説明

織編物用ポリエステルモノフィラメント

【課題】婦人向け衣料用織編物やオーガンジー様織物等の用途に好適であるポリエステルモノフィラメントを提供する。
【解決手段】易溶出性成分Aと難溶出性成分Bとからなり、繊維の横断面において易溶出性成分Aが難溶出性成分Bを複数個に分割した形状を呈するモノフィラメントであり、易溶出性成分Aは、ジカルボン酸成分のうち1〜3モル%がスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分であり、かつ、平均分子量が1000〜10000のポリアルキレングリコールを5〜20質量%含有するポリエステルであり、難溶出性成分Bは、全構成単位の80モル%以上がアルキレンテレフタレートであるポリエステルであり、該モノフィラメントは、易溶出性成分Aが溶出することにより分割して単糸繊度0.5〜4デシテックスの難溶出性成分Bによって構成される複数のフィラメントを発現する織編物用ポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維の横断面において、易溶出性成分によって難溶出性成分が複数個に分割された形状を呈する溶出分割型のモノフィラメントであり、易溶出成分を溶出処理することにより、高級感のある光沢を有し、適度なドライ感とソフトな風合いの織編物を得ることができる織編物用ポリエステルモノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、機械的性質、化学的性質、イージーケア性、光沢性等優れた特性から一般衣料用や産業資材用として広く利用されている。
【0003】
ポリエステル繊維を衣料用に用いる際に特殊な分野の素材としてオーガンジーがある。オーガンジーは、基本的には綿で織られた透き通った生地のことであり、もっとも単純な織りで縦横1本ずつ交互に組み合わせた平織の薄地で、やわらかいのに弾力性を有するも
のである。
【0004】
オーガンジーは、古くから絹や綿の細い糸で製造されてきた。その後、合成繊維の開発によりオーガンジーにも合成繊維、特にポリエステル繊維が使用されるようになった。前述の特徴を生かし、ブライダル製品、僧侶の袈裟やお洒落用羽織など特殊な分野の衣料および装飾用などとして使用されている。
【0005】
しかしながら、合成繊維を用いて製織されたオーガンジーには特に高貴な雰囲気を醸し出す高級感のある光沢や適度なドライ感とソフトな風合いが欠けており、その特性を出すために従来から種々の研究開発がなされてきた。
【0006】
例えば、特許文献1には、合成繊維のオーガンジー用原糸として、光沢感を付与するために三葉断面形状のモノフィラメントが開示されている。特許文献1記載のモノフィラメントを用いると、確かに光沢性を有する織物は得られるが、天然繊維と比べると単糸繊度が極端に太いため、ギラツキ感が出て目的とする高級感のある光沢感は得られない。加えて、三葉断面形状にすることにより単糸の剛性が高くなることから、得られるオーガンジーの風合いは非常に硬いものとなるという問題点があった。
【0007】
また、ギラツキや剛性を抑制するには単糸繊度を小さくする方法が一般的であるが、この方法では、得られるオーガンジーのドレープ性も下がってしまい、見た目の優雅さに欠けてしまう。
【0008】
絹や綿等を使用したような軽くて高級感のある光沢を有し、適度なドライ感とソフトな風合いを有するオーガンジー用のポリエステル繊維は未だ開発されていないのが現状である。
【0009】
また、衣料用の織編物として、婦人向けポリエステル織編物がある。最近ではこのような織編物はフェミニン調が主流であり、オーガンジー同様、高級感のある光沢を有し、適度なドライ感とソフトな風合いを併せ持つことが求められている。しかしながら、この分野でも要求特性を満足するポリエステル繊維は未だ開発されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平09−241923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記課題を解決するものであり、婦人向け衣料用織編物やオーガンジー等の用途に好適であり、高級感のある光沢を有し、適度なドライ感とソフトな風合いを有する織編物を得ることのできる織編物用の繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、易溶出性成分と難溶出性成分とからなり、繊維の横断面において易溶出性成分が難溶出性成分を複数個に分割した形状を呈