説明

織編物およびその製造方法

【課題】絹調のフィブリル風合い、キシミ感を有するとともに、ドライ感のある風合い、深みのある光沢感を兼備し、且つ、優れた制電性と布帛強度を有する織編物を提供する。
【解決手段】
繊維表層に、繊維軸方向に複数の筋状態の溝が形成され、繊維内部には、繊維表層の溝とは独立した直径0.1μmから5μmの空隙を繊維長さ方向に非連続で有し、且つ、該空隙が横繊維断面当たり、1個から300個を有するポリエステル系繊維を含む織編物であって、織編物の該ポリエステル系繊維表面の一部がフィブリル化してなることを特徴とする婦人衣料織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、婦人衣料等に適した織編物に関し、絹調のフィブリル風合い、キシミ感を有するとともに、ドライ感のある風合い、深みのある光沢感を兼備し、且つ、優れた制電性と布帛強度を有する外観品位に優れる。
【背景技術】
【0002】
婦人衣料素材の高級品として、位置付けられている絹素材の特徴であるフィブリル風合い、ならびにキシミ風合いをポリエステル系繊維で表現する技術として、これまで多種多様の技術があり、フィブリル風合い、キシミ風合いについては、近いものが得られてきている。ポリエステル系繊維でフィブリル風合いを得る方法として、ポリエステルポリマーと非相容性の長鎖有機化合物および、または、有機スルホン酸金属塩をブレンドしたポリエステルからなる織編物をエンボス加工、カレンダー加工などで織物表面を加圧し、アルカリ処理を組合せフィブイル化する方法が開示されている(特許文献1特許2962992号)。しかし、絹調のフィブリル風合いは得られるが、織編物に筋状の斑による品位面に劣る問題があった。また、ポリエステル系繊維であるためフィブリル化により表面摩擦抵抗が高くなり、静電気によるまとわりつきやホコリ付着の問題、ならびにカレンダーでの加圧、アルカリ減量により、繊維が溶割、分割されるため、目付100g/m以下の薄地素材展開時には、着用上十分な強力を得られない可能性もあった。
また、有機スルホン酸金属塩をブレンドしたポリエステル系繊維からなる織編物を10%以上のアルカリ減量を行い、繊維表面のフィブリル化、繊維内部の空隙を形成し、ドライ感、ヌメリ感、吸水性を有する布帛が得られることが開示されている(特許文献2特許3194464号)。しかしながら、アルカリ減量促進剤を含浸、塗布しなければならい染色加工工程としての煩雑性や、減量率10%未満でのフィブリル化不足、また、フィブイル化による同様なまとわりつきやホコリ付着の問題、ならびに目付100g/m以下の薄地素材展開時には、着用上十分な強力を得られない可能性もあった。
静電気よるまとわりつきやホコリ付着防止としては、ポリエーテルエステルアミド系の制電剤を配合させることよりに良好な制電性が得られることが開示されている(特許文献3公開2010−138528)。しかしながら、婦人衣料素材として求められるフィブイル風合い、キシミ感に乏しく、また、深みのある光沢感を得ること困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2962992号
【特許文献2】特許3194464号
【特許文献3】公開2010−138528
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、絹調のフィブリル風合い、キシミ感を有するとともに、ドライ感のある風合い、深みのある光沢感を兼備し、且つ、優れた制電性と布帛強度を有する外観品位に優れた織編物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような構成を有する。
(1)繊維表層に、繊維軸方向に複数の筋状態の溝が形成され、繊維内部には、繊維表層の溝とは独立した直径0.1μmから5μmの空隙を繊維長さ方向に非連続で有し、且つ、該空隙を横繊維断面当たり、1個から300個の割合で有するポリエステル系繊維を含む織編物であって、該ポリエステル系繊維表面の一部がフィブリル化してなることを特徴とする織編物。
(2)該ポリエステル系繊維が、下記要件(1)、(2)に示す制電剤を繊維重量に対し1.5重量%以上2.5重量%未満の割合で含むことを特徴とする上記(1)記載の織編物。
【0006】
