織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置
【課題】 特願2005−24609で完成された3次元モデリング織物を伸張した場合、あるいは曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置に関する。
【解決手段】 織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置は、3次元モデリングされた織物が、例えば指定した伸張率まで変形された場合に、織物構造の再計算が行なわれ、再計算された織物の3次元モデルが出力される。これにより、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【解決手段】 織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置は、3次元モデリングされた織物が、例えば指定した伸張率まで変形された場合に、織物構造の再計算が行なわれ、再計算された織物の3次元モデルが出力される。これにより、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物の3次元モデルを構築するための方法、及び織物の3次元モデルを構築するための装置に係り、詳しくは、織物を伸張した場合、あるいは織物を曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることが可能な織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の発明者らは、3次元コンピュータグラフィックスなどの特殊な知識を必要とせずに、織物限界密度の判定及びそれに基いた製織の可能性を予測するための織物構造のモデル化方法及び織物構造のモデル化装置を開発し、それ(特許文献1参照)を特許出願している。
【0003】
上記特許出願済みの織物構造のモデル化方法及び織物構造のモデル化装置は、織物を伸張した場合、あるいは織物を曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションする領域に至っていない。しかしながら、例えば自動車のシートや内装材などを設計する場合の最近の織物設計分野では、品質向上のために織物の変形特性を予測することが強く求められている。
【特許文献1】特願2005−24609
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明では、上記特許出願済みの織物構造のモデル化方法及び織物構造のモデル化装置により3次元モデリングされた織物を伸張した場合、あるいは曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることが可能な織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、特許請求の範囲の欄に記載した織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置により解決することができる。
請求項1,2,3,4に記載の織物の3次元モデル構築方法によれば、織物組織図、織物密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行なう行程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する行程と、前記織物の3次元モデルを指定した伸張率まで伸張変形させた場合の織物構造を再計算する行程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する行程とを有している。これにより、3次元モデリングにより集成された織物が伸張された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0006】
請求項5に記載の織物の3次元モデル構築方法によれば、織物組織図、織物密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行なう行程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する行程と、前記織物の3次元モデルを指定した曲率もしくは曲率半径まで屈曲させた場合の織物の3次元モデルを出力する行程とを有している。これにより、3次元モデリングにより集成された織物が屈曲された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0007】
請求項6に記載の織物の3次元モデル構築装置によれば、織物規格データと、物理特性データとが入力されると、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングが行なわれ、各糸の形状が集成された集合体としての織物の3次元モデルが出力されると、織物の3次元モデルを指定した伸張率まで伸張変形させた場合の織物構造の再計算が行なわれるとともに、前記再計算された織物の3次元モデルが出力される。これにより、3次元モデリングにより集成された織物が伸張された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0008】
請求項7に記載の織物の3次元モデル構築装置によれば、織物規格データと、物理特性データとが入力されると、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングが行なわれ、各糸の形状が集成された集合体としての織物の3次元モデルが出力されると、織物の3次元モデルを指定した曲率もしくは曲率半径まで屈曲させた場合の織物の3次元モデルが出力される。これにより、3次元モデリングにより集成された織物が屈曲された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0009】
請求項8,9に記載の記録媒体によれば、記録媒体に記録されたソフトウエアプログラムを例えば汎用のコンピュータにインストールすれば、3次元モデリングにより集成された織物が伸張もしくは屈曲された場合、織物がどのように変形するかを汎用コンピュータでシミュレーションすることができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1,2,3,4に記載の織物の3次元モデル構築方法によれば、3次元モデリングにより集成された織物が伸張された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0011】
請求項5に記載の織物の3次元モデル構築方法によれば、3次元モデリングにより集成された織物が屈曲された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0012】
請求項6に記載の織物の3次元モデル構築装置によれば、3次元モデリングにより集成された織物が伸張された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0013】
請求項7に記載の織物の3次元モデル構築装置によれば、3次元モデリングにより集成された織物が屈曲された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0014】
請求項8,9に記載の記録媒体によれば、3次元モデリングにより集成された織物が伸張もしくは屈曲された場合、織物がどのように変形するかを汎用コンピュータ等でシミュレーションすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
まず、本発明の織物の3次元モデル構築装置の構成について図1を参照して説明する。
図1に示すように、コンピュータ1は、周知のコンピュータであり、コンピュータ1の制御を司るCPU50が設けられている。このCPU50には、バス55を介し、CPU50が実行するBIOS等のプログラムを記憶したROM51と、データを一時的に記憶するRAM52と、データの記憶媒体であるCD−ROM54を挿入し、データの読み込みを行うCD−ROMドライブ53と、データの記憶装置であるHDD60とが接続されている。HDD60には、モデリングプログラムを始めとするコンピュータ1で実行される各種のプログラムを記憶するプログラム記憶エリア61、プログラムを実行する際に入力される各種データ等の情報を記憶したデータベース記憶エリア62などが設けられている。
【0016】
さらに、CPU50には、バス55を介して、利用者に操作画面やプログラムの実行結果を表示するためのモニタ31の画面表示処理を行う表示制御部30と、利用者が操作の入力を行うキーボード41やマウス42に接続され、それらの入力の検知を行う入力検知部40とが接続されている。なお、コンピュータ1には、図示外のフレキシブルディスクドライブ、音声等の入出力部、各種インタフェースなどが設けられていてもよい。
【0017】
なお、CD−ROM54には、必要なプログラムが組み込まれたソフトウェアや、このプログラムの実行時に使用される設定やデータ等が記憶されており、導入時には、CD−ROM54からHDD60に設けられたプログラム記憶エリア61などに記憶されるようになっている。尚、コンピュータ1のプログラム及びその使用データ等の取得方法はCD−ROM54によるものに限らず、フレキシブルディスクやMOといった他の記録媒体であってもよく、また、コンピュータ1をネットワークに接続させ、ネットワーク上の他の端末から取得してもよい。
【0018】
次に、以上の構成を有するコンピュータ1において織物立体構造を表示させるための3次元モデル化処理について、図を参照しながら説明する。尚、図2は、織物構造の3次元モデル化処理の流れを示すフローチャートであり、図3は、Peirceモデルにおける交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【0019】
一般に、3次元コンピュータグラフィックスで物体の立体形状を表現するには、第1段階として、対象となる物体を点や線、多角形(ポリゴン)などの幾何学的基本要素群に分割し、それぞれの基本要素の3次元空間における座標群を決定する処理が必要となる。その後、第2段階として、この3次元空間の座標群を2次元空間上に変換して表現する処理を行う。前者の処理をモデリングと呼び、後者の処理をレンダリングと呼ぶ。
【0020】
織物組織図から織物を構成している経緯糸の形状を立体的に表現するには、図2に示すように、織物組織図101と糸の太さ102、織密度103、縞104などの織物規格105に関する情報を元に、構成する経緯糸1本ごとに対して織物中での座標を確定しモデリング処理106を行い、織物の3次元形状モデル107を得る。その後、3次元形状モデルを表示する視点121やモデルの回転角度122、光源123などの表示に関する座標情報124を与え、レンダリング処理125を行うことで、立体形状画像130として表現が可能となる。
【0021】
3次元コンピュータグラフィックスでモデリング処理106を行う場合、複数の多角形の組み合わせでモデルを表現するポリゴンモデルの他、スプライン曲線によってモデルを表現する方法、ベジェ曲線やベジェ曲面によりモデルを表現する方法など、様々な方法が存在する。ここでは、比較的少ないパラメータで表現することができる3次ベジェ曲面によるモデル化手法を採用した。
