説明

織布の加熱処理方法

【課題】縦糸方向の伸びが横糸方向の伸びより大きい織布において、加熱処理を施しても縦糸方向の伸縮性を確保した仕上げとする。
【解決手段】走行するテンター10の入口側に縦糸方向へ移動する織布Wbをテンター走行速度より早い速度となるオーバーフィードの状態で供給して、波うち状態で織布Wbの両耳端側をテンター10に保持させ、続けてテンター10で保持した状態の織布を加熱室11a内へ通過させる。織布Wbが縦糸方向に熱収縮性を有し、オーバーフィードの量を、織布Wbが加熱室11a内を通過する間に生じる熱収縮で波うち状態を無くして平坦となる値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦糸の伸びが横糸の伸びより大きい織布を加熱処理する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
織布は、織成後の加熱処理(例えば、織布に薬剤を含浸して乾燥・熱処理)を含む後加工の工程中に、織布搬送方向である織布の長手方向に張力を受けることが多い。そのため、織布は、その縦糸に伸縮性糸を用いると、後加工中に受ける引張で縦方向に伸長され、伸長状態のまま加熱処理でヒートセットされた加工織布となり、長手方向に所要の伸縮性を維持する加工織布にはならない。そこで、従来は、縦糸に非伸縮性糸を用いると共に伸縮性糸を横糸に用いて後加工の工程中の引張力が伸縮性糸の負荷になることを回避することで、ヒートセットした加工織布の伸長(幅方向の伸縮)特性を確保するようにしている。
【0003】
ところで、加工織布の用途には、織布の伸縮(幅方向の伸縮)方向が用途の長手方向と合致するものがある。この場合、織布の幅寸法が用途の長手方向の寸法より短い場合には、加工織布を幅方向に沿って裁断して短冊状織布とし、複数枚の短冊状織布の短辺どうしを縫合又は重ね合わせる等して接合して長尺寸法としていた。例えば、歯付きベルトの噛合面及び非噛合面を形成する積層材として用いる場合には、縦糸に非伸縮性糸を用いると共に伸縮性糸を横糸に用いた織布に、レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス(以後、「RFL」と言う)等の薬剤を含浸し、乾燥・熱処理を施して加工織布とし、この加工織布を裁断して得た短冊状織布の短辺どうしを接合又は重ね合わせてベルトの走行方向に沿う長尺寸法としていた。しかし、短冊状織布の短辺どうしを接合又は重ね合わせたものは、接合箇所で伸び特性が急激に変化する可能性があるため、短冊状織布を用いた製品の品質維持を図るために、その製品の製造工程において特別の工夫が必要となる問題がある。また、加工織布を裁断して得た短冊状織布の長手寸法が歯付きベルトの所定寸法より長いときには、短冊状織布を所定寸法に切断して生じた短い残りの部分を廃棄することがあり、無駄部分を生じていた。
【0004】
上記問題を解決するために、特許文献1には、伸縮性の縦糸を用いた歯付きベルト用織布が開示されている。この織布は、伸縮性縦糸を用いた伸縮性織布に、織成後の後加工において伸縮性縦糸と同程度の熱収縮性を有する非伸縮性縦糸を用いた非伸縮性部分を少なくとも1条、縞状に織り込んで一体に織成したものであり、歯付きベルトの積層材として用いる場合には、非伸縮性部分を切除して残る伸縮性部分をベルト用とする。
【特許文献1】特開2003−269542公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている織布は、伸縮性部分及び非伸縮性部分の両部分にバランスよく薬剤を含浸させて乾燥・熱処理を施すことが難しく、また、非伸縮性部分を切除して伸縮性部分のみ使用するときには、非伸縮性部分を切除することで無駄が生じる新たな問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明は、非伸縮性縦糸を用いずに伸縮性縦糸で織成した縦糸方向の伸びが横糸方向の伸びより大きい織布に、縦糸方向の伸縮性を確保した仕上がりとなる加熱処理方法の提供を目的する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
