説明

繰り返し塩基配列の配列数測定方法および繰り返し塩基配列の配列数測定キット

【課題】多数の標的核酸中から、繰り返し塩基配列の反復数を同時に迅速かつ定量的に測定する方法、および測定キットを提供する。
【解決手段】繰り返し塩基配列内の塩基配列と、繰り返し塩基配列外の塩基配列とのそれぞれに、標識を導入する第1の工程と、前記標識された繰り返し塩基配列内の塩基配列と標識された繰り返し塩基配列外の塩基配列とから、それぞれに導入された標識の標識量を測定し、測定した標識量から、繰り返し塩基配列内の塩基配列に導入された標識と、繰り返し塩基配列外の塩基配列に導入された標識の標識量の量比を求める、第2の工程とを含む、繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し塩基配列の配列数の測定方法および繰り返し塩基配列の配列数の測定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の塩基配列上の差異は、核酸の置換、挿入、欠質あるいは組み替えにより生ずる。この核酸の塩基配列上の差異のうち、ある集団内で1%以上の頻度で存在する変異は、特に遺伝子多型と呼ばれている。遺伝子多型には、1個の塩基が他の塩基に置換されている一塩基多型(以下、「SNP」という)、繰り返し単位が2〜4塩基であるマイクロサテライト多型、繰り返し単位が数塩基から数十塩基であるVNTR(variable nucleotide tandem repeat)多型などが知られている。
【0003】
遺伝子多型は、一定の頻度である集団内に広がっている。このため、生存(生殖)に不利な影響を与えるのではなく、全く形質の変化を伴わない体質を左右する要因として注目されている。例えば、糖尿病、高血圧症、肥満等の生活習慣病、リュウマチ、アレルギー等の免疫疾患、あるいは癌等の疾患に対する罹りやすさが、遺伝子多型に起因することが知られている。また、薬剤代謝(薬の効き方)やヒト白血球組織適合型抗原等も遺伝子多型によって支配されていると考えられている。さらに、繰り返し単位の繰り返し頻度は、ヒトによって異なるので、個人の同定を行うことができる。
【0004】
ハンチントン病では、4番染色体短腕の第一遺伝子に存在するマイクロサテライト多型(繰り返し単位:CAg)の繰り返し反復数が36回以上と、異常に多い。この配列はグルタミンをコードする。このため、グルタミンの長大な鎖を生じ、これが転写機構を阻害するため、ハンチントン病を発症すると考えられている。また、血糖値をコントロールするインスリン遺伝子の近傍には、14塩基の繰り返し単位を有するVNTR多型(繰り返し単位:5’−ACAggggTgTgggg−3’など数種類)が存在する。この繰り返し単位の反復数が多い場合は、少ない場合に比べて、インスリンの分泌量が多くなることが知られている。すなわち、インスリンの発現量は、VTNRの繰り返し単位の反復数によって調節されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
このような繰り返し塩基配列を検出する方法としては、ゲノム中に存在する繰り返し塩基配列を含む標的核酸をゲノムから増幅し、電気泳動法を用いて繰り返し検出し、その配列長から反復数を測定する方法が知られている。あるいは、ゲノム中の繰り返し塩基配列を、標識したプローブを用いて検出する方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1では、ハイブリダイズしたDNAプローブの標識シグナルを測定して、テロメアサイズを測定する。また、特許文献2では、標的核酸にハイブリダイゼージョンさせた標識プローブに励起光を照射し、標識プローブの蛍光のゆらぎを検出して反復配列長を検出している。
【非特許文献1】ジョン ディ.エイチ.ステッド(John D.H.Stead)、他1名、「インスリンミニサテライトアレルの構造的な分析は、アフリカ人と非アフリカ人との間の異常に大きな相違を明らかにする(Structural Analysis of Insulin Minisatellite Alleles Reveals Unusually Large Differences in Diversity between Africans and Non−Africans)」、アメリカン・ジャーナル・オブ・ヒューマン・ジェネティックス(American Journal of Human Genetics)、米国、アメリカン・ソサイティ・オブ・ヒューマン・ジェネティックス(American Society of Human Genetics)、2002年、第71巻、p.1273−1284
【特許文献1】特開2001−95586号公報
【特許文献2】特開2005−237334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの従来の繰り返し塩基配列(VNTRおよびマイクロサテライト)の検出方法では、繰り返し領域を増幅した後に、サザンハイブリダイゼーションなどにより検出する。このため、検出時間が1〜2日要するので、迅速な検出が行えないという問題がある。
【0007】
また、特許文献1、2に記載の方法では、溶液中で標識分子を測定する。このため、1つの検体について、一つの反応系で測定を行う必要があり、多くの検体を同時に測定するのは容易でない。また、1つの検体を用いて多項目を検出することができない。
【0008】
近年、遺伝子診断、病原菌の特定などの際に、多検体・多項目の検出をするために、DNAチップ法が頻繁に用いられるようになってきた。この方法では、多数のプローブ核酸が同一の担体に固定化されたDNAチップを用いる。固定化されたプローブ核酸がそれぞれ多項目の標的核酸と選択的にハイブリダイズする。これにより、複数の標的核酸を検出することができる。しかし、DNAチップは、定量性が低い。このため、繰り返し塩基配列の反復数を求めるなどの定量性の高さが求められる検出には適さないという問題がある。
【0009】
