説明

織編物

【課題】本発明では優れた黒発色性、仕立て映えのする風合いなどの基本特性とカーボンブラックを含有した黒原着糸条由来の保温性、耐久制電性及び多様な機能性付与可能な織編物を提供することができる。
【解決手段】芯部がカーボンブラックを含有した黒原着ポリエステルマルチフィラメントAからなり、鞘部がコロイダルシリカ微粒子が混入されたポリエステルマルチフィラメントBからなり、かつ前記芯部と鞘部の両方の繊維表面に凹部を有する混繊糸を主体とする織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラックフォーマル素材などに用いられた際に優れた黒発色性を有する織物又は編物(以下、「織物又は編物」を総称して「織編物」と呼ぶ)に関する。さらに詳しくは、芯部にカーボンブラックが含有された黒原着ポリエステルマルチフィラメントを使用した混繊糸を主体とする織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冠婚葬祭に伴うブラックフォーマル・ウェアの需要がますます高まり、優れた熱安定性、形態保持性、染色堅牢度、強度等の特性を有するポリエステル素材が最も広く使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリエステル繊維はアセテート、レーヨン、羊毛、絹等といった天然繊維と比較して染色布の発色性に劣り、さらに繊維表面のなめらかさによる特有の鏡面光沢があるため、天然繊維のような色の深みが得られないといった欠点を有する。また、ポリエステル繊維特有の欠点として静電気が発生しやすく、特に冬期の低湿度の環境下では静電気によるホコリ付着が問題である。
【0004】
このような問題を解決する手段として、ポリエステル複合糸の一方の糸条が繊維表面に微細な凹凸孔を有することにより、光の表面反射量を少なくして黒発色性を向上させるとともに、他方の糸条が芯部に制電性を有するポリマーを有する複合フィラメントを構成することにより、半永久制電性を付与することについての手法が開示されている(特許文献1参照)。この方法では、ある程度の黒発色性向上効果と耐久制電性付与効果は期待できるが、得られたポリエステル複合糸が一部の糸条のみの繊維表面に微細な凹凸孔を有するため、満足できる黒発色性のものを得ることが出来なかった。
【0005】
また、黒発色性を向上させるために、カーボンブラックを0.1〜0.5重量%含有する黒原着ポリエステル系繊維を用いた布帛をアルカリ溶液により減量処理後黒染色し、しかる後に1.5以下の低屈折率樹脂による深色加工を施す手法が開示されている(特許文献2参照)。また、耐アルカリ減量性を向上するため、芯成分にカーボンまたは/および黒色有機色素が混入され、鞘成分にコロイダルシリカ粒子が混入されたポリエステル系芯鞘複合繊維を用いた布帛に上記特許文献2と同じ染色、深色加工を施す手法が開示されている(特許文献3参照)。これらの方法では黒発色性を向上するために、染色上がりの布帛を低屈折率樹脂により深色加工する操作が必須となる。
【0006】
また、ブラックフォーマル用途素材には、風合い(仕立て映え)、黒発色性などの基本特性の他に、多様な機能性(制電、保温、抗菌、消臭、防汚、吸水・速乾など)のニーズが求められている。しかしながら上記の特許文献1に記載の発明においては、黒発色性面で満足できる商品を得ることが難しく、また、特許文献2及び特許文献3に記載の発明においては、黒発色性を向上するために、低屈折率樹脂による深色加工が必須であるが、かかる低屈折率樹脂は他の機能性樹脂との相溶性があるものに限られるため、多様な機能性加工が制限されているのが現状である。
【特許文献1】特開2005−54286号公報
【特許文献2】特開昭58−120890号公報
【特許文献3】特開2002−138372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、かかる従来技術の背景に鑑み、ブラックフォーマル用素材として優れた黒発色性、仕立て映えのする風合いなどの基本特性とカーボンブラックを含有した黒原着糸条由来の保温性、耐久制電性及び多様な機能性を付与可能な織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、以下の構成を採用する。すなわち、
[1]芯部はカーボンブラックが含有した黒原着ポリエステルマルチフィラメントAからなり、鞘部はコロイダルシリカ微粒子が混入されたポリエステルマルチフィラメントBからなり、かつ芯部と鞘部の両方の繊維表面に凹部を有する混繊糸を主体とする織編物。
【0009】
