説明

繊維質ライニングロールの製造方法

【課題】 繊維材料を巻付仮軸に巻き付けて、巻付仮軸表面に繊維層を形成し、この繊維層を軸方向に圧縮して、中空円筒体を製造する際、繊維層が外側に膨らむのを防止する方法を提供する。
【解決手段】 以下の(a)〜(d)工程を採用する。(a)工程:編組紐1を準備する。編組紐1は、芯材2と芯材2を被覆する編組構造体3とからなる。編組構造体3は、糸状物4を編組して構成される。(b)工程:編組紐1を巻付仮軸5の軸方向に螺旋状に巻き付ける。この結果、巻付仮軸5表面に繊維層が形成される。(c)工程:繊維層を巻付仮軸5の軸方向に圧縮する。また、硬化型樹脂を繊維層に含浸する。そして、硬化型樹脂を硬化させる。(d)工程:硬化型樹脂を硬化させた後、巻付仮軸5を取り外す。以上のようにして、繊維質中空円筒体を得る。これを、被ライニングロールに嵌装することによって、繊維質ライニングロールを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の搬送用ロール等に使用される繊維質ライニングロールの製造方法に関し、比較的均一でかつ平坦な表面を持つ繊維質ライニングロールを合理的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維質ライニングロールは、被ライニングロール表面に繊維層が形成されてなるものであり、従来より、ニップロールやガイドロール等として、鋼板等の搬送用ロールとして用いられている。繊維質ライニングロールの製造方法としては、種々の方法が知られている。たとえば、不織布をドーナツ状に切り抜いて、仮軸の軸方向に積層して仮軸表面に繊維層を形成する。そして、この繊維層を軸方向に圧縮し樹脂含浸して成形する。その後、仮軸を取り外して繊維質中空円筒体を得、これを被ライニングロールに嵌装する方法が知られている。この方法は、ドーナツ状不織布の中央の孔に、仮軸を挿入しているので、軸方向に圧縮しても、全体に均一に圧縮され、繊維層表面は比較的均一でかつ平坦な表面とすることができるという利点がある。
【0003】
しかしながら、この方法は、不織布をドーナツ状に切り抜くため、切れ端が多数生じ、材料が無駄になるという欠点があった。このため、帯状の不織布を、巻付仮軸の軸方向に螺旋状に巻き付けて、繊維層を形成することが行われている(特許文献1)。そして、この繊維層を巻付仮軸の軸方向に圧縮し、樹脂含浸して繊維質中空円筒体を作成することが行われている。
【0004】
この方法は、不織布材料が無駄にならないという利点があるが、ドーナツ状不織布を用いた場合に比べて、繊維層を軸方向に圧縮する際に、繊維層を均一に圧縮しにくいという欠点があった。すなわち、螺旋状に巻き付けた帯状不織布の一部が、巻付仮軸から離れて外側に膨らむということがあった。特に、繊維層の軸方向の長さが長いときには、中央部の帯状不織布は、両端側からの圧力によって、外側へ膨らむということがあった。
【0005】
【特許文献1】特公平7−30783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、巻付仮軸に巻き付けて形成した繊維層を、軸方向に圧縮する際に、繊維層が外側に膨らむのを防止することを課題とする。そして、本発明者は、特許文献1で使用されている帯状不織布に代えて、パッキンとして使用されている特定の編組紐を使用することにより、この課題を解決した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、芯材と該芯材を被覆する編組構造体からなり、該編組構造体は糸状物を編組して構成されている編組紐を使用して、繊維質中空円筒体乃至は繊維質ライニングロールを製造する方法に関するものである。具体的な一手段として、以下の(a)〜(d)工程を採用することによって、繊維質中空円筒体を製造し、これを被ライニングロールに嵌装して繊維質ライニングロールを製造する方法が挙げられる。
