説明

織布地及び磁場発生体

【課題】高い導電性能が得られ、さらには滅菌効果をも得ることができる織布地及びその織布地を用いる磁場発生体を提供する。
【解決手段】経糸11及び緯糸12の少なくとも一方に含まれ、直線状の芯糸102aとその芯糸102aの周囲に螺旋状に巻かれた繊維状銅線102bとを備える交撚カバー糸102を有する織布地。交撚カバー糸102は、前記芯糸102aの周囲に螺旋状に巻かれた糸材をさらに備えることが好ましい。また前記芯糸102aは、緑青の隠蔽色であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、織布地及び磁場発生体に関する。
【背景技術】
【0002】
吸水性繊維と導電性繊維とを組み合わせた織物が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−100121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の導電性繊維は、繊維中に炭素を混入するものであったので、製造コストがかかる。また炭素が不連続であるので、必ずしも高い導電性能は得られない。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、高い導電性能が得られ、さらには滅菌効果をも得ることができる織布地及びその織布地を用いる磁場発生体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0007】
本発明の織布地は、経糸(11)及び緯糸(12)の少なくとも一方に含まれ、直線状の芯糸(102a)とその芯糸(102a)の周囲に螺旋状に巻かれた繊維状銅線(102b)とを備える交撚カバー糸(102)を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、繊維状銅線が芯糸の周囲に螺旋状に巻かれた交撚カバー糸が、経糸及び緯糸の少なくとも一方に使用されるので、高い導電性能が得られる。また滅菌効果も高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による織布地の第1実施形態を示す拡大図である。
【図2】銅線の殺菌試験の結果を示す図である。
【図3】試料線材における銅イオンの溶出量及び残留抵抗比の測定結果を示す図である。
【図4】加工率を変えたときの銅イオンの溶出量の測定結果を示す図である。
【図5】加工率を変えたときの残留抵抗比の測定結果を示す図である。
【図6】加工率を変えたときの殺菌試験の結果を示す図である。
【図7】織布地に対する抗菌布試験(JIS L 1902)の結果を示す図である。
【図8】第1実施形態の織布地を利用した磁場発生体を示す図である。
【図9】本発明による織布地の第2実施形態に使用する交撚カバー糸を示す図である。
【図10】本発明による織布地の第2実施形態を示す拡大図である。
【図11】本発明による織布地の他の実施形態を示す拡大図である。
【図12】本発明による織布地の変形形態に使用する交撚カバー糸を示す拡大図である。
【図13】本発明による織布地の変形形態を示す組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では図面等を参照して本発明を実施するための形態について、さらに詳しく説明する。
(第1実施形態)
<織布地の構造>
図1は、本発明による織布地の第1実施形態を示す拡大図である。
【0011】
なお図1は、発明の要旨が判りやすくなるようにデフォルメされている。経糸11及び緯糸12の太さ、ピッチ(間隔)などは必ずしも正確な寸法比率を示すものではない。
【0012】
織布地10は、経糸11と緯糸12とで平織りされた布地である。
【0013】
経糸11は、通常糸101と、交撚カバー糸102と、を含む。本実施形態では、経糸11には、通常糸101と、交撚カバー糸102と、が交互に並ぶ。
【0014】
通常糸101は、繊維素材が束ねられた糸材である。通常糸101の色は、白を含む任意の色である。繊維素材については、天然繊維(綿,麻,絹,毛糸など)や人造繊維(キュプラ,ポリプロピレン,ナイロン,アクリル,アセテート,トリアセテート,ビニリデン,レーヨン,ポリエチレン,ガラス,炭素繊維,テトロン(登録商標)などのポリエステル繊維,テビロン(登録商標)などのポリ塩化ビニル繊維など)が例示される。
