説明

織物の製造方法

【課題】 ストレッチ性及び表面平滑性に優れた織物、特に裏地に好適なストレッチ織物を製造する方法を提供する。
【解決手段】 二種以上のポリエステル成分からなり、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメント原糸を経糸及び緯糸の少なくとも一方に用いたストレッチ織物を製造するに際し、拡布状連続精練機を用いて織物を40℃〜70℃でかつ最終温度として80〜100℃で多段精練を行うことを特徴とする織物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物の製造方法に関する。更に詳しくは、ストレッチ性及び表面平滑性に優れたストレッチ織物、特に、裏地に好適なストレッチ織物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレバルキーにより構成する繊維間で捲縮の位相をずらした潜在捲縮発現性ポリエステル繊維を用いることにより、ストレッチ性及び表面平滑性に優れた織物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、この織物はプレバルキーされた嵩高い繊維を用いているために、捲縮加工糸使いと同様、厚ぼったさ(地厚感)を有する。また平滑性、薄地、軽量、良好な風合いが要求される裏地用途に用いる場合には改善が必要である。
【0003】
また、直接紡糸延伸法で製造された、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメント原糸を、経糸及び緯糸の少なくとも一方に用いたストレッチ織物を製造するに際し、織物を8〜30%幅入れさせながら、60〜100℃でオープンソーパー精練機を用いて精練することを特徴とするストレッチ織物の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、直接紡糸延伸法以外の方法で製造された潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメントを用いる場合にこの方法を適用させることはできず、精練温度が60℃〜80℃では十分な捲縮が発現せずストレッチ性が不足し、精練温度を80℃以上にすると急激に糸収縮がおこり、表面品位の乱れが生じやすい。特に高ストレッチを得る為に精練での幅入れ率を25%以上にした場合には品位の低下が起こり易くなると言う問題を有していた。
【特許文献1】特開2002−61031号公報
【特許文献2】特開2004−308053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、厚ぼったさ(地厚感)がなく、ストレッチ性及び表面平滑性に優れた織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、低温から多段で精練することで表面品位を乱さずに幅入れ率を高めることができ、ストレッチ性と表面平滑性の双方を満足できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、二種以上のポリエステル成分からなり、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメント原糸を経糸及び緯糸の少なくとも一方に用いた織物を製造するに際し、拡布状連続精練機を用いて織物を50℃〜70℃でかつ最終温度80〜100℃で多段精練を行うことを特徴とする織物の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ストレッチ性及び表面平滑性に優れた織物、特に裏地に好適なストレッチ織物を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について、以下に詳細に説明する。
本発明における潜在捲縮発現性ポリエステル繊維とは、少なくとも二種のポリエステル成分で構成(具体的にはサイドバイサイド型又は偏芯芯鞘型に接合されたものが多い)されているものであり、熱処理によって捲縮を発現するものである。二種のポリエステル成分の複合比(一般的に質量%で70/30〜30/70の範囲内のものが多い)、接合面形状(直線又は曲線形状のものがある)は特に限定されない。又、総繊度は30〜165dtex(デシテックス:以下同様の表現とする)、単糸繊度は0.3〜3dtexが好ましく用いられるがこれに限定されるものではない。
【0008】
本発明における潜在捲縮発現性ポリエステル繊維は、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートであることに特徴がある。
具体的には、特開2001−40537号公報に開示されているようなポリトリメチレンテレフタレートを一成分とするものがある。
即ち、二種のポリエステルポリマーをサイドバイサイド型又は偏芯芯鞘型に接合された複合繊維であり、サイドバイサイド型の場合、二種のポリエステルポリマーの溶融粘度比が、1.00〜2.00が好ましく、偏芯芯鞘型の場合は、鞘ポリマーと芯ポリマーのアルカリ減量速度比は、3倍以上鞘ポリマーが速いことが好ましい。具体的なポリマーの組み合わせとしては、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート並びにポリトリメチレンテレフタレートとポリフブチレンテレフタレートである。
