説明

繊維複合部品を製造するための方法

本発明は、繊維およびマトリックス材料からなる予備成形物(12)を、成形用型に入れ、但し、予備成形物(12)は周縁(18)を有すること、および、繊維複合部品が製造されるように、予備成形物(12)にマイクロ波(28)を照射すること、を有する、繊維複合部品を製造するための方法に関する。本発明によれば、予備成形物の周縁(18)を、少なくとも部分的に、成形用型(10)と接触させるように、予備成形物(12)を成形用型(10)に入れることが提案されている。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、(a)繊維およびマトリックス材料からなり、周縁を有する予備成形物を成形用型に導入する工程、および(b)繊維複合部品が製造されるように、前記予備成形物にマイクロ波を照射する工程を有する、繊維複合部品を製造するための方法に関する。
【0002】
繊維強化プラスチックからなる繊維複合部品は、2つの成分、すなわち、(強化)繊維およびマトリックス材料からなる革新的な材料である。特に航空および航空宇宙産業のようなハイテク産業部門においておよび自動車の製造において、ますます多くの部品が、もはや金属からではなく、例えば炭素繊維強化熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂から製造される。
【0003】
繊維複合部品を製造するためには、通常、熱エネルギが使用される。繊維およびマトリックス材料からなる予備成形物が、成形用型に入れられた後に、両者が加熱される。このことによって、マトリックス材料の重合の開始が生じ、繊維およびマトリックス材料は互いに接着し、その結果繊維複合部品が製造される。
【0004】
例えば、対流によって、加熱を行なうことができる。その代わりに、予備成形物を加熱するために、マイクロ波場(Mikrowellenfeld)を使用することができる。マイクロ波場との相互作用によって、マトリックス材料のダイポール分子が振動され、マトリックス材料が加熱される。マイクロ波の照射の際に、予備成形物中に強い温度勾配が生じることが明らかになった。最高温度が、予備成形物または製造される繊維複合部品の周縁で測定される。このような温度勾配は、望ましくなく、従来は、予備成形物の周縁に、マイクロ波の照射を遮る金属箔を取り付けることによって、減じられた。このことの欠点は、金属箔をあてがう際の手による労力、および不正確にあてがわれた金属箔の故に、製造される繊維複合部品に欠陥が引き起こされるという危険性である。
【0005】
DE10360743A1から、繊維複合部品をプラスチックから製造するための方法であって、2つの方法工程、すなわち、予備成形および二次成形を含む方法が公知である。成形用型中に周縁の配置には、言及されていない。
【0006】
DE19731903A1からは、車両のためのルーフモジュールまたはスライディングルーフを製造するための方法が公知である。この方法では、発泡シートの全面を、エポキシ樹脂で含浸した繊維マットで囲み、多層箔によってまたは布帛によって圧縮型から絶縁して、圧縮型に入れる。続いて、このような、多層構造物を圧縮して、ルーフモジュールを形成する。多層箔または布帛で覆う故に、アークが生じることがない。
【0007】
従来の技術の欠点を解消するという課題が、本発明の基礎になっている。
【0008】
本発明は、予備成形物の周縁を、少なくとも部分的に、しかし好ましくは実質的に完全に成形用型と接触させるように、予備成形物を成形用型に入れる、本発明に係わる方法によって、前記課題を解決する。
【0009】
本発明の利点は、マイクロ波の照射の際の、予備成形物における温度勾配の生成が減じられることである。このことによって、高質の繊維複合部品が製造可能である。他の利点は、手による予備作業が大幅に不要になるので、この方法が自動化のために適切であることである。このことによって、安価な製造が可能となり、同時に、再現可能な質が生じる。
【0010】
更に、本発明が容易に実行されることが利点である。例えば、本発明は、新たな成形用型、または原則的に任意にしばしば用いられることができる既存の成形用型の改良を必要とするだけである。
【0011】
予備成形物が、実質的に直方体状の部品であるとき、予備成形物の周縁は、予備成形物の狭い面の全体と解釈される。
【0012】