【0015】
交撚カバー糸102は、芯糸102aと、繊維状銅線102bと、を含む。異なる繊維状素材を揃えて撚糸することを交撚と言うが、本実施形態では、単に交撚するのではなく、繊維状銅線102bが芯糸102aの周囲に巻かれて、芯糸102aをカバーしているので、交撚カバー糸と称す。
【0016】
芯糸102aは、繊維素材が束ねられた糸材である。芯糸102aは、緑青を隠蔽可能な色に着色される。緑青を隠蔽可能な色とは、たとえば、黒、黒ネズ、灰、黒紺、紺、茄子紺、藍、紫、青紫、赤紫、赤、藤、群青、青緑、緑、黒緑、黄緑、深緑、茶、焦茶、黒茶などの色である。芯糸102aの太さを例示すると75D(デニール)である。なおD(デニール)とは、9000m当りのグラム数であり、75D(デニール)とは、9000m当り75グラムの糸である。
【0017】
繊維状銅線102bは、芯糸102aの周りに螺旋状に巻かれている。なお本実施形態では、1条の繊維状銅線102bが螺旋状に巻かれている。繊維状銅線102bは、たとえば線径30μmの線材である。繊維状銅線102bは、冷間線引き加工されるが冷間加工後に熱処理されない線材である。このような銅線の特性については後述する。
【0018】
緯糸12も基本構造は経糸11と同様である。すなわち緯糸12は、通常糸101と、交撚カバー糸102と、を含む。特に本実施形態では、緯糸12には、通常糸101と、交撚カバー糸102と、が交互に並ぶ。通常糸101は、繊維素材が束ねられた糸材である。通常糸101の色は、白を含む任意の色である。交撚カバー糸102は、芯糸102aの周りに1条の繊維状銅線102bが螺旋状に巻かれた糸である。
【0019】
<織布地に使用する銅線の特性>
[第1試験]
上述のように、繊維状銅線102bは、冷間線引き加工されるが冷間加工後に熱処理されない線材である。このような銅線は、殺菌効果が高い。これについて説明する。
【0020】
試料線材を黄色ブドウ球菌の試験菌液に浸漬したときの黄色ブドウ球菌の生菌数の時間変化を測定することで殺菌試験を行った。
【0021】
図2は、銅線の殺菌試験の結果を示す図である。
【0022】
試料線材30Nは、線径30μmの一般市販の電気用軟銅線(JIS C3102)である。以下ではこの線材を市販線材30Nと称する。
【0023】
試料線材30Aは、線径900μmの電気用軟銅線(JIS C3102)を線径30μmまで冷間線引き加工した後、窒素雰囲気中にて300℃で30分間熱処理し、その後室温まで自然冷却という通常通り冷間加工した線材である。以下ではこの線材を通常冷間加工線材30Aと称する。
【0024】
試料線材30Cは、線径900μmの電気用軟銅線(JIS C3102)を線径30μmまで冷間線引き加工されるが冷間加工後に熱処理されない線材である。以下ではこの線材を冷間後熱処理なし線材30Cと称する。
【0025】
市販線材30N、通常冷間加工線材30A及び冷間後熱処理なし線材30Cを、2gずつ黄色ブドウ球菌の試験菌液に浸漬したときの黄色ブドウ球菌の生菌数の時間変化を測定した。なお各線材のサンプルは2個である。また比較試料として、試験菌液に何も浸漬しない場合の生菌数の時間変化も測定した。
【0026】
すると図2に示すように、24時間後に、市販線材30Nでは、生菌数は1000分の1程度になった。また通常冷間加工線材30Aでは、生菌数は10000分の1程度になった。これに対して、冷間後熱処理なし線材30Cでは、生菌数はほぼゼロになった。このように、冷間後熱処理なし線材30Cは、他の線材と比較して殺菌効果が大きかった。
【0027】
図3は、試料線材における銅イオンの溶出量及び残留抵抗比の測定結果を示す図である。
【0028】
銅の殺菌効果は、銅イオンの溶出によると考えられる。また殺菌効果は、銅イオン溶出量(銅イオン濃度)によって殺菌効果が大小すると考えられる。そこで市販線材30N、通常冷間加工線材30A及び冷間後熱処理なし線材30Cを、15℃の超純水中に浸漬して24時間放置し、溶液10mLを採取する。そして15mol/L HNO30.1mLを加えることで、溶出した銅をCu2+として固定する。そして原子吸光法によって銅イオンの溶出量を測定すると図3(A)のようになった。殺菌効果の大きい冷間後熱処理なし線材30Cは、銅イオン溶出量が大きいことが判る。