縦糸方向の伸縮性を確保した仕上がりとするために請求項1記載の本発明が採用した手段は、縦糸方向の伸びが横糸方向の伸びより大きい織布を加熱処理する方法において、走行するテンターの入口側に縦糸方向へ移動する前記織布を、テンター走行速度より早い速度となるオーバーフィードの状態で供給して、縦糸方向へ波うち状態となるようにして織布の両耳端側をテンターに保持させ、続けてテンターで保持した状態の織布を加熱室内へ通過させて加熱処理することを特徴とする織布の加熱処理方法である。なお、加熱室内を通過中の織布が自重で撓んで大きな引っ張り力が生じることがないように、加熱室内を通過中の織布の両面に熱風で吹き付けて、織布を自重で撓ませない浮揚状態で支持することがある。
【0008】
RFLを含浸させた縦糸方向に伸縮性のある駆動ベルト用織布を得るために請求項2記載の本発明が採用した手段は、前記織布が目付50〜500(好ましくは、75〜450)g/m2の歯付きベルト等の駆動ベルト用であり、前記テンターの入口側に供給する前に、織布にレゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックスを含む液状薬剤を含浸させ、前記加熱室内を通過する間に、薬剤を乾燥させる請求項1記載の織布の加熱処理方法である。
【0009】
熱収縮する織布を平坦な仕上がりとするために請求項3記載の本発明が採用した手段は、前記織布が縦糸方向に熱収縮性を有し、前記オーバーフィードの量を、前記織布が加熱室内を通過する間に生じる熱収縮で前記波うち状態を無くして平坦となる値とした請求項1又は2記載の織布の加熱処理方法である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の本発明は、走行するテンターの入口側にオーバーフィードの状態で供給した織布を、テンターに波うち状態に保持させることで、波うつ山部分に布自重による圧縮力を作用させ、加熱室内において圧縮状態で加熱処理できるため、伸縮性の大きい縦糸方向へ加わる引張力を弱く又は無くした状態で、加熱室内を通過させて加熱処理できる。その結果、本発明は、伸縮性の大きい縦糸方向へ引っ張らない状態で加熱処理して、縦糸方向の伸縮性を確保した織布の仕上がりとすることができる。なお、織布が縦糸方向に熱収縮性を有する場合には、織布の波うつ山部分が、加熱室内を通過する間に生じる熱収縮でその高さを低くして熱収縮代を吸収するので、熱収縮による縦糸方向の引張りを生じさせないようにできる。
【0011】
請求項2記載の本発明は、レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックスを含浸乾燥させて縦方向の伸縮性を確保した駆動ベルト用織布を得ることができる。
【0012】
請求項3記載の本発明は、熱収縮する、加熱室内を通過する間に縦糸方向へ熱収縮する織布の収縮寸法分だけ、予めオーバーフィードで供給してあるため、熱収縮に起因する引張力を織布に生じさせることなく、平坦で伸縮性のある織布に仕上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る縦糸方向へ伸縮する織布の加熱処理方法(以下、「本発明織布熱処理方法」という。)を図面に示す実施形態に基づいて説明する。図1乃至図3は本発明織布熱処理方法の実施の形態を示すものであり、図1は含浸・加熱処理装置を用いて織布に液状薬剤を含浸し、続けて加熱処理している状態を示すものであり、同図(A)は側面図、同図(B)は平面図である。図2は織布の側面状態を示すものであり、同図(A)はテンターに保持されて加熱室内の乾燥ゾーンを通過中の波うち状態を示し、同図(B)はテンター(図示略)に保持されて加熱室内の加熱処理ゾーンを通過中の波うち状態(波の山は図(A)に比べて低くなっている)を示し、同図(C)はテンター(図示略)に保持されて加熱室内の熱処理ゾーンの出口側を通過中の平坦な状態を示すものである。図3は、テンターに波うち状態に保持された織布に生じる力関係を説明するための拡大した側面図である。
