説明

繊維集合体の製造方法及び製造装置

【課題】本発明は、製造しようとする繊維集合体の目付、平均繊維径、通気度などの諸特性や、繊維集合体の製造方法に左右され難い、繊維集合体の固定方法を備えた、繊維集合体の製造方法及び製造装置の提供を目的とする。

【解決手段】本発明に係る繊維集合体の製造方法及び製造装置は、電気的な力によって繊維集合体を捕集体上に固定することができる。そのため、製造しようとする繊維集合体の目付、平均繊維径、通気度などの諸特性や、繊維集合体の製造方法に左右され難い、繊維集合体の固定方法を備えており、繊維集合体の変形や繊維集合体から繊維が飛散することを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維集合体の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーを細径化して繊維化し捕集体に捕集することで、繊維集合体が製造されている。この繊維集合体の製造方法として、溶融ポリマーあるいはポリマーを溶媒に溶解させたポリマー溶液を紡糸原液として使用すると共に、前記紡糸原液に気体流を作用させて前記紡糸原液を引き伸ばして細径化する、例えば、メルトブロー法、サツカを備えたスパンボンド法(例えば、特開平06-264347号公報に開示の方法)、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法)などが知られている。
【0003】
このような繊維集合体の製造方法および製造装置において、紡糸原液に作用させた気体流が繊維集合体にも作用して、繊維集合体に変形が生じる、あるいは繊維集合体から繊維が抜けて飛散することがある。
【0004】
繊維集合体に変形が生じる、あるいは繊維集合体から繊維が抜けると、最終的に得られる繊維集合体の目付、厚さ、表面粗さ、空隙率といった諸特性が変化するという問題が発生する。また、繊維集合体から繊維が飛散した場合、飛散した繊維によって紡糸環境が汚染されてしまうという問題も発生する。
【0005】
そのため、こういった問題の発生を防ぐため、従来技術においては、例えば、次の繊維集合体の製造方法および製造装置が検討されている。
【0006】
従来技術に係る繊維集合体の製造方法および製造装置について、繊維集合体の製造装置(100)により繊維集合体(5)が製造されている際の、模式的側面図である図1に沿って説明する。
【0007】
図1の繊維集合体の製造装置(100)は、主に、ノズルやメルトブローダイなど紡糸原液を吐出できる紡糸開始部(1)、メッシュや布帛など通気性を有する捕集体(2)、前記捕集体(2)を介在させて前記紡糸開始部(1)と対向するように設けられたサクション装置(3)から構成されている。なお、サクション装置(3)は気体を吸引する働きを担う。
【0008】
まず、図1に係る繊維集合体の製造装置(100)では、気体流の作用、圧力や重力や遠心力などの外力によって紡糸開始部(1)から紡糸原液が吐出される。
【0009】
次いで紡糸原液は、上述の外力及び/又はサクション装置(3)による気体の吸引力によって紡糸開始部(1)から捕集体(2)に向かい進行することで、細径化された紡糸原液(4)となる。
【0010】
そして、前記細径化された紡糸原液(4)は繊維化されて捕集体(2)と接触することで、捕集体(2)上に繊維集合体(5)が調製される。なお、図1では捕集体(2)としてコンベアなど調製された繊維集合体(5)を搬送できる装置を設けた態様の、繊維集合体の製造装置(100)を図示している。また、図1では、捕集体(2)が繊維集合体(5)を搬送する方向をA方向として図示している。
【0011】
そして、前記捕集体(2)上に調製された繊維集合体(5)は、サクション装置(3)による気体の吸引によって捕集体(2)上に固定されることで、繊維集合体(5)に変形が生じたり繊維集合体から繊維が飛散することが防がれている。
【0012】
しかしながら、主に気体の吸引によって繊維集合体(5)を捕集体(2)上へ固定する繊維集合体の製造方法において、目付が重いあるいは平均繊維径の細い繊維からなる繊維集合体(5)など、通気度が低い繊維集合体(5)を製造しようとする場合、サクション装置(3)による気体の吸引が前記繊維集合体(5)により阻害されることがある。また、繊維集合体(5)の製造速度や製造量を増加するために、紡糸原液の紡糸開始部(1)からの吐出量を上げる、あるいは紡糸原液に作用させる気体流の量や速度を上げた場合、サクション装置(3)による気体の吸引が十分になされないことがある。