(a)芯材と該芯材を被覆する編組構造体からなり、該編組構造体は糸状物を編組して構成されている編組紐を準備する工程。
(b)該編組紐を巻付仮軸の軸方向に螺旋状に巻き付けて、該巻付仮軸表面に繊維層を形成する工程。
(c)該繊維層を該巻付仮軸の軸方向に圧縮すると共に、硬化型樹脂を該繊維層に含浸した後、該硬化型樹脂を硬化させる工程。
(d)該硬化型樹脂を硬化させた後、該巻付仮軸を取り外す工程。
【0008】
本発明においては、まず、編組紐1を準備する(図1)。編組紐1は、芯材2と、この芯材2を被覆する編組構造体3とからなる。芯材2は、編組紐1の長手方向に走行している。芯材2は、1本でも2本以上の複数本であってもよい。芯材2としては、紡績糸、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、延伸した金属線、ガラス繊維糸等の線状物が用いられる。編組構造体3は、芯材2の周囲を被覆した状態で編組されてなる。すなわち、芯材2の周囲で、糸状物4を編むことにより、或いは織ることにより、或いは組み合わせることによって、編組構造体3を形成することができる。編組構造体3を形成するのに用いる糸状物4としては、糸条として用いられているものであれば、どのようなものでもよく、一般的には紡績糸やマルチフィラメント糸等が用いられる。
【0009】
編組構造体3を編組する糸状物4として、低融点繊維と、この低融点繊維が溶融する温度では溶融しない繊維とが混合されてなる紡績糸又はマルチフィラメント糸を用いることができる。低融点繊維は、繊維全体が溶融するものであっても、繊維表面の少なくとも一部が溶融する複合型のものであってもよい。後者の例としては、鞘成分としての低融点成分と、芯成分としての高融点成分とが複合されてなる芯鞘型複合繊維又はサイドバイサイド型複合繊維であってもよい。具体的には、ポリエチレン/ポリプロピレン,ポリエチレン/ポリエステル,低融点ポリエステル/高融点ポリエステル等の低融点成分/高融点成分からなる芯鞘型複合繊維又はサイドバイサイド型複合繊維が用いられる。また、芯材2として、紡績糸又はマルチフィラメント糸を用いる場合には、前記糸状物4と同様のもの、すなわち、低融点繊維と、この低融点繊維が溶融する温度では溶融しない繊維とが混合されてなる紡績糸又はマルチフィラメント糸を用いてもよい。
【0010】
編組紐1の断面形状は、円形、正方形又は長方形等の任意の形状であってよい。一般的には、螺旋状に巻き付ける際に、隙間なく緊密に巻き付けやすい形状である正方形又は長方形が好ましい。なお、このような編組紐1は、パッキンとして常用されているものである。
【0011】
編組紐1は、巻付仮軸5の軸方向に螺旋状に巻き付けられる(図2)。編組紐1は、一般的に、巻付仮軸5表面に一層となるように巻き付けられるが、二層以上巻き付けても差し支えない。編組紐1を巻き付けると、巻付仮軸5表面に、編組紐1からなる繊維層が形成される。
【0012】
巻付仮軸5の表面に形成された編組紐1からなる繊維層は、加圧用円盤6で軸方向に圧縮される。圧縮の程度は任意であるが、一般的に、繊維層の軸方向長さを、約半分にする程度がよい。そして、圧縮した状態で、硬化型樹脂を繊維層に含浸させる。硬化型樹脂としては、加熱硬化型樹脂でも常温硬化型樹脂でも、また湿気硬化型樹脂であってよい。一般的には、加熱硬化型樹脂が用いられ、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂剤、フェノール樹脂等が用いられる。この硬化型樹脂を繊維層に含浸した後、硬化させて、圧縮状態を保持した繊維層が巻付仮軸5の表面上で形成されるのである。なお、圧縮する前に硬化型樹脂を含浸させ、その後圧縮して、硬化型樹脂を硬化することも可能である。
【0013】
