説明

繊維製品

【要旨】
【課題】 リサイクルポリエステルを用いていながら、十分使用可能な強度を有し、かつ難燃性にも優れている難燃性再生ポリエステル繊維を用いた繊維製品を提供する。
【解決手段】 リン原子の含有量が1000〜10000ppmであり、極限粘度〔η〕が0.75以上、強度5.5cN/dtex以上である2種の難燃性ポリエステル繊維A、Bからなる繊維製品であって、繊維Aは、リサイクルポリエステルを含有するポリエステル樹脂からなる難燃性再生ポリエステル繊維であり、繊維Bは、リサイクルポリエステルを含有しないポリエステル樹脂からなる難燃性ポリエステル繊維であることを特徴とする繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性と強度に優れた繊維を使用してなる繊維製品であって、繊維製品を構成する繊維の一部が、使用後、回収されたリサイクルポリエステルを含有するポリエステル樹脂からなる再生ポリエステル繊維である繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物の埋め立てや焼却処分による環境汚染が問題視され、特に使い捨てとなるPETボトルは年々使用量が増加し、問題となってきており、資源の再利用としてリサイクルを行うことが重要視されている。
【0003】
使用済みのPETボトルやPETボトルの製造時に発生するPET樹脂屑等を回収し、再利用する動きは年々高まりつつあり、その一つの用途として繊維の原料として再利用されるようになっており、このようなポリエステル繊維は環境に優しい繊維として注目されている。
【0004】
中でもポリエチレンテレフタレート(以下PETと称す。)を主成分としたPETボトル由来のPET樹脂屑は、不純物が少ないことや粘度のバラツキが比較的少ないため、繊維化するには適している。
【0005】
しかしながら、このようなPETボトル由来のPET樹脂屑から再生されたPETの粘度は、通常、極限粘度〔η〕0.6〜0.75程度であり、衣料用繊維として使用するには十分な粘度レベルであるが、高強度が必要とされる産業資材用繊維にするには粘度が低く、このようなPET樹脂屑から高強度の産業資材用繊維を得ることは困難であった。
【0006】
そこで、本発明者等はこのような問題点を解決すべく検討した結果、特許文献1に記載しているように、PETボトル由来のPET樹脂屑から再生されたPETの極限粘度を上げることにより、高強度で産業資材用途に適した再生ポリエステル繊維を得ることができるようになった。
【0007】
一方、産業資材用途の中でも土木工事や建築工事等に使用する安全ネットやメッシュシート等については、従来、ポリエステル繊維や再生ポリエステル繊維を用いて製編織した布帛に、後加工により難燃剤を付与する難燃加工や難燃剤を配合した塩化ビニル等の樹脂加工を行って難燃性を付与するのが一般的であった。
【0008】
しかしながら、後加工による難燃加工では使用による難燃性能の持続性に劣ることや、近年、塩化ビニルの環境への影響が懸念されるようになり、その対策としてポリエステル繊維中に難燃剤を含有させることにより繊維自体に難燃性を付与した難燃性繊維が提案されるようになった。
【0009】
特許文献2、3には、使用後、回収されたリサイクルポリエステルを用いたポリエステル繊維であって、難燃剤を繊維中に含有する再生ポリエステル繊維も記載されている。これらの繊維によると後加工のものと比較して難燃性に優れるものであるが、衣料用途に適した強度を有するのみであり、産業資材用途に十分に使用できるほどの高強度を有するものではなかった。
【特許文献1】特開2002-235243号公報
【特許文献2】特開2002-054026号公報
【特許文献3】特開2004-027393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決し、リサイクルポリエステルを用いていながら、十分使用可能な強度を有し、かつ難燃性にも優れている難燃性再生ポリエステル繊維を用いた繊維製品を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、リン原子の含有量が1000〜10000ppmであり、極限粘度〔η〕が0.75以上、強度5.5cN/dtex以上である2種の難燃性ポリエステル繊維A、Bからなる繊維製品であって、繊維Aは、リサイクルポリエステルを含有するポリエステル樹脂からなる難燃性再生ポリエステル繊維であり、繊維Bは、リサイクルポリエステルを含有しないポリエステル樹脂からなる難燃性ポリエステル繊維であることを特徴とする繊維製品を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の繊維製品は、リサイクルポリエステルからなる再生ポリエステル繊維を用いていながら、十分な強度と難燃性を有する繊維からなる繊維製品であって、産業資材用途を始め、種々の用途に好適に使用することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の繊維製品は、2種の難燃性ポリエステル繊維A、Bからなるものである。まず、繊維Aについて説明する。