【0009】
又、他ポリマー、艶消剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料等の添加剤を含有してもよいが、好ましく、特に捲縮の内側にポリトリメチレンテレフタレートが配置されると好ましい。
本発明にいうポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸を主たるジカルボン酸とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルであり、ブタンジオール等のグリコール類やイソフタル酸、2.6−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸等を共重合してもよい。
本発明にいうポリフブチレンテレフタレートは、テレフタル酸を主たるジカルボン酸とし、1.4−ブタンジオールを主たるグリコール成分とするポリエステルであり、エチレングリコール等のグリコール類やイソフタル酸、2.6−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸等を共重合してもよい。
【0010】
このように、潜在捲縮発現性ポリエステル繊維を構成するポリエステル成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートであるものとしては、上記特開2001−40537号公報以外にも、特公昭43−19108号公報、特開平11−189923号公報、特開2000−239927号公報、特開2000−256918号公報、特開2000−328382号公報、特開2001−81640号公報等には、第一成分がポリトリメチレンテレフタレートであり、第二成分がポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルを並列的あるいは偏芯的に配置したサイドバイサイド型又は偏芯鞘芯型に複合紡糸したものが開示されており、本発明に好ましく用いることができる。特にポリトリメチレンテレフタレートと共重合ポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせや、極限粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートの組み合わせが好ましい。
【0011】
さらに、潜在捲縮発現性ポリエステル繊維の初期引張抵抗度が10〜30cN/dtexであると好ましく、特に20〜30cN/dtex、さらに20〜27cN/dtexがよい。尚、10cN/dtex未満のものは製造困難である。又、顕在捲縮の伸縮伸長率は10〜100%であると好ましく、より好ましくは10〜80%、特に好ましくは10〜60%である。更に、顕在捲縮の伸縮弾性率は80〜100%であることが好ましく、より好ましくは85〜100%、特に好ましくは85〜97%である。
【0012】
さらに、100℃における熱収縮応力が0.1〜0.5cN/dtexであることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.4cN/dtex、特に好ましくは0.1〜0.3cN/dtexである。100℃における熱収縮応力は、布帛の精練、染色工程において捲縮を発現させるための重要な要件である。すなわち、布帛の拘束力に打ち勝って捲縮が発現するためには、100℃における熱収縮応力が0.1cN/dtex以上であることが好ましい。
【0013】
熱水処理後の伸縮伸長率は100〜250%であることが好ましく、より好ましくは150〜250%、特に180〜250%である。熱水処理後の伸縮弾性率は90〜100%であることが好ましく、より好ましくは95〜100%である。
このような特性を有する潜在捲縮発現性ポリエステル繊維としては、固有粘度の異なる2種類のポリトリメチレンテレフタレートが互いにサイドバイサイド型に複合された単糸から構成された複合繊維があげられる。
2種類のポリトリメチレンテレフタレートの固有粘度差は0.05〜0.50(dl/g)であることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.45(dl/g)、さらに0.15〜0.45(dl/g)がよい。例えば高粘度側の固有粘度を0.7〜1.3(dl/g)から選択した場合には、低粘度側の固有粘度は0.5〜1.1(dl/g)から選択されるのが好ましい。
【0014】
また、この複合繊維自体の固有粘度即ち平均固有粘度は、0.7〜1.2(dl/g)がよく、0.8〜1.2(dl/g)がより好ましい。特に0.85〜1.15(dl/g)が好ましく、最も好ましくは0.9〜1.1(dl/g)がよい。
なお、本発明でいう固有粘度の値は、使用するポリマーではなく、紡糸されている糸の粘度を指す。この理由は、ポリトリメチレンテレフタレート特有の欠点としてポリエチレンテレフタレート等と比較して熱分解が生じ易く、高い固有粘度のポリマーを使用しても熱分解によって固有粘度が著しく低下し、複合マルチフィラメントにおいては両者の固有粘度差を大きく維持することが困難であるためである。
