説明

織ネーム

【課題】カーボンニュートラルな素材であるポリ乳酸繊維からなり、製織性、加工性が良好であり、かつアイロン掛け等で受ける熱によっても強度や風合いが損なわれない織ネームを提供する。
【解決手段】経糸および緯糸がマルチフィラメントからなる織ネームであって、該マルチフィラメントが、DSC測定による融点が195℃以上のステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントであり、経糸の総繊度が20〜100dtex、緯糸の総繊度が50〜200dtexであり、少なくとも経糸に撚係数kに換算して5500〜15000の実撚を有していることを特徴とする織ネームとする。
撚係数k=t×√d
(ただし、tは撚数(T/m)、dは総繊度(dtex)をそれぞれ表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸繊維からなり、アイロン掛け等で受ける熱によっても強度や風合いが損なわれない織ネームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の枯渇や、地球温暖化を引き起こす空気中の二酸化炭素増加が懸念されるようになったことから、原料を石油に依存せず、また燃焼させても二酸化炭素を増加させないカーボンニュートラルが成り立つバイオマス資源が大きく注目を集めるようになり、ポリマーの分野においても、バイオマス資源から生産されるバイオマスプラスチックが盛んに開発されている。バイオマスプラスチックの代表例がポリ乳酸であり、該ポリ乳酸は、バイオマスプラスチックの中でも比較的高い耐熱性、機械特性を有するため、衣料用途や産業資材用途などに広く利用されつつある(例えば、特許文献1、2、3等参照)。
【0003】
一方、スポーツウェア、ファッションウェア、インナーウェア等の衣料をはじめとする繊維製品には、織ネームが縫い付けられている。これらの織ネームは、製造及び販売元、使用素材、取り扱い方法等を表示することを目的としたラベルのみでなく、ブランドを象徴あるいは明示することを目的とした高級表示ラベルとして用いられている。
【0004】
本発明者らは、こうした織ネームにポリ乳酸繊維を用いることを検討したが、前記のポリ乳酸繊維は、従来から使用されているポリアミドや芳香族ポリエステルなどの合成繊維に比べ耐熱性が低いため、アイロン掛け等で受ける熱によって、強度や風合いが大きく損なわれるという問題があることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3731538号公報
【特許文献2】特開2007−247076号公報
【特許文献3】特開2007−89956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の背景技術を鑑みなされたものであり、その目的は、カーボンニュートラルな素材であるポリ乳酸繊維からなり、製織性、加工性が良好であり、かつアイロン掛け等で受ける熱によっても強度や風合いが損なわれない織ネームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の目的は、経糸および緯糸がマルチフィラメントからなる織ネームであって、該マルチフィラメントが、DSC測定による融点が195℃以上のステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントであり、経糸の総繊度が20〜100dtex、緯糸の総繊度が50〜200dtexであり、少なくとも経糸に撚係数kに換算して5500〜15000の実撚を有していることを特徴とする織ネームにより達成することができる。
撚係数k=t×√d
(ただし、tは撚数(T/m)、dは繊度(dtex)をそれぞれ表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の織ネームは、ステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントを用いており、さらに経糸に特定の撚が施されていることにより、既存のポリアミドや芳香族ポリエステルからなる織ネームと同等の製織性及び加工性を有し、かつアイロン掛け等で受ける熱によっても強度や風合いが損なわれないといった効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の織ネームは、経糸および緯糸がマルチフィラメントからなる織ネームであって、該マルチフィラメントは、DSC測定による融点が195℃以上のステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントである。
【0010】
前記ポリ乳酸マルチフィラメントは、ポリL−乳酸成分及びポリD−乳酸成分よりなるステレオコンプレックスポリ乳酸繊維からなるマルチフィラメントであり、特に、結晶性のあるポリL−乳酸成分、ポリD−乳酸成分を用いることが好ましく、光学純度の高いポリL−乳酸成分、ポリD−乳酸成分よりのステレオコンプレックスポリ乳酸繊維からなるフィラメントが好ましい。とりわけ好ましくは、融点が160℃以上の結晶性のポリL−乳酸成分、ポリD−乳酸成分を好適に用いることができる。
【0011】
本発明で用いるポリL−乳酸成分は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%のL−乳酸単位、さらに高融点を実現するためには99〜100モル%、加えてステレオ化度を優先するならば95〜99モル%のL−乳酸単位から構成されることがさらに好ましい。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0012】
ポリD−乳酸成分は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%のD−乳酸単位、さらに高融点を実現するためには99〜100モル%、加えてステレオ化度を優先するならば95〜99モル%のD−乳酸単位から構成されることがさらに好ましい。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0013】
共重合成分単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0014】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテオラメチレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0015】