【0029】
銅素材から銅イオンが水中へ溶出する速度は、銅表面及び表面直下近傍に存在する微細ステップ並びに金属結晶の格子欠陥量に影響されると考えられる。これらが存在するほど、銅原子の酸化還元電位差が大きくなり、銅素材から銅イオンが水中へ溶出しやすくなると考えられるからである。
【0030】
格子欠陥やステップの存在割合を直接測定することは困難であるが、電気抵抗から推定できる。すなわち一般に金属導電体の電気抵抗は、原子の熱振動、格子欠陥(転位)、不純物、の3要素に起因する。常温では電気抵抗は、ほとんど原子の熱振動に起因する。これに対して、絶対零度付近では原子の熱振動がゼロに近づくので、絶対零度付近での電気抵抗は格子欠陥及び不純物に起因すると考えられる。試料は不純物が非常に少ない純金属であるので、絶対零度付近での電気抵抗は格子欠陥によるものであると考えられる。したがって絶対零度付近で残留している電気抵抗に基づいて格子欠陥を推定できる。
【0031】
そこで次式(1)のように、常温(293K)での電気抵抗R293と絶対零度(0K)での残留電気抵抗R0との比である残留抵抗比RRR(Residual Resistivity Ratio)に基づいて、格子欠陥の多少を推定する。
【0032】
【数1】

【0033】
ただし絶対零度での残留電気抵抗R0を実測することは不可能である。そこで発熱の影響が小さくするために、冷凍機の能力(1.8W at 20K)よりも試料の発熱が十分小さい2×10-5W以下の微弱電流で徐冷する。そして室温(293K)から10Kまで除冷して直流4端子法にて測定し、25K以下のデータを次式(2)で近似してフィットし外挿値として残留電気抵抗R0を求めた。
【0034】
【数2】

【0035】
また電気抵抗R293は、273K以上のデータを次式(3)で近似してフィットし求めた。
【0036】
【数3】

【0037】
残留抵抗比RRRの測定結果を示すと図3(B)のようになった。市販線材30Nの残留抵抗比RRRは、80であった。通常冷間加工線材30Aの残留抵抗比RRRは、107であった。これらに対して冷間後熱処理なし線材30Cの残留抵抗比RRRは、29と小さかった。通常冷間加工線材30Aの電気抵抗比RRRの値が大きいのは、熱処理によって加工歪が解放されたためと推定される。殺菌効果の高い冷間後熱処理なし線材30Cは、残留抵抗比RRRが小さい、すなわち残留電気抵抗R0が大きいことが判る。この結果から冷間後熱処理なし線材30Cには、多くの格子欠陥が存在していると推定される。
【0038】
[第2試験]
次に加工率を変えたときの特性を測定する。
【0039】
一般市販の線径160μmの電気用軟銅線(JIS C3102)を、伸線機にて線径140,120,100,80,65μmに冷間線引き加工するが冷間加工後に熱処理しないで線材を形成した。160Nは、線径160μmの一般市販電気用軟銅線である。140C,120C,100C,80C,65Cは、それぞれ線径140,120,100,80,65μmの冷間後熱処理なし線材である。
【0040】
図4は、加工率を変えたときの銅イオンの溶出量の測定結果を示す図である。
【0041】
最初に、加工率を変えて15℃の超純水中に浸漬して24時間放置したときの銅イオン溶出量を測定した。各線材の表面積は、0.00284m2の一定で試験した。すると図4(A)のようになった。これを加工率ごとにプロットすると図4(B)のようになった。図4(A)及び図4(B)から、加工率が大きくなるほど、銅イオンの溶出量が大きいことが判る。特に、加工率6.1の冷間後熱処理なし線材65Cにおける銅イオンの溶出量は、線材160Nの約1.5倍となった。
【0042】
図5は、加工率を変えたときの残留抵抗比の測定結果を示す図である。
【0043】
次に加工率を変えたときの残留抵抗比RRRを測定した。すると図5(A)のようになった。これを加工率ごとにプロットすると図5(B)のようになった。図5(A)及び図5(B)から、加工率が大きくなるほど、残留抵抗比RRRは小さくなることが判る。このことから、加工率が大きいほど、より多くの格子欠陥が存在していると推定される。
【0044】