(1)(A)アミノカルボン酸、ラクタムおよびジアミンとジカルボン酸の塩から選ばれる少なくとも一種、(B)ポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび(C)ジカルボン酸を反応して得られたポリエーテルエステルアミドを含有し、該ポリエーテルエステルアミドにおけるポリエーテルエステル単位が30〜70重量%である。
【0007】
(2)該ポリエーテルエステルアミド100重量部と、スルホン酸の金属化合物2〜20重量部とからなる制電剤。
【0008】
(3)該ポリエステル系繊維の横断面形状が3個以上の突起部を有する多葉形の形状であり、1.5以上2.0未満の異形度であることを特徴する上記(1)または(2)に記載の衣料織編物。
(4)JIS L 1094に規定される摩擦帯電圧が3000V以下であることを特徴する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の衣料織編物。
(5) 上記(1)記載の該ポリエステル系繊維が単独で全ての経糸および/または全ての緯糸に配列された織物であって、JIS L 1096に規定される引裂強力が該ポリエステル系繊維の配列された方向において、4.9N以上であり、目付100g/m以下40g/m以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の衣料織物。
(6) 処理温度120℃〜190℃、線圧力100kg/cm以上にて連続的に加圧処理した後、アルカリ減量処理によって得られ、且つ、アルカリ減量率が織編物の繊維重量対比5%〜40%であることを特徴する上記(1)から(5)のいずれかに記載の衣料織編物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、婦人衣料素材の感性特性として要求される絹調のフィブリル風合い、キシミ風合いを有するとともに、ドライ感のある風合い、深みのある光沢感を兼備しつつ、ポリエステル系繊維のフィブリル化に起因する静電気によるまとわりつき防止やホコリ付着防止機能、ならびにフィブリル化薄地素材においても実着用上の問題ない布帛強度物性に優れた織編物を提供することができる。
更に、一般的なポリエステル系繊維織編物で使用される染色加工設備、加工工程での製造が可能であり、外観品位を損なうことなく、前記の感性特性、機能、物性を備えた織編物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の婦人衣料織編物のポリエステル系繊維の一例の繊維側面である
【図2】本発明の婦人衣料織編物のポリエステル系繊維の一例の繊維断面である
【図3】本発明の婦人衣料織編物の繊維表面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の婦人衣料織編物は、織編物の一部または全てがポリエステル系繊維で構成され、ポリエステル系繊維が、図1に示すように繊維表層に、繊維軸方向に複数の筋状態の溝が形成され、図2に示すように繊維内部には、繊維表層の溝とは独立した直径0.1μmから5μmの空隙を繊維長さ方向に非連続で有し、且つ、該空隙を横繊維断面当たり、1個から300個の割合で有している。
また、図3に示すように、織編物の該ポリエステル系繊維表面の一部がフィブリル化している。
本発明は、繊維表面のフィブリル化、繊維表層に存在する繊維軸方向に複数の筋状溝が形成されることにより、絹調のフィブリル風合い、キシミ風合いを付与する。
繊維内部の繊維表層の溝とは独立した直径0.1μmから5μmの空隙を繊維長さ方向に非連続で有し、且つ、該空隙が横繊維断面当たり、1個から300個を形成することにより、深みのある光沢感ならびに更なるフィブリル、キシミ風合いに寄与するとともに、実着用上に問題のない布帛強度を付与する。
空隙の直径が0.1μm未満では深みのある光沢感が得られず、また、5μmを超えると、繊維長さ方向に非連続で空隙を形成し難く、布帛強度を低下させる。横繊維断面あたりの空隙個数300個以上においても同様に実用上問題のない布帛強度を得るに至らない。