[2]該黒原着ポリエステルマルチフィラメントにおけるカーボンブラックの含有量が1.0〜5.0重量%である[1]に記載の織編物。
【0010】
[3]前記混繊糸が下記式における撚係数(K)8000〜40000の範囲に追撚されてなる[1]または[2]に記載の織編物。
【0011】
K=T・D1/2
ただし、K:混繊糸の撚係数
T:撚数(T/m)
D:繊度(dtex)
[4]該織編物の保温性を示すclo値が0.650以上である[1]〜[3]のいずれかに記載の織編物。
【0012】
[5]該織編物の洗濯20回後の摩擦耐電圧がJIS L1094に準じて3.0KV以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の織編物。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、優れた黒発色性、仕立て映えのする風合いなどの基本特性とカーボンブラックを含有した黒原着糸条由来の保温性、耐久制電性及び多様な機能性を付与可能な織編物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の織編物は、黒原着ポリエステルマルチフィラメントAが芯部、ポリエステルマルチフィラメントBが鞘部を構成し、かつ芯部と鞘部の両方の繊維表面に凹部を有する混繊糸を主体とする織編物であり、かかる混繊糸の織編物に対する構成比率は、特に限定されるものではないが、本発明の効果を得るには、30〜100重量%含むことが好ましく、50〜100重量%含むことがより好ましく、70〜100重量%含むことがさらに好ましい。
【0015】
本発明に係る混繊糸においては、芯部を構成する黒原着ポリエステルマルチフィラメントAはカーボンブラックを含有し、その含有量が1.0〜5.0重量%である。一方、鞘部を構成するポリエステルマルチフィラメントBは平均一次粒子径0.02〜0.1μmであるコロイダルシリカ微粒子が混入されたものである。
【0016】
また、芯部と鞘部の両方の繊維表面に凹部を有することが、黒発色性を向上させる点で重要である。従来技術に係る鞘部のみ繊維表面に微細な凹部を有するポリエステル系混繊糸を用いた場合、芯部を構成する繊維は部分的に混繊糸の外側に出るため、鞘部を構成する繊維が部分的に混繊糸の内側に入ることによる優れた黒発色性が得られない。しかしながら、本発明においては、芯部を構成する黒原着ポリエステルマルチフィラメントAはカーボンブラックを含んでおり、鞘部を構成するポリエステルマルチフィラメントBはコロイダルシリカ微粒を含んでいるため、アルカリ減量工程で芯部の繊維表面付近のカーボン粒子および鞘部の繊維表面付近のコロイダルシリカ微粒子が脱落し、芯部と鞘部の両方の繊維表面に微細な凹部が発生し、優れた発色性効果を有し、またドライな風合いを期待できるものである。
【0017】
なお、本発明における繊維表面における凹部は、次のような手法で測定されるものである。即ち、走査型電子顕微鏡にて3000〜8000倍の繊維表面拡大写真から下記式を満足する微細な凹部が5μm四方に50〜500個の密度で存在するものとする。
【0018】
式1:0.05μm≦W≦1.0μm
式2:0.05μm≦L≦2.0μm
(ここで、Wは凹部の短軸径を表し、Lは長軸径を表す。形状が長方形状でない場合は、凹部に外接し、その長軸方向、短軸方向と等しい軸方向を有する長方形を仮定してW、Lを測定する。)
一方、ポリエステルの染色においては、繊維構造が緻密なために、通常黒色染料を用いて130℃程度の高圧高温染色を行っても、繊維表面のみ染まり、中心部は染まらない。そして、繊維内部からの散乱光が生じるため、反射光量が多くなり、黒色の発色性は低くなってしまう。本発明の織編物は、芯部が黒原着ポリエステルマルチフィラメントで構成された混繊糸を主体とするため、芯部にカーボンや黒色有機色素などが混入されない非原着ポリエステルマルチフィラメントが構成された混繊糸を用いた同等な条件に比べて、少量の黒色染料でも優位な黒発色性が得られ、コストダウンの観点からも有利である。
【0019】
また、黒原着ポリエステルマルチフィラメントAがカーボンブラックを含有することにより、制電性及び保温性を付与することが出来る。かかる良好な制電性および保温性を付与するために、カーボンブラックの含有量は1.0重量%以上が望ましいが、製糸性及び高次加工工程通過性を安定させる観点から、5.0重量%以下が好ましい。より好ましい含有量は1.5重量%以上4.0重量%以下である。
【0020】
また、かかるカーボンブラックは、任意に選択することが出来るが、アルカリ減量処理時に繊維表面付近のカーボンブラックを脱落させて、均一な微細な凹部(ミクロクレーター)を形成させるために、その平均二次粒子径が0.05〜0.50μmであるものが好ましい。