予備成形物は、特に、均質である。このことは、特に、予備成形物の構造が場所によらないものであることと解釈すべきである。特に、予備成形物は、基本的に、それ自体独立の構成要素から構成されていない。例えば、予備成形物は、接合部を有しない。好ましい実施の形態による予備成形物が、マトリックス材料−繊維システムであるとき、予備成形物は繊維およびマトリックス材料のみからなることが好ましい。
【0013】
部品が、平たい部品であることが好ましい。このことは、特に、部品が、製造後に、アンダーカットを有しないか、あるいは、周縁に、複数のアンダーカットの1つのみを有することと解釈すべきである。例えば、平たい部品は、航空機の一部である。例えば、平たい部品は、機体の、翼のまたは尾翼の一部である。
【0014】
マイクロ波が、照射の際に、予備成形物に直接当たるように、成形用型が形成されていることは好ましい。このことは、成形用型が、予備成形物にマイクロ波を照射するために用いられるマイクロ波源に関して、アンダーカットを有しないことが好ましいことを意味する。
【0015】
好ましい実施の形態では、予備成形物の周縁が実質的に完全に成形用型と接触される。予備成形物が実質的に全体的に接触されるという特徴は、予備成形物が、厳密に数学的な意味で、完全に接触される必要がないことと解釈すべきである。むしろ、予備成形物の、個々の、小さい部分が、成形用型との接触を有しないでも、十分である。このことの利点は、繊維複合部品の高品質を達成するために、予備成形物の、実質的に周縁全体が、十分に小さい温度勾配を受けることである。
【0016】
成形用型が予備成形物の周縁と接触する個所では、成形用型は、以下のように、すなわち、成形用型が、予備成形物の周縁の周辺領域に発生する熱を、成形用型の熱容量に基づき、事前設定されたマイクロ波出力の際に、温度が、事前設定された温度を、繊維複合部品のどの個所でも越えない程度に、吸収することができるように十分に大きく選択された厚さまたは深さを有することが好ましい。
【0017】
好ましい実施の形態では、遮りなしに予備成形物にマイクロ波が照射される。このことは、特に、成形用型がアンダーカットを有さず、または、マイクロ波が、あらゆる露出した面から予備成形物に達することができることと解釈すべきである。特に、予備成形物には、金属箔が取り付けられていない。
【0018】
熱的接触のほかに、予備成形物と成形用型との間の特に良好な電気的接触を形成するために、導電性の成形用型、特に金属製の成形用型を用いることが特に好ましい。成形用型は、例えば、鋼および/またはニッケル合金から製造され得る。例えば、予備成形物の周縁と接触する、成形用型の個所に、特に高い熱伝導性および/または電気伝導性が望ましいときは、熱的におよび/または電気的に特に伝導可能な金属、例えば銅または銀を用いることが好ましい。
【0019】
予備成形物の周縁が成形用型と電気接触するように、予備成形物を成形用型に入れることが、特に好ましい。この場合、一方では繊維および/またはマトリックス材料と、他方では成形用型との間の小さなアークの形成が減じられ、あるいは回避さえされる。このような小さなアークの形成は、アーク放電とも呼ばれる。
【0020】
アーク放電が実質的に抑制されるように選択された強さを有するマイクロ波を、照射のために用いることは好ましい。アーク放電が実質的に抑制されるという特徴は、アーク放電が完全に抑制されることが、好ましくはあるが、必要というわけではないことと解釈すべきである。製造される繊維複合部品の後の使用可能性を決定的には損なわない程度で、アークの形成を許容することは可能である。
【0021】
上記周縁における温度勾配を効果的に抑制するために、好ましい実施の形態では、予備成形物を、冷却された、特に積極的に冷却された成形用型に取り付け、この成形用型の、特に、予備成形物の周縁と接触する個所を冷却することが、提案される。その代わりに、成形用型の、予備成形物の複数の外側領域と概ね接触している個所を、冷却することも可能である。予備成形物の周縁領域で温度勾配が生じるとき、このことを、積極的な冷却によって、防ぐことができる。
【0022】
繊維が炭素繊維を含むことが好ましい。炭素繊維の導電性の故に、炭素繊維およびマトリックス材料製の予備成形物は、アークの形成および周縁領域における温度勾配を受けやすい。マトリックス材料が、重合によって、特に、熱で誘起された重合によって硬化可能であることが、特に好ましい。熱の入力が、唯一の重合開始機構であってもよいが、そうである必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】マイクロ波の照射の際に、予備成形物における温度が、予備成形物の空間広がりに従って描く略図を示す。