編組紐1として、低融点繊維と、この低融点繊維が溶融する温度では溶融しない繊維とが混合されてなる糸状物4で編組したものを使用した場合、硬化型樹脂を使用しないことも可能である。すなわち、前記と同様の方法で繊維層を形成し、それを圧縮した状態で、低融点繊維が軟化又は溶融する温度に加熱した後、冷却して軟化又は溶融した低融点繊維を固着させれば、繊維層は圧縮した状態が保持される。また、圧縮する前や圧縮しながら、低融点繊維が軟化又は溶融する温度に加熱し、圧縮後に冷却して軟化又は溶融した低融点繊維を固着させて、繊維層を圧縮した状態に保持してもよい。この場合、編組紐1の芯材2にも低融点繊維を混合しておくと、繊維層の圧縮状態の保持がより効果的に行える。なお、このような低融点繊維が混合された編組紐1を用いた場合であっても、硬化型樹脂を用いて圧縮状態を保持してもよい。さらに、低融点繊維の軟化又は溶融及び固着による圧縮状態の保持と、硬化型樹脂による圧縮状態の保持を併用してもよい。
【0014】
硬化型樹脂を硬化させ又は低融点繊維を固着させて、圧縮状態を保持した後、巻付仮軸5の表面上に形成された繊維層を、巻付仮軸5から取り外すと、繊維質中空円筒体が得られる。そして、この繊維質中空円筒体を、被ライニングロール表面に嵌装すれば、ライニングロールが得られる。繊維質中空円筒体の表面には、もちろん、若干の凹凸が存在するので、巻付仮軸5から取り外される前、又は取り外した後、又は被ライニングロールに嵌装した後に、その表面を研磨して平滑な表面を持つライニングロールにすることが好ましい。また、ライニングロールの使用者に繊維質中空円筒体のみを提供し、現場でライニングロールを組み立てる場合には、繊維質中空円筒体を補強しておくのが好ましい。繊維質中空円筒体を使用者に提供する間の搬送中に、繊維質中空円筒体が押し潰されたり、変形するのを防止するためである。この補強は、繊維質中空円筒体の内周面に、編織物や不織布等の布帛を貼合すればよい。貼合方法は任意であり、たとえば接着剤で貼合すればよい。
【0015】
また、ライニングロールの軸方向長さが長いときには、複数個の繊維質中空円筒体を得た後、これを被ライニングロールの軸方向に積層する状態で嵌装すればよい。そして、嵌装した後、両端から固定用フランジで若干圧縮して、各繊維質中空円筒体を密着させて、ライニングロールとすればよい。
【0016】
上記した説明は、いずれも、いったん繊維質中空円筒体を得た後、これを被ライニングロール表面に嵌装して、ライニングロールを得る方法に関するものである。本発明においては、このような方法の他に一挙に、ライニングロールを得ることもできる。この方法について、具体的に説明すれば、以下のとおりである。すなわち、(a)芯材と該芯材を被覆する編組構造体からなり、該編組構造体は糸状物を編組して構成されている編組紐を準備する工程と、(x)その外径が同一である被ライニングロールと巻付仮軸とを軸方向に直列に繋いだ巻付ロールを準備する工程と、(b3)該編組紐を巻付ロールの軸方向に螺旋状に巻き付けて、該巻付ロール表面に繊維層を形成する工程と、(c3)該繊維層を該巻付ロールの軸方向に圧縮して、該巻付仮軸表面に存在する該繊維層部分を、全て該被ライニングロール表面に移動させる工程と、(d)該繊維層に、硬化型樹脂を含浸した後、該硬化型樹脂を硬化させる工程と、(e3)前記(c3)工程の後に、該巻付ロールを構成する巻付仮軸を取り外す工程と、を具備することを特徴とする繊維質ライニングロールの製造方法である。
【0017】
この方法で使用する編組紐1としては、前述したものが用いられるが、編組紐1を巻き付ける対象物が異なる。すなわち、この方法においては、被ライニングロール7と、この被ライニングロール7の外径と同一の外径の巻付仮軸5とを軸方向に直列に繋いだ巻付ロール5,7に、編組紐1が巻き付けられる(図4)。被ライニングロール7の一端(巻付仮軸5が繋がれていない一端)近傍には、フランジ8が設けられており、この一端側から、編組紐1が巻き付けられるのが一般的である。そして、被ライニングロール7から巻付仮軸5の一端(被ライニングロール7が繋がれていない一端)近傍に至るまで、編組紐1が螺旋状に巻き付けられる。そして、被ライニングロール7と巻付仮軸5とが繋がれた巻付ロール5,7表面に繊維層が形成される。
