説明

織編物

【課題】
従来技術では達成できなかった洗濯耐久性ある制電性と撥水性を得ることができ、またソフトでふくらみのある梳毛調の風合いと良好な黒発色性を有する素材を提供する。
【解決手段】
繊維表面にフッ素系化合物または/およびシリコーン系化合物を主体とする重合体皮膜が付与されてなる織編物であって、その織編物を構成する糸条が、少なくとも2種類のポリエステル系マルチフィラメント繊維で構成された複合糸を含み、その複合糸を構成する少なくとも一方の糸条(A)が、芯部に制電性を有するポリマーを配してなる芯鞘型複合繊維からなり、かつ他方の糸条(B)との糸長差が下記の式(1)を満足することを特徴とする織編物。
3%≦糸条(B)と糸条(A)の糸長差≦30% 式(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性、撥水性および深色性に優れた織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の婦人外衣のブラックフォーマル用途素材は、ハリ腰・反発などの風合いや黒発色性はもちろんのこと、制電性や撥水性等の機能性が求められている。
【0003】
しかしながら、制電性については、例えば、ポリエステル繊維素材の場合は、ポリエステル繊維特有の欠点として静電気が発生しやすく、特に冬期の低湿度の環境下では静電気によるホコリ付着が問題であり、そのため染色仕上げ加工時に帯電防止剤を付着させて静電気発生を防止しているのが現状である。
【0004】
また撥水性についても、染色仕上げ加工時に撥水剤を付着させることにより織編物に撥水性を付与することが通常であるが、制電性と両立させることが難しく、また風合いや黒発色性が損なわれることが問題となっていた。
【0005】
従来、芯鞘型複合繊維糸からなる織編物であって、その繊維表面がフッ素系化合物およびシリコーン系化合物を主体とする重合体皮膜を有する織編物が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、このような織編物では撥水性は得ることができるが、制電性を付与することはできなかった。
【0006】
また別に、太繊度の制電性繊維と細繊度の非制電性繊維による複合混繊糸が提案されている(特許文献2参照)が、この複合混繊糸では、制電性は得られても、撥水性を付与することはできず、また黒発色性も不十分なものであった。
【特許文献1】特開2000−273741号公報
【特許文献2】特開昭62−149927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、洗濯耐久性ある制電性と撥水性を得ることができ、またソフトでふくらみのある梳毛調の風合いと、良好な黒発色性を有する織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成する本発明の織編物は、以下の構成からなるものである。すなわち、本発明の織編物は、繊維表面にフッ素系化合物または/およびシリコーン系化合物を主体とする重合体皮膜が付与されてなる織編物であって、その織編物を構成する糸条が、少なくとも2種類のポリエステル系マルチフィラメント繊維で構成された複合糸を含み、その複合糸を構成する少なくとも一方の糸条(A)が、芯部に制電性を有するポリマーを配してなる芯鞘型複合繊維からなり、かつ他方の糸条(B)との糸長差が下記の式(1)を満足することを特徴とする織編物である。
【0009】
3%≦糸条(B)と糸条(A)の糸長差≦30% 式(1)
本発明の織編物の好ましい態様のひとつは、前記の糸条(A)の芯部にポリアルキレングリコール系化合物を含有する共重合ポリエステルを用いることである。
【0010】
また、本発明の織編物の好ましい態様のひとつは、前記の糸条(B)の表面に微細な凹凸孔を有することである。
【0011】
また、本発明の織編物の好ましい態様のひとつは、前記の複合糸が、下記の式(2)における撚係数(K)が10000〜30000の範囲に追撚されていることである。
【0012】
T=K×D−1/2
ただし、K:複合糸の撚係数
T:撚数(T/M)
D:繊度(dtex)