【0022】
この際、モデル構造を表す座標系は、組織図の左下の組織点を座標の原点として考え、緯糸方向がx軸、経糸方向がy軸、厚さ方向がz軸方向となる右手系の座標系として取り扱い、織物の厚さhに対して中間面となる平面がx−y平面となるように考える。経糸は左から右に、緯糸は下から上に順番に整列しているものとし、左端の経糸および下端の緯糸はそれぞれ0番目の経糸および緯糸と考え、それぞれの糸の位置をiおよびjで表す。組織図の情報を表す行列をW (i, j)と定義する。モデリングの対象となる組織として、経糸m本、緯糸n本で一循環組織となる組織図を用いる場合、行列の添字の範囲は0≦i<m, 0≦j<nとなる。また、行列の値には、経浮きの場合には1の値を、経沈みの場合は0の値をとる。
【0023】
モデリング処理106の前提条件として、織物中の糸の構造は、Peirceモデル(Peirce F.T.; "The Geometry of Cloth Structure", J. Text. Inst., 28, T45 (1937))の構造を取るものと仮定する。ここで、Peirceは織物中の経糸および緯糸の太さはそれぞれすべて同じであるとして取り扱っているが、本実施の形態では図3に示すように織物の設計条件に従い任意の太さの糸が用いられているものとして考え、左からi番目の経糸の半径をr1(i)、下からj番目の緯糸の半径をr2(j)で表すものとする。同様に経糸および緯糸の直径はそれぞれd1(i)、d2(j)で表す。また、経糸の間隔および緯糸の間隔はそれぞれP1およびP2と表すものとする。
【0024】
さて、織物中の糸をベジェ曲面で表現する場合、糸の断面はベジェ曲線で表すことになる。媒介変数tを用いた n次ベジェ曲線r0(t;n)は次式(1)で表現することができる。
【0025】
ここで、Cn・iは2項係数であり、n!/{i!(n-i)!}に等しい。また、piはベジェ曲線の制御点座標を示すベクトルであり、3次元空間ではpi(x,y,z)であり、r0の添字0は最初の制御点がp0であることを示している。最も用いられることの多い3次のベジェ曲線r0(t;3)は、
と表現され、1つの曲線を表現するためにp0、p1、p2、p3の4点の制御点を与える必要がある。
【0026】
一方、媒介変数uおよびvを用いた3×3次のベジェ曲面s00(u,v;3,3)は次式で表現される。
ここで、pi,jはベジェ曲線の場合と同様、ベジェ曲面の制御点座標であり、s00の添字00は最初の制御点がp0,0であることを示している。4辺よりなる1つの曲面を表現するためには4×4の制御点群が必要となる。従って、Peirceモデルにおける単位格子内の糸の屈曲を表現するには、12枚のベジェ曲面が必要となり、120点の座標点を用い192点の制御点の座標を指定しベジェ曲面を作成することで、織物中での糸の立体形状を決定することが可能となる。
【0027】
以上を前提として、3次ベジェ曲面によりモデリング処理106を実行する処理の詳細について図4及び図5を参照して説明する。図4は、図2のモデリング処理106の詳細を示すフローチャートであり、図5は、交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【0028】
まず、ベジェ曲面を用いて糸の屈曲状態を示すには、組織点(i, j)における糸の座標をあらかじめ求め、この座標からベジェ曲面の制御点座標群を求める必要がある。特に、組織点(i, j)における糸の糸のz座標については、組織図の情報に従い糸の上下関係を決めなければならない。そこで、まず、経糸のx座標x1 (i, j)、y座標y1 (i, j)、緯糸のx座標x2 (i, j)およびy座標y2 (i, j)を求める(S201)。ここで、i番目の経糸とi-1番目の経糸との間隔をP1(i)、j番目の緯糸とj-1番目の緯糸との間隔をP2(j)とおく。組織点(i, j)における経糸のx座標x1 (i, j)、y座標y1 (i, j)、緯糸のx座標x2 (i, j)およびy座標y2 (i, j)はそれぞれ次式で表すことができる。
【0029】
一方、組織点(i, j)における糸のz座標については、三原組織などの平面的な織物であるか、二重織などの多層構造組織や、蜂巣織のような立体的な構造を持つ組織であるかにより異なる。後者の場合には、浮き糸組織数の大小が糸の高さに影響を及ぼしているためである。そこで、z座標を求める前に、まず、浮き糸組織数から相対高さの計算を行い(S202)、この算出結果に従って組織点における制御点座標を算出する。
【0030】
i番目の経糸の浮き糸組織数F1(i)は次式で求められ、F1は各要素が0からnの間の整数値をとる数列となる。
【0031】
一方、織物中の相対高さをH1(i)とすると、H1(i)は数列F1より次式で求められる。
ここで、min(s)は数列sの最小値、max(s)は最大値を返す関数である。式(7)はmax(F1) ≠min(F1)の場合で有効であるが、max(F1)=min(F1)の場合は織物中の全経糸の相対高さが同じであると考えることができるので、
と考えることができる。求められる相対高さH1(i)の範囲は-0.5≦H1(i) ≦0.5となり、織物の厚さhから次式で織物中の糸の高さh1(i)を求めることができる。
【0032】
また、緯糸の場合も経糸と同様に、j番目の緯糸の浮き糸組織数をF2(j)は、
となり、織物中の緯糸の相対高さH2(j)は、max(F2)≠min(F2)の場合、
max(F2)=min(F2)の場合、
となる。また、織物中の緯糸の高さh2(j)は、次式のように求められる。
【0033】
以上のようにして求められた糸の高さに基づき、織物中のすべての糸が同じ高さであるか、すなわち平面的な織物であるか否かを判断する(S203)。すべての糸が同じ高さである場合は(S203:YES)、組織点(i, j)における経糸のz座標z1 (i, j)および緯糸のz座標z2 (i, j)は、図5に示すように、織物の厚さhに対して中間面となるx−y平面から経糸の糸軸中心までの距離は緯糸の半径r2に相当するので、次の式(14)および式(15)から組織点(i, j)における糸のz座標を求めることが可能である(S204)。
ここで、sgn(x)はsgn(x) = {1 (x>0)} , {-1 (x<0)} で定義される符号関数である。
【0034】
一方、織物中で糸の高さが異なる場合は(S203:NO)、上記式(14)および式(15)からは糸のz座標を求めることができなくなる。そこで、S202で求めた織物中の経糸の高さh1(i)および緯糸の高さh2(j)を用いて糸のz座標を求める必要がある。
【0035】
まず、組織点(i, j)において、交錯するi番目の経糸とj番目の緯糸の高さが同じであるか否かを判断する(S205)。i番目の経糸とj番目の緯糸の高さが同じである場合、すなわち、h1(i)=h2(j)の場合には(S205:YES)、経糸のz座標z1 (i, j)および緯糸のz座標z2 (i, j)は式(14)および式(15)より、以下の式(16)及び(17)のようになる。
【0036】
また、交錯するi番目の経糸とj番目の緯糸の高さが異なる場合、すなわち、h1(i)≠h2(j)の場合には(S205:NO)、まず、S202で求めた糸の相対高さと、当該経糸及び緯糸の半径との間の関係を調べることにより、糸の干渉が発生している可能性をチェックする(S207)。ここでは、次式が成り立つ場合、経糸と緯糸は干渉していないと考えることができる(S207:YES)。
【0037】
式(18)が成り立つ場合には(S207:YES)、次に、組織図上の経糸と緯糸の上下関係と、S202で求めた糸の相対高さとが一致しているかどうかを、行列W (i, j)の値と相対高さの値の差との関係を調べることにより判断する(S208,S209,S210)。
【0038】
式(18)が成り立つ場合において、経浮き、すなわちW (i, j)=1(S208:YES)かつ、経糸の高さが緯糸より高い、すなわちh1(i)>h2(j)の場合(S209:YES)、または、緯浮き、すなわちW (i, j)=0(S208:NO)、かつ、緯糸の高さが経糸より高い、すなわちh1(i)<h2(j)の場合(S210:YES)には、組織図で指定された糸の上下関係とh1(i)とh2(j)の大小関係が一致しているといえる。従って、h1(i)およびh2(j)をそれぞれ経糸および緯糸のz座標とすればよく(S211)、次式で表すことができる。
【0039】
上記の条件以外では(S208:NO,S210:NO、または、S208:YES,S209:NO)、経糸と緯糸は干渉しているか、組織図で指定された上下関係とは逆の位置関係となっているので、干渉が発生しているかどうかの判定と、発生していた場合は、干渉回避処理を実行する干渉判定・回避処理(S212、S213)に進む。尚、干渉判定・回避処理の詳細については、既に出願済みの特許(特願2005−24609)で詳しく説明しているので、ここではその説明を省略する。そして、モデリング処理を完了して図2の処理に戻る。
【0040】
次に、3次元モデリングされた織物を引張り及び曲げた場合の変形シミュレーションの説明に移る前に、織物を構成する糸の変形特性について検討する。
引張りなど織物の変形特性にはそれを構成する糸の引張および圧縮挙動が大きく影響することは多くの研究者が報告している。従って、織物変形のシミュレーションを実施するには糸の外力による形状の変形特性を知る必要があるので、ポリエステルマルチフィラメント糸の引張変形および圧縮変形の測定を行った。図6に示すような引張変形試験装置301を用い、チャック間距離200mm、引張速度 20cm/minで糸の引張試験を行い、この時の外径の変化を図7に示したレーザー式外径変位センサ302で測定するとともに、圧縮変形試験装置303で圧縮変形試験をした。圧縮変形については、ガラス板に挟んだ糸に対し上方向から荷重を加え、糸の上方向から観測した太さ変化をビデオマイクロスコープで、側面方向から観測した太さ変化をレーザー変位計を用いて測定した。この時の荷重は電子天秤で測定した。上記の引張試験結果を図8および図9に示す。図8は撚係数が同じ(33.8)で線密度が異なるときの試験結果である。また、図9は線密度が同じ(300D)で撚係数が異なるときの試験結果である。張力の増加により外径は小さくなっていくが、あるところから張力を大きくしても外径はそれほど変化しなくなる。これは、低張力状態では繊維間の空隙が大きく、空隙が限界に近づくと外径の変化が見られなくなるためであると考えられる。また、撚係数が大きくなれば低張力状態ですでに空隙が小さくなっているため、外径変化も小さいものと考えられる。
【0041】
次に、前述の圧縮試験結果を図10〜図12に示す。横軸は糸の単位長さあたりの圧縮荷重(cN/mm)、縦軸は初期の糸断面を円形と仮定しその直径d0に対する圧縮時の太さd1との比を示す。図10は、撚係数を33.8と共通とし、番手が異なる糸の実験結果である。また図11は、番手を300Dと共通とした場合の撚係数が異なる場合の実験結果である。いずれも初期張力は9.8cNとした。また、図12は番手(300D)、撚係数(33.8)とも同じで初期張力が異なる糸の実験結果である。図10、11、12とも低圧縮荷重では圧縮荷重の増加により、太さ、厚みとも大きく変化するが、高圧縮荷重では太さ、厚みとも変化が小さい。図10から番手が異なっても太さ、厚みとも変化の割合はほぼ同じなので、番手は圧縮特性に影響を与えないことがわかる。図11から撚係数が大きい糸の方が撚係数の小さい糸に比べて太さ、厚みとも変化の割合が小さいので、撚係数は圧縮特性に影響を与えている。また図12では初期張力が大きくなると太さ、厚みとも変化の割合は小さくなっていき、高張力状態ではと太さ、厚みとも変化の割合がほとんど変わらない事が確認された。