本発明における婦人織編物を構成するポリエステル系繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル系繊維および芳香族ポリエステルに第三成分を共重合した芳香族ポリエステル系繊維、L−乳酸を主成分とするもので代表される脂肪族ポリエステル系繊維などのポリエステル系繊維であることが好ましい。かかるポリエステルは任意の方法で製造されたものでよく、例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、又はテレフタル酸とエチレンオキサイドを反応させるかして、テレフタル酸のグリコールエステル及び/またはその低重合体を生成させ、ついでこの生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで縮重合反応させることで容易に製造される。なお、このポリエステルはそのテレフタル酸成分の一部を他の二官能基カルボン酸成分で置き換えてもよい。かかるカルボン酸としては、例えばイソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルキシエンタンカルボン酸、β−オキシエトキシ安息香酸の如き二官能性芳香族カルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、シュウ酸の如き二官能性脂肪族カルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き二官能性脂環族カルボン酸等を挙げることができる。また、上記グリコール成分の一部を他のグリコール成分と置き換えてもよく、かかるグリコール成分としてはシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、2,2−ビス〔3,5−ジブロモ−4−(2−ハイドロキシエトキシ)フェニル〕プロパンの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオールが挙げられる。更に上述のポリエステルに必要に応じて他のポリマーを少量ブレンド溶融したもの、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸等の鎖分岐剤を少割合使用したものであってもよい。この他、本発明のポリエステルは通常のポリエステルと同様に酸化チタン、カーボンブラック等の顔料のほか、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤が添加されたものであってもよい。
本発明において制電剤として使用されるポリマーとしては、エチレンオキシドやプロピレンオキシドの縮合生成物あるいは両者の縮合生成物などのポリアルキレンエーテル(ポリアルキレンオキシド)やポリアルキレンオキシド成分に、アミノカルボン酸、ラクタム、ジアミン、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルなどを反応させた化合物であるポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルまたはポリエーテルエステルアミドなどのブロック共重合ポリマーなどが挙げられる。なかでもポリエーテルエステルアミドが好ましい。
ポリエーテルエステルアミドとしては、構成成分である(A)アミノカルボン酸、ラクタムおよびジアミンとジカルボン酸の塩から選ばれる少なくとも一種が挙げられ、いずれも炭素数6以上のものが好ましく、より好ましくは、アミノカルボン酸としてはω−アミノカプリル酸、ω−アミノベルコン酸、ω−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などが挙げられ、ラクタムとしてはカプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム及びラウロラクタムなどが挙げられ、ジアミン−ジカルボン酸の塩としてはヘキサメチレンジアミン−アジピン酸塩、ヘキサメチレンジアミン−セバシン酸塩、ヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸などが挙げられる。その中でもカプロラクタム、1,2−アミノドデカン酸、ヘキサメチレンジアミン−アジピン酸塩が特に好ましく用いられる。