【0021】
また、黒原着ポリエステルマルチフィラメントAの単糸繊度は1.0dtex以上10.0dtex以下が好ましい。低減量率処理でも柔らかい風合いが得られる観点からは、より好ましい単糸繊度は1.0dtex以上8.0dtex以下である。
【0022】
次に、ポリエステルマルチフィラメントBは平均一次粒子径0.02〜0.1μmであるコロイダルシリカ微粒子が混入されていることが、アルカリ減量処理を施すことにより繊維表面に均一かつ微細な凹部(ミクロボイド)を得る、という観点から重要である。凹部の大きさは微粒子の大きさに依存し、微粒子の平均粒子径とほぼ同程度となる。平均一次粒子径が0.02μm未満の場合、アルカリ減量による形成された繊維表面の凹部の大きさが極めて小さいため、黒発色性に不利である。逆に平均一次粒子径が0.1μmを超える場合、繊維表面に形成された凹部が大き過ぎ、単位面積における凹部の個数が少ないため、黒発色性にも不利である。また、コロイダルシリカの混入量は0.4〜5重量%であることが好ましい。ここで、コロイダルシリカとは、ケイ素酸化物を主成分として、単粒子状で存在する微粒子が水または単価のアルコール類またはジオール類またはこれらの混合物を分散媒としてコロイダルとして存在するものをいう。
【0023】
また、ポリエステルマルチフィラメントBは混繊糸の鞘部を構成するものであることから、その単繊維繊度は、発色性と繊細な風合いを両立する点から、0.1dtex以上5dtex以下であり、芯部を構成される黒原着ポリエステルマルチフィラメントAの単糸フィラメントより細いものであることが好ましい。
【0024】
また、混繊糸総繊度に占める芯部総繊度の比率は10重量%以上50重量%以下であることが好ましい。10重量%未満の場合は、本発明の保温性や制電性の効果を十分に得られない。50重量%を超える場合、得られた混繊糸を用いた織編物について、低減量加工をされたものは風合いが硬く、繊維表面に微細な凹部も少なく形成されるため黒発色性が著しく低い。また、高減量加工をされるものはハリ・コシが不足、物性も大きく脆化され好ましくない。そして、アルカリ減量加工の減量率は5〜35重量%の程度が好ましい。
【0025】
混繊糸としての繊度は織編物の軽量感を考慮して200dtex以下、また肉厚感や布帛強度を考慮して60dtex以上であることが好ましい。
【0026】
当然ながら、強度が低すぎると撚糸・製織工程で糸切れが多発するので、混繊糸の強度は1.0cN/dtex以上であることが好ましい。
【0027】
また、本発明の織編物は、強度の向上及び芯部カバーリング性向上のために、織糸又は編糸が撚係数(K)8000以上の撚を付与されることが好ましい。また適度なふくらみを維持するためには撚係数(K)40000以下であることが好ましい。より好ましい撚係数は、10000〜30000である。撚係数が8000未満では、染色加工された製品の風合いが、ふかつき感が大きく、ハリ・コシも不足し、仕立て映えの良くないものになる。一方、40000を超えると製品の風合いが硬くなり、更に撚糸、製編織工程の工程通過性が困難になり問題となる。また、複合糸への適正な追撚は、黒発色性の向上にも有効である。この際、撚係数(K)は下記の方法で計算する。
【0028】
K=T・D1/2
ただし、K:混繊糸の撚係数
T:撚数(T/m)
D:繊度(dtex)
追撚を施された混繊糸は、一般的に使用される織編物の組織に制約されことなく使用できるが、良好な黒発色性を得るためには、表面感が凹凸形状になる組織が好ましく、逆に表面感がフラットな平織物や、スムースなどの編物のような織編物組織は好ましくない。また、織編物の密度も特に限定されることがない。
【0029】
また、本発明の効果を妨げない範囲で、レーヨンやウールなどの天然繊維と交撚、交織および交編などを施したものも含まれるが、これらに限られるものではない。
【0030】
本発明の織編物が含有される混繊糸とは、カーボンブラックを含有した黒原着ポリエステルマルチフィラメントAが芯部、コロイダルシリカ微粒子を混入されたポリエステルマルチフィラメントBが鞘部を構成し、かつ鞘部は芯部の「周りに配置された」ものであり、芯成分にカーボンまたは/および黒色有機色素が混入され、鞘成分にコロイダルシリカ粒子が混入され、鞘成分が芯成分を覆う構造のポリエステル系芯鞘複合繊維とは異なるものである。本発明の織編物と同じ条件で、前記ポリエステル系芯鞘複合繊維を織編物として用いた場合、芯部に配合したカーボンブラックは表面にはないため、その黒発色性を活かすことができず、黒発色性は著しく低くなる。したがって、黒発色性を向上させるためには染色上がりの布帛を低屈折率樹脂の深色加工が必須となる。これに対して、本発明の織編物は低屈折率樹脂の深色加工をしなくても優れた黒発色性が得られるものであり、また、混繊糸の芯部を構成する黒原着糸に含有されたカーボンブラックに由来する良好な制電性と保温性を付与できるので、深色や、保温や、耐久制電などの機能性樹脂加工の代わりに、抗菌や、防臭や、撥水や、吸水・速乾など他の多様な機能性付与ができるものである。
