説明

織物用ポリエステル繊維

【目的】 高紡糸速度直接延伸方法により製造された繊維であって、従来の低紡糸速度で製造される繊維と同等の条件で製織、後加工のできるポリエステル繊維を提供する。
【構成】 引取速度3000m/分以上で溶融紡糸され、次いで直接延伸されたポリエステル繊維であって、(a)25%≦伸度≦40%、(b)複屈折率≧0.12、(c)熱収縮応力特性値≦0.007g/de・℃、(d)熱収縮応力開始温度≧65℃、(e)熱収縮応力ピーク温度≧130℃、(f)乾熱特性値≧0.1×乾熱温度−7%、(g)6%≦沸水収縮率≦12%、(h)3nm≦結晶サイズ≦6nmを同時に満足するポリエステル繊維。
【効果】 特定の熱収縮応力特性を有するので、従来と同等の条件で製織できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高紡糸速度直接紡糸延伸方法により得られる合理化・汎用性を狙った織物用ポリエステル繊維に関する。
【0002】更に詳しくは、高紡糸速度直接紡糸延伸方法によって得られたポリエステルマルチフィラメント糸であって、従来使用されている繊維即ち低紡糸速度別延伸方法あるいは低紡糸速度直接紡糸延伸方法により得られる繊維と同一製織条件で製織しても、製織性・品位・風合共に同一レベルである織物用ポリエステル繊維に関するものである。
【0003】
【従来の技術】従来、製織・編用の織物用ポリエステル繊維としては、紡糸引取速度1000〜1500m/分で引取った未延伸糸をポリエステル繊維のガラス転移点温度Tg(約70〜80℃)以上に加熱しつつ、引き続き2〜3倍の速度で延伸して得られる延伸糸を用いるのが一般的であり、紡糸工程と延伸工程との2工程を別々に行う低紡糸速度別延伸方法(以下FOYと称する)と、2工程を直結して行う低紡糸速度直接紡糸延伸方法(以下SDYと称する)の2種類の製糸方法で操業化・生産されている。
【0004】しかし、FOYのような方法では工程数が多く製造コストが高くなるため、SDYのような方法が多量生産型・合理化型で、FOYよりも工程数もかからずコストは安くなりこちらが主流になってきている。また、更に合理化・コストダウンを狙って、近年高速化の検討が行なわれていているのが実情である。特に、この高速化においては、2種類の製糸工程に大別され、1つは、高紡速直接紡糸方法であり、この方法は、ポリエステルを溶融吐出後冷却・固化した後6000m/分以上で捲取る方法で紡糸口金から捲取機の間には、延伸を付与する工程を含まない製糸方法である。かかる方法によって得られる繊維は、FOY,SDY繊維の物性と比較すると強度が若干低めで、高結晶性・高易染性・高起毛性の特徴を有するものである。もう1つの方法は、高紡速直接紡糸延伸方法であり、先のSDYよりも更に高速化した製糸方法である。この方法によって得られる繊維は、前記高紡速直接紡糸方法によって得られる繊維と同様な傾向を示すとともに、SDYによって得られる繊維に類似した物性も一部有するものである。
【0005】しかしながら、かかる高速製糸方法によりコスト合理化を推し進める場合、あるいはかかる方法により得られる繊維を用いてさらに、高付加価値製品を得ようとする場合、現状の生産・後加工等の条件を変えることが必須になると、結局コストは上がってしまうことになる。特に操業生産の場合においては安定した工程調子が重要であり、断糸回数が増えると屑単位も増加し合理化とは逆行するし、また、後加工においては製織条件を従来品(FOY・SDY品)と同等にする必要があることから、さらに改善が望まれている。すなわち、製織条件を銘柄ごとに切り替える必要があるということは、それ自体市場の合理化体制を崩すことであり、いくら製糸時の生産・操業でコストダウンをはかっても、後加工・製織時等でコストアップしたのでは、トータルとしてコストダウンは達成できないのである。
【0006】以上の如く、現状の高速化による高紡速直接紡糸方法あるいは高紡速直接紡糸延伸方法のいずれの方法によって得られるポリエステル繊維も、後加工でFOY・SDYと同一条件で製織することは困難なものであり、特に幅入れしにくい(縮まない)、風合が合わない(柔らかい)という問題点を有するものであった。
【0007】
