説明

繊維製布帛の蒸気処理装置及び同処理方法

【課題】繊維製布帛に高圧蒸気噴出ノズルにより高圧蒸気を噴射させることにより多様な処理をするための効率的且つ省力化可能な繊維製布帛の連続処理装置と同装置を使った処理方法を提供する。
【解決手段】繊維製布帛の連続処理は、多孔性エンドレスベルトにより搬送される繊維製布帛Fに向けて高圧蒸気を噴射する高圧蒸気噴出ノズル10の、前記多孔性エンドレスベルトを挟んだ対向位置に吸引ボックス40が配される。このとき、前記吸引ボックスの蒸気吸引開口を前記高圧蒸気噴出ノズル10の蒸気噴出ノズル孔列に正対させずに両者の位置をベルト進行方向の前後の少なくともいずれかに偏位させて配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも繊維からなるウエブ状物、織物、編物、不織布、又はこれらの積層シートを含んでなる繊維製布帛に加圧蒸気流を噴射し、同布帛に加圧蒸気を貫通させて不織布の製造や洗浄、脱色など多様な処理を行う繊維製布帛の蒸気処理装置及び同処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維の集合体である繊維ウエブに高圧液体を噴射して構成繊維同士を交絡させることにより交絡不織布を製造する技術は公知であり、主要な不織布の製造技術の一つとして広く実用に供されていることは、周知の通りである。
【0003】
こうした高圧液体の噴射による交絡不織布の製造方法は、多くの技術的利点を有する反面、液体使用量が多く液体の飛散防止設備に加えて、製造に伴う大量の液体の清浄化処理設備が必要となるばかりでなく、得られる不織布の乾燥設備やそれに費やされる莫大な熱エネルギーを必要とする等の技術的な課題を有している。また、液体の噴射に伴う騒音も激しいため著しく作業環境を悪化させているという問題点も有している。
【0004】
上述のような高圧液体噴射による繊維交絡不織布の製造時の課題を解消すべく、例えば国際公開2004/033780A1(特許文献1)、日本国特許第4256749号公報(特許文献2)では、不織布の製造をも含めて高圧流体による繊維製布帛の加工に、高圧流体として積極的に水蒸気を使うことを提案している。このように高圧液体に代えて高圧の水蒸気を使用すると水の使用量を大幅に減少させることができると同時に、その排出処理設備も小型化でき、騒音の発生も大幅に低減できて作業環境の改善を図ることができる。更に、乾燥装置が不要になり、大幅な省エネルギーが実現でき、しかも噴射液体流による繊維交絡不織布に特有な布帛表面に表出するパターンの発生も低減化できることが明らかになった。また、高圧蒸気の噴射を用いることにより、通常の加工では得られない風合いや機能が発現され、同時に織布の加工やシート状物の製造等の幅広い用途にも応用できることも明らかとなった。
【0005】
こうした高圧蒸気を用いた繊維製布帛の処理技術が、高圧液体の噴射による処理とは比較にならないほどの利点を有しているが、上記特許文献1及び2による提案は、主として高圧蒸気の噴射ノズルが工業装置として具備すべき基本的要件に関わる提案であり、その提案内容は限定的であって必ずしも工業的生産を行う上で不可欠な関連装置全体に対する包括的に具備すべき実施要件について充分な検討がなされているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2004/033780A1
【特許文献2】日本国特許第4256749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この種の処理技術にあって、最も留意すべき点は上記処理装置を用いて工業的に安定して良好な生産状態を維持することにあり、そのためには様々な要件はあるものの、中でも特に処理装置を構成する各部において、放熱等の影響を避けて徹底的に蒸気温度を管理すると共に冷却等による凝縮蒸気の発生を極力防止し、万一にも主要な構成部材に凝縮蒸気が発生した場合には、凝縮水などを速やかに系外へと除去することが肝要である。
【0008】
特に、噴出蒸気中や構成各部に局部的に凝縮水を含む蒸気が偏在した場合、繊維製布帛上にて局部的に噴射蒸気の通過性が阻害され、結果的に低温部が発生し、また蒸気の通過性の差異に起因して交絡度等の加工度に斑が発生したりする。これを回避するには、繊維製布帛に対して噴射される蒸気が凝縮蒸気を含まず噴出時の圧力が繊維製布帛を通過するに十分な圧力であること、及び蒸気が繊維製布帛の内部を通過するとき前記圧力が低下しないことが重要である。これは、特に水に対して感応性を有するポリマー等を含む繊維素材を含む繊維製布帛に対する場合には、前記繊維素材自体が加工異常部の発生原因となり、加工物の外観や物性等の製品品質の均一性に甚大な悪影響を与える。
【0009】
本発明は、こうした従来の仕上処理が抱える幾多の課題を解消するだけでなく、当業者にとっても予測し得ない多様な処理を可能とする蒸気処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段及び作用効果】
【0010】
まず本発明において、使用する高圧蒸気としては、供給蒸気中から遊離する凝縮蒸気を極力排除するという観点から、少なくともノズルホルダー部への直前部において乾き度が90%以上であることが望ましく、更に加熱蒸気であることがより好ましい。加熱度については、被加工物を形成する繊維素材の加工性との関連で適度な範囲が存在するが、高圧蒸気噴出ノズルやその関連部分における放熱や冷却による局所的凝縮蒸気の発生を避けるためには、少なくとも10〜20℃以上の加熱度を与えることが望ましい。
【0011】
ノズルホルダーへの蒸気の供給配管については、凝縮蒸気の持込みを防止するために、立上り配管を経て高圧蒸気噴出ノズルのノズルホルダーに接続したり、接続部直前にドレインセパレーター等の凝縮蒸気除去装置を設置する等の設計上の配慮をすることが望ましい。もちろん、供給配管からの放熱による影響で凝縮蒸気が発生することを防止するため、配管部やバルブ等を充分に保温することが重要であり、必要に応じて配管部等を外部から強制的に加熱する等の対策を講ずることが望ましい。
【0012】
ノズルホルダーについても、放熱による温度低下による凝縮蒸気の発生を防止するため外部を極力保温する必要があり、望ましくはホルダー外部を積極的に加熱するようにする。その具体的な手法としては、シリコン系オイルなどの熱媒体による加熱、誘導加熱などの電気ヒーターによる加熱方法があり、その他に例えば加圧蒸気噴出ノズルの全体を加圧蒸気噴出側で開口するボックス内に収容し、同ボックス内に加熱された高温の熱風を導入する。このように加圧蒸気噴出ノズルの全体を、熱風によって例えば使用する蒸気の飽和蒸気温度以上の温度に昇温して、これを維持すれば内部の加圧蒸気の温度低下が効果的に防げるようになり、布帛に作用する必要な温度の蒸気量を効率的に得やすくなるばかりでなく、所望の処理がなされた高品質の布帛が得やすい。更に具体的には、高圧蒸気噴出ノズルの外部を電気ヒーターで加熱することや、より望ましくは高圧蒸気噴出ノズルの外部に全体を覆うような形でジャケット部を設けて、蒸気や熱媒体で積極的に加熱することなどが有効である。
【0013】
ところで、冷却による影響以外に、特にノズルホルダー内の蒸気の移動速度が一定以上の速度を有する場合には運動エネルギーや摩擦損失との関連でホルダー内部において温度低下や圧力低下の影響を受けて蒸気温度の分布や凝縮蒸気の発生原因となる。多様な検討の結果、このような現象を避けるためにはホルダー内を移動する蒸気流量Qt(kg/s)に対してホルダー長さLを与えたときに供給蒸気圧力に対する圧力低下を許容限度内に抑えるための、次に示す条件式を見出した。
D≧{KQt2 L/[σ(P+0.1)]}0.2
ここで、
σ:許容圧力偏差(-)
P:蒸気のゲージ圧力(MPa)
dp:圧力損失(MPa)
D:ホルダー直径(m)
K=16・(1.03×10-8)・v/3π2
である。
【0014】
ノズルホルダーに蒸気を供給する方法としては、一端供給法以外に両端供給法や特殊な供給部を利用した全幅供給法等々があるが、配管接続法との関連では一端供給法が最もシンプルである。ただし、この方法で蒸気をノズルホルダーへ供給した場合には、蒸気供給口とは反対側の端末側のホルダー内部では平均的には最終的に1ノズル孔から噴出する蒸気量だけの極めて僅かの熱移動しかないため、相対的に放熱等の影響を受け易く、結果的に端末部近辺での蒸気温度の低下や凝縮蒸気の発生等が生じることが種々のテストによる検討の結果、明らかになった。これを防止する一つの方法として、ホルダーの蒸気供給口とは反対側の端末部から蒸気を取り出し、適当な輸送手段により蒸気を循環させて再び蒸気供給部に戻す対策が有効である。全ノズルからの噴出蒸気量に比較して適当な循環量を選択することによりホルダーの長手方向に移動する蒸気流量を均一化することが可能となり、結果的に温度の均一化や凝縮蒸気の発生防止に有効な対策となる。蒸気の循環輸送手段としては、通常の蒸気ブロワーやスチームエジェクターの利用が可能である。
【0015】
上述の対策を採ることにより、ノズルホルダーへの凝縮蒸気の持ち込み及び放熱等による凝縮蒸気の発生を極小化することが可能となるが、更に多数のノズル孔を有し最終的に高圧蒸気を噴出するノズルプレートの直前で凝縮水と蒸気とを分離して、凝縮水を速やかに除去するようにする。
【0016】
蒸気噴射処理における高圧蒸気噴出ノズルの主機能は、高圧蒸気を高速で噴出することにあることは当然として、それと共に蒸気の噴出部の金属プレートで移送用のコンベヤネットを介して布帛を押さえるとき、布帛の厚み規制を行うという重要な機能をも併せ持っている。
【0017】
従って、加工中のノズルプレート面の平面性を保持することは製品の寸法精度だけではなく、例えば布帛の目付けなどの物性上の均一性にも大きな影響を及ぼすため、ノズルホルダーの全長に対して歪による反り量を5mm以内に抑えることが望ましいことが明らかになった。そのためにはノズルホルダーを含めた全体的な平面性の保持が不可欠となるが、ホルダー自体がかなり長大になることや高温での加熱により溶接部等の熱歪を発生しやすいことなどから、必要な平面性を確保するためには設計上や加工上でさまざまな配慮が必要となる。特に、ホルダー本体等を構成する構造物の材質の選定は極めて重要である。
【0018】
ホルダー本体を構成する素材としては、種々の金属の利用が可能であるが、蒸気に対する耐食性や加工/溶接時の歪の除去、高温時の歪発生の大きさ等を考慮すると、析出硬化型ステンレス鋼等の材質を採用することが望ましい。