【0031】
本発明の織編物の一つの特徴は、上記構成により、織編物の保温性を示すclo値が0.650以上であることである。かかるclo値が0.650以上とは、秋冬季下必要と言われる保温性能を満足するものであるため、A/W向けの素材として最も好適である。かかる保温性clo値の測定方法を説明する。すなわち、保温性試験機を用い、試験片を熱板(BT−Box)上に取付けて、既設の熱板温度で試験機付属の電力計の変動が最少となる安定状態になるまでウォーミングアップを行う。それから、測定を開始し、規定の測定時間中の消費電力(W)および試験機の外気温度(即ちT−Box温度℃)を読取る。次式によって保温性clo値を求め、試験片3枚について1回ずつ、計3回測定の平均値で表わす。
【0032】
【数1】

【0033】
ここに △T:熱板温度と外気温度の差(℃)、W :試験片を取り付けた時の消費電力、 A :熱板の面積(m
もう一つの特徴は、JIS L1094に準じて行う洗濯20回後の摩擦耐電圧が3.0KV以下であるものである。洗濯20回後とは、20回繰り返したものである。1回の洗濯を2槽式洗濯機で液温度40℃,洗濯時間5分、すすぎ30℃×2分×2回、脱水30秒のサイクルで20回繰り返す。摩擦対象布としてあらかじめのり抜き、精錬、漂白した綿の平織(目付100g/m)を用い、ローター回転数400rpm、校正印加電圧100V、温度20℃、相対湿度30%の環境条件中でたて及びよこ方向に各々5枚測定の平均値を採った。上記摩擦耐電圧が3.0KVを超える場合には、低湿度下においてホコリ付着が顕著になり、商品の品位を低下させる。当然ながら、洗濯前のほとんどの製品は、帯電防止剤が施されており、極めて低い摩擦耐電圧を保持するが、通常この帯電防止剤は洗濯、ドライクリーニング等で脱落し、洗濯、ドライクリーニング等後の摩擦耐電圧は極めて高いレベルになり、ホコリ付着を増長する。その意味で、本発明の織編物は、混繊糸の芯部を構成された黒原着糸に含有したカーボンブラックの効果に由来して、上記洗濯後においても耐久的に3.0KV以下の摩擦耐電圧を維持してホコリ付着を防止することができるものである。
【0034】
本発明にかかる混繊糸に用いる黒原着ポリエステルマルチフィラメントAおよびポリエステルマルチフィラメントBは、テレフタル酸を主成分とし、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ペンタメチレングリコール、およびヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも1種を主たるグリコール成分とするポリエステルである。また、ポリエステルマルチフィラメントBには5−ナトリウムスルフォイソフタル酸が第三成分として共重合されたカチオン染料可染型ポリエステルを用いることができる。
【0035】
前記の黒原着ポリエステルマルチフィラメントA及びポリエステルマルチフィラメントBの断面は、丸型、三角、扁平、六角、L型、T型、W型、八葉型、ドッグボーン型などの多角形型、多様型、中空型など任意に選択することができる。
【0036】
また、黒原着ポリエステルマルチフィラメントAまたはポリエステルマルチフィラメントBには、必要に応じて、難燃剤、つや消し剤などの添加剤を使用してもよい。
【0037】
次に、本発明の織編物の製造方法について説明する。
【0038】
(1)かかる混繊糸の製造方法
ポリエステルが主体とするポリマーにカーボンブラックが混入され、かつポリエステルに含有したカーボンブラックの平均二次粒子径が0.05〜0.50μmであり、カーボンブラックの含有量が1.0〜5.0重量%である。公知の製糸方法でカーボンブラックが含有した黒原着ポリエステルマルチフィラメントAを得られる。
【0039】
また、ポリエステルが主体とするポリマーに平均一次粒子径0.02〜0.1μmであるコロイダルシリカ微粒子が0.4〜5重量%混入され、コロイダルシリカ微粒子が十分かつ均一に分散され、公知の製糸方法でコロイダルシリカ微粒子が混入されたポリエステルマルチフィラメントBを得られる。
【0040】
