説明

織編物とその織編物を含む衣料品

【課題】生産効率に優れ、布帛強度の低下、風合い硬化を抑制しながら、従来に無い緊迫力の差を得ることができる、機能性と意匠性の富んだ部分的に異なる緊迫力を有する衣料用織編地及び同織編地を使った衣料品を提供する。
【解決手段】ポリプロピレンマルチフィラメントと熱可塑性ポリウレタン伸縮性弾性糸から形成された織編地6であって、ポリプロピレンマルチフィラメント内のモノフィラメント同士が融着している融着部4と融着していない非融着部5とを有している。さらに、この織編地6はポリエステルマルチフィラメントを含むことも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分的に緊迫力の異なる織編物とその織編物を含む衣料品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、体型補正機能又は筋肉サポート機能の付与を目的として、ベースの織編物に緊迫力の高いテープを縫製することが行われてきた。ベースが編物の場合には、編組織を部分的に変更することにより異なる緊迫力を付与することが行われてきた。
【0003】
例えば、特開2001−64801号公報(特許文献1)には、ガードル等において、裏側から弾力性のあるテープ状布帛を重ねて縫製する方法、弾力性のある樹脂を部分的に塗布する方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、前者の方法は、縫製の手間がかかると共に、厚みが増すことによる段差が外観上に出る、蒸れ感を感じるといった問題があった。後者の方法では、触感が劣ると共に、織編目が塞がれ通気性が極端に低下し、蒸れ感が非常に高くなるといった問題があった。
【0005】
また、特開昭63−85146号公報(特許文献2)や特開2000−303209号公報(特許文献3)には、部分的に編組織を変更することにより編物に異なる緊迫力を付与することが記載されている。
【0006】
しかし、これらの方法で得られる編物は、部分的に編組織を変更するため、比較的肉厚の生地になりやすく、蒸れ感を感じるといった問題があった。
【0007】
サイズの異なる衣料品を製造するには、そのサイズに応じた編組織パターンの編物を製造する必要があり、生産効率が低いジャガード機構を備えた特殊な編機を使用する必要があるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−64801号公報
【特許文献2】特開昭63−85146号公報
【特許文献3】特開2000−303209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、
1)厚みが増す、
2)サイズに応じた編組織パターンの編物を製造する必要がある、
3)ジャガード機構を備えた特殊な編機を使用する必要がある、
といった、従来技術における問題点を解決するものであり、その具体的な目的は、段差が外観に出ず、蒸れを感じず、生産効率のよい、部分的に緊迫力の異なる織編物及び同織編物を含む体型補正機能又は筋肉サポート機能に優れた衣料品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の要旨は、織編物全面にわたって、ポリプロピレンマルチフィラメント(以下、PPフィラメントという。)と熱可塑性ポリウレタン伸縮性弾性糸(以下、PU弾性糸という。)が配置されている織編物であって、PPフィラメント内のモノフィラメント同士がモノフィラメントの形状を残したまま融着している融着部と、PPフィラメント内のモノフィラメントが融着していない非融着部とを有する織編物である。
【0011】
また、織編物全面にわたって、PPフィラメントの融点よりも30℃以上高い融点を有する糸条(以下、高融点糸という。)がさらに配置されていることが好ましい。そして、これらの織編物は、経編地であることが好ましい。
さらに上記織編物からなる衣料品であることを第二の要旨としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の織編物は、厚みを増すことがなく、サイズに応じた編組織パターンの編物を製造する必要もなく、ジャガード機構を備えた特殊な編機を使用する必要がなく生産効率よく製造されるものであり、段差が外観に表出せず、蒸れを感じず、部分的に緊迫力の異なる織編物である。また、同織編物を含む衣料品は、体型補正機能又は筋肉サポート機能に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1のブラジャー作製用の第1金型を凸部とは反対側から見た平面図である。