【0015】
繊維Aは、難燃性再生ポリエステル繊維であり、一度使用された後、回収されたリサイクルポリエステルを原料として使用するものである。リサイクルポリエステルとしては、液体飲食品用PETボトルやフィルム、繊維などのペレット以外の形に成形された後、低分子に戻されずに再び成形するために回収された樹脂のことをいう。中でもPETボトルを回収したものが比較的品質がよいため好ましい。
【0016】
本発明における難燃性再生ポリエステル繊維においては、このようなリサイクルポリエステルをポリエステル樹脂中に含有するものであるが、リサイクルポリエステルはポリエステル樹脂中に混合されていることが好ましい。そして、リサイクルポリエステルとしてPETボトル由来のものを用いる場合、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする通常のポリエステル樹脂(バージンポリエステル)とすることが好ましい。
【0017】
本発明における難燃性再生ポリエステル繊維は、上記のようなリサイクルポリエステル含有のポリエステル樹脂からなるものであるが、繊維中には、リン化合物を含有しており、繊維中のリン原子の含有量が1000〜10000ppmであり、中でも2000〜7000ppmとすることが好ましい。リン原子の含有量がこの範囲より少ないと、難燃性能に劣るようになる。一方、多すぎるとポリマーの粘度低下が大きくなり、高強度繊維が得られにくくなり、コスト面でも不利となる。
【0018】
繊維中にリン化合物を含有させる際には、上記のようなバージンポリエステル中に高濃度にリン化合物を含有させたマスターチップを作成し、このマスターチップとリサイクルポリエステルとを、紡糸時に計量混合機等を用いて目標とするリン濃度となるようにドライブレンドして溶融紡糸することが好ましい。
【0019】
なお、本発明における難燃性再生ポリエステル繊維に含有させるリン化合物の具体例としては、環境を考慮して非ハロゲン系で、熱可塑性樹脂からのブリードアウトや加水分解による難燃性および機械物性の低下などがなく、優れた耐久難燃性を有する難燃性樹脂組成物が好ましい。例えば、特定のリン含有ポリエステル0.5〜100重量部と、溶解度パラメーターが8〜16である、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリフェニレンオキキシド樹脂などの1種または2種以上の熱可塑性樹脂100重量部からなる難燃性樹脂組成物等が好ましく、具体的には三洋化成工業株式会社製の難燃剤『ファイヤータード』(商品名)が好ましい。
【0020】
そして、このような難燃性樹脂組成物をポリエステル樹脂中に含有させるには、ブレンド(練り込み)や、共重合することにより含有させることが好ましい。
【0021】
また、本発明における難燃性再生ポリエステル繊維においては、製糸性や難燃性等の効果を損なわない範囲であれば、ポリエステル樹脂中に第三成分として共重合物や顔料、艶消し剤、耐熱剤、耐候剤等を添加してもよい。
【0022】
さらに、本発明における難燃性再生ポリエステル繊維においては、産業資材用途に好適な高強度繊維とするために、繊維の極限粘度〔η〕は0.75以上とし、中でも0.8〜1.0とすることが好ましい。 極限粘度〔η〕が0.75未満の場合、目的とする高強度の繊維とすることが困難となる。一方、1.0を超える場合、製糸性に劣るばかりでなくコスト面で不利となる傾向がある。
【0023】
一般に、PETボトル由来のPET樹脂屑を単に溶融押し出し機等で溶融し、チップ状に再生されたリサイクルポリエステルにおいては、その極限粘度〔η〕は0.6〜0.7程度である。またポリマー中に難燃剤を添加するとポリマーの粘度低下が生じることから、繊維の極限粘度〔η〕を0.75以上とするには、リサイクルポリエステルの極限粘度〔η〕を0.8以上、中でも0.9〜1.2とすることが好ましい。
【0024】
また、リサイクルポリエステルの極限粘度をこのような高粘度とするには、回収された樹脂屑を溶融して一旦チップ化したものに、固相重合を行うことにより極限粘度を上げることができる。
【0025】
