説明

織物用糸のためのサイジング剤としてのアミロースデンプン生成物

本発明は、化学的に無修飾のアミロース型デンプン製品の、天然および/または合成糸をサイジングするためのサイジング剤としての使用に関する。本発明はまた、化学修飾されたアミロース型デンプン製品をサイジング剤として用いて、天然および/または合成糸をサイジングする方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然の、化学的に無修飾のアミロース型デンプンの、天然および/または合成の織物用糸、および混紡糸のためのサイジング剤としての使用、ならびにそれらのデンプン生成物を用いて織物用糸をサイジング(糊付け)する方法に関する。本発明は、さらに、化学修飾されたアミロース型デンプンの、天然および/または合成の織物用糸、および混紡糸のためのサイジング剤としての使用、ならびに化学修飾されたアミロース型デンプン生成物を用いて織物用糸をサイジングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
織物は、糸が直角に交差する(経糸と緯糸)形態の繊維から構成される二次元の物体であり、杼口(shed)形成法を用いて作製される。それぞれの緯糸は、所定の位置に配置されるほんの短い間だけ圧力を受けるのに対して、経糸は、緯糸を挿入するたびに、さらに杼口を変えるごとに、繰り返し圧力を受ける。経糸は、筬(reed)で緯糸を押すときに糸と金属が擦れる形で圧力を受け、杼口を変える時に糸と糸が擦れて圧力を受け、さらに、繰り返し伸ばすプロセスにより圧力を受ける。経糸は、通常、こうした極度の圧力に耐えることは不可能であり、したがって、繊維に付着して耐摩耗性の弾力性のある被膜を形成する保護的なコーティング、すなわちサイジング剤を付与しなくてはならない。短繊維紡績糸と一体となって、サイジング剤は、製織の間に発生する摩擦過程に耐える糸をつくる役割を果たす。突出した繊維が糸の本体に付着するようにして、隣り合う経糸が絡んだりもつれたりしないようにする。糸の引っ張り強さが全体としておよそ20%増加することはあまり重要でなく、もっとも弱いポイントでの強さの増加がきわめて重要である。
【0003】
サイジング剤は繊維に強く付着しなければならず、その被膜特性は気候条件、特に大気中の湿度とはおおむね無関係であるべきであり、繊維の仕上げおよびサイジング添加剤の影響を受けるべきでない。サイジング剤の存在によって、経糸の伸びが低下すべきでない。
【0004】
生地が織られた後、サイジング剤の役目は完了する。サイジング剤は、その後の仕上げプロセスに通常、悪影響を及ぼすことがあるので、完全に除去しなくてはならない。冷水に可溶性のサイジング剤ならば除去は簡単であるが、冷水に不溶性のデンプン生成物は、糊抜き段階の前に予備的な酵素分解または酸化分解を必要とする。サイジング剤の除去は、最終加工工場において特有の廃水処理問題を引き起こす可能性がある。
【0005】
数多くのクラスの化学物質がサイジング剤として使用される。これらの物質は2つの主要なグループに分けられる。
1) 高分子天然物およびその誘導体:デンプンおよびデンプン誘導体、カルボキシメチルセルロース、ガラクトマンナン、およびタマリンド粉誘導体
2) 合成高分子:ポリビニルアルコール、ポリメタクリレート、ポリエステル縮合物、およびポリビニル化合物。
【0006】
合成繊維の発展および製織技術の発達は、合成サイジング剤の開発を促進した。
【0007】
使用されるべきサイジング剤は、たとえば、良好な浸透性、十分な接着性、優れた被膜形成特性、ならびに弾力性のあるサイジング被膜を形成する能力といった、さまざまな要求を満たさなければならない。好適なサイジング剤は、サイジング処理された紡績糸に対して、望ましい特性、たとえば、擦り切れに対する高い抵抗性(耐摩耗性)、高い製織効率、ならびに織り上がった繊維製品の良好な洗い落とし特性を付与する。
【0008】
世界中のサイジング剤消費量の約70%は、デンプンおよびデンプン誘導体である。
【0009】