【図2】図1のII-II 線断面図である。
【図3】本発明の実施例1のブラジャー作製用の第2金型を凸部側から見た平面図である。
【図4】図1のIV-IV 線断面図である。
【図5】エンボス加工後の経編地を示す平面図である。
【図6】本発明の代表的な衣料品であるブラジャーを示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面を参照して具体的に説明する。
本発明は、織編物全面にわたって、PPフィラメントとPU弾性糸が配置されている織編物である。
【0015】
本発明の織編物において、PPフィラメントを用いる理由は、ポリプロピレンポリマーは、ガラス転移点が常温以下であり、PPフィラメント内のモノフィラメント同士を融着させても、ソフトな肌触りが得られるためである。
本発明において、PPフィラメントとしては、MRCパイレン株式会社製のパイレンが好ましく用いられる。
【0016】
本発明の織編物において、PU弾性糸を用いる理由は、織編物に強い伸縮性を付与するためである。
【0017】
さらに、PU弾性糸の熱セット温度は、PPフィラメントが融着する温度よりも低い方が、衣料品にしたときに残存する収縮応力がより軽減されるため好ましい。
【0018】
ここで、PU弾性糸の熱セット温度とは、PU弾性糸が熱により融着し、セットされる温度である。
なお、PU弾性糸の熱セット温度は公称値に囚われず、本発明の織編物を作製するとき、問題が起きない温度であればよい。PU弾性糸としては、日清紡テキスタイル株式会社製のモビロンが、比較的セット温度が低く好ましく用いられる。
【0019】
本発明の織編物の織編組織は、特に限定するものではなく、平、綾、サテン又は二重組織等の織物や、丸編地、緯編地、ジャガード機構を備えた編機による柄を有する編地、多層構造編地などの編組織であってよいが、ラッセル編地、トリコット編地といった経編地が、織編物の伸縮性の点で好ましく用いられる。
本発明の織編物は、織編物全面にPPフィラメントとPU弾性糸が配置されていることが必要である。
【0020】
織編物の全面にわたってPPフィラメントとPU弾性糸とが配置されている構成は、
1)PPフィラメントとPU弾性糸とを交編すること、
2)PPフィラメントとPU弾性糸とを複合したのち、その複合糸を製編すること、
或いは、
3)PPフィラメントとPU弾性糸とを交織すること、
4)PPフィラメントとPU弾性糸とを複合したのち、その複合糸を製織すること、
により形成することが可能である。
【0021】
ここで、複合糸とは、混繊、交撚、複合仮撚等の手法により複数の糸を合わせることを言い、風合い及び用途に応じ適宜選択すれば良い。
【0022】
また、PPフィラメントとして、PPフィラメントの仮撚糸を用いた場合は、熱エンボス加工後の織編物の融着部がよりソフトになり、織編物全体のふくらみ感が付与されるため好適である。
【0023】
さらに本発明の織編物におけるPU弾性糸として、PU弾性糸とPPフィラメントの融点よりも30℃以上高い融点を有する糸条(高融点糸)との複合糸を用いてもよい。
【0024】
また本発明の織編物には、PPフィラメントとPU弾性糸に加え、前記高融点糸を配置することができる。
【0025】
高融点糸条の配置は、交編、交織、高融点糸とPPフィラメント及び/又はPU弾性糸との複合糸を製編、製織することにより形成することが可能である。
本発明の織編物において、織編物全面に高融点糸を配置することにより、熱エンボス加工による融着部の硬化を防ぐ点で好ましい。
【0026】
また、高融点糸を織編物の外層部に位置させ、PPフィラメントを外層部から遠ざけることにより、風合いが良好となる。
高融点糸としては、ポリエステルマルチフィラメントやポリアミドマルチフィラメントが好ましい。
【0027】
ポリエステルマルチフィラメントは、共重合成分として第三成分を含むエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルマルチフィラメントであることがソフトな風合いが得られるためさらに好ましい。さらには、上記第三成分を含むエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルマルチフィラメントは、カチオン染料可染性であることが好ましい。上記ポリエステルマルチフィラメントが、カチオン染料可染性であることで、織編物をカチオン染料で染色することができ、PU弾性糸への染料の汚染が軽減され、織編物の染色堅牢度が良好になる。
【0028】
上記第三成分を含むエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルマルチフィラメントとしては特に限定するものではないが、三菱レイヨン・テキスタイル株式会社製A.H.Yが、繊維のもつ柔らかさ、常圧カチオン可染性による発色の良さから好ましく用いられる。
