説明

繊維製造用材料および繊維

【課題】繊維強度のバラツキを小さくすることが可能な繊維製造用材料を提供することを目的とする。
【解決手段】下記(a)、(b)の要件を満たす液晶ポリエステルを用い、脱気しながら溶融混錬して得られる繊維製造用材料。
(a)流動開始温度が280℃以上360℃以下である。
(b)流れ特性試験機を用い、ノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s−1の条件で360℃にて測定した溶融粘度が、70Pa・s以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製造用材料および繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、優れた低吸湿性、耐熱性及び薄肉形成性等を有することにより、電子部品等の材料として広く用いられている。近年では、このような液晶ポリエステルの特性を活かして、液晶ポリエステルを繊維化することが検討されている。
【0003】
液晶ポリエステルを繊維化する場合、一般的には、液晶ポリエステルをいったん溶融した後に、細孔を介して押し出しながら引き延ばすことにより成形される。この際、溶融状態の液晶ポリエステルは、低粘度であるほど細い繊維を得ることが可能であり、良好に繊維化が可能である。
【0004】
従来の液晶ポリステルは、長時間溶融状態とした場合に、粘度が大きく増加し、細い繊維を紡糸することが困難となることがあった。しかし近年では、溶融状態でも粘度の増大を確実に抑制することができ、特性を維持しながら容易に繊維化を可能とする液晶ポリエステルが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−43380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、液晶ポリエステルを用いて成形した繊維は、強度にバラツキが生じることがあり、改善の余地があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、繊維強度のバラツキを小さくすることが可能な繊維製造用材料を提供することを目的とする。また、このような材料を用いることにより、繊維強度のバラツキを抑制した繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題について、本発明者が種々検討したところ、液晶ポリエステルの重合残渣として液晶ポリエステル中に残存するモノマー、ダイマー、及びオリゴマーのような低分子量成分が、強度のバラツキの一因であることが分かった。すなわち、成形した繊維において、低分子量成分が存在しない箇所の繊維強度は大きいが、低分子量成分が存在する箇所は強度の低下が大きい、というバラツキがあることが確認された。
【0009】
そこで、上記の課題を解決するため、本発明は、下記(a)、(b)の要件を満たす液晶ポリエステルを用い、脱気しながら溶融混錬して得られる繊維製造用材料を提供する。
(a)流動開始温度が280℃以上360℃以下である。
(b)流れ特性試験機を用い、ノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s−1の条件で360℃にて測定した溶融粘度が、70Pa・s以下である。
【0010】
本発明においては、前記液晶ポリエステルは、下記式(1)、下記式(2)及び下記式(3)で表される繰返し単位を有することが望ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0011】
本発明においては、前記液晶ポリエステルは、Arが1,4−フェニレン基である式(1)で表される繰返し単位と、Arが1,4−フェニレン基または1,3−フェニレン基である式(2)で表される繰返し単位と、Arが4,4’−ビフェニリレン基である式(3)で表される繰返し単位とを含むことが望ましい。
【0012】
本発明においては、前記液晶ポリエステルは、全繰返し単位の合計含有量に対して、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が40モル%以上であることが望ましい。
【0013】
本発明においては、0.04MPa以下の真空度の条件下で脱気しながら溶融混錬して得られることが望ましい。
【0014】
本発明においては、2箇所以上のベント部を有する押出機を用い、前記2箇所以上のベント部から脱気しながら溶融混錬して得られることが望ましい。
【0015】
本発明においては、ベント部の上流側にニーディング部を備えた押出機を用い、前記ベント部から脱気しながら溶融混錬して得られることが望ましい。
【0016】
また、本発明の繊維は、上述の繊維製造用材料を紡糸して得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶融混練時に脱気することで低分子量成分量を低減させ、繊維強度のバラツキを小さくすることが可能な繊維製造用材料を提供することができる。また、このような材料を用いることにより、繊維強度のバラツキを抑制した繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態の繊維製造用材料は、下記(a)、(b)の要件を満たす液晶ポリエステルを用い、脱気しながら溶融混錬して得られる。
(a)流動開始温度が280℃以上360℃以下である。
(b)流れ特性試験機を用い、ノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s−1の条件で360℃にて測定した溶融粘度が、70Pa・s以下である。
【0019】
また、本実施形態の繊維は、上述の繊維製造用材料を紡糸して得られる。
【0020】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
(液晶ポリエステル)
本実施形態の繊維製造用材料に用いられる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示し、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0022】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの
(III)芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるもの
が挙げられる。
【0023】
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0024】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
【0025】
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0026】
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0027】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0028】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0029】
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。
【0030】
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。
【0031】
Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0032】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0033】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0034】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0035】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0036】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、通常30モル%以上、好ましくは30%以上80モル%以下、より好ましくは40%以上70モル%以下、さらに好ましくは45%以上65モル%以下である。
【0037】
繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10%以上35モル%以下、より好ましくは15%以上30モル%以下、さらに好ましくは17.5%以上27.5モル%以下である。
【0038】
繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10%以上35モル%以下、より好ましくは15%以上30モル%以下、さらに好ましくは17.5%以上27.5モル%以下である。
【0039】
このような所定の繰返し単位組成を有する液晶ポリエステルは、耐熱性と成形性とのバランスに優れている。繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0040】
なお、繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量とは、実質的に等しいことが好ましい。繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0041】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0042】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること(所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有すること)が、溶融粘度が低くなり易いので、好ましく、繰返し単位(3)として、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみであることが、より好ましい。
【0043】
また、液晶ポリエステルは、必須の構成成分として繰返し単位(1)のAr が1,4−フェニレン基、繰返し単位(2)のArが1,4−フェニレン基及び1,3−フェニレン基のいずれか一方、繰返し単位(3)のAr が4,4’−ビフェニリレン基を含むこととすると、得られる繊維の強度や弾性率に優れる。
【0044】
さらに、液晶ポリエステルは、全繰返し単位の合計含有量に対して、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が40モル%以上であると、得られる繊維の電気特性(低誘電正接)に優れる。
【0045】
この場合、繰返し単位(1)としては、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が、得られる繊維の電気特性(低誘電正接)に優れるため好ましい。
【0046】
また、繰返し単位(2)としては、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArが1,4−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)が、得られる繊維の電気特性(低誘電正接)に優れるため好ましい。
【0047】
さらに、繰返し単位(3)としては、Arが1,4−フェニレン基であるもの(ヒドロキノンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位)が、得られる繊維の電気特性(低誘電正接)に優れるため好ましい。
【0048】
耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルの典型的な例は、
(i)全繰返し単位の合計量に対して、Arが2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)を、好ましくは40モル%以上74.8モル%以下、より好ましくは40モル%以上64.5モル%以下、さらに好ましくは50モル%以上58モル%以下有し、