【0015】
ここで、ポリトリメチレンテレフタレートは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、トリメチレンテレフタレート単位を約50モル%以上好ましくは70モル%以上、さらには80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上のものをいう。従って、第三成分として他の酸成分及び/又はグリコール成分の合計量が、約50モル%以下、好ましくは30モル%以下、さらには20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下の範囲で含有されたポリトリメチレンテレフタレートを包含する。
【0016】
ポリトリメチレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその機能的誘導体と、トリメチレングリコール又はその機能的誘導体とを、触媒の存在下で、適当な反応条件下に結合せしめることにより合成される。この合成過程において、適当な一種又は二種以上の第三成分を添加して共重合ポリエステルとしてもよいし、又、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル、ナイロンとポリトリメチレンテレフタレートを別個に合成した後、ブレンドしたりしてもよい。ブレンドする際のポリトリメチレンテレフタレートの含有率は質量%で50%以上である。
【0017】
添加する第三成分としては、脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、アジピン酸等)、脂環族ジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、ソジウムスルホイソフタル酸等)、脂肪族グリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等)、脂環族グリコール(シクロヘキサンジメタノール等)、芳香族を含む脂肪族グリコール(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等)、ポリエーテルグリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、脂肪族オキシカルボン酸(ω−オキシカプロン酸等)、芳香族オキシカルボン酸(P−オキシ安息香酸等)等がある。又、1個又は3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物(安息香酸等又はグリセリン等)も重合体が実質的に線状である範囲内で使用出来る。
【0018】
さらに二酸化チタン等の艶消剤、リン酸等の安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、タルク等の結晶化核剤、アエロジル等の易滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、難燃剤、制電剤、顔料、蛍光増白剤、赤外線吸収剤、消泡剤等が含有されていてもよい。
潜在捲縮発現性ポリエステル繊維の紡糸については、例えば上記の各種特開に開示されており、例えば、3000m/分以下の巻取り速度で未延伸糸を得た後、2〜3.5倍程度で延撚する方法が好ましいが、紡糸−延撚工程を直結した直延法(スピンドロー法)、巻取り速度5000m/分以上の高速紡糸法(スピンテイクアップ法)を採用しても良い。
【0019】
又、繊維の形態は、マルチフィラメント糸条であり、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、断面においても丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブ−メラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
ポリトリメチレンテレフタレート繊維の単糸繊度は、0.3〜3dtexである必要があり、より好ましくは0.5〜2.5dtexである。単糸繊度が0.3dtex未満となると製織性が低下する傾向にあり、3dtexを超えると織物が粗硬な風合いとなってくる。また、経糸もしくは緯糸として用いる際の糸の太さは、30dtex以上とすることで、裏地として実用に供し得る引裂強力を得ることができ、110dtex以上では裏地として厚くなりすぎ、従って、30〜110dtexであることが好ましい。
【0020】
本発明は、このような潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメント原糸を経糸及び/又は緯糸に用いて織物を構成するものであり、交織する際の相手素材は制限されるものでなく、例えば、キュプラレーヨン、ビスコースレーヨン、アセテート繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ナイロン繊維等、所望に応じて適宜選定することができる。