また、本発明の織編物の好ましい態様のひとつは、前記の繊維表面に、メチロール基を有する化合物からなる重合体または/およびアクリル酸エステル重合体を介して、フッ素系化合物およびシリコーン系化合物を主体とする重合体皮膜が付与されてなることである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、衣服に洗濯耐久性ある制電性と撥水性を付与することができ、またソフトでふくらみのある梳毛調の風合いや良好な黒発色性を有する織編物を得ることができる。本発明の織編物は、衣料として特に婦人用ブラックフォーマル素材に好適であるが、それ以外にもレインコート、アスレチックウェア、スキーウェアなどのスポーツ衣料や裏地、およびカーテンなどにも用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で用いられる基布としての織編物は、少なくとも2種類のポリエステル系マルチフィラメント繊維で構成された複合糸を含み構成されており、その複合糸の少なくとも1種類のポリエステル系マルチフィラメント糸(糸条(A))が芯部に制電性を有するポリマーを配してなる芯鞘型複合繊維からなることが必要である。
【0015】
本発明で好適に用いられる制電性を有するポリマーとしては、例えば、ポリオキシアルキレン鎖成分を含んだ共重合ポリマー、ポリアミン、ポリアクリル酸エステル、ジグリシジルエーテル、テレフタル酸や他の酸成分を含んだポリエーテルエステルアミド組成物などが挙げられるが、黒発色性が高いという点から、糸条(A)の芯部としてポリアルキレングリコール系化合物を含有する共重合ポリエステルを用いることが好ましい。これらは、それぞれ単独でも良いし、本発明の効果を発現する範囲であれば他のポリマーと混合しても良い。
【0016】
また、制電性を有するポリマーは、ブレンドされていても、また同心円芯鞘や偏心芯鞘に複合されていてもよいし、もしくは芯が複数あるような海島形状でもよい。また、その断面形状も円形でも非円形であってもよいが、これらのうち、同心円芯鞘に複合されていることが好ましい。良好な制電性を発揮するためには、制電性を有するポリマーが繊維軸方向に一定の量で連続的に存在していることが好ましく、更に発色性や耐摩耗特性の点からも出来るだけ中心に集めることが好ましい。
【0017】
また、糸条(A)を構成する芯鞘型複合繊維における制電性を有するポリマーの複合比率は、任意に選択することができるが良好な制電性を付与するため、その複合比率は好ましくは5〜30重量%である。
【0018】
また、糸条(A)を構成する芯鞘型複合繊維の断面形状は、円形であっても異型であってもよいが、イラツキやフィブリル化などの製品の品位を考えると、断面形状は円形であることが好ましい。更に、糸条(A)の芯鞘型複合繊維の単繊維繊度は、糸条(A)が主として複合糸の芯部を形成し、ハリ腰や反発感を構築させる観点から3.3dtex以上が好ましく、しなやかな風合いを得る観点から10dtex以下であることが好ましい。
【0019】
また、反発感とソフト感を両立させるためには、糸条(A)の好ましいトータル繊度範囲は30dtex以上150dtex以下である。
【0020】
複合糸を構成する他方のポリエステル系マルチフィラメント糸(糸条(B))は、その単繊維表面に微細な凹凸孔(ミクロボイド)を有することが好ましい。微細な凹凸孔が形成されていることにより、染色加工で施される重合体皮膜の洗濯耐久性が向上し、また、光の反射率を抑制し、黒発色性も向上させることができる。微細な凹凸孔は、平均一次粒子径が0.02〜0.1μm程度のコロイダルシリカ微粒子を0.4〜5重量%含有するポリエステル繊維に、アルカリ溶液処理を施すことによって形成することができる。コロイダルシリカとは、ケイ素酸化物を主成分として、単粒子状で存在する微粒子が水または単価のアルコール類またはジオール類またはこれらの混合物を分散媒としてコロイダルとして存在するものをいう。また、ポリエステル系マルチフィラメント糸(糸条(B))は、特に、ソフトで梳毛調の風合いを形成するために、糸条(B)の好ましいトータル繊度範囲は50dtex以上150dtex以下であり、また好ましい単繊維繊度範囲は0.5dtex以上3dtex以下である。
【0021】