そして、このような固相重合時に重合時間を調整することによって、ポリエステルの末端カルボキシル基濃度を30eq/ton以下にすると、耐湿熱性も向上し、過酷な状況下で使用される産業資材用繊維製品に用いるのに好ましい。
【0026】
次に、繊維Bについて説明する。本発明で用いる難燃性ポリエステル繊維は、リサイクルポリエステルを含有しない、バージンポリエステル樹脂を用いたものであり、リン化合物を含有するポリエステル樹脂からなるものとすることが好ましい。
【0027】
ポリエステル樹脂は、主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル誘導体、主たるグリコール成分がエチレングリコールからなるものであるが、酸成分として20モル%以下の脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成誘導体、芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を共重合成分として含むことができる。また、酸成分の20モル%以下のオキシカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を含むこともできる。グリコール成分としては20モル%以下のプロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,10−デカメチレングリコール、4,4−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキサイドが付加したグリコール、ポリエチレングリコール等を含むことができる。
【0028】
本発明における難燃性ポリエステル繊維に用いるポリエステル樹脂は、リン原子を含有するリン化合物を含有するポリエステルとすることが好ましく、ポリエステル樹脂中にリン化合物を含有させるには、ブレンド(練り込み)や、共重合することにより含有させることが好ましい。
【0029】
中でもリン化合物としては、ポリエステルの構成成分であるジカルボン酸やジオールと反応してポリエステルに共重合することができる化合物であることが好ましい。このようなリン化合物の中でも、ポリエステルの側鎖及び/又は末端にリン原子を導入することができる化合物であり、結晶性および非晶分子の配向性を乱すという観点から側鎖にリン原子を導入できる化合物が特に好ましい。
【0030】
本発明における難燃性ポリエステル繊維は、リン原子の含有量が1000〜10000ppmであり、中でも2000〜7000ppmとすることが好ましい。1000ppm未満であると難燃性能に劣る。また、10000ppmを超えるようにするには、リン原子を含有するリン化合物の量を多くする必要があり、その結果、ポリマーの融点が著しく低下し、紡糸が困難となるばかりか、得られた繊維の強度も低下するため好ましくない。
【0031】
また、難燃性ポリエステル繊維中には、製糸性や難燃性等の効果を損なわない範囲であれば、ポリエステル樹脂中に第三成分として共重合物や顔料、艶消し剤、耐熱剤、耐候剤等を添加してもよい。
【0032】
さらに、本発明における難燃性ポリエステル繊維においては、産業資材用途に好適な高強度繊維とするために、繊維の極限粘度〔η〕は0.75以上とし、中でも0.8〜1.0とすることが好ましい。極限粘度〔η〕が0.75未満の場合、目的とする高強度の繊維とすることが困難となる。一方、1.0を超える場合、製糸性に劣るばかりでなくコスト面で不利となる傾向がある。
【0033】
ポリマー中に難燃剤を添加するとポリマーの粘度低下が生じることから、繊維の極限粘度〔η〕を0.75以上とするには、ポリエステルの極限粘度〔η〕を0.8以上、中でも0.9〜1.2とすることが好ましい。
【0034】
ポリエステルの極限粘度をこのような高粘度とするには、ポリエステルチップを固相重合することにより極限粘度を上げることができる。
【0035】
そして、このような固相重合時に重合時間を調整することによって、ポリエステルの末端カルボキシル基濃度を30eq/ton以下にすると、耐湿熱性も向上し、過酷な状況下で使用される産業資材用繊維製品に用いるのに好ましい。
【0036】
上記したような本発明における難燃性再生ポリエステル繊維(繊維A)及び難燃性ポリエステル繊維(繊維B)の強度は、5.5cN/dtex以上であり、より好ましくは6.5cN/dtex以上、さらに好ましくは7.0cN/dtex以上である。強度が5.5cN/dtex未満であると、産業資材用途に用いることが困難となる。一方、強度の上限としては特に限定するものではないが、リン化合物を含有しているため、通常の製造方法ではリン化合物が異物となり、延伸時の毛羽の発生や、操業性が悪化する傾向があるため、操業性や得られる繊維の他の物性値を考慮して、9.0cN/dtex以下とすることが好ましい。