したがって、デンプンおよびその誘導体は、総消費量の点から最も重要な種類のサイジング剤である。これは、安価で、良好なサイジング効果があり、世界中で入手可能であるためである。こうした種類のサイジング材の主原料成分は天然に存在するデンプン、すなわちα-D-グルコピラノースに基づく多糖である。デンプンは、単一の化学物質ではなく、2つの構造的に異なる重合体:アミロースおよびアミロペクチンから構成される。アミロースはα-1,4-グルコシド結合によって連結されたグルコース単位の鎖からなり、これに対してアミロペクチンは、さらに、重合鎖の枝分かれをもたらすα-1,6-グルコシド結合を含有する(J.A. Radley: Starch and its Derivatives, Chapmann & Hall, London 1968; M.W. Rutenberg in R.L. Davidson (編): Handbook of Water-Soluble Gums and Resins, McGraw-Hill, New York 1980, 第22章; J. BeMiller in R.L. Whistler, J.N. BeMiller (編): Industrial Gums, Academic Press, San Diego 1993, 579頁; G. Tegge: Staerke und Staerkederivate, Behr's Verlag, Hamburg 1984を参照)。
【0010】
アミロペクチンがデンプンの主成分であって、デンプンの種類に応じて全体の73〜86%を構成する。アミロペクチンの重合度は、約6000〜106グルコース単位であり、アミロースの重合度は、約100〜1000グルコース単位である。
【0011】
最も重要なサイジング剤はジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、およびタピオカデンプンである。コムギデンプン、コメデンプン、およびサゴデンプンも使用される。これらのデンプンの固有性は、アミロース/アミロペクチン比、これら2成分の重合度、ならびにデンプン粒の大きさおよび微細構造によって決まる。これらのパラメーターが膨潤および溶液の性質を決定し、被膜の特性も決定する。
【0012】
天然のデンプンは、平行している重合鎖を結び付ける水素結合のために、冷水に不溶性である。デンプンは加熱によって「溶液」となる。デンプン粒はまず、膨潤が最大となるまで水を吸収する。デンプンのタイプごとに特有の、糊化温度として知られている一定の温度を超えると、デンプン粒は破裂してゲルを形成する。粘性が最大まで増加したのち、可溶化された重合体分子が分散するにつれて、漸近的に極限値まで減少する。デンプン粒の個々の分子の完全な可溶化は、100℃を超えてはじめて起こる。粘性値は、液体の吸収量にかなりの影響を及ぼすので、糊付けにおいて重要である。
【0013】
保存した状態で、温度を下げるにつれて、デンプン糊は凝固して、どろどろした水分の分離した状態となる。こうした老化は、水和した水分が失われるとともに、分子鎖が伸びて、その鎖が平行に並び、隣り合う鎖の間で水素結合が形成されることによって、引き起こされる(Tegge, 1984)。こうした老化は、サイジング剤に有害な影響を及ぼし、保存性の低下、薄膜の形成、ローラーでの堆積物の形成、および付着力の低下をもたらす。したがって、天然のデンプンは、次第に、デンプン誘導体に取って代わられつつある。
【0014】
たとえば、天然ジャガイモデンプンは、約80%のアミロペクチン(I)および20%のアミロース(II)からなる。
【化1】

(I)(1,6)-α-D分岐点を含む、アミロペクチンの代表的な構造。
【化2】

(II)直鎖状アミロースの代表的構造
【0015】
2つの重合体はいずれも細粒中に存在するが、これらは室温で水に不溶性である。デンプン懸濁液を加熱したとき、アミロペクチン鎖とアミロース鎖の間の水素結合が弱まり、最終的に水分子との相互作用(水素結合)に置き換わる。約61℃からデンプン粒は膨潤し始め、水分子がデンプン内に浸透する。溶液中であればアミロペクチンは粘性は安定であるが、アミロースはゲル化する傾向が強い。このゲル生成時に、アミロースは二重らせん構造を形成し、これはその後凝集して3次元網目構造を形成する。
【0016】
織物用糸のためのサイジング剤として、さまざまな化学的に修飾されたデンプン生成物を使用することは、O.B. Wurzburg(編)の書籍:Modified Starches: Properties and Uses CRC Press Inc. Boca Raton, Florida, 1986, 229-252ページの K.W. Kirby;Textile Industryによって広範に記述されている。化学的に修飾されたデンプンとして言及されているのは、酸で修飾されたデンプン、酸化デンプン、架橋デンプン、デンプンエーテルおよびデンプンエステルである。修飾のための出発材料として、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、タピオカデンプンおよびコムギデンプンのようなさまざまなタイプのデンプンを使用することができる。