以上より、伸長張力の変化や撚係数の違いにより糸中の繊維空隙が変化し、この構造の違いにより圧縮特性が異なるものと考えられる。
【0042】
本試験では上方からの圧縮を行ったため、圧縮時の断面を試料糸を切断し観測したところ、断面形状は上下非対称な結果が得られた。このことは、糸が連続体ではなく繊維の集合体である事に起因すると考えられ、圧縮に伴う糸中の繊維の移動をシミュレートするソフトを作成し、糸断面の変形挙動を再現した結果、図13に示すように、実際の圧縮時の断面形状に近い形状を得ることができた。この糸変形シミュレーション手法を用いることで、織物の非変形時における織物中の糸の形状をシミュレートすることが可能になる。
【0043】
次に、外力に伴い、糸形状を変化させた織物変形のシミュレーションを実現するために糸形状を反映させた衝突・変形判定を加えた変形処理アルゴリズムを構築した。引張り変形については、ラベルトストリップ法に相当する1軸引張りをシミュレートする。このとき、織物の変形挙動としては、以下の2段階の挙動をとるものと見なすことが出来る。
フェーズ1:織物の伸長に伴い、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになる。このとき、引張方向の糸のクリンプ高さが低くなるため、直交する糸が引っ張られ、横方向に縮んでいく。
フェーズ2:引張方向の糸のクリンプがまっすぐになった後は、引張方向の糸自身の伸張特性に従い織物が伸張される。
この挙動に従い、断面形状の変化については、前述の糸の変形挙動を参照し、モデルの再構築を行う織物構造の引張シミュレーションアルゴリズムを構築した。図14(a),(b)は、織物の伸張前の正面図と側面図であり、図15(a),(b)は、織物を25%伸張した場合の正面図と側面図である。また、曲げの場合、曲げ方向に対し、曲げの外側では引張応力が、曲げの内側では圧縮応力が加わるので、曲げ方向に直交する糸の断面に対して変形させる処理を加えた。曲げによるシミュレーション結果を図16に示す。
【0044】
本発明の出願に際して、前述のように織物変形の基礎パラメータとなる糸の引張変形および圧縮変形特性の検討を行い、糸の番手や撚係数などの糸の構造パラメータが糸の引張時及び圧縮時における形状変化に及ぼす影響について解析を行った。その結果、伸長張力の変化や撚係数の違いにより糸中の繊維空隙が変化し、この構造の違いにより圧縮特性が異なることが確認された。上記で測定した糸の変形挙動を元に、引張および曲げ変形時の織物構造の変化に従い3次元モデルの再構築を行う3次元モデリングアルゴリズムを新たに構築した。この結果、変形時における織物の、内部構造の3次元モデル化が可能となり糸の変形特性と変形時における織物の3次元シミュレーション手法を応用することで、織物設計におけるCAEの実現ができ、資材用織物など最終用途で必要とされる高機能な特性を実現するための高度な織物設計が可能になると考えられる。
【0045】
次に、3次元モデリングされた織物を引張り及び曲げた場合の変形シミュレーションについて、数式やフローチャートを参照しながら具体的に説明する。
織物変形のシミュレーションを実現するために、変形処理アルゴリズムを構築した。この挙動に従い、織物構造の引張および曲げシミュレーションアルゴリズムを構築した。織物構造の引張および曲げシミュレーションアルゴリズムのフローチャートを図17に示している。尚、本フローチャートをはじめ、図示しているフローチャートは、前述のコンピュータ1により実行される。
m×nサイズの組織図W(i,j) {0≦i<m, 0≦j<n}から従来手法により作成した織物3次元モデルMo (i,j)について、変形処理を行い、変形後の織物3次元モデルM(i,j)を出力する。この時、ユーザーが指定した変形モードが引張変形モードの場合は引張変形計算を、純曲げ変形モードの場合は引張変形計算を実行する。引張変形については、JIS L1096 A法(ラベルドストリップ法)に相当する1軸引張をシミュレートする。変形前の引張方向の織物長さをLt0、変形後の引張方向の織物長さをLt1、変形前の引張方向の糸長さをLy0とおく。このとき、織物の変形挙動としては、以下の2段階の挙動をとるものと見なすことができる。
引張変形処理手順1:Lt1>Ly0の場合、織物の伸長に伴い、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになる。このとき、引張方向の糸のクリンプ高さが低くなるため、直交する糸が引っ張られる。
引張変形処理手順2:Lt1≦Ly0の場合、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになった後は、引張方向の糸自身の伸張特性に従い織物が伸張される。
【0046】
次に、糸長計算アルゴリズムについて説明する。
上記いずれの引張変形処理手順においても、織物中の糸長計算を行っている。糸長計算においては図18に示すように糸のクリンプを直線近似して糸長を算出する手法と、図19に示すように糸のクリンプを直線近似せずに糸長を算出する手法が考えられる。前者では引張変形処理手順1において変形後のモデルに誤差が生じるため、後者の糸のクリンプを直線近似せずに糸長を算出する手法を用いる。
【0047】
一般に、媒介変数表示f(t)=(x(t),y(t),z(t))となる空間曲線の区間の長さは、
(21)で表すことができる。また、本発明では織物中の糸の屈曲を3次ベジェ曲線を用いてモデル化している。そのため、糸のクリンプは、
(22)として表すことができるので、(22)式を(21)式に適用した常微分方程式を求めることで曲線部の長さを求めることが可能となる。実際の算出では常微分方程式の解を求めることは難しいので、前進オイラー法による数値演算で求めた。図20に糸長計算部のフローチャートを示している。
【0048】
次に、引張変形処理手順2のアルゴリズムについて説明する。
Lt1≦Ly0の場合、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになった後は、引張方向の糸自身の伸張特性に従い織物が伸張される。Lt1≦Ly0の条件下において、経糸方向に織物を伸度εだけ伸張変形を行った場合、組織点W(i, j)における経糸の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}、緯糸の座標を{x2(i, j), y2(i, j), z2(i, j)}とおくと、変形後の経糸座標{x''1(i, j), y''1(i, j), z''1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x''2(i, j), y''2(i, j), z''2(i, j)}はそれぞれ
x''1 (i, j) = x1 (i, j) (23)
y''1 (i, j) = y1 (i, j)・{1 + ε} (24)
z''1 (i, j) = 0 (25)
x''2 (i, j) = x2 (i, j) (26)
y''2 (i, j) = y2 (i, j)・{1 + ε} (27)
z''2 (i, j) = sgn{W (i, j)-1/2}・{ r1(i) + r2(j) } /2 (28)
となる。図21に引張変形処理手順2のフローチャートを示す。緯糸方向に織物を伸度εだけ伸張変形を行った場合についても同様の考え方を適用することができる。
【0049】
次に、引張変形処理手順1のアルゴリズムについて説明する。
図22に引張変形処理手順1のフローチャートを示す。Lt1>Ly0の場合、織物の伸長に伴い、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになる。このとき、引張方向の糸のクリンプ高さが低くなるため、直交する糸が引っ張られる。Lt1≦Ly0の条件下において、経糸方向に織物を伸度εだけ伸張変形を行った場合、組織点W(i, j)における経糸の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}、緯糸の座標を{x2(i, j), y2(i, j), z2(i, j)}、変形後の経糸座標{x'1(i, j), y'1(i, j), z'1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x'2(i, j), y'2(i, j), z'2(i, j)}とおく。引張変形処理手順1では、引張方向の糸のクリンプ高さhを、引張変形処理手順2の状態における高さh1と単純に伸度分だけ座標変換を行った状態における高さh2とを極値として考え、その中間状態における変形モデルを順次作成し、最適になる糸高さhを数値演算によって求めるものとする。ここでの数値演算による求解はBrentのアルゴリズムを用いた。
まず、変形前の状態における織物3次元モデルMo(i,j)を作成し、Mo(i,j)について図21の処理フローに従い式(24)〜(28)を用いて座標変換を行い、引張変形処理手順2の変換処理を行った織物3次元モデルM1(i,j)を生成。各経糸の糸長L0(i)を図20に示した手順により計算する。また、この時の各経糸の高さをh0(i)とおく。この場合、引張変形処理手順2の処理を行った場合はすべての経糸についてh0(i)= z''1 (i, j)=0となることは明らかである。
【0050】
続いて織物3次元モデルMo(i,j)から図23の処理フローに従い式(29)〜(34)を用いて座標変換を行い、単純に伸度分だけ座標変換を行った状態の織物3次元モデルM2(i,j)を生成。各経糸の糸長L2(i)を図20に示した手順により計算する。また、この時の各経糸の高さをh2(i)とおく。
x''1 (i, j) = x1 (i, j) (29)
y''1 (i, j) = y1 (i, j)・{1 + ε} (30)
z''1 (i, j) = z1 (i, j) (31)
x''2 (i, j) = x2 (i, j) (32)
y''2 (i, j) = y2 (i, j)・{1 + ε} (33)
z''2 (i, j) = z2 (i, j) (34)
h2 = |z''1 (i, j)| (35)
この時、最適になる糸クリンプ高さhを数値演算により求めるが、数値演算の境界条件としてはh1<h<h 2が適応される。また、任意のhとなる織物3次元モデルをMh(i,j)とし、この時の糸長さをLy(h)とする。任意のhとなったときの経糸座標{x'''1(i, j), y'''1(i, j), z'''1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x'''2(i, j), y'''2(i, j), z'''2(i, j)}はそれぞれ
x'''1 (i, j) = x1 (i, j) (36)
y'''1 (i, j) = y1 (i, j)・{1 + ε} (37)
z'''1 (i, j) = sgn {W (i, j)-1/2}・h (38)
x'''2 (i, j) = x2 (i, j) (39)
y'''2 (i, j) = y2 (i, j) {1 + ε} (40)
z'''2 (i, j) = z2 (i, j)−sgn {W (i, j)-1/2}・h (41)