【0029】
高い融点糸として、ポリアミドマルチフィラメントを用いた場合、織編物の風合いがソフトになるとともに、織編物を酸性染料で染色することができ、PU弾性糸への染料の汚染が軽減され、織編物の染色堅牢度が良好になる。
【0030】
高融点糸として、融点の異なるポリマーを鞘・芯にそれぞれ配した芯鞘型マルチフィラメント、融点の異なるポリマーをサイドバイサイド構造に配した複合型マルチフィラメント、低融点ポリマーのマルチフィラメントと高融点ポリマーの混繊糸を用いてもよい。
【0031】
さらには、高融点糸として、高融点糸の仮撚糸を用いると、織編物全体のふくらみ感が付与されるため好適である。
さらに本発明の織編物には、本発明の効果を損なわない範囲において天然繊維を用いることもできる。
【0032】
本発明の織編物では、PPフィラメント内のモノフィラメント同士が融着している融着部と融着していない非融着部とを形成することにより、緊迫力の高い部分(伸張されにくい融着部)と緊迫力の低い部分(伸張されやすい非融着部)とを自由に配置することが可能となる。
PPフィラメント内のモノフィラメント同士が融着している様子は、織編物の切断面を光学顕微鏡で観察することで行うことができる。
【0033】
融着部の厚みは、緊迫力の低い非融着部のそれに比して小さいことが好ましく、非融着部の厚みの90%以下とすることがより好ましく、70%以下とすることがさらに好ましい。融着部の厚みを上記のように小さくすることが、融着部を肌から遠ざけることができ、不快感を低減することができ、また、伸張されやすい非融着部の伸張により融着部と非融着部の布厚差を小さくし、融着部と非融着部の境界を見えにくくする。
【0034】
本発明のPPフィラメント内のモノフィラメント同士が融着している緊迫力の高い融着部を織編物に形成する方法(以下、加熱加工ともいう。)としては、一般に熱エンボス加工と呼ばれている方法が好ましく用いられる。すなわち、織編物を所望の形状の凸型を有する予め加熱された金型やロールに押し付ける方法である。
【0035】
このときの加熱手法は、ガスなどの炎や伝熱ヒーター、高周波による誘電加熱、また誘導レーザーを用いて任意の箇所を直接加熱する等の手法があるが、温度制御性、生産性、コストの面を考慮して任意に選定すればよい。また、レーザー光を直接織編物に対して照射し、所望とする形状の融着部を形成させてもよい。
【0036】
加熱の温度を変えることにより融着部中のPPフィラメント内のモノフィラメント同士が融着する程度を変えることができ、緊迫力を変化させることが可能である。
加熱の温度は、PPフィラメント内のモノフィラメント同士が融着する温度で、融着部が樹脂板のように硬く成型されない温度とする。
【0037】
本発明の織編物は、部分的に緊迫力の異なる部分を有する衣料品にあって、下記式を満足することが好ましい。
3.5≦A/B≦20
ただし、Aは「緊迫力の最も強い部分の緊迫力」、Bは「緊迫力の最も弱い部分の緊迫力」である。
【0038】
本発明の織編物は、A/Bが3.5以上であることが好ましい。A/Bが3.5未満であると着圧や、筋肉サポート効果が得られにくい。また強めのサポート感を得る目的の衣料品用途には、A/Bが7以上であることが好ましく、A/Bが10以上であることがさらに好ましい。
【0039】
さらに、A/Bが3.5以上であれば、最も強い緊迫力と最も弱い緊迫力の中間の緊迫力を有する部分が存在してもよい。また、この中間の緊迫力を有する部分は、緊迫力の最も強い部分と、緊迫力の最も弱い部分との間に任意に配置してよい。さらに、緊迫力を多段階にすることで、快適な着用感が得られやすい。
また、A/Bは20以下であることが必要であり、20を超えると着用時に不快感を感じるものとなる。
【0040】
緊迫力の最も弱い部分の緊迫力Bは、用途・目的によって異なり、例えば、薄地の場合25cN、中肉地の場合100cN、体型補正を目的とするハイパワー用途には200cNとするなど任意に決定される。
【0041】
緊迫力の強い部分と弱い部分の配置については、例えばブラジャーにおいては、カップ下部周辺部分、バック部との接続部であるウイング部及びバック部に緊迫力の強い部分を配置し、その他の部分に緊迫力の弱い部分を配置する。このような配置にすることで、バストの形態安定性と快適な着用感が得られる。またガードルやスパッツにおいては、臀部下部周辺部の緊迫力を強い部分を配置し、その他の部分に緊迫力の弱い部分を配置する。このような配置とすることで、臀部トップの形態安定性と快適な着用感が得られる。また靴下においては、足首からふくらはぎにかけて緊迫力の強い部分を配置することで、血行促進の効果が得られやすい。
