説明

繊維複合材料

【課題】本発明の目的は、マトリックス樹脂中でのセルロース繊維の分散性に優れ、該セルロース繊維が高度に配向して含有されることで、引張り強度、曲げ強度などの機械的強度や線膨張係数等の熱特性に優れた繊維複合材料を提供することにある。
【解決手段】少なくとも平均繊維径が2nm以上、200nm以下であるセルロース繊維とマトリックス樹脂を含み、該セルロース繊維の繊維配向度が50%以上95%以下であることを特徴とする繊維複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維とマトリックス樹脂を含む繊維複合材料であって、該セルロース繊維がマトリックス樹脂中に配向して配合される繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂に各種繊維状強化材を配合することで、その強度、剛性を大幅に向上させた繊維強化複合材料は、電気・電子、機械、自動車、建材等の産業分野で広く用いられている。この繊維強化複合材料に配合される繊維状強化材としては、優れた強度を有するガラス繊維が主に用いられている。しかし、ガラス繊維強化材では、高剛性化は達成されるが比重が大きくなるため、軽量化に限界があった。
【0003】
また、このガラス繊維強化材を廃棄する場合、ガラス繊維自体が不燃性であるために、焼却処理する際に燃焼炉を傷める、また、燃焼効率が低くなるといった問題があり、サーマルリサイクル性に適しないという欠点もあった。これに対し、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維といった有機材料から構成される繊維状強化材が検討されてきたが、これら繊維状強化材を配合した繊維強化複合材料は軽量性やサーマルリサイクル性については改善されるものの、機械的強度が十分でないという問題があった。
【0004】
一方、近年、カーボンニュートラルの観点から植物由来材料を利用した高機能材料が注目されるなか、竹、ケナフ、サトウキビ、木材等の植物繊維ナノフィラーをマトリックス樹脂中に分散させた繊維強化樹脂が提案されている。例えば、ナノファイバーシート(不織布)を形成してこれに樹脂を含浸させて複合化する方法(特許文献1)や、溶融混練法によりファイバーと樹脂の溶融組成物を混練して樹脂中にナノファイバーを分散させ、射出成形やプレス成形により成形体を得る方法(特許文献2,3)等が提案されている。しかしながら、これらの方法により得られた繊維強化樹脂は何れも繊維の分散が不均一であったり、繊維がランダムに配合されて配向が不十分な状態である等、繊維ナノフィラーの補強効果が得られていない。そのため、上記方法においては、機械的強度や線膨張係数等の熱特性といった物性が不十分であるという課題があったため、その適用範囲は限定されたものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−92527号公報
【特許文献2】特開2002−69208号公報
【特許文献3】特開2007−51266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、引張り強度、曲げ強度などの機械的強度や線膨張係数等の熱特性に優れ、家電品の筺体や電子デバイスの基板材料、自動車用部品、住宅内装材料、包装・容器材料等の広範囲な用途に適用できる繊維複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、以下の構成により達成される。
【0008】
1、少なくとも平均繊維径が2nm以上、200nm以下であるセルロース繊維とマトリックス樹脂を含み、該セルロース繊維の繊維配向度が50%以上95%以下であることを特徴とする繊維複合材料。
【0009】
2、前記セルロース繊維が表面修飾されていることを特徴とする前記1に記載の繊維複合材料。
【0010】
3、前記セルロース繊維が、エレクトロスピニング法により製造された繊維であることを特徴とする前記1または2に記載の繊維複合材料。
【0011】
4、前記繊維複合材料を積層して構成されることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の繊維複合材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、引張り強度、曲げ強度などの機械的強度や、線膨張係数等の熱特性に優れ、家電品の筺体や電子デバイスの基板材料、自動車用部品、住宅内装材料、包装・容器材料等の広範囲な用途に適用できる繊維複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。本発明を実施形態に基づいて説明するが、これらに限定されるものではない。
【0014】
本発明は、繊維複合材料が、少なくとも平均繊維径が2nm以上、200nm以下であるセルロース繊維とマトリックス樹脂から成り、該セルロース繊維の繊維配向度が50%以上95%以下であることを特徴とする繊維複合材料に関する。
【0015】
本発明者らは前記課題に対して、樹脂の強化材として配合するセルロース繊維の配合状態に着目し鋭意検討を行った結果、ミクロフィブリル状のセルロース繊維を、基準として設定した方向に対して繊維配向度が50%以上95%以下で配向させることで、引張り強度、曲げ強度などの機械的強度や、線膨張係数等の熱特性に優れた繊維複合材料が得られることを見出した。
【0016】