次に、鞘部とされるポリエステルマルチフィラメントBが芯部とされる黒原着ポリエステルマルチフィラメントAの外側に均一配置するため、ポリエステルマルチフィラメントBの低収縮特性を得られる糸加工を施される。糸加工方法においては、ポリエステルマルチフィラメントBの高配向未延伸糸を低倍率延伸熱処理や延伸後に弛緩熱処理、直接弛緩熱処理を施す方法など既知の糸加工を任意に用いることができる。好ましくは高発色性と糸加工性を両立した延伸後に弛緩熱処理を施す方法である。
【0041】
また、黒原着ポリエステルマルチフィラメントAおよびポリエステルマルチフィラメントBを混繊する方法としては合撚撚糸やインターレース加工、タスラン加工等の任意の混繊手段を用いることができるが、好ましくは、微小ループが形成されソフトな風合い、黒発色性が期待できるタスラン加工である。
【0042】
図1は、混繊糸の製造工程の一例である。図1において、Aは黒原着ポリエステルマルチフィラメントA、BはポリエステルマルチフィラメントBの高配向未延伸マルチフィラメントを示す。まず、ポリエステルマルチフィラメントBはホットピン2で熱処理を受けながら、フィードローラ1とフィードローラ3の間でプレ延伸される。この際のホットピンの温度は60℃〜120℃であれば、均一に熱延伸処理できるので好ましい。次に、中空ヒーター4で非接触熱処理を受けながら、フィードローラ3とフィードローラ5の間で弛緩熱処理を受ける。この際の中空ヒーター温度は160℃〜240℃であれば、熱処理ムラがなく、効果的な弛緩熱処理を実施することが可能である。
【0043】
その後、フィードローラ8で黒原着ポリエステルマルチフィラメントAを、フィードローラ5でポリエステルマルチフィラメントBをオーバーフィード供給し、タスランノズル6で交絡を付与し、糸を収束させる。この際、糸に強固な交絡を付与するため、またコスト面も考慮して交絡圧に関しては0.3〜0.8(MPa)であることが好ましい。交絡の際には、水付与の有無はどちらでも構わないが、水なしの方がノズルが汚れにくいので生産性の面から有利である。交絡オーバーフィードに関してはポリエステルマルチフィラメントBが鞘部を構成するようするため、Aの交絡オーバーフィード−Bの交絡オーバーフィードは3%以上であることが好ましい。またネップ発生を防ぐため好ましい上限は10%以下である。
【0044】
その後、デリベリーローラ7を経由して、最後にワインダーで混繊糸9として巻き取られる。
糸加工速度については早ければ生産性が高くなり好ましいが、安定加工性を考慮すると、100〜600(m/min)が好ましい。
【0045】
(2)本発明の織編物の製造方法
前記のようにして製造した混繊糸が撚係数(K)8000以上40000以下の撚を付与され、さらに公知の製織方法、編成方法を用いることにより、この混繊糸を主体とする織物や編物が得られる。織組織や編組織、織密度や編密度としては公知の如何なるものを適用可能である。また、使用する織機や、編機は特に限定されない。
【0046】
さらに、本発明の混繊糸を用いた織編物を染色仕上げ加工する場合にも、加工方法あるいは加工装置などになんら制約されることはないが、リラックスで充分に解撚効果によるストレッチやふくらみ感を出すために、液流リラックス加工を実施することが好ましい。また、中間セット時には混繊糸のアルカリ減量耐性を強めるため、セット温度を180℃以上230℃以下にすることが好ましい。230℃を越えると、風合いが硬くなるので好ましくない。
【0047】
本発明においては、織編物にアルカリ減量を施すことが好ましい。その理由は前述したとおり、アルカリ減量によって、黒原着ポリエステルマルチフィラメントAとポリエステルマルチフィラメントBの両方の繊維表面に微細な凹部が形成され、黒発色性を向上させることができるためである。アルカリ減量加工の減量率は5〜35重量%の程度が好ましい。35重量%を超えるとハリ・コシが不足、物性も大きく脆化され好ましくない。一方、5重量%未満では風合いが硬く、マルチフィラメントA及びBの繊維表面に微細な凹部を十分に発生させることができないため、黒発色性が著しく低下する。
【0048】
なお、アルカリ減量としては公知の方法、装置を採用することができる。
【0049】
本発明の織編物は低屈折率樹脂の深色加工をしなくても、優れた黒発色性が得られ、また、混繊糸の芯部を構成された黒原着糸に混入されたカーボンブラックから由来された良好な制電性と保温性が付与できるため、深色や、保温や、耐久制電などの機能性樹脂加工が必須としない。こういう意味では、抗菌や、防臭や、防汚や、撥水や、吸水・速乾など他の多様な機能性付与加工ができる。
【0050】