本発明でいうところのポリエステル系とは、テレフタル酸を主成分とし、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサンー1,4ージメタノール、ペンタメチレングリコール、およびヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも1種を主たるグリコール成分とするポリエステルであり、40%モル以下の第3成分が共重合されていてもよい。好ましい共重合成分としては、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタリンジカルボン酸等の2塩基酸類、オキシ安息香酸の如きオキシ酸類、およびジエチレングリコール、プロピレンングリコール、ポリエチレングリコールのグリコール類、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、および2,2ビス{4−〈2−ヒドロキシエトキシ〉フエニル}プロパンなどが挙げられる。これらの共重合成分のうちから1種または2種以上のものを共重合したポリエステルが好ましく用いられる。
また、糸条(A)と糸条(B)の複合割合としては、風合い構築や黒発色性向上の観点から、下記の式を満たすことが好ましい。
【0022】
30%≦糸条(A)のトータル繊度/複合糸のトータル繊度≦70%
次に、複合糸の糸条(A)と糸条(B)の糸長差は、風合い構築、黒発色性向上および撥水性向上の観点から、下記の式(1)を満足することが重要である。
【0023】
3%≦糸条(B)と糸条(A)の糸長差≦30% 式(1)
上記の糸長差が3%未満ではソフトタッチの梳毛調風合いを得ることが難しく、黒発色性も低下する。即ち、複合糸の糸形態は、糸条(A)が主として芯部を構成し、糸条(B)が主として鞘部を構成する構造が好ましい。糸長差に関し、
糸条(A)の平均繊維長<糸条(B)の平均繊維長
なる関係にある複合糸である。これは、前述の良好な風合いと黒発色性を得るためである。また、上記の糸長差が30%を超えると、たとえ強燃を施しても糸長差を吸収することができず、製織工程でネップが発生し品位が悪くなる。さらに、単繊維間空隙が多くなるので水を取り込みやすくなり、撥水性が低下してしまう。
【0024】
糸長差が糸条(A)<糸条(B)なる関係にある複合糸を得る方法としては、複合仮撚または複合混繊加工などによる方法が挙げられる。これらの方法は、ブラックフォーマル用素材として求める風合いや機能などの要求特性に適応して、適宜選択される。
【0025】
本発明の織編物は、実質的に追撚された糸条で構成されることが好ましく、その追撚範囲は、下記の式(2)で示される撚係数が10000〜30000の範囲であることが好ましい。
【0026】
T=K×D−1/2 式(2)
ただし、K:複合糸の撚係数
T:撚数(T/M)
D:繊度(dtex)
撚係数を10000以上とし複合糸が締まった状態にすることで、織編物にした際、撥水性を向上させ、ハリ・腰や反発感を付与することができる。一方、撚係数が30000を超えると、製品の風合いが硬くなり、更に撚糸工程や製編織工程の工程通過性が低下する。また、複合糸への適正な追撚は、黒発色性の向上にも有効である。撚係数のより好ましい範囲は、15000〜25000である。
【0027】
本発明で用いられる複合糸は、複合仮撚糸の場合、従来の公知技術、例えば特開平10−259532号公報や特開平11−335936号公報等に記載されているような2本のマルチフィラメントを先交絡後、複合仮撚する技術を応用して製造することができる。また、複合混繊糸の場合、従来の公知技術、例えば、特開2000−144553号公報等に提示されているような鞘糸となるフィラメントを熱処理後、芯糸と混繊する技術を応用して製造することができる。
【0028】
複合糸の好ましいトータル繊度は、しなやかな風合いを有する観点から100dtex以上250dtex以下である。
【0029】
本発明で基布として用いられる織編物は、一般的に使用される織編物の織編組織や密度等の規格に制約されることはない。また、本発明の効果を妨げない範囲で、綿やウールなどの天然繊維との混紡、交撚、交織および交編などを施したものも含まれるが、これらに限られるものではない。
【0030】
糸条(A)の繊度比率が複合糸に対して30%以上であることが好ましく、織編物にした際、本発明での期待する効果を得ることができる。
【0031】
さらに、本発明の織編物は、繊維表面にフッ素系化合物または/およびシリコーン系化合物を主体とする重合体の皮膜が付与されてなるものである。繊維表面がフッ素系化合物または/およびシリコーン系化合物を主体とする重合体の皮膜を有することによって、織編物に高い撥水性と深色性を付与することができる。
【0032】