図6は、加工率を変えたときの殺菌試験の結果を示す図である。
【0045】
さらに加工率を変えて殺菌試験を行った。殺菌試験は、表面積が0.00284m2一定の試料線材を、黄色ブドウ球菌の試験菌液に浸漬し、24時間後の試験菌液単位体積当たりの黄色ブドウ球菌の生菌数を測定することで行った。なお、各線材でサンプルを2個使用し、図6(C)のグラフには2個の試験の平均値を示す。また試験開始時における試験菌液の生菌数は、3.0×105個/mLであった。
【0046】
冷間後熱処理なし線材については、加工率1.3/1.8/2.6/4.0/6.1で試験した。
【0047】
通常冷間加工線材については、加工率1.8/4.0/6.1で試験した。
【0048】
すると冷間後熱処理なし線材については、図6(A)のようになった。通常冷間加工線材については、図6(B)のようになった。これを加工率ごとにプロットすると図6(C)のようになった。これらから、冷間後熱処理なし線材のほうが、通常冷間加工線材よりも生菌数が減少することが判る。また加工率が大きくなるほど、生菌数が減少することが判る。
【0049】
以上から、冷間線引き加工されるが冷間加工後に熱処理されない銅線は、高い殺菌効果がある。これは銅イオンが溶出しやすいためである。銅イオンが溶出しやすいのは、残留抵抗比が大きく格子欠陥が多いためであると推定される。そして加工率が大きいほど残留抵抗比が大きくなり格子欠陥が多くなると推定され、銅イオンが溶出しやすくなり、より高い殺菌効果が得られるのである。
【0050】
<織布地の特性>
[第1試験]
図7は、本発明による織布地に対する抗菌布試験(JIS L 1902)の結果を示す図である。
【0051】
本試験では、すべての経糸及び緯糸に交撚カバー糸を用いた織布地を試験片とした。
【0052】
図7(A)は黄色ブドウ球菌を供試菌にした場合である。図7(A)に示すように、綿標準白布の試験菌液接種直後の生菌数は、2.3×104であった。18時間培養後の生菌数は、7.0×106であった。これに対して発明品の織布地の試験菌液接種直後の生菌数は、1.0×104であった。18時間培養後の生菌数は、20未満であった。これらから静菌活性値Sを求めると5.2より大であった。なお静菌活性値Sは次式(4)で求められる。
【0053】
【数4】

【0054】
また殺菌活性値Lを求めると3.1より大であった。なお殺菌活性値Lは次式(5)で求められる。
【0055】
【数5】

【0056】
図7(B)は肺炎桿菌を供試菌にした場合である。図7(B)に示すように、綿標準白布の試験菌液接種直後の生菌数は、2.5×104であった。18時間培養後の生菌数は、2.6×107であった。これに対して織布地の試験菌液接種直後の生菌数は、6.6×103であった。18時間培養後の生菌数は、20未満であった。これらから静菌活性値Sを求めると5.5より大であった。また殺菌活性値Lを求めると3.1より大であった。
【0057】
図7(C)はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を供試菌にした場合である。図7(C)に示すように、綿標準白布の試験菌液接種直後の生菌数は、2.1×104であった。18時間培養後の生菌数は、7.7×106であった。これに対して織布地の試験菌液接種直後の生菌数は、2.0×103であった。18時間培養後の生菌数は、20未満であった。これらから静菌活性値Sを求めると5.6より大であった。また殺菌活性値Lを求めると3.0より大であった。
【0058】
静菌活性値Sが基準値2.2以上であれば防臭効果が認められる。本実施形態による織布地では、いずれも基準値2.2以上であり高い防臭効果が得られることが判る。
【0059】
殺菌活性値Lが基準値ゼロよりも大きければ一般用途向けよりも高性能であって特定用途(たとえば医療機関における用途など)にも使用可能である。本実施形態による織布地では、いずれも基準値ゼロよりも大きく特定用途(たとえば医療機関における用途など)にも使用できることが判る。
【0060】
[第2試験]