(ii)Arが2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)を、好ましくは12.5モル%以上30モル%以下、より好ましくは17.5モル%以上30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上25モル%以下有し、
(iii)Arが1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)(テレフタル酸に由来する繰返し単位)を、好ましくは0.2モル%以上15モル%以下、より好ましくは0.5モル%以上12モル%以下、さらに好ましくは2モル%以上10モル%以下有し、
(iv)Arが1,4−フェニレン基である繰返し単位(3)(ヒドロキノンに由来する繰返し単位)を、好ましくは12.5モル%以上30モル%以下、より好ましくは17.5モル%以上30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上25モル%以下有し、かつ、
(v)Arが2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)の含有量が、Arが2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)及びArが1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)の合計含有量に対して、好ましくは0.5モル倍以上、より好ましくは0.6モル倍以上のものである。
【0049】
液晶ポリエステルは、2,6−ナフチレン基を有するモノマーの合計量(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジオールの合計量)が、全モノマーの合計量に対して、40モル%以上になるようにして、重合(重縮合)させることにより、製造することができる。
【0050】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(以下、「プレポリマー」ということがある。)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0051】
繊維製造用材料の原料として用いる上記液晶ポリエステルは、流動開始温度が、通常280℃以上、好ましくは280℃以上400℃以下、より好ましくは280℃以上360℃以下である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、繊維化しにくい傾向がある。
【0052】
また、液晶ポリエステルは、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s−1の条件で360℃にて測定した溶融粘度が、70Pa・s以下を示す。当該溶融粘度が70Pa・sより大きいと得られる繊維の強度が低下する傾向があり、且つ低分子量成分が低減しにくい傾向がある。
【0053】
液晶ポリエステルは、好ましくは上記条件で360℃にて測定した溶融粘度が40Pa・s以下を示すものであり、更に好ましくは上記条件で360℃にて測定した溶融粘度が20Pa・s以下を示すものである。
【0054】
繊維化における液晶ポリエステルの長期熱安定性を考慮すると、用いる液晶ポリエステルは、上記条件で測定した溶融粘度が70Pa・s以下を示す温度が340℃であることが好ましく、上記条件で測定した溶融粘度が40Pa・s以下を示す温度が340℃であることがより好ましく、上記条件で測定した溶融粘度が20Pa・s以下を示す温度が340℃であることがさらに好ましい。
【0055】
なお、上記溶融粘度は、繊維製造用材料の原料である上記液晶ポリエステルのパウダーについて測定した値と、後述するように押出機を用いて溶融混練し、ペレット状とした繊維製造用材料について測定した値と、の間で差が略見られない。そのため、測定が簡便なペレット状の繊維製造用材料について測定することとしてもよい。
【0056】
(繊維製造用材料)
本実施形態の繊維製造用材料は、上述の液晶ポリエステルを、押出機を用いて溶融混練して調製することができる。溶融混錬した後には、ペレット状に成形することが好ましい。
【0057】
押出機としては、シリンダーと、シリンダー内に配置された1本以上のスクリュウと、シリンダーに設けられた1箇所以上の供給口と、シリンダーに設けられた1箇所以上のベント部を有するものが好ましく用いられる。供給口の下流側には(複数の供給口が設けられている場合には、各供給口の下流側にそれぞれ)、ニーディング部を備えた押出機を用いることが好ましい。ここでニーディング部とは、スクリュウの一部に設けられて溶融混練を効率的に行うための部分をいう。該ニーディング部としては、ニーディングディスク(右ニーディングディスク、ニュートラルニーディングディスク、右ニーディングディスク)、ミキシングスクリュウ等を挙げることができる。
【0058】
本実施形態の繊維製造用材料は、シリンダーに設けられた1箇所以上のベント部を有する箇所に減圧設備を接続し、溶融混練時に減圧設備を用いてシリンダー内を脱気することで、溶融混錬している液晶ポリエステルの中から、残存する低分子量成分を除去し、含有量を低減させることで得られる。
【0059】
得られる繊維製造用材料は、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s−1の条件で360℃にて測定した溶融粘度が、70Pa・s以下を示す。上記条件で360℃にて測定した溶融粘度が70Pa・sより大きいと、低分子量成分が低減しにくい傾向がある。
【0060】
発明者の検討により、繊維製造用材料の原料として用いる液晶ポリエステルに、低分子量成分が残存していると、溶融混錬の途中、および繊維製造時(紡糸時)に該低分子量成分が気化し、内部に気泡を形成することが分かっている。液晶ポリエステルを用いて板材や筐体などの成形体を形成する場合には、成形体の肉厚に対してこのような気泡の大きさが十分に小さいため、気泡が存在していても強度に影響を与えにくい。しかし、液晶ポリエステルを用いて繊維を紡糸する場合、繊維の断面の大きさに対して、相対的に気泡が無視することができないほど大きく、気泡の位置から繊維が断裂しやすくなる。このような気泡は、得られる繊維の所々に存在するため、得られる繊維は、気泡が存在しない部分では高強度、気泡が存在する部分では低強度となり、強度にバラツキが生じてしまう。