【発明の目的】本発明は、上記従来技術の諸欠点がなく製織時の熱セット温度をFOYやSDYと同一となしても、製織後の品位・風合がFOYやSDYと同レベルの織物が得られる高速製糸された織物用ポリエステル繊維を提供することを目的とする。
【0008】
【発明の構成】本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、驚くべきことに、高紡速領域で製糸した繊維であっても、特定の糸構造を有し、かつ熱収縮応力挙動と後記する乾熱特性値が特定の範囲内にあるマルチフィラメント糸条は、従来使用されている繊維と同一製織工程を経て、同一熱セット温度条件、高温高圧染色条件で後加工を施しても、製織後の織物の幅入れ、風合に対して、従来使用されている繊維の織物となんら遜色のない織物が得られることを見い出し、本発明に到達した。
【0009】すなわち、本発明は、引取速度が3000m/分以上で溶融紡糸され次いで直接延伸された主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステルマルチフィラメント糸であって、下記(a)〜(h)の物性を同時に満足することを特徴とする織物用ポリエステル繊維である。
(a)伸度(EL):25%≦EL≦40%(b)複屈折率(ΔN):ΔN≧0.120(c)熱収縮応力特性値(TSCV):TSCV≦7×10-3g/De・℃(d)熱収縮応力開始温度(TST):TST≧65℃(e)熱収縮応力ピーク温度(TSP):TSP≧130℃(f)乾熱特性値(ECV):ECV≧0.1・T―7%(g)沸水収縮率(BWS):6%≦BWS≦12%(h)結晶サイズ(CS):3.0nm≦CS≦6.0nm。
【0010】ここで、熱収縮応力特性値TSCVは、熱収縮応力曲線において、収縮応力が開始する温度(TST)から収縮応力が最大値を示す温度(TSP)迄の間の変曲点に接線を引いた時の最大傾きで示される。
【0011】また、乾熱特性値(ECV)は、120℃以上180℃以下の空気雰囲気下で長さ70cmの糸条の端にデニール当り0.2gの荷重をかけた後、20秒間で縮んだ収縮差を元の糸長に対して、百分率で表わしたもので、Tはその時の雰囲気温度である。
【0012】本発明のポリエステル繊維は、繰り返し単位がエチレンテレフタレートから主としてなるポリエステルフィラメントを主たる対象とする。しかし、テレフタル酸成分及び/又はエチレングリコール成分以外の第3成分を少量(通常テレフタル酸成分に対して20モル%以下)共重合したものであってもよく、また他種ポリマーを少量(通常ポリエステルに対して10重量%以下)混合せしめたポリエステルであってもよい。
【0013】また、前記ポリエステル中には、必要に応じて、制電性、艶消剤、導電剤、可塑剤、紫外線吸収剤、染色性改良剤等の添加剤を混入せしめてもよい。
【0014】本発明のポリエステル繊維を構成するフィラメントの伸度(以下ELと称する)は、25〜40%にする必要がある。ELが25%未満のものは、製織後の風合が硬く、逆に40%を越えるものは、織物とした際の寸法安定性が劣り、引張りに対する腰がなく、風合も柔らかくなる。また、このELを得る際の荷伸曲線においては、一次降伏応力点を有しないことが好ましい。降伏応力点を有すると、高速でウォータージェットルームで製織した際に緯斑・緯ヒケが発生しやすくなるとともに、製織後の熱セット時に降伏応力部での熱履歴差により筋斑が発生しやすくなるため、品位的に望ましくない。
【0015】次に、複屈折率(ΔN)は、0.120以上にする必要がある。ΔNが0.120未満のものは、配向が十分でないため、製織後に熱セットを施しても張りがなく現状のFOY,SDYより張・腰が弱い感じを与える。なお、ΔNの上限は0.200、好ましくは0.150〜0.160程度である。
【0016】次に、熱収縮応力特性値等TSCV,TST,TSPは後述の実施例に記載の方法で測定した下記に示す値であり、この特性値も製織後の後加工、風合に大きな影響を与えるものである。まずTSTは、熱収縮応力が開始する温度であり、この温度は65℃以上にする必要がある。65℃未満では、熱セット時の収縮が早く始まるために、風合的に硬い印象を与え、また幅入れもし難く、厚みのない織物ができやすい。このTSTが65℃以上であれば、特に風合等で問題は起らないが、TSTは90℃以下、好ましくは75〜85℃程度以下とするのが望ましい。なお、熱収縮応力曲線を図1に示すが、本発明にかかる(a)曲線のTSTはA1 、また本発明外にかかる(b)曲線のTSTはB1 である。