織物の組織としては、平織組織、綾織組織、朱子織組織をはじめ、それらから誘導された各種の変化組織を適用することができる。
【0021】
織物生機の経糸本数及び緯糸本数は、ストレッチ性、品位及び品質に影響を与える。経糸本数が少ないほど、ストレッチ性が発現しやすくなり、経糸本数が多いと楊柳、シボ等の品位欠点の発生を抑制できる。緯糸についても本数が少ないほどストレッチ性が発現しやすく、本数が多いとメズレや引裂強力低下等品位、品質欠点の発生を抑制できる。これらの特徴と、織物組織、繊度、製品のストレッチ性、品位、品質を考慮して本数は適宜選定すればよい。使用される潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメント原糸繊度が56dtexの場合、緯糸密度は90〜120本/inが好ましく、70dtexの場合、80〜110本/inが好ましい。経糸密度も使用する糸の太さにより変わるが、56dtexの場合は100〜180本/in、33dtexの場合、経糸密度160〜250本/inが好ましい。
【0022】
本発明でいう織物の製織は、レピア、ウォータージェット、エアージェットなどにより生機製織可能である。
本発明の特徴は、潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメント原糸で構成された織物を拡布状連続精練機を用いて50℃〜70℃で精練し、かつ、最終温度として80〜100℃で精練する多段精練を行うことにある。
【0023】
拡布状連続精練機によるストレッチ発現機構を説明する。潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメント原糸を用いて製織した織物(生機)を拡布状連続精練機に導入し、50〜100℃の精練液中に浸漬すると、この精練液の熱によって捲縮が発現する。この発現した捲縮によって織物にストレッチ性が付与される。したがって、捲縮発現量が少ない場合には織物のストレッチ性は低いものとなり、逆に捲縮発現量が多すぎるとストレッチ性は充分となるものの楊柳、シボ欠点が発生し品位、風合い不良の織物となってしまう。潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメント原糸の捲縮発現量には温度依存性があり、ガラス転移点(約51℃)前後の温度から捲縮発現が起こり、80℃以上では非常に大きな捲縮発現量となる。特にストレッチ性を高める為に幅入れ率を高める場合にいきなり80℃〜100℃で精練を行うと楊柳、シボ欠点が生じやすく品位不良となりやすい。拡布状連続精練時の温度を制御することにより急激な捲縮発現を抑え、すなわち表面状態を整え、楊柳、シボ欠点を防止することが可能である。すなわち50℃〜70℃の比較的捲縮発現力の弱い条件で20秒〜5分程度精練をしたのち、温度を上げ、最終温度として80℃〜100℃で20秒〜5分程度精練する。徐々に温度を上げることで急激な捲縮発現による楊柳、シボ欠点の発生を抑制することができるのである。
【0024】
精練は少なくとも2段で行う必要があり3段以上の多段で行うことも可能である。多段式拡布状精練装置を用いて2〜4段での加工が好適に実施できるが、50℃〜70℃で精練後、一旦乾燥させ、再度温度を上げて精練し、最終温度として80℃〜100℃で精練することも可能である。最終温度として80℃から100℃で精練することにより、十分な捲縮を発現させ、かつ、精練効果すなわち油剤等を取り除く効果を確実に行うことができる。
精練時の幅入れ率は最終段階で10〜45%が好ましく、50℃〜70℃での精練から温度を上げていく中で徐々に幅入れしていくことがより好ましい。
【0025】
潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメント原糸を経糸、又は経糸と緯糸の両方に用いて製織した織物(生機)を、本発明の方法で精練することによって経方向、経緯両方向にストレッチを付与することができる。
本発明の方法によって、表面平滑性に優れ、ストレッチ率が10%以上のストレッチ織物を好適に得ることができる。より好ましくは12%以上、特に好ましくは15%以上である。ストレッチ率の上限は特に限定されないが、25%以下が好ましい。
【0026】
潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメント原糸で構成された織物を、一般的な液流染色機やソフサー精練機を用いて処理する場合、織物にストレッチ性を付与することができるが、シボや楊柳が発現しやすく、織物の表面平滑性や品位が劣る。この理由は、織物がほとんど拘束を受けない状態で、かつ、揉布作用が加わった状態で処理が行われる為、過剰な捲縮が発現し、過大な幅入れが起こるためである。したがってこれらの方法での精練時に精練温度を本発明に示すように徐々に上げても表面品位の良好な織物は得られない。
【0027】