次に織布地に対して摩擦帯電圧試験(JIS L 1094)を行った。この摩擦帯電圧試験は、温湿度条件20℃,40%RHの下で、試験片を摩擦布で摩擦し、摩擦開始から60秒経過後の帯電圧を測定するものである。絹などでは帯電圧が数千ボルトに達する。これに対して本実施形態による織布地では帯電圧が高くても150ボルト程度であった。すなわち帯電しにくく放電しやすいことが判る。たとえば冬季などは静電気が人体に溜まりやすいが、本実施形態による織布地によれば、静電気が放電されやすいことが判る。したがって本発明による織布地で作製した衣服は、静電気の帯電防止効果が高く、たとえば精密機械取り扱い者が着用する衣服に好適である。
<磁場発生体について>
図8は、第1実施形態の織布地を用いる磁場発生体を示す図である。
【0061】
磁場発生体1は、織布地10と、金属板20と、交流電源接続部30と、を含む。
【0062】
織布地10は、図1に示した布地である。
【0063】
金属板20は、たとえば銅板などの金属板である。金属板20は、織布地10の経糸11及び緯糸12の両方に接触するように設けられる。
【0064】
交流電源接続部30は、金属板20と交流電源50とを接続する。交流電源接続部30は、たとえば先端にコンセントプラグを備え、交流電源50に設けられたコンセントに挿入されて、交流電源50に接続される。
【0065】
このような構成によれば、交流電源50の交流電流は、交流電源接続部30及び金属板20を介して織布地10の経糸11及び緯糸12の芯糸102aに螺旋状に巻かれた繊維状銅線102bに流れる。すると繊維状銅線102bの周囲に磁場が発生する。この磁場を、たとえば人体に当てることで血流が促進されるなどの効果が得られる。
【0066】
以上詳細に説明したように、本実施形態の織布地10は、滅菌効果が高いので、清潔性が要求されるものの生地として好適である。また芯糸102aの周囲に、連続した繊維状銅線102bが螺旋状に巻かれているので、高い導電性能が得られる。そしてこのことから上述の試験結果の通り、静電気の帯電防止効果が高く、たとえば精密機械取扱者が着用する衣服に好適である。
【0067】
織布地10は、ビームの間にぴんと張られて上下に分けられた経糸11の間に緯糸12が通されることで織られる。経糸11や緯糸12は、繊維素材からなっているので、このときにかかる荷重で伸びる。特に経糸11は、大きな荷重がかかって伸びやすい。これに対して、本実施形態では、芯糸102aの周りに繊維状銅線102bが螺旋状に巻かれた交撚カバー糸102が使用される。このように構成されると、繊維状銅線102bも芯糸102aとともに伸びて切断しない。
【0068】
さらに交撚カバー糸の芯糸102aは、緑青を隠蔽可能な色に着色されている。そのため、時間が経過して繊維状銅線102bに万一緑青が発生しても、目立たない。またたとえば白衣の一部の糸に着色された糸が用いられることで、滅菌効果や帯電防止効果が高いものであることをアピールでき、他製品と差別することができ、商品性を高めることができる。
【0069】
さらにまた織布地を交流電源に接続することで、経糸11及び緯糸12の芯糸102aに螺旋状に巻かれた繊維状銅線102bに流れる。すると繊維状銅線102bの周囲に磁場が発生する。この磁場を、たとえば人体に当てることで末梢神経に刺激を与え血流促進効果が得られる。
【0070】
(第2実施形態)
図9は、本発明による織布地の第2実施形態に使用する交撚カバー糸を示す図である。
【0071】
本実施形態の交撚カバー糸102は、芯糸102aの周りに、繊維状銅線102b及び糸材102cが螺旋状に巻かれている。糸材102cは、繊維状銅線102bよりも太い。なお図9では、繊維状銅線102b及び糸材102cが同じピッチで巻かれているが、たとえば繊維状銅線102bを糸材102cよりも小さなピッチで巻いて密度を高めてもよい。
【0072】
図10は、本発明による織布地の第2実施形態を示す拡大図である。
【0073】
本実施形態の織布地10は、図9に示した交撚カバー糸102を経糸11の一部に使用する。またこの経糸11の交撚カバー糸102は、経糸11の通常糸101よりも細い。さらに緯糸12の通常糸101は、経糸11の通常糸101よりも細い。さらにまた緯糸12の交撚カバー糸102も、経糸11の通常糸101よりも細い。
【0074】
上述したように、織布地は、ビームの間にぴんと張られて上下に分けられた経糸の間に緯糸が通されることで織られる。そのため経糸には、緯糸よりも大きな荷重がかかる。換言すれば、緯糸には、経糸に比べて小さな荷重しかかからない。そこで本実施形態では、大きな荷重がかからない緯糸12の通常糸101を細くした。そのため無用なコストアップや重量増加を防止できる。