ポリL−乳酸成分およびポリD−乳酸成分は、共に重量平均分子量が、5万〜50万、好ましくは10万〜35万、より好ましくは15万〜30万である。ポリL−乳酸およびポリD−乳酸は、公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属重合触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属重合触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応器あるいは横型反応器を単独、または並列して使用することができる。また、回分式あるいは連続式あるいは半回分式のいずれでも良いし、これらを組み合わせてもよい。
【0016】
重合開始剤として、アルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどを好適に用いることができる。
【0017】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上、融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは、固定された縦型或いは横型反応容器、またはタンブラーやキルンのように容器自身が回転する反応容器(ロータリーキルン等)中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上、融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0018】
ポリ乳酸重合時、使用された金属含有触媒は、従来公知の失活剤で不活性化しておくのが好ましい。かかる失活剤としては、例えばイミノ基を有し且つ重合金属触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド及びジヒドリドオキソリン(I)酸、ジヒドリドテトラオキソ二リン(II,II)酸、ヒドリドトリオキソリン(III)酸、ジヒドリドペンタオキソ二リン(III)酸、ヒドリドペンタオキソ二(II,IV)酸、ドデカオキソ六リン(III)III、ヒドリドオクタオキソ三リン(III,IV,IV)酸、オクタオキソ三リン(IV,III,IV)酸、ヒドリドヘキサオキソ二リン(III,V)酸、ヘキサオキソ二リン(IV)酸、デカオキソ四リン(IV)酸、ヘンデカオキソ四リン(IV)酸、エネアオキソ三リン(V,IV,IV)酸等の酸価数5以下の低酸化数リン酸、式、xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部をのこした網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタリン酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステル、完全エスエテル、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体などが例示される。
【0019】
触媒失活能から、式、xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部をのこした網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタリン酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステルリンオキソ酸あるいはこれらの酸性エステル類、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体及び前記のメタリン酸系化合物が好適に使用される。
【0020】
本発明で使用するメタリン酸系化合物は、3から200程度のリン酸単位が縮合した環状のメタリン酸あるいは立体網目状構造を有するウルトラ領域メタリン酸あるいはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、オニウム塩を包含する。なかでも、環状メタリン酸ナトリウムやウルトラ領域メタリン酸ナトリウム、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体のジヘキシルホスホノエチルアセテート(以下「DHPA」と略称することがある)などが好適に使用される。
【0021】
本発明で用いるステレオコンプレックスポリ乳酸組成物のラクチド含有量は、0から700ppmの範囲が選択される。さらに好ましくは0から500ppm、より好ましくは0から200ppm、特段に好ましくは0から100ppmの範囲が選択される。ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物がかかる範囲のラクチド含有量を有することにより、溶融時の安定性を向上させ、効率よく安定に紡糸できる利点及び繊維製品の耐加水分解性を高めることが出来るからである。ラクチド含有量をかかる範囲に低減させるには、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸の重合時点からステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂製造の終了までの任意の段階において、従来公知のラクチド軽減処理あるいはこれらを組み合わせて実施することによって達成することが可能である。
【0022】
本発明で用いるステレオコンプレックスポリ乳酸組成物の重量平均分子量は、10万〜50万である。より好ましくは10万〜30万である。さらにより好ましくは10.5万から25万である。ステレオコンプレックスポリ乳酸組成物の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比を分子量分散(Mw/Mn)という。分子量分散が大きいことは、平均分子量に比較し、大きな分子や小さな分子の割合が多いことを意味する。即ち、分子量分散の大きなステレオコンプレックスポリ乳酸組成物、例えば重量平均分子量が25万程度で、分子量分散が3超の組成物では、重量平均分子量値25万より大きい分子の割合が大きくなる場合があり、この場合、溶融粘度が大きくなり、紡糸、延伸工程上好ましくない。また、10万程度の比較的小さい重量平均分子量で分子量分散の大きなポリ乳酸組成物では、重量平均分子量値10万より小さい分子の割合が大きくなる場合があり、この場合、繊維の機械的物性の耐久性が小さくなり、使用上好ましくない。かかる観点より、分子量分散の範囲は、好ましくは1.5〜3.0、より好ましくは1.5〜2.5、さらに好ましくは1.6〜2.5の範囲である。重量平均分子量、数平均分子量は、溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量、数平均分子量値である。