するモノフィラメントであり、易溶出性成分は、ジカルボン酸成分のうち1〜3モル%がスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分であり、かつ、平均分子量が1000〜10000のポリアルキレングリコールを5〜20質量%含有するポリエステルであり、難溶出性成分は、全構成単位の80モル%以上がアルキレンテレフタレートであるポリエステルであり、該モノフィラメントは、易溶出性成分が溶出することにより分割して単糸繊度0.5〜4デシテックスの難溶出性成分によって構成される複数のフィラメントを発現するものであることを特徴とする織編物用ポリエステルモノフィラメントを要旨とするものである。
また、本発明は、前記ポリエステルモノフィラメントを用いて製編織して得た織編物にアルカリ処理を行い、易溶出性成分を溶出させることによって、該ポリエステルモノフィラメントを分割して、単糸繊度0.5〜4デシテックスの難溶出性成分によって構成される複数のフィラメントを発現させることを特徴とする織編物の製造方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の織編物用ポリエステルモノフィラメントは、繊維の横断面において、易溶出性成分によって難溶出性成分が複数個に分割される形状を呈する分割型ポリエステル複合繊維であることから、本発明のポリエステルモノフィラメントを用いて、織編物とした後、溶出処理することにより、難溶出性成分のポリエステルからなる繊維で構成された布帛とすることができる。そして、高級感のある光沢感を有し、適度なドライ感とソフトな風合いの織編物を得ることができ、特に婦人衣料やオーガンジーに好適に用いることが可能となる。
【0015】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントは、用途により本発明のポリエステルモノフィラメント同士の合糸や他の繊維との複合ができ、その配合比率も種々変更可能となるため、バリエーションに富んだ織編物を得ることができる。特に婦人衣料の用途では、季節や時代のトレンドにより要求される特徴が変化することから非常に有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の織編物用ポリエステルモノフィラメントの実施態様を示す横断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、易溶出性成分と難溶出性成分とからなり、繊維の横断面において易溶出性成分が難溶出性成分を複数個に分割した形状を呈するモノフィラメントである。図1(a)〜(f)は、本発明の織編物用ポリエステルモノフィラメントの実施態様を示す横断面模式図である。
【0018】
図中、Aは易溶出性成分のポリエステル、Bは易溶出性成分のポリエステルにより複数個に分割された難溶出性成分のポリエステルを示す。モノフィラメントの形状は、丸断面形状のみでなく、三角断面等の異形型断面形状のものでもよい。易溶出性成分が溶出した後に分割して繊維となる難溶出性成分の形状も丸断面形状のもののみならず、三角形や四角形状、楔形等の異型断面であることが好ましい。
【0019】
本発明において、易溶出性成分のポリエステルは、難溶出性成分のポリエステルよりもアルカリに対する溶解速度が5倍以上速いものであることが好ましい。そのために、易溶出性成分のポリエステルAは、ジカルボン酸成分のうち1〜3モル%がスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分であり、かつ、平均分子量が1000〜10000 のポリアルキレングリコールを5〜20質量%含有するものであることが必要である。
【0020】
スルホン酸塩基を有する芳香族ジガルボン酸成分としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホテレフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホテレフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、5−ホスホニウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。
【0021】