となる。変換後、各経糸の糸長Ly(i,h)を図20に示した手順により計算する。任意のhとなる織物3次元モデルを生成する手順を図24に示す。
引張変形処理手順1では織物の伸長に伴い引張方向の糸のクリンプがまっすぐになることから、変形前の糸長はほとんど変化しないと考えることができる。したがって、変形前の糸長と座標変換後の糸長Ly(i,h)との間には
g(i,h) = Ly(i,h)− Ly0 =0 (42)
となる必要があるので、式(42)を満たすhを数値演算によって求める。最適となるhを算出する処理フローを図25に示す。求めたhを用いMo(i,j)から式(36)〜(41)を用いて座標変換を行い、変形後の織物3次元モデルM(i,j)を得る。緯糸方向に織物を伸度εだけ伸張変形を行った場合についても同様の考え方を適用することができる。
【0051】
次に、曲げ変形計算アルゴリズムについて説明する。
織物を曲率半径rだけ純曲げを行う場合を考える。曲率κは定義よりκ=1/rとなる。経糸方向に織物を曲率半径rだけ純曲げを行った場合、組織点W(i, j)におけるi番目の経糸における変形前の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}とおくと、変形後の座標{xb1(i, j), yb1(i, j), zb1(i, j)}はそれぞれ
θ1=κy1(i, j) (43)
xb1 (i, j)= x1(i, j) (44)
yb1 (i, j)= ( z1(i, j)+ r ) sin(θ1) (45)
zb1 (i, j)= -(r - ( z1(i, j)+ r )) cos(θ1) (46)
となり、組織点W(i, j)におけるj番目の緯糸における変形後の座標{xb2(i, j), yb2(i, j), zb2(i, j)}はそれぞれ
θ2=κy2(i, j) (47)
xb2 (i, j)= x2(i, j) (48)
yb2 (i, j)= ( z2(i, j)+ r ) sin(θ2) (49)
zb2 (i, j)= -(r - ( z2(i, j)+ r )) cos(θ2) (50)
となる。また、緯糸方向に織物を曲率半径rだけ純曲げを行った場合、組織点W(i, j)におけるi番目の経糸における変形後の座標{xb1(i, j), yb1(i, j), zb1(i, j)}はそれぞれ
θ1=κy1(i, j) (51)
xb1 (i, j)= ( z1(i, j)+ r ) sin(θ1) (52)
yb1 (i, j)= y1(i, j) (53)
zb1 (i, j)= -(r - ( z1(i, j)+ r )) cos(θ1) (54)
となり、組織点W(i, j)におけるj番目の緯糸における変形後の座標{xb2(i, j), yb2(i, j), zb2(i, j)}はそれぞれ
θ2=κy2(i, j) (55)
xb2 (i, j)= ( z2(i, j)+ r ) sin(θ2) (56)
yb2 (i, j)= y2(i, j) (57)
zb2 (i, j)= -(r - ( z2(i, j)+ r )) cos(θ2) (58)
となる。Mo(i,j)から式(43)〜(58)を用いて座標変換を行い、曲げ変形後の織物3次元モデルMb(i,j)を得る。
【0052】
次に、アプリケーションの作成について説明する。
上記で改良を加えた引張変形計算を行うアルゴリズムを元に変形時の織物3次元モデルを出力するソフトウェアを作成した。なお、ソフトウェアの開発にはMicrosoft(登録商標)VisualBASIC.NET(モデラ部)およびVisualC++.NET(ビュワー部)を使用し、Windows(登録商標)XP上で動作を前提としたソフトウェアとして構築した。作成したソフトウェアを図26に示す。また、モデル生成結果を図27及び図28に示す。改良前のモデルではフェーズ1の挙動をあまり正確に反映していなかったが、改良後のモデルではフェーズ1の変形挙動を反映したモデルを生成することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置として機能するコンピュータの電気的構成を示すブロック図である。
【図2】織物の3次元モデル化処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】Peirceモデルにおける交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【図4】図2のモデリング処理の詳細を示すフローチャートである。
【図5】交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【図6】引張変形試験装置で糸の変形特性を試験するための説明図である。
【図7】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験するための説明図である。
【図8】引張変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図9】引張変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図10】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図11】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図12】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図13】糸の圧縮に伴う断面形状のシミュレーション図である。
【図14】(a)は、織物を伸張させる前の糸の正面状態図であり、(b)は、その側面状態図である。
【図15】(a)は、織物を25%伸張させた場合の糸の正面状態図であり、(b)は、その側面状態図である。
【図16】織物を曲げた場合のシミュレーション図である。
【図17】織物の変形シミュレーションのメインフローチャートである。
【図18】Peirceモデルの糸長計算説明図である。
【図19】Peirceモデルの糸長計算説明図である。
【図20】糸長計算のフローチャートである。
【図21】図17のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図22】図17のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図23】図22のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図24】図22のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図25】図22のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図26】織物の3次元モデルを出力するアプリケーションソフトウエア図である。
【図27】織物の3次元モデル生成結果を示した出力表示図である。
【図28】織物の3次元モデル生成結果を示した出力表示図である。
【符号の説明】
【0054】
1 コンピュータ
30 表示制御部
31 モニタ
40 入力検知部
41 キーボード
42 マウス
50 CPU
60 HDD
61 プログラム記憶エリア
62 データベース記憶エリア
106 モデリング処理
130 立体形状画像
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物の3次元モデルを構築するための方法、及び織物の3次元モデルを構築するための装置に係り、詳しくは、織物を伸張した場合、あるいは織物を曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることが可能な織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の発明者らは、3次元コンピュータグラフィックスなどの特殊な知識を必要とせずに、織物限界密度の判定及びそれに基いた製織の可能性を予測するための織物構造のモデル化方法及び織物構造のモデル化装置を開発し、それ(特許文献1参照)を特許出願している。
【0003】
上記特許出願済みの織物構造のモデル化方法及び織物構造のモデル化装置は、織物を伸張した場合、あるいは織物を曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションする領域に至っていない。しかしながら、例えば自動車のシートや内装材などを設計する場合の最近の織物設計分野では、品質向上のために織物の変形特性を予測することが強く求められている。
【特許文献1】特願2005−24609
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明では、上記特許出願済みの織物構造のモデル化方法及び織物構造のモデル化装置により3次元モデリングされた織物を伸張した場合、あるいは曲げた場合に、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることが可能な織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、特許請求の範囲の欄に記載した織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置により解決することができる。
請求項1,2,3,4に記載の織物の3次元モデル構築方法によれば、織物組織図、織物密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行なう行程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する行程と、前記織物の3次元モデルを指定した伸張率まで伸張変形させた場合の織物構造を再計算する行程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する行程とを有している。これにより、3次元モデリングにより集成された織物が伸張された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0006】
請求項5に記載の織物の3次元モデル構築方法によれば、織物組織図、織物密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行なう行程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する行程と、前記織物の3次元モデルを指定した曲率もしくは曲率半径まで屈曲させた場合の織物の3次元モデルを出力する行程とを有している。これにより、3次元モデリングにより集成された織物が屈曲された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0007】
請求項6に記載の織物の3次元モデル構築装置によれば、織物規格データと、物理特性データとが入力されると、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングが行なわれ、各糸の形状が集成された集合体としての織物の3次元モデルが出力されると、織物の3次元モデルを指定した伸張率まで伸張変形させた場合の織物構造の再計算が行なわれるとともに、前記再計算された織物の3次元モデルが出力される。これにより、3次元モデリングにより集成された織物が伸張された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0008】