さらに、従来の検出方法では、多数の遺伝子多型を同時に検査することが容易ではない。特に、SNPsと繰り返し塩基配列とは密接な関係がある。したがって、これらを同時に検査診断することは、より正確な遺伝子診断をするために要求される。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、複数の標的核酸中から繰り返し塩基配列の反復数を迅速にかつ定量的に検出する方法および検出キットを提供することにある。
【0011】
また、本発明の別な目的は、SNPsと繰り返し多型とを同時に検出する方法および検出キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、繰り返し配列単位に相補的な塩基配列鎖をハイブリダイズした後に、繰り返し配列単位内の核酸を標識するとともに、内部標準として繰り返し塩基配列外の核酸を標識し、標識量を測定し、比較することで、繰り返し塩基配列の反復数を迅速にかつ定量的に検出することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0013】
本発明の繰り返し塩基配列の反復数の測定方法は、繰り返し塩基配列内の塩基配列と繰り返し塩基配列外の塩基配列とのそれぞれに、標識を導入する第1の工程と、前記標識された繰り返し塩基配列内の塩基配列と標識された繰り返し塩基配列外の塩基配列とからそれぞれに導入された標識の標識量を測定し、測定した標識量から繰り返し塩基配列内の塩基配列に導入された標識と繰り返し塩基配列外の塩基配列に導入された標識の標識量の量比を求める第2の工程とを含む。
【0014】
前記前記第1の工程の前に、繰り返し塩基配列を有する標的核酸の繰り返し配列単位に相補的な塩基鎖をハイブリダイズさせ、繰り返し配列単位−相補的塩基鎖複合体を形成する工程を含むと、好ましい。この工程の前にプライマーを用いて繰り返し配列を有する標的核酸を増幅する工程を含めてもよい。前記プライマーには、標識が導入されていてもよい。この場合に、前記第1の工程が、前記ハイブリダイズした相補的塩基鎖の末端に標識塩基を伸長するものであってもよい。また、標識塩基が付加されている相補的な塩基鎖を用いて、標的核酸の繰り返し配列単位にハイブリダイズさせてもよい。あるいは、標識塩基が付加されている相補的な塩基鎖を用いて、標的核酸の繰り返し配列単位にハイブリダイズさせてもよい。さらに、標識塩基が付加されている相補的な塩基鎖を用いて、標的核酸の繰り返し配列以外の部分にハイブリダイズさせるものであってもよい。この場合に、前記標識塩基が付加された相補的塩基鎖を、前記複合体から解離させた後に、前記相補的塩基鎖に付加された標識塩基の量を測定することにより、繰り返し塩基配列内の塩基配列と標識された繰り返し塩基配列外の塩基配列のそれぞれに導入された標識の標識量を測定するとよい。あるいは、相補的塩基鎖を前記複合体から解離させずに標識核酸ごと標識量を測定してもよい。前記相補的塩基鎖または標的核酸は、タグ配列を有するものであってもよい。また、前記タグ配列は、非天然型核酸を含んでいてもよい。本発明の方法を用いると、繰り返し塩基配列の反復数の測定と、一塩基多型の検出とを同時に行うこともできる。
【0015】
本発明の繰り返し塩基配列の反復数測定キットは、繰り返し塩基配列を有する標的核酸の繰り返し配列単位に相補的に結合する相補的塩基鎖と、前記標的核酸または相補的塩基鎖を固定する固定化担体とを含むものである。前記相補的塩基鎖は、タグ配列を有していてもよい。さらに、前記相補的塩基鎖に標識核酸を延伸するための標識核酸を含んでいてもよく、あるいは前記相補的塩基鎖は、標識核酸が付加されている相補的塩基鎖であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、繰り返し部位とそれ以外の部位に異なる標識を導入する。それぞれの標識の標識量を測定し、両者の量比を求める。この量比から、繰り返し塩基配列の反復数を検出する。この結果、迅速にかつ定量的に繰り返し塩基配列の反復数を検出する方法および検出キットを提供することができる。本発明では、繰り返し部位とそれ以外の部位に導入された、異なる標識の標識量の量比から繰り返し塩基配列の反復数を検出する。この結果、反復数の異なる検体、異なる種類の繰り返し配列など、従来は別個に行っていた多項目の測定を、同時にDNAチップ上で行うことができる。また、SNPsについても、同時に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[原理]
本発明の繰り返し塩基配列の反復数を検出する方法および検出キットは、繰り返し塩基配列が一般に有する以下のような規則性を利用したものである。図1は、繰り返し塩基配列を有する核酸を模式的に示す図である。この図の例では、繰り返し塩基配列を有する核酸は、n個の繰り返し配列単位1を有している。図1(a)に示すように各繰り返し配列単位の3’末端の核酸(この図の例では、T)と繰り返し配列の5’末端外に存在する核酸(この図の例では、A)とは、一般に核酸の種類が異なる。各繰り返し配列単位1に相補的な塩基鎖をハイブリダイズする。図1(b)に示す例では、相補的塩基鎖2として、少なくとも繰り返し配列単位の5’末端側の一部に相補的であるものを用いる。次に、標識核酸を導入する。図1(c)に示すように、繰り返し配列単位の1〜(n−1)番目に結合した相補的塩基鎖には標識核酸Aが導入され、繰り返し配列単位のn番目に結合した相補的塩基鎖には標識核酸Tが導入される。あるいは、相補的塩基鎖の末端に標識核酸としてAまたはTが結合しているものを用いても、同様に標識核酸が導入される。標識核酸AまたはTが導入された相補的塩基鎖を異なる標識で検出し、両者の標識量の比をとる。この図の例では、Aが導入された相補的塩基鎖の信号強度は、内部標準であるTが導入された相補的塩基鎖の信号強度で割るので、n個の繰り返し単位を持つ標的核酸からは、(n−1)個分の信号強度となる。したがって、繰り返し配列の配列数が異なる標的核酸であっても、同時に反復数を測定することができる。
【0018】