【0014】
先ず、本発明織布熱処理方法を実施するための含浸・加熱処理装置を説明する。含浸・加熱処理装置1は、図1に示す如く、処理前の織布Wbの進行方向(矢符A方向)の上流側から下流側へ向かって順に、出し入れ自在な織布搬入台車15、振り上げ装置2、供給装置3、定張力装置4、含浸装置5、定張力装置6、布目矯正装置7、オーバーフィード装置8、ピンニング装置9、テンター10付き加熱処理装置11、冷却装置12、アキュームレータ装置13、引出し装置14及び出し入れ自在な巻取り装置16が配置されている。
【0015】
前記織布搬入台車15は、前工程において台車内部に振り落とされた織布Wbを収納し、所定の振り上げ作業位置へ搬送されて停止するようなっている。前記振り上げ装置2は、織布搬入台車15から振り上げた織布Wbを案内するガイドロール2a,2b等から構成され、織布搬入台車15から供給装置3へ織布Wbを導くようにしてある。なお、織布Wbが前工程から巻上げられた状態で供給される場合には、巻上げ台車(図示略)を所定の巻き出し作業位置に停止させるとよい。このとき、振り上げ装置2を省略して、巻き出した織布Wbを後述する供給装置3へ導くようにするとよい。
【0016】
前記供給装置3は、駆動装置M1で駆動する駆動ロール3a,3bから構成され、駆動ロール3a,3bに巻き掛けた織布Wbを下流側へ供給するようにしてある。前記定張力装置4は、ダンサーロール4aとダンサーロール4aの位置を検知する検知器4bとを備え、ダンサーロール4aに走行する織布Wbを巻き掛けて、織布Wbに設定張力(縦糸方向へ織布を伸ばさない低い張力)を付与するようにしてある。定張力装置4は、検知器4bの検知信号を前記供給装置3の駆動装置M1又は後述する含浸装置5の駆動装置M2へ出力して、ダンサーロール4aが所定位置(一般には、移動する両端位置の中間位置)へ移動して停止するように駆動装置M1又は駆動装置M2の速度を増減制御するようにしてある。
【0017】
前記含浸装置5は、薬剤液槽5aと、浸漬ロール5bと、マングルロール(絞りロール)5c,5dとを備えて、マングルロール5cを駆動装置M2で駆動するようにしてある。含浸装置5は、薬剤液槽5aに浸漬して薬剤を含んだ織布Wbをマングルロール5c,5dで絞り、余分な薬剤を除去して所定量の薬剤を含浸させるようにしてある。
【0018】
前記定張力装置6は、ダンサーロールから構成され、下流側の布目矯正装置7へ進入させる織布Wbに一定の張力を付与するようにしてある。前記布目矯正装置7は、織布Wbの縦糸と横糸を直交又は一定角度で交差させるものであり、本体7aと出口ローラ7b等を備えた公知のものが適宜選択される。なお、布目矯正を必要としない織布Wbの場合には、定張力装置6及び/又は布目矯正装置7を省略する。
【0019】
前記オーバーフィード装置8は、駆動装置M3で駆動するフィードローラ8aから構成され、フィードローラ8aに巻き掛けた織布Wbを、後述するテンター10の走行速度より早い速度となるオーバーフィードの状態でテンター10の入口へ供給するようにしてある。フィードローラ8aは、織布Wbとの間で滑りを生じさせないように、ローラ表面に仕上げてある。前記ピンニング装置9は、回転する左右一対のブラシ等からなり、オーバーフィードの状態で供給された織布Wbの左右両耳端をテンター10のピン17a(図2参照)へ突き刺すように構成してある。織布Wbのオーバーフィード量(以下、「OF」という)は、OF=織布Wbの供給速度÷テンター10の走行速度×100−100(%)で表現したとき、例えば、OF=1〜100%とする。