【0023】
ステレオコンプレックスポリ乳酸組成物におけるポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分との重量比は、90:10〜10:90の範囲である。75:25〜25:75の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは60:40〜40:60の範囲であり、できるだけ50:50に近いことが好ましい。
【0024】
ステレオコンプレックスポリ乳酸組成物は、ポリL−乳酸成分およびポリD−乳酸成分からなり、ステレオコンプレックス結晶を含有するが、ステレオコンプレックス結晶の含有率、すなわちステレオ化度は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、ステレオコンプレックス結晶の融解に対応するピークの割合であり、下記式(a)で表され80〜100%、より好ましくは95〜100%である。ステレオコンプレックス結晶融解温度(融点)は195℃以上であり、好ましくは195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜240℃、結晶融解エンタルピーは、20J/g以上、好ましくは30J/g以上である。
【0025】
ステレオ化度=
[(ΔHms/ΔHms)/(ΔHmh/ΔHmh+ΔHms/ΔHms)] (a)
(ただし、ΔHms=203.4J/g、ΔHmh=142J/g、ΔHms=ステレオコンプレックス融点の融解エンタルピー、ΔHmh=ホモ結晶の融解エンタルピー)
【0026】
ステレオコンプレックスポリ乳酸組成物は、ポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分とを所定の重量比で共存させ混合することにより製造することができる。
混合は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。また、混合は、溶媒の非存在下で行うことができる。即ち、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを所定量混合した後に溶融混練する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法を採用することができる。あるいは、ポリL−乳酸セグメントとポリD−乳酸セグメントが結合している、ステレオブロックポリ乳酸も、本発明のポリ乳酸組成物として好適に用いることができる。
【0027】
ステレオブロックポリ乳酸は、ポリL−乳酸セグメントとポリD−乳酸セグメントが分子内で結合してなる、ブロック重合体である。このようなブロック重合体は、例えば逐次開環重合によって製造する方法や、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を重合しておいてあとで鎖交換反応や鎖延長剤で結合する方法、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を重合しておいてブレンド後固相重合して鎖延長する方法、立体選択開環重合触媒を用いてラセミラクチドから製造する方法など、前記の基本的構成を持つブロック共重合体であれば製造法によらず用いることができる。しかしながら、逐次開環重合によって得られる高融点のステレオブロック重合体、固相重合法によって得られる重合体を用いることが、製造の容易さからより好ましい。本発明で用いるポリ乳酸組成物およびステレオブロックポリ乳酸は、そのステレオ化度が、90%以上であることが好ましく、より好ましくは100%である。ステレオ化度は、DSC測定において融点のエンタルピーを比較することによって前記式(a)によって決定することができる。
【0028】
本発明で用いるポリ乳酸成分には、ステレオコンプレックス結晶の形成を安定的且つ高度に進めるために特定の添加物を添加することが好ましい。例えば、下記式(1)に示すリン酸エステル金属塩および/または下記式(2)に示すリン酸エステル金属塩が好ましい例として挙げることができる。
【0029】
【化1】

【0030】
式(1)においてRは水素原子、又は炭素数1から4個のアルキル基を表す。Rで表される炭素原子数1から4個のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基,iso−ブチル基、等が例示される。R,Rは各々独立に水素原子、炭素数1から12個のアルキル基を表す。炭素数1から12個のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基,iso−ブチル基、tet−ブチル基、アミル基、tet−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tet−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tet−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tet−ドデシル基などが挙げられる。
【0031】
はNa,K,Liなどのアルカリ金属原子、Mg,Ca等のアルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を表す。pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子の時は0を、Mがアルミニウム原子の時は1または2を表す。
式(1)で表されるリン酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えば、Rが水素原子、R,Rが共にtet−ブチル基のものが挙げられる。
【0032】
【化2】

【0033】