本発明で用いられるフッ素系化合物としては、例えば、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合物、ポリペンタデカフルオロオクチルアクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフルオロエチルアクリレート、ポリトリフルオロエチルアクリレート、ポリトリフルオロクロロエチレン、ポリトリフルオロイソプロピルメタクリレート、およびポリトリフルオロエチルメタクリレートなどを用いることができるが、これに限るものではない。
【0033】
また、シリコーン系化合物としては、例えば、ポリジメチルシラン、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、およびカルボキシ変性シリコーンなどを用いることができるが、これに限るものではない。
【0034】
本発明では、これらのフッ素系化合物とシリコーン系化合物を併用して用いることが好ましく、それぞれのポリマー、モノマーおよび反応中間体などを単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0035】
また、本発明の織編物は、前記した重合体被膜の洗濯やドライクリーニングに対する耐久性を向上させる観点から、繊維表面がメチロール基を有する化合物からなる重合体またはアクリル酸エステル重合体を介して、前記したフッ素系化合物およびシリコーン系化合物を主体とする重合体の皮膜を有するものであることが好ましい。
メチロール基を有する化合物としては、例えば、メチロール尿素系、メチロールメラミン系、メチロールエチレン尿素系、メチロールトリアゾン系、メチロールウロン系、メチロールグリオキザール系、およびメチロールプロピレン尿素系などの化合物を用いることができる。アクリル酸エステル重合体としては、例えば、ポリブチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、およびポリメチルアクリレートなどを用いることができる。
【0036】
また、本発明の織編物は、該重合体被膜の屈折率が1.5以下であることが、深色性向上の観点から好ましい。
【0037】
本発明においては、深色性能を優れたものとする観点から、重合体皮膜が、基布としての織編物に対して0.1〜10重量%付与されていることが好ましく、より好ましくは0.5〜5重量%である。皮膜厚は、耐久性向上の観点から、1nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0038】
本発明の織編物は、制電耐久性を有するものである。本発明の制電耐久性を有する織編物とは、洗濯20回後の摩擦耐電圧が3.0kV以下であることである。摩擦耐電圧が3kVを超える場合には、低湿度下においてホコリ付着が顕著になり、商品の品位を低下させることがある。勿論、洗濯前のほとんどの製品は、帯電防止剤が施されており極めて低い摩擦耐電圧を保持する。しかしながら、通常この帯電防止剤は洗濯やドライクリーニング等で脱落し、洗濯やドライクリーニング等後の摩擦耐電圧は極めて高いレベルになり、ホコリ付着を増長する。その意味で、本発明の織編物は、繊維素材内部に制電性を有するため、半永久的に3kV以下の摩擦耐電圧を維持してホコリ付着を防止する。
【0039】
また、本発明の織編物は、撥水耐久性を有するものである。本発明の撥水耐久性のある織編物とは、洗濯20回後の撥水試験結果が3級以上であることである。撥水試験結果が3級より下である場合には、水が織編物に湿潤しやすい状態であり、撥水性がある織編物ではなくなる。
【0040】
本発明の織編物は、衣料として特に婦人用ブラックフォーマル素材に好適である。それ以外にも、レインコート、アスレチックウェア、スキーウェアなどのスポーツ衣料や裏地、およびカーテンなどにも好適に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により、本発明の織編物について更に詳細に説明する。なお、本発明において、各評価は次の方法で評価した。
【0042】
1.洗濯試験
2槽式洗濯機で液温度40℃、洗濯時間5分、すすぎ30℃×2分×2回、脱水30秒のサイクル洗濯1回とする。洗剤には花王の“アタック”(登録商標)を1g/Lを用い、液量40L、試験布と導布である綿布の重量を合算して830gで実施する。
【0043】
2.黒発色性
黒発色性は、得られた織編物を4枚重ねし、測色計(スガ試験機株式会社性のSM−3型)により、測定径30mmφの条件でL*を5回測定し、その平均値で評価した。