【0017】
デンプンが綿繊維のサイジング処理、およびさまざまな他の工業目的に有用であることはよく知られている。近年、多くの合成繊維が利用可能となり、木綿および合成繊維の混紡を含めた、こうしたさまざまな繊維のサイジングに適した比較的安価なサイジング組成物を見出すことは困難になっている。特に、ポリエステル線維および綿の混紡に適した低価格のサイジング組成物を提供することは困難となっている。一般的な方法では、繊維は製織前に糸もしくは紡績糸の状態でサイジング処理される。サイジング処理された糸または紡績糸はつぎに布に織られ、その後サイジング材は洗剤を含む水で洗浄することによって、または酵素処理することによって、除去される。満足できるサイジング組成物とは製織の際に適切な潤滑性および耐性を与え、しかも同時に、その後容易に除去することができる組成物である。
【0018】
元の特性を失ったすべての修飾されたデンプンをデンプン誘導体と称する。これらには薄煮沸デンプン(thin-boiling starch)、デキストリン、デンプンエステルおよびデンプンエーテルが含まれる。
【0019】
薄煮沸デンプン(thin-boiling starch)は、水性懸濁液中での酸加水分解または酸化分解によって生成し、デキストリンは、通常、酸の存在下で、加熱による脱重合によって作られる。これは、低温で糊化して、低粘度の溶液を与え、高濃度に溶解することができる。さらに、所定の粘度を示す液体を生成するのは容易であり、老化しやすさはかなり減少する。
【0020】
主にサイジング物質として使用されるデンプンエステルは、リン酸のエステル(リン酸デンプン)および酢酸のエステル(アセチルデンプン)である。これらのデンプン誘導体は通常、エステル化されているだけでなく、脱重合されており、より低い液体粘度を与え、老化の減少をもたらす。一般に、それらは薄煮沸デンプン(thin-boiling starch)よりすぐれたサイジング効果を与える。
【0021】
3つの最も重要なタイプのデンプンエーテルは、それぞれ、苛性ソーダの存在下で、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、およびクロロ酢酸もしくはクロロ酢酸ナトリウムと、デンプンの反応によってつくられるヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、およびカルボキシメチルデンプンである。これらのデンプン誘導体の置換度は概して約0.1以下である。そのイオン特性のために、カルボキシメチルデンプンナトリウムは冷水に溶解するので、酵素による糊抜きを必要としない。また、デンプンエーテルは単純に脱重合したデンプン誘導体よりもすぐれたサイジング効果をもたらす。
【0022】
デンプンまたはデンプン誘導体の溶液から成形された被膜の機械的性質は、水和の程度(これは製織工場の大気中の相対湿度によって決まる)、ならびにアミロペクチンに対するアミロースの比率および加工デンプンの種類に依存する。
【0023】
デンプンおよびデンプン誘導体のおもな用途は、純綿糸、および綿と他の繊維との混紡紡績糸のサイジング用である。これらの糸のために、もっぱらデンプンまたはデンプン誘導体からなる、またはこれを主成分とする数多くのサイジング剤が使用される。デンプンおよびその誘導体は木綿に比較的強く付着する(J. Trauter, M. Laupichler, Melliand Textilber. 57 (1976) 375, 443, 545, 615, 713, 797, 875, 979; 58 (1977) 23, 111. J. Trauter, H. Bauer, B. Ruess, M. Laupichler, Textilbetrieb (Wuerzburg), 96 (1978) 46; J. Trauter, TPI Text. Prax. Int. 44 (1989) 1297を参照されたい)。高速織機で織られる木綿糸、または合成繊維を高率で混紡した紡績糸は、サイジング効果を向上させるためにカルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、またはポリメタクリレートをさらに含有するサイジング剤で糊付けされなければならない。デンプンはヨウ素を用いて青い呈色により検出され、この反応はまた、残存する糊の含量を半定量的に測定するために用いられる。(p. Wurster、g. Schmidt、Melliand Textilber 68 (1987) 581)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、非常に好ましい、サイジング特性、サイジング処理した糸の製織特性、および織り上がった布の洗い落とし特性を与える、化学的に無修飾のアミロース型デンプンに基づくサイジング剤を提供することである。