易溶出性成分のポリエステルにおけるスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分の共重合量が1モル%未満では、アルカリに対する溶解速度が遅くなり、難溶出性成分との溶解速度の差を大きくすることが難しくなる。一方、この共重合量が3モル%を超えると紡糸操業性が悪くなり、糸切れが発生しやすくなる。
【0022】
また、易溶出性成分のポリエステルに含有させるポリアルキレングリコールは、アルカリでいち早く溶解することにより、易溶出性成分のポリエステルの分子鎖を切断し、また、表面にボイドを発生させて表面積を増すこと等により溶解速度を速める作用をする。
【0023】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体等が挙げられるが、中でもポリエチレングリコールが好ましい。
【0024】
ポリアルキレングリコールは、分子量が1000〜10000であることが必要である。分子量がこれよりも小さいものでは、易溶出性成分のポリエステルのガラス転移温度が低下するため、紡糸工程で融着が発生し、糸切れが発生しやすくなり、紡糸操業性が悪化する。一方、分子量が大きすぎるものでは、ポリエステルとの相溶性が悪くなり、均一に含有させることが難しく、やはり紡糸操業性が悪くなり、糸切れが発生しやすくなる。
【0025】
また、ポリアルキレングリコールの含有量が5質量%未満であると、易溶出性成分のポリエステルのアルカリに対する溶解速度が遅くなる。一方、20質量%を超えると、紡糸操業性が悪くなり、糸切れが発生しやすくなる。
【0026】
なお、モノフィラメント中の易溶出性成分の割合は、5〜30質量%であることが好ましく、中でも10〜25質量%であることが好ましい。5質量%未満であると溶出処理による分割性が低下する。一方、30質量%を超えると溶出処理により溶出するポリエステルの割合が増すため、環境負荷が大きくなるので好ましくない。
【0027】
易溶出性成分のポリエステルには、必要に応じて、ヒンダードフェノール系化合物等の酸化防止剤や耐熱剤等を配合することができる。
【0028】
本発明におけるもう一方の成分である難溶出性成分のポリエステルとしては、全構成単位の80モル%以上がアルキレンテレフタレートであるポリエステルを用いることが必要である。特に、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分からなるポリエチレンテレフタレート、テレフタル酸成分と1,3−プロパンジオール成分からなるポリプロピレンテレフタレート、テレフタル酸成分と1,4−ブタンジオール成分からなるポリブチレンテレフタレートが好ましいが、アルカリに対する溶解速度をあまり高めない範囲であれば、第三成分が共重合されたものでもよい。
【0029】
共重合成分の具体例としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の酸成分、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシ)ベンゼン等のジオール成分等を挙げることができる。
【0030】
なお、難溶出性成分のポリエステルには、必要に応じて、二酸化チタン等の艶消剤、ヒンダードフェノール系化合物等の酸化防止剤、耐熱剤、難燃剤、制電剤、着色剤等の添加剤を配合することができる。
【0031】
また、難溶出成分のポリエステルは、後述する無機粒子を含むことにより、得られる織編物には優雅な風合いとなるドレープ性を付与することができる。無機粒子の含有量は、0.8〜8質量%が好ましく、より好ましくは1〜5質量%の範囲である。少なくとも0.8質量%含有させることにより良好なドレープ性を付与する効果を発揮することができ、含有量を8質量%以下とすることにより、糸切れ、毛羽等が発生する生産操業性上の問題が発生しにくくなる。また、良好な光沢を維持することができる。無機粒子は、ポリエステルの重合時あるいは紡糸時の溶融段階で添加すればよいが、凝集を防ぎ、より均一に分散させることを考慮すると重合時に添加することが好ましい。
【0032】
無機粒子の平均粒径は、2μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以下である。無機粒子の平均粒径を2μm以下とすることにより、粒子が局部的に大きく露出することがないため摩擦抵抗が大きくならず、紡糸時の応力の偏りによる糸切れの発生や、延伸時に毛羽が発生する等、生産操業性における問題が発生することはない。
【0033】