式(2)においてR,R、Rは各々独立に水素原子、炭素数1から12個のアルキル基を表す。R,R、Rで表される炭素数1から12個のアルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基,iso−ブチル基、tet−ブチル基、アミル基、tet−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tet−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tet−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tet−ドデシル基などが挙げられる。
【0034】
はNa,K,Liなどのアルカリ金属原子、Mg,Ca等のアルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を表す。pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子の時は0を、Mがアルミニウム原子の時は1または2を表す。
【0035】
式(2)で表されるリン酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えば、R、Rがメチル基、Rがtet−ブチル基のものが挙げられる。リン酸エステル金属塩の具体例としては、株式会社ADEKA製の商品名、「アデカスタブ」NA−10、NA−11、NA−21、NA−71、NA−30、NA−35等がリン酸エステル金属塩として用いることができるし、公知の方法により合成することができる。
【0036】
これらの(1)成分や(2)成分であるリン酸エステル金属塩は、ポリ乳酸成分[(A)成分と(B)成分の合計量]100重量部に対して、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.05〜0.5重量部、特に好ましくは0.05〜0.2重量部用いる。少なすぎる場合には、ステレオ化度を向上する効果が小さく、多すぎると樹脂自体を劣化させるので好ましくない。
【0037】
本発明に用いるポリ乳酸成分には、耐湿熱性改善剤として、特定官能基を有するカルボキシル基封止剤が好適に適用できる。中でも、特定官能基がカルボジイミド基であるカルボジイミド化合物がカルボキシル基を効果的に封止できるとともに、ポリ乳酸繊維構造物の色相、ステレオコンプレックス相の形成促進、耐湿熱性等の観点より好ましく選択される。
【0038】
すなわち、カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブイチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、オクチルデシルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジベンジルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−トリルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ビス(p−ニトロフェニル)カルボジイミド、ビス(p−アミノフェニル)カルボジイミド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)カルボジイミド、ビス(p−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−エチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−エチルフェニル)カルボジイミドビス(o−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(o−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)カルボジイミド、p−フェニレンビス(o−トルイルカルボジイミド)、p−フェニレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレンンビス(p−クロロフェニルカルボジイミド)、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、エチレンビス(フェニルカルボジイミド)、エチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−エチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−ブチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリブチルフェニル)カルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボシイミド、N−トリル−N’−シクロヘキシルカルボシイミド、N−トリル−N’−フェニルカルボシイミド等のモノまたはジカルボジイミド化合物が例示される。
【0039】
なかでも、反応性、安定性の観点から、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カーボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましい。またこれらのうち工業的に入手可能なジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミドの使用も好適である。また、ポリ(1,6−シクロヘキサンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(p−トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチルジソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド等が挙げられる。カルボジイミド化合物の含有量は、(A)成分と(B)成分からなるポリ乳酸組成物100重量部当たり、好ましくは0.1〜5.0重量部、さらに好ましくは0.5〜2.0重量部である。
【0040】