【0017】次にTSPは、熱収縮応力のピーク温度であり、この温度は130℃以上にする必要があり。TSPが130℃未満のものは、紡糸・延伸段階での配向と熱セットが十分でないために、製織後の熱セット(プレセット)あるいは染色工程時に縮みにくくなり、厚み(ふくらみ)のない薄い織物しか得られなくなる。TSTは、好ましくは135〜150℃であることが望ましく、FOYやSDYと同様な張り・腰が得られる。このTSPは、図1(a)曲線ではA2 、(b)曲線はB2 で示される。
【0018】本発明においては、かかる温度特性値の他に、熱収縮応力曲線における、熱収縮応力の開始する温度(立上り温度)から熱収縮応力が最大となるまでの間での最大傾きが重要となる。この傾きが大きいほど収縮過程での変化が大きくなるために、現行での製織条件・後加工条件・染色条件では、風合が硬くなり易く、しかも幅入れがしにくくなるため厚みのない織物が出来上がってしまう。したがって、この特性値TSCVは7×10-3g/De・℃以下とする必要があり、これは図1では(a)曲線のA、(b)曲線のBで、熱収縮応力開始温度(TST)から温度上昇と共に収縮応力が高くなっていく時の曲線の最大傾き、すなわちこの曲線の変曲点の接線の傾きで表わされる。このTSCVが7×10-3g/De・℃を越える場合には、低温側での収縮が大きく、高温側では縮まらなくなるために、風合的には薄い印象を与えることとなる。なおTSCVは、7×10-3g/De・℃以下であれば風合・幅入れ的に問題ないものの、好ましくは4〜5×10-3g/De・℃とするのが望ましい。
【0019】更に、乾熱特性値を示す前述の方法で測定したECVは、乾熱雰囲気温度Tが120〜180℃(実際のWJL等の製織後の熱セット温度は130〜170℃である)の範囲で(0.1・T―7)%以上が必要である。ECVが(0.1・T―7)%未満の場合には、熱セット時の縮みが少なくなるため、FOY・SDYと異なる風合、目張り(透けて見えやすく、膨ら味がない)となり好ましくない。特にECVが(0.1・T―7)%未満となりやすい繊維は、伸度高めで結晶サイズが非常に大きい構造を持つもので、製糸条件では、4500m/分以上で紡糸した後延伸を施さないかあるいは延伸を施しても1.01〜1.20倍位の低倍率で延伸を施す条件で起こり易い。かかる条件で得られる繊維と本発明の繊維のECV―乾熱温度Tとの関係を図2に示し、本発明の(a)曲線は単調に特性値が増加するのに対し、(b)曲線は140〜150℃付近で頭打ちの状態となる。この差異が、従来のものでは後加工・染色条件で風合が硬くなり、幅入れもし難くなる原因と推定される。なお、このECVの温度範囲Tは120〜180℃であるが、通常は120,150,180℃の3点で測定し、3点共ECVが前記関係式を満足していれば十分である。より厳密に測定する必要がある場合には、150〜180℃の間で10℃おきに測定するのが良い。
【0020】次に沸水収縮率(BWS)は、6〜12%、好ましくは8〜10%である必要がある。6%未満の場合には幅入れし難くなり、一方12%を越える場合には縮みすぎて風合の点で好ましくない。結晶サイズについては、大きくなる程、WJLによる筬の開口運動時の糸同志あるいは糸対金属の擦過によるフィブリル発生が減少するため好ましいが、あまりに大きくなりすぎると熱セット後の幅入れ・膨ら味が低下する傾向があるので、3〜6nm、好ましくは4〜5nmとする必要がある。
【0021】次に図3に本発明の繊維を製造する製糸工程の一例を示すが、溶融温度285℃以上にし、パック1を経て紡糸口金から溶融吐出される糸条3は、冷却・固化後、油剤付与装置4でオイリングされインターレース5で、引取ローラ(第1ゴデットローラ)6に糸条3が引取られる前に、非常に絡みの弱いインターレース(交絡)をかけられた後延伸ローラ(第2ゴデットローラ)7で延伸されインターレースノズル8により再度インターレース処理を施された後、捲取機10により捲取られる。この時、延伸ローラの後に第3ゴデットローラ(冷ローラ)9を用いて、この7と9のローラ間でインターレースノズル8′によりインターレース処理が施されても構わない。