ここで規定される繊維配向度とは、繊維複合材料中の成型内で基準として設定した方向に対し、セルロース繊維が配向している度合いを示すもので、基準として設定した方向から±15°以内に配向しているセルロース繊維数の全セルロース繊維数に対する数量割合(%)で規定したものである。解析は、透過型電子顕微鏡を用いて任意のエリア内のセルロース繊維を観察して得られた画像について無作為に繊維を抽出し、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて配向度を算出したものである。
【0017】
従来より、パルプ等のセルロース繊維から解繊されたミクロフィブリル状セルロース繊維をマトリックス樹脂へ分散させた繊維複合材料が検討されており、そのミクロフィブリル構造の結晶性から他の有機繊維状強化材と比較してより高い機械的強度や熱特性の向上効果が期待されている。しかしながら、該繊維複合材料は樹脂の補強効果が十分得られておらず、機械的強度や熱特性の点で不十分なものであった。
【0018】
鋭意検討の結果、本発明者らは繊維成分を均一に分散できずに繊維同士が部分的に凝集した状態や、繊維が配向状態を形成しておらずランダムに分散した状態が原因でマトリックス樹脂の補強効果が低下していることを発見した。そこで、本発明者らはセルロース繊維を樹脂中に高度に配向した状態で配合することで得られた繊維複合材料は、熱特性や機械的強度が大きく向上し、配向方向の線膨脹係数を大きく低減できることを見出した。また、前記セルロース繊維を表面修飾することでマトリックス樹脂への親和性が向上し、更に補強効果を高めた繊維複合材料を得ることができる。更に、セルロース繊維の配向方向が異なるセルロース繊維複合材料を積層して用いることで、複数の方向の線膨脹係数も大きく低減でき、より高い補強効果が得られることから、適用用途範囲の広い繊維複合材料を提供することができる。
【0019】
以下、本発明の繊維複合材料についてさらに詳しく説明するが、以下の実施態様に限定されるものではない。
【0020】
(セルロース繊維)
本発明のセルロース繊維としては、天然セルロースを解繊処理して得られるミクロフィブリル状のセルロース繊維や、セルロースを一旦溶媒に溶解させた後、セルロースを析出させて紡糸する再生セルロース繊維等を用いることができる。天然セルロースから得られる繊維としては、植物由来のパルプ、木材、コットン、麻、竹、綿、ケナフ、ヘンプ、ジュート、バナナ、ココナツ、海草等の植物繊維から分離した繊維、海産動物であるホヤが産生する動物繊維から分離した繊維、あるいは酢酸菌より産生させたバクテリアセルロース等が用いられる。これらの中で、植物繊維から分離した繊維が好ましく用いることができるが、より好ましくはパルプ、コットン等の植物繊維から得られる繊維である。本発明のセルロース繊維は、これらの天然繊維をホモジナイザーやグラインダー等を用いて解繊処理し、微細化したミクロフィブリル状のセルロース繊維としたものであるが、含有されるセルロースが繊維状態を保持している限りにおいては、その解繊維処理方法について何ら制限はない。
【0021】
前記セルロース繊維を構成するセルロースは、重合度が一般に1000〜3000(数平均分子量で、数万〜数百万)の範囲であり、該セルロース繊維は不溶性の天然繊維である。具体例として、パルプ等のセルロース繊維を、水を入れた分散容器に0.1〜3質量%となるように投入し、分散する。これを石臼式粉砕機や高圧ホモジナイザーで解繊処理して、平均繊維径0.1〜10μm程度のミクロフィブリルに解繊されたセルロース繊維の水分散液を得る。さらに石臼式粉砕機等で繰り返し磨砕処理することで、平均繊維径2〜500nm程度のナノオーダーのセルロース繊維を得ることができる。
【0022】
上記磨砕処理に用いられる石臼式粉砕機としては、例えば、ピュアファインミル(株式会社栗田機械製作所製)等が挙げられる。また、別の方法として、セルロース繊維の分散液を一対のノズルから250MPa程度の高圧でそれぞれ噴射させ、その噴射流を互いに高速で衝突させることによってセルロース繊維を粉砕する高圧式ホモジナイザーを用いる方法が知られている。用いられる装置としては、例えば、三和機械株式会社製の「ホモジナイザー」、株式会社スギノマシン製の「アルテマイザーシステム」、等が挙げられる。
【0023】
更に、上記の機械的な解繊方法の他、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルラジカル(TEMPO)を触媒としてセルロース非晶領域の一級水酸基を酸化してカルボキシルを導入し、フィブリル相互の静電反発を利用して化学的に解繊する方法を用いてもよい。
【0024】
このようにして解繊処理して得られるセルロース繊維はセルロースのミクロフィブリルである。セルロース繊維は、セルロース分子鎖が数十本水素結合で結合した結晶性の繊維をさらに束ねた形態で構成されている。そのため、解繊度合いによっては、ナノメーターレベルの繊維径のセルロース繊維を解繊して得ることが可能である。本発明におけるセルロース繊維の平均繊維径は、好ましくは2nm以上、200nm以下であり、より好ましくは2nm以上、100nm以下、さらに好ましくは4nm以上、40nm以下である。
【0025】
ここで示される平均繊維径は、樹脂中に分散した繊維の径の平均値であり、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡等による画像観察結果より求められる。
【0026】
本発明において、セルロース繊維の平均繊維径が200nm以下であれば、繊維複合材料の強度が大きく、優れた性能を示す。また、セルロース繊維の平均繊維径が2nm以上のものは前記高圧ホモジナイザーによる解繊処理、また、グラインダー等による磨砕処理によって得ることが容易となる。
【0027】
セルロース繊維の長さについては特に限定されるものではないが、平均繊維長で50nm以上が好ましく、さらに好ましくは200nm以上である。この平均繊維長が50nmより長いと、繊維複合材料の強度が大きく、優れた性能を示す。