【0061】
対して、本実施形態の繊維製造用材料は、脱気しながら溶融混錬するため、液晶ポリエステルの内部の低分子量成分を好適に減少させることができ、上述のような低分子量成分に起因する気泡が形成されにくい。従って、気泡に起因した繊維の断裂が生じにくく、強度バラツキの発生が抑制されたものとなる。
【0062】
液晶ポリエステル中に残存する低分子量成分をより低減させるには、減圧設備を用いて0.04MPa以下の真空度の条件下にて脱気させることが好ましく、より好ましくは0.03MPa以下、更に好ましくは0.02MPa以下である。
【0063】
減圧設備については特に限定されるものではないが、ベント部の減圧は、通常、ポンプを用いて行われ、その例としては、水封式ポンプ、ロータリーポンプ、油拡散ポンプ。ターボポンプが挙げられる。
【0064】
なお、繊維製造用材料の製造においては、2箇所以上のベント部を有する押出機を用い、それぞれのベント部に減圧設備を接続し、2箇所以上のベント部から脱気しながら溶融混錬することが好ましい。
【0065】
また、減圧設備を接続するベント部の上流側に、ニーディング部を備えた押出機を用いて溶融混錬することが好ましい。
【0066】
(液晶ポリエステルからなる繊維及び繊維布)
次に、上述した実施形態の繊維製造用材料を紡糸して得られる繊維及びこれを用いた繊維布(不織布等)について説明する。
【0067】
本実施形態の繊維は、上述の繊維製造用材料を紡糸して得られるものである。かかる繊維は、繊維製造用材料を公知の方法によって繊維化することにより得ることができ、例えば、繊維製造用材料を溶融紡糸することにより得ることができる。
【0068】
繊維製造用材料を溶融紡糸により繊維化する場合は、繊維製造用材料を加熱して溶融状態とし、この溶融状態の繊維製造用材料を所定のノズルを通して押し出すことにより、繊維製造用材料を引き伸ばしつつ冷却して再び固化させることで、繊維製造用材料が細線化した繊維を得ることができる。
【0069】
この際、溶融紡糸により引き伸ばされた繊維製造用材料を、そのまま巻き取る等すれば液晶ポリエステル繊維が得られる一方、繊維製造用材料が完全に固化する前に、ノズル等を移動させつつ所定の基板等の上に堆積させれば、液晶ポリエステル繊維からなる繊維布(不織布)を得ることができる。
【0070】
このような液晶ポリエステル繊維は、上述した本実施形態の繊維製造用材料を紡糸して得られるものであることから、誘電損失が小さく且つ高い耐熱性を有するものとすることができる。また、繊維製造用材料の原料である液晶ポリエステルは、長時間溶融状態としても粘度の低下が小さいという高い熱安定性を有していることから、上述した溶融紡糸による繊維化が容易であるほか、低い粘性を維持できるため、細い繊維の形成も可能である。
【0071】
したがって、本実施形態の液晶ポリエステル繊維及び繊維布(不織布)は、容易に繊維化がなされ、しかも細い繊維径を有し、更に低誘電損失及び高耐熱性という液晶ポリエステルの優れた特性をも維持したものとなり、電子部品をはじめとする様々な用途に適用可能なものとなる。
【0072】
以上のような構成の繊維製造用材料によれば、溶融混練時に脱気することで低分子量成分量を低減させ、繊維強度のバラツキを小さくすることが可能となる。
【0073】
また、以上のような構成の液晶ポリエステル繊維によれば、上述の材料を用いることにより、繊維強度のバラツキを抑制した繊維となる。
【実施例】
【0074】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
[溶融粘度]
溶融粘度は、得られたペレットについて、(株)東洋機械製作所製の流れ特性試験機(キャピログラフ)1Bを用いて、各測定温度に対して、ノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s−1の条件で測定した。
【0076】
[流動開始温度]
繊維製造用材料の原料である液晶ポリエステルの流動開始温度は、(株)島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500型」を用いて測定した。試料約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターに充填し、9.8MPa(100kgf/cm)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度を流動開始温度とした。
【0077】
(プレポリマーの合成)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル409g(2.2モル)、イソフタル酸91g(0.55モル)、テレフタル酸274g(1.65モル)、無水酢酸1235g(12.1モル)を加えて攪拌した。
次いで、触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、その温度を保持して1時間還流させた。
次いで、1−メチルイミダゾール1.7gを添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温させた。トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出し、プレポリマーの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。流動開始温度は257℃であった。
【0078】
<合成例1>
得られたプレポリマー粉末を、25℃から250℃まで1時間かけて昇温させた後、250℃から280℃まで3時間34分かけて昇温した。その後、280℃で5時間保温して固相重合させ、さらに冷却することで、粉末状の液晶ポリエステル(A)−1を得た。