【0022】かかる製糸工程においては、本発明のポリエステル繊維を得るためには、下記に示す方法を採ることが大切である。すなわち、まず冷却・固化後、油剤付与装置でオイリングを施された糸条は、引取ローラ前にインターレースノズル5によりインターレース処理が施されるが、この時のインターレースノズル圧空は、0.5〜2.0kg/cm2 ・Gであることが大切であり、インターレース個数は、ロッシェルド測定機でのフック・ドロップ法で0〜3ケ/m程度でなければならない。インターレースノズル圧空が0.5kg/cm2 ・G未満の場合には、第1ゴデットローラー上での糸揺れが大きくなるため断糸し易く、また単糸のバラケが大きくなるため3000m/分以上での引取りが困難になり生産上の問題がある。一方、2kg/cm2 ・Gを越える場合には、糸条へのインターレースの絡みが強くなるために未延伸を発生し易く、染斑・品質的に好ましくない。なお、使用するインターレースノズルはどのようなものであってもよく、例えば糸導孔が1〜2mmの丸形状で、圧空噴射孔が0.5〜1.0mmの丸形状で、3孔が線対称位置に有しているものを例示することができるが、2,4,5,6孔を有するものでも構わない。
【0023】また、引取りローラ6及び延伸ローラ7はいずれも加熱可能であることが重要であり、まず引取ローラの温度は、ガラス転移温度以上であることが染斑及び品位を改善する上で必要であり、90℃以上好ましくは90〜100℃とするのが望ましい。90℃未満の場合には、引取ローラと延伸ローラ間の延伸点が固定されにくいため、染斑が発生し易く好ましくない。一方100℃を越える場合には、引取ローラ上での糸揺れが大きくなり易く、ローラ上での糸重なりが発生して断糸し易くなるため望ましくない。
【0024】以上述べたように、引取ローラ前でのインターレース処理及び引取ローラでの温度条件は、染斑・工程調子に影響を与えるが、本発明のポリエステル繊維を得るには、特に熱セット温度(延伸ローラ温度)及び延伸倍率を特定範囲にすることが大切である。
【0025】延伸ローラの温度はTSCV,TST,TSPを決める大きな要因であり、この温度は120℃以上が好ましく、120℃以上にすることにより、TSPを挙げることができ、且つTSCVを下げることができる。この温度が120℃未満の場合には、沸水収縮率が大きくなりすぎ、またTSP及びTSTが低温側に移り、且つTSCVも大きくなるため好ましくない。特に好ましい温度範囲は、125〜140℃であり、140℃を越える場合には、高速紡糸直延方式では糸揺れが大きくなり易いため断糸回数が増加する傾向にあり好ましくない。
【0026】また、前記引取ローラ及び延伸ローラの温度と同様に重要な熱処理時間は、特に高速製糸の場合重要である。通常低速直延では、引取ローラの熱処理時間は0.1〜0.15秒、延伸ローラの熱処理時間は0.03〜0.05秒であるため延伸ローラの温度を通常高目にしている。本発明においては、引取ローラの熱処理時間は0.08〜0.15秒、延伸ローラの熱処理時間は0.03〜0.04秒にする。この処理時間未満では、引取ローラの場合には染斑が発生し易く、延伸ローラの場合には風合及び幅入れに問題が発生し易い。従って、該温度と共に、この熱処理時間が重要なのである。
【0027】図3の工程で製糸する場合、紡糸速度が3000m/分未満の場合には繊維の耐フィブリル性が悪くなって製織時の毛羽立ちが問題となり、また、コスト合理化といった点からも望ましくない。
【0028】次に延伸倍率(延伸速度)は1.4倍以上、好ましくは1.5〜1.7倍とする。1.4倍未満の場合には、分子の配向が不十分なため伸度が高くなったり、乾熱特性値ECVが低くなり易い。一方、1.7倍を越える場合には、TSCV,TSP,ECV等の特性は満足するが工程調子が悪くなり易い。
【0029】更に、捲取速度が5000m/分未満の場合には、十分な配向が得難く、製織時の毛羽立ち、製織後の寸法安定性(幅入れ)が悪くなり易く、且つコスト合理化を狙う高紡速直接紡糸延伸方法としては望ましくはない。