請求項7に記載の織物の3次元モデル構築装置によれば、織物規格データと、物理特性データとが入力されると、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングが行なわれ、各糸の形状が集成された集合体としての織物の3次元モデルが出力されると、織物の3次元モデルを指定した曲率もしくは曲率半径まで屈曲させた場合の織物の3次元モデルが出力される。これにより、3次元モデリングにより集成された織物が屈曲された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0009】
請求項8,9に記載の記録媒体によれば、記録媒体に記録されたソフトウエアプログラムを例えば汎用のコンピュータにインストールすれば、3次元モデリングにより集成された織物が伸張もしくは屈曲された場合、織物がどのように変形するかを汎用コンピュータでシミュレーションすることができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1,2,3,4に記載の織物の3次元モデル構築方法によれば、3次元モデリングにより集成された織物が伸張された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0011】
請求項5に記載の織物の3次元モデル構築方法によれば、3次元モデリングにより集成された織物が屈曲された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0012】
請求項6に記載の織物の3次元モデル構築装置によれば、3次元モデリングにより集成された織物が伸張された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0013】
請求項7に記載の織物の3次元モデル構築装置によれば、3次元モデリングにより集成された織物が屈曲された場合、織物がどのように変形するかをシミュレーションすることができる。
【0014】
請求項8,9に記載の記録媒体によれば、3次元モデリングにより集成された織物が伸張もしくは屈曲された場合、織物がどのように変形するかを汎用コンピュータ等でシミュレーションすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
まず、本発明の織物の3次元モデル構築装置の構成について図1を参照して説明する。
図1に示すように、コンピュータ1は、周知のコンピュータであり、コンピュータ1の制御を司るCPU50が設けられている。このCPU50には、バス55を介し、CPU50が実行するBIOS等のプログラムを記憶したROM51と、データを一時的に記憶するRAM52と、データの記憶媒体であるCD−ROM54を挿入し、データの読み込みを行うCD−ROMドライブ53と、データの記憶装置であるHDD60とが接続されている。HDD60には、モデリングプログラムを始めとするコンピュータ1で実行される各種のプログラムを記憶するプログラム記憶エリア61、プログラムを実行する際に入力される各種データ等の情報を記憶したデータベース記憶エリア62などが設けられている。
【0016】
さらに、CPU50には、バス55を介して、利用者に操作画面やプログラムの実行結果を表示するためのモニタ31の画面表示処理を行う表示制御部30と、利用者が操作の入力を行うキーボード41やマウス42に接続され、それらの入力の検知を行う入力検知部40とが接続されている。なお、コンピュータ1には、図示外のフレキシブルディスクドライブ、音声等の入出力部、各種インタフェースなどが設けられていてもよい。
【0017】
なお、CD−ROM54には、必要なプログラムが組み込まれたソフトウェアや、このプログラムの実行時に使用される設定やデータ等が記憶されており、導入時には、CD−ROM54からHDD60に設けられたプログラム記憶エリア61などに記憶されるようになっている。尚、コンピュータ1のプログラム及びその使用データ等の取得方法はCD−ROM54によるものに限らず、フレキシブルディスクやMOといった他の記録媒体であってもよく、また、コンピュータ1をネットワークに接続させ、ネットワーク上の他の端末から取得してもよい。
【0018】
次に、以上の構成を有するコンピュータ1において織物立体構造を表示させるための3次元モデル化処理について、図を参照しながら説明する。尚、図2は、織物構造の3次元モデル化処理の流れを示すフローチャートであり、図3は、Peirceモデルにおける交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【0019】
一般に、3次元コンピュータグラフィックスで物体の立体形状を表現するには、第1段階として、対象となる物体を点や線、多角形(ポリゴン)などの幾何学的基本要素群に分割し、それぞれの基本要素の3次元空間における座標群を決定する処理が必要となる。その後、第2段階として、この3次元空間の座標群を2次元空間上に変換して表現する処理を行う。前者の処理をモデリングと呼び、後者の処理をレンダリングと呼ぶ。
【0020】
織物組織図から織物を構成している経緯糸の形状を立体的に表現するには、図2に示すように、織物組織図101と糸の太さ102、織密度103、縞104などの織物規格105に関する情報を元に、構成する経緯糸1本ごとに対して織物中での座標を確定しモデリング処理106を行い、織物の3次元形状モデル107を得る。その後、3次元形状モデルを表示する視点121やモデルの回転角度122、光源123などの表示に関する座標情報124を与え、レンダリング処理125を行うことで、立体形状画像130として表現が可能となる。
【0021】
3次元コンピュータグラフィックスでモデリング処理106を行う場合、複数の多角形の組み合わせでモデルを表現するポリゴンモデルの他、スプライン曲線によってモデルを表現する方法、ベジェ曲線やベジェ曲面によりモデルを表現する方法など、様々な方法が存在する。ここでは、比較的少ないパラメータで表現することができる3次ベジェ曲面によるモデル化手法を採用した。
【0022】
この際、モデル構造を表す座標系は、組織図の左下の組織点を座標の原点として考え、緯糸方向がx軸、経糸方向がy軸、厚さ方向がz軸方向となる右手系の座標系として取り扱い、織物の厚さhに対して中間面となる平面がx−y平面となるように考える。経糸は左から右に、緯糸は下から上に順番に整列しているものとし、左端の経糸および下端の緯糸はそれぞれ0番目の経糸および緯糸と考え、それぞれの糸の位置をiおよびjで表す。組織図の情報を表す行列をW (i, j)と定義する。モデリングの対象となる組織として、経糸m本、緯糸n本で一循環組織となる組織図を用いる場合、行列の添字の範囲は0≦i<m, 0≦j<nとなる。また、行列の値には、経浮きの場合には1の値を、経沈みの場合は0の値をとる。
【0023】
モデリング処理106の前提条件として、織物中の糸の構造は、Peirceモデル(Peirce F.T.; "The Geometry of Cloth Structure", J. Text. Inst., 28, T45 (1937))の構造を取るものと仮定する。ここで、Peirceは織物中の経糸および緯糸の太さはそれぞれすべて同じであるとして取り扱っているが、本実施の形態では図3に示すように織物の設計条件に従い任意の太さの糸が用いられているものとして考え、左からi番目の経糸の半径をr1(i)、下からj番目の緯糸の半径をr2(j)で表すものとする。同様に経糸および緯糸の直径はそれぞれd1(i)、d2(j)で表す。また、経糸の間隔および緯糸の間隔はそれぞれP1およびP2と表すものとする。
【0024】
さて、織物中の糸をベジェ曲面で表現する場合、糸の断面はベジェ曲線で表すことになる。媒介変数tを用いた n次ベジェ曲線r0(t;n)は次式(1)で表現することができる。
【0025】
ここで、Cn・iは2項係数であり、n!/{i!(n-i)!}に等しい。また、piはベジェ曲線の制御点座標を示すベクトルであり、3次元空間ではpi(x,y,z)であり、r0の添字0は最初の制御点がp0であることを示している。最も用いられることの多い3次のベジェ曲線r0(t;3)は、
と表現され、1つの曲線を表現するためにp0、p1、p2、p3の4点の制御点を与える必要がある。
【0026】
一方、媒介変数uおよびvを用いた3×3次のベジェ曲面s00(u,v;3,3)は次式で表現される。
ここで、pi,jはベジェ曲線の場合と同様、ベジェ曲面の制御点座標であり、s00の添字00は最初の制御点がp0,0であることを示している。4辺よりなる1つの曲面を表現するためには4×4の制御点群が必要となる。従って、Peirceモデルにおける単位格子内の糸の屈曲を表現するには、12枚のベジェ曲面が必要となり、120点の座標点を用い192点の制御点の座標を指定しベジェ曲面を作成することで、織物中での糸の立体形状を決定することが可能となる。
【0027】
以上を前提として、3次ベジェ曲面によりモデリング処理106を実行する処理の詳細について図4及び図5を参照して説明する。図4は、図2のモデリング処理106の詳細を示すフローチャートであり、図5は、交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【0028】
まず、ベジェ曲面を用いて糸の屈曲状態を示すには、組織点(i, j)における糸の座標をあらかじめ求め、この座標からベジェ曲面の制御点座標群を求める必要がある。特に、組織点(i, j)における糸の糸のz座標については、組織図の情報に従い糸の上下関係を決めなければならない。そこで、まず、経糸のx座標x1 (i, j)、y座標y1 (i, j)、緯糸のx座標x2 (i, j)およびy座標y2 (i, j)を求める(S201)。ここで、i番目の経糸とi-1番目の経糸との間隔をP1(i)、j番目の緯糸とj-1番目の緯糸との間隔をP2(j)とおく。組織点(i, j)における経糸のx座標x1 (i, j)、y座標y1 (i, j)、緯糸のx座標x2 (i, j)およびy座標y2 (i, j)はそれぞれ次式で表すことができる。
【0029】
一方、組織点(i, j)における糸のz座標については、三原組織などの平面的な織物であるか、二重織などの多層構造組織や、蜂巣織のような立体的な構造を持つ組織であるかにより異なる。後者の場合には、浮き糸組織数の大小が糸の高さに影響を及ぼしているためである。そこで、z座標を求める前に、まず、浮き糸組織数から相対高さの計算を行い(S202)、この算出結果に従って組織点における制御点座標を算出する。
【0030】
i番目の経糸の浮き糸組織数F1(i)は次式で求められ、F1は各要素が0からnの間の整数値をとる数列となる。
【0031】
一方、織物中の相対高さをH1(i)とすると、H1(i)は数列F1より次式で求められる。
ここで、min(s)は数列sの最小値、max(s)は最大値を返す関数である。式(7)はmax(F1) ≠min(F1)の場合で有効であるが、max(F1)=min(F1)の場合は織物中の全経糸の相対高さが同じであると考えることができるので、
と考えることができる。求められる相対高さH1(i)の範囲は-0.5≦H1(i) ≦0.5となり、織物の厚さhから次式で織物中の糸の高さh1(i)を求めることができる。