【0075】
また交撚カバー糸102が太いと、繊維状銅線102bの使用量が増えてしまう。そこで本実施形態では、交撚カバー糸102を細くした。これによっても無用なコストアップや重量増加を防止できる。
【0076】
また経糸11の交撚カバー糸102は、芯糸102aの周りに、繊維状銅線102b及び糸材102cが螺旋状に巻かれている。経糸11は、筬(おさ)によって位置が整えられているが、筬に擦れて経糸11の繊維状銅線102bが切断する可能性がある。本実施形態によれば、経糸11の繊維状銅線102bよりも太い糸材102cが存在する。そのため、糸材102cが筬に接触することで、経糸11の繊維状銅線102bが筬と擦れることが防止される。したがって経糸11の繊維状銅線102bが切断しにくくなる。
【0077】
なお図10では、図9に示した交撚カバー糸102を、経糸11の一部に使用する場合を例示したが、緯糸12の一部に使用してもよい。経糸11の間に緯糸12が通されるときに、緯糸12の繊維状銅線102bが擦れて切断する可能性があるが、このようにすれば、緯糸12の繊維状銅線102bが切断しにくくなる。また経糸11の全部に使用したり緯糸12の全部に使用してもよい。要求される性能と製造コストとに応じて適宜決定すればよい。
【0078】
また芯糸102a及び糸材102cが、緑青を隠蔽可能な色に着色されていれば、万一繊維状銅線102bに緑青が発生しても、目立たない。
【0079】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれることが明白である。
【0080】
たとえば、第1実施形態においては、経糸11及び緯糸12は、通常糸101と、交撚カバー糸102と、が交互に並んでいたが、図11に示すように、経糸11及び緯糸12には、2条の通常糸101と、1条の交撚カバー糸102と、を繰り返し並べてもよい。また経糸11の通常糸101及び交撚カバー糸102を同じ太さにし、緯糸12の通常糸101及び交撚カバー糸102を経糸11よりも細い同じ太さにしてもよい。
【0081】
またこれらはいずれも、交撚カバー糸102が経糸11の一部にのみ及び緯糸12の一部にのみ含まれている。しかしながらこれらは例示に過ぎない。たとえば、交撚カバー糸102が、経糸11の一部にのみ使用され、緯糸12には使用されていなくてもよい。反対に交撚カバー糸102が、緯糸12の一部にのみ使用され、経糸11には使用されていなくてもよい。また経糸11として交撚カバー糸102だけ使用され通常糸101が使用されていなくてもよい。すなわちこの場合は、交撚カバー糸102が経糸11である。また緯糸12として交撚カバー糸102だけ使用され通常糸101が使用されていなくてもよい。すなわちこの場合は、交撚カバー糸102が緯糸12である。
【0082】
また第1実施形態においては、交撚カバー糸の芯糸102aは、緑青を隠蔽可能な色に着色されていた。しかしながら、緑青が発生しない短期間だけ使用される場合や、緑青が発生しにくい環境で使用される場合、仮に緑青が発生しても問題を生じない場合(たとえば袋状の物の内部に入れられて使用される場合など)には、芯糸102aが着色されていなくてもよい。
【0083】
さらに上記実施形態においては、交撚カバー糸102は、芯糸102aの周りに1条の繊維状銅線102bが螺旋状に巻かれていた。しかしながら、図12(A)に示されるように、芯糸102aの周りに2条又はそれ以上の繊維状銅線102bが螺旋状に巻かれていてもよい。また図12(B)に示されるように、芯糸102aの周りに1条の繊維状銅線102bが螺旋状に巻かれた糸が2本撚られていてもよい。図示は省略するが、図12(A)(B)の構成にさらに糸材102cが螺旋状に巻かれていてもよい。要求される性能と製造コストとに応じて適宜決定すればよい。
【0084】