【図2】従来の技術による成形用型を示す。
【図3】繊維複合部品製造装置の略図を示す。
【図4a】部分的に従来の技術によりおよび部分的に本発明により構成されている実験装置を示す。
【図4b】図4aに示す断面Z−Zに沿った横断面図を示す。
【図4c】図4aに示した実験装置の、周縁領域における温度を、時間に亘って描く4つの温度曲線を示す。2つの曲線は、従来の技術による成形用型に関する温度推移を表わし、2つの曲線は、繊維複合部品製造装置の成形用型に関する温度推移を表わす。
【0024】
以下、本発明を、実施の形態に基づいて詳述する。図1は、金属製の、この場合では鋼製の成形用型10を示す。この成形用型には、予備成形物12が、繊維およびマトリックス材料からなるラミネートの形態で構成されている。予備成形物12は、実質的に直方体状であり、支持面14、この支持面14と対向する照射面16、および、支持面14と照射面16との間に配置された、予備成形物の周縁18を有する。マイクロ波源20から予備成形物12にマイクロ波を照射するとき、予備成形物12が加熱され、示された温度分布T(x)が生じる。温度Tが、周縁領域22では、予備成形物12の芯領域24におけるよりも著しく高いことが見て取れる。周縁領域22は、予備成形物の周縁18から、予備成形物12の寸法の約10%まで、内側へ延びている。このことから結果として生じる温度勾配、すなわち、予備成形物の周縁18からの間隔があくにつれて生じる温度の変化は、望ましくない。
【0025】
図2は、従来の技術に基づく成形用型10を示す。この成形用型は、遮蔽物26.1,26.2を有する。遮蔽物26.1,26.2は、マイクロ波源20から出るマイクロ波28を、断面Qを有するアンダーカットによって遮る。それ故に、図1に示した温度勾配の生成が減じられる。断面Qの平均的な奥行きTは80mmよりも小さいことが好ましい。高さHは50mmよりも小さいことが好ましい。
【0026】
図3は、予備成形物12から繊維複合部品を製造するための、本発明に係わる繊維複合部品製造装置30を示す。繊維複合部品製造装置の一部である成形用型10は、金属から製造されており、ベース面32を有する。このベース面は、作業中には、予備成形物12の支持面14と接触しており、この場合には、実質的に平面状である。しかしながら、ベース面32は、必ずしも平面状である必要はなく、原理的には、如何なる任意の形状をも有することができる。マイクロ波28を遮らないように、ベース面32はアンダーカットを有しない。このことは、マイクロ波源20から、マイクロ波28が、直線の距離で、ベース面のどの点にも達することができるところの、マイクロ波源20のための位置があることを意味する。ベース面32が、製造技術的な理由から、アンダーカットを有しないことが好ましい。多くの適用のために、ベース面は凸面状または凹面状であり、あるいは、互いに隣接する凸面状のまたは凹面状の部分面からなる。
【0027】
ベース面32から実質的に垂直方向上方に、金属製の2つの側方要素34.1,34.2が延びている。これらの側方要素は、本体36に着脱可能に取り付けられていてもよい。その代わりに、側方要素34.1,34.2は、本体36に一体成形されている。側方要素34.1,34.2は、それぞれの型周縁38,1,38.2を有する。これらの型周縁は、予備成形物12の周縁18に面しており、予備成形物の周縁18と接触している。型周縁38.1,38.2は、アンダーカットなしに、ベース面32に載っている。このことは、予備成形物12から生じる繊維複合部品を、繊維複合部品が理想的には硬い場合でも、成形用型10から取り外すことができることを意味する。この目的のためには、側方要素34.1,34.2を取り除く必要はない。このことは、型周縁38.1,38.2の、ベース面32への投影が、支持面14の外側にあるとき、特にそのときに達成される。代替の実施の形態では、1つの側方要素または2つの側方要素34.1,34.2が、着脱可能にかつ移動可能に本体36に接続されていてもよい。
【0028】
繊維複合部品製造装置30は、更に、マイクロ波源20および図示しないハウジングを有する。ハウジングは、マイクロ波28を反射し、マイクロ波28が、ハウジングを越えて周囲に放射されることを防止する。
【0029】