【0025】
さらに、アミロース型デンプンが化学的に修飾されているサイジング剤を提供することも、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明にしたがって、サイジング剤として、アミロース含量50%以上のアミロース型デンプンを使用することによって、上記の目的は達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
実施例1で記述されているようにトランスジェニックジャガイモ植物によって産生された、アミロース含量が約70%のアミロース型ジャガイモデンプンを、実施例2に記載のように製剤化し、実施例3に記載のようにサイジング剤としてテストした。さらに、糊抜き特性を分析したが、それは実施例3を参照されたい。
【0028】
従来のジャガイモデンプンと比較して、実施例1に記載のように作製された遺伝子組換えジャガイモ植物体から得られた、約70%のアミロース含量を有する、アミロース型デンプンを用いた製剤は、より高い耐摩耗性、ならびにより良い糊抜き特性の達成を反映して、サイジング性能の著しい向上を示す。すでに化学修飾され、最適化されたもっともすぐれた市販の基準サンプルと比較してそれに匹敵する特性が、化学的に無修飾のアミロース型デンプンによって得られた。
【0029】
「高アミロースデンプン」という用語は、重量比で約50%以上のアミロースを含有する任意のデンプンもしくはデンプン画分をいう。その例は"Nepol"アミロース(トウモロコシデンプンのアミロース画分);"Superlose"(ジャガイモデンプンのアミロース画分);"Amylomaize"もしくは"Amylon"(約54%アミロースを含む高アミローストウモロコシデンプン);およびAmylomaize VII(約73.3%アミロースを含有する高アミローストウモロコシデンプン)である。約85%のアミロース含量を有するAmylomaize VIIIも使用することができる。デンプンは、いかなる起源のものであってもよく、たとえば、トウモロコシ、コムギ、ジャガイモ、モチトウモロコシ(waxy corn)、タピオカ、サゴまたはコメ由来のものとすることができる。
【0030】
織物繊維のサイジングにおいて、典型的なサイジング組成物は、本発明にしたがって調製された両性デンプン100ポンドを、好ましくは石油ろう5ポンドを加えて、100ガロンの水と混合し、その後糊化温度まで加熱することによって、調製することができる。サイジング処理すべき糸もしくは紡績糸、たとえば、65%ポリエステル繊維(ポリエチレングリコールテレフタレート)および35%綿繊維を含む糸または紡績糸を、その組成物に通すことによってサイジング処理する。このサイジング組成物を使用する場合、織機止めの交換の間に織られる布の糸の数を増やすことができる。
【0031】
製織後、通常の方法で酵素による処理によって、または洗剤水で洗浄することによって、サイジング材を除去することができる。
【0032】
本発明の組成物を他の用途、たとえば、織物の仕上げ、織物および紙の染色、紙のサイジング、布地および紙への顔料もしくは塗料の塗布に使用することもできる。
【0033】
65%ポリエチレングリコールテレフタレート、35%コーマ綿糸、レーヨン、もしくは他の合成繊維の糸、またはそれらと、たとえば限定されるものではないが綿、ウールのような天然繊維との混紡糸のサイジングは、本発明のサイジング剤として50%以上のアミロース含量を有するアミロース型デンプンを使用することによって実施することができる。
【0034】
直鎖状であるために、アミロースは紡績糸のサイジングのためにすぐれた機能性を有する柔軟な被膜を形成する能力を有する。このプロセスにおいてゲル化を防止することが重要であり、それは、ゲル化が不溶性の被膜をもたらし、結晶化に起因する縮みをもたらすためである。したがって、アミロースを、ヒドロキシエチル-、ヒドロキシプロピル-、またはカルボキシメチル基で置換して、非晶質で溶解性の高い被膜を生じさせるか、またはアミロースをポリメタクリレート糊と混合して、通常の加熱手順の後の老化を防止する。