【0013】
その結果、主に気体の吸引によって繊維集合体(5)を捕集体(2)上に固定しようとする従来技術の繊維集合体の製造方法では、繊維集合体(5)の変形や繊維集合体(5)から繊維が飛散することを十分に防ぐことができないものであった。
【0014】
そのため、製造しようとする繊維集合体(5)の目付、平均繊維径、通気度などの諸特性や、繊維集合体(5)の製造方法に左右され難い、繊維集合体(5)の固定方法を備えた、繊維集合体の製造方法及び製造装置が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、製造しようとする繊維集合体の目付、平均繊維径、通気度などの諸特性や、繊維集合体の製造方法に左右され難い、繊維集合体の固定方法を備えた、繊維集合体の製造方法及び製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1の、繊維集合体の製造方法は、
「(1)紡糸原液に気体流を作用させ、紡糸原液を引き伸ばして細径化する工程、
(2)前記細径化された紡糸原液を捕集体に捕集して、繊維集合体を調製する工程、
(3)前記繊維集合体に帯電した液体を付与すると共に、電気的な力によって前記繊維集合体を前記捕集体に固定する工程、
を備えていることを特徴とする、繊維集合体の製造方法。」
である。
【0017】
請求項2の、繊維集合体の製造装置は、
「(1)紡糸原液に気体流を作用させ、紡糸原液を引き伸ばして細径化できる紡糸装置、
(2)前記細径化された紡糸原液を捕集して、繊維集合体を調製できる捕集体、
(3)前記繊維集合体に、帯電した液体を付与できる液体付与装置、
(4)前記帯電した液体と、反対の電荷に帯電できる対向電極、
を備えていることを特徴とする、繊維集合体の製造装置。」
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1に係る繊維集合体の製造方法は、「繊維集合体に帯電した液体を付与すると共に、電気的な力によって前記繊維集合体を前記捕集体に固定する工程」を有することで、電気的な力によって繊維集合体を捕集体上に固定することができる。
【0019】
そのため、本発明に係る繊維集合体の製造方法は、製造しようとする繊維集合体の目付、平均繊維径、通気度などの諸特性や、繊維集合体の製造方法に左右され難い、繊維集合体の固定方法を備えており、繊維集合体の変形や繊維集合体から繊維が飛散することを防ぐことができる。
【0020】
本発明の請求項2に係る繊維集合体の製造装置は、「繊維集合体に、帯電した液体を付与できる液体付与装置」および「帯電した液体と、反対の電荷に帯電できる対向電極」を有することで、電気的な力によって繊維集合体を捕集体上に固定することができる。
【0021】
そのため、本発明に係る繊維集合体の製造装置は、製造しようとする繊維集合体の目付、平均繊維径、通気度などの諸特性や、繊維集合体の製造方法に左右され難い、繊維集合体の固定装置を備えており、繊維集合体の変形や繊維集合体から繊維が飛散することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来技術に係る、繊維集合体の製造装置により繊維集合体が調製されている態様を示す、模式的側面図である。
【図2】本発明に係る、繊維集合体の製造装置により繊維集合体が調製されている態様を示す、模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る繊維集合体の製造方法について、前記製造方法を行うことのできる繊維集合体の製造装置(200)により繊維集合体が調製されている態様を示す、模式的側面図である図2に沿って説明する。
【0024】
本発明に係る繊維集合体の製造装置(200)は従来技術に係る繊維集合体の製造装置(100)と同様に、紡糸開始部(1)と捕集体(2)を備えていると共に、アース(9a)されたパワーサプライ(8)、ノズルやスリットなど液体の吐出部を備えた液体付与装置(6、以降、液体付与装置と称する)、アース(9b)された対向電極(10)を備えて構成されている。なお、液体付与装置(6)から帯電した液体(7)を吐出できるように、パワーサプライ(8)は液体を帯電させる働きを示す。
【0025】
まず、図2に係る繊維集合体の製造装置(200)では、気体流の作用、圧力や重力や遠心力などの外力によって紡糸開始部(1)から紡糸原液が吐出される。