液晶ポリエステル(A)−1の流動開始温度は330℃であった。
【0079】
<合成例2>
得られたプレポリマー粉末を、25℃から250℃まで1時間かけて昇温させた後、250℃から270℃まで2時間23分かけて昇温した。その後、270℃で5時間保温して固相重合させ、さらに冷却することで、粉末状の液晶ポリエステル(A)−2を得た。
液晶ポリエステル(A)−2の流動開始温度は315℃であった。
【0080】
<合成例3>
得られたプレポリマー粉末を、25℃から250℃まで1時間かけて昇温させた後、250℃から275℃まで2時間58分かけて昇温した。その後、275℃で5時間保温して固相重合させ、さらに冷却することで、粉末状の液晶ポリエステル(A)−3を得た。
液晶ポリエステル(A)−3の流動開始温度は320℃であった。
【0081】
<合成例4>
得られたプレポリマー粉末を、25℃から250℃まで1時間かけて昇温させた後、250℃から277℃まで3時間13分かけて昇温した。その後、277℃で5時間保温して固相重合させ、さらに冷却することで、粉末状の液晶ポリエステル(A)−4を得た。
液晶ポリエステル(A)−4の流動開始温度は325℃であった。
【0082】
<実施例1>
合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1を、二軸押出機(PCM−30、(株)池貝製)を用いて溶融混練してペレット状に造粒加工した。用いた押出機のシリンダーには、2つのベント部が設けられ、各ベント部には水封式ポンプを接続し、溶融混練時に水封式ポンプにより0.02MPaに減圧しながら加工した。
【0083】
得られたペレットについて、上記条件で溶融粘度を測定すると、350℃で35Pa・sとなった。発明者の知見として、液晶ポリエステルの溶融粘度については、溶融混練前の液晶ポリエステルについて測定した値と、溶融混練後のペレットについて測定した値とに差が無いことが分かっている。一般に、液晶ポリエステルは、温度が上がるほど溶融粘度が下がることから、液晶ポリエステル(A)−1の溶融温度を360℃にて測定すると、上記測定結果である35Pa・sよりも低い溶融粘度の値が得られることとなる。すなわち、液晶ポリエステル(A)−1を360℃にて測定した溶融粘度は、70Pa・s以下となることがわかる。
【0084】
次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用い、溶融した材料をフィルター(ステンレス製)を通過させた後に、ノズルから吐出し、350℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0085】
液晶ポリエステル繊維の吐き出し開始から10分後、30分後、1時間後に得られた液晶ポリエステル繊維についてサンプリングを行い、各サンプリングした繊維を金属ボビンに巻き、320℃で12時間加熱処理した。こうして得られた各熱処理糸の引張強度(試験片5本の平均値)を測定した。
【0086】
<実施例2>
液晶ポリエステル(A)−2について、溶融混錬時の減圧度を0.04MPaとしたこと以外は実施例1と同様にしてペレット化した。
得られたペレットについて、上記条件で溶融粘度を測定すると、340℃で15Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルは、温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、液晶ポリエステル(A)−2の溶融温度を360℃にて測定すると、上記測定結果である15Pa・sよりも低い溶融粘度の値が得られることとなる。すなわち、液晶ポリエステル(A)−2を360℃にて測定した溶融粘度は、70Pa・s以下となることがわかる。
得られたペレットを用い、実施例1と同様にして紡糸をした。
【0087】
<実施例3>
液晶ポリエステル(A)−3について、溶融混錬時の減圧度を0.01MPaとしたこと以外は実施例1と同様にしてペレット化した。
得られたペレットについて、上記条件で溶融粘度を測定すると、350℃で16Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルは、温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、液晶ポリエステル(A)−3の溶融温度を360℃にて測定すると、上記測定結果である16Pa・sよりも低い溶融粘度の値が得られることとなる。すなわち、液晶ポリエステル(A)−3を360℃にて測定した溶融粘度は、70Pa・s以下となることがわかる。
得られたペレットを用い、実施例1と同様にして紡糸をした。
【0088】
<実施例4>
液晶ポリエステル(A)−4について、溶融混錬時の減圧度を0.02MPaとしたこと以外は実施例1と同様にしてペレット化した。
得られたペレットについて、上記条件で溶融粘度を測定すると、350℃で25Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルは、温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、液晶ポリエステル(A)−4の溶融温度を360℃にて測定すると、上記測定結果である25Pa・sよりも低い溶融粘度の値が得られることとなる。すなわち、液晶ポリエステル(A)−4を360℃にて測定した溶融粘度は、70Pa・s以下となることがわかる。
得られたペレットを用い、実施例1と同様にして紡糸をした。
【0089】
<比較例1>
液晶ポリエステル(A)−1について、溶融混錬時に減圧することなく加工したこと以外は実施例1と同様にしてペレット化した。
得られたペレットについて、上記条件で溶融粘度を測定すると、320℃で22Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルは、温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、液晶ポリエステル(A)−1の溶融温度を360℃にて測定すると、上記測定結果である22Pa・sよりも低い溶融粘度の値が得られることとなる。すなわち、液晶ポリエステル(A)−1を360℃にて測定した溶融粘度は、70Pa・s以下となることがわかる。