【0035】
好ましくは、化学的に無修飾のまたは修飾されたアミロース型ジャガイモデンプンを、天然および/または合成織物用糸のためのサイジング剤として使用することによって、本発明にしたがって目的を達成することができることが判明した。以下に、アミロース型ジャガイモデンプンについて手短に特徴を明らかにする。
【0036】
ジャガイモ塊茎から分離されたジャガイモデンプン粒は、通常、約20%のアミロースおよび80%のアミロペクチンを含有する(乾燥物質に基づく重量%)。しかしながら、過去10年間、遺伝子組換えによって、ジャガイモ塊茎中に重量比50%(乾燥物質に基づく)を超えるアミロース、好ましくは重量比70%を超えるアミロース、もっとも好ましくは重量比90%を超えるアミロースから構成されるデンプン粒を形成するジャガイモを育種する努力が、成功裡に達成されてきた。
【0037】
植物におけるデンプン粒の形成においては、さまざまな酵素が触媒活性を有する。こうした酵素のうち、デンプン粒結合型デンプン合成酵素(GBSS)がアミロースの生成に関与する。GBSS酵素の合成は、GBSS酵素をコードする遺伝子の活性に依存する。アミロペクチン生合成の特定の遺伝子である、デンプン枝作り酵素1(SBE1)およびデンプン枝作り酵素2(SBE2)の発現の消失または抑制は、たとえばジャガイモ植物において、アミロペクチン生合成の完全な消失もしくは阻害をもたらす。こうした遺伝子の除去は、好ましくはジャガイモ植物材料の遺伝子組換えによって実現することができる。
【0038】
ジャガイモ植物、特に塊茎における、SBE1およびSBE2遺伝子の発現の消失または抑制は、アンチセンス技術の利用によっても可能であり、実施例1を参照されたい。ジャガイモの遺伝子組換えの方法は、特許出願WO92/11375, WO 97/20040, WO 92/14827, WO 95/26407およびWO 96/34968、ならびに米国特許第5,856,467号、第6,169,226号、6,469,231号、第6,215,042号、第6,570,066号および第6,103,893号に記載されている。
【0039】
遺伝子組換えの適用によって、そのデンプン粒がほとんど、もしくは実質的にまったくアミロペクチンを含まないジャガイモを、育種して生育させることが可能であることが明らかになっている。
【0040】
アミロース型ジャガイモデンプンという用語は、本明細書では、ジャガイモ塊茎から分離されたジャガイモデンプン粒であって、乾燥物質に基づいて重量比で50%以上のアミロース含量を有する前記デンプン粒を意味するものと解される。
【0041】
化学的に修飾されたアミロース型デンプンは、本明細書では、酸変性、酸化、エステル化、エーテル化、グラフト重合および/または架橋によってアミロース型デンプンを化学的に修飾することによって得られる、アミロース型デンプン生成物を意味するものと解される。化学的修飾の前、修飾の際、または修飾後に、アミロース型デンプンの物理的改変(たとえば、ローラー乾燥、押出成形、または熱水処理による)または酵素修飾を行うこともできる。さまざまな化学修飾デンプンを調製する方法は、O.B . Wurzburg編、Modified Starches: Properties and Uses; CRC Press Inc. Boca Raton, Florida, 1986の書籍に記載されている。これらの方法も、サイジング剤として本発明にしたがって使用される、化学的に修飾されたアミロース型ジャガイモデンプンを調製するために、使用することができる。
【0042】
サイジング剤としてのアミロース型デンプンの水溶液はまた、サイジング浴またはサイジング糊とも呼ばれ、従来の方法で、たとえば開放型または密閉型の煮沸器の中で作ることができる。本発明の化学修飾されたアミロース型ジャガイモデンプン生成物の水溶液による、織物用糸の処理は、糸をサイジング処理するための従来の方法によって実施することができる。たとえば、糸を連続的にサイジング剤の溶液に通すことができ、または、スプレーすることによって、もしくはローラーを用いて、サイジング剤の溶液を塗布することができる。サイジング糊を通した後、糸の層をたとえば2つのローラーの間で絞り出すことができる。その後、絞り出された糸を、加熱した円筒上で、または温風によって乾燥する。
【0043】