【0042】
本発明では、織編物に緊迫力の強い部分と弱い部分を配置するために、織編物を部分的に加熱加工し、織編物を構成するPPフィラメント内のモノフィラメントを融着させる。この加熱加工により形成される融着部が緊迫力の強い部分となり、非融着部が緊迫力の弱い部分となる。
【0043】
本発明の織編物は、部分的に緊迫力が異なることにより、衣料品として用いた場合、体型補正機能又は筋肉サポート機能が発揮される。
そこで、本発明の織編物は、ガードル、ボディスーツ、レオタード、ショーツ、ブラジャー、スパッツ、スポーツ用タオル、靴下、レース、水着等の衣料品に好適に用いることができる。
具体的態様を示すと以下のようなものがある。
【0044】
(1)PPフィラメントとPU弾性糸から形成される経編地であって、PPフィラメント内のモノフィラメント同士が融着している融着部と融着していない非融着部とを有する経編地を用い、カップ下部周辺部分、ウイング部及びバック部を融着部で形成したブラジャー。
【0045】
(2)PPフィラメントとPU弾性糸から形成される経編地であって、PPフィラメント内のモノフィラメント同士が融着している融着部と融着していない非融着部とを有する経編地を用い、臀部下部に当たる部分を融着部で形成したガードル。
【0046】
(3)PPフィラメントとPU弾性糸から形成される経編地であって、PPフィラメント内のモノフィラメント同士が融着している融着部と融着していない非融着部とを有する経編地を用い、臀部下部に当たる部分を融着部で形成したスパッツ。
【0047】
(4)PPフィラメントとPU弾性糸から形成される丸編地であって、PPフィラメント内のモノフィラメント同士が融着している融着部と融着していない非融着部とを有する丸編地を用い、背中の首部後ろから左右の肩甲骨下部に当たる部分を融着部で形成したスポーツシャツ。
【0048】
(5)PPフィラメントとPU弾性糸から形成される織物であって、PPフィラメント内のモノフィラメント同士が融着している融着部と融着していない非融着部とを有する織物を用い、カップ下部周辺部分、ウイング部及びバック部を融着部で形成したブラジャー。
【実施例】
【0049】
次に本発明を実施例及び比較例に基づき更に詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
本発明における布厚の測定は、布厚計(PEACOCK DIAL THICHNESS GAUGE MDEL G )を用いて測定した。
【0050】
本発明における緊迫力は、下記の方法で測定した。
試験装置として、定速伸長形引張試験機「オートグラフAGS−H」(島津製作所社製)を用いた。
【0051】
織編物の経方向及び緯方向において、幅2.5cm×長さ8.0cmの試験片を作製した。試験片の長さ方向を上下方向に向けて、その両端をクリップでつかみ、試験装置に取り付けた。試験片の上部つかみ長さを2.0cm、下部つかみ長さを2.0cm、つかみ間隔を4.0cmに設定した。
【0052】
試験片に引張力を加えて、30±2cm/分の速度で伸度40%まで伸ばした。その後、同じ速度で引張力を取り去った。この動作を3回繰り返し、3回目の動作での除荷時の伸度30%における応力を緊迫力とした。
【0053】
(実施例1:ブラジャーの製作)
PPフィラメントとして、ポリプロピレン繊維56dtex30フィラメント(MRCパイレン株式会社製)のベージュ原着糸を用意した。
PU弾性糸として、熱可塑性ポリウレタン伸縮性弾性糸44dtex1フィラメント(日清紡テキスタイル株式会社製モビロンR−Lタイプ)を用意した。
【0054】
以上の2種の糸を使用し、56ゲージのラッセル編機を使用して以下の条件で製編し、ポリプロピレン繊維の混率が74%、伸縮性弾性糸の混率が26%の経編地からなる編物を作製した。
糸配列:フロント筬にポリプロピレン繊維をフルセットで配置した。
バック筬にPU弾性糸をフルセットで配置した。
編組織:デンビーを採用した。
【0055】
この編物を精練、リラックス加工及び整理仕上げを実施し、コース90本/2.54cm、ウェール63本/2.54cm、目付230g/m2 の経編物とした。
【0056】
図1及び図2に示したブラジャー作製用の第1金型1と、図3及び図4に示した同じくブラジャー作製用の第2金型2とからなる金型3を用意した。この金型3を予め155℃に加熱しておいた。整理仕上げ後の経編物を第1金型1及び第2金型2の間で30秒間挟んで熱エンボス加工を施し、PPフィラメント内のモノフィラメント同士を融着させ、図5に示したように融着部4と非融着部5を配した本実施例の経編地6を得た。