上記の例では、n番目の繰り返し配列単位に内部標準を導入する例を説明した。内部標準を導入するのは、繰り返し配列単位に限られず、例えば、図2(a)に示すように、標識核酸中の繰り返し配列部分以外の部位であってもよい。この図の例では、標識核酸中の繰り返し配列部分以外の部位に相補的な配列2’を用いて、これに標識核酸を導入する。あるいは、図2(b)に示すように標識核酸中の繰り返し配列部分以外の部位に、標識14を導入することによってもよい。図2(b)の例では、標的核酸を固定化して繰り返し配列の配列数を測定する場合に適する。なお、図2に示す例では、n個の繰り返し単位を持つ標的核酸からは、n個分あるいは(n−1)個分の信号強度となる。また、繰り返し配列単位に対する相補的な塩基鎖は、繰り返し配列単位の一部でなく全部であってもよい。
【0019】
本発明を用いれば、例えば、インスリン遺伝子の近傍に存在するVNTR配列には、繰り返し配列単位:5’−ACAggggTgTgggg−3’など数種類のものが存在する。この場合であっても、繰り返し塩基配列に対応して異なる相補的塩基鎖を用い、異なる標識を導入すれば、同時に繰り返し塩基配列の反復数を測定することができる。
【0020】
[繰り返し塩基配列]
本発明で検出対象となる繰り返し塩基配列は、ゲノム中に存在する、繰り返し配列単位が数塩基から数十塩基であるVNTR、繰り返し配列単位が2〜4塩基であるマイクロサテライト多型などである。
【0021】
[標的核酸]
標的核酸は、繰り返し塩基配列を有するものであれば、特に制限はなく、細胞等から抽出されるゲノム遺伝子やゲノム遺伝子から酵素反応を利用して目的領域を増幅したものを用いてもよい。遺伝子の量を考慮すると、目的領域を増幅したものを用いるのが好ましい。目的領域の増幅方法は、特に制限はなく、公知の増幅方法を用いることができる。好ましい増幅方法は、耐熱性DNAポリメラーゼを用いた、ポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR反応」という)である。PCR反応を用いると、増幅効率が優れ、標識を導入することが容易になる。前記繰り返し塩基配列3を有する標的核酸4は、図3に示すように、プライマー5を用いて、ゲノム中のアニール部位6から、増幅される(塩基伸長部分)。使用されるプライマー5は、特に制限はなく、検出しようとする繰り返し塩基配列を増幅できるものであればよい。また、フォワードプライマー、リバースプライマーの2種類のプライマーを用いてもよい。さらに、プライマーは、2種以上の繰り返し配列を有する標的核酸を増幅できるものであってもよい。
【0022】
[相補的塩基鎖]
本発明で用いる相補的塩基鎖とは、標的核酸中の繰り返し塩基配列とハイブリダイズして、二重鎖を形成できる核酸集合体をいう。相補的塩基鎖7、8は、図4に示すように、標的核酸4中の繰り返し塩基配列内の繰り返し配列単位9と結合し、繰り返し配列単位−相補的塩基鎖複合体を形成する。相補的塩基鎖7、8は、繰り返し配列単位9の全部または一部とハイブリダイズするものであればよい。また、相補的塩基鎖7は、1種類に限らず、2種以上用いてもよい。例えば、内部標準となる相補的塩基鎖8は、標的核酸4の繰り返し塩基配列以外の部分にハイブリダイズさせるものであってもよい。この場合には、繰り返し配列単位9にハイブリダイズする相補的塩基鎖7と、標的核酸の繰り返し塩基配列以外の部分にハイブリダイズする内部標準となる相補的塩基鎖8のハイブリダイズ効率が等しいことが要求される。相補的塩基鎖7、8の長さ・配列は、特に制限はないが、好ましくは60℃以下で標的核酸とハイブリダイズし、95℃で十分解離する特性を有する配列であればよい。二重鎖の安定性が向上するからである。また、相補的塩基鎖7、8は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ペプチド核酸(PNA)などの集合体であればよい。好ましい相補的塩基鎖は、デオキシリボ核酸(DNA)である。
【0023】
[標識塩基の導入]
標識塩基10の導入は、(1)非標識の相補的塩基鎖をハイブリダイズした後、標識塩基を酵素反応などによって伸長して塩基鎖末端に標識を導入する、(2)標識をした相補的塩基鎖を用いてハイブリダイズする、(3)標識塩基を有するプライマーを用いて、相補的塩基鎖を遺伝子増幅して標識を導入する(内部標準を導入する場合)、などの方法により行えばよい。具体的には、塩基伸長反応、塩基連結反応、核酸の3’末端を選択的に標識するターミナルデオキシクレオチジルトランスフェラーゼ反応などを用いる。より好ましくは、酵素ポリメラーゼを用いる伸長反応である。この反応を行う場合には、ジデオキシヌクレオチドを標識塩基として用いればよい。ポリメラーゼは、塩基選択性が高く、正確に標識を導入できる。この結果、繰り返し塩基配列の配列数の検出が正確に行える。標識塩基としてジデオキシヌクレオチドを用いると、1塩基のみが伸長される。この結果、より定量性の高い検出が可能となる。標識塩基への標識を付加するのは、標識が付加された塩基または相補的塩基鎖を用いる、あるいは塩基を伸長した後または相補的塩基鎖をハイブリダイズした後に標識を付加してもよい。
【0024】
[標識の定量]
上記標識塩基は、繰り返し配列内および繰り返し配列外の塩基または塩基配列を、それぞれ異なる標識で検出できるものであればよい。使用できる標識としては、色素標識、放射線同位体標識、蛍光色素、りん光色素、発光色素など、標識に用いる公知の物質を用いることができる。好ましいのは、安全性・検出感度に優れ、信号が検出しやすい蛍光色素である。具体的には、シアニン(シアニン2)、アミノメチルクマリン、フルオロセイン、インドカルボシアニン(シアニン3)、シアニン3.5、テトラメチルローダミン、ローダミンレッド、テキサスレッド、インドカルボシアニン(シアニン5)、シアニン5.5、シアニン7などの公知の蛍光色素が挙げられる。これらの蛍光色素は、いずれの蛍光色素であっても使用できる。好ましいのは、構造の違いにより、認識が容易なシアニン系蛍光色素である。蛍光色素の検出は、蛍光顕微鏡や蛍光スキャナなどを用いる。また、標識として発光性を有する半導体微粒子を用いてもよい。このような半導体微粒子としては、例えばカドミウムセレン(CdSe)、カドミウムテルル(CdTe)、インジウムガリウムリン(InGaP)、シルバーインジウム硫化亜鉛(AgInZnS)、シリコン(Si)などが挙げられる。異なる標識を用いる場合には、同一装置で測定できるものを用いるのが好ましい。また、標識を付加した塩基または塩基配列を相補的塩基鎖に結合させるためには、相補的塩基鎖に結合可能な構造が要求される。