【0026】
次いで紡糸原液は、上述の外力及び/又はサクション装置(3)による気体の吸引力によって紡糸開始部(1)から捕集体(2)に向かい進行することで、細径化された紡糸原液(4)となる。
【0027】
そして、細径化された紡糸原液(4)は繊維化されて捕集体(2)と接触することで、捕集体(2)上に繊維集合体(5)が調製される。
【0028】
次いで、液体付与装置(6)から吐出予定の液体に、パワーサプライ(8)により電圧を印加することで、帯電した液体(7)が調製される。これにより、帯電した液体(7)と、捕集体(2)を介在させて液体付与装置(6)と対向するように設けられた対向電極(10)との間に電位差が生じ、両者間に電界が形成される。
【0029】
帯電した液体(7)はこの電界の作用による電気的な力によって対向電極(10)に引き付けられ、液体付与装置(6)から吐出されると共に対向電極(10)へと向かい飛翔する。
【0030】
そして、液体付与装置(6)から吐出された帯電した液体(7)は、対向電極(10)へと向かう進行途中で繊維集合体(5)と接触することで、繊維集合体(5)に帯電した液体(7)が付与される。
【0031】
帯電した液体(7)は電界の作用により対向電極(10)に向かい引き付けられることで、帯電した液体(7)が付与された繊維集合体(5)は前記捕集体(2)上に、電気的な力によって紙面下方向に固定される。なお、帯電した液体(7)の重量、帯電した液体(7)が有する表面張力や粘性などの副次的な作用によっても、帯電した液体(7)が付与された繊維集合体(5)は、前記捕集体(2)上に固定される。
【0032】
このように、本発明に係る繊維集合体の製造方法は、例えばサクション装置(図示せず)による吸引力に依存しない方法を用いて繊維集合体(5)を捕集体(2)上に固定できるため、調製しようとする繊維集合体の目付、平均繊維径、通気度などの諸特性や、繊維集合体の製造方法に左右され難い。そのため、繊維集合体(5)に変形が生じたり、繊維集合体から繊維が飛散することを防ぐことができる。
【0033】
次いで、本発明に係る繊維集合体の製造装置(200)を構成する、各部材の詳細を説明する。
【0034】
紡糸原液は、例えば、樹脂を溶融させた溶融ポリマーあるいは樹脂を溶媒に溶解させたポリマー溶液を使用できる。
【0035】
樹脂の種類は、本発明において紡糸することができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなど)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、アクリル系樹脂、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂などの公知の有機ポリマー、あるいは、金属アルコキシド(ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ホウ素、スズ、亜鉛などのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシドなど)が重合した無機ポリマーなどの公知の無機系化合物が重合してなるポリマーを用いることができる。
【0036】
これらのポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、またポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、またポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。
【0037】
また、これら例示以外のポリマーも使用可能であり、例示以外の樹脂も含め、2種以上のポリマーからなる紡糸原液とすることもできる。
【0038】
上述の樹脂を溶媒に溶解させる場合、溶媒は使用する樹脂や紡糸条件によっても変化するため、特に限定されるものではないが、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。これら例示以外の溶媒も使用可能であり、例示以外の溶媒も含め、2種以上の溶媒が混和した混和溶媒を使用することもできる。
【0039】