無機粒子の密度は、3.5g/cm以上であることが好ましく、より好ましくは3.8g/cm以上である。無機粒子の密度を3.5g/cm以上とすることにより、繊維密度を高くすることができ、優れたドレープ性を有する織編物を得ることができる。本発明においては、無機粒子として、二酸化チタンを用いることが最も好ましい。二酸化チタン以外の無機粒子として、風合いや生産操業性に大きな変化がなく用いることができるものとしては、例えば、硫酸バリウム、アミルナ、酸化錫、酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0034】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、操業性を考慮すると、複数本のフィラメントよりなるマルチフィラメント糸を分繊することにより効率的に得ることができる。すなわち、前記したような易溶出性成分と難溶出性成分とが特定の分割した形状を呈する断面形状の単糸を1つの紡糸口金より2〜30本紡糸し、紡出されたマルチフィラメント糸を延伸、熱処理、仮撚加工等を行った後、分繊機により分繊して本発明のポリエステルモノフィラメントとすることが好ましい。
【0035】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、繊度が4〜40デシテックスであることが好ましい。繊度が4デシテックス未満では延伸や仮撚、分繊工程において糸切れが発生しやすくなる。繊度が40デシテックスを超えると、紡糸工程においてフィラメントを均一に冷却できなくなり、糸切れの発生や品質のバラツキが発生しやすくなるため好ましくない
【0036】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、溶出処理により易溶出性成分を溶出させて、複数の難溶出性成分のポリエステルからなるフィラメントを発現させるが、発現する難溶出性成分からなるフィラメントの個々の単糸繊度は0.5〜4デシテックスであることが必要である。
【0037】
溶出処理後の難溶出性成分のポリエステルからなるフィラメントの単糸繊度が0.5デシテックス未満であると、得られる織編物は高級感のある光沢感は有しているが、単糸繊度が細すぎるため、風合いはソフトすぎて腰がなく、ドライ感やドレープ性を有しない織編物になりやすい。また、単糸繊度が細すぎることから染色用途では発色性が低くなるため好ましくない。
【0038】
一方、難溶出性成分のポリエステルからなるフィラメントの単糸繊度が4デシテックスを超えると、単糸繊度が大きくなることから、得られる織編物はドライ感を有するも光沢感にギラツキが見られ、風合いが硬いものとなりやすい。
【0039】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、溶出処理前の時点では1本であるため、製編織工程を容易に行うことが可能となる。また用途により本発明のポリエステルモノフィラメント同士の合糸や他の繊維との複合ができ、その配合比率も種々変更可能となるため、バリエーションに富んだ織編物を得ることができる。特に婦人衣料の用途では、季節や時代のトレンドにより要求される特徴が変化することから非常に有用となる。
【0040】
次に、本発明のポリエステルモノフィラメントの製造方法について、一例を用いて説明する。易溶出性成分と難溶出性成分のポリエステルのチップ化されたものを十分に乾燥し、これを汎用の複合溶融紡糸装置に供給する。このとき、単糸の断面形状が図1に示すような断面形状となるように設計された複合紡糸口金より複数本紡出し、マルチフィラメント糸を得る。
【0041】
このマルチフィラメント糸を2500〜4000m/分の紡糸速度で紡糸して得られた半未延伸糸を延伸仮撚して捲き取り、次いで、分繊機により分繊して本発明のポリエステルモノフィラメントを得る。
【0042】
もしくは、このマルチフィラメント糸を1000〜4000m/分の紡糸速度で紡糸、同時延伸を実施して(いわゆるスピンドロー法)捲き取り、次いで、分繊機により分繊して本発明のポリエステルモノフィラメントを得る。
【0043】
なお、目的とするフィラメント物性や織編物の用途に応じて、延伸倍率、熱処理温度、仮撚条件等を適宜設定すればよい。
【0044】
本発明においては、前述したポリエステルモノフィラメントを用いて製編織して得た織編物にアルカリ処理を行って、易溶出性成分を溶出させることにより、本発明の織編物を得ることができる。
本発明のポリエステルモノフィラメントを用いて製編織した後の加工方法の一例を説明する。
【0045】