【0028】
また、セルロース繊維のアスペクト比(平均繊維径と平均繊維長の比)は100〜10,000のものが用いられ、好ましくは100〜5,000、より好ましくは100〜2,000である。セルロース繊維のアスペクト比が10,000以下であれば、繊維が凝集しにくくなり繊維複合材料の強度が大きく、優れた性能を示す。また、アスペクト比が100以上のものは繊維添加による補強効果が大きく、繊維複合材料の強度が大きく、優れた性能を示す。
【0029】
繊維複合材料中のセルロース繊維の添加量は、反応基を有するセルロース繊維成分と併せてマトリックス樹脂100質量部に対して5〜70質量部、好ましくは5〜50質量部、より好ましくは5〜30質量部である。セルロース繊維の全添加量が5質量部以上であると繊維添加による補強効果が大きく、繊維複合材料の強度が大きく、優れた性能を示す。また、70質量部以下であればセルロース繊維同士が凝集しにくくなり繊維の分散性が増して物性向上効果が得られる。
【0030】
本発明において、平均繊維径、平均繊維長の測定は、得られた繊維について透過型電子顕微鏡、H−1700FA型(株式会社日立製作所社製)を用いて10000倍の倍率で観察した後、得られた画像について無作為に繊維を100本選び、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて一本毎の繊維径、及び繊維長を解析し、それらの単純な数平均値を求めた。
【0031】
本発明においては、前記天然セルロースを解繊処理したセルロース繊維の他、セルロース溶液からセルロース繊維を紡糸して得られる再生セルロース繊維を用いてもよい。ここで使用する溶媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸水溶液、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液、塩化亜鉛、チオシアン酸塩、液体アンモニアとチオシアン酸塩の混合物、ヒドラジン等の無機化合物の水溶液、[Cu(NH](OH)、[Cu(エチレンジアミン)](OH)、[Co(エチレンジアミン)](OH)、[Ni(NH](OH)、[Ni(エチレンジアミン)](OH)、[Cd(エチレンジアミン)](OH)、[Zn(エチレンジアミン)](OH)等の金属錯体溶液、ジメチルスルホキシドとホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミドとホルムアルデヒド、N,N−ジメチルアセトアミドとホルムアルデヒド、ジメチルスルホキシドとクロラール、N,N−ジメチルホルムアミドとクロラール、N,N−ジメチルアセトアミドとクロラール、ジメチルスルホキシドとクロラールとピリジン、N,N−ジメチルホルムアミドとクロラールとピリジン、N,N−ジメチルアセトアミドとクロラールとピリジン、ジメチルスルホキシドとクロラールとトリエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミドとクロラールとトリエチルアミン、N,N−ジメチルアセトアミドとクロラールとトリエチルアミン、ジメチルスルホキシドと無水亜硫酸とジエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミドと無水亜硫酸とジエチルアミン、ジメチルスルホキシドと無水亜硫酸とトリエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミドと無水亜硫酸とトリエチルアミン、ジメチルスルホキシドと無水亜硫酸とピペリジン、N,N−ジメチルホルムアミドと無水亜硫酸とピペリジン、ジメチルスルホキシドと無水亜硫酸とイソアミルアミン、N,N−ジメチルホルムアミドと無水亜硫酸とイソアミルアミン、ジメチルスルホキシドとN、N,N−ジメチルホルムアミドとN、ジメチルスルホキシドとNOCl、N,N−ジメチルホルムアミドとNOCl、ジメチルスルホキシドとNOSOH、N,N−ジメチルホルムアミドとNOSOH、N,N−ジメチルアセトアミドと塩化リチウム、N−メチル−2−ピロリドンと塩化リチウム、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンと塩化リチウム、N,N−ジメチルアセトアミドと臭化リチウム、N−メチル−2−ピロリドンと臭化リチウム、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンと臭化リチウム、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸とクロロホルム、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸と酢酸、N−メチルモルフォリン−N−オキシド含水塩、N−メチルモルフォリン−N−オキシド含水塩とジメチルスルホキシド、N−アルキルピリジウムハロゲン類等の有機溶媒から選ばれる一種又は二種以上の混合物を使用することができる。
【0032】
〈エレクトロスピニング法〉
本発明において、セルロース繊維を得る方法には特に制限はないが、セルロース溶液からエレクトロスピニング法にてセルロース繊維を得ることが好ましい。ナノレベルの繊維径のセルロース繊維が得られ、より高い配向度で不織布を形成できるためである。
【0033】
ここで、エレクトロスピニング法とは、セルロースを溶解させた原料液を空間中にノズルなどから噴射させるとともに、原料液に電荷を付与して帯電させて空間を飛行中の原料液を静電爆発させることでナノレベルの繊維径のセルロース繊維を得る方法である。
【0034】