得られたペレットを用い、実施例1と同様にして紡糸をした。
【0090】
<比較例2>
液晶ポリエステル(A)−2について、溶融混錬時に減圧することなく加工したこと以外は実施例1と同様にしてペレット化した。
得られたペレットについて、上記条件で溶融粘度を測定すると、340℃で15Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルは、温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、液晶ポリエステル(A)−2の溶融温度を360℃にて測定すると、上記測定結果である15Pa・sよりも低い溶融粘度の値が得られることとなる。すなわち、液晶ポリエステル(A)−2を360℃にて測定した溶融粘度は、70Pa・s以下となることがわかる。
得られたペレットを用い、実施例1と同様にして紡糸をした。
【0091】
<比較例3>
液晶ポリエステル(A)−3について、溶融混錬時に減圧することなく加工したこと以外は実施例1と同様にしてペレット化した。
得られたペレットについて、上記条件で溶融粘度を測定すると、350℃で16Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルは、温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、液晶ポリエステル(A)−3の溶融温度を360℃にて測定すると、上記測定結果である16Pa・sよりも低い溶融粘度の値が得られることとなる。すなわち、液晶ポリエステル(A)−3を360℃にて測定した溶融粘度は、70Pa・s以下となることがわかる。
得られたペレットを用い、実施例1と同様にして紡糸をした。
【0092】
<比較例4>
液晶ポリエステル(A)−4について、溶融混錬時に減圧することなく加工したこと以外は実施例1と同様にしてペレット化した。
得られたペレットについて、上記条件で溶融粘度を測定すると、350℃で25Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルは、温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、液晶ポリエステル(A)−4の溶融温度を360℃にて測定すると、上記測定結果である25Pa・sよりも低い溶融粘度の値が得られることとなる。すなわち、液晶ポリエステル(A)−4を360℃にて測定した溶融粘度は、70Pa・s以下となることがわかる。
得られたペレットを用い、実施例1と同様にして紡糸をした。
【0093】
実施例および比較例について、引張強度の測定結果、および分散(標準偏差の2乗)を以下の表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
まず評価の結果、実施例および比較例について、いずれも液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、液晶ポリエステル繊維の糸切れはなく安定的に紡糸することができた。
【0096】
また、得られた繊維の引張強度について、減圧脱気して溶融混錬して得られた繊維製造用材料(実施例1〜4)については、脱気せずに溶融混錬して得られた繊維製造用材料(比較例1〜4)よりも分散が小さく、均質な強度を有する繊維が得られることが分かった。
これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)、(b)の要件を満たす液晶ポリエステルを用い、脱気しながら溶融混錬して得られる繊維製造用材料。
(a)流動開始温度が280℃以上360℃以下である。
(b)流れ特性試験機を用い、ノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s−1の条件で360℃にて測定した溶融粘度が、70Pa・s以下である。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルは、下記式(1)、下記式(2)及び下記式(3)で表される繰返し単位を有する請求項1に記載の繊維製造用材料。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項3】
前記液晶ポリエステルは、Arが1,4−フェニレン基である式(1)で表される繰返し単位と、Arが1,4−フェニレン基または1,3−フェニレン基である式(2)で表される繰返し単位と、Arが4,4’−ビフェニリレン基である式(3)で表される繰返し単位とを含む請求項2に記載の繊維製造用材料。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルは、全繰返し単位の合計含有量に対して、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が40モル%以上である請求項2または3に記載の繊維製造用材料。
【請求項5】
0.04MPa以下の真空度の条件下で脱気しながら溶融混錬して得られる請求項1から4のいずれか1項に記載の繊維製造用材料。
【請求項6】
2箇所以上のベント部を有する押出機を用い、前記2箇所以上のベント部から脱気しながら溶融混錬して得られる請求項1から5のいずれか1項に記載の繊維製造用材料。
【請求項7】
ベント部の上流側にニーディング部を備えた押出機を用い、前記ベント部から脱気しながら溶融混錬して得られる請求項1から6のいずれか1項に記載の繊維製造用材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の繊維製造用材料を紡糸して得られる繊維。

【公開番号】特開2013−108190(P2013−108190A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253882(P2011−253882)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】