【0020】
前記テンター10は、前後のチエーンスプロケットに張架した左右のエンドレスチエーン10a,10bの一対を備え、各エンドレスチエーン10a,10bに、前記ピン17a(図2参照)を植付けたピンシート17を取付けてある。左右一対のエンドレスチエーン10a,10bは、駆動装置M4で同期状態に駆動してある。各エンドレスチエーン10a,10bは、入口側のチエーンスプロケット10c,10dを入口側の各エンドレスチエーン10a,10bと共に左右へ移動調節して、織布Wbの耳端へピンを正確に突き刺せるようにしている。テンター10の駆動装置M4と、テンター10より上流側の前記オーバーフィード装置8の駆動装置M3,前記含浸装置5の駆動装置M2及び前記供給装置3の駆動装置M1は、前記設定したオーバーフィードの状態を得るように速度制御してある。
【0021】
前記加熱処理装置11は、テンター10で両耳端側を保持した織布Wbを加熱して、含浸した薬剤を乾燥させると共に、織布Wbを所定温度まで昇温させて加熱処理(ヒートセット)するように構成してある。加熱処理装置11は、加熱室11a内を通過中の織布Wbが自重で撓んで大きな引っ張り力を生じさせにないように、通過中の織布Wbの両面に熱風用ノズルから吹き出した熱風を吹き付けて、織布Wbを自重で撓ませない浮揚(フローティング)状態で支持する方式とするのが好ましい。また、加熱処理装置11は、加熱を促進させるために、赤外線式加熱具を併用して加熱することもある。加熱処理装置11は、前記含浸装置5で薬剤を含浸させた織布Wbを処理するときには、前半部が乾燥ゾーンとなり、後半部が加熱処理(ヒートセット)ゾーンとなり、薬剤を含浸させない織布Wbを処理するときには、前半部が昇温ゾーンとなり、後半部が加熱処理(ヒートセット)ゾーンとなる。
【0022】
前記冷却装置12は、駆動装置M4で駆動する冷却ロール12a,12b等で構成され、処理後の織布Waを巻き掛けて冷却するようになっている。冷却ロール12a,12bは、ロール内を通過する冷媒(例えば、冷却水)で冷却するようにしてある。なお、冷却方式は、冷却ロールを用いる以外に、冷風を織布Waの表面に吹き付けて冷却する方式(図示略)であってもよい。
【0023】
前記アキュームレータ装置13は、冷却装置12から送り出されてくる処理後の織布Waを貯えるための上下移動するダンサーロールを備え、後述する満杯に巻き上げた巻取り装置16を空の巻取り装置16と交換するために後述する引出し装置14を停止させても、冷却装置12より上流側の連続運転を確保するようにしてある。
【0024】
前記引出し装置14は、アキュームレータ装置13から巻取り装置16へ織布Waを供給するためのニップロールを駆動装置M5で駆動して構成してある。巻取り装置16は、台車16aに交換可能に取付けられ、駆動装置M6で駆動する巻芯16bに織布Waを巻き付けてように構成してある。巻取り装置16は、巻上げをよくするために、揺動自在なタッチロール16cを備えてある。
【0025】
前述の如く含浸・加熱処理装置1は、前記駆動装置M1〜M6を独立させたセクショナルドライブ方式であるが、これに限定するものではなく図示は省略したが、一台の駆動モータと、該駆動モータの出力を受けるようにして織布進行方向(矢符A方向)に沿って延びる駆動用ラインシャフトと、適所に配置した変速機及び減速機とで構成するラインシャフト方式とすることも勿論可能である。
【0026】
次に、前記含浸・加熱処理装置1を用いた本発明織布熱処理方法の実施の形態を、織布Waに歯付きベルト等の駆動ベルト用織布を用いた場合について説明する。
【0027】
