説明

繭の加工方法、繭有効成分エキス及びそれを含有する液体石鹸

【課題】本発明は、群馬県の世界遺産登録申請している富岡製糸工場に係わる碓氷地区の繭に注目し、その有効成分(繭有効成分エキス)を液体石鹸に利用することを目的としており、そのため繭から簡易に繭有効成分エキスを溶解させるための繭の加工方法、並びに当該繭の利用方法及び当該繭を用いた繭有効成分エキスの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、液体石鹸製造工程の中でいずれかの工程に適量の繭を入れて、液体繭石鹸の製造方法の確立である。
液体石鹸製造工程のどこに繭を入れて加水分解させるかを検討した結果、繭溶解液を利用して液体繭石鹸製造方法を考案した。
そして、液体石鹸製造工程及び原料使用量をまったく変更せず、繭溶解苛性カリ液で液体繭石鹸を製造した。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、繭の有効成分を含有する加工方法、及び当該繭の利用方法、及び当該繭より加水分解法にて得られる繭有効成分エキス、並びに繭エキスを含有する液体石鹸に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康に関する関心が高まり、生活習慣病、アトピー性皮膚炎などの疾患に対する予防効果(生体調整機能)を期待するようになって来た。
【0003】
石鹸においても、環境や人体に影響を与える界面活性剤を主成分とする石鹸から自然な素材を使用した石鹸が好まれるようになってきた。
【0004】
そのため、石鹸の種類も増え、その中に繭含有の絹石鹸が好評を博している。
しかし、ほとんどの絹石鹸の製造工程は、石鹸素地を作り、その中に繭を入れるか、別工程で繭を塩酸で加水分解し、石鹸素地に繭溶解液を混ぜ合わせる方法を採っている。
【0005】
石鹸素地の中に繭を入れて煮沸しても、繭成分が完全に溶解しているかを確認できない。繭の溶解は、温度が100℃以上である。石鹸素地を100℃以上で一定時間煮るとなると、石鹸素地に問題が生じる恐れがある。
【0006】
また、石鹸素地に別工程で作られた繭溶解液を加える方法は、溶解液が加わることで石鹸素地が薄まることになり、腐敗しやすく、繭有効成分も思い通りの濃度になりにくい。
【発明の開示】

【発明を解決しようとする課題】
【0007】
繭の研究は、岩手大学農学部の鈴木幸一教授のグループが、老化マウスの体毛の状態を調べたところ、表面組織がはがれて荒れた状態だったが、水溶液を飲ませたマウスは体毛の表面がなめらかになり、健常マウスの状態に近づいていた。
【0008】
鈴木教授は、フィブロインの効果で細胞が活性化するなどして“若返り”につながったのではないかと推測し、「皮膚や筋肉などが老化から回復している可能性もある。
高齢化が進む人間社会に役立つことを期待したい」と話す。
【0009】
今後、フィブロインを構成するアミノ酸のうち、どれが抗老化にかかわっているかを解明していく予定。繭に含まれるたんぱく質を研究し、化粧品や健康食品などを製造し、この研究が、斜陽化しているシルク産業の新しい可能性を開いてくれるよう願っている。今後もますますシルクの可能性を追求していきたい、と話している。(特許文献1、2、3、4参照)。
【0010】
【特許文献1】特許公開2003−310211 出願日 2002年4月24日 発明の名称 カイコ及び野蚕のシルクパウダーを含有させ、抗痴呆症高価並びに記憶学習向上を目的とする食品及び医薬
【特許文献2】特許公開平10−51306 出願日 1999年8月24日 発明の名称 化粧品、衛生用品及び医薬部外品組成物
【特許文献3】特許公開2002−226897 出願日 2002年8月14日 発明の名称 オレイン酸石鹸及び製造方法、並びに抗酸化剤及びその製造方法
【特許文献4】特許公開2009−280565 出願日 2009年12月3日 発明の名称 放射線照射によって抗酸化能、チロシナーゼ阻害能及び/又はがん細胞毒性が増加した高分子量のフィブロイン、その製造方法及びその方法
【0011】