【0057】
ブラジャー作製用の第1金型1は、図1に示すように金属製平板にブラジャー11(図5及び図6参照)のカップ下部周辺部分7、左右ウイング部8a,8b及び左右バック部9a,9bに相当する部分に凸部1aが形成されており、第2金型2は、図3に示すように同じく金属製平板にブラジャー11(図5及び図6参照)のカップ下部周辺部分7、左右ウイング部8a,8b及び左右バック部9a,9bに対応して、同一形状の凸部2aが形成されている。熱エンボス加工時には、前記第1金型1の凸部1aと第2金型2の凸部2aとを向かい合わせにして、第1及び第2金型1,2の間に経編地6を挟み熱エンボス加工を行う。
【0058】
この経編地6の融着部4の緊迫力Aと、非融着部5の緊迫力Bの物性評価を実施した。
緊迫力の比は18.3(Bは70cN)であった。
融着部4、非融着部5の厚みは、それぞれ30μm、58μmであった。
【0059】
この経編地6は、カップ下部周辺部分7、背部分であるバック部との接続部としての左右ウイング部8a,8b及び左右バック部9a、9bのそれぞれの領域に融着部4が配されており、この経編地6をブラジャーの形状に裁断し、図6に示すように裁断した経編地に肩紐10を縫製してブラジャー11を作製した。
【0060】
得られたブラジャーは、従来のブラジャー(カップ下部周辺部分やバック部への補強、ウイング部に別の低ストレッチ編地を縫製したブラジャー)に比して胸へのフィット性もよく、優れた緊迫力により型崩れもしにくく、快適な着用感を得るものであった。さらに、製造工程を非常に簡略化することができた。
【0061】
(実施例2:ガードルの製作)
高融点糸として常圧カチオン可染ポリエステル糸を使用した。
PPフィラメントとして、ポリプロピレン繊維56dtex30フィラメント(MRCパイレン株式会社製)の黒原着仮撚糸を用意した。
PU弾性糸として、熱可塑性ポリウレタン伸縮性弾性糸44dtex1フィラメント(日清紡テキスタイル株式会社製モビロンR−Lタイプ)を用意した。
【0062】
さらに高融点糸として、ポリエステル繊維56dtex48フィラメント(三菱レイヨン・テキスタイル株式会社製常圧カチオン可染糸商標「A.H.Y」)を用意した。
【0063】
以上の3種の糸を使用し、56ゲージのラッセル編機を使用して以下の条件で編成し、混率(PPマルチフィラメント/PU弾性糸/高融点糸)が34/15/51質量%の経編地からなる編物を作製した。
糸配列:フロント筬に高融点糸をフルセットで配置し、
ミドル筬にPU弾性糸をフルセットで配置し、さらに
バック筬にPPフィラメントをフルセットで配置した。
編組織:ハーフとした。
【0064】
この編地を精練、赤カチオン染料によって染色整理仕上げを実施し、コース82本/2.54cm、ウェール44本/2.54cm、目付273g/m2 の経編地を得た。
【0065】
ガードル作製用の2つの凸型の金型(図示せず)を用意した。この金型を予め155℃に加熱した。整理後の編物を金型で30秒間挟んで熱エンボス加工を施し、PPフィラメント内のモノフィラメント同士を融着させ、融着部と非融着部を配した本実施例の経編物とした。
【0066】
この編物の融着部の緊迫力Aと、非融着部の緊迫力Bの物性評価を実施した。緊迫力の比は14.5(Bは30cN)であった。
融着部、非融着部の厚みは、それぞれ、45μm、74μmであった。
【0067】
作成した編物を、融着部が臀部下部に沿った巾6cmの弓形形状になるように、ガードルの形状に裁断して縫製し、筋肉サポート効果を狙ったガードルを縫製した。
【0068】
得られたガードルは、従来のガードル(例えば、上記特許文献1に記載されているように、裏側から弾力性のある比較的幅広のテープ状布帛を重ねて縫製したり、弾力性のある樹脂を部分的に塗布し、或いは編組織を使い分けて編成するなどしたガードル)に比して、腰回りから脚部にかけてのフィット性もよく、優れた緊迫力により心地よい筋肉サポート効果を示す良好なものであった。
【0069】
加えて、PPフィラメントとしてポリプロピレン繊維の仮撚糸が用いられていることから融着部がよりソフトな風合いとなり、パッカリングがなく生地表面がきれいなものであった。
【0070】
さらに、高融点糸として、常圧カチオン可染ポリエステル繊維が用いられており、PPフィラメントとして用いられている繊維の黒色とのコントラストが高い赤色を呈することから意匠性が高いものであった。その上、PU弾性糸への汚染がなく、染色堅牢度の高い製品であった。
さらに、繁多な作業の必要がなく、製造工程を非常に簡略化することができた。
【0071】
(実施例3:スパッツの製作)
高融点糸として常圧カチオン可染ポリエステル糸を使用した。