【0025】
[標識強度の測定]
標識強度は、繰り返し配列単位−相補的塩基鎖複合体から解離した相補的塩基鎖を用いて測定してもよく、繰り返し配列−相補的塩基鎖複合体の全体で測定してもよい。解離した相補的塩基鎖の標識強度は、溶液中で測定してもよく、固定化担体に固定化して測定してもよい。繰り返し配列単位−相補的塩基鎖複合体の全体で標識強度を測定する場合には、固定化担体に固定化して測定する。複数の標識の信号を高密度に検出する場合には、DNAチップなどの固定化担体に固定化して測定するのが、好ましい。固定化担体への固定化は、図5に示すように、タグ配列を付加した相補的塩基鎖のタグ配列と、基板12上に固定化した固定化担体13とを、ハイブリダイズすることにより行う。タグ配列11は、あらかじめ相補的塩基鎖7、8にタグ配列を付加した相補的塩基鎖を用いて複合体を形成してもよく、標識繰り返し配列単位−相補的塩基鎖複合体から相補的塩基鎖を解離した後にタグ配列を付加してもよい。また、繰り返し配列−相補的塩基鎖複合体を固定化する場合にも、標的核酸にタグ配列を付加しておけば、同様に基板に固定化できる。
【0026】
[固定化担体]
固定化担体は、基板やビーズなどの基材に固定化されていればよい。相補的塩基鎖を基板上に固定化すると、多検体の処理が可能となるので、好ましい。
【0027】
固定化担体は、核酸集合体であればよい。核酸であれば、上記相補的塩基鎖あるいは標的核酸の一部(タグ配列を含む)と相補的に結合できるからである。固定化担体および上記相補的塩基鎖あるいは標的核酸のいずれかの一部(タグ配列を含む)は、天然型核酸であってもよく、非天然型核酸であってもよい。天然型核酸とは、自然界に存在する核酸を意味し、核酸に含まれる糖がすべてD体である核酸をいう。非天然型核酸とは、自然界には存在しない核酸を意味し、核酸に含まれる糖の少なくとも1つがL体である、あるいは糖の一部が修飾されている核酸をいう。特に、核酸に含まれる糖の少なくとも1つがL体である核酸をL型核酸という。非天然型核酸を用いると、選択性の高いハイブリダイゼーションが可能となる。
【0028】
固定化担体およびこれに相補的に結合する配列(タグ配列を含む)において、天然型のD型の糖を有する核酸を用いると、検査したい配列以外の部分がハイブリダイゼーション(クロスハイブリ)を起こす場合がある。このため、DNAチップなどを用いて解析を行う場合に、固定化されている核酸の配列を決定するのに、細心の注意が必要であった。非天然型核酸の中には、天然型核酸とはハイブリダイゼーションをしないものがある。したがって、非天然型核酸を用いると、クロスハイブリを起こすおそれのないタグ配列の設計が可能となる。
【0029】
固定化担体を基材に担持させる方法としては、特に制限されず、例えば以下に示すような公知の方法を用いることができる。例えば、ナイロンシートなどの上にDNAをスポッターと呼ばれる装置を用いて点着することにより高密度に固定する。あるいは、特開平1−505144号公報などに記載されているように、オリゴ核酸を、スポッターと呼ばれる装置を用いて、スライドガラスなどの平坦な基板の上に、点着することもできる。また、特開2000−508542号公報などに記載されているように、フォトリソグラフ法という半導体製造に用いられる技術を基にして、チップ上でオリゴ核酸を合成してもよい。さらに、特開2005−233703号公報などに記載されているように、特定の構造を有するポリマー表面に官能基を生成させ、この官能基を介して、末端アミノ核酸を共有結合により固定化することとしてもよい。
【0030】
[標識強度の測定]
担体上にハイブリダイズした標的核酸あるいは標識付加相補塩基鎖の標識の信号強度を測定することによって、繰り返し塩基配列数の定量を行う。検出器の仕様によらない定量性を実現するためには、2種以上の相補塩基鎖のハイブリダイゼーション効率の指標と標識を導入する際のポリメラーゼ伸長反応の標準化との指標となるように、濃度が既知である標識ポリヌクレオチド、あるいは濃度既知の標的核酸および相補的塩基鎖を添加して、信号強度を測定すればよい。
【0031】
本発明の検出方法を用いると、標的核酸中から繰り返し塩基配列の反復数を迅速にかつ定量的に検出することができる。繰り返し塩基配列としては、繰り返し塩基配列を有するものであれば特に制限されず、例えば、インスリン発現調節に関する繰り返し塩基配列などが検出できる。インスリン遺伝子の近傍に存在するVNTR配列には、繰り返し単位:5’−ACAggggTgTgggg−3’など数種類のものが存在する。この場合に、繰り返し塩基配列に対応して異なる相補的塩基鎖を用い、異なる標識体を用いて相補的塩基鎖を標識して、VNTR配列を検出すれば、同時に異なる種類の繰り返し塩基配列の反復数を検出することができる。本発明を用いれば、標的核酸中に異なる種類の繰り返し塩基配列である繰り返し塩基配列を有する場合にも、繰り返し塩基配列の反復数を迅速にかつ定量的に検出することができる。
【0032】
[SNPsの検出]
本発明を用いれば、繰り返し塩基の反復数の測定とSNPsの測定を1つの固定化担体上で行うことができる。すなわち、本発明を用いれば、少量の検体量で、複数の標的核酸を用いて複数の標識化を同時に行うことができる。この結果、1つの固定化担体上で、繰り返し塩基配列の反復数の測定とSNPsタイプの検出とを行うことができる。また、繰り返し塩基配列とSNPsとが近傍に存在する場合には、1種類のプライマーセットから1種類の標的核酸を増幅し、多種類の相補的塩基鎖を用いて繰り返し塩基配列とSNPsとを同一の標的核酸から検出することができる。SNPsの検出は、例えば、SPR法を用いて、上記繰り返し塩基配列中に含まれる1塩基のミスマッチを検出することで、SNPsを測定することができる(参考文献1:アレキサンダー ダブリュ.