原反である駆動ベルト用織布Wbは、縦糸と横糸からなり、縦糸には綿繊維、化学繊維(例えば、6ナイロン,66ナイロン,ポリエステル,アラミッド等)、綿繊維と化学繊維との混紡糸(例えば、綿−6ナイロン,綿−66ナイロン,綿−ポリエステル,綿−アラミッド等)等のスパン糸又はフィラメント糸に、必要本数のウーリー糸又はポリウレタン弾性糸を合糸又は撚糸したものが用いられ、横糸には上記スパン糸又はフィラメントが用いられ、縦糸方向の伸びが横糸方向の伸びより大きくなるように織成したものである。駆動ベルト用織布Wbは、ベルトの種類に応じて、目付が50〜500(好ましくは、75〜450)g/m2のものが選択される。駆動ベルト用織布Wbは、前記含浸・加熱処理装置1で仕上げられて含浸・熱処理済みの駆動ベルト用織布Waとなり、ラップドVベルト,ローエッジVベルト,Vリブドベルト,歯付きベルト等の伝動ベルトの長手方向に、ベルト用織布の縦糸が合致するように使用される。
【0028】
原反である駆動ベルト用織布Wbは、検反を含めた解反を行い、一昼夜以上放置して解撚効果による本来の伸縮性を得るようにしている。このようにした駆動ベルト用織布Wbは、伸縮性を保持するように織布搬入台車15で供給され、振り上げ装置2、供給装置3及び定張力装置4を通過して含浸装置5へ導かれる。駆動ベルト用織布Wbは、含浸装置5を通過する間に、RFLを含む液状薬剤が含浸される。含浸装置5を出た駆動ベルト用織布Wbは、定張力装置6及び布目矯正装置7を通過し、オーバーフィード装置8によりテンター走行速度より早い速度となるオーバーフィードの状態でテンター10の入口へ供給され、左右両耳端がテンター10のピンにピンニング装置9で突き刺さされ、波うち状態で両耳端側をテンター10に保持した状態で搬送される。駆動ベルト用織布Wbは、定張力装置4及び定張力装置6により縦糸方向の張力が極力低張力値に制御され、その伸縮性を保持しつつ含浸装置5及び布目矯正装置7を通過することができる。
【0029】
駆動ベルト用織布Wbのオーバーフィード量(OF)は、織布Wbが加熱室11a内の加熱処理ゾーンを通過中に熱収縮することを考慮し、この加熱処理ゾーンの出口側を通過する織布Waが波うつことなく平坦なものとなるように決定される。例えば、駆動ベルト用織布Wbが加熱室11a内の加熱処理ゾーンの出口側を通過するときに、縦糸方向に沿って単位長さ当たりY%だけ熱収縮しているとき、前記オーバーフィード量(OF)は、OF=100÷(100−Y)×100(%)となる。織布Wbが平坦な状態で熱収縮する割合Yは、予め試験して求めておくとよい。
【0030】
前記テンター10で保持されて加熱処理装置11の加熱室11a内を通過する駆動ベルト用織布Wbは、図3(A)に示す如く、テンター10に保持された波うち状態(山部と谷部とが交互に連なる状態)で加熱室11a内へ入り、織布Wbに含浸しているRFLを含む液状薬剤の乾燥が進行する。乾燥中の織布Wbは、加熱室11a内の乾燥ゾーンを通過中に高温度(例えば、120〜140℃)で加熱されても、加熱温度よりも低い湿球温度(例えば、40〜50℃)以上に昇温しないため、熱収縮することなく波うち状態を維持する。波うち状態の織布Wbは、図3に示す如く、波うつ山部分に布自重による圧縮力P1を作用させ、加熱室11a内において圧縮状態で乾燥処理できるため、伸縮性の大きい縦糸方向へ加わる引張力を弱く又は無くした状態で、乾燥ゾーンを通過する間に乾燥できる。乾燥が終了した織布Wbは、乾燥ゾーンに続く熱処理ゾーンを通過中に更に高温度(例えば、150〜180℃)で加熱されて昇温し、図2(B)に示す如く、熱収縮が進行しつつ波うつ山部分の山が低くなって行き、熱処理ゾーンの出口(加熱室11aの出口)に近い箇所では、同図(B)に示す如く波うつ山部分の山が無くなり平坦な状態の仕上げ駆動ベルト用織布Waとなる。
【0031】
前記熱処理ゾーンを通過中の織布Wbは、熱処理ゾーンを通過する間に縦糸方向へ熱収縮する織布の収縮寸法分だけオーバーフィードの状態で供給されているので、熱処理ゾーン通過中は波うち状態の山部分の高さが次第に低くなって最後に平坦な仕上げ状態の駆動ベルト用織布Waとなるため、熱収縮に起因する引張力を織布に生じさせることなく加熱処理(ヒートセット)でき、伸縮性のある平坦な仕上げとなり、更に、過剰な加熱処理を受けることがないため、過剰加熱処理に伴う織布の伸縮性を損なうこともない。