【0019】
設計上は、前述のとおり材質選定や歪除去加工等により、加工中に極力ホルダー本体の歪み発生を抑えて、蒸気噴出部におけるネット間の間隙を幅方向で極力一定に保つことが必要であるが、結果的に望ましい範囲内にノズルホルダー全長の反り量を抑えられない場合を考慮して、ノズルホルダーに強制的な力を加えて逆反りを加えることにより反り量を抑制するための歪み修正機構を利用することも有効な対策となる。
【0020】
一方、繊維製布帛の上記多孔性搬送手段に関しては、単に繊維製布帛を搬送する機能だけではなく蒸気噴射によって搬送手段を構成するネットやベルト等を介して繊維製布帛表
面を形成するという極めて重要な機能を有している。搬送コンベヤは、噴射蒸気による高温に曝される上に加工条件によっては、繊維製布帛をプレスすることによって発生する大きな外力を同時に受けることになる。更に、凝縮ドレンの影響や走行に際して発生する搬送コンベヤの蛇行現象の影響もあり、搬送コンベヤを形成するネットやベルト等の局部に大きな力が発生し、結果的に主として走行方向に沿って縦皺に起因する凸凹が発生する場合がある。ネット上に発生した凸凹は、加工物の表面に転写されるため安定的な加工状態を保持する上で極めて大きな障害となる。
【0021】
このように、本発明において搬送手段を構成するネットやベルト等の選定は重要な意義をもつ。
まず、搬送コンベヤを形成するネットやベルト等の材質について見ると、噴射蒸気による熱及び凝縮ドレンの影響のよる変質や変形を防止することが極めて重要であるが、多面的な検討の結果、材質としてはPPS樹脂及びそれに準ずる耐熱樹脂の採用が最適であることを見出した。更に、検討の結果、樹脂製コンベヤネットの場合、加工中に発生する縦皺を防止するためには、材質の選定のみではその課題を克服することが困難であることを知った。すなわち、PPS樹脂製や耐熱樹脂であっても通常の平織りのコンベヤネットでは、充分な曲げ剛性の確保が困難なため縦皺の発生を防止することが困難であることが判明した。種々検討の結果、曲げ剛性を確保するためには緯糸が上下1列で構成されるいわゆる1重織りでは不充分で、緯糸が上下2本以上を垂直面上に配した特殊な二重織等の多重織りからなる立体的な構造を有するコンベヤネットが縦皺の発生防止に極めて有効であることを見出した。
【0022】
金属製ネットは、樹脂製ネットに比較して熱容量が大きいため蒸気の熱エネルギーの消費量が大となるという欠点を有していが、樹脂製ネットでは耐熱性の点から問題のある処理領域では相対的に吸収エネルギーが小さくなるという点からも使用できる。
【0023】
本発明者等は上述の対策に加えて更に様々な検討を続けた結果、吸引ボックスが高圧蒸気噴出ノズルと同様に布帛処理にあたり極めて重要な構成要素の一つであることを見出した。すなわち、吸引ボックスは、単に被加工物を貫通した噴出蒸気を周囲の空気と共に吸引して系外へと排出するだけの機能では十分でなく、布帛処理にあたり高圧蒸気が繊維製布帛中を通過するとき蒸気温度及び蒸気圧の双方を噴出時と同等の状態に保持する機能を併せ持つことが、高品質の製品を製造する上で極めて重要であることが分かった。
【0024】
一般の吸引ボックスとしては、吸引ボックスに形成される蒸気吸引開口を布帛幅方向に存在するノズルプレートのノズル孔列と正対する位置に適当な間隙をおいて配することが最も単純で普通の形態であるが、前述の機能を与えるためにはそのような単純な構成では所定の結果を得られない可能性があることが明らかとなった。なお、前記蒸気吸引開口は、通常スリット状であるが、他にも例えば多数の円形孔をノズル孔列の列方向に千鳥状に配してもよい。
【0025】
ノズル孔列に正対させて吸引開口を配した場合には、噴出した蒸気が布帛中を貫通するための噴出力を保持することに寄与すると共に、布帛を貫通して大気中に拡散しようとする蒸気を直ちに排気するという点で大いに効果を発揮する。しかし、布帛の性質や処理目的によっては、布帛を一定時間高温蒸気雰囲気下に保持することが必要となる場合がある。このような場合には、例えばノズル孔列に正対する位置を挟んで布帛の走行方向前後に所要の間隔をおいて一対の吸引開口を形成した吸引ボックスを、前記一対の吸引開口の間の中央部に前記ノズル孔列を相対するように配することが有効であることを知った。
【0026】
以上の説明から明らかなように、吸引ボックスの吸引開口の形状や配置を適切に調整することは布帛の上記処理を適正に行う上で極めて重要であるが、同様に処理中の吸引ボッ
クス内の圧力を処理目的に応じて適切に調整することも適正な処理を行う上で極めて重要であることが明らかとなった。そのため本発明にあっては、吸引ボックス内の圧力を検出するための圧力測定器や、調整バルブ、空気吸引管などからなる圧力調整機構を付設することが不可欠である。
【0027】
また上述のように、吸引ボックスの上面は蒸気噴出部のノズルホルダー面と間隙を形成し、その間隙精度が加工結果に大きく影響するという意味で極めて重要である。吸引ボックスにあっても蒸気吸引面は高圧蒸気噴出ノズルのノズルプレートと同様に高度の平滑面が要求される他に、これも高圧蒸気噴出ノズルに関すると同様に、加工時の全幅に対する平面に対する歪は、5mm以下であることが望ましい。
【0028】
この条件を達成するためには、熱歪の影響を軽減化するために吸引ボックス全体を、他の構成部材と同様に、電気ヒーターやジャケットを介して蒸気で強制的に加熱すること等の対策が有効である。また、吸引ボックスの構成材として、材質的に加熱による影響を受けにくい超低熱膨張鋳鉄等を使用することが望ましい。また他の方法としては、吸引ボックス内部に受熱板を設けた二重構造として熱の影響を遮断する方法等が有効である。加えて、機械的にも熱歪が生じない対策を採ることが有効となる。
【0029】
特許文献1及び2の内容を分析するかぎり、水蒸気の噴出ノズルの具体的構造の提案はなされているものの、同噴出ノズルに如何にして水蒸気を送り込み、そのノズルから如何なる条件下で凝縮蒸気を排除しつつ高圧の水蒸気を均一に且つ連続して噴出させるかと、噴出された蒸気を如何にして高温と蒸気圧を維持したまま繊維製布帛の内部を通過させるかに関して格別には具体的な考察がなされていない。この噴出に使われる水蒸気は、通常、僅かに添加剤を加えた工業用水が使われており、しかも各種の配管などを通過するため、同水蒸気には極く微細な異物が混合することがあり、噴出ノズル孔を閉塞させやすい。或いは、ノズルに導入された水蒸気の一部は凝縮してドレンとなってノズル孔の近くに溜まってノズル孔が閉塞されやすく、水蒸気が連続して噴出されずに間欠的に噴出されやすい。
【0030】
以上の点を克服しない限り、上記特許文献1及び2により提案された処理方法では、繊維製布帛を対象とする様々な成形加工や仕上処理には到底適用が不可能である。そこで、上記の課題を克服すべく更なる検討と試験とを重ねた結果、ようやく本発明に到ったものである。
【0031】
すなわち、本発明に係る繊維製布帛の蒸気処理装置の基本構成は、多孔性搬送手段の移動に随伴して一方向に走行する繊維製布帛の幅方向の少なくとも一表面に加圧蒸気を連続して噴射する高圧蒸気噴出ノズルと、前記多孔性搬送手段を挟んで高圧蒸気噴出ノズルの反対側に配された吸引ボックスとを備えた繊維製布帛の蒸気処理装置であって、前記高圧蒸気噴出ノズルが、少なくとも一端に加圧蒸気供給管と接続する蒸気導入口を有し、繊維製布帛と相対する面の長さ方向に沿った開口を有する中空筒状のノズルホルダーと、同ノズルホルダーの開口形成部に脱着可能で、前記開口に対向して直線状に配された多数のノズル孔からなるノズル孔列を有するノズル部材とを備え、前記吸引ボックスが前記ノズル孔列に平行する吸引開口を有し、該吸引開口が前記ノズル孔列の対向位置から前記多孔性搬送手段の移動方向の前方及び/又は後方位置に変位して配されてなる、繊維製布帛の蒸気処理装置にある。
【0032】
ここで、本発明にあっては吸引ボックスの吸引開口位置をノズルプレートのノズル孔列と正対する位置に配さずに、ノズルプレートのノズル孔列から布帛走行方向の少なくとも前後のいずれかにずれた位置に配していることを主な特徴としている。吸引ボックスの吸引開口の形状は、スリット状に限定されず、加工目的に応じて例えば口径の異なる小孔を
適宜分布させて配したり、それ以外の形状を有する開口を配することも有効である。また、吸引開口の配置についても、同じく布帛の処理目的に応じて適宜変更することが必要であり、そのためには吸引ボックスの開口部を脱着可能な構造として、吸引開口の配置を適宜変更したり、調整することができるようにする配慮が必要となる。
【0033】
蒸気処理時における前記吸引ボックスの吸引開口延設方向の上下撓みは、既述のとおり5mm以下とすることが望ましい。この上下撓みを5mm以下にするため、蒸気処理時に発生する前記ノズル孔列方向の上下撓みを強制的に修正するための補強材などの機械的な機構を付加してもよい。また前記吸引ボックスの主な構成素材に、常温における熱膨張係数が6×10-6/K以下である超低熱膨張金属材料を使うことが望ましい。更には、前記吸引ボックスの本体の内部に、吸引ボックスに吸引された加熱蒸気が直接ボックス本体に接触することを制限する受熱板を配することもできる。
【0034】
また、好ましい態様によれば、上記ノズルホルダーの蒸気排出口と蒸気導入口との間を蒸気通路にて連結して、その蒸気通路には前記蒸気導入口、前記ノズルホルダー、前記蒸気排出口へと蒸気を循環させる蒸気循環手段を配するとともに、前記蒸気通路の前記蒸気導入口の近傍に蒸気加熱手段を配することができる。更には、前記高圧蒸気噴出ノズルの外表面を強制的に加熱する手段を有していることが望ましい。
【0035】
以下の本発明に係る繊維製布帛の処理方法を効率的に実施するためには、かかる構成を備えた繊維製布帛の蒸気処理装置が最も適している。本発明に係る前記処理方法は、次の基本構成を備えている。
すなわち、その処理方法は、上述の構成を備えた蒸気処理装置におけるノズルホルダーを介して前記ノズル部材の前記ノズル孔へと供給する高圧蒸気を、湿り度が10%以内の蒸気、もしくは加熱度が10℃以上の加熱蒸気とすることを含んでいる。好ましくは、前記吸引ボックス内の圧力を測定し、大気中に接続された配管部に配された調整バルブによりボックス内部の圧力を調整する。一方、通常は前記加圧蒸気噴出ノズルを走行する布帛の上方に配して布帛の上面に向けて加圧蒸気噴出流を付与するが、前記加圧蒸気噴出ノズルを走行する布帛の下方に配して加圧蒸気の噴出流を布帛の下面から上方に向けて付与することもできる。このとき、上記多孔性搬送手段は、繊維製布帛を挟んで上下に一対配し、繊維製布帛を上下の多孔性搬送手段をもって一方向に圧着搬送することが望ましい。