本発明により、従来不可能であった優れた黒発色性と多様な機能性付与を両立させることができる。
【0051】
本発明の織編物は衣料として特にブラックフォーマル素材に好適であるが、その他婦人・紳士衣料、また学生服、作業服などユニフォーム、ジャージ、アスレチックウェア、スキーウェアなどのスポーツ衣料用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
【0053】
(1)繊度
JIS L1013(2004)の繊度測定に準ずる。
【0054】
(2)伸度、強度
JIS L1013(2004)に基づいて測定する。
【0055】
(3)黒発色性(L*値)
織物の黒発色性は、得られた織編物を4枚重ねし、コニカミノルタセンシング(株)製分光測色計(CM−3600d型)を用いて、測定径25.4mmφの条件でL*を5回測定し、その平均値で評価した。数値の低いものほど、発色性に優れていることを示す。
【0056】
(4)保温性(clo値)
加藤鉄工所(株)製KES−7保温性試験機を用い、11cm×11cmの試験片を熱板(BT−Box)上に取付けて、40℃の熱板温度で試験機付属の電力計の変動が最少となる安定状態なるまでにウォーミングアップを行う。それから測定を開始し、60秒間中の消費電力(W)および試験機の外気温度(即ちT−Box温度℃)を読取る。次式によって保温性clo値を求め、試験片3枚を用いて各1回ずつ行い、3回測定の平均値で表わす。
【0057】
【数2】

【0058】
ここに △T:熱板温度と外気温度の差(℃)、W :試験片を取り付けた時の消費電力、A :熱板の面積(0.01m
(5)洗濯
洗濯20回後とは、20回繰り返したものである。1回の洗濯を2槽式洗濯機で液温度40℃,洗濯時間5分、すすぎ30℃×2分×2回、脱水30秒のサイクルで20回繰り返す。洗剤は花王の“アタック(登録商標)”を1g/L使用する。
【0059】
(6)摩擦耐電圧
JIS L1094(1997)規定の摩擦帯電圧測定法に準じ、京大化研式ロータリースタティテスターにより、摩擦対象布としてあらかじめのり抜き、精錬、漂白した綿の平織カキナン3号(目付100g/m)を用い、ローター回転数400rpm、校正印加電圧100V、温度20℃、相対湿度30%の環境条件中でたて及びよこ方向に各々5枚測定の平均値である。
【0060】
(7)アッシュテスト
環境条件が、温度:20±2℃、湿度:30±2% RHの試験室に試験布と綿摩擦布(カナキン3号)およびタバコの灰を24時間以上放置後、試験室内で直径20cmの木製の円形ホルダーに試験布をしっかり取り付け、30cm×30cmの綿摩擦布を4つ折り16枚重ねにし、試験布面を約500g前後の押圧で円を描くように均一に15回摩擦する。摩擦後ただちに摩擦した試験布面を約10cm×10cmの面積を有し、約1.5gの灰が均一に分散された容器の底から1cmの距離まで近づけ、5秒間静止させる。灰の付着状況を観察し、次の3段階判定を行う。
【0061】
全く付着しない:3
やや目立つ :2
著しく付着 :1
(8)抗菌性評価
滅菌試料布に試験菌MRSA菌(IID1167)のブイヨン懸濁液を注加し、密閉容器中で37℃、18時間培養後の生菌数を計測し、殖菌数に対する菌数を求め、次の基準に従った。
【0062】
log(B/A)>1.5の条件下、log(A/C)を殺菌活性値とし、0以上を合格レベルとした。ただし、Aは無加工品の接種直後分散回収した菌数、
Bは無加工品の18時間培養後分散回収した菌数、
Cは加工品の18時間培養後分散回収した菌数を示す。
【0063】
(9)タバコ臭に対する消臭性の臭覚評価
500mlのガラス製三角フラスコを入り口を下にして、入り口の直下に発煙している紙巻タバコを5秒間置いた後、すばやく三角フラスコを横にして試料3gを投入し、ガラス栓で密閉した。1時間放置後、ガラス栓を開け、10人の人に残臭を嗅いでもらい官能評価した。その時の臭気を下記評価点数で評価し、平均値を算出した。
【0064】
無臭 :3
弱い臭い:2
強い臭い:1
(10)風合い評価
ふくらみ感、ソフト感、ハリ・コシのそれぞれの評価について、熟練者10名にて3段階判定法で評価する。
【0065】
優 :○
良 :△
悪 :×
実施例1
ポリエステルマルチフィラメントAの原料としてカーボンブラック(大日本インキ化学工業)を含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを用いた。レーザ回折/散乱式粒度分布計測装置(堀場製作所製LA−700型)で分析したところ、カーボンブラックの含有量は2.5重量%であり、その内、平均二次粒子径が0.21μmかつ二次粒子径0.26μm以下のカーボンブラックが70%以上であった。