本発明のポリエステルモノフィラメントを用いて製編織した後、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで減量処理を行う。これにより易溶出性成分のポリエステルを溶出させて、ポリエステルモノフィラメントを分割し、難溶出性成分のポリエステルからなるフィラメントを発現させ、この難溶出性成分からなるフィラメントで構成された布帛を得ることができる。減量処理は、例えば、濃度 0.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、温度95℃で織編物を浸漬し、所定の減量率になるまで処理することにより行うことができる。
【0046】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、単独で用いて(100%使用して)織編物にすることができるが、他の繊維とともに用いて織編物にしてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例における特性値の測定及び評価は以下の通りに行った。
(a)極限粘度
フェノールと四塩化エタンの当質量混合液を溶媒とし、温度20℃で測定した溶液粘度より求めた。
(b)NaOH減量時間
濃度5質量%、温度70℃の水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)浸漬し、減量率20%になった時間で評価し、60min未満を合格とした。
(c)溶出処理後の単糸繊度
減量率20%の溶出処理により分割した後の単糸繊度とし、下記式(1)にて算出した。
溶出処理後の単糸繊度(デシテックス)=〔ポリエステルモノフィラメントの繊度×(1
00−減量率)/100〕/難溶出性成分の分割数 ・・・・・ 式(1)
(減量率:20%、難溶出性成分の分割数=8)
(d)紡糸操業性
24時間連続して紡糸を行い、操業中の切れ糸回数(1錘あたり)により、以下の3段階で評価し、○を合格とした。
○:切糸無し
△:切糸1〜2回
×:切糸3回以上
(e)光沢評価
得られた織物(ファブリック)をファブリックの評価に精通した10人パネラーの目視による官能評価を実施し、高級感のある光沢であると判定した人数で評価し、○を合格とした。
○:9人以上
△:5〜8人
×:4人以下
(f)ドライ感評価
得られた織物(ファブリック)をファブリックの評価に精通した10人パネラーの手感による官能評価を実施し、適度なドライ感であると判定した人数で評価し、○を合格とした。
○:9人以上
△:5〜8人
×:4人以下
(g)ソフト感評価
得られた織物(ファブリック)をファブリックの評価に精通した10人パネラーの手感による官能評価を実施し、ソフト、かつ、腰を残した風合いであると判定した人数で評価し、○を合格とした。
○:9人以上
△:5〜8人
×:4人以下
【0048】
実施例1
易溶出性成分のポリエステルとして、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP−Na)を2.5モル%、平均分子量8000のポリエチレングリコール(PEG)を13.3質量%共重合した極限粘度0.73の共重合ポリエチレンテレフタレートを用いた。
難溶出性成分のポリエステルとして、極限粘度0.69のポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。
そして、横断面形状が図1(d)に示すように易溶出性成分のポリエステルが難溶出性成分のポリエステルを8個に分割するように設計された細孔12個を有する紡糸口金を備えた常用の複合紡糸装置に両ポリエステルを供給した。そして、紡糸温度290℃、複合比(質量比)が易溶出性成分のポリエステル/難溶出性成分のポリエステル=18.5/81.5となるようにし、総吐出量80g/minで紡糸した。紡出された糸条を冷却、オイリングしながら3500m/分の速度で捲き取り、220デシテックス/12フィラメントの半未延伸糸を得た。
次に、この半未延伸糸を仮撚機に給糸して、無撚状態で解舒しながら加工速度500m/min、延伸倍率1.517で延伸仮撚加工を行った。その後、得られた仮撚パッケージを分繊機にて12本の仮撚糸(モノフィラメント)に分繊し、12.1デシテックスのポリエステルモノフィラメントを得た。
次いで、ポリエステルモノフィラメントを経緯使い、平織組織で製織し、織物(減量前織物)を得た。この織物を濃度5質量%、温度70℃の水酸化ナトリウム水溶液浸漬し、減量率20%になるまで減量処理を行って、易溶出性成分のポリエステルを完全に溶出させた。そして、溶出処理後に8分割された難溶出性成分の繊維(単糸繊度が1.21デシテックスの繊維8本)からなる減量ファブリックを作成した。これを水洗い後、乾燥して水分を除去し、織物を得た。