【0036】
このように加圧蒸気の噴出流を布帛の下方から上方に向けて噴出させるときは、ノズルホルダーの上面側に配されたノズル孔に蒸気の凝縮水が溜まりにくくなり、ノズル孔の目詰まりなどが発生せず、安定した蒸気の噴出が可能となるため好ましい。
【0037】
一組の上記加圧蒸気噴出ノズルと同ノズルに対設する蒸気の吸引手段とをもって布帛の一表面から加圧蒸気を付与しても本発明の初期の目的は達成されるが、この加圧蒸気噴出ノズルと蒸気吸引手段とを二組以上用意して、これらを布帛の表裏両面に交互に配し、布帛の表裏両面から加圧蒸気を噴出させるようしてもよい。この場合には、布帛の表裏から加圧蒸気の噴出流が付与されるため、布帛の表面層のみならず、内部の構成繊維にまで均等に作用し、布帛の厚み方向にわたって全体に均等な所望の処理が可能となる。
【0038】
好適な条件下で、繊維製布帛の表面に向けて高圧蒸気噴出ノズルから高圧蒸気を噴出させると、その高圧蒸気は繊維製布帛を貫通して、その貫通する間に布帛を構成する繊維や糸条に後述するような多様な処理がなされる。しかし、繊維製布帛の高圧蒸気噴出側と貫通側との繊維及び糸条の処理結果を比較すると、蒸気噴出側の構成繊維や糸条の処理が貫通側の構成繊維や糸条の処理よりも進んでいることが分かっている。そこで、上述のように布帛の表裏面に対して双方向に高圧蒸気を噴出させると、当然に布帛の表裏面において処理の進行度が均等になる。
【0039】
通常、上記高圧蒸気噴出ノズルは所定の位置に固設され不動状態におかれており、上記布帛搬送手段も布帛を一方向に移送するように一方向に移動しているに過ぎないが、本発明にあっては前記高圧蒸気噴出ノズルを布帛の移送路の横断方向に短い行程で往復動させ、或いは同高圧蒸気噴出ノズルを固定しておき、前記布帛搬送手段を布帛移送路の横断方向に同じく短い行程をもって往復動させることができる。前記高圧蒸気噴出ノズルと布帛搬送手段の双方を往復動させてもよい。このように、高圧蒸気噴出ノズル又は布帛搬送手段の、いずれか又は双方を往復動させる場合には、布帛の幅方向に均一に高圧蒸気が噴出付与され、製造される布帛の表面にノズル孔から噴出される蒸気によるモアレ状のパターンがつかず、均整な表面形態をもつ布帛が得られる。この往復動の行程幅はノズル間ピッチより多少でも長ければよく、具体的には±5mm程度であり、その往復速度は30〜300回/分である。
【0040】
ところで、前記高圧蒸気噴出ノズルのノズル孔と布帛との間の間隙は、布帛の処理目的により異なるが出来るかぎり小さい方が好ましい場合が多い。しかし、高圧蒸気噴出ノズルのノズル孔と布帛とを摺接させると、両者の摩耗による損傷が激しく、所要の耐久性が得にくくなる。そこで、高圧蒸気噴出ノズルのノズル孔と布帛との間に、その間隙を調整する手段を有していることが望ましい。この間隙調整手段により、高圧蒸気噴出ノズルのノズル孔と布帛との間の間隙を最適に調整することができ、同時に装置の耐久性が確保される。また前記布帛搬送は、上述のとおり、布帛を挟持しながら搬送することもあり、この場合は布帛を下方から担持する布帛担持搬送手段と布帛を上方から押さえる布帛押圧搬送手段とを備えるようにしてもよい。この場合も、上下の布帛搬送手段の間の間隙を調整する第2の間隙調整手段を設けて、布帛の構成繊維材料やウエブ厚に対応して、その挟持力を調整可能とすることが望ましい。
【0041】
また、この処理方法にあっては、上記高圧蒸気供給管の管路に蒸気貯留部を配して、同蒸気貯留部に一旦蒸気を貯留し、そこに溜まる蒸気中の塵芥等を凝縮液とともに、例えばトラップを介して外部に排出できるようにすることが好ましい。更に、前記蒸気貯留部と前記高圧蒸気噴出ノズルの一端との間の高圧蒸気供給管の管路に加熱手段を配し、前記蒸気貯留部と前記蒸気噴出ノズルとの間にて、高圧蒸気の前記加熱蒸気供給管内を通過する蒸気を追加加熱して加熱蒸気を生成させることにより、布帛に所望の高圧下における極めて高温の蒸気を噴出させることができるため好ましい。このとき、前記蒸気噴出ノズルに導入される蒸気圧を0. 1〜2MPaとすると、蒸気を布帛の表裏に確実に貫通させることができるため好ましい場合が多い。
【0042】
蒸気噴出ノズルから噴出する高圧蒸気は、ノズル孔から外部に噴出すると同時に断熱膨張により急激に温度が低下する。この温度の低下により蒸気が凝縮して霧状の液体となりやすく、周辺に吹き上がり高圧流体ではなくなるため、布帛の内部にまで到達しにくくなる。加熱蒸気は飽和蒸気圧の下で飽和温度以上の温度にまで高温化された蒸気であり、飽和温度と加熱温度との中間では凝縮液化がなされにくくなる。そのため、蒸気噴出ノズルから噴出する加熱蒸気は布帛に当たっても凝縮することなく、その内部まで浸入して貫通し、周辺の繊維を加熱しながら処理を進行させる。
【0043】
上述のように、ノズルホルダーの蒸気排出口に接続される蒸気排出管の管路からトラップ管路を分岐させると、トラップ管路の下流側に設けた開閉バルブが閉じられたのちも、蒸気噴出ノズル内に発生する凝縮液や蒸気中に含まれる微細な異物などが凝縮液とともに蒸気排出管を介してトラップ管路へと流れ、適時に外部へと排出されるようになり、装置の稼働時にも凝縮液や微細な異物によりノズル孔が詰まることがなく、全てのノズル孔から安定して蒸気を噴出させることができるようになる。
【0044】
こうした本発明の処理装置と同装置を使った処理方法に適用される蒸気噴出ノズルとしては、上記特許文献1及び2にて提案された高圧蒸気噴出ノズルを採用することもできるが、上述の処理条件を満足させるには更なる改良が必要である。また、本発明にあって一般的には高圧蒸気噴出ノズルを一段配して格別の支障を来すことはないが、同蒸気噴出ノズルを布帛の走行方向に多段に配することもできる。この場合、既述したように、高圧蒸気噴出ノズルとその吸引手段を、布帛に対して表裏交互に配するようにすれば、均一な布帛処理ができる。更に、前記高圧蒸気ノズルのノズル孔の配置を各段ごとに布帛の幅方向に変位させることが望ましい。
【0045】
本発明による布帛の蒸気処理方法は、既述したとおり布帛に向けて高圧蒸気噴出ノズルから高圧蒸気を噴出して同布帛を貫通させることにより、上述のような多様な処理を行おうとするものであり、上記特許文献2によって開示された処理法を可能にしている。従って、本発明の高圧蒸気噴出ノズルから噴出される加熱蒸気処理方法は、従来の液体による処理方法とは本質的に異なる処理方法であり、また例えば上記特許文献1に記載された従来の蒸熱処理とも、蒸気を使う点では一致するものの、その実施にあたっての具体的構成は勿論のこと、機能と効果の点では全く異なる。
【0046】
本発明による布帛の洗浄処理は、従来のような余剰の染料などを洗浄液や水により除去することも同様に除去可能であるが、更には布帛又はその構成繊維に付着する糊剤、油剤、各種樹脂などの付着物をも確実に除去することも可能となる。これは、布帛を構成する繊維や糸条に付着する糊剤、油剤、各種樹脂など、付着物の材質に影響されることなく、高圧蒸気が布帛を貫通するとき、上記特許文献2と同様に、それらの付着物を同蒸気により瞬間的に布帛の外へと随伴させることによる。例えば、金属繊維からなる織物又は編物は、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布の製造工程におけるウエブの移送手段として用いられているが、前記織物又は編物からなる布帛上で溶融状態にある繊維状に形成されたポリマーが冷却する際、布帛にこびり付いた付着物を洗浄する場合にも用いることが可能である。本発明では液体処理ではなく蒸気(気体)処理であるがため、布帛を構成する繊維や糸条に水分を付着させることなしに各種の処理を行うことができる。そのため、後述するように洗浄後の布帛を改めて加熱乾燥工程や溶剤などの除去工程を通過させる必要がない。これは設備費やエネルギーコストの大幅な削減につながる。
【0047】
また上記脱色処理は、例えば従来の脱色剤を使った脱色に代えて、本発明の蒸気処理方法により、簡単に製品になる以前の原反のとき、その染色の一部を簡単に脱色することができ、或いは布帛の搬送速度と布帛と搬送手段との間の幅方向の振動とを適当に組み合わせて制御すれば、モアレ調の模様を作成することができ、しかも原反までも傷めるようなことがない。
【0048】
更に、上記液体処理後、例えば洗浄後の布帛に対する脱液(乾燥)処理についても上記洗浄処理と同様に、布帛には全工程における大量の処理液体が含浸あるいは付着している。つまり、通常の乾燥工程のごとく布帛から液分を効率的に除去できるため、従来の全ての乾燥工程に代えて本発明方法を適用すればよい。この場合、大型の乾燥チャンバー、多数の加熱ランプ、加熱ドラムや加熱ロール、これらの加熱ランプ、加熱ドラム又は加熱ロールに接続される電気エネルギーや流体エネルギーの供給設備、排気設備などが不要となり、使用エネルギー量も、従来と比較して大幅に低減される。また、上記布帛の風合改良処理も、例えば従来の羊毛織物や編物に対する洗絨法や蒸絨法などと比較すると、工程数が少なくなり、しかも短時間で目が詰まった表面がソフト感に富んだ羊毛製の布帛を連続して効率よく処理することができる。また本発明にあって、蒸気ノズルホルダーの蒸気導入路に更に薬剤注入路を合流させて布帛に高圧蒸気とともに薬剤を噴出すれば、他の処理と同時に薬剤処理を行うこともできる。
【0049】
そして、これらの多様な処理法は、布帛の搬送速度、高圧蒸気の温度と蒸気圧、布帛と前記ノズルの噴出開口端との間隙などの処理条件を好適に組み合わすことにより実施が可能となる。更に、それらの値の決定は、布帛の種類(織物、編物、不織布など)及び構造(織又は編組織、織又は編密度、不織布の繊維密度)、布帛の構成繊維や糸条の材質、布帛の厚さなどの布帛条件に基づいてなされるため、一律に決めることはできない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る繊維製布帛の処理工程における代表的な実施形態の一部を概略で示す回路説明図である。
【図2】同実施形態における他の一部を概略で示す回路説明図である。
【図3】同高圧蒸気噴出ノズルに対する蒸気管路の概略説明図である。
【図4】本発明の処理装置に適用される好適な多孔性エンドレスベルトの織構造例を示す説明図である。
【図5】本発明に適用される吸引ボックスの天板部の具体的構造例を示す斜視図である。