【0032】
続けて、冷却装置12を通過することで冷却され、熱処理状態が固定されてRFLを含浸乾燥させて縦方向の伸縮性を確保した歯付きベルト用織布Waとなり、次に、アキュームレータ装置13及び引出し装置14を通過して巻取り装置16で巻きあげられる。
【0033】
(その他の実施の形態)
前記含浸・加熱処理装置1を用いた本発明織布熱処理方法は、処理対象となる織布として前記歯付きベルト等の駆動ベルト用織布に限定するみのではなく、縦糸方向の伸びが横糸方向の伸びより大きいその他の織布にも適用できる。この場合には、含液状薬剤を含浸させていない織布Wbを、波うち状態(図2(A)(B)参照)で加熱処理装置11の昇温ゾーン及び加熱処理(ヒートセット)ゾーンを通過させて熱処理し、伸縮性のある平坦な仕上げ(図2(C)参照)とする。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明織布熱処理方法の実施の形態を示すものであって、含浸・加熱処理装置を用いて織布に液状薬剤を含浸させた後に加熱処理している状態を示すものであり、同図(A)は側面図、同図(B)は平面図である。
【図2】織布の側面状態を示すものであり、同図(A)はテンターに保持されて加熱室内の乾燥ゾーンを通過中の波うち状態を示し、同図(B)はテンター(図示略)に保持されて加熱室内の加熱処理ゾーンを通過中の波うち状態(波の山は図(A)に比べて低くなっている)を示し、同図(C)はテンター(図示略)に保持されて加熱室内の熱処理ゾーンの出口側を通過中の平坦な状態を示すものである。
【図3】テンターに波うち状態に保持された織布に生じる力関係を説明するための拡大した側面図である。
【符号の説明】
【0035】
5…含浸装置、8…オーバーフィード装置、10…テンター、11…加熱処理装置、12…冷却装置、Wb…処理前の織布、Wa…仕上げた織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦糸方向の伸びが横糸方向の伸びより大きい織布を加熱処理する方法において、走行するテンターの入口側に縦糸方向へ移動する前記織布を、テンター走行速度より早い速度となるオーバーフィードの状態で供給して、縦糸方向へ波うち状態となるようにして織布の両耳端側をテンターに保持させ、続けてテンターで保持した状態の織布を加熱室内へ通過させて加熱処理することを特徴とする織布の加熱処理方法。
【請求項2】
前記織布が目付50〜500(好ましくは、75〜450)g/m2の歯付きベルト等の駆動ベルト用であり、前記テンターの入口側に供給する前に、織布にレゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックスを含む液状薬剤を含浸させ、前記加熱室内を通過する間に、薬剤を乾燥させる請求項1記載の織布の加熱処理方法。
【請求項3】
前記織布が縦糸方向に熱収縮性を有し、前記オーバーフィードの量を、前記織布が加熱室内を通過する間に生じる熱収縮で前記波うち状態を無くして平坦となる値とした請求項1又は2記載の織布の加熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−312792(P2006−312792A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135914(P2005−135914)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(501270287)エヌアイ帝人商事株式会社 (10)
【出願人】(505167864)有限会社ヤマニシ (1)
【Fターム(参考)】