化学的に修飾されたアミロース型デンプンが織物用糸のためのサイジング剤として非常に好適であることが明らかになった。本発明にしたがってサイジング処理された糸は、強くて弾力性があり滑らかな被覆剤で覆われているという点で、機械的な影響に対して十分抵抗性である(高い剪断抵抗)。織物工場では、これらの糸を用いてすばらしい結果が得られている(高い製織効率)。
【0044】
前記のように、本発明は、織物用糸をサイジング処理するための方法に関する。これに関連して、紡績糸(yarn)という用語は本明細書ではもっとも一般的な意味で理解され、繊維産業におけるあらゆる綿糸もしくは綿短繊維糸を含むものとみなされる。こうした糸は、切れ目のない天然綿糸、または綿繊維および/または半合成性の綿ポリエステル混紡からなり、撚られていても、いなくてもよい。
【0045】
本発明は、下記の実施例の中で、その実施例によってさらに説明される。実施例にしたがって、サイジングされた糸についていくつかの特性を調べた。
【0046】
織物繊維のサイジングにおいて、典型的なサイジング組成物は、本発明にしたがって調製された両性澱粉100ポンドを、好ましくは5ポンドの石油ろうを加えて、100ガロンの水と混合した後、糊化温度まで加熱することによって調製することができる。サイジング処理すべき糸もしくは紡績糸、たとえば、65%ポリエステル繊維(ポリエチレングリコールテレフタレート)および35%綿繊維を含む糸もしくは紡績糸を、上記組成物に通すことによってサイジング処理する。
【0047】
中和した(たとえばアンモニアまたは水酸化ナトリウムにより)ポリメタクリレートをベースとするエマルジョンポリマーを、デンプン含有サイジング製剤に加えることによって、また別のサイジング剤を調製することができる。ポリメタクリレートポリマーの好ましいコポリマー組成(重量%)は下記の範囲である:
0〜10 % アクリル酸
0〜20 % メタクリル酸
10〜20 % アクリロニトリル
0〜25 % エチルアクリレート
0〜60 % ブチルアクリレート
20〜70 % メチルアクリレート。
【0048】
サイジング剤の糸内部への十分な浸透を得るために、サイジング浴は、好ましくは30℃から90℃までの温度に維持される。サイジング浴中のサイジング剤の濃度は、好ましくは重量比で2〜20%である。糸に吸収されるサイジング剤の量(吸収;重量増加)は、糸(乾燥物質)を基準として重量比で2〜30%のサイジング剤(乾燥物質)であることが好ましい。化学的に修飾されたアミロース型ジャガイモデンプンの他に、使用されるべきサイジング溶液は、サイジングプロセスにおいて従来用いられている微量の補助物質、たとえば、ワックス、脂肪、消泡剤、帯電防止剤、および可塑剤をさらに含有することができる。サイジング溶液は、ポリビニルアルコール、ポリメタクリレートまたはカルボキシメチルセルロースといった他のサイジング剤をさらに含有してもよい。
【0049】
このサイジング組成物を使用する場合、織機止めの交換の間に織られる布の糸の数を増加させることができる。製織後、サイジング物質を、通常の方法で酵素を用いた処理によって、または洗剤水で洗浄することによって、除去することができる。
【0050】
本発明の組成物はまた、他の用途、たとえば、織物の仕上げ、織物および紙の染色、紙のサイジング、布地および紙への顔料もしくは塗料の塗布に使用することもできる。
【実施例1】
【0051】
トランスジェニックジャガイモ植物であるソラナム・ツベロサム(Solanum tuberosum)AM 99-2003
高アミロースジャガイモ系統を、たとえば、2つのデンプン枝作り酵素であるデンプン枝作り酵素1(SBE1)およびデンプン枝作り酵素2(SBE2)を標的とする、アンチセンス、RNAiまたは抗体技術を使用することによって、作り出すことができる。
【0052】
高アミロースジャガイモ系統AM99-2003は、親系統Dinamoにおけるデンプン枝作り酵素活性を阻害することによって作り出される。形質転換は、gbssプロモーターによって駆動されるアンチセンス方向のSBE1およびSBE2のコンストラクトを用いて行われる。gbssプロモーターの核酸配列はEP 0 563 189に公開されている。
【0053】
Sbe1の3'末端の1620bp断片をEcoRVとSpeIの間に含むpBluescriptを、SpeI(平滑)およびXbaIで切り開き、Sbe2の3'末端の1243bpのSstI(平滑)およびXbaI断片と連結する。Sbe2およびSbe1複合体を、EcoRVおよびXbaIで切り出し、SmaIおよびXbaIで切開したバイナリベクターpHo3.1に連結する。最終的なベクターは、pHAbe12Aと称し、これは図1および配列番号1の核酸配列を参照されたい。pHo3.1はpGPTVKan(Becker, D. ら、Plant Molecular Biology 20 (1992), 1195-1197)に基づいており、pGPTVKanのHindIII部位にクローニングされた987bpのgbssプロモーターが付加され、uidA遺伝子がSmaIおよびSstIによって欠失している。