本発明は、群馬県の世界遺産登録申請している富岡製糸工場に係わる碓氷地区の繭に注目し、その有効成分(繭有効成分エキス)を液体石鹸に利用することを目的としており、そのため繭から簡易に繭有効成分エキスを溶解させるための繭の加工方法、並びに当該繭の利用方法及び当該繭を用いた繭有効成分エキスの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これまで、繭エキスは生原料を加工溶解して得られる溶解液をそのまま冷凍して保存し、必要なときに解凍する方法が用いられている。
しかし、この方法では溶解液の保存場所の確保や繭溶解液の鮮度が落ちるため、利用しにくいなどの問題があり、石鹸に利用しにくい。
【0013】
また、加工溶解した繭をそのまま凍結乾燥して得た繭では、水に溶解しても繭エキスの溶解効率が低く、効率よく繭エキスを抽出する方法が求められている。
【0014】
繭を加工溶解した後、凍結乾燥して得た繭では、利用時の復元性が悪く、繭独得の成分、フィブロイン、セリシンが得られにくく、石鹸に配合する場合は繭有効成分を得ることができず、乾燥する意味がない。
【0015】
さらに、繭溶解液をそのまま石鹸素地に加える方法も、繭有効成分エキスを思い通り配合できない欠点があり、溶解液を加えることで石鹸素地が薄められ、腐敗に繋がる恐れもある。
繭そのものを石鹸素地に入れて溶解する方法は、繭を100℃近くで煮沸させるため、繭の溶解が完全かを確認できない。
【0016】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ね、液体石鹸製造工程の中で繭の加水分解が可能性を検討した。
【0017】
液体石鹸製造工程は、一定量の水を50度近くに温め、鹸化率で計算した適量の苛性カリを温めたお湯に投入する。適量の苛性カリが溶解したのを確認後、適量の植物油(オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸)を苛性カリ溶解液に順次入れていく。オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸の順番も重要で、この順番を間違えると液体石鹸になりにくい。
【0018】
順次、植物油を入れた時点で、温度を90度近くに上げる。温度が高まるにつれて植物油は溶解し、透明の液体になっていく。
その後、1時間ごとに目視で確認し、鹸化状況を調べる。鹸化状況を確認する作業は重要である。時間と共に鹸化し、透明な液体石鹸が出来上がる。
これが石鹸素地である。
【0019】
この石鹸素地はPHが高いため、PH調整を行う。PH調整にはクエン酸、クエン酸Naを使用する。PH調整終了時点で保湿剤(グリセリン、ヒアルロン酸、スクワラン、ビタミンE等)を配合し、さらに香りをつけるため、アロマオイルを使用する。これで液体石鹸の出来上がりである。
【0020】
本発明は、上記、液体石鹸製造工程の中で、いずれかの工程に適量の繭を入れて、繭有効成分エキス配合液体石鹸の製造方法の確立である。
【0021】
液体石鹸製造工程のどこに繭を入れて加水分解させるかを検討した結果、繭溶解液で液体石鹸を製造する方法を考案した。
【0022】
繭の加水分解は通常塩酸を使用し、繭の量からモル計算で塩酸の量を決めて行われるが、液体石鹸製造には苛性カリが使用される。
また、液体石鹸を製造するには投入する植物油の種類及び使用量から割り出された鹸化率で苛性カリの使用量が決められる。
石鹸製造の原料使用量を変えずに、苛性カリが繭の加水分解に役立つか、その繭溶解液で液体石鹸を作る鹸化が可能かを検討した。
【0023】
そして、液体石鹸製造工程及び原料使用量を変更せずに、繭の加水分解を行った。 液体石鹸製造工程は、まず水を一定量入れてから温める。この中に適量の苛性カリを入れて溶解する。溶解した苛性カリを確認後、適量の繭を苛性カリ溶解液に入れる。この時点で繭を入れることが重要である。
今までは、苛性カリ溶解液に植物油を入れて鹸化し、液体石鹸を製造してきた。
【0024】
適量の苛性カリが溶解しているお湯に中に、適量の繭を入れて温度を高めていく。繭の溶解温度は100℃以上のため、100℃以上を保ち、繭が溶解していく状況を目視で確かめる。