また、ポリエーテルエステルアミドの他の構成成分である(B)ポリ(アルキレンオキシド)グリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、またはエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックまたはランダム共重合体などが好ましく用いられるが、これらの中でも、制電性が優れる点で特にポリエチレングリコールが好ましく用いられる。
さらに、ポリエーテルエステルアミドのもう一つの構成成分である(C)ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2、7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸及び5−スルホイソフタル酸の如き芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸及びジシクロヘキシル−4,4’ −ジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸、及びコハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸及びドデカンジ酸(デカンジカルボン酸)の如き脂肪族カルボン酸などが挙げられ、特にテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、セバシン酸、アジピン酸及びドデカジン酸が重合性、色調及び物性の点から好ましく用いられる。
ポリ(アルキレンオキシド)グリコールとジカルボン酸は反応上は1:1のモル比で反応する。使用するジカルボン酸の種類により通常仕込み比を変え、ポリマー内で1:1のモル比となるように支給される。
本発明のポリエーテルエステルアミドにおいて、ポリエーテルエステル単位は30重量%以上70重量%以下の範囲で用いられ、優れた機械的性質、良好な製糸性、制電性を有する繊維が得られる。
本発明で用いられる制電剤におけるスルホン酸の金属塩化合物とは、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸とナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属とから形成される塩や、アルキルスルホン酸とナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属から形成される塩であり、中でもドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。
該スルホン酸金属塩化合物のポリエーテルエステルアミドへの配合量は、ポリエーテルエステルアミド100重量部に対し2重量部以上、20重量部以下であり、特に好ましくは3重量部以上10重量部以下である。配合量が本範囲を満足する制電剤を用いて得られる繊維は、より制電性に優れ、かつ製糸性も良好となる。尚、本発明においてポリエステルに含有させるポリエーテルエステルアミド系制電剤には従来公知の抗酸化剤、着色防止剤等が添加されても勿論良い。
制電剤が上記構成を満足することにより、制電成分が均一に分散しやすくなり、良好な制電性と単糸繊度ばらつきの両立がより良く達成されるものと推定される。
本発明において、制電剤は繊維重量に対して1.5重量%以上2.5重量%未満の割合で含有されることが好ましい。さらに好ましくは、2.0重量%以下である。1.5重量%よりも少ないと、感性特性を満足する繊維表面の溝、フィブリル化、ならびに繊維内部の空隙が得られなく、制電性機能も不十分となる場合がある。また、2.5重量%以上であると、感性特性、制電性機能は得られるが、目付100g/m以下の薄地素材時には、着用上十分な布帛強力が得られなくなる傾向がある。
本発明で用いられる制電剤は、ポリエステル系繊維中にて、繊維軸方向に筋状にブレンドされているとことが好ましい。制電剤をポリエステル系繊維の繊維軸方向に筋状態にブレンドする方法としては、ポリエステルの重合工程から紡糸工程における紡出までの任意の段階で制電性成分を添加することが好ましい。特に紡糸機内で混合させる方法が好ましい。チップブレンドの方法としては、ブレンダー等により機械的にブレンドさせる手段もあるが、ブレンドチップ移送時の脱混合を防止する面から、計量供給装置により溶融押出装置の供給部へ各チップを所定の比率にて連続的に計量・供給し、ブレンドする方がより好ましい。こうして溶融されたポリマーは、周知の紡糸方法で製糸することができる。