さらにまた上記実施形態においては、織布地10として、経糸11と緯糸12とで平織りされた布地が例示された。この織りの組織図は、図13(A)である。なお図中の「×」は経糸が緯糸の上に重なる部分である。これを記号で表現すると「1/1」となる。なおスラッシュ「/」の前の「1」は、織り方の最小繰り返し単位に着目して経糸が上になる回数を示す。スラッシュ「/」の後の「1」は、織り方の最小繰り返し単位に着目して緯糸が上になる回数を示す。すなわち図13(A)では、織り方の最小単位は、破線の左上側になる。ここに着目すると、経糸が1回上になり緯糸が1回上になることが繰り返されていることが判る。したがってこれを記号で表現すると「1/1」となる。
【0085】
しかしながら、これには限られず、図13(B−1)に示されているように「2/1」としてもよい。図13(B−2)に示されているように「1/2」としてもよい。図13(C−1)に示されているように「2/2」としてもよい。図13(C−2)に示されているように「3/1」としてもよい。図13(C−3)に示されているように「1/3」としてもよい。
【0086】
さらには、朱子織,サテン織,魚子織,オックス織,パナマ織,バーザイ織,トルコチン織,昼夜組織,カルゼ織,綾織,二重織,経二重織,緯二重織,三重織,オートマン織その他の織り方であってもよい。
【0087】
また上述した芯糸や繊維状銅線の太さは一例に過ぎず、要求される仕様に応じて任意に変更すればよい。
【0088】
さらに静電気の帯電防止効果や導電効果は要求されるが、必ずしも高い滅菌効果が要求されるものでなければ、冷間線引き加工後に熱処理された線材を用いてもよい。このような線材は量産されているので製造コストを低く抑えることができる。
【符号の説明】
【0089】
10 織布地
11 経糸
12 緯糸
101 通常糸
102 交撚カバー糸
102a 芯糸
102b 繊維状銅線
102c 糸材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸及び緯糸の少なくとも一方に含まれ、直線状の芯糸とその芯糸の周囲に螺旋状に巻かれた繊維状銅線とを備える交撚カバー糸を有する、
ことを特徴とする織布地。
【請求項2】
請求項1に記載の織布地において、
前記交撚カバー糸は、前記芯糸の周囲に螺旋状に巻かれた糸材をさらに備える、
ことを特徴とする織布地。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の織布地において、
前記緯糸は、前記経糸よりも細径である、
ことを特徴とする織布地。
【請求項4】
請求項1に記載の織布地において、
前記芯糸は、緑青の隠蔽色である、
ことを特徴とする織布地。
【請求項5】
請求項2に記載の織布地において、
前記芯糸及び前記糸材は、緑青の隠蔽色である、
ことを特徴とする織布地。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の織布地において、
前記繊維状銅線は、複数条であって前記芯糸の周囲に螺旋状に巻かれる、
ことを特徴とする織布地。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の織布地において、
前記繊維状銅線は、冷間線引き加工されるが冷間加工後に熱処理されない線材である、
ことを特徴とする織布地。
【請求項8】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の織布地において、
前記繊維状銅線は、冷間線引き加工された後に熱処理された線材である、
ことを特徴とする織布地。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の織布地と、
前記織布地と交流電源とを接続する交流電源接続部と、
を備える磁場発生体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−179146(P2011−179146A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45527(P2010−45527)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【特許番号】特許第4604152号(P4604152)
【特許公報発行日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(302048751)港屋株式会社 (1)
【Fターム(参考)】