繭の溶解は、目視と臭覚で確認する。繭は熱湯に溶けて、透明な状態になる。
また、繭は分解されると独得な動物的な臭いになり、この臭いを確かめて、分解されているか否かを判断する。
【0025】
繭の溶解を確かめた時点で、適量の植物油を投入する。以下は液体石鹸製造工程と同じ方法で進めていく。
課題は、繭溶解液に適量の植物油を入れ、鹸化する能力が苛性カリに残っているか、が本発明の骨子である。
【0026】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、繭を一定時間かけて苛性カリで溶解させることを特徴とする繭の加工方法である。
請求項2に記載の本発明は、請求項1記載の加水分解法により行う繭の加工方法が液体石鹸製造に役立つかが課題である。
【0027】
請求項3に記載の本発明は、請求項1〜2のいずれかに記載の方法で得られた繭を加水分解し、必要に応じて繭溶解液を濃縮又は希釈化することを特徴とする繭有効成分エキスの製造方法である。
【0028】
請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の方法で得られた繭有効成分エキスである。
請求項5に記載の本発明は、請求項4に記載の繭有効成分エキスを含有する液体石鹸である。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る請求項1に記載の繭の加工方法は、簡便に効率よく繭有効成分エキスを溶解できる実用性の高い方法である。
また、この繭は、繭有効成分エキスを簡易に、かつ何時でも利用できる形で製造することが出来る。
【0030】
また、本発明に係る請求項2に記載の繭の加工方法を行うことで、繭の有効成分を保持したまま、色や匂いを生かした繭有効成分エキスを得ることが出来る。さらに、この繭から機能性を有する有効成分が得られ、これをヒトや動物の健康面を向上する目的で利用することも期待できる。
【0031】
本発明に係る請求項1〜2の当該繭は液体石鹸製造工程の中で加水分解法を行い、さらに必要に応じて濃縮或いは希釈加工することで、そのまま利用することが出来る。
液体石鹸製造工程内で繭溶解を行うことで、公知の繭溶解方法に比べ復元性が良好で、繭の色・匂い・感触・テクスチャー・有効成分を活かせる。
【0032】
本発明に係る請求項3に記載の方法によれば、当該繭を加水分解することにより、繭有効成分エキスが得られる。
なお、当該繭有効成分エキスを濃縮又は希釈化したものを、液状石鹸ばかりでなく、食品、飲料品、化粧品又は医薬品などの素材としても使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
絹の発祥は紀元前2460年ごろ中国の黄帝の王妃・西陵がお湯の中に繭(まゆ)を落としてしまい、それを箸で拾い上げようとしたときに箸に巻きついてきたのが絹糸の発見といわれている。
これらを織物にして西方諸国に輸出するため、西安(長安)とトルコのアンタキアを結ぶ7000キロの道がつながりました。これがシルクロードと言われている。
当時のカイコから糸を製法する技術は中国国内で門外不出とされており、織物の重さと同じ金と交換されていた。
【0034】
中国以外で養蚕が始まったのは6世紀ごろといわれており、ヨーロッパに養蚕技術が広まった。
日本には弥生時代に朝鮮半島から伝わって、明治時代に著しい発展を遂げてきました。現在、生糸になる繭の生産量は、世界中で約50万トンとなり、中国が半数を占めている。
あまり知られておりませんが、生糸生産は群馬県富岡市の旧官営富岡製糸場(片倉工業(株)富岡工場)で近代国家に先駆けて、明治5年10月に大々的に開業しました。現在でも群馬県は、現在国内繭生産の40%、生糸生産の25%を占める日本一の蚕糸県です。
【0035】
繭の有効成分は、セリシン、フィブロイン、ミネラル類、ビタミン類、アミノ酸類が挙げられる。
【0036】
請求項1に係る本発明は、苛性カリが繭を溶解できるかが課題であり、繭の量と植物油に対して苛性カリの必要量が決まるが、いずれかが欠けても本発明の目的を達成することが出来ない。
【0037】