中でも延伸工程を必要としない高速紡糸法は生産性の向上、延伸工程の省略によるコスト低減・毛羽発生の減少をもたらすため、好ましい方法といえる。例えば溶融紡糸するに際し、溶融紡糸したポリエステル糸条を一旦冷却固化し、引き続き加熱域に導入して延伸した後、4500m/min以上の速度で巻き取る方法がある。冷却後引き続き行う加熱域での延伸は、ガラス転移温度以上融点以下の温度で行うことが好ましい。ガラス転移点未満の温度では、糸物性が実用に耐え難い著しく劣った繊維となってしまう。逆に融点を超える温度では、加熱域での単糸間の融着や糸切れをまねき操業上の問題となるばかりでなく、得られた繊維を製織または製編して得られる布帛の風合いが著しく劣ったものとなる。ここでいう加熱域での延伸とは、非接触式の間接加熱域における延伸でも、加熱引取ローラーと加熱延伸ローラーを用いた延伸のいずれでも構わない。
本発明の婦人織編物を構成するポリエステル系繊維は、単繊維繊度0.05デシテックス以上5デシテックス以下であるポリエステル系繊維単繊維を12本以上100本以下集合したマルチフィラメントであることが好ましい。単繊維繊度が0.05デシテックスより細くなると衣料として着用するに十分な物理的強力が得られない。また、5デシテックスより太くなると、十分な制電性が得られず、風合いが硬くなり、光沢感が損なわれる場合がある。単繊維繊度は、好ましくは、0.1デシテックス以上4デシテックス以下であり、さらに好ましくは、0.5デシテックス以上3.5デシテックス以下である。
単繊維数は、より好ましくは、20本以上75本以下である。繊維断面形状は、特に規定することなく円形、多葉形など任意で設定しても好いが、3個以上の突起部を有する多葉形の形状であり、1.5以上2.0未満の異形度であることが好ましい。
3個以上の突起部を有する多葉形の形状とすることにより、絹調のフィブリル、キシミ感、ならびに深みのある光沢感をより付与できる。異形度2.0以上では、織編物を得る際の糸加工時、撚糸加工時の摩擦や、応力集中により、染色加工のアルカリ減量時にマルチフィラメントを構成する単糸の分割、溶割が発生し易くなり、実用上問題のない布帛強度を得ることができない。
該ポリエステル系繊維は、紡糸〜延伸しただけの生糸でもよく、熱板を通したりすることによって捲縮を付加した加工糸でもよく、また、適宜撚りやエアーなどによる交絡があっても良い。また、他のポリエステル系繊維、天然繊維、再生繊維、化学繊維、合成繊維と複合してもよい。
本発明の織編物は、JIS L 1094に規定される摩擦帯電圧が3000V以下であることが好ましい。より好ましくは2500V以下である。
3000Vを超えると着用時の他の衣類等の擦れ等により、制電気を帯び易くなり、まとわりつきやホコリ付着などが発生し、着用快適性を得ることが難しくなる場合がある。
また、3000V以下とすることで、本発明は洗濯耐久性にも優れ、繰り返し着用後の制電性能低下も殆どなく好ましい。
一般のポリエステル系織編物の摩擦帯電圧はおよそ5000から6000V程度であり、制電性が良好であるといわれる帯電防止加工を染色加工仕上げ時に施した織編物は、3000V以下である。しかしながら、染色加工仕上げでは、繰り返し着用による性能低下、 また、耐久性を付与するため、織編物に樹脂を含浸、塗布、皮膜等を実施するため、感性特性であるフィブイル、キシミといった風合いが損なわれ好ましくない。
本発明の婦人織編物は、前記した制電剤が筋状にブレンドされたポリエステル系繊維から構成されることにより、絹調のフィブリル風合い、キシミ風合いを有するとともに、ドライ感のある風合い、深みのある光沢感を兼備しつつ、ポリエステル系繊維のフィブリル化に起因する静電気によるまとわりつき防止やホコリ付着防止機能、ならびにフィブリル化薄地素材においても実着用上の問題ない布帛強度物性に優れた織編物が得られる。
本発明の婦人織物は、上記、ポリエステル系繊維が単独で全ての経糸および/または全ての緯糸に配列された織物であって、JIS L 1096に規定される引裂強力が該ポリエステル系繊維の配列された方向において、4.9N以上であり、目付100g/m以下40g/m以上であることが好ましい。