【0037】
また、繊維A、Bともに、産業資材用に適したものとするため、単糸繊度を3〜20dtexとすることが好ましく、また、単糸の横断面形状は、丸型、四角や三角等の多角形状、多葉形状等のいずれでもよく、これらの形状において中空部を有するものであってもよい。
【0038】
本発明の繊維製品は上記した繊維A、Bからなるものであるが、製織、製編、製網、製綱等の一般的な方法により得ることができるものである。本発明の繊維製品の例としては、特に限定されるものではないが、建築工事用シート、養生シート、テント、トラック幌等の各種シート類、安全ネット、養生ネット等の各種網地類、ベルト・ロープ類、ホース類、タイヤコード等の工業用繊維製品や、その他救助袋、エアーバック、自動車内装材、カーテン、カーペット等が挙げられ、特に産業資材用途において様々な用途に用いることができるものである。
【0039】
そして、本発明の繊維製品は、繊維Aと繊維Bとからなるものであって、両繊維の繊維製品中に占める割合としては特に限定するものではないが、地球環境に優しい繊維製品とする目的から、繊維製品中のリサイクルポリエステルの含有量が繊維製品質量の50質量%以上であることが好ましく、中でも70質量%以上、さらには80質量%以上であることが好ましい。
【0040】
また、難燃性再生ポリエステル繊維(繊維A)においては、環境に優しい繊維とする目的から、繊維質量の50質量%以上にリサイクルポリエステルを使用していることが好ましく、中でも70質量%以上、さらには80質量%以上を使用していることが好ましい。
【0041】
さらに、本発明の繊維製品は、リン原子の含有量が1000〜10000ppmであるリン化合物を含有する繊維Aと繊維Bとからなるものであるが、繊維製品中のリン原子の含有量は、中でも難燃性に優れたものとするには、2000〜10000ppmとすることが好ましい。
【0042】
そして、本発明の繊維製品が織物である場合は、平織、綾織、朱子織の三原組織、変化組織、重ね組織、パイル組織、からみ組織等の織物が挙げられる。一般的な産業資材用途のシートでは平織組織が用いられるが、メッシュ状のシートの場合、模紗組織で目合いを設けたり、からみ組織を用いて、経糸と緯糸の交点を固定することもできる。このとき、繊維Aと繊維Bとを合糸、合撚等して加工糸として各種織物に用いてもよいし、また、繊維Aと繊維Bをそれぞれ経糸と緯糸に用いて織物としてもよい。
【0043】
また、編物である場合は、タテ編、ヨコ編、ヨコ糸挿入タテ編等の組織のものが挙げられる。インテリア用では、ヨコ編の組織のものが好ましく用いられる。タテ編の一種である網地である場合は、結節網、無結節網、捩網等の組織のものが挙げられる。工事用の安全ネット、養生ネット等は無結節網の一種であるラッセル網地とすることが好ましい。
【0044】
このときも、上記したように繊維Aと繊維Bとを合糸、合撚等により加工糸として各編物や網地に用いてもよいし、また、繊維Aと繊維Bをそれぞれの組織を構成する糸に用いて編物や網地としてもよい。
【0045】
ロープ類は三つ打ち、四つ打ち等の撚り合わせによる構成、編組構成、特殊構成等がある。ベルト類もベルト織機を用いて得られた種々の組織のものが挙げられる。このときも、上記したように繊維Aと繊維Bとを合糸、合撚等により加工糸として前記のような撚り工程に供したり、編組してもよいし、また、繊維Aと繊維Bをそれぞれ用いて、撚り工程に供したり、編組してもよい。
【0046】
また、本発明の繊維製品を産業資材用途で使用する際には、塩化ビニル、ポリウレタン、アクリル、EVA等の樹脂で被覆、コーティング加工して製品化することも可能である。しかし、本発明の趣旨から環境負荷の低減を念頭においているため、このような樹脂加工は好ましくない。ただし、被覆する樹脂がその塗布量が環境負荷に与えない程度に少ない場合や、再生製品である等の環境負荷が低いものである場合などはこの限りではない。
【0047】
次に、本発明の繊維製品の製造方法について説明する。まず、本発明の繊維製品に用いられる難燃性再生ポリエステル繊維(繊維A)の製造例について説明する。
【0048】
まず、高粘度化した再生ポリエステルとリン化合物含有のバージンポリエステルとを混合させたポリエステル樹脂とした後、常用の溶融紡糸装置を用いて紡糸することができる。紡糸後は、紡糸した糸を一旦巻き取って延伸を行う二工程法でもよいが、一旦巻き取ることなく連続して延伸、熱処理を行うスピンドロー法を採用することがコスト面から好ましい。中でも、スピンドロー法を採用する場合、巻取速度2000〜4000m/分、全延伸倍率4〜6とすることが好ましい。