【図6】同吸引ボックスのボックス本体及び受熱板の具体的構造例を示す分解説明図である。
【図7】前記天板部に二つの蒸気吸引開口が形成された吸引ボックスの正面図である。
【図8】前記天板部に単一の蒸気吸引開口が形成された吸引ボックスの正面図である。
【図9】本発明の蒸気処理部を模式的に示す概略図である。
【図10】本発明に適用される高圧蒸気噴出ノズルの代表的な構造例を示す縦断面図である。
【図11】同ノズルの裏面図である。
【図12】図11におけるIII−III線に沿った矢視断面図である。
【図13】図12の矢印で示すA部(第1気液分離部)の拡大図である。
【図14】図12の矢印で示すB部(第2気液分離部)の拡大図である。
【図15】同ノズルのドレンセパレートプレート本体の縦断面図である。
【図16】同ドレンセパレートプレート本体の上面図である。
【図17】同ドレンセパレートプレート本体の横断面図である。
【図18】図15に矢印で示すC部の拡大断面図である。
【図19】前記ノズルにおけるディスクプレートの縦断面図である。
【図20】同ディスクプレートの上面図である。
【図21】本発明による繊維製布帛の処理工程の他の実施形態を概略で示す構成説明図である。
【図22】本発明による繊維製布帛の処理工程の更に他の実施形態を概略で示す構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の高圧蒸気の噴射による繊維布帛の処理装置及び処理方法の好適な実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
図1〜図3は、本発明に係る繊維布帛の処理装置の代表的な実施形態である高圧蒸気噴射処理工程の概要を示している。図1及び図3に示すように、高圧蒸気噴出ノズル10を挟んで上下に一対の第1及び第2エンドレスベルト30a,30bが、同ベルト30a,30bとそれぞれ所定の間隙をおいて配されている。この第1及び第2エンドレスベルト30a,30bは前記高圧蒸気噴出ノズル10を横切るようにして一方向に回動する。そのため、各エンドレスベルト30a,30bの両端反転部は、駆動モータMにより駆動される上下一対の駆動ローラ31a,31bと、同じく上下一対の従動ローラ32a,32bによって駆動支持されるとともに、従動ローラ32a,32bのベルト上流位置において各エンドレスベルト30a,30bがテンションロール33a,33bにて支持され、各エンドレスベルト30a,30bに適切な張力を与えている。また前記駆動ローラ31a,31bと従動ローラ32a,32bとの間の第1及び第2エンドレスベルト30a,
30bの走行路内側の対向位置に上下3組の第1〜第3のガイドロール対34a〜34cが第1及び第2エンドレスベルト30a,30bを挟んで配されている。
【0052】
第1及び第2エンドレスベルト30a,30bは、例えば耐熱性合成樹脂製の太い線条や金属線材を使って粗目に織り込まれたメッシュ状の織物や、薄い金属製のパンチングプレート材から構成される。そのメッシュ度は任意に設定される。また、前記高圧蒸気噴出ノズル10と各エンドレスベルト30a,30bに担持されて搬送される布帛との間隔も、先ず洗浄処理であるか、或いは布帛を構成する繊維や糸条に付着する糊剤、油剤、樹脂の除去処理であるかなどの処理の種類や、織物であるか、編物や不織布であるかなど布帛の種類により異なり、更にはその構成素材の材質、織編密度、繊維密度、糸条太さ、繊度、布帛の厚さなどにより異なり、一概には決めがたい。上記耐熱性合成樹脂線条の材料としては、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイト(PPS)、ポリテトラフルオロエチレンなどが使われる。
【0053】
図4は、本実施形態に適用される合成樹脂線条を用いたエンドレスベルト30の一部を模式的に示す拡大側面図である。このエンドレスベルト30は合成樹脂線条からなる経糸W1と、同じく合成樹脂線条からなる緯糸W2とにより織製されたメッシュ織物により構成される。このメッシュ織物のメッシュ度は100以下であることが好ましく、2本の緯糸W2が同一垂直面上に配される緯二重織構造を備えている。単に1本の緯糸W2と経糸W1とを交差させる通常のメッシュ織物では、所要の強度を確保することが難しく、また2本以上の糸を水平面上に引き揃えた緯糸W2では、所要のメッシュ度を確保することが難しい。更に、1本の緯糸又は2本以上引き揃えた緯糸を使う場合には、いずれにしても目止めなどを行わなければ織物全体のメッシュ度を長いこと維持できない。そこで、図4に例示するような、特殊な織り構造をもつ緯多重織りを採用することが好ましい。
【0054】
図1及び図2に示す実施形態にあっては、上下の従動ローラ32a,32bと上記第1ガイドロール対34aとの間の第1及び第2エンドレスベルト30a,30bの裏面には、上下一組の蒸気吸引手段としての吸引ボックス40−1a,40−1b と、同じく上下一組の高圧蒸気噴出ノズル10−1a,10−1b とが、駆動ローラ31a,31bに向けて隣り合って順次配されている。更に、上記第1ガイドロール対34aと第2ガイドロール対34bとの間には、3基の高圧蒸気噴出ノズル10-2〜10−4が第1及び第2エンドレスベルト30a,30bを挟んで交互に配され、これら3基の高圧蒸気噴出ノズル10−2〜10−4と第1及び第2エンドレスベルト30a,30bを挟んでそれぞれ対面する位置には3基の吸引ボックス40-2〜40-4が配されている。
【0055】
また、前記第2ガイドロール対34bと前記第3ガイドロール対34cとの間には、3基の吸引ボックス40−5〜40−7が第1及び第2エンドレスベルト30a,30bを挟んで交互に配されており、これらの吸引ボックスのうち第2ガイドロール対34b側の2基の吸引ボックス40−5,40−6の第1及び第2エンドレスベルト30a,30bを挟んだ対面位置には、それぞれ第1及び第2の加熱ボックス41a,41bが配されている。また駆動ローラ31a,31b側の3基目の吸引ボックス40-7の対面位置には4基目の吸引ボックス40−8が配されている。すなわち、本実施形態では繊維布帛の処理工程に配される高圧蒸気噴射ノズルの配置数は5基であり、吸引ボックスの配置数は都合9基であって、その他に2基の加熱ボックスが配置されている。
【0056】
本実施形態では、上記高圧蒸気噴出ノズル10−1a,10−1b,10−2〜10−4のうち、従動ローラ32a,32bの近傍に配される高圧蒸気噴出ノズル10−1a,10−1b が一つの蒸気回路SL4を共用する以外は、それぞれに専用の蒸気回路SL1〜SL3が使われている。これらの蒸気回路SL1〜SL4に対応する各蒸気供給源S〜S4から高圧蒸気噴出ノズル10−1a,10−1b,10−2〜10−4に到るまで
の主な回路構成は実質的に同じである。
【0057】
ここでは、高圧蒸気噴出ノズル10−2の第1蒸気回路SL1について、図1及び図2を参照しつつ具体的に説明する。
蒸気供給源Sには予め加熱された水蒸気が必要に応じて送り込まれる。この蒸気供給源Sの蒸気は第1の開閉バルブV1を介して第1蒸気タンクST1へと送られ、ここで蒸気が上部に集まり、蒸気中に含まれる凝縮水や塵などからなるドレンが底部に集まり、両者が分離される。第1の開閉バルブV1と第1蒸気貯留タンクST1との間を連結する管路及び前記第1蒸気貯留タンクST1は第1及び第2ヒーターH1,H2により加熱され、内部の蒸気を高温に保持する。第1蒸気貯留タンクST1の蒸気は上部排出口から送り出されて、第2〜第4蒸気貯留タンクST2〜ST4を経て、高圧蒸気噴出ノズル10−2に供給される。この間、各蒸気貯留タンクST1〜ST4の蒸気管路中に配された圧力計P1〜P4及び温度計測器T1〜T4によって蒸気圧と蒸気温度が測定され、高圧蒸気噴出ノズル10−2に導入される蒸気圧及び蒸気温度を一定とするよう調整される。この調整は、前記第1蒸気タンクST1と高圧蒸気噴出ノズル10−2との間の管路に配された複数の開閉バルブVの開度を調整することにより行われる。
【0058】
他の第2〜第4蒸気回路SL2〜SL4についても、前記第1蒸気回路SL1と同様である。一方、上記第1〜第4蒸気貯留タンクST1〜ST4の底部にはドレン排出口が設けられており、各ドレン排出口はそれぞれ第1〜第4のトラップ回路TL1〜TL4を介して、他の第2〜第4蒸気回路SL1〜SL4が共有する単一のドレン排出管路に接続され、ドレーンを一括して系外に排出する。前記高圧蒸気噴出ノズル10に導入される蒸気圧は、0.1〜2MPaとすることが望ましく、高圧蒸気噴出ノズル10−1a,10−1b,10−2〜10−4から噴出される蒸気は、その湿り度が10%以下であるか、或いは飽和蒸気温度よりも10〜20℃高い加熱蒸気とすることが望ましい。このような加熱蒸気を用いれば、高圧蒸気噴出ノズル10から噴出する加熱蒸気が断熱膨張による温度低下を起こしても、凝縮蒸気が発生せず凝縮蒸気が霧散することもなくなる。
【0059】
上記9基の吸引ボックス40−1a,40−1b,40−2〜40−8の底部に形成された上記吸引口は3本の第1〜第3蒸気吸引管路C1〜C3に接続されている。第3蒸気吸引管路C3は、上記第1ガイドロール対34aと第2ガイドロール対34bとの間に配された3基の吸引ボックス40−2〜40−4に接続され、第2蒸気吸引管路C2は、上記従動ローラ32a,32bと第1ガイドロール対34aとの間に配された上下一対の吸引ボックス40−1a,40−1b,40−5,40−6に接続され、第1蒸気吸引管路C1は、上記第2ガイドロール対34bと第3ガイドロール対34cとの間に配された2基の吸引ボックス40−7〜40−8に接続されている。
【0060】
図1において、前記第1〜第3蒸気吸引管路C1〜C3は、それぞれセパレータタンク43a〜43cを介して配管により連結された真空ポンプ42a〜42cと、同真空ポンプ42a〜42cの排出側に連結されたミストセパレータ43a’〜43c”とから構成される。ここで、前記セパレータタンク43a〜43cは吸引ボックス40−1a,40−1b,40−2〜40−8により吸引される蒸気を気液に分離するための気液分離タンクであり、前記セパレータタンク43a〜43cは真空ポンプ42a〜42cから排出される蒸気中の異物や有害ガス或いは液体などを蒸気から除去して、清浄な蒸気を系外に放出するとともに、真空ポンプ42a〜42cから発生する騒音を低減化するサイレンサーとしての機能も有する。
【0061】