図4aは、A’およびB’を付した個所で予備成形物12の温度Tを測定する図示しないパイロメータを有する繊維複合部品製造装置30を示す。温度勾配または最大温度が、予備成形物12における事前設定された温度勾配または事前設定された最大温度を越えないように、マイクロ波源20(図3を参照)を、電気制御装置によって、制御することができる。温度勾配および/または温度が余りに高いとき、電気制御装置は、マイクロ波源の出力を低く調整することができる。それ故に、温度差が、成形用型10への熱伝導工程によって平均化され、あるいは、余りに高い温度が、成形用型10の側方要素34への熱伝導によって下げられる。更に、周縁領域22には、予備成形物12の過度な加熱あるいは余りに急な温度勾配の形成を妨げる冷却流路が組み込まれていてもよい。
【0030】
図4aは、成形用型10に入れられている予備成形物12を示す。この成形用型は、図4aで左側では、図3に示した成形用型のように、右側では、図2に示した成形用型のように構成されている。AおよびBを付した個所で、温度が、サーモカップルによって測定される。破線の円で示された領域A’およびB’では、予備成形物12の温度は、パイロメータで測定される。
【0031】
図4bは、Z−Zに沿った横断面を示す。図4cには、記録された温度曲線が、予備成形物12に800Wのマイクロ波出力が照射された、tbeginで始まりtendで終わる間の時間に従って、描かれている。測定された温度が、左側では、右側よりも著しく上昇が少ないことが見て取れる。全体的に照射されたエネルギが、単位面積当たり一定であるので、このことは、本発明に係わる成形用型が用いられるときの、予備成形物12の一様な加熱を示す。予備成形物12は、ほぼ300mmの幅、および20mmより少ない、特に10mmより少ない高さを有する。予備成形物は、更に、約120mmの奥行きを有する。
【符号の説明】
【0032】
10…成形用型、12…予備成形物、14…支持面、16…照射面、18…予備成形物の周縁、20…マイクロ波源、22…周縁領域、24…芯領域、26.1,26.2…遮蔽物、28…マイクロ波、30…繊維複合部品製造装置、32…ベース面、34.1,34.2…側方要素、36…本体、38.1,38.2…型周縁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)炭素繊維を含む繊維およびマトリックス材料からなり、かつ周縁(18)を有する予備成形物(12)を、金属製の成形用型に入れる工程、および
(b)繊維複合部品が製造されるように、遮りなしに前記予備成形物(12)にマイクロ波(28)を照射する工程
を有する、繊維複合部品を製造するための方法であって、
(c)前記予備成形物の前記周縁(18)を、少なくとも部分的に、前記成形用型(10)と電気的に接触させるように、前記予備成形物(12)を前記成形用型(10)に入れ、
(d)アーク放電が実質的に抑制されるように低く選択された強さを有するマイクロ波を、照射のために用いることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記予備成形物(12)の前記周縁(18)を、実質的に完全に、前記成形用型(18)と接触させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予備成形物(12)を、冷却された、特に積極的に冷却された成形用型(10)に入れ、この成形用型(10)の、特に、前記予備成形物の周縁(18)と接触している個所を、冷却することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
後の作業段階を、特に、変形、二次成形、曲げ、塗装、洗浄、切削、研磨、研削、腐食、コーティングおよび/または嵌め込みを経ることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【公表番号】特表2011−500362(P2011−500362A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529227(P2010−529227)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際出願番号】PCT/DE2008/001585
【国際公開番号】WO2009/049583
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(504467484)エアバス・オペレーションズ・ゲーエムベーハー (268)
【Fターム(参考)】