また、他にもセルロース繊維を得る方法については、例えば調製したセルロース溶液を紡糸口金から凝固浴(貧溶媒中)に導入して紡糸する方法も用いることができる。
【0035】
〈表面修飾〉
本発明におけるセルロース繊維は、表面修飾されていることが好ましい。表面修飾することで、セルロース繊維とマトリックス樹脂との親和性を向上させることができ、セルロース繊維とマトリックス樹脂の間で共有結合を形成させることが可能となるため、より高い機械的強度や線膨張係数等の熱特性の向上効果が得られる。
【0036】
ここで本発明における表面修飾とは、表面に存在する官能基に化学反応により新しい原子団などを結合させることを言う。本発明のセルロース繊維は、セルロースの表面水酸基を、酸、アルコール類、ハロゲン化試薬、酸無水物、イソシアナート類、シランカップリング剤等の修飾剤を用いて表面修飾させることが好ましい。
【0037】
表面修飾したセルロース繊維は、例えば、前記セルロース繊維を予め表面修飾しておくことで得られる。また、セルロース繊維のシートを形成した後に繊維表面を表面修飾してもよい。表面修飾する方法は公知の方法に従って行うことができ、例えば、セルロース繊維やセルロース繊維のシートを水、あるいは適当な溶媒に添加、分散した後、これに修飾剤を添加して適当な反応条件下で反応させればよい。この場合、修飾剤のほかに、必要に応じて反応触媒を添加することができ、例えば、ピリジンやN,N−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒や酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒を用いることができるが、反応速度や重合度の低下を防止するため、ピリジン等の塩基性触媒を用いることが好ましい。反応温度としては、セルロース多孔性構造体の黄変や重合度の低下等の変質を抑制し、反応速度を確保する観点で、40〜100℃程度が好ましい。反応時間については用いる修飾剤や処理条件により適宜選定すればよい。
【0038】
表面修飾によりセルロース繊維に導入する官能基としては、例えば、アセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0039】
反応性基を導入する場合は、例えば反応性基を導入できるシランカップリング剤が好ましく用いられ、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のビニル基を末端に有するシランカップリング剤、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基を末端に有するシランカップリング剤等が挙げられる。これらの中で、末端にエポキシ基、あるいはビニル基を有するものが好ましく用いられる。
【0040】
(マトリックス樹脂)
本発明においてマトリックス樹脂とは、繊維複合材料に含まれている樹脂をいい、一般的な樹脂が用いられる。
【0041】
例えば本発明で用いられるマトリックス樹脂としては、ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、アミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられるがこれらの樹脂種に限定されるものではない。また、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線等の活性エネルギー線硬化性樹脂の何れかに限定されるものでもなく、これらの一種、あるいは複数種をブレンドして用いても差し支えない。
【0042】
前記ビニル系樹脂としては、エチレン、プロピレン、スチレン、ブタジエン、ブテン、イソプレン、クロロプレン、イソブチレン、イソプレン等の単独重合体または共重合体、あるいはノルボルネン骨格を有する環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等の酢酸ビニル系樹脂が挙げられる。
【0043】
前記(メタ)アクリル系樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−オクチル(メタ)アクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0044】
前記アミド系樹脂としては、6,6−ナイロン、6−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、4,6−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロン等の脂肪族アミド系樹脂や、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸またはその誘導体からなる芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0045】
前記ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類と、ホスゲンまたはフェニルジカーボネートとの反応物等が挙げられる。
【0046】
前記ポリエステル系樹脂としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のジオール類とテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸との共重合体によって得られる芳香族ポリエステル樹脂、ジオール類とコハク酸、吉草酸等の脂肪族ジカルボン酸との共重合体や、グリコール酸や乳酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体または共重合体、上記ジオール類、上記脂肪族ジカルボン酸及び上記ヒドロキシカルボン酸の共重合体等の脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0047】