【0049】
本発明の繊維製品に用いられる難燃性ポリエステル繊維(繊維B)の製造例について説明する。テレフタル酸をカルボン酸成分とし、エチレングリコールをグリコール成分とし、リン含有化合物を共重合させた共重合ポリエステル樹脂を作成し、これを常用の溶融紡糸装置に供給し、上記と同様の条件で紡糸、延伸を行い、巻き取ることにより得ることができる。
【0050】
そして、本願発明の繊維製品の製造方法の一例として、得られた繊維Aと繊維Bを用いて、建築工事用のメッシュシートとする場合の製造方法について説明する。1670dtex/192fの繊維Aと繊維Bを用い、経糸に繊維Aを緯糸に繊維Bを用いて、経密度24本/2.54cm、緯密度25本/2.54cmの3本模紗組織にて製織する。次に、得られた布帛を180℃で90秒間熱処理することで交点を固定し、経密度、緯密度ともに26本/2.54cmで空隙率60%のメッシュシートを得ることができる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における繊維の各物性値(a)〜(c)及び網地(ネット)の各特性値(d)〜(g)は、次の方法で測定した。
(a)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
(b)強伸度
JIS L−1013に従い、島津製作所製オートグラフDSSー500を用い、試料長25cm、引張速度30cm/分で測定した。
(c)難燃性
JIS L−1091D法(接炎試験)に従って測定した。測定に際して、得られた繊維を筒網にしたものを、50℃×30分の湯洗処理を行い、1日風乾し、10cm長で1gになるよう裁断し、測定用のコイルにつめた後、乾燥機にて105℃×1時間乾燥させた後、デシケーター内で除冷させて測定に用いた。なお、接炎回数の数値が大きいほど難燃性が高いことを示す。
(d)ネットの強力
得られた難燃性再生ポリエステル繊維からなるラッセル網地を、(社団法人)仮設工業会から発行されている「仮設機材認定基準とその解説」第5章の6.強度等の試験方法(ラッセルネットの引張強度試験)に準じて強力(kN)を測定した。
このとき、試料を定速伸長型引張試験機のフックに取り付けて、矢印方向に引張速度200mm/分で引張ることにより、引張試験を行って、ネットが破断するまでの強力を測定した。
(e)ネットの伸度
(d)と同様に引張試験を行い、フックに取り付けた際のフック間距離を初期試料長L0とし、切断時のフック間距離を切断時の試料長L1として、それらの値から下記式により算出した。
ネット伸度(%)=〔(L1−L0)/L0〕×100
(f)ネットの難燃性
筒編み地に代えて、ラッセル網地を試料とした以外は、(c)で記載した方法で測定した。
(g)落下試験
得られた難燃性再生ポリエステル繊維からなるラッセル網地を用い、(社団法人)仮設工業会から発行されている「仮設機材認定基準とその解説」第5章の6.強度等の安全ネットの落錘による性能試験に準じて落下試験を行った。この結果、著しい損傷及び貫通を認めなかったものを合格、著しい損傷及び貫通が認められたものを不合格とした。
【0052】
実施例1
〔難燃性再生ポリエステル繊維(繊維A)の製造〕
極限粘度〔η〕0.62のPETボトル由来のフレーク状のPET樹脂屑を溶融し、チップ化したリサイクルポリエステルを、温度230℃の減圧下で撹拌しながら25時間固相重合を行い、極限粘度を1.1まで重合度を高くした。
難燃剤として三洋化成社製の『ファイヤータード』(商品名)を用い、極限粘度〔η〕0.70のPET(バージンポリエステル)中にリン原子含有量が60000ppmとなるように添加して、マスターチップを得た。
これらのリサイクルポリエステルとマスターチップとを計量混合機を使用して、質量比(リサイクルポリエステル/マスターチップ)=19/1となるようにしてドライブレンドし、繊維中のリン原子の含有量が3000 ppmとなるようにして溶融押出機に供給した。
常用の溶融紡糸装置に、孔径が0.6mm、孔数192個の紡糸孔を有する紡糸口金を装着し、温度290℃で紡出し、紡糸口金直下に設けた温度400℃、長さ40cmの加熱筒内を通過させた後、長さ180cmの横型冷却装置で温度15℃、速度0.7m/秒の冷却風を吹き付けて冷却し、オイリングローラで油剤を付与した。続いて、非加熱の第1ローラに4回掛けて引き取り、非加熱の第2ローラに5回掛けて1.01倍の引き揃えを行った後、スチーム処理機を用いて、温度が430℃、圧力0.5MPaのスチームを吹き付けながら、温度210℃の第3ローラに6回掛けて5.6倍の延伸を行った。次に、温度150℃の第4ローラ(速度2525m/分)に6回掛けて4%の弛緩熱処理を行い、速度2500m/分のワインダーに巻き取り、1670dtex/192フィラメントの丸断面形状の難燃性再生ポリエステル繊維を得た。