一方、拡布状連続精練は通常、抱角の大きなロ−ルが多数配列されるため、それらのロ−ルによって織物の幅方向は高度な拘束を受け、また経方向もこれらのロ−ルを多数通過することにより張力を受ける。この様な拘束下で織物が精練処理される為、過剰な捲縮発現及び幅入れが抑制されやすく、楊柳やシボのない表面平滑性に優れた織物を得ることができる。さらに、潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメント原糸を用いる為、高いストレッチ性を併せ持った織物を得ることができる。
以上述べたように、本発明は、織物の幅方向を拘束した拡布状態で、かつ、経方向に緊張した状態で処理できる拡布状連続精練の特徴を活かすことによって、高いストレッチ性と表面平滑性を兼ね備えた織物が得られるのである。
【0028】
本発明の方法で得られた織物は精練の後、シュリンクサーファードライヤー、ショートループドライヤー、シリンダ−乾燥装置などで乾燥させ、常法によりプレセットに引き続き、染色、ファイナルセットすればよい。染色については、液流染色機、エアフロー染色機など任意の染色機が使用でき、場合によっては染色前に、ソフト化、薄地化のためアルカリ減量も行える。また、通常繊維加工に用いられる樹脂加工、柔軟加工、吸水加工、制電加工、抗菌加工、撥水加工や酵素処理などの加工を必要に応じて行い仕上げセットを行い、仕上げセットはセット温度、時間は160〜190℃、30〜90秒とし、巾設定は規格巾に設定するが、洗濯などによる寸法安定性を考慮して仕上げセットによる巾出し率は、染色シワとり程度に収めるのが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
本発明において実施例に使用したポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル系繊維は、以下の方法により製造した。
【0030】
固有粘度の異なる二種類のポリトリメチレンテレフタレートをピーナツ形状の紡糸口、あるいは丸形状の紡糸高口を使用し、比率1:1でサイドバイサイド型に押出し、紡糸温度265℃、紡糸速度1500m/分で未延伸糸を得、次いでホットロール温度55℃、ホットプレート温度140℃、延伸速度400m/分、延伸倍率は延伸後の繊度が56dtexとなるように設定して延撚し、56dtex/24fのサイドバイサイド型複合マルチフィラメントを得た。得られた複合マルチフィラメントの固有粘度は高粘度側が[η]=1.26、低粘度側が[η]=0.92であった。
なお、固有粘度の測定は以下の方法により測定した。
固有粘度[η](dl/g)は、次式の定義に基づいて求められる値である。
[η]=lim(ηr−1)/C
C→0
定義中のηrは純度98%以上のo−クロロフェノール溶媒で溶解したポリトリメチレンテレフタレート糸又はポリエチレンテレフタレート糸の稀釈溶液の35℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶媒の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Cはg/100mlで表されるポリマー濃度である。
【0031】
なお、固有粘度の異なるポリマーを用いた複合マルチフィラメントは、マルチフィラメントを構成するそれぞれの固有粘度を測定することは困難であるので、複合マルチフィラメントの紡糸条件と同じ条件で2種類のポリマーをそれぞれ単独で紡糸し、得られた糸を用いて測定した固有粘度を、複合マルチフィラメントを構成する固有粘度とした。
【0032】
また、裏地の外観、ストレッチ率、幅入れ率は下記により求めた。
(1)外観品位
得られた織物を、加工技術者が官能評価し、以下の基準により判定する。
◎ ;シボや楊柳がなく、極めて良好な表面平滑性を有する
○ ;シボや楊柳が目立たず、ほぼ良好な表面平滑性を有する
× ;シボや楊柳が発現しており、表面平滑性に劣る
(2)織物のストレッチ率
(株)カトーテック社製KES−FB1(商品名)を用いて、20cm×20cmの織物試料を引張り速度=0.2mm/秒で織物の緯方向に伸長した時の、4.9N/cm応力下での伸びより、下記の式によって求めた値である。
ストレッチ率(S)(%)=(A/20)×100
A:4.9N/cm応力下で伸びた長さ(cm)
【0033】
(3)幅入れ率(%)
下記の式によって求めた値である。
[(製織後の幅−精練後の幅)/製織後の幅]×100
(4)着用感
23%の緯伸びのあるストレッチ表地に、実施例で作製した織物を裏地として組み合わせてタイトスカート(身体のヒップ周りの寸法に対してゆとり率2%で裏地のパターンを作成)を作成して、モニター5人に着用してもらい、以下の4段階判定で官能評価を実施した。
◎:非常に良好
○:良好
△:圧迫感強い
×:圧迫感大又はザラツキ感大にて不適
【0034】
(5)動摩擦係数
カトーテック(株)製のKES−SEを用いて、摩擦面寸法が1cm×1cmで重量が0.245Nの摩擦子に、カナキン3号精練上がりの綿布を取り付けて、5cm/minの速度で固定した織物サンプルの表面上をすべらせ、その時の摩擦抵抗力から、次式によって動摩擦係数(μ)を求めた。
μ=A/B
A:摩擦抵抗力の平均値(N)
B:摩擦子の重量(N)
本発明では織物の経糸方向に滑らせたときの摩擦係数と、緯糸方向に滑らせたときの摩擦係数の平均値を、裏地の動摩擦係数とした。
【0035】
[実施例1]