【0018】
巻付ロール5,7に繊維層を形成した後、この繊維層を軸方向に圧縮して、巻付仮軸5に螺旋状に巻き付けられて形成された繊維層部分を、全て被ライニングロール7表面に移動させる。すなわち、図4では、上方端側から下方端側に向けて、螺旋状に巻き付けられた繊維層を圧縮して、上方に位置する巻付仮軸5表面に存在する繊維層部分を、下方に位置する被ライニングロール7表面に移動させるのである。そして、移動させた繊維層が動かないように、被ライニングロール7の他端近傍にフランジを固定する。たとえば、被ライニングロール7の他端近傍に、軸用止輪取付溝を設けておき、フランジを他端側から嵌装して軸用止輪取付溝よりも内側まで圧入した後、この取付溝に軸用止輪を取り付けることによって、フランジを固定する。
【0019】
この後、前述の方法と同様にして、硬化型樹脂を繊維層に含浸して硬化させればよい。また、編組紐1として低融点繊維を混合したものを使用した場合には、繊維層を加熱して、低融点繊維を軟化又は溶融させた後、冷却して固着させてもよい。巻付仮軸5は、繊維層を被ライニングロール7表面に移動させた後、どの時点で取り外してもよい。たとえば、繊維層を被ライニングロール7表面に移動させた後、硬化型樹脂を含浸する前又は低融点繊維を軟化又は溶融させる前に取り外してもよいし、硬化型樹脂を硬化させた後又は低融点繊維を軟化又は溶融させて冷却し固着させた後に取り外してもよい。
【0020】
以上のようにして、繊維質中空円筒体を得る工程を経ることなく、直接的に繊維質ライニングロールを得ることができる。もちろん、繊維質ライニングロールの繊維質表面には、若干の凹凸が存在するので、その表面を研磨して平滑な表面を持つライニングロールにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るライニングロールの製造方法は、巻付仮軸に繊維材料を螺旋状に巻き付けて繊維層を形成するのに、帯状不織布を用いるのではなく、特定の編組紐を使用するものである。そして、この特定の編組紐は、芯材とこの芯材を被覆する編組構造体とよりなるものである。したがって、螺旋状に巻き付けた後、両端から繊維層を圧縮しても、また一方端から他方端に向けて繊維層を圧縮しても、芯材は外側に膨らむことはない。一方、編組構造体は、圧縮によって外側に膨らもうとするが、芯材が編組構造体内部に存在しているので、芯材によって外側への膨らみが防止される。よって、本発明に係る方法によれば、繊維層が圧縮時に外側に膨らむのを防止でき、比較的均一でかつ平坦な表面を持つ繊維質ライニングロールが、合理的に得られるという効果を奏する。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、帯状不織布に代えて、特定の編組紐を用いれば、表面が均一で平坦な繊維質ライニングロールを合理的に得られるとの知見に基づくものとして、解釈されるべきである。
【0023】
実施例1
[編組紐の準備]
断面形状;8mm×8mmの正方形
芯材;ポリエステル繊維50質量%と綿繊維50質量%とを混紡してなる20番手の紡 績糸からなる双糸15本
編組構造体;ポリエステル繊維50質量%と綿繊維50質量%とを混紡してなる20番 手の紡績糸からなる双糸を用いて、芯材の周囲を被覆するようにして編成 したもの。
【0024】
[巻き付け工程]
外径105mmφの鉄パイプ(巻付仮軸)表面に、軸方向に螺旋状に編組紐を巻き付けた。巻き付けは一層とし、鉄パイプ軸方向の巻き付け長さは600mmとして、鉄パイプ表面に繊維層を形成した。
【0025】
[圧縮及び樹脂含浸工程]