前記シリコーン系樹脂としては、構成単位としてアルキル基、芳香族基等の有機基を有するものが好ましく、特にメチル基、フェニル基等の有機基を有するものが好ましい。かかる有機基を有するシリコーン系樹脂の具体例としては、例えばジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、これらの変性体等を挙げることができる。また、これらは必要に応じて一種、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
(安定剤)
本発明の繊維複合材料では、フェノール系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤の中から選ばれた一種以上の安定剤を追加して添加してもよい。
【0049】
これら安定剤を適宜選択し、複合材料に添加することで、成形加工時のセルロース繊維やマトリックス樹脂の劣化、あるいは使用環境における繊維複合材料の耐熱性、耐光性等の物性変動を高度に抑制することができる。
【0050】
好ましいフェノール系安定剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート等の特開昭63−179953号公報や特開平1−168643号公報に記載されるアクリレート系化合物;オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニルプロピオネート))メタン[即ち、ペンタエリスリメチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート))]、トリエチレングリコール ビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)等のアルキル置換フェノール系化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン基含有フェノール系化合物;等が挙げられる。
【0051】
また、好ましいヒンダードアミン系安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)スクシネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1−アクロイル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルデカンジオエート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート)、4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−1−[2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)プロピオンアミド等が挙げられる。
【0052】
また、好ましいリン系安定剤としては、一般の樹脂工業で通常使用されるものであれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド等のモノホスファイト系化合物;4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4′−イソプロピリデンビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)等のジホスファイト系化合物等が挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等が特に好ましい。
【0053】
また、好ましいイオウ系安定剤としては、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ラウリルチオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。これらの安定剤の配合量は本発明の目的を損なわれない範囲で適宜選択されるが、樹脂組成物100質量部に対して通常0.01〜2質量部、好ましくは0.01〜1質量部である。
【0054】
次に本発明の繊維複合材料の製造方法について説明する。
【0055】
(繊維複合材料の製造方法)
本発明の繊維複合材料の製造方法としては、マトリックス樹脂中にセルロース繊維の繊維配向度が50%以上、95%以下に配向させて配合する方法であれば特に制限されるものではない。例えば、セルロース繊維をマトリックス樹脂溶液(あるいは樹脂溶融体)に分散させた繊維分散溶液から延伸、プレス、あるいはカレンダー処理等を行い樹脂中に分散した繊維を配向させながらキャスト製膜する方法や、前記セルロース繊維分散液をキャスト製膜により成形する際、シート面に平行な方向に磁場、あるいは電場を印加させてセルロース繊維を配向させながら製膜する方法などがある。さらには、予めセルロース繊維の分散液を抄紙してセルロース繊維不織布を形成して、これを延伸、プレス等による配向処理を行い、繊維を配向させた不織布シートを作製した後、これにマトリックス樹脂を含侵させて成形する方法や、遠心力を利用して繊維分散液を飛散させて繊維を配向させた不織布シートを作製して、これにマトリックス樹脂を含侵させて成形する方法、また、エレクトロスピニング法によりセルロース溶液からセルロース繊維を配向させた不織布シートを作製してこれにマトリックス樹脂を含侵して、成形する方法などが挙げられる。
【0056】