【0054】
親系統Dinamoは、コンストラクトpHAbe12Aで形質転換され、トランスジェニック系統は、米国特許第6,169,226号に記載のようにして選択された。トランスジェニック系統を生長させて、Morrison, W.R.およびLaignelet, B., J. Cereal Sci. 1(1983), 9-20に記載の方法にしたがってアミロース生産について分析した。アミロース含量が70%以上のアミロース型デンプンを生産するトランスジェニック系統を選択した。デンプン工業で知られている一般的な方法にしたがって、トランスジェニックジャガイモ植物からアミロース型デンプンを単離精製した。
【実施例2】
【0055】
製剤
サイジング(糊付け)実験のために、上記アミロース型ジャガイモデンプンを含有する製剤を、下記の配合表にしたがって作製した。
【0056】

【0057】
PHAS 2012は、遺伝子改変アミロース型ジャガイモデンプン、固形分83.5%(水分含量16.5%)である;Morrison, W.R.およびLaignelet, B., J. Cereal Sci. 1(1983), 9-20にしたがって測定されたアミロース含量は70%である。
【0058】
「天然ジャガイモデンプン」は、(化学的な、もしくは熱による)いかなる修飾も受けず、固形分84.7%(水分含量15.3%)で、約20%のアミロースおよび80%のアミロペクチンを含む、通常のジャガイモデンプン(Emsland Staerke GmbH、ドイツ)である。
「BASF Size CE」(BASF Aktiengesellschaft、ドイツ)は、ポリアクリレートベースの、固形分25%のサイジング剤である。
【0059】
「Emsize E9」は、化学修飾されたジャガイモデンプン(プロポキシル化度は、反復単位当たり0.2から0.3)をベースとするサイジング剤である。固形分はおよそ85%(水分含量15%)である。
【0060】
製剤の個々の成分の量は、下記の通り変化させることができる:
製織に必要とされる性能に応じて、糊液の上記配合は、原則として、100%デンプン(必要な性能が低い)から100%ポリメタクリレート(高い性能が必要)までさまざまに変化してもよい。通常、コストと性能の兼ね合いで、ポリメタクリレートベースの糊を、デンプン糊に、10(デンプン):1(ポリメタクリレート)〜1:1の割合で添加する。
【実施例3】
【0061】
試験
比較試験では、上記アミロース型デンプン(配合1:PHAS 2012)を、天然ジャガイモデンプン(配合2)、ならびに化学修飾デンプン(プロポキシル化度、反復単位当たり0.2〜0.3)をベースとする市販されているうちで最良のデンプンサイジング製品(配合3:Emsize E9)と対照して試験した。すべてのデンプン成分は「BASF size CE」を加えて調剤された。耐摩耗性および糊抜き特性を測定した。
【0062】
試験は下記の手順にしたがって行った:
摩耗試験
サイジング効果は、縦糸の製織特性にとって決定的に重要である。この効果は、サイジングされた糸の耐摩耗性に密接に関連している。糸の耐摩耗性を、Zweigle摩耗試験機(G552摩耗試験機、Zweigle Textilpruefmaschinen GmbH&Co.KG、ドイツ)で測定する。
【0063】
標準的な、簡単に交換できる研磨紙を、糸の方向に沿って動くシャフトの上にぴんと張る。20本の、重りを付けた糸(綿短繊維糸、英国番手Ne 12)をシャフトの上に渡し、糸が切れるまで、同じ速さ、同じ圧力で研磨した。研磨材中の繊維くずが摩耗作用に影響を及ぼさないように、各ストロークの後にシャフトを前に進める。切れるまでに持ちこたえた研磨ストロークの回数を、カウンターから読み取り、平均値を計算する。得られた研磨数が多いほど、その糸の耐摩耗性は高い。
【0064】
摩耗試験機で得られた値は相対的なものに過ぎず、これらは、サイジングされない縦糸または別の配合によりサイジングされた縦糸(いずれの場合も同じロットからの糸)と比較して、検討されなくてはならない。
【0065】
以下の結果が得られた:
摩耗評価数(綿糸、Ne 12)

【0066】