経糸に56dtex/24fのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメン
ト制電糸(無撚、糊付け糸)を用い、緯糸に上記のピーナツ断面の56dtex/24fポリトリメチレンテレフタレート複合繊維を打ち込んで、経密度125本/2.54cm、緯密度109本/2.54cmの平組織の生機を製織した。
【0036】
この生機を多段式拡布状連続精練機を用いて、50℃で30秒精練処理した後、70℃で30秒、次いで90℃で30秒精練した後、シリンダ−乾燥(120℃)した。精練反の幅入れ率は26%であった。次いで、温度170℃で1分間のピンテンター処理により有り幅熱セットを行った後、10%の減量加工を行い、液流染色機にて130℃染色を行った。最後に温度170℃で仕上げセットを行い、ストレッチ性のある織物を得た。
得られた織物の評価結果を表1に示す。結果はいずれも良好であった。
【0037】
[実施例2]
経糸に56dtex/24fのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント制電糸(無撚、糊付け糸)を用い、緯糸に実施例1の複合繊維を打ち込んで、経145本/2.54cm、緯103本/2.54cmの綾組織の生機を製織した。
この生機を多段式拡布状連続精練機を用いて、60℃で1分精練処理した後、95℃で1分精練し、シリンダー乾燥(120℃)した。精練反の幅入れ率は35%であった。その後、温度170℃のピンテンターを用いて5%の幅出し熱セットを行った後、液流染色機にて130℃染色を行った。最後に温度170℃で仕上げセットを行い、綾組織のストレッチ織物を得た。
得られたストレッチ織物の評価結果を表1に示す。織物のストレッチ性及び表面平滑性は良好であった。
【0038】
[実施例3]
実施例2の加工で精練時の温度条件を70℃に変更し1分精練処理した後、95℃で1分精練し、幅入れ率を42%とした以外は実施例2と同様に加工し評価した。結果を表1に示す。
【0039】
[実施例4]
経糸に56dtex/30fのキュプラレーヨン原糸(無撚、糊付け糸)を用い、緯糸に丸断面の56dtex/24fポリトリメチレンテレフタレート複合繊維を打ち込んで、経126本/2.54cm、緯108本/2.54cmの平組織の交織生機を製織した。この生機を多段式拡布状連続精練機を用いて、60℃で20秒、次いで80℃で20秒、さらに95℃で20秒精練した後、120℃のシリンダー乾燥機により乾燥した。この場合の幅入れ率は12%であった。
次いで、温度170℃で2%の幅出し熱セットを行った。熱セット後、ジッガー染色機により、複合繊維を染色し、コールドパッドバッチによりキュプラレーヨン原糸を染色した。その後、170℃で仕上、幅出し熱セットを行って交織織物を得た。
得られた交織ストレッチ織物の評価結果を表1に示す。 得られた織物は高いストレッチ性を有し、かつ、キュプラとの交織により、滑り性及び風合いが特に良好な織物が得られた。
【0040】
[比較例1]
実施例1の生機をオープンソーパー精練機を用いて、70℃で2分精練処理した後、シリンダ−乾燥(120℃)した。精練反の幅入れ率は9%であった。次いで、温度170℃で有り幅での熱セットを行った後、10%の減量加工を行い、液流染色機にて130℃染色を行った。最後に温度170℃で仕上げセットを行った。
表1に得られた織物の評価結果を示す。この織物は、ストレッチ性に欠け、着用感が不良であった。
【0041】
[比較例2]
実施例2の織物をオープンソーパー精練機で95℃で2分間精練した後、シリンダ−乾燥(120℃)した。精練反の幅入れ率は31%であった。次いで、温度170℃で有り幅での熱セットを行った後、10%の減量加工を行い、液流染色機により130℃染色を実施した。最後にテンターで仕上げセット(温度170℃)を行い、ストレッチ織物を得た。
得られたストレッチ織物の評価結果を表1に示す。この織物は、ストレッチ性は充分発現しているが、楊柳、シボが発生しており品位に劣るものであった。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、ストレッチ性及び表面平滑性に優れた織物を製造することが可能であり、特に裏地に好適なストレッチ織物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二種以上のポリエステル成分からなり、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性ポリエステル繊維マルチフィラメント原糸を経糸及び緯糸の少なくとも一方に用いた織物を製造するに際し、拡布状連続精練機を用いて織物を50℃〜70℃でかつ最終温度80〜100℃で多段精練を行うことを特徴とする織物の製造方法。
【請求項2】
生機に対し、10〜45%幅入れさせる請求項1に記載の織物の製造方法。

【公開番号】特開2007−31882(P2007−31882A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217605(P2005−217605)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】