【0030】
【実施例】以下に、実施例をあげて本発明を詳述する。なお、各実施例、比較例において、EL,ΔN,TSCV,TST,TSP,ECV,BWS,CSは下記の方法で測定した。
【0031】(イ)伸度(EL)
島津製作所オートグラフを使用し試料長20cm、引張り速度100%/分で測定した。
【0032】(ロ)複屈折率(ΔN)
偏光顕微鏡により単色(ナトリウム)ランプのもとで、コンペンセーターの補正角度から求めたレーターディションと干渉縞の数及び試料の直径から複屈折率ΔNを求めた。(異形断面糸の場合は、丸断面のΔNを測定し、丸断面糸と異形断面糸の音波速度により算出し、この時、使用した装置は東洋ボールドウィン社製レオーバイブロンDT―Vである)。
【0033】(ハ)乾熱特性値(ECV)
東洋紡エンジニアリング社製 ε0.2 装置を使用し、乾熱状態の雰囲気温度で120〜180℃にし、フィラメント糸のデニール(Total デニール)に0.2g/デニールの荷重をかけ雰囲気温度に20秒さらした時の収縮率を測定回数10回の平均で示す。
【0034】(ニ)沸水収縮率(BWS)
JIS―L 1073に準じて測定した。すなわち、フィラメント糸に1/30g/デニールの荷重をかけ、その長さL0 を測定する。次いで、その荷重を取り除き該フィラメント糸を沸騰水中に30分間浸漬する。その後、フィラメント糸を沸騰水から取外し、冷却後再び1/30g/デニールの荷重をかけてその時の長さL1 を測定する。沸水収縮率は次式より算出される。
BWS={(L0 ―L1 )/L0 }×100(%)
(ホ)熱収縮応力特性値(TSCV,TSP,TST)
カネボウ製収縮応力測定器を使用し、5cmの輪状糸を作り、測定把持部に糸条を把持させ昇温速度120sec /300℃、初荷重デニール/30gで行い、収縮応力が始まる(応力が上昇する)温度をTSTとし、収縮応力が一番高い値を示す温度をTSPとし、TSTからTSP迄の曲線の変曲点(接点の傾きが最大の点)で接線をひき、その傾きをTSCVとした。なおTSCV値は、図1中のΔTSTとΔTSSの比ΔTSS/ΔTSTで算出される。
【0035】(ヘ)結晶サイズ(CS)
理学機器のX線回折装置を使用し、広角X線回折法により10°≦2θ≦35°の範囲で測定し、(100)面のピークの半価幅より求めた。
【0036】
【実施例1〜3】固有粘度が0.635、艶消剤0.3重量%のポリエチレンテレフタレートを溶融温度295℃で溶融吐出後、冷却して紡糸速度3250,4000,4200m/分と変更し、引き続いて延伸速度を各々5500,6000,6200m/分と変更し、引取ローラ温度は90℃一定にし、延伸ローラ温度は各々125℃,130℃,130℃とし、且つ延伸ローラ熱処理時間は各々0.034,0.031,0.030秒として最終的に75デニール/36フィラメントの糸条を得た。
【0037】得られた糸条の物性を表1に示す。この糸条を製織した後150℃で熱セットしたところ、幅入れ(寸法安定性)が良好で且つ風合の良好な織物が得られた。また、コストの優位性にも優れているものであった。
【0038】
【比較例1,2】固有粘度が0.635、艶消剤0.3重量%のポリエチレンテレフタレートを溶融温度295℃で溶融吐出後、冷却して紡糸速度1300m/分、別延伸で1000m/分捲取で倍率3.2倍で延伸し最終的に75デニール/36フィラメントの延伸糸条を得た(比較例1)。一方、紡糸した後引き続いて延伸速度3900m/分で同一デニール糸を得た(SDY:比較例2)。これらの糸条の特性値及び実施例1と同様に製織した際の評価結果を表1に示す。なお、これらは従来使用されているポリエステル繊維である。
【0039】
【比較例3】比較例2において、紡糸速度を2500m/分とした以外は全て比較例2と同一条件で行ったものであるが、その結果は表1に示す如く、製織後の品位は比較例1,2と同レベルであるものの、そのコスト優位性は小さい。
【0040】