本発明の高圧蒸気処理装置にあっては、上記吸引ボックス40(40−1a,40−1b,40−2〜40−8)の蒸気吸引開口と、高圧蒸気噴出ノズル10(10−1a,10−1b,10−2〜10−4)のノズル孔との配置に特徴を有している。この種の蒸気
処理にあって、通常であれば、吸引ボックスの蒸気吸引開口と高圧蒸気噴出ノズルのノズル孔と高圧蒸気噴出ノズル10とを繊維布帛を挟んで正対させて配するのが一般的である。
【0062】
図9は、本発明の繊維製布帛Fの高圧蒸気処理装置における蒸気処理部を模式的に示す拡大図である。本発明にあっては、同図に示すように、第1及び第2エンドレスベルト30a,30bは矢印方向に移動しており、その第1及び第2エンドレスベルト30a,30bの間に繊維製布帛Fを挟持した状態で一方向に搬送する。蒸気処理部には、前記第1及び第2エンドレスベルト30a,30bを上下から挟むようにして上記高圧蒸気噴出ノズル10のノズル孔列と吸引ボックス40の吸引開口とが相対するようにして配置される。
【0063】
図9によれば、本実施形態における吸引ボックス40の蒸気吸引面の中央部には、所要の間隔をおいて第1及び第2エンドレスベルト30a,30bの幅方向に平行して延びる2本のスリット状の蒸気吸引開口40’,40”が形成されている。そして、前記各エンドレスベルト30a,30bの搬送部の上下に吸引ボックス40と対向させて前記高圧蒸気噴出ノズル10が配置されている。
【0064】
しかして、本発明にあっては、例えば図3に示すとおり、前記高圧蒸気噴出ノズル10の上記ノズル孔列を、スリット状の前記2本の蒸気吸引開口40’,40”間の中央部対向位置に配し、前記蒸気吸引開口40’,40”を前記ノズル孔列の正対位置から前記多孔性搬送手段の移動方向の前方と後方位置の双方にずらした位置に配している。勿論、本発明によれば、蒸気吸引開口40’,40”を前記ノズル孔列の正対位置から前記多孔性搬送手段の移動方向の前方又は後方のいずれか一方にずらした位置に配することもできる。なお、ノズルプレートに形成されるノズル孔列を所定の間隔をおいて2列以上配して、その列間に吸引ボックスの前記吸引開口を対向させて吸引ボックスを配することもできる。
【0065】
このように、蒸気吸引開口を前記ノズル孔列の正対位置から前記多孔性搬送手段の移動方向の少なくとも前方又は後方のいずれか一方にずらした位置に配することによって、繊維製布帛が前記ノズル孔列に進入する直前に予熱でき、或いは蒸気を噴射した後に急激に温度低下をもたらすことがなくなり、蒸気噴射位置における蒸気の露結を低減させることができる。なお、図示例では前記蒸気吸引開口をスリット状孔をもって説明しているが、この蒸気吸引開口はスリット状である必要はなく、例えばノズル孔列に平行に並んだ多数の小孔群であっても、あるいはその多数の小孔群の個々の孔の形状や大きさを変更させることも可能である。
【0066】
ところで、前記吸引ボックスは蒸気処理時において高温下に晒される。その高温の影響を受けて吸引ボックス自体がノズル孔列方向に上下撓みが生じやすい。この上下撓みは、既述したとおり、5mm以内とする必要がある。そのためには、例えば吸引ボックスが、蒸気処理時に発生する前記ノズル孔列方向の上下撓みを強制的に修正するため、例えば耐熱性金属からなる補強材を添えるような機械的な機構を備えさせてもよいが、吸引ボックスの主な構成素材に、常温における熱膨張係数が6×10-6/K以下である、超低熱膨張金属材料を使うとよい。更には、吸引ボックスの本体内部に、吸引ボックスに吸引された加熱蒸気が直接ボックス本体に接触することを避けるため受熱板を設けることもできる。
【0067】
図5〜図8は、図9に示した吸引ボックス40の好適な第1及び第2の具体例を示している。
第1の具体例によれば、吸引ボックス40は、図5〜図7に示すように、天井が開放された矩形箱体からなるボックス本体401と、同ボックス本体401の開放面に直接配さ
れる受熱板402と、同受熱板402のボックス本体401とは反対側の外面に積層固定される天板部403とを有している。前記ボックス本体401の底部中央には図8示すように上記真空ポンプ42(42a〜42c)と吸引管路を介して接続される吸引源接続開口401aを有している。また、前記受熱板402には、所定の間隔をおいて平行に並んだ3本のスリット状吸引孔402a〜402cが形成されている。更に前記天板部403には、図7及び図8に示すように、前記受熱板402の前記スリット状吸引孔402a〜402cと同方向に平行に延びる1本又は2本のスリット状の蒸気吸引開口403’,403”が形成されている。この吸引ボックス40の材質には、少なくとも天板部403に超熱低膨張金属が使われる。勿論、ボックス本体401及び受熱板402についても同様の金属を使うことができる。
【0068】
吸引ボックス40のスリット状吸引開口の開口幅は略10mm程度が好適である場合が多く、その吸引力も通常の工場内で使われる換気扇の排気能力、すなわち300Pa程度で十分であり、これより大きいと繊維布帛の構成繊維に配向性を与えやすく、それより小さいと吸引力不足となる傾向にある。勿論、この吸引力は繊維布帛Fの厚さ、密度や、ノズル部材15から噴出するときの蒸気圧によっても所要の範囲で調整することが必要である。
【0069】
因みに、前記ボックス本体401は、高さ150mm、横幅160mm、奥行き790mmであり、前記受熱板402は、高さ(厚み)12mmであって、その横幅及び奥行きは前記ボックス本体401のそれと同じである。3本のスリット状吸引孔402a〜402cの形成位置は、受熱板402の幅方向端縁から140mmの間隔をおいて形成され、スリット状吸引孔の長さは510mmである。一方、前記天板部403は、その高さ(厚み)が20mmであり、横幅と奥行きは前記ボックス本体401及び受熱板402のそれと同じである。
【0070】
ただし、図示例では前記天板部403における前記蒸気吸引開口403’,403”形成は、スリット状の孔を独立して穿設することなく、板状の前記天板部403を4枚の分割長片403a〜403dに分割し、蒸気吸引開口の形成部位において分割長片403a〜403dを離間させ、その離間部分を残して各分割長片403a〜403dの側面を密着させることにより形成する。このように、天板部403を複数の分割長片403a〜403dから構成すると、前記蒸気吸引開口403’,403”を天板部403の任意の位置に形成することができるようになる。
【0071】
図示例では、前記離間部分の離間幅は10mmであり、1本又は2本の蒸気吸引開口(離間部分)403’,403”を形成でき、他の隣接する分割長片403a〜403dの側面を密接した状態で、各分割長片403a〜403dを前記受熱板402の上面に積層して、ボルト締めなどにより固定する。4枚の隣接する前記分割長片403a〜403dの側面を密着されたときの横幅を140mmとしている。前記受熱板402及び前記分割長片403a〜403dの吸引ボックス本体401に対する固定はボルトによるものであるため、受熱板402及び前記天板部403は、それぞれボックス本体401から分離・組立てが可能となっている。
【0072】
天板部403に1本の蒸気吸引開口403’を形成する場合には、図7に示すように、その蒸気吸引開口403’の形成部位を前記天板部403の横幅方向1中央部とするのが好ましい。このように1本の蒸気吸引開口403’を形成して、3本のスリット状吸引孔402a〜402cを有する前記受熱板402の上面に積層すると、図7に示すように、受熱板402の中央に形成されたスリット状吸引孔402bと天板部403の前記蒸気吸引開口403’とが連通状態となる。この場合には、同図に示すように、吸引ボックス40の前記蒸気吸引開口403’を高圧蒸気噴出ノズル10のノズル孔列の直下からベルト
進行方向の前方又は後方の位置となるようにずらせて、吸引ボックス40の配設する。
【0073】
この状態で、高圧蒸気噴出ノズル10から噴出される蒸気は、第1及び第2エンドレスベルト30a,30bの間に挟持されて搬送される繊維製布帛Fを通過して天板部403へと直接ぶつかったのちに、その前方又は後方に位置する蒸気吸引開口403’に導かれて、同蒸気吸引開口403’と連通する受熱板402の中央のスリット状吸引孔402bを通って吸引される。このとき、前記受熱板402の中央に形成されたスリット状吸引孔402bの前後に偏位して形成されたスリット状吸引孔402a,402cには吸引されることはない。ここで、吸引ボックス本体401と天板部403との間に超低熱膨張金属からなる受熱板402が配されているため、天板部403に高温の蒸気が直接当たっても前記受熱板402によって熱が即座に吸収されるとともに、吸引ボックス本体401には直接的に高温蒸気が当たらず、少なくとも受熱板402が超低熱膨張金属からなるため、吸引ボックス40のベルト幅方向において熱歪による変形が効果的に防止される。
【0074】
一方、天板部403が2本の蒸気吸引開口403’,403”を形成する場合には、図8に示すように、その2本の蒸気吸引開口403’,403”の形成部位は天板部403の中央部を挟んでベルト走行方向の前後に形成される。このとき天板部403の2本のスリット状開口403’,403”は、前記受熱板402の3本のスリット状吸引孔402a〜402cのうち、中央に形成されたスリット状吸引孔402bを除く前後の2本のスリット状吸引孔402a,402cに連通し、中央に形成されたスリット状吸引孔402bは閉塞される。
【0075】
この場合には、高圧蒸気噴出ノズル10のノズル孔列は、受熱板402の2本のスリット状吸引口402a,402cに連通する前記天板部403の2本の蒸気吸引開口403’,403”により挟まれた中間位置の上方に配される。前記ノズル孔列から噴出される蒸気は、第1及び第2エンドレスベルト30a,30bの間に挟まれて搬送される繊維製布帛Fを通過すると、ノズル孔列の直下に相対する天板部403に当たり、そこで周囲に拡がろうとするが、前記ノズル孔列の直下から外れた位置に形成された2本の蒸気吸引開口403’,403”に導かれて吸引される。前記3本のスリット状吸引孔402a〜402cのうち、中央に形成されたスリット状吸引孔402bは天板部403により閉塞状態におかれており、蒸気は同スリット状吸引孔402bを通してボックス本体401に吸引されることはない。
【0076】