紡糸原液が上述のような樹脂を溶媒に溶解させたものである場合、その粘度は使用する樹脂の組成、樹脂の分子量、溶媒の組成、紡糸原液における樹脂の濃度等によって変化するため特に限定されるものではないが、本発明に係る装置への適用性の点から、粘度が10〜6000mPa・sの範囲となるような濃度であるのが好ましく、20〜5000mPa・sの範囲となるような濃度であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く、繊維になりにくい傾向があり、粘度が6000mPa・sを超えると、紡糸原液が延伸されにくくなり、繊維形状となりにくい傾向がある。
【0040】
なお、この「粘度」は粘度測定装置を用い、温度25℃で測定したシェアレート100s−1時の値をいう。
【0041】
また、紡糸原液が溶融した樹脂の場合、その粘度は使用する樹脂の組成、樹脂の分子量等によって変化するため特に限定されるものではなく、本発明において紡糸することができる粘度であれば良い。後述する紡糸開始部(1)による紡糸への適用性の点から、例えば溶融した樹脂としてポリプロピレンを用いる場合の紡糸原液は、メルト・インデックスが10(g/10min)以上となるものであるのが好ましい。メルト・インデックスが10(g/10min)未満であると、紡糸原液が延伸されにくくなり、繊維形状となりにくい傾向がある。ポリプロピレン紡糸原液のメルト・インデックスが100(g/10min)以上であるのがより好ましく、1000(g/10min)以上であるのがより好ましい。
【0042】
なお、このメルト・インデックスは、溶融した樹脂をキャピラリーレオメータに導き、JISK7199に基づいて測定した際の、押出量(g/10min)の値を指す。溶融時の粘度を調整するために、樹脂に粘度調整剤、また紡糸時における紡糸原液あるいは調製された繊維集合体(5)が酸化あるいは光により変性しないように、酸化防止剤、光安定剤などを添加しても良い。
【0043】
紡糸開始部(1)は紡糸原液を吐出して、細径化された紡糸原液(4)を調製できる部材を指す。例えば、メルトブロー法やスパンボンド法を用いた紡糸装置における樹脂の吐出口金とそれに付随する周辺部材や、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報)などで使用されるノズルとそれに付随する周辺部材を指す。
【0044】
紡糸開始部(1)は細径化された紡糸原液(4)からなる繊維集合体(5)を調製できるのであれば、紡糸原液を帯電して吐出しても、あるいは紡糸原液を帯電することなく電気的に中性の紡糸原液を吐出しても良い。しかし、帯電させた紡糸原液から調製される繊維集合体(5)には帯電した液体(7)が付与され難く、帯電した液体(7)により繊維集合体(5)が捕集体(2)上に固定され難い傾向があるため、紡糸開始部(1)は電気的に中性の紡糸原液を吐出して電気的に中性の繊維集合体(5)を調製できる部材であるのが好ましい。
【0045】
なお、紡糸開始部(1)の設置数や、一以上の紡糸開始部(1)から吐出される紡糸原液(4)の総量やその温度など、また紡糸原液に作用させる気体流の態様は、適宜調整する。
【0046】
また、複数の紡糸開始部(1)を設置する場合、各紡糸開始部(1)から互いに異なる種類の紡糸原液を吐出してもよい。
【0047】
気体流は紡糸原液に作用して、紡糸原液を引き伸ばし、細径化された紡糸原液(4)を調製する働きを担う。
【0048】
気体流の種類は限定されるものではないが、例えば、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、希ガス、酸性ガス、塩基性ガスなどを単独で、あるいは混合して調製することができる。窒素、二酸化炭素、希ガスなどの反応性の低い気体を用いて気体流を調製すると、紡糸時における紡糸原液あるいは繊維集合体(5)に酸化あるいは変性が生じることを防ぐことができるため、好ましい。
【0049】
紡糸原液に作用させる気体流の温湿度、作用させる気体流の流速や流量、また紡糸原液の吐出方向と気体流の流れる方向とが成す角度など、紡糸原液に作用させる好適な態様は、求める繊維集合体(5)の態様や、紡糸原液の諸物性、紡糸環境の温湿度などによって変化するため、適宜調整する。
【0050】
捕集体(2)は、細径化された紡糸原液(4)を繊維化された態様で捕集し、直接集積させて繊維集合体(5)を調製できる部材を指す。
【0051】