該ポリエステル系繊維を織物の全重量に対して35重量%以上の割合で含有することがより好ましい。35重量%未満であると、布帛強度は得られるが、本発明の目的である絹調のフィブリル風合い、キシミ風合いを十分得ることができず、また、着用時に必要十分な制電性能が得られない傾向がある。目付100g/mを超える織物でも、本発明の目的は達成できるが、より繊細を求められる薄地婦人衣料製品としては、重くなり過ぎ、不十分となる。また、目付40g/m未満では、実用上必要とされる布帛強度に懸念が残る。より好ましくは85g/m以下45g/m以上である。
【0012】
本発明は、該ポリエステル系繊維が単独で全ての経糸および、または、全ての緯糸に配列された織物を構成することにより、絹調のフィブリル風合い、キシミ風合いを有し、ドライ感のある風合い、深みのある光沢感を兼備しつつ、従来技術では問題の可能性があった目付100g/m以下のフィブリル化薄地織物の静電気による、まとわりつきやほこり付着を防止し、ならびに実着用上、問題のない引裂強力4.9N以上の婦人織物である。
本発明の婦人織編物の製造に当たっては、製織、編成した後、織編物の通常工程である精練、リラックス、乾燥、乾熱セットを行い、処理温度120℃〜190℃、線圧力100kg/cm以上にて連続的に加圧処理し、織編物の繊維重量対比5%〜40%のアルカリ減量処理を実施することが好ましい。より好ましくは、処理温度140℃から180℃、線圧力150kg/cm〜250kg/cmにて連続的に加圧処理し、織編物の繊維重量対比5%〜25%のアルカリ減量処理である。加圧処理機としては、圧力100kg/cm以上、より好ましくは150kg/cm以上の線圧力が可能なカレンダー加工機が好ましい。
処理温度120℃未満、または、線圧力100kg未満の連続的な加圧処理では、織編物の繊維表面に均一なフィブリル化が得にくく、筋状、斑状の品位欠点が発生し外観品位不良となる場合がある。また、処理温度190℃を越えるとフィブリル化状態の差が生じ、織編物の幅方向での色相差が目立ち易くなる傾向があり、外観品位不良となる場合がある。
アルカリ減量処理における減量率が5%未満では、繊維軸方向の複数の溝、繊維内部の空隙が形成されず、絹調のフィブリル、キシミ風合い、深みの光沢感が得られにくい。また、減量率40%を越えると、引裂強力の低下が大きくなり、実着用上、充分な布帛強度を得にくくなる。また、繊維中の制電剤の脱落が大きくなり、良好な制電性も得られない場合がある。
アルカリ減量処理の条件については、一般に適用される公知の方法が適用される。
アルカリ減量処理以後については、一般に適用される公知の織編物の染色、仕上げ加工が適用される。さらに必要に応じて、本発明の目的を達成する範囲で、柔軟剤、吸汗剤、撥水剤、または、抗菌剤、消臭剤など特殊な機能加工剤を付与してもなんら問題はない。
本発明の織編物は、絹調のフィブリル風合い、キシミ感を有するとともに、ドライ感のある風合い、深みのある光沢感を兼備し、且つ、優れた制電性と布帛強度を有することから、婦人衣料織編物として好適に用いられる。
【実施例】
【0013】
以下に実施例により本発明を詳細に説明する。なお、実施例、比較例に示す各特性値は下記の方法により測定したものである。また、評価における◎、○、△、×は非常に良好、良好、やや不良、不良で表している。
(摩擦帯電圧の測定方法)
試料の調湿および測定室環境が、20℃×40%RHおいて、JIS L 1094(1997)に規定される摩擦帯電圧測定方法で行う。
(引裂強度)
JIS L 1096に規定されるD法(ペンジュラム法)を用いて測定した。
(異形度)
異形度は下式より求められる。
【0014】
異形度=L1/L2
L1:繊維横断面の外接円の直径
L2:繊維横断面の内接円の直径
(洗濯処理)
洗濯はJIS L 0217(1995)の103の方法に準じた。
<実施例>
実施例1
制電剤として、カプロラクタム50重量%、エチレンオキサイドの縮合成生物47.3重量%、アジピン酸2.7重量%を反応してなるポリエーテルエステルアミド100重量部(ポリエーテルエステル単位47.3重量%)に、スルホン酸金属塩化合物として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを5重量部配合し、ポリエーテルエステルアミド系制電剤チップを調整した。調整時には、抗酸化剤として1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリ(3,5−ジ−terブチル−4−ヒドロキシル)ベンゼンを、ポリエーテルエステルアミド100重量部に対し5.5重量部添加した。該ポリエーテルエステルアミド系制電剤チップを80℃で6時間乾燥した後、160℃で6時間真空乾燥したポリエチレンテレフタレートチップ98重量部に対しポリエーテルエステルアミド2重量部の割合でブレンドして溶融紡糸機にて溶融混練し84デシテックス36フィラメント(丸断面/異形度1.0)の延伸糸を得た。