この具体例にあっては、ノズル孔列から噴出する高温蒸気は、第1及び第2エンドレスベルト30a,30bの間に挟持されて搬送される繊維製布帛Fを通過したのち、天板部403へと直接ぶつかり、その前方及び後方に位置する蒸気吸引開口403’,403”に導かれて、各蒸気吸引開口403’,403”と連通する受熱板402の中央のスリット状吸引孔402bを除く前後のスリット状吸引孔402a,402cを通って吸引される。このように、ノズル孔列から噴出された高温の蒸気は、繊維布帛Fを介して直接天板部403の板面にぶつかる前に、そこで前後に偏位した位置に形成された蒸気吸引開口403’,403”に向けて拡がりながら繊維布帛Fを通過するようになる。この繊維布帛Fを通過するとき、前記ノズル孔列の直下を通過する布帛部分にあたる蒸気量が最も多くなるが、ノズル孔列の直下に進入しようとするときも、ノズル孔列の直下を通過したのちも繊維布帛Fには相変わらず蒸気が当たるようになり、繊維布帛Fに対する処理部では、常に予備加熱、蒸熱処理及び急冷抑制が連続してなされることになる。その結果、繊維製布帛に対して効率的で安定した蒸気処理がなされるようになる。
【0077】
本発明に係る繊維製布帛に対する高圧蒸気処理は、後述するノズル構造を備えた高圧蒸気噴出ノズル10から噴出する高圧高温の蒸気を繊維製布帛の表面に噴射することにより行われる。高圧蒸気噴出ノズル10から噴出する高圧高温の蒸気は、図1、図2及び図3
に示すように、高圧蒸気供給源Sから供給される高圧の蒸気が蒸気導入側主管路C4を通して高圧蒸気噴出ノズル10の蒸気導入側端部に導入される。この蒸気導入側主管路C4では、蒸気供給源Sから送られる蒸気を第4の蒸気貯留タンクST4に導き、その底部に蒸気中に含まれるドレンを貯留して、これを第4のトラップ管路57を介して図示せぬドレン回収タンクに回収している。このドレン回収タンクには、上記第1〜第4の蒸気回路SL1〜SL4を構成する各管路から排出される全てのドレンが1本のドレン排出回路を介して集められて回収される。第3の蒸気貯留タンクST3に導入された蒸気は圧力制御バルブ及び精密フィルターを介して加熱ヒーターH3により加熱されて加熱蒸気となり、第4の蒸気貯留タンクST4を介して高圧蒸気噴出ノズル10に送り込まれる。
【0078】
本実施形態にあっては、前記加熱ヒーターH1と高圧蒸気噴出ノズル10の蒸気導入側端部との間に、温度検出器TIと圧力検出器PIとが配されている。前記加熱ヒーターH1からの温度検出信号を受けて開閉バルブVの開閉量が制御され、前記温度検出器TIにより検出される蒸気温度が下限の温度より低下すると前記開閉バルブVを開き新たな高温の蒸気を図示せぬ蒸気補給タンクから蒸気導入側主管路C4に補給して加熱蒸気温度を所定の温度範囲まで上昇させる。蒸気温度が上限の温度を越えると補給蒸気の補給を停止する。
【0079】
図10〜図12は、本実施形態における上記高圧蒸気噴出ノズル10の主要な構成を示している。この高圧蒸気噴出ノズル10は、図10及び図11に示すように、円筒体からなるノズルホルダー11と、同ノズルホルダー11の両端部に溶接により固着された第1及び第2フランジ12,13と、前記ノズルホルダー11の内部に挿通されて両端部を第1及び第2フランジ12,13により支持された円筒状の高メッシュフィルター14又は多孔性内側管部14’と、前記ノズルホルダー11の下面に沿って溶接又はボルト等により固着される多数のノズル孔をもつノズル部材15とを備えている。
【0080】
図示例によれば、ノズル部材15はノズルホルダー11の下面に固設されており、高圧蒸気はノズル部材15のノズル孔の下方を走行する図示せぬ繊維製布帛の上面に上方から下方に向けて噴出するときの構造例を示している。本発明にあっては、前記ノズル部材15をノズルホルダー11の上面に固設して、高圧蒸気をノズル部材15のノズル孔の上方を走行する図示せぬ繊維製布帛の下面に下方から上方に向けて噴出する場合もある。なお、上記内側管部14’は蒸気が通過する多数の孔を有し、その材質は、外側管部であるノズルホルダー本体11’と同等の材質であることが好ましい。
【0081】
図12は、本発明の高圧蒸気噴出ノズル10の、図11に示すIII−III線に沿って矢印方向に見た拡大断面図である。この図から理解できるように、ノズル部材15は多数のノズル孔15a”を有するノズルプレート15aと、同ノズルプレート15aを支持するプレート支持部材15bと、前記ノズルプレート15aと前記プレート支持部材15bとの間に介装される第1気液分離手段の一構成部材をなす、ドレンセパレートプレート15cとから構成することができる。
【0082】
前記ノズルホルダー11の蒸気導入側端部に固着された第1フランジ12は中心線に沿って大径部12a及び小径部12bとからなる貫通孔12cが形成されており、上記高圧蒸気供給源Sに接続された図示せぬ高圧蒸気供給管にプラグ17を介して接続される。前記ノズルホルダー11の蒸気排出側端部に固着された第2フランジ13も、その中心線に沿って大径部13a及び小径部13bとからなる貫通孔13cが形成されており、図示せぬ排気ファンに接続された図示せぬ蒸気排出管と接続される。前記高メッシュフィルター14(又は内側管部14’)の両端部には、前記第1及び第2フランジ12,13の各大径部12a,13aに気密に固設されたOリング18,19を固着している。
【0083】
ところで、ノズルホルダー11への蒸気の供給配管については、凝縮蒸気の持ち込みを防止するため、ノズルホルダー11の蒸気導入口との接続部は可能な限り立ち上げることが肝要である。そのためには、前記配管をフレキシブルパイプで構成するとよい。一方、高圧蒸気噴出ノズル10の蒸気排出側端部にも図示せぬ温度検出器を配し、蒸気排出側端部を図示せぬ蒸気排出管路に接続する。前記温度検出器により検出された蒸気温度が設定温度に達すると閉鎖する図示せぬ開閉バルブを閉じて蒸気排出管路を閉鎖する。この蒸気排出管路が閉鎖されたときでも、高圧蒸気噴出ノズル10のノズルホルダー11内部に発生するドレンを常に図示せぬ回収タンクに排出するようにしている。
【0084】
以上のごとく構成された本実施形態による布帛の処理装置によれば、稼働に先立って、先ず上記高圧蒸気噴出ノズル10の蒸気排出管路C5の開閉バルブ56を開けて蒸気導入側主管路C4を通して高圧の加熱蒸気を導入すると、新鮮な加熱蒸気が高圧蒸気噴出ノズル10のノズルホルダー11の内部を、その導入側開口から排出側開口へと流れ、ノズルホルダー11を所要の加熱温度まで速やかに昇温させる。このとき、ノズルホルダー11の蒸気排出側端部に設置された温度検出器TIによりその温度を検出しており、同検出温度が所要の温度に達すると上記開閉バルブ56を閉じる。この開閉バルブ56を閉じると同時に、第1及び第2エンドレスベルト30a,30bを駆動して、その回動を開始する。
【0085】
第1及び第2エンドレスベルト30a,30bの回動により、同ベルト30a,30bにより挟持して搬送される繊維製布帛Fの表面には、上記高圧蒸気噴出ノズル10の各ノズル孔15a”から噴出する均等な圧力と温度をもつ柱状又は収束流の加熱蒸気が付与され、その強力な加熱蒸気流が布帛内へと浸入し、周辺繊維を交絡させながら同時に熱セットを行いながらウエブを貫通して蒸気による繊維布帛Fを連続して処理する。このとき、蒸気排出管路C5に設置された開閉バルブ56は閉じられた状態にあり、高圧蒸気噴出ノズル10のノズルホルダー11の内部にはドレンが生じるが、このドレンは、前記開閉バルブ56の上流側から分岐する第2のトラップ管路57を介して常に系外に設置された回収タンクに回収される。
【0086】
その結果、ノズル孔15a”に目詰まりが発生することがなく、同ノズル孔15a”から噴出される加熱蒸気は間欠的に噴出することなく安定して連続で噴出するようになる。このように、走行する繊維ウエブの表面に安定した加熱蒸気が連続して噴出されるため、ウエブ全体に均等な交絡がなされるようになり、所要の強度を備えた極めて高品質な布帛が処理される。
【0087】
図10〜図19は、本発明の重要な構成部材でもある上記高圧蒸気噴出ノズルの代表的な構造例を示している。ただし、この高圧蒸気噴出ノズルは図示例に限定されるものではなく、従来のこの種ノズルを用いることもできる。
この高圧蒸気噴出ノズル10は、図10及び図11に示すように、ノズルホルダー11と、同ノズルホルダー11の両端部に溶接により固着された第1及び第2フランジ12,13と、前記ノズルホルダー11の内部に挿通されて両端部を第1及び第2フランジ12,13により支持された円筒状の高メッシュフィルター14又は内側管部14’と、前記ノズルホルダー11の下面に沿って溶接又はボルト等により固着される多数のノズル孔をもつノズル部材15とを備えている。この実施形態によれば、ノズル部材15はノズルホルダー11の下面に固設されており、高圧蒸気はノズル部材15のノズル孔の下方を走行する図示せぬ繊維製布帛の上面に上方から下方に向けて噴出するときの構造例を示している。本発明にあっては、後述するがノズル部材15をノズルホルダー11の上面に固設して、高圧蒸気をノズル部材15のノズル孔の上方を走行する図示せぬ繊維製布帛の下面に下方から上方に向けて噴出する場合もある。なお、上記内側管部14’の材質は、外側管部であるノズルホルダー本体11’と同等の材質であることが好ましい。
【0088】
本実施形態におけるノズル部材15は、外観的には上記特許文献1及び2に開示されたノズル部材とノズル孔の形状及び部材高さが大きくされている点を除くと、ほぼ類似する形状を有している。図12から理解できるように、ノズル部材15は多数のノズル孔15a”を有するノズルプレート15aと、同ノズルプレート15aを支持するプレート支持部材15bと、前記ノズルプレート15aと前記プレート支持部材15bとの間に介装されるドレンセパレートプレート15cとから構成することができる。これらの部材は、図10〜図12から理解できるように、各部材間を長さ方向に9本、幅方向に各一対の総計18本の固定用ボルト21によって締結固定される。
【0089】
前記ノズルホルダー11の蒸気導入側端部に固着された第1フランジ12は中心線に沿って大径部12a及び小径部12bとからなる貫通孔12cが形成されており、図示せぬ高圧蒸気供給源に接続された図示せぬ高圧蒸気供給管にプラグ17を介して接続される。前記ノズルホルダー11の蒸気排出側端部に固着された第2フランジ13も、その中心線に沿って大径部13a及び小径部13bとからなる貫通孔13cが形成されており、図示せぬ排気ファンに接続された図示せぬ蒸気排出管と接続される。前記高メッシュフィルター14(又は内側管部14’)の両端部には、前記第1及び第2フランジ12,13の各大径部12a,13aに気密に固設されるOリング18,19を固着している。
【0090】