ペーターソン(Alexander W.Peterson)、他2名、「表面でのミスマッチまたは部分マッチDNAのハイブリダイゼーション(Hybridizationn of Mismatched or Partially Matched DNA at Surfaces)」、ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイエティ(Jounal of American Chemical Society)、米国、アメリカン ケミカル ソサイエティ(American Chemical Society)、2002年、第124巻、p.14601−14607)。あるいは、塩基伸長法により塩基配列を決定して、SNPsを測定する(参考文献2:トミ パスチネン(Tomi Pastinen)、他4名、「ミニシークエンシング:オリゴヌクレオチドアレイ上でのDNA分析と診断のための特別なツール(Minisequencing:A Specific Tool for DNA Analysis and Diagnostics on Oligonucleotide Arrays)」、ゲノム リサーチ(Genome Research)、米国、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、1997年、第7巻、p.606−614)。
【0033】
[検出キット]
本発明の繰り返し塩基配列反復数測定キットは、繰り返し塩基配列を有する標的核酸の繰り返し配列単位に相補的に結合する相補的塩基鎖と、前記相補的塩基鎖を固定する固定化担体とを含んでいる。前記相補的塩基鎖は、タグ配列を有していてもよい。前記相補的塩基鎖に標識核酸を延伸するための標識核酸を含む、あるいは前記相補的塩基鎖は、標識核酸が付加されている相補的塩基鎖であってもよい。また、前記固定化担体が、すでに基板上に固定されている測定キットであってもよい。このような繰り返し塩基配列の反復数測定キットを用いることで、繰り返し塩基配列の反復数を容易に検出することができる。
【実施例】
【0034】
以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
[ヒトIL1RN(IL−1receptor antagonist)に含まれるVNTRの反復数検出](相補的塩基鎖を解離させる場合)
(ポリヌクレオチドの合成)
IL1RNに含まれるVNTR領域(配列番号1)を増幅するため、この配列番号1の繰り返し領域を網羅できるフォワードプライマー、リバースプライマーを合成した。このプライマーは、反復数が2〜6回のいずれのVNTRを持つ領域であっても増幅可能である。また、繰り返し配列単位に対する相補的塩基鎖(配列番号2)を合成した。合成はオペロンバイオテクノロジー株式会社に委託してD型核酸を用いて行った。
配列番号2の相補的塩基鎖はVNTRの反復数検出用と同時に、内部標準検出用にも用いることが可能なように設計した。
【表1】

【0036】
(PCRによるVNTR配列を含む領域の増幅)
HEK293(ヒト胎児腎細胞由来)細胞およびHL60(ヒト前骨髄性白血病細胞由来)細胞を用いて、核酸抽出キット「QIAmp」((株)キアゲン製)で、ゲノムDNAを抽出した。該ゲノムDNAに、下記試薬1を添加して、下記条件1により、IL1RNに含まれるVNTR配列を増幅した。
<試薬1>
以下の試薬を含む50μl溶液を各サンプルにつき、それぞれ調製した。
フォワードプライマー 15 pmol
リバースプライマー 15 pmol
緩衝液 5 μl
2mM dNTP 5 μl
25mM MgSO 2 μl
KOD−plus−DNAポリメラーゼ(TOYOBO) 1 U
抽出DNA溶液 50 ng
<増幅条件1>
95℃・5分
95℃・30秒、55℃・30秒、68℃・30秒(35サイクル)
【0037】
(アガロースゲル電気泳動による評価)
上記PCR反応後増幅された部分の長さを電気泳動により評価した。電気泳動の条件は、2%アガロースゲルを、20×TAE Buffer((株)インビトロジェン製)を20倍希釈した展開液を用いて、100Vで30分間泳動した。泳動後、エチジウムブロマイド水溶液で核酸を染色し、増幅した標的核酸の長さを求めた。その結果、HEK293細胞由来の標的核酸断片は851bp/1023bpに、HL60細胞由来の標的核酸断片は1023bpであった。このことから、それぞれの反復数は2回と4回のヘテロおよび4回のホモであると見積もられた。
【0038】
(標識塩基を用いた標識塩基の取り込み)
上記PCR反応物は、GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス(株))を用いて精製した。該精製物に下記試薬2を添加して、下記条件2にて酵素法により標識塩基を取り込ませた。ポリヌクレオチド3、4はそれぞれ、Cy3標識ddATP、Cy5標識ddUTPが正常に取り込まれるかどうかを確認するためのポリヌクレオチドである。標準化用ポリヌクレオチド5、6はポリヌクレオチド3、4に結合し、3、4を鋳型として一塩基伸長反応させ、それぞれ標準化用ポリヌクレオチド5、6の末端を標識化し、反応が正常に進行していることを確認するためのポリヌクレオチドである。また、ポリヌクレオチド3〜6の塩基配列は、それぞれ表2の配列番号3から6に対応する塩基配列である。
【0039】
なお、標識塩基を取り込ませた後、サーマルサイクラーを用いて、95℃に保ち、繰り返し塩基配列−相補的塩基鎖複合体を解離させた。この操作により標識核酸が付加されたタグ配列付相補的塩基鎖を得た。
<試薬2>
以下の試薬を含む20μl溶液を、それぞれのサンプルに対して調製した。
PCR精製物(標的核酸) 100 ng
タグ配列付相補的塩基鎖 20.3 pmol
10mM Cy3標識ddATP 1 μl
10mM Cy5標識ddUTP 1 μl
10mM ddGTP 1 μl
10mM ddCTP 1 μl
緩衝液 2 μl
Thermo sequenase polymerase 8 U
ポリヌクレオチド3 12.5 ng
ポリヌクレオチド4 12.5 ng
標準化用ポリヌクレオチド5 0.3 pmol
標準化用ポリヌクレオチド6 0.3 pmol
<反応条件2>
95℃・2分
95℃・20秒、60℃・15秒(30サイクル)