その素材や構造は特に限定されるものではないが、金属製や炭素などの導電性材料または有機高分子などの非導電性材料からなる、通気性を有するネットや多孔板や布帛(繊維ウェブ、不織布、織物、編み物など)、或いは、通気性を有していないフィルムや平板などを使用することができる。なお、本発明でいう不織布とは、例えば、ニードルパンチ処理や水流絡合処理などにより繊維同士を絡合する、バインダーを付加して繊維同士を接着する、加熱することで繊維同士を溶着するなどの方法によって繊維同士が一体化した布帛を指し、繊維ウェブとは繊維同士が一体化していない布帛を指す。
【0052】
繊維集合体(5)と積層する予定の素材(例えば、繊維ウェブ、不織布、織物、編物などの布帛、ネットやフィルムや平板など)を捕集体(2)として用いると、繊維集合体(5)を調製すると共に前記部材との積層体を調製することができる。
【0053】
なお、図2では、繊維集合体(5)を搬送できる可動式の捕集体(2)を設けた場合を図示しており、捕集体(2)により繊維集合体(5)が搬送される方向をA方向として図示している。捕集体(2)がコンベアなど可動式のものであると、連続して繊維集合体(5)を調製することができる。特に、捕集体(5)のA方向端部に巻取り装置(図示せず)を備えていると、長尺状の繊維集合体(5)を調製できる。
【0054】
上述の紡糸開始部(1)と捕集体(5)との最適な距離は、求める繊維集合体(5)の態様や、紡糸原液の諸物性、温湿度などの紡糸条件によって変化するため、適宜調整する。
【0055】
液体付与装置(6)は、帯電した液体(7)を液滴状、霧状、柱流状、帯状の態様で繊維集合体(5)に帯電した液体(7)を付与できる、ノズルやスリットなど液体の吐出部を備えた部材を指す。
【0056】
その素材や構造は特に限定されるものではないが、液体の吐出部が体積固有抵抗値10Ω・cm以下の導電性材料(例えば、金属製)から構成されていると、後述するパワーサプライ(8)を前記吐出部に接続することで、液体を帯電できるため好ましい。
【0057】
図2では液体付与装置(6)にパワーサプライ(8)を接続することで液体に電圧を印加しているが、後述する対向電極(10)がパワーサプライ(図示せず)によって電圧を印加されている場合には、液体付与装置(6)をアース(図示せず)することで、液体に電圧を印加しても良い。
【0058】
また、帯電した液体(7)が、捕集体(2)上に捕集される前の細径化された紡糸原液(4)に付与されると、繊維集合体(5)を構成する繊維の繊維径や、繊維同士が接着あるいは絡み合う態様などの諸物性が乱れることで、最終的に得られる繊維集合体(5)の目付、厚さ、表面粗さ、空隙率といった諸特性が変化する恐れがある。
【0059】
そのため、液体付与装置(6)から吐出された帯電した液体(7)が、捕集体(2)に捕集される前の細径化された紡糸原液(4)に付与されることなく、繊維集合体(5)のみに付与されるように、液体付与装置(6)と繊維集合体(5)との最適な距離や位置は、適宜調整するのが好ましい。
【0060】
なお、液体付与装置(6)の設置数や一以上の液体付与装置(6)から吐出される帯電した液体(7)の吐出流速や総吐出量やその温度などは、調製された繊維集合体(5)の諸物性や、紡糸開始部(1)による紡糸原液の吐出速度や吐出量などの紡糸条件、繊維集合体(5)のA方向への搬送速度などによって変化するため、適宜調整する。
【0061】
また、複数の液体付与装置(6)を設置する場合、各液体付与装置(6)から互いに異なる種類の液体を吐出してもよい。
【0062】
パワーサプライ(8)は、液体付与装置(6)から帯電した液体(7)を吐出できるように、液体に電圧を印加できる部材を指す。特に限定されるものではないが、直流高電圧発生装置やヴァン・デ・グラフ起電機などを使用することができる。
【0063】
なお、パワーサプライ(8)を液体付与装置のノズルやスリットなど液体の吐出部に接続して、あるいは液体に直接接続して、液体を帯電してもよい。
【0064】
パワーサプライ(8)が液体に印加する電圧量は、調製された繊維集合体(5)の諸物性や、紡糸開始部(1)による紡糸原液の吐出速度や吐出量などの紡糸条件、繊維集合体(5)のA方向への搬送速度によって変化するため、適宜調整されるべきものである。なお、帯電された液体(7)と対向電極(10)との間の電位差が10kV/cmを超えると、パワーサプライ(8)あるいは液体付与装置(6)と対向電極(10)との間で、絶縁破壊が生じやすい傾向があり、1kV/cm未満であると、液体付与装置(6)から帯電した液体(7)が吐出されにくい傾向がある。
【0065】