請求項2に係る本発明は、繭が溶解した苛性カリ溶解液で、適量の植物油(オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸)を鹸化できるかが課題であり、繭溶解苛性カリ液で植物油を鹸化する場合、苛性カリを鹸化率で計算し、使用量を決めるため、いずれかが欠けても本発明の目的を達成することが出来ない。
【0038】
上記請求項1〜に記載の加工方法により得られた繭は、液体石鹸以外に食品又は食品素材、化粧品、医薬品等の原料として利用することが可能である。
請求項3に記載されているように、請求項1〜2のいずれかに記載の方法で得られた繭は、必要に応じて繭溶解液を濃縮又は希釈化することを特徴とする繭有効成分エキスであり、繭独得の色、匂い、感触が復元でき、そのまま液体石鹸有効成分になり得る。
【0039】
請求項4に係る本発明は、請求項1〜2のいずれかに記載の加工方法により得られる繭を用いて繭有効成分エキスを製造する方法である。
このようにして得られた繭有効成分エキスは、請求項4、5に記載するように有効成分自体として、液体石鹸或いは食品(菓子類)、飲料品(清涼飲料水、)、又は食品素材に利用できる可能性を秘めている。さらに、化粧品(化粧水・クリーム等)、医薬品などにも応用出来る。
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
実施例1(液体繭石鹸製造方法)
(工程1)液体石鹸製造工程は、8lの水を50度近くに温め、鹸化率で計算された585gの苛性カリを温めたお湯に投入する。苛性カリが溶解したのを確認後、100gの繭を入れていく。
(工程2)585gの苛性カリが溶解しているお湯に中に、100gの繭を入れて温度を高めていく。繭の溶解温度は100℃以上のため、沸騰状態を保ち、繭が溶解していく状況を目視で確かめる。繭が透明に溶解したことを確認後、
(工程3)3000gの植物油(オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸)を順次入れていく。時間とともに鹸化が進み、目視しながら透明な液体石鹸を作り上げる。繭溶解の石鹸素地の出来上がりである。
(工程4)石鹸素地はPHが高いため、PH調整を行う。PH調整にはクエン酸、クエン酸Naを使用する。PH調整終了時点で保湿剤(グリセリン、ヒアルロン酸、スクワラン、ビタミンE等)を配合し、さらに香りをつけるため、アロマオイルを使用する。これで液体繭石鹸の完成である。上記方法の液体繭石鹸は、約11kg程度であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、群馬県の主要産業であった繭から簡易に、かつ効率よく繭有効成分エキスを溶解するために、繭の加工方法並びに当該繭の利用技術並びに当該繭有効成分エキスの製造方法を提供する。
繭有効成分エキスは、液体石鹸以外に、食品、食品素材、化粧品及び医薬品に機能性能を有する原料として利用される。
したがって、化粧品分野をはじめとして広範な利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繭を加水分解法で行うことを特徴とする繭の加工方法。
【請求項2】
液体石鹸製造工程の中で行う請求項1記載の繭の加工方法。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載の方法で得られた繭を、必要に応じて繭溶解液を濃縮又は希釈化することを特徴とする繭有効成分エキスの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法で得られた繭有効成分エキス。
【請求項5】
請求項4に記載の繭有効成分エキスを含有する液体石鹸。

【公開番号】特開2013−36015(P2013−36015A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180938(P2011−180938)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(596069874)株式会社クレッセンドコーポレーション (9)
【Fターム(参考)】