得られたポリエステル系繊維にダブルツイスター撚糸機にて撚数2000T/Mの撚糸を作成した後、経糸、緯糸に使用し、バックサテンアムンゼン組織の織物を製織した。
得られた織物を常法の精練、リラックス、乾燥、乾熱セットを行い、次いで、金属ロールと樹脂ロールを有するカレンダー加工機を用い、温度160℃、線加圧100kg/cmの連続的な加圧処理を行った後、液流染色機にて、アルカリ濃度40g/l(苛性ソーダ)、98℃にてアルカリ減量処理を施し、減量率37%の織物を得た。減量を施した織物を
常法にて、染色・仕上げを行い、経密度235本/2.54cm、緯密度100本/2.54cm、目付85g/mの織物を得た。こうして得られた織物の繊維表面の筋状態の筋形成、繊維内部の空隙の形成、外観品位、感性特性、摩擦帯電圧、引裂強度を表1に示した。
得られた織物は、絹調のフィブリル風合い、キシミ感を有するとともに、ドライ感のある風合い、深みのある光沢感を兼備し、且つ、洗濯10回後の摩擦帯電圧が3000V以下であり、引裂強度4.9N以上の強度を有する外観品位に優れた物であった。
実施例2
実施例1と同様の制電剤、割合にて、溶融紡糸機にて溶融混練し56デシテックス36フィラメント(3葉断面/異形度1.7)の延伸糸を得た。
得られたポリエステル系繊維にダブルツイスター撚糸機にて撚数2700T/Mの撚糸を作成した後、経糸、緯糸に使用し、平組織の織物を製織した。
得られた織物を温度180℃、線加圧180kg/cmの連続的な加圧処理を行った以外は、実施例1と同様にして処理を行い、減量率28%、経密度115本/2.54cm、緯密度97本/2.54cm、目付49g/mの織物を得た。こうして得られた織物の繊維表面の筋状態の筋形成、繊維内部の空隙の形成、外観品位、感性特性、摩擦帯電圧、引裂強度を表1に示した。
実施例3
実施例2で得た生機を用い、減量率7%に変えた以外は、実施例2と同様の処理を行い、得られた織物の繊維表面の筋状態の筋形成、繊維内部の空隙の形成、外観品位、感性特性、摩擦帯電圧、引裂強度を表1に示した。
実施例4
実施例1の制電剤量をポリエチレンテレフタレートチップ98.5重量部に対しポリエーテルエステルアミド1.5重量部の割合でブレンドした以外は、実施例1と同様のポリエステ系繊維にて、同様の織物を製織し、同様の処理を行った。こうして得られた織物の繊維表面の筋状態の筋形成、繊維内部の空隙の形成、外観品位、感性特性、摩擦帯電圧、引裂強度を表1に示した。
実施例5
実施例2の制電剤量をポリエチレンテレフタレートチップ98.5重量部に対しポリエーテルエステルアミド1.5重量部の割合でブレンドした以外は、実施例2と同様のポリエステ系繊維にて、同様の織物を製織し、同様の処理を行った。こうして得られた織物の繊維表面の筋状態の筋形成、繊維内部の空隙の形成、外観品位、感性特性、摩擦帯電圧、引裂強度を表1に示した。
実施例6
実施例2の制電剤量をポリエチレンテレフタレートチップ97.6重量部に対しポリエーテルエステルアミド2.4重量部の割合でブレンドした以外は、実施例2と同様のポリエステ系繊維にて、同様の織物を製織し、同様の処理を行った。こうして得られた織物の繊維表面の筋状態の筋形成、繊維内部の空隙の形成、外観品位、感性特性、摩擦帯電圧、引裂強度を表1に示した。
【0015】
比較例1
実施例1の制電剤を用いず、ポリエチレンテレフタレートチップのみにて溶融紡糸機にて溶融し84デシテックス36フィラメント(丸断面/異形度1.0)の延伸糸を得た。
それ以外は、実施例1と同様に製織、処理を行い、減量率37%、経密度235本/2.54cm 、 緯密度100本/2.54cm、目付85g/mの織物を得た。得られた織物の繊維表面の筋状態の筋形成、繊維内部の空隙の形成、外観品位、感性特性、摩擦帯電圧、引裂強度を表1に示した。引裂強度は良好であるが、フィブリル、キシミ風合いが無く、且つ制電性にも欠け、婦人衣料素材としては不適であった