これらの中で、ナノレベルの繊維径とより高い繊維配向度の不織布が得られる点で、エレクトロスピニング法にてセルロース不織布を作製して、これにマトリックス樹脂を含侵させる方法が好ましい。また、樹脂をセルロース繊維に混合、含浸させる際、必要に応じて前記安定剤等の添加剤を添加することができる。
【0057】
本発明の繊維配向度は50%以上、95%以下である。繊維配向度を当該範囲にすることで、セルロース繊維の配向方向の線膨張係数や機械的強度が向上する。好ましい繊維配向度は60〜90%で、より好ましい繊維配向度は70〜85%である。セルロース繊維の添加量は、繊維複合材料100質量部に対して5〜90質量部とすることが好ましく、10〜70質量部とすることがさらに好ましい。
【0058】
〈積層〉
本発明の繊維複合材料は、積層して構成されることが好ましい。繊維複合材料が積層して構成されると配向方向と異なる方向の線膨張係数が大きく低減され、より高い補強効果が得られる。例えば、前記セルロース繊維が配向した繊維複合材料を異なる繊維配向方向で積層することや、前記セルロース繊維が配向したセルロース繊維不織布を異なる繊維配向方向で複数積層させた後、樹脂を含浸して成形することにより、上記補強効果を得ることができる。また、前記セルロース繊維不織布と樹脂シートを複数積層し成形するなどして配向したセルロース繊維の層が異なる配向方向で複数積層された構造の繊維複合材料とすることもできる。なお、本発明の繊維複合材料が積層して構成される場合、本発明の繊維複合材料が一層以上あれば、本発明の効果は得られる。
【0059】
また、本発明の繊維複合材料が積層して構成される場合、繊維配向度は積層する繊維複合材料の何れかの基準として設定した方向に対して評価する。
【0060】
(繊維複合材料の物性評価方法)
繊維複合材料の物性評価は以下の方法で行う。実施例における評価もこの方法でおこなった。
【0061】
(1)曲げ弾性率及び曲げ強度
繊維複合材料をオートグラフ(「DSS−500」型 株式会社島津製作所製)により、曲げ弾性率及び曲げ強度の測定を行った。曲げ弾性率及び曲げ強度は、値が大きいほど機械的強度が優れていることを表す。
【0062】
(2)線膨張係数
繊維複合材料について、40〜80℃の範囲内で温度を変化させ、線膨張係数を測定した。測定装置としてセイコーインスツル株式会社製 EXSTAR6000 TMA/SS6100を用いた。線膨張係数は、値が小さいほど熱特性に優れていることを表す。
【0063】
(3)繊維配向度
繊維配向度は、繊維複合材料中に任意のエリア内で基準として設定した方向に対し、セルロース繊維が配向している度合いを示したもので、下記式によって求めた。
【0064】
繊維配向度(%)=(Na/Nt)×100
Na:設定エリアの基準方向から±15°以内に配向しているセルロース繊維数
Nt:設定エリアの全セルロース繊維数
セルロース繊維数の算出は、透過型電子顕微鏡;H−1700FA型(株式会社日立製作所製)を用いて設定エリアについて10000倍の倍率で観察した後、得られた画像について無作為に繊維を300本選び、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて一本毎の繊維配向方向を解析し、それらの数を求めた。
【実施例】
【0065】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
〔セルロース繊維製造例〕
(セルロース繊維Aの製造例)
針葉樹から得られた亜硫酸漂白パルプを純水に0.1質量%となるように添加した懸濁液を、石臼式粉砕機(ピュアファインミルKMG1−10;株式会社栗田機械製作所製)を用いて回転するディスク間を中央から外に向かって通過させる磨砕処理(回転数:1500回転/分)を50回(50パス)行いセルロース繊維を解繊した。この水分散液を濾過後、純水で洗浄し、70℃で乾燥させてセルロース繊維Aを得た。
【0067】
得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径4nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。ここで、ミクロフィブリル化とは、セルロース繊維が解繊され、微小繊維状態になることをいう。
【0068】
(セルロース繊維Bの製造例)
セルロース繊維Aの製造例において、石臼式粉砕機を用いた磨砕処理を30回に変更すること以外は同様の操作にてセルロース繊維を解繊し、セルロース繊維Bを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径40nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。
【0069】
(セルロース繊維Cの製造例)
無水酢酸/ピリジン(モル比1/1)溶液500質量部に、セルロース繊維Bの製造例で得られたミクロフィブリル化したセルロース繊維Bの10質量部を添加して分散させ、室温で3時間攪拌した。次に分散した繊維を濾過し、500質量部の水で3回水洗した後、200質量部のエタノールで2回洗浄した。さらに、500質量部の水で2回水洗を行った後、70℃にて乾燥させ、表面修飾したセルロース繊維Cを得た。
【0070】
得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径は40nmに保たれていた。
【0071】
(セルロース繊維Dの製造例)
セルロース繊維Aの製造例において、石臼式粉砕機を用いた磨砕処理を20回に変更すること以外は同様の操作にてセルロース繊維を解繊し、セルロース繊維Dを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径90nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。
