−176936A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372993(P2004−372993)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】