【0044】
3.制電性
JIS1094に記載されている摩擦耐電圧法により測定する。京大化研式ロータリースタティテスターにより、摩擦対象布としてあらかじめのり抜き、精錬、漂白した綿の平織カキナン3号(目付100g/m)用いローター回転数400rpm、校正印加電圧100V、温度20℃、相対湿度30%の環境条件中で測定を実施する。測定布としては洗濯20回後に70℃の温度で1時間の絶乾したサンプルを用いる。
【0045】
4.撥水性
JIS1092に記載されている防水性試験方法により測定する。水250mlをシャワー状態で試験布に散布し、試験布に付着した水滴の状態で撥水性を、表1の基準で級判定する。
【0046】
【表1】

【0047】
5.糸長差
複合糸を0.11cN/dtexの荷重下で長さ10cmの間隔に印を付け、その中から無作為に5本の複合糸を取り出し、これらの複合糸を分解して糸条(A)と糸条(B)の単繊維長さを測定し、糸条(A)の平均長さLaと糸条(B)の平均長さLbを出し、次式により求める。
【0048】
【数1】

【0049】
6.ふくらみ感
実施例及び比較例のそれぞれの生地を手に持ったときの感触で相対的にふくらみ感を大変大きく感じるものを◎、すこし大きく感じるものを○、大きく感じないものを×とし、無作為に選んだ5人の評価の平均に近いものを特性とした。
【0050】
7.ソフト感
実施例及び比較例のそれぞれの生地を手に持ったときの感触で相対的にソフト感を大変大きく感じるものを◎、すこし大きく感じるものを○、大きく感じないものを×とし、無作為に選んだ5人の評価の平均に近いものを特性とした。
【0051】
(実施例1)
糸条(A)として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを6重量%含有したポリエーテルエステルアミド制電剤を1重量%含有する共重合ポリエステルを芯成分とし、ポリエチレンテレフタレートを鞘成分とし、トータル繊度が84dtexであり、フィラメント数が18フィラメントであり、伸度が30%の芯鞘制電性延伸糸を用いた。そして、他方の糸条(B)として、平均一次粒子径が0.05μmであるコロイダルシリカ微粒子を1重量%含有するポリエチレンテレフタレートを主成分とする、トータル繊度が90dtexであり、フィラメント数が48本フィラメントであり、伸度が105%の半延伸糸を用いた。次に、鞘糸部になる半延伸糸の糸条(B)に、ヒーター内で弛緩化熱処理を施し、その後糸条(A)と乱流加工を施し、混繊させ複合糸を得た。このときの糸条(A)の繊度比率は43%であった。このときの主な混繊条件は、混繊機に愛機製作所製AT−501型混繊機を用い、糸速は350m/minであり、熱処理条件は温度が180℃であり、フィード率は芯2.5%/鞘9.0%であった。得られた複合糸の糸長差は7.3%であった。
【0052】
次に、このようにして得られた複合糸に、村田(株)製のダブルツイスター撚糸機を用いて、SおよびZ方向に撚係数(K)=20000で追撚を施し、その後、80℃×40分の湿熱撚止めセットを実施した。得られた追撚糸を、経糸および緯糸に各々SとZを2本交互に配列して、経二重組織の織物を製織した。次いで、得られた織物に、常法に従いリラックス精練処理(98℃、20分)と中間セット処理(180℃、30秒)を施した後、3%苛性ソーダ水溶液中に浸漬し、20%のアルカリ減量加工を行い、市販のブラック染料で染色した後、常法に従い還元洗浄(80℃、20分)を行い、水洗し乾燥した。
次いで、得られた基布としての織物を下記に示す配合で調液した処理液に浸漬し、マングルで処理液を絞液して付着させた後、120℃の温度で3分間乾燥し、次いで160℃の温度で30秒間熱処理を行った。このときの被膜厚さは50nmであった。
[処理液]
マックスガードEC243 40g/l
(京絹化成製、フッ素系撥水剤、屈折率1.38)
“トーレシリコーン”(登録商標)SM8702 10g/l
(東レシリコーン社製、アミン変性ジメチルポリシロキサン、屈折率1.48)
“スミテックスレジン”(登録商標)M−3 1g/l
(住友化学製、トリメチロールメラミン)
“スミテックスアクセレーター” (登録商標) 1g/l
(住友化学製、トリメチロールメラミン用触媒)
結果を表2に示す。表2に示されるように、実施例1において制電性と撥水性および黒発色性に優れたふくらみのあるソフトな織物が得られた。