【比較例4〜10】実施例1において、紡糸速度、延伸速度及び延伸ローラ温度を表1に記載の如く変更する以外は実施例1と同様に行った。その結果は表1に示す如く、比較例4はELが高く、ΔNが低いために、風合的に薄く柔らかい感じがし、しかも幅入れが難しいものであった。比較例5は、TSPが低いために、風合が若干柔らかくなり製織後の熱セット条件を変更しなければならないものであった。比較例6は、熱セットは実施していないため、TSPが低く、CSが最も大きく、且つコスト優位性では最も良いが、生産性(工程調子)及び製織性については、歩留りが悪く、製織後の品位も従来と異なり、製織後の熱セット、温度条件等の加工条件を変更しなければならないものであった。比較例7は、ELが低いために風合が悪化し、且つ若干幅入れし難いものであった。
【0041】、また比較例8は、延伸ローラ温度が低すぎるために、収縮率が高くなりすぎて風合的にがさつき感を与えるもので、一方比較例9は、延伸ローラ温度が高すぎるために収縮率が低くなりすぎて幅入れし難く且つ風合も硬くなり易いものであった。しかもローラへの捲付きも発生し、生産性の点でも問題があった。
【0042】また比較例10は、伸度が40%を越え且つ結晶サイズが3nmより小さいため、寸法安定性が不充分で、また製織時のワーパー毛羽発生が多いものであった。
【0043】
【表1】


【0044】
【表2】


【0045】
【発明の効果】以上に詳述したように、本発明にあっては、高紡糸速度で直接紡糸延伸して製造されたものであるものの、特定の物性値を有しているので、従来採用されている製織、後加工等での諸条件をそのままにしたままで、品位、特に風合や寸法安定性(幅入れ)において従来と同等のものが得られるといった特徴を有する。したがって、本発明のポリエステル繊維は、後加工工程(例えば製織)が従来と同じ条件でできるので、高速製糸による製糸のコスト合理化が、後加工でのコストアップを引き起すことなくできるものであって、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】熱収縮応力特性値を示すもので、(a)曲線が本発明のポリエステル繊維の1例であり、(b)曲線が本発明外のポリエステル繊維の1例である。
【図2】乾熱収縮特性値を示すもので、(a)曲線が本発明のポリエステル繊維の1例であり、(b)曲線が本発明外のポリエステル繊維の1例である。なお、斜線部が本発明の範囲内である。
【図3】本発明のポリエステル繊維を得るための製糸工程の、一態様を示す正面略図である。
【符号の説明】
1 パック本体
2 紡糸口金
3 糸条
4 油剤付与装置
5 インターレースノズル
6 引取ローラー
7 延伸ローラー
8,8′ インターレースノズル
9 第3ゴデットローラー
10 捲取機
1 ,B1 夫々(a),(b)曲線のTST
2 ,B2 夫々(a),(b)曲線のTSP
A, B 夫々(a),(b)曲線のTSCV

【特許請求の範囲】
【請求項1】 引取速度が3000m/分以上で溶融紡糸され次いで直接延伸された主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステルマルチフィラメント糸であって、下記(a)〜(h)の物性を同時に満足することを特徴とする織物用ポリエステル繊維。
(a)伸度(EL):25%≦EL≦40%(b)複屈折率(ΔN):ΔN≧0.120(c)熱収縮応力特性値(TSCV):TSCV≦7×10-3g/De・℃(d)熱収縮応力開始温度(TST):TST≧65℃(e)熱収縮応力ピーク温度(TSP):TSP≧130℃(f)乾熱特性値(ECV):ECV≧0.1・T―7%(g)沸水収縮率(BWS):6%≦BWS≦12%(h)結晶サイズ(CS):3.0nm≦CS≦6.0nmここで、熱収縮応力特性値TSCVは、熱収縮応力曲線において、収縮応力が開始する温度(TST)から収縮応力が最大値を示す温度(TSP)迄の間の変曲点に接線を引いた時の最大傾きで示される。また、乾熱特性値(ECV)は、120℃以上180℃以下の空気雰囲気下で長さ70cmの糸条の端にデニール当り0.2gの荷重をかけた後、20秒間で縮んだ収縮差を元の糸長に対して、百分率で表わしたもので、Tはその時の雰囲気温度である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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