そのため、帯電された液体(7)と対向電極(10)との間の電位差は、1kV/cm〜10kV/cmであるのが好ましく、2kV/cm〜8kV/cmであるのがより好ましく、4kV/cm〜6kV/cmであるのが更に好ましい。
【0066】
また、帯電した液体(7)と後述する対向電極(10)との間に電位差が生じれば、両者間に電界が形成されるものとなる。そのため、パワーサプライ(8)が液体を帯電させる極性は、対向電極(10)が帯電されている極性と異なる極性であっても、あるいは帯電量が互いに異なる状態であれば同じ極性であってもよい。
【0067】
対向電極(10)は、前述の帯電した液体(7)との間に電位差が存在するように、帯電される部材を指す。
【0068】
その素材や構造は特に限定されるものではないが、体積固有抵抗値10Ω・cm以下の導電性材料(例えば、金属製や炭素など)から構成することができる。
【0069】
図2では対向電極(10)にアース(9b)を接続した場合を図示しているが、対向電極(10)に新たにパワーサプライ(図示せず)を接続することで、前述の帯電した液体(7)との間に電位差が存在するように、対向電極(10)に電圧を印加してもよい。
【0070】
本発明では、対向電極(10)は捕集体(2)を介在させ液体付与装置(6)と対向するように設けられるが、対向電極(10)を設ける位置は、調製された繊維集合体(5)の諸物性や、紡糸開始部(1)による紡糸原液の吐出速度や吐出量などの紡糸条件、繊維集合体(5)のA方向への搬送速度、繊維集合体(5)に付与された帯電した液体(7)の量や帯電量などによって変化するため、適宜調整する。
【0071】
なお、本発明に係る繊維集合体の製造装置(200)が、後述する繊維集合体(5)を捕集体(2)上に固定できる固定装置を備えている場合、固定装置を帯電することで対向電極(10)として使用することもできる。
【0072】
固定装置がサクション装置(図示せず)である場合には、サクション装置(図示せず)の気体吸い込み口に金属メッシュなどの多孔性の導電性材料を設けて、それを対向電極(10)とすることができる。サクション装置(図示せず)が帯電により破損しないよう、多孔性の導電性材料は体積固有抵抗値が10Ω・cmよりも大きい絶縁体材料(例えば、ゴムなど)を介して気体吸い込み口に設けられているのが好ましい。
【0073】
帯電した液体(7)は、後述する液体がパワーサプライ(8)あるいはアース(図示せず)により電圧を印加することで調製される。
【0074】
この時、帯電した液体(7)の極性は、電気的な力によって対向電極(10)に引き付けられるのであれば正と負のいずれであっても構わないが、繊維集合体(5)に変形が生じたり、繊維集合体(5)から繊維が飛散することが好適に防がれるように、液体付与装置(6)および対向電極(10)の電圧が印加されている態様を調整することで、適宜、極性を確認するのが好ましい。
【0075】
液体として、水、N,Nジメチルホルムアミド、アルコールなどの極性液体や、ヘキサン、トルエンなどの非極性液体を選択あるいは組み合わせて使用することができる。また、その温度は繊維集合体(5)から繊維が飛散することが好適に防がれるように、適宜調整するのが好ましい。
【0076】
この時、液体の帯電性能を向上するため、液体に塩などの添加剤を添加しても良い。使用する添加剤の種類は適宜選択するのが好ましいが、繊維集合体(5)を構成する樹脂成分の融点よりも低い温度で揮発する、有機酸と窒素化合物からなる塩を添加剤として使用するのが好ましい。
【0077】
このような塩を使用することで、繊維集合体(5)から帯電された液体(7)と添加されている前記塩を除去する場合に、繊維集合体(5)を加熱することで容易に繊維集合体(5)から前記塩を除去できるものとなる。
【0078】
図2では、気体流の吸引によって繊維集合体(5)を捕集体(2)へ固定できる例えばサクション装置(図示せず)など、繊維集合体(5)を捕集体(2)上に固定できる固定装置を設けていない繊維集合体の製造装置(200)を図示しているが、本発明では固定装置を併用することで、繊維集合体(5)を捕集体(2)上へと更に固定できるようにしてもよい。
【0079】
この時、繊維集合体(5)を捕集体(2)上へ効率的に固定できるように、固定装置におけるA方向の長さは対向電極(10)の長さよりも長いのが好ましく、固定装置におけるA方向と直角をなす紙面奥行き方向の長さは捕集体(2)と対向電極(10)のいずれの長さよりも長いのが好ましい。