【0066】
上記ポリマーを紡速2000(m/min)で紡糸し、その後130℃で延伸熱処理を実施し、総繊度40dtex、8フィラメント(断面円形)の黒原着ポリエステルマルチフィラメントAを得た。
【0067】
一方、平均一次粒子径が0.05μmであるコロイダルシリカを1.0重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを紡速3000(m/min)で紡糸して、総繊度93dtex、48フィラメント(断面円形)、伸度150%の高配向未延伸フィラメントであるポリエステルマルチフィラメントBを得た。
【0068】
次に、図1に示す混繊加工態様で実施した。 即ち、鞘部になるポリエステルマルチフィラメントBは、先に延伸工程で延伸して伸度:55%の延伸糸として、続いてヒーター内で弛緩化熱処理を施し、その後黒原着ポリエステルマルチフィラメントAとともに乱流加工を施した。このときの主な混繊条件は、混繊機:愛機製作所製AT−501型、糸速:350m/min、熱処理条件:ヒーター温度180℃、混繊オーバーフィード率:芯2.5%/鞘9.0%であった。得られた混繊糸の加工糸特性は、繊度:138dtex 強度:3.5cN/dtex 伸度:42.5% 沸収:12.2%であった。
【0069】
次に、このようにして得られた混繊糸に、村田機械(株)製のダブルツイスター撚糸機を用いて、SおよびZ方向に2000T/mの追撚を施し、その後、80℃×30分のスチーム撚止めセットを実施した。得られた追撚糸を用いて、SとZを2本交互に配列してそれぞれ経および緯糸とし、経密度:160本/2.54cm、緯密度:120本/2.54cmの平二重組織を製織した。生機は常法に従い液流リラックス処理を施し、続いて、乾燥・中間セットを施した。中間セット条件は、温度180℃で実施した。その後、20%のアルカリ減量加工を行い、市販のブラック染料で135℃染色した後、常法に従い還元洗浄(80℃、20分)を行い、水洗し乾燥し、染色上りの織物とした。それから、最終仕上げ加工を実施した。
【0070】
得られた織物は、走査型電子顕微鏡にて3000倍にて拡大観察すると、芯部と鞘部の両方の繊維表面に微細な凹部を有しており、発色性、保温性、制電性及び風合いに優れていた。結果を表1に示す。
実施例2
実施例1の染色上りの織物を用いて、下記の組成の樹脂液の中に浸漬し、液の付着量が織物の重量を基準として80重量%になるようにマングルで絞り、130℃の温度で乾燥し、160℃の温度でヒートセットした。
【0071】
深色加工剤:
“マックスガード”(EC470(京絹化成社製、フッ素系化合物、屈折率1.38) 水溶液濃度:4重量%
“トーレシリコーン”SM8702(東レシリコーン社製、アミノ変性シリコーン、屈折率1.48) 水溶液濃度:1重量%
最終的に得られた織物は、発色性が向上されていた。かつ保温性、制電性及び風合いに優れた。結果を表1に示す。
実施例3
実施例1の染色上りの織物を用いて、下記の組成の樹脂液の中に浸漬し、液の付着量が80重量%になるようにマングルで絞り、130℃の温度で乾燥し、175℃の温度でヒートセットした。
【0072】
制菌剤:2−ピリジオール−1−オキシド亜鉛 水溶液濃度:0.6重量%
最終的に得られた織物は、発色性、保温性、制電性及び風合いに優れ、抗菌機能も付与されていた。結果を表1に示す。
実施例4
実施例1の染色上りの織物を用いて、下記の組成の樹脂液の中に浸漬し、液の付着量が80重量%になるようにマングルで絞り、120℃の温度で乾燥し、160℃×20分間過熱蒸気で熱処理し、繊維表面に光触媒を含む織物を得た。
【0073】
消臭加工剤:チタンとケイ素の複合酸化物(固形分20重量%) 水溶液濃度:11.8重量%
最終的に得られた織物は、発色性、保温性、制電性及び風合いに優れ、消臭機能も付与されていた。結果を表1に示す。
比較例1
芯部を構成される黒原着ポリエステルマルチフィラメントをカーボンブラックが混入されないレギュラーポリエステルマルチフィラメントに変更した以外は実施例1と同様の方法、同様の条件で織物を作成した。
【0074】
得られた織物は、走査型電子顕微鏡にて3000倍に拡大して観察すると、鞘部を構成するポリエステルマルチフィラメントの繊維表面に微細な凹部があるが、芯部を構成されるレギュラーポリエステルフィラメントの繊維表面に微細な凹部が極めて少ないため、発色性が不足していた。また、保温性、制電性が悪かった。結果を表1に示す。
比較例2