高融点糸として用いる繊維を、ポリエステル繊維を33dtex36フィラメント(三菱レイヨン・テキスタイル株式会社製常圧カチオン可染糸商標「A.H.Y」)に変更した以外は実施例2と同様にして編成し、経編物(PPフィラメント/PU弾性糸/高融点糸=41/20/39質量%)を作製した。
【0072】
この編物を精練、赤カチオン染料によって染色整理仕上げを実施し、コース88本/2.54cm、ウェール44本/2.54cm、目付248g/m2 の経編地を得た。
【0073】
別にスパッツ作製用の2つの凸型の金型(図示しない)を用意した。この金型を予め155℃に加熱した。整理後の経編地を金型で30秒間挟む熱エンボス加工を施し、PPフィラメント内のモノフィラメント同士を融着させ、融着部と非融着部を配した本実施例の編物を得た。
【0074】
この編物の融着部の緊迫力Aと、非融着部の緊迫力Bの物性評価を実施した。緊迫力の比は11.7(Bは25cN)であった。
融着部、非融着部の厚みは、それぞれ30μm、65μmであった。
この織編物を、融着部が臀部下部に沿った巾6cmの弓形形状になるように、スパッツの形状に裁断して、筋肉サポート効果を狙ったスパッツを縫製した。
作製したスパッツは、実施例2と同様腰回りから脚部へのフィット性もよく、優れた緊迫力により心地よい筋肉サポート効果を示し良好なものであった。
【0075】
(実施例4:ブラジャーの製作)
金型の予熱温度を160℃に変更した。
金型の予熱温度を160℃とした以外は、実施例1と同様に本発明の経編地を得た。
この経編地の融着部の緊迫力Aと、非融着部の緊迫力Bの物性評価を実施した。緊迫力の比は20(Bは70cN)であった。
【0076】
融着部4、非融着部5の厚みは、それぞれ30μm、58μmであった。
作製した経編地を実施例1と同様にしてブラジャーを作製した。このブラジャーは胸へのフィット性もよく、優れた緊迫力により型くずれもしにくく、快適な着用感を得るものであった。
【0077】
(実施例5:融着部の模様を変更したスパッツの製作)
実施例3における「融着部が臀部下部に沿った巾6cmの弓形形状になるように、スパッツの形状に裁断して縫製」するところを「融着部が臀部下部に沿った巾3cmの弓形形状及び巾3cmの弓形形状に沿って1cm間隔をあけた両外側に1cm巾の弓形形状を有する模様とした」となるよう金型を変更した以外は、実施例3と同様にしてスパッツを得た。
【0078】
裁断する前の織編物において、前記模様部の緊迫力Aと非融着部の緊迫力Bとの緊迫力の比は7.3(Bは25cN)であった。
このスパッツは、前期模様部を有することから、弓形形状の中央部から両外側にかけて肌への締め付けが徐々に小さくなり、1cm巾弓形形状とその外側との境界部で肌への食い込みが緩和された好ましい製品であった。
【0079】
(実施例6:融着部の模様を変更したスパッツの製作)
実施例3における「融着部が臀部下部に沿った巾6cmの弓形形状になるように、スパッツの形状に裁断して縫製」するところを「融着部を、1cmの小花形状を1cm間隔で巾6cmの弓形形状に配した模様」とした以外は、実施例3と同様にしてスパッツを得た。
【0080】
なお、裁断する前の経編地について、前記模様部の緊迫力Aと非融着部の緊迫力Bとの緊迫力の比は3.9(Bは25cN)であった。
このスパッツは、融着部が小花形状となっており、ファンデーション機能性とファッション性が両立した好ましい製品となった。
【0081】
(実施例7:丸編地からなるスポーツシャツの製作)
PPフィラメントとして、ポリプロピレン繊維56dtex30フィラメント(MRCパイレン株式会社製)の黒原着仮撚糸を用意した。
PU弾性糸として、熱可塑性ポリウレタン伸縮性弾性糸33dtex1フィラメント(日清紡テキスタイル株式会社製モビロンR−Lタイプ)を用意した。
さらに高融点糸として、ポリエステル繊維ブライト110dtex48フィラメント(三菱レイヨン・テキスタイル株式会社製常圧カチオン可染糸商標「A.H.Y」)の仮撚糸を表面糸として、またポリエステル繊維ブライト56dtex48フィラメント(三菱レイヨン・テキスタイル株式会社製常圧カチオン可染糸商標「A.H.Y」)の仮撚糸を裏面糸として用意した。
【0082】
以上の4種の糸を使用し、28ゲージの丸編機を使用して以下の条件で製編し、混率(PPマルチフィラメント/PU弾性糸/高融点糸)が32/8/60質量%の丸編地からなる編物を作製した。
「糸配列と編組織」
表面:高融点糸ブライト110dtex仮撚糸とPU弾性糸を引き揃えて配列し、天竺 をベースとした。
裏面:PPフィラメントと高融点糸ブライト56dtex仮撚糸を3:1で配列し、天 竺をベースとした。
【0083】