95℃・5分
0℃・3分

【表2】

【0040】
(DNA固定化担体の作成)
ポリメチルメタクリレート(PMMA)基板(コスモグラス押し出し板、厚さ:1mm、(株)クラレ製)を、温度65℃の10Nの水酸化ナトリウム溶液に12時間浸漬した。このPMMA基板を、純水、0.1Nの塩酸水溶液、純水の順で洗浄した。
【0041】
各アンチタグ配列同士のクロスハイブリがないように設計した、5’末端がアミノ化された4種類のアンチタグ配列のD型核酸相補鎖を合成し、固定化担体(アンチタグ配列)とした。
【0042】
合成した4種類のアンチタグ配列の相補鎖DNAをそれぞれ純水に0.3nmol/μLの濃度に溶かした後、リン酸緩衝液(pH 5.5)を用いて0.03nmol/μLに希釈した。また、基板表面のカルボン酸と固定化DNAの末端アミノ基とを縮合させるために、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を、終濃度50mg/mLとなるように加えた。
【0043】
(ハイブリダイゼーション溶液の調製)
標識核酸が付加されたタグ配列付相補的塩基鎖と上記固定化されたアンチタグ配列とのハイブリダイズは以下のように行った。以下に用いる15×SSCは、20×SSC(0.3M クエン酸ナトリウム二水和物、3M NaCl溶液:シグマ社製)を純水にて3/4に希釈したものを意味する。
【0044】
30mg/mLのBSA(ウシ血清アルブミン)、15×SSC、0.3wt%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、0.01wt%サケ精子DNA(上記各濃度は、いずれも終濃度)を含む水溶液を作製した。これと上記標識核酸が付加されたタグ配列付相補的塩基鎖溶液を3:1で混合し、このタグ配列と同一のタグ配列である、Cy3標識ポリヌクレオチド(ポリヌクレオチド7)またはCy5標識ポリヌクレオチド(ポリヌクレオチド8)をそれぞれ0.01pmol添加し、全量が40μLとなるように調製した。
【0045】
(固定化担体への固定化)
上記固定化担体が担持された基板上に、上記ハイブリダイゼーション溶液40μLを載せ、カバーグラスで覆い、42℃で4時間インキュベートした後、カバーグラスを剥離して洗浄・乾燥した。
【0046】
(標識量の測定)
上記基板を、DNAチップ用のスキャナ(Perkin Elmer社製、Scan Array Express)にセットして、信号強度を測定した。測定条件は、レーザー出力90%、フォトマルチプライヤーの感度を、ポリヌクレオチド7および8で検出される、Cy3およびCy5の信号強度が同程度になるように調節した。ここで、信号強度とは、各スポット内の蛍光強度の平均値をいう。結果を表3に示す。
【表3】

【0047】
表3から、HEK293細胞由来の信号強度比(Cy3/Cy5)は2であり、理論値との比較より、その繰り返し塩基配列の反復数は3回もしくは2回と4回のヘテロであると判断できる。同様に、HL60細胞由来の信号強度比(Cy3/Cy5)は3であり、理論値との比較より、その繰り返し数は4回であると判断できる。この表から、繰り返し配列単位−相補的鎖複合体形成後に、相補的塩基鎖に標識核酸を導入すると、繰り返し塩基配列の反復数が、正確に定量できることがわかった。
【0048】
(実施例2)
[標識付プライマーを用いたヒトIL1RNに含まれるVNTRの反復数検出](標識核酸を固定して分析する場合)
(ポリヌクレオチドの合成)
IL1RNに含まれるVNTR領域(配列番号1)を増幅するため、この配列番号1の繰り返し領域を網羅できるフォワードプライマー、リバースプライマーおよび繰り返し配列単位に対する相補的塩基配列ポリヌクレオチド(配列番号2)を合成した。
【0049】
フォワードプライマーには非天然型核酸(L型核酸)を用いたタグ配列を付加した。また、フォワードプライマーの5’末端には、Cy3標識を導入した。リバースプライマーは、D型核酸で合成した。このプライマーは、反復数が2〜6回のいずれのVNTRを持つ領域であっても増幅可能である。
【0050】
相補的塩基は、5’末端にCy5標識を導入した。
【0051】
L型核酸を含むDNAの合成は、DNA/RNA DNA自動合成機(Applied Biosystems社製)を用いて行った。また、L型核酸として、Beta−L−deoxy Adenosine(n−bz)CED phosphoramidite、Beta−L−deoxy Cytidine(n−bz)CED phosphoramidite、Beta−L−deoxy Guanosine(n−ibu)CED phosphoramidite、Beta−L−deoxy Thmidine CED phosphoramidite(ChemGenes Corporation製)を、D型核酸としてdeoxy Adenosine(n−bz)CED phosphoramidite、deoxy Cytidine(n−bz)CED phosphoramidite、deoxy Guanosine(n−ibu)CED phosphoramidite、deoxy Thmidine CED phosphoramidite(ChemGenes Corporation製)を用いた。
【0052】
リバースプライマーおよび、5’末端にCy3標識を導入したフォワードプライマー、5’末端にCy5標識を導入した相補的塩基鎖は、オペロンバイオテクノロジー株式会社に委託した。
【0053】
(PCRによるVNTR配列を含む領域の増幅)
実施例1と同様に抽出したヒトゲノムDNAに、下記試薬3を添加して、上記条件1により、IL1RNに含まれるVNTR配列を増幅した。
<試薬3>
以下の試薬を含む50μl溶液を各サンプルにつき、それぞれ調製した。
Cy3標識タグ付フォワードプライマー 20 pmol
リバースプライマー 0.2 pmol
緩衝液 5 μl
2mM dNTP 5 μl
25mM MgSO 2 μl
KOD−plus−DNAポリメラーゼ(TOYOBO) 1 U
抽出DNA溶液 50 ng
【0054】
さらに、実施例1と同様に電気泳動を行った。泳動後、反復数が2回である標的核酸を抽出した。