繊維層の両端側に、加圧用円盤として鉄リングを装着し、鉄リングを加圧して、巻き付け長さが300mmになるまで圧縮した。そして、この圧縮状態を維持し、繊維層の表面からエポキシ樹脂溶液を300g含浸した。なお、このエポキシ樹脂溶液は、ビスフェノールAとアミド・アミンを混合し、溶剤で5倍に希釈したものを用いた。
【0026】
[硬化及び取り外し工程]
その後、130℃で3時間加熱して、エポキシ樹脂を硬化させた。そして、鉄パイプから繊維層を取り外して、繊維質中空円筒体を得た。この繊維質中空円筒体は、内径105mmφ、外径126mmφ、軸方向長さ300mmであった。
【0027】
[繊維質ライニングロールの作成工程]
上記繊維質中空円筒体を、被ライニングロールである鉄軸(外径105mmφ)に嵌装した後、両端を固定用フランジで固定した。そして、鉄軸を旋盤に取り付けて、表面を研磨し、繊維質中空円筒体表面を約0.5mm削り落とした。以上により、繊維質でライニングされたロールを得た。この繊維質ライニングロールは、外径125mmφ、ライニングの軸方向長さ(繊維質層の軸方向長さ)300mm、ライニングの厚さ(繊維質層の厚さ)10mmであった。
【0028】
実施例2
[編組紐の準備]
断面形状;11mm×8mmの長方形
芯材;ナイロン66繊維60質量%と綿繊維40質量%とを混紡してなる20番手の紡 績糸からなる双糸20本
編組構造体;ナイロン66繊維60質量%と綿繊維40質量%とを混紡してなる20番 手の紡績糸からなる双糸を用いて、芯材の周囲を被覆するようにして編成 したもの。
【0029】
[巻き付け工程]
外径126mmφの鉄パイプ(巻付仮軸)表面に、軸方向に螺旋状に編組紐を巻き付けた。巻き付けは一層とし、鉄パイプ軸方向の巻き付け長さは600mmとして、鉄パイプ表面に繊維層を形成した。
【0030】
[圧縮及び樹脂含浸工程]
繊維層の両端側に、加圧用円盤として鉄リングを装着し、鉄リングを加圧して、巻き付け長さが303mmになるまで圧縮した。そして、この圧縮状態を維持し、繊維層の表面からウレタン樹脂溶液(日華化学社製「エバファノールAPC−66」)を200g含浸した。
【0031】
[硬化及び取り外し工程]
その後、140℃で2時間加熱して、ウレタン樹脂を硬化させた。そして、鉄パイプから繊維層を取り外して、繊維質中空円筒体を得た。この繊維質中空円筒体は、内径126mmφ、外径151mmφ、軸方向長さ303mmであった。
【0032】
[繊維質ライニングロールの作成工程]
上記の工程により、4個の繊維質中空円筒体を得た。そして、各繊維質中空円筒体を順次、被ライニングロールである鉄軸(外径126mmφ、軸長さ1200mm)に嵌装した。この際、各繊維質中空円筒体の軸方向長さが300mmとなるように、若干加圧しながら、順次、嵌装した後、両端を固定用フランジで固定した。そして、鉄軸を旋盤に取り付けて、表面を研磨し、繊維質中空円筒体表面を約0.5mm削り落とした。以上により、繊維質でライニングされたロールを得た。この繊維質ライニングロールは、外径150mmφ、ライニングの軸方向長さ(繊維質層の軸方向長さ)1200mm、ライニングの厚さ(繊維質層の厚さ)12mmであった。また、このライニングはウレタン樹脂で硬化したため、比較的弾性に富むものであった。
【0033】
実施例3
[編組紐の準備]
断面形状;10mm×8mmの長方形
芯材;200デニールのケブラー(登録商標)マルチフィラメント糸20本
編組構造体;200デニールのケブラー(登録商標)マルチフィラメント糸を用いて、 芯材の周囲を被覆するようにして編成したもの。
【0034】
[巻き付け工程]
外径76.2mmφの鉄パイプ(巻付仮軸)表面に、軸方向に螺旋状に編組紐を巻き付けた。巻き付けは一層とし、鉄パイプ軸方向の巻き付け長さは400mmとして、鉄パイプ表面に繊維層を形成した。
【0035】
[圧縮及び樹脂含浸工程]
繊維層の両端側に、加圧用円盤として鉄リングを装着し、鉄リングを加圧して、巻き付け長さが200mmになるまで圧縮した。そして、この圧縮状態を維持し、繊維層の表面からフェノール樹脂溶液(スターライト社製)を300g含浸した。なお、このフェノール樹脂溶液は、汎用のフェノール樹脂溶液を3倍に希釈したものを用いた。