ところで、ノズルホルダー11への蒸気の供給配管については、凝縮蒸気の持ち込みを防止するために、立上り配管をノズルホルダー11の蒸気導入口に接続したり、あるいはその接続部の直前にドレンセパレータを設置するなど設計上の配慮が必要である。勿論、供給配管からの放熱による影響で凝縮蒸気が発生することを防止するため、配管部やバルブ等を十分に保温することが重要であり、必要に応じて配管などを外部から強制的に加熱するなどの対策を講じることが望ましい。これらの対策を講じることは重要ではあるが、ノズルホルダー11の外部を積極的に加熱する必要もある。
【0091】
また、冷却による影響以外にも、ノズルホルダー11内の蒸気の移動速度が一定以上の速度を有する場合には、運動エネルギーや摩擦損失との関連でホルダー内部において温度低下や圧力低下による影響を受けて、蒸気温度の分布や凝縮蒸気の発生原因となることが明らかにされた。種々検討の結果、このような現象の発生を避けるためにはホルダー内を移動する蒸気流量に対して、所要のホルダー長さを与えたときに、供給蒸気圧力に対する圧力低下を許容限度内に抑えるためには、以下のような条件式(1)を満足する必要があることを見出した。
D≧{KQt2 L/〔σ(P+0.1)〕}0.2 ……(1)
例えば、ホルダー全体からの蒸気の噴出量をQt(kg/s) 、ホルダー長さをL(m) 、圧力偏差率σを設定すると、前記式(1) から、ホルダー径Dの最小寸法を求めることができる。
【0092】
前記ノズルホルダー11の下面部には、その両端部を残して内部空間に達するまでが平面的に切除されて切除面11aを形成しており、その結果、ノズルホルダー11の下面中央には長手方向に延びるスリット11bが形成される。前記切除面11aは、図12に示すように、上記ノズル部材15の厚板状のノズルプレート15a、角柱状のプレート支持部材15b及び薄板状のドレンセパレートプレート15cを積層した状態で固定される。その積層は、最下位にノズルプレート15aが配され、最上位にプレート支持部材15bが配され、中間にドレンセパレートプレート15cを配している。これら3層の長さと幅とは同一である。ノズルプレート15aの下面中央部にはその長手方向の両端部を除いて長手方向に連続的に延びるスリット15a’が形成されている。また、その上部中央には、前記スリット15a’に通じる多数のノズル孔15a”が長手方向に一列に配されている。この多数のノズル孔15a”を千鳥状に配することもできる。
【0093】
一方、上記プレート支持部材15bの上半部には、図14に拡大して示すように、上記ノズルホルダー11のスリット11bに臨む千鳥状に配された多数の円孔からなる蒸気通路15b’が形成されている。またプレート支持部材15bの下半部には、図13に拡大して示すように、千鳥状に並んだ前記蒸気通路15b’の幅方向外側端縁間の幅をもち、且つ前記蒸気通路15b’の並ぶ方向の形成領域を網羅する長さをもつスリット部15b”が形成されている。
【0094】
更に図示例によれば、前記プレート支持部材15bにおける各蒸気通路15b’の上半部を中空状の筒体15b’−1に形成されており、その周辺をも含めた長さ方向の蒸気通路15b’の形成領域を舟形状の凹陥部15b’−2としている。前記円筒状の筒体15b’−1及び舟形状の凹陥部15b’−2はドレン貯留部を構成し、前記筒体15b’−1が堰としての機能を発揮する。
【0095】
一般に、ノズルホルダーに導入される高温高圧の蒸気の熱は、ノズルホルダーを介して外部に放熱され、そのための温度低下に基づき凝縮水が発生する。この凝縮水は蒸気とともに下方の上記高圧蒸気噴出通路へと流れ込もうとする。このとき、本発明にあっても、凝縮液の大半はノズルホルダー11の内面を伝わり下方へと移動する。また蒸気中に含まれる凝縮液が上記第2気液分離手段に達するまでに、その大半が蒸気と凝縮液とに分離され、内部圧のため蒸気は上記筒体15b’−1の孔を介して下方のノズルプレート15aに向けて流動を続けるが、一方の凝縮液は前記筒体15b’−1の筒壁部により中空孔内への流れが阻止され、前記凹陥部15b’−2に集まって一時的に貯留される。この凹陥部15b’−2に集められた凝縮液は、所定の時間ごとに同凹陥部15b’−2に通じるドレン排出口に配された図示せぬ開閉バルブを開けることにより系外へと排出される。
【0096】
上記ドレンセパレートプレート15cは、その名称が示すとおり、上記第2気液分離手段と同様に蒸気と凝縮液とを分離するための部材であり、ドレンセパレートプレート本体15c’単独で構成してもよいが、本実施形態では図12、図13、図19及び図20に示すように、ドレンセパレートプレート本体15c’とディスクプレート15c”との2部材から構成される。ここで、ディスクプレート15c”は、図12、図13及び図19に示すように、前記ドレンセパレートプレート本体15c’よりも薄肉で且つ幅狭であり、ドレンセパレートプレート本体15c’より短尺なプレート材からなり、前記ドレンセパレートプレート本体15c’の蒸気流れ方向の上流側直近に配される。図示例によれば、図12及び図13に示すように、前記ディスクプレート15c”が上記プレート支持部材15bに形成されたスリット部15b”の空間内に配されている。凝縮液を含む蒸気がドレンセパレートプレート本体15c’に達する以前に凝縮液を含む蒸気を前記ディスクプレート15c”に当てて、蒸気中の凝縮液を蒸気から分離させるとともに、ドレンセパレートプレート本体15c’に向かう蒸気圧を分散させて、その圧力分布を均一化するバッファとしても機能する。
【0097】
一方、上記ドレンセパレートプレート本体15c’の厚さ方向の上半部には、図13及び図17に拡大して示すように、その幅方向の中央部に上記プレート支持部材15bの上記スリット部15b”の開口よりも一回り大きく、ドレンセパレートプレート本体15c’の1/2の深さをもつ凹溝部15c’−2が前記スリット部15b”に沿って形成されている。前記凹溝部15c’−2の底部幅方向中央には長さ方向に沿って多数の貫通孔15c’−3が等ピッチに形成されている。この凹溝部15c’−2の凝縮液排出側端部の底面には、図18に拡大して示すように、ドレンセパレートプレート本体15c’の端面まで延びてトラップ管路と接続する凝縮液排出口15c’−1が形成されている。
【0098】
他方、凹溝部15c’−2の底面には、前記貫通孔15c’−3と連通する中空状の円
筒体15c’−4が凹溝部15c’−2と一体化して直立している。この円筒体15c’−4は各貫通孔15c’−3と同じ内径をもち、また前記貫通孔15c’−3の内径よりも大きな外径をもち、貫通孔15c’−3と同等の高さをもっている。
【0099】
前記ディスクプレート15c”に当たって分散化された蒸気には僅かではあっても、いまだ凝縮液が含まれている可能性が高い。前記ドレンセパレートプレート本体15c’は、そうした蒸気中に残った凝縮液を凹溝部15c’−2に集めて、蒸気だけを前記中空状の円筒体15c’−4の中空部と前記貫通孔15c’−3とを通してドレンセパレートプレート本体15c’の下面に密着して配されたノズルプレート15aのノズル孔15a”へと送り込む。このとき、前記円筒体15c’−4は凝縮液が中空部へと侵入するのを阻止して、蒸気のみを中空部へと送り込み、ここで分離された凝縮液が前記凹溝部15c’−2に集められる。この凹溝部15c’−2に溜まった凝縮液は、所定の時間ごとに図示せぬ開閉バルブが開いて凹溝部15c’−2と連通するドレン排出口を通して系外へと排出する。なお、本実施形態にあっては前記円筒体15c’−4は前記凹溝部15c’−2の底面に沿って等ピッチで単列に配されているが、これに限定されない。
【0100】
上記ノズルプレート15aは、その幅方向の中央に所定のピッチをもって長手方向に一列又は多列に並んで形成された多数のノズル孔15a”を有している。本実施形態によれば、前記ノズル孔15a”は一列に配されており、上部の1/5の高さ部分に単なる円形孔15a”−1が形成され、その下面に連続して前記円形孔15a”−1の径よりも小さな径をもち、その上端開口から逆円錐台形孔15a”−2に形成されている。また、この逆円錐台形孔15a”−2の下端噴出口までノズルプレート15aの長さ方向に連続して延びるスリット15a’が形成されている。かかる孔形状を採用するときは、高精度の孔加工と噴射流の良好な均一性の確保を可能にする。
【0101】
上記プレート支持部材15bは、図10及び図12に示すように、同プレート支持部材15bの上面をノズルホルダー11の上記切除面11aに密接させた状態で、溶接により固設一体化されている。前記プレート支持部材15bには、上記スリット部15b”の開口下端縁部に沿って下方へと突出する突壁部15b”−1が連続して形成されている。プレート支持部材15bの前記突壁部15b”−1が、上記ドレンセパレートプレート本体15c’に形成された上記凹溝部15c’−2の内壁面に密嵌する状態で嵌着され、プレート支持部材15bとノズルプレート本体15aとの間に挟持固定される。
【0102】
このときの固定は、図12及び図13に拡大して示すように、プレート支持部材15bとドレンセパレートプレート本体15c’との間、及びノズルプレート15aとドレンセパレートプレート本体15c’との間を、それぞれOリング20を介して共通のボルト21をもって気密に固着することにより強固に支持する。従って、ノズルプレート15a及びドレンセパレートプレート15cは前記ボルト21を外すことにより、プレート支持部材15bから容易に取り外すことができるため、洗浄や交換が簡単にできる。また、前記ドレンセパレートプレート本体15c’の前記凹溝部15c’−2に密嵌されたプレート支持部材15bの前記突壁部15b”−1の内面と上記円筒体15c’−4との間には、既述したとおり空間が形成されており、この空間が凝縮液流路となる。
【0103】
また、図21は他の実施形態を示しており、この実施形態によればノズルプレート15aと第1エンドレスベルト30aとの間隙、第2エンドレスベルト30bと吸引ボックス40との間の間隙を維持すべく、第2エンドレスベルト30bの下面を支持して案内する複数の支持回転ロール35aを設けるとともに、ノズルプレート15aの前後端面に隣接する第1エンドレスベルト30aの上面にガイドロール35bを配している。これらのロール35a,35bを設けることにより、第1及び第2エンドレスベルト30a,30bとノズルプレート15a及び吸引ボックス40との摺接を回避すると同時に、その対向間
隙を微小に維持して噴出蒸気への外気の侵入を極力阻止する。なお、これらの支持回転ロール35aやガイドロール35bを公知の上下位置調整手段を使ってそれぞれの上下位置を調整可能にすることもできる。