【0055】
(繰り返し塩基配列―相補鎖複合体の形成)
上記PCR反応物はGFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス(株))を用いて精製した。
【0056】
精製した標的核酸100ngに、100μMに溶解した前記Cy5標識相補的塩基鎖を1μL添加し、全量が20μLとなるように、純水で希釈した5×SSCを加えた。この溶液を95℃、5分インキュベート後、氷上で5分静置した。
【0057】
(固定化担体への固定化)
タグ配列に相補的な配列を、L型核酸を用いて合成した。また、得られた各タグ配列に相補的な配列は5’末端にアミノ基を付加しており、実施例1に記載した手法を用いて基板に固定化した。
【0058】
前記繰り返し塩基配列−相補的塩基鎖複合体溶液10μLを、実施例1に記載したハイブリダイゼーション試薬30μL、Cy3標識ポリヌクレオチド(ポリヌクレオチド7)またはCy5標識ポリヌクレオチド(ポリヌクレオチド8)をそれぞれ0.01pmol添加し、混合した。
【0059】
L型のタグ配列に相補的な配列を固定化した基板に、上記ハイブリダイゼーション溶液を添加し、実施例1に記載した手法で固定化を行った。
【0060】
(標識量の測定)
上記基板を、DNAチップ用のスキャナ(Perkin Elmer社製、Scan Array Express)にセットして、信号強度を測定した。測定条件は、レーザー出力90%、フォトマルチプライヤーの感度を、ポリヌクレオチド7および8で検出される、Cy3およびCy5の信号強度が同程度になるように調節した。ここで、信号強度とは、各スポット内の蛍光強度の平均値をいう。結果を表4に示す。
【表4】

【0061】
表4より、標識付プライマーを用いた標的核酸−相補的塩基鎖複合体による反復数の測定においても、繰り返し塩基配列の反復数に伴った蛍光強度比の増加が測定されることが示された。また、L型核酸を用いたタグ配列であっても、D型と同程度の感度が得られることがわかった。
【0062】
(実施例3)
[VNTR反復数とSNPsの同時検出]
(ポリヌクレオチドの合成)
SNPs検出用ポリヌクレオチドとして、4箇所のSNPs領域が増幅可能なプライマーをそれぞれ合成した。また、各SNPsの検出には公知の手法である一塩基伸長法(参考文献2)を用い、この手法に適したポリヌクレオチドを合成した。合成はオペロンバイオテクノロジー株式会社に委託した。
【0063】
それぞれのプライマーおよび繰り返し塩基配列の配列数測定用相補的塩基鎖はD型核酸によって合成し、さらに相補的塩基鎖にはタグ配列間のクロスハイブリがないように設計されたD型核酸タグ配列を付加した。
【0064】
(PCRによるSNPsを含む領域の増幅)
HEK293(ヒト胎児腎細胞由来)細胞のゲノムDNAを実施例1に記載した手法で抽出した。下記試薬4を添加して、実施例1に記載の条件1により、IL1RNに含まれるVNTR配列および、4箇所のSNPsを含む領域をそれぞれに増幅した。
<試薬4>
以下の試薬を含む50μl溶液を各サンプルにつき、それぞれ調製し、計5本の反応液を得た。
フォワードプライマー 15 pmol
リバースプライマー 15 pmol
緩衝液 5 μl
2mM dNTP 5 μl
25mM MgSO 2 μl
KOD−plus−DNAポリメラーゼ(TOYOBO) 1 U
抽出DNA溶液 50 ng
【0065】
(標識塩基を用いた相補塩基の取り込み)
上記PCR反応物はGFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス(株))を用いてそれぞれ精製した。
【0066】
得られた精製物に下記試薬5を添加して、実施例1に記載の条件2にて酵素法により標識塩基を取り込ませた。
<試薬5>
以下の試薬を含む20μl溶液を、それぞれのサンプルに対して調製し、計5本の反応液を得た。
PCR精製物(標的核酸) 100 ng
タグ付相補的塩基鎖 0.3 pmol
10mM Cy3標識ddATP 1 μl
10mM Cy5標識ddUTP 1 μl
10mM ddGTP 1 μl
10mM ddCTP 1 μl
緩衝液 2 μl
Thermo sequenase polymerase 8 U
ポリヌクレオチド3 12.5 ng
ポリヌクレオチド4 12.5 ng
標準化用ポリヌクレオチド5 0.3 pmol
標準化用ポリヌクレオチド6 0.3 pmol
【0067】
(固定化担体への固定化)
5’末端にアミノ基を付加したD型核酸により、タグ配列に相補的な鎖を合成した。合成はオペロンバイオテクノロジー株式会社に委託した。次に、実施例1に記載の手法を用いて、これらのタグ配列に相補的な鎖を固定化した基板を作製した。
【0068】
上記反応液を各サンプル2μLずつ混合し、10μLの標識ポリヌクレオチド溶液を調製し、これに実施例1に記載したハイブリダイゼーション試薬30μLと、ポリヌクレオチド7および8をそれぞれ0.01pmol混合した、ハイブリダイゼーション溶液を作製した。
【0069】
上記DNA固定化基板に、上記ハイブリダイゼーション溶液を添加し、実施例1に記載した手法で固定化を行った。
【0070】
(標識量の測定)
上記基板を、DNAチップ用のスキャナ(Perkin Elmer社製、Scan Array Express)にセットして、信号強度を測定した。測定条件は、レーザー出力90%、フォトマルチプライヤーの感度を、ポリヌクレオチド7および8で検出される、Cy3およびCy5の信号強度が同程度になるように調節した。ここで、信号強度とは、各スポット内の蛍光強度の平均値をいう。結果を表5に示す。
【表5】

【0071】
SNPタイプは、相補的な標識塩基との相補的に結合する。表5の結果より、SNP1および、SNP2のSNPタイプはA/Tのヘテロ、SNP3および、SNP4のSNPタイプはAのホモであると判断される。この結果は、公知の手法であるシークエンス法の結果と整合性を得た。さらに、VNTR反復数の判断においても、前述の結果と同様に蛍光強度比が2となり、その反復数は3回もしくは2回と4回のヘテロと判別できた。このことから、タグ配列を固定化した固定化担体を用いることで、SNPsとVNTR配列の同時検出が可能であることが示された。