【0080】
また、本発明に係る繊維集合体の製造装置(200)における固定装置の設置数は、繊維集合体(5)が捕集体(2)上へ効率的に固定できるように、適宜調整する。
【0081】
繊維集合体(5)を捕集体(2)上に固定できる他の装置として、例えばサクション装置(図示せず)を用いる場合、サクション装置(図示せず)は捕集体(2)と対向電極(10)との間に介在するように設ける、あるいは、対向電極(10)の紙面下方向に設けることができる。
【0082】
また、繊維集合体の製造中に浮遊する塵や埃、繊維集合体(5)から落繊した繊維などを捕集することができる、サクション装置(図示せず)などの塵埃捕集装置を、A方向と直角をなす紙面奥行き方向の端部に設置することで、紡糸空間を清浄に保つことができる。
【0083】
調製された繊維集合体(5)は、次いで、繊維集合体(5)から帯電した液体(7)を除去する処理を行う、繊維集合体(5)を電気的に中性の状態となるよう処理を行う、絡合や接着あるいは加熱することで繊維同士を一体化処理するなどして、各種用途に使用できる。
【0084】
また、繊維集合体(5)は前述の処理に供することなく各種用途に使用することもできる。
【0085】
繊維集合体(5)から帯電した液体(7)を除去する処理の方法として、例えば、別の液体を用いて繊維集合体(5)を洗浄することで繊維集合体(5)から帯電した液体(7)を除去する方法、超音波や振動を作用させて繊維集合体(5)から帯電した液体(7)を除去する方法、繊維集合体(5)を自然乾燥する、あるいは加熱することで帯電した液体(7)を除去する方法など、除去の方法は適宜選択することができる。
【0086】
なお、繊維集合体(5)を加熱する際に使用できる装置は、例えば、キャンドライヤやカレンダなどの加熱ローラ、熱風ドライヤ、熱風乾燥機、電気炉、ヒートプレートなど、公知の装置を挙げられる。また、加熱処理における温度条件は適宜調整する。
【0087】
更に、上述のようにして調製された繊維集合体(5)は、例えば、繊維ウェブ、不織布、織物、編物などの布帛、ネットやフィルムや平板などと積層して、積層体として各種用途に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、調製しようとする繊維集合体の目付、平均繊維径、通気度などの諸特性や、繊維集合体の製造方法に左右され難い、繊維集合体の固定方法を備えているため、調製された繊維集合体に変形が生じることを防ぐことができ、調製された繊維集合体から繊維が飛散することを防ぐことのできる、繊維集合体の製造方法および製造装置に関する。
【符号の説明】
【0089】
100・・・従来技術に係る繊維集合体の製造装置
200・・・本発明に係る繊維集合体の製造装置
1・・・紡糸開始部
2・・・捕集体
3・・・サクション装置
4・・・細径化された紡糸原液
5・・・繊維集合体
6・・・液体付与装置
7・・・帯電した液体
8・・・パワーサプライ
9a・・・パワーサプライのアース
9b・・・捕集体のアース
10・・・対向電極
A・・・捕集体が繊維集合体を搬送する方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)紡糸原液に気体流を作用させ、紡糸原液を引き伸ばして細径化する工程、
(2)前記細径化された紡糸原液を捕集体に捕集して、繊維集合体を調製する工程、
(3)前記繊維集合体に帯電した液体を付与すると共に、電気的な力によって前記繊維集合体を前記捕集体に固定する工程、
を備えていることを特徴とする、繊維集合体の製造方法。
【請求項2】
(1)紡糸原液に気体流を作用させ、紡糸原液を引き伸ばして細径化できる紡糸装置、
(2)前記細径化された紡糸原液を捕集して、繊維集合体を調製できる捕集体、
(3)前記繊維集合体に、帯電した液体を付与できる液体付与装置、
(4)前記帯電した液体と、反対の電荷に帯電できる対向電極、
を備えていることを特徴とする、繊維集合体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−122160(P2012−122160A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273136(P2010−273136)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】