この編物を精練、リラックス加工及び整理仕上げを実施し、コース72本/2.54cm、ウェール51本/2.54cm、目付230g/m2 の丸編物とした。
一方で、スポーツシャツ作製用の凸型の金型を用意した。この金型を予め160℃に加熱した。整理後の丸編地を金型で30秒間挟んで熱エンボス加工を施し、PPフィラメント内のモノフィラメント同士を融着させ、融着部と非融着部を配した本実施例の丸編物を得た。
【0084】
この編物の融着部の緊迫力Aと、非融着部の緊迫力Bの物性評価を実施した。緊迫力の比は10(Bは80cN)であった。
融着部、非融着部の厚みは、それぞれ60μm、75μmであった。
【0085】
作成した編物を、融着部が背中の首部後ろから左右の肩甲骨下部に沿った巾5cmの弓形形状になるように、スポーツシャツの形状に裁断して、筋肉サポート効果を狙ったスポーツシャツを縫製した。
作製したスポーツシャツは、肩甲骨まわりのラインのフィット性もよく優れた緊迫力により心地よい筋肉サポート効果を示し、腕がしなやかで流れるような動きを可能にするウェアとして良好なものであった。
【0086】
(実施例8:織物からなるブラジャーの製作)
PPフィラメントとして、ポリプロピレン繊維30dtex30フィラメント(MRCパイレン株式会社製)の黒原着糸を用意した。
PU弾性糸として、熱可塑性ポリウレタン伸縮性弾性糸33dtex1フィラメント(旭化成繊維株式会社製ロイカBXタイプ)を用意した。
【0087】
以上の2種の糸を使用し、撚り数1200T/M(S方向)に合撚し、得られた撚糸を経糸及び緯糸に用いて、混率(PPマルチフィラメント/PU弾性糸)が75/25質量%の2/1綾組織の織物を作製した。
この織物を精練、リラックス加工及び整理仕上げを実施し、経205本/2.54c
m、緯190本/2.54cm、目付145g/m2 の織物とした。
実施例1と同様に熱エンボス加工を実施し、本発明の織物を得た。
【0088】
この織物の融着部の緊迫力Aと、非融着部の緊迫力Bの物性評価を実施した。
緊迫力の比は17(Bは105cN)であった。融着部4、非融着部5の厚みは、それぞれ32μm、41μmであった。
作製した織物を実施例1と同様にブラジャーを作製した。このブラジャーは胸へのフィット性もよく、優れた緊迫力により型くずれもしにくく、快適な着用感を得るものであった。
【0089】
(比較例1)
融着部のPPフィラメント内のモノフィラメント同士を融着させず、金型3の予熱温度を145℃とした以外は、実施例1と同様に経編物を得た。
この織編物の融着部4の緊迫力Aと、非融着部5の緊迫力Bの物性評価を実施した。
金型3の予熱温度が低いことからPPフィラメント内のモノフィラメント同士が融着しておらず、緊迫力の比は3.1(Bは70cN)となった。
融着部、非融着部5の厚みは、それぞれ53μm、58μmであった。
【0090】
作製した織編物を裁断して実施例1と同様にブラジャーを作製した。胸へのフィット性は良好であったが、緊迫力に乏しく型崩れしやすいものであった。
【0091】
(比較例2:融着部のPPフィラメント中のモノフィラメントが樹脂板状に溶融)
金型3の予熱温度を165℃とした以外は、実施例1と同様の方法で織編物を得た。
この織編物は、金型3の温度が高過ぎたことから、融着部4においてPPフィラメント中のモノフィラメントがその形状を維持しておらず樹脂塊状に溶融していた。
この経編地おける緊迫力が高い融着部4の緊迫力Aと、緊迫力の低い非融着部5の緊迫力Bとの物性評価を実施した。緊迫力の比は23.5(Bは70cN)となった。
融着部、非融着部5の厚みは、それぞれ28μm、58μmであった。
【0092】
作製した経編地を実施例1と同様にしてブラジャーを作製した。このブラジャーは、胸へのフィット性がなく、着用時に不快なものであった。
【0093】
(比較例3:緊迫力差のある従来の織編物)
ジャカード編み部分及び地編み部分にナイロン繊維33dtex26フィラメント(
東レ株式会社製)を用い、伸縮性弾性糸390dtex、44dtex(オペロンテックス株式会社製ライクラ)を用い、56Gの編機にてジャカードラッセル編地を得た。
【0094】
ジャカード編組織の変化によって緊迫力の比を出すために、緊迫力の高い部位(A)はプレーンコード編(組織番号10/23// )、緊迫力の低い部分(B)は鎖編(組織番号0/01// )と組織に変化をもたせて編成した。
【0095】
また、緊迫力の高い部分は、ジャカード編組織が部分的変位により相対的に大きい振り幅で編成されてなる領域によって構成し、緊迫力の低い部分は、ジャカード編組織を高緊迫領域よりも相対的に小さい振り幅で編成されてなる領域で構成した。緊迫力の高い部分は、裁断縫製後にガードルの臀部下部に沿った巾弓形状部に配置されるよう組織した。