【0072】
(セルロース繊維Eの製造例)
セルロース繊維Aの製造例において、石臼式粉砕機を用いた磨砕処理を10回に変更すること以外は同様の操作にてセルロース繊維を解繊し、セルロース繊維Eを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径200nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。
【0073】
(セルロース繊維Fの製造例)
セルロース繊維Aの製造例において、石臼式粉砕機を用いた磨砕処理を5回に変更すること以外は同様の操作にてセルロース繊維を解繊し、セルロース繊維Fを得た。得られたセルロース繊維は走査型電子顕微鏡観察結果より、平均繊維径210nmに解繊されており、ミクロフィブリル化していることを確認した。
【0074】
(セルロース繊維Gの製造例)
特開2008−231581号公報に記載された方法に準じ、セルロース溶液からエレクトロスピニング法によりセルロース繊維を形成すると同時にセルロース繊維が配向したセルロース繊維不織布を作製した。
【0075】
まず、結晶セルロース(セオラス UF−702;旭化成株式会社製)をトリフルオロ酢酸に溶解させ一晩放置した後、ジクロロメタンを加え(トリフルオロ酢酸:ジクロロメタン=4:1、容量比)、6.5質量%セルロース溶液を調製した。次に、この溶液をエレクトロスピニング装置のシリンジに充填し、回転式のコレクタ電極を周速5m/秒で回転させながら、20kVの電圧を印加し、セルロース溶液を噴射させて不織布状のセルロース繊維Gを得た。得られたセルロース繊維は平均繊維径40nm、繊維配向度は83%であった。
【0076】
(セルロース繊維Hの製造例)
無水酢酸/ピリジン(モル比1/1)溶液500質量部に、セルロース繊維Gの製造例で得られたセルロース繊維Gの不織布10質量部を浸漬させ、室温で溶液を3時間攪拌した。次に不織布を引き上げ、500質量部の水で3回水洗した後、200質量部のエタノールで2回洗浄した。さらに、500質量部の水で2回水洗を行った後、70℃にて乾燥させ、表面修飾したセルロース繊維H(不織布)を得た。得られたセルロース繊維の平均繊維径は40nmに、また繊維配向度は83%に保たれていた。
【0077】
(セルロース繊維Iの製造例)
セルロース繊維Gの製造例において、コレクタ電極の周速を7.8m/秒とする他は同様の操作にて不織布状のセルロース繊維Iを得た。得られたセルロース繊維は平均繊維径40nm、繊維配向度は95%であった。
【0078】
(セルロース繊維Jの製造例)
セルロース繊維Gの製造例において、コレクタ電極の周速を8m/秒とする他は同様の操作にて不織布状のセルロース繊維Jを得た。得られたセルロース繊維は平均繊維径40nm、繊維配向度は96%であった。
【0079】
〔セルロース繊維複合材料の製造例〕
(セルロース繊維複合材料101の製造例)
先ず、表1に記載のセルロース繊維に水を加えて1質量%のセルロース繊維分散液を調製し、孔径1μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜を用いた120mm径の濾過装置に投入し吸引濾過を行った。水分率が30%となった時点で形成された不織布を110%一軸延伸し、次に延伸状態を保ったままで、120℃、1MPaで5分間プレス乾燥してセルロース不織布を得た。
【0080】
次に、表1に示す配合組成に従い、先ず、樹脂と安定剤を溶剤としてメチレンクロライドに溶解して、3質量%の樹脂溶液を調製した後、前記セルロース不織布をこの樹脂溶液に浸漬して、風乾にて溶剤を除去して樹脂組成物を調製した。
【0081】
次に、この樹脂組成物を100μm厚のスペーサーを挟んだ2枚の鏡面ステンレスシートの間に設置し、180℃、2MPaで60minホットプレスしてセルロース繊維複合材料101を得た。
【0082】
評価結果を表1に示す。尚、繊維配向度は、セルロース繊維不織布製造時の延伸方向を基準方向として評価した。その他の物性についてもこの方向を基準に評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0083】
(セルロース繊維複合材料102の製造例)
前記、セルロース繊維複合材料101の製造例において、表1に記載のセルロース繊維から得られる不織布を120%一軸延伸する他は同様の操作にてセルロース繊維複合材料102を得た。評価結果を表1に示す。尚、繊維配向度は、セルロース繊維不織布製造時の延伸方向を基準方向として評価した。その他の物性についてもこの方向を基準に評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0084】
(セルロース繊維複合材料103〜109、115の製造例)
前記、セルロース繊維複合材料101の製造例において、表1、2に記載のセルロース繊維から得られる不織布を130%一軸延伸する他は同様の操作にてセルロース繊維複合材料103〜109及び115を得た。評価結果を表1、また2に示す。尚、繊維配向度は、セルロース繊維不織布製造時の延伸方向を基準方向として評価した。その他の物性についてもこの方向を基準に評価を行った。評価結果を表1、また2に示す。
【0085】
(セルロース繊維複合材料110の製造例)