【0053】
(実施例2)
糸条(A)に、実施例1と同じ芯鞘制電性延伸糸を用いた。他方の糸条(B)には、通常ポリエチレンテレフタレートを主成分とする、トータル繊度が90dtexであり、フィラメント数が48本フィラメントであり、伸度が112%の半延伸糸を用いた。次に、両糸条を実施例1と同様にして交絡混繊後、210℃の温度で、仮撚係数24,000で複合仮撚加工を実施した。得られた複合糸の糸長差は13.3%であった。次に、実施例1と同様の方法で、製織および後処理加工を実施した。結果を表2に示す。表2に示されるように、実施例2においても、制電性と撥水性および黒発色性に優れたふくらみのあるソフトな織物が得られた。
【0054】
(比較例1)
糸条(A)として通常の通常ポリエステル延伸糸(トータル繊度84dtex、フィラメント数18フィラメント、伸度28%)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で交絡混繊処理し製織し、得られた織物の評価を行った。結果を表2に示す。表2に示されるように、比較例1では制電性を有する織物とはならなかった。
【0055】
(比較例2)
実施例1の処理液による処理(樹脂加工)を省略したこと以外は、実施例1と同様の方法で交絡混繊処理し製織し、得られた織物の評価を行った。結果を表2に示す。表2に示されるように、比較例2では撥水性と発色性を有する織物とはならなかった。
【0056】
(比較例3)
糸条(A)に実施例1と同じ芯鞘制電性延伸糸を用い、他方の糸条(B)には通常ポリエチレンテレフタレートを主成分とするトータル繊度が90dtexであり、フィラメント数が48本フィラメントであり、伸度が208%の半延伸糸を用いた。次に、両糸条を交絡混繊後、210℃の温度で、仮撚係数24,000で複合仮撚加工を実施した。得られた複合糸の糸長差は32.2%であった。次に、実施例1と同様の方法で製織し後加工を実施した。結果を表2に示す。表2に示されるように、比較例3では撥水性を有する織物とはならず、ふかふかした風合いであった。
【0057】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の織編物は、衣料として特に婦人用ブラックフォーマル素材に好適である。それ以外にも、レインコート、アスレチックウェア、スキーウェアなどのスポーツ衣料や裏地、およびカーテンなどにも好適に用いることができ、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面にフッ素系化合物または/およびシリコーン系化合物を主体とする重合体皮膜が付与されてなる織編物であって、その織編物を構成する糸条が、少なくとも2種類のポリエステル系マルチフィラメント繊維で構成された複合糸を含み、その複合糸を構成する少なくとも一方の糸条(A)が、芯部に制電性を有するポリマーを配してなる芯鞘型複合繊維からなり、かつ他方の糸条(B)との糸長差が下記の式(1)を満足することを特徴とする織編物。
3%≦糸条(B)と糸条(A)の糸長差≦30% 式(1)
【請求項2】
糸条(A)の芯部に、ポリアルキレングリコール系化合物を含有する共重合ポリエステルを用いてなることを特徴とする請求項1記載の織編物。
【請求項3】
糸条(B)の表面に微細な凹凸孔を有することを特徴とする請求項1または2記載の織編物。
【請求項4】
複合糸が、下記の式(2)におけるの撚係数(K)が10000〜30000の範囲に追撚されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の織編物。
T=K×D−1/2 式(2)
ただし、K:複合糸の撚係数
T:撚数(T/M)
D:繊度(dtex)
【請求項5】
繊維表面に、メチロール基を有する化合物からなる重合体または/およびアクリル酸エステル重合体を介して、フッ素系化合物または/およびシリコーン系化合物を主体とする重合体皮膜が付与されてなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の織編物。

【公開番号】特開2006−104617(P2006−104617A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293486(P2004−293486)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】