また、従来公知のカルボキシ末端封止剤の適用も好ましく選択される。本発明においてかかるカルボキシル基反応性の末端封止剤は、ポリ乳酸樹脂の末端カルボキシル基を封止するのみでなく、ポリ乳酸樹脂や各種添加剤の分解反応で生成するカルボキシ基や乳酸、ギ酸等の低分子化合物のカルボキシル基を封止することができる。また前記封止剤はカルボキシル基のみならず熱分解により酸性低分子化合物が生成する水酸基末端、あるいは樹脂組成物中に侵入する水分を封止できる化合物であることが好ましい。
【0041】
カルボキシ末端封止剤としては、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、イソシアネート化合物から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましく、なかでもエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物が好ましい。
【0042】
エポキシ化合物として、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリジジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、グリシジルアミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。末端カルボキシル基末端封止剤を含有することで、カルボジイミド化合物の作用を向上させることができるのみならず、紡糸性、力学特性、耐熱性、耐久性に優れた繊維を得ることができる。
【0043】
本発明のポリ乳酸組成物中、前記の剤及び後述する各種添加剤の配合方法は、開環重合法においては重合の任意の段階で、好ましくは重合後期に直接反応容器内に添加混練することもできる。ポリ乳酸組成物中の均一分散、色相悪化防止能を考慮すると、エクストルーダーやニーダーでの混練が好ましい。すなわち、反応器のポリマー吐出口を一軸、あるいは多軸のエクストルーダーに連結し、添加することもできる。また、重合後、チップ化されたポリ乳酸組成物あるいは固相重合後のポリ乳酸粉粒体に各種剤を添加、エクストルーダーやニーダーで混練する方法などが例示される。このとき、各種添加剤は、溶融液体、水溶液あるいは有機溶媒溶液あるいは分散液として直接エクストルーダーやニーダー中に計量添加するか、あるいはいわゆるサイドフィーダーよりポリ乳酸中に添加することもできる。またチップあるいは微粉状のマスターバッチとしてエクストルーダーやニーダーでポリ乳酸組成物と混練することも好ましい実施態様である。
【0044】
本発明においては、以上に説明した融点が195℃以上のステレオコンプレックスポリ乳酸からなるマルチフィラメントを経糸および緯糸に用いてなる織ネームであること、次に説明するように、経糸、緯糸が下記総繊度を有しかつ経糸が下記の実撚を有していることが肝要である。これにより、製織性、加工性が良好であり、かつアイロン掛け等で受ける熱によっても強度や風合いが損なわれない織ネームが得られる。
【0045】
本発明においては、ステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントの経糸の総繊度は20〜100dtex、緯糸の総繊度は50〜200dtexである。該マルチフィラメントの総繊度が前記の範囲を下回ると十分な物性が得られず、また逆に、該マルチフィラメントの総繊度が前記の範囲を上回ると風合いが硬化し、さらに細かいパターンを表現することが難しくなる。前記マルチフィラメントを構成する単繊維の繊度は、好ましくは1.0〜5.0dtex、より好ましくは1.0〜4.5dtex、さらに好ましくは1.5〜4.5dtexである。前記繊度が1.0dtexより細いと、繊維表面の乱反射が増加し、十分な光沢感や色合いが得られず、また逆に、該繊度が5.0dtexより太いと、風合いが硬化し薄地製品に適さなくなるため、好ましくない。
【0046】
また、本発明においては、少なくとも該経糸のステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントが、撚係数kに換算して5500〜15000の範囲の実撚が有している必要がある。前記マルチフィラメントの撚係数が5500を下回ると、製織における工程通過性が低下し、また逆に、該マルチフィラメントの撚係数が15000を上回ると、繊維表面の乱反射が増加して十分な光沢感や色合いが得られず、また強撚により物性が低下する。
撚係数k=t×√d
(ただし、tは撚数(T/m)を、dは総繊度(dtex)をそれぞれ示す。)
【0047】
本発明において、ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントの強度は、好ましくは2.5cN/dtex以上、より好ましくは3.5cN/dtex以上、さらに好ましくは3.5cN/dtex〜4.5cN/dtexである。前記フィラメントの強度が2.5cN/dtexより低いと、紡糸工程、延伸工程、製織工程での工程通過性が低くなり、また逆に、該フィラメントの強度が4.5cN/dtexより高いと風合いが硬化するおそれがあるため、好ましくない。
【0048】
本発明の織ネームは、上記のようなステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントを用いれば、従来の細巾織物の製法に従って製造することができ、織組織としては、例えば、平織、綾織、朱子織などが挙げられるが、表面に光沢感が出ることから朱子織が特に好ましい。織機としては、シャトル織機、レピア織機、ニードル織機、ジャガード織機等を用いることができる。
【0049】
本発明の織ネームにおいては、経方向の織密度が200〜500本/inchであることが好ましく、緯方向の織密度が50〜200本/inchであることがより好ましい。前織密度が前記の範囲を下回ると、密度が甘過ぎてヨレ等が発生し織物の品位が低下するおそれがあり、また逆に、織密度が前記の範囲を上回ると、風合いが硬化するだけでなく製造コストも高くなるおそれがあり、好ましくない。
【0050】
また、本発明の織ネームにおいて、緯方向の巾は、好ましくは5〜50mm、より好ましくは10〜50mm、さらに好ましくは10〜40mmである。かかる緯方向の巾が5mmより小さいと、十分な織物物性が得られない上、十分な印字スペースを確保することができず、また逆に、緯方向の巾が50mmより大きいと、巾が広過ぎ、織ネームとして用いるには裁断する必要があるため、好ましくない。
【0051】