〔難燃性ポリエステル繊維(繊維B)の製造〕
テレフタル酸をカルボン酸成分とし、エチレングリコールをグリコール成分とし、下記のリン含有化合物(1)をリン原子含有量が2000ppmとなるよう共重合させた共重合ポリエステルを溶融押出機に供給した。それ以降の工程は繊維Aと同様に行い、1670dtex/192フィラメントの丸断面形状の難燃性ポリエステル繊維を得た。
次に、9Gのラッセル網機を使用して、得られた難燃性再生ポリエステル繊維(繊維A)と難燃性ポリエステル繊維(繊維B)を用い、4本をループ糸(繊維A)、1本を挿入糸(繊維B)に使用して製網し、得られた網地を180℃で1分間熱処理固定して網目の大きさが15mmのラッセル網地を得た。
【0053】
【化1】

【0054】
実施例2、比較例1〜2
リサイクルポリエステルとマスターチップの質量比を表1に示すように変更してドライブレンドし、ポリマー中のリン原子の含有量が表1に示す値となるようにした以外は実施例1と同様に行って、難燃性再生ポリエステル繊維を得た。そして、得られた難燃性再生ポリエステル繊維と実施例1で得られた難燃性ポリエステル繊維とを用い、実施例1と同様にしてラッセル網地を得た。
【0055】
比較例3
リサイクルポリエステルの固相重合時間を変更し、極限粘度〔η〕を0.8となるように固相重合するにとどめた以外は実施例1と同様に行って、難燃性再生ポリエステル繊維を得た。そして、得られた難燃性再生ポリエステル繊維と実施例1で得られた難燃性ポリエステル繊維とを用い、実施例1と同様にしてラッセル網地を得た。
【0056】
比較例4
極限粘度〔η〕0.62のPETボトル由来のフレーク状のPET樹脂屑を溶融し、チップ化したリサイクルポリエステルを固相重合を行うことなく用いた以外は実施例1と同様に行って、難燃性再生ポリエステル繊維を得た。そして、得られた難燃性再生ポリエステル繊維と実施例1で得られた難燃性ポリエステル繊維とを用い、実施例1と同様にしてラッセル網地を得た。
【0057】
実施例1で得られた難燃性ポリエステル繊維、実施例1〜2、比較例1〜4で得られた難燃性再生ポリエステル繊維を表1、ラッセル網地の特性値、評価結果を表2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表2から明らかなように、実施例1、2の網地は、極限粘度が高く、十分な強度と切断伸度を有し、かつ難燃性能にも優れた繊維を用いていたため、網地強力が高く、難燃性能に優れており、建築工事用ネットとしての性能に優れたものであった。
【0061】
一方、比較例1の網地は、難燃性再生ポリエステル繊維が、リン原子の含有量が少なく、難燃性に劣るものであったので、網地の難燃性も劣るものであった。比較例2では、難燃性再生ポリエステル繊維が、リン原子の含有量が多すぎたため、ポリマーの粘度低下が生じ、極限粘度が低く、強度の低い繊維であったので、得られた網地は、強力が低く、落下試験にも不合格なものであった。比較例3、4では、リサイクルポリエステルの極限粘度が低かったため、難燃性再生ポリエステル繊維の極限粘度も低く、強度も低いものであったので、得られた網地も強力が低く、落下試験に不合格のものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン原子の含有量が1000〜10000ppmであり、極限粘度〔η〕が0.75以上、強度5.5cN/dtex以上である2種の難燃性ポリエステル繊維A、Bからなる繊維製品であって、繊維Aは、リサイクルポリエステルを含有するポリエステル樹脂からなる難燃性再生ポリエステル繊維であり、繊維Bは、リサイクルポリエステルを含有しないポリエステル樹脂からなる難燃性ポリエステル繊維であることを特徴とする繊維製品。
【請求項2】
繊維製品中のリサイクルポリエステルの含有量が繊維製品質量の50質量%以上である請求項1記載の繊維製品。
【請求項3】
繊維製品中のリン原子の含有量が2000〜10000ppmである請求項1又は2記載の繊維製品。

【公開番号】特開2006−22436(P2006−22436A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201877(P2004−201877)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】