芯鞘ともポリエチレンテレフタレートからなるポリマーであり、芯成分がカーボンブラックを2.5重量%含有し、鞘成分に平均一次粒子径が0.05μmであるコロイダルシリカが1.0重量%混入されたものを、芯:20重量%、鞘:80重量%の割合で口金より押出し、同心円の芯鞘型形状に複合紡糸した。これを130℃で延伸熱処理を実施し、140dtex、48フィラメントの芯鞘型丸断面のポリエステルマルチフィラメントの延伸糸を得た(強度:2.3cN/dtex 伸度:38.2% 沸収:9.6%)。
【0075】
次に、実施例1と同じ方法、同じ条件で撚糸、製織、染色加工を実施し、織物を作成した。
【0076】
得られた織物は、走査型電子顕微鏡にて3000倍に拡大して観察すると、ポリエステルマルチフィラメントの繊維表面に微細な凹部があるが、発色性不足の問題があった。また、保温性、耐久制電性が悪かった。また、本発明の異繊度混繊糸のような膨らみ、ソフト感とハリ・コシが得られなかった。結果を表1に示す。
比較例3
比較例2の染色上りの織物を用いて、さらに下記の組成の樹脂液の中に浸漬し、液の付着量が80重量%になるようにマングルで絞り、130℃の温度で乾燥し、160℃の温度でヒートセットした。
【0077】
深色加工剤:
“マックスガード”(EC470(京絹化成社製、フッ素系化合物、屈折率1.38) 水溶液濃度:4重量%
“トーレシリコーン”SM8702(東レシリコーン社製、アミノ変性シリコーン、屈折率1.48) 水溶液濃度:1重量%
最終的に得られた織物は、発色性が大幅向上されていたが、保温性、制電性及び風合いが悪かった。結果を表1に示す。
比較例4
カーボンブラックが混入されたポリエチレンテレフタレートからなるポリマー(カーボンブラックの含有量が2.5重量%)を紡速2000(m/min)で紡糸し、その後130℃で延伸熱処理を実施し、総繊度144dtex、48フィラメント(断面円形)の黒原着ポリエステルマルチフィラメントを得た(強度:2.1cN/dtex 伸度:35.8% 沸収:10.4%)。
【0078】
次に、実施例1と同じ方法、同じ条件で撚糸、製織、染色加工を実施し、織物を作成した。
【0079】
得られた織物は、走査型電子顕微鏡にて3000倍に拡大して観察すると、ポリエステルマルチフィラメントの繊維表面に微細な凹部があるが、発色性不足の問題があった。また、本発明の異繊度混繊糸のような膨らみ、ソフト感とハリ・コシが得られなかった。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の織編物は衣料として特にブラックフォーマル素材に好適であり、また、その他婦人・紳士衣料、学生服、作業服などユニフォーム、ジャージ、アスレチックウェア、スキーウェアなどのスポーツ衣料用途に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の混繊糸の製造工程を例示説明するための工程概略図である。
【符号の説明】
【0083】
A:ポリエステルマルチフィラメントA
B:ポリエステルマルチフィラメントB
1:フィードローラ
2:ホットピン
3:フィードローラ
4:中空ヒーター
5:フィードローラ
6:タスランノズル
7:デリベリーローラ
8:フィードローラ
9:混繊糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部がカーボンブラックを含有した黒原着ポリエステルマルチフィラメントAからなり、鞘部がコロイダルシリカ微粒子が混入されたポリエステルマルチフィラメントBからなり、かつ前記芯部と鞘部の両方の繊維表面に凹部を有する混繊糸を主体とする織編物。
【請求項2】
該黒原着ポリエステルマルチフィラメントにおけるカーボンブラックの含有量が1.0〜5.0重量%である請求項1に記載の織編物。
【請求項3】
前記混繊糸が下記式における撚係数(K)8000〜40000の範囲に追撚されてなる請求項1または2に記載の織編物。
K=T・D1/2
ただし、K:混繊糸の撚係数
T:撚数(T/m)
D:繊度(dtex)
【請求項4】
該織編物の保温性を示すclo値が0.650以上である請求項1〜3のいずれかに記載の織編物。
【請求項5】
JIS L1094に準じて行った該織編物の洗濯20回後の摩擦耐電圧が3.0KV以下である請求項1〜4のいずれかに記載の織編物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−138497(P2010−138497A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312949(P2008−312949)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】