【0104】
以上説明した実施形態にあっては、高圧蒸気噴出ノズル10のノズル孔15a”を単に繊維布帛Fに向けて配設しているが、本発明では更に前記高圧蒸気噴出ノズル10の全体を積極的に加熱して高温を維持させることもできる。図22は、その一例を示している。同図によれば、ノズルホルダー11、ノズルプレート支持部材15及びノズルプレート15を備えた高圧蒸気噴出ノズル10の全体を収容する加熱ボックス27が使われている。この加熱ボックス27は高圧蒸気噴出ノズル10の全体を収容するとともに、高圧蒸気噴出ノズル10のノズル孔16aが向けられる側を全面開口させた細長い直方体からなり、その天板部の中央部に熱風導入口27aが形成されている。この熱風導入口27aは外部の熱風導入管路28と接続されている。ファン28aによりフィルター28bを介して導入され、ヒーター28cによって加熱された高温の清浄化された空気が、前記熱風導入管路28を通って加熱ボックス27へと送り込まれて、高圧蒸気噴出ノズル10の全体を熱風により積極的に加熱する。
【0105】
このように、高圧蒸気噴出ノズル10の全体を加熱することにより、ノズルホルダー11の内部に導入される高圧蒸気や加熱蒸気の温度低下が効果的に防止され、所要温度を維持して高圧蒸気噴出ノズル10から繊維布帛Fに向けて噴出させることができる。その結果、使用蒸気量の低減が実現されると同時に効率的な繊維交絡が実現できるようになるばかりでなく、処理される布帛の形態も安定化し所望の強度と風合いが得られる。
【0106】
また図示例によれば、加熱ボックス27の繊維布帛搬送方向の前後壁部27b,27cにあって、その下端部にはシールロール29a,29bの周面が当接されている。このシールロール29a,29bはステンレス製の平滑ロール又は周面に樹脂がコーティングされたロールであり、自由回転ロールであっても、繊維布帛Tの搬送速度に同調させて駆動回転させるようにしてもよい。かかるシールロール29a,29bを配することにより、加熱ボックス27からの熱風の散逸を防ぐと同時に外気の浸入が防止でき、高圧蒸気噴出ノズル10に対する加熱効率が向上する。
【0107】
また、この例では更に繊維布帛Fの担持搬送体である第2エンドレスベルト30bに対向して配された吸引ボックス40の吸引開口部に対応する部分を開口させた外気遮蔽板63を、前記第2エンドレスベルト30bと吸引ボックス40との間に介装している。この外気遮蔽板63の繊維布帛搬送方向の前後端部をそれぞれ下方に湾曲させて、繊維布帛Fの通過を円滑に安定するようにしている。このように、エンドレスベルト30と吸引ボックス40との間に前記外気遮蔽板63を介装することにより、高圧蒸気噴出ノズル10から噴出する高圧蒸気又は加熱蒸気の噴出領域に外気が浸入することを防ぐことができ、噴出された高圧蒸気又は加熱蒸気を、高圧蒸気噴出ノズル10と吸引ボックス40との間を通過する繊維布帛Fに外気による影響がなく、熱エネルギーの損失が大幅に低減され、効率的な連続的な処理がなされる。
【0108】
また図示は省略するが、本発明にあっては前記外気遮蔽板63と同様に、第2エンドレスベルト30bと吸引ボックス40との間に、蒸気反射板を介装してもよい。この蒸気反射板と前記外気遮蔽板63との異なる点は、前記外気遮蔽板63が中央にノズル孔16aの列方向に延びる開口を有している外は平滑面に形成されているのに対して、前記蒸気反射板は多孔の板材から構成する。いま、高圧蒸気噴出ノズル10から噴出される高圧蒸気又は加熱蒸気が第1エンドレスベルト30a、繊維布帛F、第2エンドレスベルト30bを貫通すると、その蒸気の一部は吸引ボックス40により吸引されるが、その大半は前記蒸気反射板にて反射して、再度繊維布帛Fの下面に作用して、繊維布帛Fの下面側の表面
にも均等に処理がなされる。
【0109】
更に本発明にあっては、高圧蒸気噴出ノズル10をその長手方向に微小に往復動させるか、或いは上記第1及び第2エンドレスベルト30a,30bを繊維布帛Fとともに繊維布帛搬送路を横断する方向へ微小に往復動させることができる。その往復動のための駆動機構は、図示は省略するが、例えば従来から長網抄紙機などの網に横振動を与えるための公知の機構を採用することができる。また往復動(振動)の行程は往復動中心から左右に5mm程度が好ましく、その往復動回数は30〜300回/分の範囲で任意に調整される。このように、高圧蒸気噴出ノズル10を、或いは第1及び第2のエンドレスベルト30a,30bを往復動させると、列状に配された多数のノズル孔から噴出する高圧蒸気又は加熱蒸気が繊維布帛Fの表面を幅方向に満遍なく作用するようになり、高圧蒸気噴出ノズル10から高圧の蒸気を噴出させても、布帛表面にモアレ状の模様がつくことがなく、より均質な処理がなされる。
【符号の説明】
【0110】
10(10−1a,10−1b,10−2〜10−4)
高圧蒸気噴出ノズル
11 ノズルホルダー
11’ ノズルホルダー本体(外側管部)
11a 切除面
11b スリット
12,13 第1及び第2フランジ
12a,13a 大径部
12b,13b 小径部
12c,13c 貫通孔
14 高メッシュフィルター
14’ 内側管部
15 ノズル部材
15a ノズルプレート
15a’ スリット
15a″ ノズル孔
15a”−1 円形孔
15a”−2 逆円錐台形孔
15b (ノズル)プレート支持部材
15b’ 蒸気通路
15b’−1 (中空状の)筒体(堰)
15b’−2 (舟形状の)凹陥部(集液路)
15b” スリット部
15b”−1 突壁部
15c ドレンセパレートプレート
15c’ ドレンセパレートプレート本体
15c’−1 凝縮液排出口
15c’−2 凹溝部(凝縮液流路)
15c’−3 貫通孔
15c’−4 円筒体(堰)
15c” ディスクプレート(バッファ部材)
15d スペーサ
15d’ 開口
15e フランジ付きスペーサ
15e’ フランジ部
17 プラグ
18,19,20 Oリング
21 ボルト
27 加熱ボックス
27a 熱風導入口
27b,27c 前後壁部
28 熱風導入管路
28a ファン
28b フィルター
28c ヒーター
29a,29b シールロール
30a,30b 第1及び第2エンドレスベルト
31a,31b 駆動ローラ
32a,32b 従動ローラ
33a,33b テンションロール
34a〜34c 第1〜第3のガイドロール対
35a 支持回転ロール
35b ガイドロール
40(40−1a,40−1b ,40−2〜40−8)
吸引ボックス
401 ボックス本体
401a 吸引源接続開口
402 受熱板
402a〜402c スリット状吸引孔
403 天板部
403a〜403d 分割長片
403’,403” 蒸気吸引開口
40’,40” 蒸気吸引開口
41a,41b 第1及び第2の加熱ボックス
42a〜42c 真空ポンプ
43a〜43c セパレータタンク
43a’〜43c’ ミストセパレータ
63 外気遮蔽板
W1 経糸
W2 緯糸
SL1〜SL4 蒸気回路
ST1〜ST4 蒸気貯留タンク
V,V1,56 開閉バルブ
T1〜T4 温度計測器
C1〜C3 第1〜第3蒸気吸引管路
C4 蒸気導入側主管路
F 繊維布帛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性搬送手段の移動に随伴して一方向に走行する繊維製布帛の幅方向の少なくとも一表面に加圧蒸気を連続して噴射する高圧蒸気噴出ノズルと、前記多孔性搬送手段を挟んで高圧蒸気噴出ノズルの反対側に配された吸引ボックスとを備えた繊維製布帛の蒸気処理装置であって、
前記高圧蒸気噴出ノズルが、少なくとも一端に加圧蒸気供給管と接続する蒸気導入口を有し、繊維製布帛と相対する面の長さ方向に沿った開口を有する中空筒状のノズルホルダーと、同ノズルホルダーの開口形成部に脱着可能で、前記開口に対向して直線状に配された多数のノズル孔からなるノズル孔列を有するノズル部材とを備え、
前記吸引ボックスが前記ノズル孔列に平行する吸引開口を有し、該吸引開口が前記ノズル孔列の正対位置から前記多孔性搬送手段の移動方向の前方及び/又は後方位置に偏位して配されてなる、繊維製布帛の蒸気処理装置。
【請求項2】
前記吸引ボックスの蒸気処理時における前記ノズル孔列方向の上下撓みが5mm以内である、請求項1記載の蒸気処理装置。
【請求項3】
前記吸引ボックスが、蒸気処理時に発生する前記ノズル孔列方向の上下撓みを強制的に修正するための機械的な機構を有してなる、請求項2記載の蒸気処理装置。
【請求項4】
前記吸引ボックスの主な構成素材は、常温における熱膨張係数が6×10-6/K以下である超低熱膨張金属材料からなる、請求項2記載の蒸気処理装置。
【請求項5】
前記吸引ボックスの本体の内部に、吸引ボックスに吸引された加熱蒸気が直接ボックス本体に接触することを制限する受熱板を有してなる、請求項2記載の蒸気処理装置。
【請求項6】
上記ノズルホルダーの蒸気排出口と蒸気導入口との間が蒸気通路にて連結され、その蒸気通路には前記蒸気導入口、前記ノズルホルダー、前記蒸気排出口へと蒸気を循環させる蒸気循環手段が配されるとともに、前記蒸気通路の前記蒸気導入口の近傍に蒸気加熱手段が配されてなる、請求項1記載の蒸気処理装置。
【請求項7】
前記高圧蒸気噴出ノズルの外表面を強制的に加熱する手段を有してなる、請求項1記載の蒸気処理装置。
【請求項8】
前記多孔性搬送手段が所要のメッシュ度をもつエンドレスベルトを含み、該エンドレスベルトが耐熱性の合成樹脂線材を使った、少なくとも2本の緯糸が同一垂直面上で2以上配される多重織物からなる、請求項1記載の蒸気処理装置。
【請求項9】
請求項1に記載された蒸気処理装置におけるノズルホルダーを介して前記ノズル部材の前記ノズル孔へと供給する高圧蒸気を、湿り度が10%以内の蒸気、もしくは加熱度が10℃以上の加熱蒸気とすることを含んでなる、繊維製布帛の蒸気処理方法。
【請求項10】
前記吸引ボックス内の圧力を測定し、大気中に接続された配管部に配された調整バルブによりボックス内部の圧力を調整することを含んでなる、請求項9記載の繊維製布帛の蒸気処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−77402(P2012−77402A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222678(P2010−222678)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】