【0032】
また、緯糸の場合も経糸と同様に、j番目の緯糸の浮き糸組織数をF2(j)は、
となり、織物中の緯糸の相対高さH2(j)は、max(F2)≠min(F2)の場合、
max(F2)=min(F2)の場合、
となる。また、織物中の緯糸の高さh2(j)は、次式のように求められる。
【0033】
以上のようにして求められた糸の高さに基づき、織物中のすべての糸が同じ高さであるか、すなわち平面的な織物であるか否かを判断する(S203)。すべての糸が同じ高さである場合は(S203:YES)、組織点(i, j)における経糸のz座標z1 (i, j)および緯糸のz座標z2 (i, j)は、図5に示すように、織物の厚さhに対して中間面となるx−y平面から経糸の糸軸中心までの距離は緯糸の半径r2に相当するので、次の式(14)および式(15)から組織点(i, j)における糸のz座標を求めることが可能である(S204)。
ここで、sgn(x)はsgn(x) = {1 (x>0)} , {-1 (x<0)} で定義される符号関数である。
【0034】
一方、織物中で糸の高さが異なる場合は(S203:NO)、上記式(14)および式(15)からは糸のz座標を求めることができなくなる。そこで、S202で求めた織物中の経糸の高さh1(i)および緯糸の高さh2(j)を用いて糸のz座標を求める必要がある。
【0035】
まず、組織点(i, j)において、交錯するi番目の経糸とj番目の緯糸の高さが同じであるか否かを判断する(S205)。i番目の経糸とj番目の緯糸の高さが同じである場合、すなわち、h1(i)=h2(j)の場合には(S205:YES)、経糸のz座標z1 (i, j)および緯糸のz座標z2 (i, j)は式(14)および式(15)より、以下の式(16)及び(17)のようになる。
【0036】
また、交錯するi番目の経糸とj番目の緯糸の高さが異なる場合、すなわち、h1(i)≠h2(j)の場合には(S205:NO)、まず、S202で求めた糸の相対高さと、当該経糸及び緯糸の半径との間の関係を調べることにより、糸の干渉が発生している可能性をチェックする(S207)。ここでは、次式が成り立つ場合、経糸と緯糸は干渉していないと考えることができる(S207:YES)。
【0037】
式(18)が成り立つ場合には(S207:YES)、次に、組織図上の経糸と緯糸の上下関係と、S202で求めた糸の相対高さとが一致しているかどうかを、行列W (i, j)の値と相対高さの値の差との関係を調べることにより判断する(S208,S209,S210)。
【0038】
式(18)が成り立つ場合において、経浮き、すなわちW (i, j)=1(S208:YES)かつ、経糸の高さが緯糸より高い、すなわちh1(i)>h2(j)の場合(S209:YES)、または、緯浮き、すなわちW (i, j)=0(S208:NO)、かつ、緯糸の高さが経糸より高い、すなわちh1(i)<h2(j)の場合(S210:YES)には、組織図で指定された糸の上下関係とh1(i)とh2(j)の大小関係が一致しているといえる。従って、h1(i)およびh2(j)をそれぞれ経糸および緯糸のz座標とすればよく(S211)、次式で表すことができる。
【0039】
上記の条件以外では(S208:NO,S210:NO、または、S208:YES,S209:NO)、経糸と緯糸は干渉しているか、組織図で指定された上下関係とは逆の位置関係となっているので、干渉が発生しているかどうかの判定と、発生していた場合は、干渉回避処理を実行する干渉判定・回避処理(S212、S213)に進む。尚、干渉判定・回避処理の詳細については、既に出願済みの特許(特願2005−24609)で詳しく説明しているので、ここではその説明を省略する。そして、モデリング処理を完了して図2の処理に戻る。
【0040】
次に、3次元モデリングされた織物を引張り及び曲げた場合の変形シミュレーションの説明に移る前に、織物を構成する糸の変形特性について検討する。
引張りなど織物の変形特性にはそれを構成する糸の引張および圧縮挙動が大きく影響することは多くの研究者が報告している。従って、織物変形のシミュレーションを実施するには糸の外力による形状の変形特性を知る必要があるので、ポリエステルマルチフィラメント糸の引張変形および圧縮変形の測定を行った。図6に示すような引張変形試験装置301を用い、チャック間距離200mm、引張速度 20cm/minで糸の引張試験を行い、この時の外径の変化を図7に示したレーザー式外径変位センサ302で測定するとともに、圧縮変形試験装置303で圧縮変形試験をした。圧縮変形については、ガラス板に挟んだ糸に対し上方向から荷重を加え、糸の上方向から観測した太さ変化をビデオマイクロスコープで、側面方向から観測した太さ変化をレーザー変位計を用いて測定した。この時の荷重は電子天秤で測定した。上記の引張試験結果を図8および図9に示す。図8は撚係数が同じ(33.8)で線密度が異なるときの試験結果である。また、図9は線密度が同じ(300D)で撚係数が異なるときの試験結果である。張力の増加により外径は小さくなっていくが、あるところから張力を大きくしても外径はそれほど変化しなくなる。これは、低張力状態では繊維間の空隙が大きく、空隙が限界に近づくと外径の変化が見られなくなるためであると考えられる。また、撚係数が大きくなれば低張力状態ですでに空隙が小さくなっているため、外径変化も小さいものと考えられる。
【0041】
次に、前述の圧縮試験結果を図10〜図12に示す。横軸は糸の単位長さあたりの圧縮荷重(cN/mm)、縦軸は初期の糸断面を円形と仮定しその直径d0に対する圧縮時の太さd1との比を示す。図10は、撚係数を33.8と共通とし、番手が異なる糸の実験結果である。また図11は、番手を300Dと共通とした場合の撚係数が異なる場合の実験結果である。いずれも初期張力は9.8cNとした。また、図12は番手(300D)、撚係数(33.8)とも同じで初期張力が異なる糸の実験結果である。図10、11、12とも低圧縮荷重では圧縮荷重の増加により、太さ、厚みとも大きく変化するが、高圧縮荷重では太さ、厚みとも変化が小さい。図10から番手が異なっても太さ、厚みとも変化の割合はほぼ同じなので、番手は圧縮特性に影響を与えないことがわかる。図11から撚係数が大きい糸の方が撚係数の小さい糸に比べて太さ、厚みとも変化の割合が小さいので、撚係数は圧縮特性に影響を与えている。また図12では初期張力が大きくなると太さ、厚みとも変化の割合は小さくなっていき、高張力状態ではと太さ、厚みとも変化の割合がほとんど変わらない事が確認された。
以上より、伸長張力の変化や撚係数の違いにより糸中の繊維空隙が変化し、この構造の違いにより圧縮特性が異なるものと考えられる。
【0042】
本試験では上方からの圧縮を行ったため、圧縮時の断面を試料糸を切断し観測したところ、断面形状は上下非対称な結果が得られた。このことは、糸が連続体ではなく繊維の集合体である事に起因すると考えられ、圧縮に伴う糸中の繊維の移動をシミュレートするソフトを作成し、糸断面の変形挙動を再現した結果、図13に示すように、実際の圧縮時の断面形状に近い形状を得ることができた。この糸変形シミュレーション手法を用いることで、織物の非変形時における織物中の糸の形状をシミュレートすることが可能になる。
【0043】
次に、外力に伴い、糸形状を変化させた織物変形のシミュレーションを実現するために糸形状を反映させた衝突・変形判定を加えた変形処理アルゴリズムを構築した。引張り変形については、ラベルトストリップ法に相当する1軸引張りをシミュレートする。このとき、織物の変形挙動としては、以下の2段階の挙動をとるものと見なすことが出来る。
フェーズ1:織物の伸長に伴い、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになる。このとき、引張方向の糸のクリンプ高さが低くなるため、直交する糸が引っ張られ、横方向に縮んでいく。
フェーズ2:引張方向の糸のクリンプがまっすぐになった後は、引張方向の糸自身の伸張特性に従い織物が伸張される。
この挙動に従い、断面形状の変化については、前述の糸の変形挙動を参照し、モデルの再構築を行う織物構造の引張シミュレーションアルゴリズムを構築した。図14(a),(b)は、織物の伸張前の正面図と側面図であり、図15(a),(b)は、織物を25%伸張した場合の正面図と側面図である。また、曲げの場合、曲げ方向に対し、曲げの外側では引張応力が、曲げの内側では圧縮応力が加わるので、曲げ方向に直交する糸の断面に対して変形させる処理を加えた。曲げによるシミュレーション結果を図16に示す。
【0044】
本発明の出願に際して、前述のように織物変形の基礎パラメータとなる糸の引張変形および圧縮変形特性の検討を行い、糸の番手や撚係数などの糸の構造パラメータが糸の引張時及び圧縮時における形状変化に及ぼす影響について解析を行った。その結果、伸長張力の変化や撚係数の違いにより糸中の繊維空隙が変化し、この構造の違いにより圧縮特性が異なることが確認された。上記で測定した糸の変形挙動を元に、引張および曲げ変形時の織物構造の変化に従い3次元モデルの再構築を行う3次元モデリングアルゴリズムを新たに構築した。この結果、変形時における織物の、内部構造の3次元モデル化が可能となり糸の変形特性と変形時における織物の3次元シミュレーション手法を応用することで、織物設計におけるCAEの実現ができ、資材用織物など最終用途で必要とされる高機能な特性を実現するための高度な織物設計が可能になると考えられる。
【0045】
次に、3次元モデリングされた織物を引張り及び曲げた場合の変形シミュレーションについて、数式やフローチャートを参照しながら具体的に説明する。
織物変形のシミュレーションを実現するために、変形処理アルゴリズムを構築した。この挙動に従い、織物構造の引張および曲げシミュレーションアルゴリズムを構築した。織物構造の引張および曲げシミュレーションアルゴリズムのフローチャートを図17に示している。尚、本フローチャートをはじめ、図示しているフローチャートは、前述のコンピュータ1により実行される。
m×nサイズの組織図W(i,j) {0≦i<m, 0≦j<n}から従来手法により作成した織物3次元モデルMo (i,j)について、変形処理を行い、変形後の織物3次元モデルM(i,j)を出力する。この時、ユーザーが指定した変形モードが引張変形モードの場合は引張変形計算を、純曲げ変形モードの場合は引張変形計算を実行する。引張変形については、JIS L1096 A法(ラベルドストリップ法)に相当する1軸引張をシミュレートする。変形前の引張方向の織物長さをLt0、変形後の引張方向の織物長さをLt1、変形前の引張方向の糸長さをLy0とおく。このとき、織物の変形挙動としては、以下の2段階の挙動をとるものと見なすことができる。
引張変形処理手順1:Lt1>Ly0の場合、織物の伸長に伴い、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになる。このとき、引張方向の糸のクリンプ高さが低くなるため、直交する糸が引っ張られる。
引張変形処理手順2:Lt1≦Ly0の場合、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになった後は、引張方向の糸自身の伸張特性に従い織物が伸張される。
【0046】
次に、糸長計算アルゴリズムについて説明する。