【0036】
[硬化及び取り外し工程]
その後、150℃で2時間加熱して、フェノール樹脂を硬化させた。そして、鉄パイプから繊維層を取り外して、繊維質中空円筒体を得た。
【0037】
[補強工程]
この繊維質中空円筒体の内周面に、見掛け厚さ1mmの織布(帝人社製「テクノーラ」)をエポキシ樹脂系汎用接着剤で貼合した。その後、この補強された繊維質中空円筒体を再び、外径76.2mmφの鉄パイプに嵌装し、この鉄パイプを旋盤に取り付けて、表面を研磨仕上げした。仕上げ後、鉄パイプから取り外して、内径76.2mmφ、外径100mmφ、軸方向長さ200mmの補強された繊維質中空円筒体を得た。この補強された繊維質中空円筒体は、このままの形態でライニングロールの使用者に提供でき、使用者が現場で軸ローラーに嵌装して、ライニングロールを組み立てることができた。
【0038】
実施例4
[編組紐の準備]
断面形状;12mm×12mmの正方形
芯材;低融点繊維であるサイドバイサイド型複合繊維(一成分がポリプロピレンで他成 分がポリエチレンであるチッソ社製の商品名「ES繊維」)30質量%と、ポリ フェニレンサルファイド繊維(東洋紡社製の商品名「プロコン」)70質量%と を混紡してなる20番手の紡績糸からなる双糸15本
編組構造体;低融点繊維であるサイドバイサイド型複合繊維(一成分がポリプロピレン で他成分がポリエチレンであるチッソ社製の商品名「ES繊維」)30質 量%と、ポリフェニレンサルファイド繊維(東洋紡社製の商品名「プロコ ン」)70質量%とを混紡してなる20番手の紡績糸からなる双糸を用い て、芯材の周囲を被覆するようにして編成したもの。
【0039】
[巻き付け工程]
外径76mmφで軸方向の長さ200mmの金属軸(被ライニングロール)と、外径76mmφで軸方向の長さ250mmの鉄パイプ(巻付仮軸)とを軸方向に直列に繋ぎ、巻付ロール(外径76mmφで軸方向の長さ450mm)を準備した。金属軸の一端近傍(鉄パイプと繋がれていない側)にはフランジが設けられており、ここから軸方向に螺旋状に編組紐を巻き付けた。巻き付けは一層とし、金属軸から鉄パイプに亙って、軸方向に400mmの巻き付け長さとなるようにして、巻付ロール表面に繊維層を形成した。
【0040】
[圧縮工程及び取り外し工程]
鉄パイプの他端側(金属軸と繋がれていない側)から、加圧用円盤としてフランジを嵌装し、このフランジを加圧して、繊維層の巻き付け長さが200mmになるまで、金属軸の一端側(鉄パイプと繋がれていない側)に固定されているフランジに向けて圧縮した。そして、金属軸の他端側(鉄パイプと繋がれている側)近傍に設けられている軸用止輪取付溝の内側までフランジを加圧・圧入した後、この取付溝に軸用止輪を取り付けて、フランジを固定した。その後、鉄パイプを取り外した。
【0041】
[加熱工程]
その後、繊維層が両端側のフランジによって固定されている金属軸を、130℃に加熱されたオーブンに入れて、2時間加熱した。この加熱により、繊維層中の芯鞘型複合繊維の鞘成分は溶融した。その後、オーブンから金属軸を取り出し、繊維層が常温になるまで、放置した。これにより、溶融している鞘成分は冷却され、ポリフェニレンサルファイド繊維相互間及びポリフェニレンサルファイド繊維と芯成分であるポリプロピレンとが固着し、繊維層が全体として一体化された。
【0042】
[繊維質ライニングロールの作成工程]
繊維層が常温になった後、金属軸を旋盤に取り付けて、表面を研磨し、一体化した繊維質表面を約0.5mm削り落とした。以上により、繊維質でライニングされたロールを得た。この繊維質ライニングロールは、外径100mmφ、ライニングの軸方向長さ(繊維質層の軸方向長さ)200mm、ライニングの厚さ(繊維質層の厚さ)24mmであった。この繊維質ライニングロールは、硬化型樹脂が含浸されていないため、耐薬品性に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明で用いる編組紐の一例を示した模式的斜視図である。