表1に示す配合組成に従い、樹脂と安定剤を溶剤としてメチレンクロライドに溶解し、3質量%の樹脂溶液を調製した後、セルロース繊維Gの製造例で得られたセルロース繊維G(不織布)をこの樹脂溶液に浸漬し、風乾にて溶剤を除去して樹脂組成物を調製した。次に、この樹脂組成物を100μm厚のスペーサーを挟んだ2枚の鏡面ステンレスシートの間に設置し、180℃、2MPaで60minホットプレスしてセルロース繊維複合材料110を得た。評価結果を表1に示す。尚、繊維配向度は、セルロース繊維不織布製造時の延伸方向を基準方向として評価した。その他の物性についてもこの方向を基準に評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0086】
(セルロース繊維複合材料111の製造例)
前記セルロース繊維複合材料110の製造例において、セルロース繊維G(不織布)を用いる替わりにセルロース繊維Hの製造例で得られたセルロース繊維H(不織布)を用いる他は同様の操作にてセルロース繊維複合材料111を得た。評価結果を表2に示す。
【0087】
(セルロース繊維複合材料112の製造例)
前記セルロース繊維複合材料110の製造例において、セルロース繊維G(不織布)を用いる替わりにセルロース繊維Iの製造例で得られたセルロース繊維I(不織布)を用いる他は同様の操作にてセルロース繊維複合材料112を得た。評価結果を表2に示す。
【0088】
(セルロース繊維複合材料113の製造例)
セルロース繊維複合材料104の2枚を、繊維配向の基準方向が直交するように積層し、180℃、2MPaで60minホットプレスしてセルロース繊維複合材料113を得た。尚、繊維配向度は、積層する2枚の繊維複合材料の何れかの基準方向について評価した。その他の物性についてもこの方向を基準に評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0089】
(セルロース繊維複合材料114の製造例)
繊維複合材料110の2枚を、繊維配向の基準方向が直交するように積層し、180℃、2MPaで60minホットプレスしてセルロース繊維複合材料114を得た。尚、繊維配向度は、積層する2枚の繊維複合材料の何れかの基準方向について評価した。その他の物性についてもこの方向を基準に評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0090】
(セルロース繊維複合材料116〜118の製造例)
先ず、表2に記載のセルロース繊維に水を加えて1質量%のセルロース繊維分散液を調製し、孔径1μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜を用いた120mm径の濾過装置に投入し吸引濾過を行った。形成された不織布を120℃、1MPaで5分間プレス乾燥してセルロース不織布を得た。
【0091】
次に、表2に示す配合組成に従い、先ず、樹脂と安定剤を溶剤としてメチレンクロライドに溶解して、3質量%の樹脂溶液を調製した後、前記セルロース不織布をこの樹脂溶液に浸漬して、風乾にて溶剤を除去して樹脂組成物を調製した。次に、この樹脂組成物を100μm厚のスペーサーを挟んだ2枚の鏡面ステンレスシートの間に設置し、180℃、2MPaで60minホットプレスしてセルロース繊維複合材料116〜118を得た。
【0092】
評価結果を表2に示す。尚、繊維配向度は、セルロース繊維不織布製造時の延伸方向を基準方向として評価した。その他の物性についてもこの方向を基準に評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0093】
(セルロース繊維複合材料119の製造例)
前記セルロース繊維複合材料110の製造例において、セルロース繊維G(不織布)を用いる替わりにセルロース繊維Jの製造例で得られたセルロース繊維J(不織布)を用いる他は同様の操作にてセルロース繊維複合材料119を得た。評価結果を表2に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
表1、2中、前記セルロース繊維製造例に記載した成分以外の配合成分の詳細は、以下の通りである。
脂肪族ポリエステル系樹脂:ポリ乳酸(レイシアH−400、三井化学株式会社製)
アクリル系樹脂:アクリペットMF(三菱レイヨン株式会社製)
安定剤A:テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル)ブタンテトラカルボキシレート
安定剤B:2,2′−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)−2−エチルヘキシルホスファイト
表1、2の物性評価結果から明らかなように、本発明に係わる繊維複合材料101〜114は、機械的強度および線膨張係数が優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも平均繊維径が2nm以上、200nm以下であるセルロース繊維とマトリックス樹脂を含み、該セルロース繊維の繊維配向度が50%以上95%以下であることを特徴とする繊維複合材料。
【請求項2】
前記セルロース繊維が表面修飾されていることを特徴とする請求項1に記載の繊維複合材料。
【請求項3】
前記セルロース繊維が、エレクトロスピニング法により製造された繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維複合材料。
【請求項4】
前記繊維複合材料を積層して構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維複合材料。

【公開番号】特開2011−208015(P2011−208015A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77205(P2010−77205)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】