上記いずれの引張変形処理手順においても、織物中の糸長計算を行っている。糸長計算においては図18に示すように糸のクリンプを直線近似して糸長を算出する手法と、図19に示すように糸のクリンプを直線近似せずに糸長を算出する手法が考えられる。前者では引張変形処理手順1において変形後のモデルに誤差が生じるため、後者の糸のクリンプを直線近似せずに糸長を算出する手法を用いる。
【0047】
一般に、媒介変数表示f(t)=(x(t),y(t),z(t))となる空間曲線の区間の長さは、
(21)で表すことができる。また、本発明では織物中の糸の屈曲を3次ベジェ曲線を用いてモデル化している。そのため、糸のクリンプは、
(22)として表すことができるので、(22)式を(21)式に適用した常微分方程式を求めることで曲線部の長さを求めることが可能となる。実際の算出では常微分方程式の解を求めることは難しいので、前進オイラー法による数値演算で求めた。図20に糸長計算部のフローチャートを示している。
【0048】
次に、引張変形処理手順2のアルゴリズムについて説明する。
Lt1≦Ly0の場合、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになった後は、引張方向の糸自身の伸張特性に従い織物が伸張される。Lt1≦Ly0の条件下において、経糸方向に織物を伸度εだけ伸張変形を行った場合、組織点W(i, j)における経糸の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}、緯糸の座標を{x2(i, j), y2(i, j), z2(i, j)}とおくと、変形後の経糸座標{x''1(i, j), y''1(i, j), z''1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x''2(i, j), y''2(i, j), z''2(i, j)}はそれぞれ
x''1 (i, j) = x1 (i, j) (23)
y''1 (i, j) = y1 (i, j)・{1 + ε} (24)
z''1 (i, j) = 0 (25)
x''2 (i, j) = x2 (i, j) (26)
y''2 (i, j) = y2 (i, j)・{1 + ε} (27)
z''2 (i, j) = sgn{W (i, j)-1/2}・{ r1(i) + r2(j) } /2 (28)
となる。図21に引張変形処理手順2のフローチャートを示す。緯糸方向に織物を伸度εだけ伸張変形を行った場合についても同様の考え方を適用することができる。
【0049】
次に、引張変形処理手順1のアルゴリズムについて説明する。
図22に引張変形処理手順1のフローチャートを示す。Lt1>Ly0の場合、織物の伸長に伴い、引張方向の糸のクリンプがまっすぐになる。このとき、引張方向の糸のクリンプ高さが低くなるため、直交する糸が引っ張られる。Lt1≦Ly0の条件下において、経糸方向に織物を伸度εだけ伸張変形を行った場合、組織点W(i, j)における経糸の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}、緯糸の座標を{x2(i, j), y2(i, j), z2(i, j)}、変形後の経糸座標{x'1(i, j), y'1(i, j), z'1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x'2(i, j), y'2(i, j), z'2(i, j)}とおく。引張変形処理手順1では、引張方向の糸のクリンプ高さhを、引張変形処理手順2の状態における高さh1と単純に伸度分だけ座標変換を行った状態における高さh2とを極値として考え、その中間状態における変形モデルを順次作成し、最適になる糸高さhを数値演算によって求めるものとする。ここでの数値演算による求解はBrentのアルゴリズムを用いた。
まず、変形前の状態における織物3次元モデルMo(i,j)を作成し、Mo(i,j)について図21の処理フローに従い式(24)〜(28)を用いて座標変換を行い、引張変形処理手順2の変換処理を行った織物3次元モデルM1(i,j)を生成。各経糸の糸長L0(i)を図20に示した手順により計算する。また、この時の各経糸の高さをh0(i)とおく。この場合、引張変形処理手順2の処理を行った場合はすべての経糸についてh0(i)= z''1 (i, j)=0となることは明らかである。
【0050】
続いて織物3次元モデルMo(i,j)から図23の処理フローに従い式(29)〜(34)を用いて座標変換を行い、単純に伸度分だけ座標変換を行った状態の織物3次元モデルM2(i,j)を生成。各経糸の糸長L2(i)を図20に示した手順により計算する。また、この時の各経糸の高さをh2(i)とおく。
x''1 (i, j) = x1 (i, j) (29)
y''1 (i, j) = y1 (i, j)・{1 + ε} (30)
z''1 (i, j) = z1 (i, j) (31)
x''2 (i, j) = x2 (i, j) (32)
y''2 (i, j) = y2 (i, j)・{1 + ε} (33)
z''2 (i, j) = z2 (i, j) (34)
h2 = |z''1 (i, j)| (35)
この時、最適になる糸クリンプ高さhを数値演算により求めるが、数値演算の境界条件としてはh1<h<h 2が適応される。また、任意のhとなる織物3次元モデルをMh(i,j)とし、この時の糸長さをLy(h)とする。任意のhとなったときの経糸座標{x'''1(i, j), y'''1(i, j), z'''1(i, j)}および変形後の緯糸座標{x'''2(i, j), y'''2(i, j), z'''2(i, j)}はそれぞれ
x'''1 (i, j) = x1 (i, j) (36)
y'''1 (i, j) = y1 (i, j)・{1 + ε} (37)
z'''1 (i, j) = sgn {W (i, j)-1/2}・h (38)
x'''2 (i, j) = x2 (i, j) (39)
y'''2 (i, j) = y2 (i, j) {1 + ε} (40)
z'''2 (i, j) = z2 (i, j)−sgn {W (i, j)-1/2}・h (41)
となる。変換後、各経糸の糸長Ly(i,h)を図20に示した手順により計算する。任意のhとなる織物3次元モデルを生成する手順を図24に示す。
引張変形処理手順1では織物の伸長に伴い引張方向の糸のクリンプがまっすぐになることから、変形前の糸長はほとんど変化しないと考えることができる。したがって、変形前の糸長と座標変換後の糸長Ly(i,h)との間には
g(i,h) = Ly(i,h)− Ly0 =0 (42)
となる必要があるので、式(42)を満たすhを数値演算によって求める。最適となるhを算出する処理フローを図25に示す。求めたhを用いMo(i,j)から式(36)〜(41)を用いて座標変換を行い、変形後の織物3次元モデルM(i,j)を得る。緯糸方向に織物を伸度εだけ伸張変形を行った場合についても同様の考え方を適用することができる。
【0051】
次に、曲げ変形計算アルゴリズムについて説明する。
織物を曲率半径rだけ純曲げを行う場合を考える。曲率κは定義よりκ=1/rとなる。経糸方向に織物を曲率半径rだけ純曲げを行った場合、組織点W(i, j)におけるi番目の経糸における変形前の座標を{x1(i, j), y1(i, j), z1(i, j)}とおくと、変形後の座標{xb1(i, j), yb1(i, j), zb1(i, j)}はそれぞれ
θ1=κy1(i, j) (43)
xb1 (i, j)= x1(i, j) (44)
yb1 (i, j)= ( z1(i, j)+ r ) sin(θ1) (45)
zb1 (i, j)= -(r - ( z1(i, j)+ r )) cos(θ1) (46)
となり、組織点W(i, j)におけるj番目の緯糸における変形後の座標{xb2(i, j), yb2(i, j), zb2(i, j)}はそれぞれ
θ2=κy2(i, j) (47)
xb2 (i, j)= x2(i, j) (48)
yb2 (i, j)= ( z2(i, j)+ r ) sin(θ2) (49)
zb2 (i, j)= -(r - ( z2(i, j)+ r )) cos(θ2) (50)
となる。また、緯糸方向に織物を曲率半径rだけ純曲げを行った場合、組織点W(i, j)におけるi番目の経糸における変形後の座標{xb1(i, j), yb1(i, j), zb1(i, j)}はそれぞれ
θ1=κy1(i, j) (51)
xb1 (i, j)= ( z1(i, j)+ r ) sin(θ1) (52)
yb1 (i, j)= y1(i, j) (53)
zb1 (i, j)= -(r - ( z1(i, j)+ r )) cos(θ1) (54)
となり、組織点W(i, j)におけるj番目の緯糸における変形後の座標{xb2(i, j), yb2(i, j), zb2(i, j)}はそれぞれ
θ2=κy2(i, j) (55)
xb2 (i, j)= ( z2(i, j)+ r ) sin(θ2) (56)
yb2 (i, j)= y2(i, j) (57)
zb2 (i, j)= -(r - ( z2(i, j)+ r )) cos(θ2) (58)
となる。Mo(i,j)から式(43)〜(58)を用いて座標変換を行い、曲げ変形後の織物3次元モデルMb(i,j)を得る。
【0052】
次に、アプリケーションの作成について説明する。
上記で改良を加えた引張変形計算を行うアルゴリズムを元に変形時の織物3次元モデルを出力するソフトウェアを作成した。なお、ソフトウェアの開発にはMicrosoft(登録商標)VisualBASIC.NET(モデラ部)およびVisualC++.NET(ビュワー部)を使用し、Windows(登録商標)XP上で動作を前提としたソフトウェアとして構築した。作成したソフトウェアを図26に示す。また、モデル生成結果を図27及び図28に示す。改良前のモデルではフェーズ1の挙動をあまり正確に反映していなかったが、改良後のモデルではフェーズ1の変形挙動を反映したモデルを生成することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】織物の3次元モデル構築方法及び織物の3次元モデル構築装置として機能するコンピュータの電気的構成を示すブロック図である。
【図2】織物の3次元モデル化処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】Peirceモデルにおける交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【図4】図2のモデリング処理の詳細を示すフローチャートである。
【図5】交錯点における糸の断面の状態を示す説明図である。
【図6】引張変形試験装置で糸の変形特性を試験するための説明図である。
【図7】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験するための説明図である。
【図8】引張変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図9】引張変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図10】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図11】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図12】圧縮変形試験装置で糸の変形特性を試験した結果を示したグラフである。