比較例2
実施例2の制電剤量をポリエチレンテレフタレートチップ97.0重量部に対しポリエーテルエステルアミド3.0重量部の割合でブレンドした以外は、実施例2と同様のポリエステ系繊維にて、同様の織物を製織し、同様の処理を行った。得られた織物の繊維表面の筋状態の筋形成、繊維内部の空隙の形成、外観品位、感性特性、摩擦帯電圧、引裂強度を表1に示した。感性特性、制電性は良好であるが、実着用上問題のない引裂強度に劣る物であった。
比較例3〜4
実施例2で得た生機を用い、減量率を変えた以外は、実施例2と同様の処理を行い、得られた織物の繊維表面の筋状態の筋形成、繊維内部の空隙の形成、外観品位、感性特性、摩擦帯電圧、引裂強度を表1に示した。
実施例7〜9
実施例2で得た生機を用い、連続的な加圧処理の温度、線加圧を変えた以外は、実施例2と同様の処理を行い、得られた織物の繊維表面の筋状態の筋形成、繊維内部の空隙の形成、外観品位、感性特性、摩擦帯電圧、引裂強度を表1に示した。
得られた織物は、感性特性、制電性、引裂強度は良好であるが、経筋品位、織物の幅方向の色差が大きく、外観品位にやや劣る物であった。
実施例10
実施例2で得られたポリエステル系繊維の異形度を2.2に変えた以外は、実施例2と同様の織物を製織し、同様の処理を行った。得られた織物の繊維表面の筋状態の筋形成、繊維内部の空隙の形成、外観品位、感性特性、摩擦帯電圧、引裂強度を表1に示した。
得られた織物は、感性特性、制電性は良好であるが、実着用上問題のない引裂強度に劣る物であった。
【0016】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表層に、繊維軸方向に複数の筋状態の溝が形成され、繊維内部には、繊維表層の溝とは独立した直径0.1μmから5μmの空隙を繊維長さ方向に非連続で有し、且つ、該空隙を横繊維断面当たり、1個から300個の割合で有するポリエステル系繊維を含む織編物であって、該ポリエステル系繊維表面の一部がフィブリル化してなることを特徴とする織編物。
【請求項2】
該ポリエステル系繊維が、下記要件(1)、(2)に示す制電剤を繊維重量に対し1.5重量%以上2.5重量%未満の割合で含むことを特徴とする請求項1記載の織編物。
(1)(A)アミノカルボン酸、ラクタムおよびジアミンとジカルボン酸の塩から選ばれる少なくとも一種、(B)ポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび(C)ジカルボン酸を反応して得られたポリエーテルエステルアミドを含有し、該ポリエーテルエステルアミドにおけるポリエーテルエステル単位が30〜70重量%である。
(2)該ポリエーテルエステルアミド100重量部と、スルホン酸の金属化合物2〜20重量部とからなる制電剤。
【請求項3】
該ポリエステル系繊維の横断面形状が3個以上の突起部を有する多葉形の形状であり、1.5以上2.0未満の異形度であることを特徴する請求項1または2に記載の織編物。
【請求項4】
JIS L 1094に規定される摩擦帯電圧が3000V以下であることを特徴する請求項1〜3のいずれかに記載の織編物。
【請求項5】
請求項1記載の該ポリエステル系繊維が単独で全ての経糸および/または全ての緯糸に配列された織物であって、JIS L 1096に規定される引裂強力が該ポリエステル系繊維の配列された方向において、4.9N以上であり、目付100g/m以下40g/m以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の織編物。
【請求項6】
処理温度120℃〜190℃、線圧力100kg/cm以上にて連続的に加圧処理した後、アルカリ減量処理によって得られ、且つ、アルカリ減量率が織編物の繊維重量対比5%〜40%であることを特徴する請求項1から5のいずれかに記載の織編物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−112071(P2012−112071A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262277(P2010−262277)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】