【0096】
このラッセル編地を精錬、染色整理仕上げを実施し、コース144本/2.54cm、ウェール42本/2.54cm、目付223g/m2 のラッセル編地を得た。
【0097】
緊迫力の比は1.4(Bは200cN)であり、緊迫力の高い部分の布厚は55μm、緊迫力の低い部分の布厚は50μmであった。この仕上げ反は緊迫力の比が小さいため、体型の補正効果が少ないものとなった。
【0098】
(比較例4)
地編み部分を、抜蝕性繊維としてアルカリ金属スルホン酸基を有する化合物(5−ナトリウムスルホイソフタル酸)2.25モル%及びアジピン酸5.0モル%が共重合した変性ポリエチレンテレフタレート繊維33dtex12フィラメントの無撚糸と、伸縮性のない非抜蝕性繊維として66ナイロン繊維44dtex20フィラメントとを用いたトリスキン組織とし、緯挿入糸には伸縮性の非抜蝕性繊維としてポリウレタン繊維44dtex1フィラメント及びポリウレタン繊維156dtex1フィラメントを用い、製編し、ラッセル編地を得た。
【0099】
このラッセル編地を、低温から段階的に昇温し80℃にて拡布精練した後、セッター温度180℃にて所定の巾にセットし、コース47本/2.54cm、ウエル49本/2.54cm、目付262g/m2 の加工布帛のベース編地とした。
【0100】
このベース編地に対し、グリセリンエチレンオキシド10モル付加物と第四級アンモニウム塩を含んだ抜蝕促進剤を含有した抜蝕糊を用い、ストレッチ性が高く低い緊迫力を形成せしめる所定箇所に部分的に印捺し、乾燥後、180℃で2分間の乾熱処理を行い、次いで湯洗い後、80℃の水酸化ナトリウム10g/リットル水溶液にて30分間浸漬処理し、抜蝕性繊維を部分的に抜蝕加工した。
【0101】
得られたラッセル編地における緊迫力の高い部分の緊迫力Aと、抜蝕加工を施した緊迫力の低い部分の緊迫力Bの物性評価を実施した。緊迫力の比は2.9(Bは17cN)であり、緊迫力の低い部分は非常に抵抗無く肌にソフトフィットするものの、より強い緊迫力感及び緊迫力感差を得るものではなかった。
【0102】
以上説明したとおり、本発明に係る衣料品は特定の素材からなる熱可塑性合成繊維糸を使って織編物にしたのち、その織編物の必要な部分に加熱加工を施すことにより融着部を形成し、次いで衣料品に求められる型に裁断してから所望の衣料品に縫製するだけの簡略化した工程によって容易に製造でき、出来上がった衣料品は身体に対するフィット性に富み、しかも身体の必要箇所に適度の緊迫力が得られ、心地よい体型補正効果や筋肉サポート効果を示す。なお、上記実施例では織編物として経編物を基本に説明したが、本発明の織編物は、文字通り経編物に限定されるものではなく、例えば丸編地等の緯編物あるいは経糸と緯糸からなる織物を含むものである。
【符号の説明】
【0103】
1 第1金型
1a 凸部
2 第2金型
2a 凸部
3 金型
4 融着部
5 非融着部
6 経編地
7 カップ下部周辺部分
8a,8b 左右ウイング部
9a,9b 左右バック部
10 肩紐
11 ブラジャー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織編物全面にわたって、ポリプロピレンマルチフィラメントと熱可塑性ポリウレタン伸縮性弾性糸が配置されている織編物であって、
ポリプロピレンマルチフィラメント内のモノフィラメント同士がモノフィラメントの形状を残したまま融着している融着部と、
ポリプロピレンマルチフィラメント内のモノフィラメントが融着していない非融着部と、
を有する織編物。
【請求項2】
織編物全面にわたって、ポリプロピレンマルチフィラメントの融点よりも30℃以上高い融点を有する糸条がさらに配されている、請求項1記載の織編物。
【請求項3】
織編物が経編地である請求項1又は2に記載の織編物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された織編物からなる衣料品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−157634(P2011−157634A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17732(P2010−17732)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【出願人】(593179509)株式会社ヴィオレッタ (6)
【出願人】(591176661)コスモ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】