また、本発明の織ネームにおいて、目付は、好ましくは50〜400g/m、より好ましくは100〜400g/mである。前記目付が50g/mより小さいと十分な織物物性が得られず、また逆に400g/mよりも大きいと、風合いが硬化し身体への感触が悪くなるだけでなく、製造コストも高くなるおそれがあり、好ましくない。
【0052】
さらに、本発明の織ネームにおいて、厚みは、好ましくは0.1〜0.5mm、より好ましくは0.1〜0.4mmである。前記厚みが0.1mmより小さいと十分な織物物性が得られず、また逆に0.5mmよりも大きいと、風合いが硬化し身体への感触が悪くなるだけでなく、製造コストも高くなるおそれがあり、好ましくない。
【実施例】
【0053】
次に、本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0054】
(1)重量平均分子量(Mw)
ポリマーの重量平均分子量はGPC(カラム温度40℃、クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
(2)ガラス転移点、融点、ステレオ化度
TAインストルメンツ製TA−2920示差走査熱量測定計DSCを用いた。
測定は、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温した。第一スキャンで、ホモ結晶融解温度、ステレオコンプレックス結晶融解温度を求めた。ステレオ化度は、数2により算出した。
[数2]
S(%)=[(ΔHms/ΔHms)/(ΔHmh/ΔHmh+ΔHms/ΔHms)]
(ただし、ΔHms=203.4J/g、ΔHmh=142J/g、ΔHms=ステレオコンプレックス融点の融解エンタルピー、ΔHmh=ホモ結晶の融解エンタルピー)
(3)フィラメント強伸度
JIS−L−1013に基づいて定速伸長引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
(4)沸水収縮率
JIS−L−1013−8.18.1に基づき、n数3で測定した。
(5)織物の密度(本/inch)
JIS−L−1096−8.6.1に基づいて測定した。
(6)織物の緯巾
JIS−L−1096−8.2.1に基づいて測定した。
(7)織物の目付
JIS−L−1096−8.4.2に基づいて測定した。
(8)織物の厚み
JIS−L−1096−8.5.1に基づいて測定した。
(9)アイロンに対する許容温度
JIS−L−1096−8.42に基づいて測定した。
(10)風合いのソフト性
試験者3人が官能評価により、(4級)非常にソフトである、(3級)ソフトである、(2級)普通である、(1級)硬い、の4段階に評価した。
【0055】
[製造例1](ポリL−乳酸の製造)
Lラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量のリン酸を添加し、その後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリL−乳酸を得た。得られたL−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0056】
[製造例2](ポリD−乳酸の製造)
Dラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量のリン酸を添加し、その後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリD−乳酸を得た。得られたポリD−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0057】
[製造例3](ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂の製造)
製造例1で得られたポリL−乳酸ならびに製造例2のポリD−乳酸を各50重量部と、リン酸エステル金属塩(株式会社ADEKA製「アデカスタブ」NA−11)0.1重量部を230℃で溶融混練し、水槽中にストランドを取り、チップカッターにてチップ化してステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を得た。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のMwは13.5万、融点(Tm)は217℃、ステレオ化度は100%であった。
【0058】
[製造例4](経糸用ステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントの製造)
前記製造例3で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を110℃で2時間、150℃で5時間乾燥し樹脂の水分率を80ppmとしたのち、0.27φmmの吐出孔36ホールを有する紡糸口金を用いて、紡糸温度255℃で20g/分の吐出量で紡糸した後に500m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。巻き取られた未延伸糸を延伸機にて予熱80℃で4.9倍に延伸し延伸糸を巻き取った後、180℃で熱処理を行った。紡糸工程、延伸工程での工程通過性は良好であった。さらに、この延伸糸に700T/m(撚係数約6400)の撚を施した。この撚りを施した延伸糸は、繊度84dtex/36filのマルチフィラメントであり、強度3.6cN/dtex、伸度23%、沸水収縮率6%であった。
【0059】
[製造例5](緯糸用ステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントの製造)
前記製造例3で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を110℃で2時間、150℃で5時間乾燥し樹脂の水分率を80ppmとしたのち、0.27φmmの吐出孔72ホールを有する紡糸口金を用いて、紡糸温度255℃で26g/分の吐出量で紡糸した後に500m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。巻き取られた未延伸糸を延伸機にて予熱80℃で4.6倍に延伸し延伸糸を巻き取った後、130℃で熱処理を行った。紡糸工程、延伸工程での工程通過性は良好であり、巻き取られた延伸糸は繊度110dtex/72filのマルチフィラメントであり、強度3.8cN/dtex、伸度25%、沸水収縮率7%であった。
【0060】
[製造例6](織ネームの製造)