【0049】
実施例2〜8、比較例1〜8
易溶出性成分のポリエステルとして、実施例1で用いたSIP−Na、PEGの共重合量を表1に示すように変更した共重合ポリエチレンテレフタレートを用いた。また、総吐出量を変更することにより溶出処理後の難溶出性成分からなるフィラメントの単糸繊度を表1のように変更した。それ以外は実施例1と同様に行い、ポリエステルモノフィラメントを得た。そして、実施例1と同様に製織し、減量処理を行って織物を得た。
【0050】
実施例1〜8、比較例1〜8で得られたポリエステルモノフィラメント及び織物の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1から明らかなように、実施例1〜8で得られたポリエステルモノフィラメントは、紡糸操業性よく得ることができ、水酸化ナトリウム水溶液における減量時間も速いものであった。そして、得られた織物は高級感のある光沢感を有し、適度なドライ感とソフトな風合いを有するものであった。
【0053】
一方、比較例1では、易溶出性成分のポリエステルのSIP−Naの共重合量が少なすぎたため、比較例3では易溶出性成分のポリエステルのPEGの共重合量が少なすぎたため、両ポリエステルマルチフィラメントともにNaOHによる減量時間が長く、減量速度の遅いものであった。比較例2では、易溶出性成分のポリエステルのSIP−Naの共重合量が多すぎたため、比較例4では、易溶出性成分のポリエステルのPEGの共重合量が多すぎたため、ともに紡糸操業性が悪く、半未延伸糸の採取ができなかった。比較例5では、易溶出性成分のポリエステルのPEG平均分子量が少なすぎたため、比較例6では、易溶出性成分のポリエステルのPEG平均分子量が大きすぎたため、ともに紡糸操業性が悪く、半未延伸糸の採取ができなかった。比較例7では、溶出処理後の難溶出性成分のポリエステルからなる繊維の単糸繊度が細すぎたため、得られた織物は、高級感のある光沢感を有するも、ドライ感に欠け、ソフトであるが腰のない風合いとなった。比較例8では、溶出処理後の難溶出性成分のポリエステルからなる繊維の単糸繊度が太すぎるため、得られた織物は、ドライ感を有するも光沢感にギラツキが見られ、風合いが硬いものとなった。
【0054】
実施例11
実施例1において、難溶出性成分のポリエステルとして、密度3.9g/cmで平均粒径1.0μmの二酸化チタンを1.0wt%含む、極限粘度0.69のポリエチレンテレフタレート(PET)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリエステルモノフィラメントを得、また、得られたポリエステルモノフィラメントを用いて、実施例1と同様に製織し、減量処理を行って織物を得た。
【0055】
実施例12〜22、比較例11〜21
実施例11において、易溶出性成分のポリエステルとして、実施例11で用いたSIP−Na、PEGの共重合量を表2に示すように変更したこと、また、難溶出性成分に含有させる二酸化チタンの種類を表2に示すように変更したこと、また、総吐出量を変更することによりモノフィラメントの単糸繊度および溶出処理後の難溶出性成分からなるフィラメントの単糸繊度を表2のように変更したこと以外は、実施例11と同様に行い、ポリエステルモノフィラメントを得た。そして、実施例11と同様に製織し、減量処理を行って織物を得た。なお、比較例21には、二酸化チタンではなくタルクを用いた。
【0056】
実施例11〜22、比較例11〜21で得られたポリエステルモノフィラメント及び織物の特性値及び評価結果を表2に示す。なお、実施例11〜22、比較例11〜21について評価するにあたっては、上記評価項目に加えて、ドレープ性の評価も行った。
【0057】
(ドレープ性評価)
得られた織物をファブリックの評価に精通した10人パネラーの手感による官能評価を実施し、ドレープ感を有すると判定した人数で評価し、○を合格とした。
○:9人以上
△:5〜8人
×:4人以下
【0058】
【表2】

【0059】
表2から明らかなように、実施例11〜22で得られたポリエステルモノフィラメントは、紡糸操業性よく得ることができ、水酸化ナトリウム水溶液における減量時間も速いものであった。そして、得られた織物は高級感のある光沢感を有し、適度なドライ感とソフト性を有するものであり、また特にドレープ性に富んでいた。