糊抜き試験
TEGEWA法によるデンプンの検出
前処理の効果を判定するための、もっとも一般的な検査法の一つは、ヨウ素/ヨウ化カリウム溶液を布地に塗布することによって、デンプン糊の存在を検出することである。青い呈色は、デンプン糊がまだ布地に付いていることを示す。
【0067】
この試験の適用においては、たとえわずか1%でも当初のデンプン糊がまだ付いていたとしたら、すなわち99%が除去されていたとしても、青色の呈色はまだ目に見えるということを承知していることが重要である。しかしながら、こうした微量の残留した糊は、もちろんもはや、染色もしくは捺染時に、前処理された織物の反応に対して何の影響も与えない。
【0068】
TEGEWAバイオレットスケールによって改良法が提供されるが、これは評点で示される9段階の色調を採用している。評点1は、もっとも糊抜き不足であることを示す;9は実質的に完全な糊抜きを示す。
【0069】
手順
織物の試験片を1分間、0.005 mol/lヨウ素溶液に浸漬する。その後、水で手短に洗って、濾紙で軽くたたき、ただちにバイオレットスケールと比較する。
【0070】
ヨウ素溶液の調製
1. 100 ml蒸留水に10 gのヨウ化カリウムを溶解する
2. この溶液に0.635 gのヨウ素を加えて溶解する
3. 水を加えて全体を800 mlとする
4. エタノールを加えて全体を1000 mlとする
糊抜き特性

【0071】
従来のジャガイモデンプンと比較して、実施例1に記載のように作り出された遺伝子組換えジャガイモ植物体由来の約70%のアミロース含量を示すアミロース型デンプンを有する製剤は、より高い耐摩耗性、ならびにより良い糊抜き特性の達成を反映してサイジング性能の著しい向上を示す。すでに化学修飾され、最適化された最高の市販品基準サンプルに匹敵する特性が、化学的に無修飾のアミロース型デンプンによって得られた。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、ベクターpHAbe12Aの制限酵素マップである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロース型デンプンを天然綿糸のサイジング剤として使用する方法。
【請求項2】
アミロース型デンプンが少なくとも50%のアミロース含量を有することを特徴とする、請求項1に記載のアミロース型デンプンをサイジング剤として使用する方法。
【請求項3】
アミロース型デンプンがトランスジェニックジャガイモ植物により生産されることを特徴とする、請求項2に記載のアミロース型デンプンをサイジング剤として使用する方法。
【請求項4】
ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、またはポリメタクリレートなどの他のサイジング剤と組み合わせてアミロース型デンプンを使用することを特徴とする、請求項1、2または3に記載の、アミロース型デンプンをサイジング剤として使用する方法。
【請求項5】
化学的に無修飾のアミロース型デンプンをサイジング剤として使用することを特徴とする、天然綿糸もしくは綿およびポリエステルの混紡糸をサイジングする方法。
【請求項6】
化学修飾されたアミロース型デンプンをサイジング剤として使用することを特徴とする、天然綿糸、または綿およびポリエステルの混紡糸をサイジングする方法。
【請求項7】
アミロース型デンプンがトランスジェニックジャガイモ植物により生産されることを特徴とする、請求項5または6に記載の天然綿糸または綿およびポリエステルの混紡糸をサイジングする方法。
【請求項8】
アミロース型デンプンが少なくとも50%のアミロース含量を有することを特徴とする、請求項7に記載の天然綿糸または綿およびポリエステルの混紡糸をサイジングする方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−530809(P2007−530809A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505487(P2007−505487)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003301
【国際公開番号】WO2005/098121
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(501383750)ビーエーエスエフ プラント サイエンス ゲーエムベーハー (17)
【Fターム(参考)】