上述したようなステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントからなる経糸に700T/m(撚係数約6400)の撚を施した後、文字用となる糸に分散染料を用いて110℃にて染色を施した。そして、細巾ジャガード織機を用いてこれらの糸を5枚朱子織に織成した。
【0061】
[実施例1]
経糸に[製造例4]で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントを用い、緯糸に[製造例5]で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントを用いて、[製造例6]に従って経糸密度325本/inch、緯糸密度90本/inch、緯巾が16mmとなるよう織ネームを作成した。その結果、目付が205g/m、厚みが0.33mmの織ネームが得られた。この織ネームは、アイロンに対する許容温度が195℃であり、さらにアイロンの熱によっても硬くならずソフトな表面タッチを有していた(風合い4級)。
【0062】
[比較例1]
ステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントからなる経糸に340T/m(撚係数約3100)の撚を施した以外は、[実施例1]と同様にして織ネームを作成した。その結果、目付が205g/m、厚みが0.33mmの織ネームが得られたが、工程通過性が低く毛羽が散見された。この織ネームは、アイロンに対する許容温度が195℃であり、さらにアイロンの熱によっても硬くならなかったが、毛羽発生のためソフトな表面タッチを有していなかった(風合い2級)。
【0063】
[比較例2]
ステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントからなる経糸に1700T/m(撚係数約15600)の撚を施した以外は、[実施例1]と同様にして織ネームを作成した。その結果、目付が205g/m、厚みが0.33mmの織ネームが得られたが、強撚により経糸に毛羽が散見された。この織ネームは、アイロンに対する許容温度が195℃であり、さらにアイロンの熱によっても硬くならなかったが、毛羽発生のためソフトな表面タッチを有していなかった(風合い2級)。
【0064】
[比較例3]
経糸、緯糸、柄糸に、[製造例1]のより製造したポリL−乳酸を用い、[製造例4]に従って製糸したポリL−乳酸のみからなるポリ乳酸フィラメントを用いた以外は、[製造例1]と同様にして織ネームを作成した。その結果、目付が205g/m、厚みが0.33mmの織ネームが得られた。この織ネームは、アイロンに対する許容温度が155℃であり、さらにアイロンの熱によって織物表面が硬化してしまった(風合い1級)。
なお、使用したポリ乳酸マルチフィラメントの繊度、フィラメント数などは、実施例1と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の織ネームは、既存のポリアミドや芳香族ポリエステルからなる織ネームと同等の製織性及び加工性を有しており、かつアイロン掛け等で受ける熱によっても強度や風合いが損なわれないため、高い実用性を備えたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸および緯糸がマルチフィラメントからなる織ネームであって、該マルチフィラメントが、DSC測定による融点が195℃以上のステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントであり、経糸の総繊度が20〜100dtex、緯糸の総繊度が50〜200dtexであり、少なくとも経糸に撚係数kに換算して5500〜15000の実撚を有していることを特徴とする織ネーム。
撚係数k=t×√d
(ただし、tは撚数(T/m)、dは総繊度(dtex)をそれぞれ表す。)
【請求項2】
ステレオコンプレックスポリ乳酸マルチフィラメントが、(i)重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸[(A)成分]、(ii)重量平均分子量5万〜30万のポリD−乳酸[(B)成分]および(iii)(A)成分と(B)成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)で表わされるリン酸エステル金属塩および/または下記式(2)で表されるリン酸エステル金属塩を含有するフィラメントである、請求項1に記載の織ネーム。
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qは、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子の時は0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。)
【化2】

(式中、R、R及びRは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qは、Mがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子または亜鉛原子の時は0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。)
【請求項3】
ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントの強度が2.5cN/dtex以上である、請求項1または2に記載の織ネーム。
【請求項4】
経方向の織密度が200〜500本/inchであり、緯方向の織密度が50〜200本/inchである、請求項1〜3のいずれかに記載の織ネーム。
【請求項5】
緯方向の巾が5〜50mmである、請求項1〜4のいずれかに記載の織ネーム。
【請求項6】
目付が50〜400g/mである、請求項1〜5のいずれかに記載の織ネーム。
【請求項7】
厚みが0.10〜0.50mmである、請求項1〜6のいずれかに記載の織ネーム。

【公開番号】特開2011−74527(P2011−74527A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227059(P2009−227059)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】