【図2】巻付仮軸に編組紐を軸方向に螺旋状に巻き付ける際の一例を示した模式的平面図である。
【図3】巻付仮軸表面に巻き付けられた編組紐で形成された繊維層を、軸方向に圧縮する際の一例を示した模式的平面図である。
【図4】被ライニングロールと巻付仮軸とを軸方向に直列に繋いだ巻付ロールに、編組紐を軸方向に螺旋状に巻き付ける際の一例を示した模式的平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 編組紐
2 芯材
3 編組構造体
4 糸状物
5 巻付仮軸
6 加圧用円盤
7 被ライニングロール
8 フランジ
9 軸用止輪取付溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)芯材と該芯材を被覆する編組構造体からなり、該編組構造体は糸状物を編組して構成されている編組紐を準備する工程と、
(b)該編組紐を巻付仮軸の軸方向に螺旋状に巻き付けて、該巻付仮軸表面に繊維層を形成する工程と、
(c)該繊維層を該巻付仮軸の軸方向に圧縮する工程と、
(d)該繊維層に硬化型樹脂を含浸した後、該硬化型樹脂を硬化させる工程と、
(e)該硬化型樹脂を硬化させた後、該巻付仮軸を取り外す工程と、
を具備することを特徴とする繊維質中空円筒体の製造方法。
【請求項2】
(a1)芯材と該芯材を被覆する編組構造体からなり、該編組構造体は、低融点繊維と該低融点繊維が溶融する温度では溶融しない繊維とが混合されてなる糸状物を編組して構成されている編組紐を準備する工程と、
(b)該編組紐を巻付仮軸の軸方向に螺旋状に巻き付けて、該巻付仮軸表面に繊維層を形成する工程と、
(c)該繊維層を該巻付仮軸の軸方向に圧縮する工程と、
(d1)該繊維層を加熱して、該低融点繊維を軟化又は溶融させた後、冷却して固着させる工程と、
(e1)該低融点繊維を固着させた後、該巻付仮軸を取り外す工程と、
を具備することを特徴とする繊維質中空円筒体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法で得られた繊維質中空円筒体の内周面に、布帛を貼合して補強することを特徴とする補強された繊維質中空円筒体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法で得られた繊維質中空円筒体を、被ライニングロール表面に嵌装することを特徴とする繊維質ライニングロールの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法で複数の繊維質中空円筒体を得た後、各々の該繊維質中空円筒体を被ライニングロール表面に嵌装して、軸方向に積層し、その後、該軸方向に圧縮することを特徴とする繊維質ライニングロールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−230517(P2011−230517A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172508(P2011−172508)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【分割の表示】特願2006−207325(P2006−207325)の分割
【原出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(592204026)東邦窯業株式会社 (5)
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【出願人】(596022433)双伸ライニング株式会社 (2)
【Fターム(参考)】