一方、比較例11では、易溶出性成分のポリエステルのSIP−Naの共重合量が少なすぎたため、比較例13では易溶出性成分のポリエステルのPEGの共重合量が少なすぎたため、両ポリエステルマルチフィラメントともにNaOHによる減量時間が長く、減量速度の遅いものであった。比較例12では、易溶出性成分のポリエステルのSIP−Naの共重合量が多すぎたため、比較例14では、易溶出性成分のポリエステルのPEGの共重合量が多すぎたため、ともに紡糸操業性が悪く、半未延伸糸の採取ができなかった。比較例15では、易溶出性成分のポリエステルのPEG平均分子量が少なすぎたため、比較例16では、易溶出性成分のポリエステルのPEG平均分子量が大きすぎたため、ともに紡糸操業性が悪く、半未延伸糸の採取ができなかった。
比較例17では、溶出処理後の難溶出性成分のポリエステルからなる繊維の単糸繊度が細すぎたため、得られた織物は、高級感のある光沢を有するも、ドライ感に欠け、ソフトであるが腰のない風合いとなった。比較例18では、溶出処理後の難溶出性成分のポリエステルからなる繊維の単糸繊度が太すぎるため、得られた織物は、ドライ感を有するも光沢感にギラツキが見られ、風合いが硬いものとなった。
比較例19では、難溶出成分中の二酸化チタン量が多すぎたため、紡糸性が悪く、紡糸不可だった。比較例20では、二酸化チタンの粒子径が大きすぎたため紡糸調子が悪く、紡糸不可だった。比較例21では、密度が低い粒子を使ったため、ドレープ性が不足した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
易溶出性成分と難溶出性成分とからなり、繊維の横断面において易溶出性成分が難溶出性成分を複数個に分割した形状を呈するモノフィラメントであり、易溶出性成分は、ジカルボン酸成分のうち1〜3モル%がスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分であり、かつ、平均分子量が1000〜10000のポリアルキレングリコールを5〜20質量%含有するポリエステルであり、難溶出性成分は、全構成単位の80モル%以上がアルキレンテレフタレートであるポリエステルであり、該モノフィラメントは、易溶出性成分が溶出することにより分割して単糸繊度0.5〜4デシテックスの難溶出性成分によって構成される複数のフィラメントを発現するものであることを特徴とする織編物用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
易溶出性成分が溶出することによりモノフィラメントが分割して発現する難溶出性成分によって構成されるフィラメントの横断面形状が異型断面であることを特徴とする請求項1記載の織編物用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
モノフィラメントの単糸繊度が4〜40デシテックスであることを特徴とする請求項1または2記載の織編物用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項4】
難溶出性成分は、平均粒子径2μm以下、密度3.5g/cm以上の無機粒子を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の織編物用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項5】
無機粒子が二酸化チタンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の織編物用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステルモノフィラメントを用いて製編織して得た織編物にアルカリ処理を行い、易溶出性成分を溶出させることによって、該ポリエステルモノフィラメントを分割して、単糸繊度0.5〜4デシテックスの難溶出性成分によって構成される複数のフィラメントを発現させることを特徴とする織編物の製造方法。
【請求項7】
請求項6の織編物の製造方法によって得られることを特徴とする織編物。


【図1】
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【公開番号】特開2010−222771(P2010−222771A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38750(P2010−38750)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】