【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、本発明の原理を説明するための模式図である。
【図2】図2は、標識核酸の繰り返し配列以外の部位に内部標準の導入方法を説明するための模式図である。
【図3】図3は、PCR産物を用いた標的核酸の調製法を説明するための概念図である。
【図4】図4は、標的核酸中の繰り返し配列単位に、相補的塩基鎖が結合する機構を説明する概念図である。
【図5】図5は、固定化担体を用いて標識核酸を検出・定量する機構を説明する概念図である
【符号の説明】
【0073】
1 繰り返し配列単位
2 相補的塩基鎖
3 繰り返し塩基配列
4 標的核酸
5 プライマー
6 アニール部位
7、8 相補的塩基鎖
9 繰り返し塩基配列
10 標識塩基
11 タグ配列
12 基板
13 固定化担体
14 標識


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し塩基配列内の塩基配列と繰り返し塩基配列外の塩基配列とのそれぞれに、標識を導入する第1の工程と、
前記標識された繰り返し塩基配列内の塩基配列と標識された繰り返し塩基配列外の塩基配列とからそれぞれに導入された標識の標識量を測定し、測定した標識量から繰り返し塩基配列内の塩基配列に導入された標識と繰り返し塩基配列外の塩基配列に導入された標識
の標識量の量比を求める第2の工程と
を含む、繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。
【請求項2】
前記第1の工程の前に、
繰り返し塩基配列を有する標的核酸の繰り返し配列単位に相補的な塩基鎖をハイブリダイズさせ、繰り返し配列単位−相補的塩基鎖複合体を形成する工程を含む、請求項1に記載の繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。
【請求項3】
前記第1の工程の前に、
プライマーを用いて繰り返し配列を有する標的核酸を増幅する工程と
前記繰り返し塩基配列を有する標的核酸の繰り返し配列単位に相補的な塩基鎖をハイブリダイズさせ、繰り返し配列単位−相補的塩基鎖複合体を形成する工程を含む、請求項1に記載の繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。
【請求項4】
前記プライマーには、標識が導入されている、請求項3に記載の繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。
【請求項5】
前記第1の工程が、前記ハイブリダイズした相補的塩基鎖の末端に標識塩基を伸長するものである、請求項2ないし4のいずれかに記載の繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。
【請求項6】
標識塩基が付加されている相補的な塩基鎖を用いて、標的核酸の繰り返し配列単位にハイブリダイズさせる、請求項2ないし4のいずれかに記載の繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。
【請求項7】
さらに、標識塩基が付加されている相補的な塩基鎖を用いて、標的核酸の繰り返し配列以外の部分にハイブリダイズさせる、請求項6に記載の繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。
【請求項8】
前記標識塩基が付加された相補的塩基鎖を、前記複合体から解離させた後に、
前記相補的塩基鎖に付加された標識塩基の量を測定することにより、繰り返し塩基配列内の塩基配列と標識された繰り返し塩基配列外の塩基配列のそれぞれに導入された標識の標識量を測定する、請求項5または6に記載の繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。
【請求項9】
前記繰り返し配列単位−相補的塩基鎖複合体を形成された標的核酸の相補的塩基鎖に付加された標識塩基の量を測定することにより、繰り返し塩基配列内の塩基配列と標識された繰り返し塩基配列外の塩基配列のそれぞれに導入された標識の標識量を測定する、請求項4ないし7のいずれかに記載の繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。
【請求項10】
前記相補的塩基鎖または前記標的核酸は、タグ配列を有する、請求項2ないし9のいずれかに記載の繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。
【請求項11】
前記タグ配列は、非天然型核酸を含む、請求項10に記載の繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。
【請求項12】
繰り返し塩基配列の反復数の測定と、一塩基多型の検出とを同時に行う、請求項1ないし11のいずれかに記載の繰り返し塩基配列の反復数の測定方法。
【請求項13】
繰り返し塩基配列を有する標的核酸の繰り返し配列単位に相補的に結合する相補的塩基鎖と、
前記標的核酸または相補的塩基鎖を固定する固定化担体と
を含む、繰り返し塩基配列の反復数測定キット。
【請求項14】
前記相補的塩基鎖は、タグ配列を有する、請求項13に記載の繰り返し塩基配列の反復数測定キット。
【請求項15】
さらに、前記相補的塩基鎖に標識核酸を延伸するための標識核酸を含む、あるいは前記相補的塩基鎖は、標識核酸が付加されている相補的塩基鎖である、請求項13または14に記載の繰り返し塩基配列の反復数測定キット。





【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−193984(P2008−193984A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34339(P2007−34339)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】