【図13】糸の圧縮に伴う断面形状のシミュレーション図である。
【図14】(a)は、織物を伸張させる前の糸の正面状態図であり、(b)は、その側面状態図である。
【図15】(a)は、織物を25%伸張させた場合の糸の正面状態図であり、(b)は、その側面状態図である。
【図16】織物を曲げた場合のシミュレーション図である。
【図17】織物の変形シミュレーションのメインフローチャートである。
【図18】Peirceモデルの糸長計算説明図である。
【図19】Peirceモデルの糸長計算説明図である。
【図20】糸長計算のフローチャートである。
【図21】図17のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図22】図17のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図23】図22のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図24】図22のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図25】図22のフローチャートのサブルーチンフローチャートである。
【図26】織物の3次元モデルを出力するアプリケーションソフトウエア図である。
【図27】織物の3次元モデル生成結果を示した出力表示図である。
【図28】織物の3次元モデル生成結果を示した出力表示図である。
【符号の説明】
【0054】
1 コンピュータ
30 表示制御部
31 モニタ
40 入力検知部
41 キーボード
42 マウス
50 CPU
60 HDD
61 プログラム記憶エリア
62 データベース記憶エリア
106 モデリング処理
130 立体形状画像
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物組織図、織物密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行なう行程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する行程と、前記織物の3次元モデルを指定した伸張率まで伸張変形させた場合の織物構造を再計算する行程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する行程と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築方法。
【請求項2】
前記再計算行程は、伸張変形させる前の前記織物の3次元モデルから伸張方向の糸の織込率を計算し、伸張率が織込率以下の場合の第1の再計算処理と、伸張率が織込率以上の場合の第2の再計算処理とのいずれかを自動的に選択して再計算することを特徴とする請求項1に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項3】
前記第1の再計算処理は、織物の伸張率の増加に伴い織物中の伸張方向の糸が、屈曲構造から直線構造に移行するとともにクリンプ高さが低くなるため、織物中の伸張方向に対して直交する糸が引っ張られ、当該糸が織物中の伸張方向に対して直交する方向に縮んでいく現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することを特徴とする請求項1又は2に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項4】
前記第2の再計算処理は、予め測定された糸の応力―ひずみ特性を基に、織物の伸張率の増加に伴って糸の伸張率が増加する現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することを特徴とする請求項1又は2に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項5】
織物組織図、織物密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行なう行程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する行程と、前記織物の3次元モデルを指定した曲率もしくは曲率半径まで織物を屈曲させた場合の織物の3次元モデルを出力する行程と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築方法。
【請求項6】
織物組織図、織物密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行なう3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した伸張率まで伸張変形させた場合の織物構造を再計算したうえ、再計算された織物の3次元モデルを出力する再計算3次元モデル出力手段と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築装置。
【請求項7】
織物組織図、織物密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行なう3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した曲率もしくは曲率半径まで織物を屈曲させた場合の織物の3次元モデルを出力する屈曲変形3次元モデル出力手段と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築装置。
【請求項8】
請求項6に記載した3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、再計算3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録した記録媒体。
【請求項9】
請求項7に記載した3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、屈曲変形3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録した記録媒体。
【請求項1】
織物組織図、織物密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行なう行程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する行程と、前記織物の3次元モデルを指定した伸張率まで伸張変形させた場合の織物構造を再計算する行程と、前記再計算された織物の3次元モデルを出力する行程と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築方法。
【請求項2】
前記再計算行程は、伸張変形させる前の前記織物の3次元モデルから伸張方向の糸の織込率を計算し、伸張率が織込率以下の場合の第1の再計算処理と、伸張率が織込率以上の場合の第2の再計算処理とのいずれかを自動的に選択して再計算することを特徴とする請求項1に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項3】
前記第1の再計算処理は、織物の伸張率の増加に伴い織物中の伸張方向の糸が、屈曲構造から直線構造に移行するとともにクリンプ高さが低くなるため、織物中の伸張方向に対して直交する糸が引っ張られ、当該糸が織物中の伸張方向に対して直交する方向に縮んでいく現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することを特徴とする請求項1又は2に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項4】
前記第2の再計算処理は、予め測定された糸の応力―ひずみ特性を基に、織物の伸張率の増加に伴って糸の伸張率が増加する現象を踏まえて織物の3次元モデルを再計算することを特徴とする請求項1又は2に記載の織物の3次元モデル構築方法。
【請求項5】
織物組織図、織物密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行なう行程と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する行程と、前記織物の3次元モデルを指定した曲率もしくは曲率半径まで織物を屈曲させた場合の織物の3次元モデルを出力する行程と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築方法。
【請求項6】
織物組織図、織物密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行なう3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した伸張率まで伸張変形させた場合の織物構造を再計算したうえ、再計算された織物の3次元モデルを出力する再計算3次元モデル出力手段と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築装置。
【請求項7】
織物組織図、織物密度、糸の太さのいずれかを少なくとも含む織物規格データと、糸の引張特性、圧縮特性のいずれかを少なくとも含む物理特性データとを入力値として、織物を構成している各糸の形状の3次元モデリングを行なう3次元モデリング手段と、前記糸の形状が前記3次元モデリングにより集成された集合体としての織物の3次元モデルを出力する3次元モデル出力手段と、前記織物の3次元モデルを指定した曲率もしくは曲率半径まで織物を屈曲させた場合の織物の3次元モデルを出力する屈曲変形3次元モデル出力手段と、を有することを特徴とする織物の3次元モデル構築装置。
【請求項8】
請求項6に記載した3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、再計算3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録した記録媒体。
【請求項9】
請求項7に記載した3次元モデリング手段、3次元モデル出力手段、屈曲変形3次元モデル出力手段を実行するためのソフトウエアプログラムを記録した記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
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【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
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【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2006−274521(P2006−274521A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100230(P2005−100230)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
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